164: ◆/D3JAdPz6s[saga]
2017/01/25(水) 01:44:54.35 ID:UMm5BcIdO
――助けに来たぞ
――もうこんなことはしなくていい
自分をあそこから引きずり出した人間たちは、口々にそう言っていた。
心からの同情を滲ませた声で。
たしかに言った。
『助ける』と。
だが、助けるとはなんだ。
生きがいを奪うことか。
充実していたのに。
必要とされていたのに。
狭く暗い世界には、いつか闘いたいと願う相手もいたのに。
あの場所が消えてしまった今、その機会も永遠に失われてしまった。
残念なことだ。
もっとも、その相手のことをはっきり憶えているわけではない。
たった一度、檻の前を通ったことがあるだけだった。
檻の隅で通路をじっと睨む、冷ややかな眼差しだけが記憶に残っている。
『視線の主』と拳を交える瞬間を想像すると、今でも背筋がぞくぞくする。
あの頃のような充実感は、二度と味わえないに違いない。
妙に涼しい風が背中を撫でた。
バシャーモ(……!?)
つん、と血と泥に似た、不穏な匂いが鼻をかすめる。
この森では縁がないはずの、埃っぽく不衛生で、ぞくぞくする匂いだ。
バシャーモは反射的に立ち上がる。
背もたれにしていた岩の、さらに向こうに意識を向けた。
夜中の森は、わずかな夜行性のポケモンが蠢くだけだ。
こんな厳しく呑気な場所で、あんな匂いがするはずがなかった。
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