186: ◆/D3JAdPz6s[saga]
2017/03/28(火) 00:57:19.37 ID:n9gHiMCwO
幽霊が椅子から立ち上がっていた。
汚れたシーツに覆われた誰かが、見上げるほどに伸び上がっている。
アロエは、不意に背筋が凍る思いに駆られた。
危険な存在ではない――少なくとも今のところ、この場所では――にも関わらず。
アロエ(この子は……本当は何者なんだ)
久しぶりに、しげしげとその全身を眺める。
汚いシーツに覆われ、少なくとも上半身はほとんど見えない。
そのかわり下部から、筋肉質で生っ白い脚が二本。
そして少し深い色の、がっちりした尾が見えている。
まるで保管庫で眠ったままだった彫像が、勝手に起き上がり動き出してきたかのようだ。
不思議な感覚が湧く。
ぞっとするような、足元から這い寄る禍々しさ。
ある種の罪から生まれながらにして解き放たれているような、かすかな神々しさ。
得体が知れない、とアロエはこのとき初めて感じた。
人間ではない。
では、ポケモンなのだろうか。
だが見たことも、聞いたこともない。
にもかかわらず、言動が人間とある程度の接触があったことを示している。
それはいったい、何を意味するのだろう。
ミュウツー『……わかった』
ミュウツー『そうだ、わかった』
粛々とした声が聞こえている。
自分にだけ聞こえるのか、足元の彼らにも聞こえているのか、アロエにもわからなかった。
独り言のように声は続いた。
風もないのに、縁のほつれたシーツが妙にゆっくりそよぐ。
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