72:『パノプティコンの女王様(お題:クイーン)3/5』[sage]
2016/02/24(水) 19:13:32.17 ID:pgV1oSIqo
・・・・・
勤務開始から半年が過ぎたころから、アイビーはある囚人に悩まされるようになった。
大抵の囚人が寝転がったり、本を読んだり、手紙を書いたり、筋トレをしている中、その二階北北東に居る囚
人は終始灯台を見つめているのだ。もちろん、灯台の監視をからかうような連中は何人もいた。しかし無視を決
め込めば、すぐに飽きて無駄な体力を使わないようになった。
その囚人もそういう類いのいたずらをしているのだと思って、アイビーは無視を決め込んだ。
しかしいつちらりと視線を向けても、彼は飽きること無くじっとアイビーを見つめている。彼女はその視線が
いやでたまらなかった。
来る日も来る日も、囚人はアイビーをじっくりとねっとりと見つめた。彼女はそれを誰にも報告しなかった。
報告すれば、あの囚人のもとに「監視のほうを見るな」という注意がなされるだろう。しかしそれは囚人のいた
ずらにこちらがこたえているという証拠になってしまう。それでは相手の思うつぼだ。彼女と囚人の静かな闘争
はしばらく続いた。
ある日変化が現れた。いつものように例の囚人を無視して周囲を見回すと、二、三人がこちらを見ていたの
だ。最初、アイビーは例の囚人が他の連中にもいたずらを広めたのだと思った。いよいよ面倒なことになったと
気持ちが暗くなった。
ところが、事情が少しちがうらしいことにしばらくして気がついた。例の囚人が、苛立ったように、アイビー
を見ている別の囚人を指差し怒りを露わにしているところを目撃した。また囚人たちがただ見つめるのではな
く、手紙の便せんを折り紙にしてアイビーに見せたり、服を脱いで鍛えた筋肉をみせたりし始めたのである。
囚人たちは口裏を合わせて一緒にいたずらをしているのではない。彼らは競ってアイビーの視線を得るために
アピール合戦をしていたのである。
ある者は手を振ってみたり、ある者は下品に腰を動かしてみせたり、その方法は多種多様だった。
そしてアイビーが視線をやって眼が合うと、嬉しさを隠さずに飛び上がってみせたり拳を突き上げたりした。
482Res/279.34 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20