文才ないけど小説かく 7
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417:タイトル:ぬくもり(お題:時代遅れ)5/6[saga]
2017/04/28(金) 01:03:37.19 ID:eOaQ9WgS0
そろそろ、昨日のご主人に電話しようと思い、尻ポケットからスマートフォンを取り出し、電話帳からご主人の番号をタップし、コールする。
 すぐに電話口から、もすもーすと明朗な声が聞こえた。

 歩いてアパートまで向かう。
 ハナミズキの花が風に落とされ、アスファルトを転がった。行く途中に商店街を見て回ろうと、商店街側の道を通ることにした。
 商店街はほとんど人気がなく、所々シャッターが閉まった店もある。お惣菜の煮物の香りが鼻腔をくすぐる。次第にお腹が空いてきた。

 「これは、これは、昨日から引き続きご苦労様です。」
 ご主人は、私の姿が目に入ると、アパートの前を旋回しながら、挨拶した。
 猫は同じ場所で眠っていた。起こすのは悪いと、触れずにいた。
 昨日同様、部屋をうろうろと見回っては、写真を撮影し、スケッチに収めた。

 それから1ヶ月間、みっちりと街を歩き回り、地図ではわからない多くの事がわかった。
 私は、アパートを老人用シェアハウスにリノベーションしようと思っていた。
 半径5km圏内に商店街、ショッピングモールが存在し、用水路からの水流が豊かな自然を育み、辺りには雑草が生い茂っている。自然と都市が適度に調和した、静けさと喧騒が共存する。
 老い先短い老人が暮らすには良質な環境だと思ったからだ。
 ご主人に早速相談すると、よすよすと顔中に皺を寄せて微笑んだ。

 工事の日程について、電話と対面でご主人と数回打ち合わせをした。

 半年後、リノベーションが終了した。
 ご主人は、いつものしわしわの笑顔で、私の手を握り「先生、本当にありがとうございました。」とご丁寧に何度も何度もお辞儀をした。
 私もその仕草がおかしかったのと、仕事をやりきった達成感とあいまって、思わず思いっきり笑ってしまった。

 それまで時代遅れだったアパートは、街と自然に調和した現代的なデザインに生まれ変わった。1階部分は、住民の老人達と、地域住民達の憩いの場として、オープンスペースにした。
 2、3階は、居住スペースとして、簡単に住人が行き来できるように解放的に作り替えた。 
 また、屋上は芝生を植え、交流スペースとして住人と地域住民が自由に使用できる様にした。

 1年後、ご主人から手紙が届いた。
 1階部分のオープンスペースでは、手芸好きな老婦人がパッチワークの作品を常時展示するようになり、屋上の交流スペースには、夏の花火大会の時期になると建物の住民と地域住民が仲良く酒を飲み交わし、談笑するようになったという。


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