216: ◆/D3JAdPz6s[saga]
2017/06/16(金) 23:14:58.29 ID:xCyGumQ8O
アロエ「キミは、本当に辛い味が好きなんだねえ」
呑気な問いかけに、ダゲキはアロエを見遣り、黙って頷いた。
だが彼の視線は、すぐ煌々と光る懐中電灯の照らす先に向けられる。
懐中電灯そのものが物珍しいのだろうか。
やや身を乗り出しているところが、子供のようだ。
それでも、彼の手はアロエの左手をしっかり握っている。
手を繋いでいるためにバランスが取りにくいのか、いくらか歩き方が心許ない。
もっとも、じっと握っていられるだけ立派なものだ、とアロエは自分の子供を思い出した。
アロエ「あのきのみ、たぶんあの中で一番、辛いんじゃないかな」
アロエ「でも、キミは涼しい顔してたもんねえ」
返事はなかった。
ダゲキは少し照れくさそうに、左手で自分の顔に触れている。
夜の博物館は書斎より遥かに暗く、空気ごと寝静まっていた。
光源は、行く先々に点在する誘導灯とこの懐中電灯だけだ。
そんな展示室の中で、無数の展示物たちがじっと息を潜めている。
いくつにも分かれた展示室を一通り巡回し、不審者を含め異常がないか確認していく。
いつもなら警備員がする仕事だ。
こうして遅くまで残った日には、アロエ自身が巡回することもある。
見慣れた部屋、やり慣れた仕事とはいえ、こんなふうに複数人で回るのは初めてだった。
聞こえてくるのは、アロエの硬い靴が鳴らす勇ましい足音だけだ。
あとのふたりは靴を履いていないか、そもそも脚がなかった。
アロエ「ヨノワールくんも、辛いのは好きなんだよね」
469Res/395.47 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20