116: ◆/D3JAdPz6s[saga]
2016/08/21(日) 00:46:00.38 ID:HsthgRdno
これらの資料こそ、あのレンジャーが異動を拒んできた理由だろう。
『監視役』でないのならば、これが主たる動機だと考えていい。
彼らの『興行』は、ずいぶんと個性的なものだったようだ。
ゲーチスにしてみれば、ユニークというより悪趣味の一語に尽きた。
非人道的な試合を設定し、醜悪な対戦をさせ、それを観て楽しむ。
自分たちの常識から逸脱した、いかれた趣味の会だ。
むろん他人やポケモンの命がどうなろうと、ゲーチスに心を痛める気はない。
自分にとって都合がいいかどうかだけが問題になる。
その反面、敗北が死と等価であるような、血腥い試合を喜ぶような趣味もなかった。
報告書にあった保護時の詳しい状況など、ただただ胸糞悪いだけだ。
にもかかわらず、ゲーチスはうっすらほくそ笑んだ。
詳細すぎる記述を思い出して少し気分が悪くなりながらも、口の端を吊り上げる。
ゲーチス(綻びは、世界そのものがそう望む限り、いとも簡単に修復されてしまうはず)
ゲーチス(だがこれはどうだ)
ゲーチス(綻び以外の何物でもない)
ゲーチス(……おそらく、私の手元にあるものが原因なのだろう)
ゲーチス(そして、私だけがその意味を知っている)
ゲーチス(傷を塞ごうとする力は、相応に削られていると見て間違いない)
ゲーチス(ならば、もっと傷口に塩を摺り込めばいいだけのことだ)
ゲーチス(……たしかに不完全以外の何物でもないな)
ゲーチス(おそらく誰ひとりとして、自分の選択が真に意味するところなどわかっていない)
ゲーチス(わからないまま、ただ善意によってパートナーを手放していくのだ)
ゲーチス(そのために何が綻びるのか、考えることも、理解することもない)
ゲーチス(理解しているのは、私とあの化け物だけ)
ゲーチス(ならば……)
その時、折よく、あるいは折も悪く、ゲーチスのデスクの上で電子音が鳴った。
誰かが自分に連絡を取ろうとしている。
ゲーチス「はい」
アクロマ『……今、よろしいですか』
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