文才ないけど小説かく 7
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418:タイトル:ぬくもり(お題:時代遅れ)6/6[saga]
2017/04/28(金) 01:04:17.68 ID:eOaQ9WgS0
 また、それまで閉鎖的だった老人達は、互いに交流するようになり、それぞれ自慢のおかずを交換する姿が頻繁に見受けられるようになったそうだ。
 ご主人の言っていた、人の血のかよった交流とはこういったことだったのだろうかと、事務所の椅子にもたれかかったまま、ぼんやりと天井を見上げながら考えていた。

 ある時、酒に酔った私はふらつきながら、街をさまよっていた。
 馴染みのラーメン屋に辿り着けぬまま、時間だけが過ぎていった。
 きょろきょろと辺りを見回し、苛立ちに悶えていたところに見覚えのある建物が目に入り、足を止めた。
 少し下がって、建物を見上げると大きな声で談笑する人々にピントが合った。
 様々な色のTシャツがレンズ越しに楽しそうに揺れ動く。
 光の音が空で轟いた。少し離れた河川敷で、花火大会を開催しているのか、夜空では花火の音と光が天に昇って点滅を繰り返していた。
 風の音が強く聞こえる。
 通りに、浴衣を着た人々がぽつぽつと行き交う。
 上ばかり見ていたら、足に何やら柔らかい感触が絡みついたので、目線を下にやると、それは猫だった。いつか見た三毛猫だった。
 夜空の下に青白い街灯が点滅し、猫と私の意識を夜空に誘った。

 物に命を通わせ、体温を感じさせるのは、いつだって、人の営みだ。

 時を越えた物が置き去りにされ、時代遅れとなるのは、人に見向きもされなくなり、人に置き去りにされた時だろうと思う。

 私は静かに深呼吸し、歩き出した。
 猫は脚から離れて、そこが自分の居場所だと主張するように、シェアハウスの前に鎮座した。
 猫は、人の記憶より、建物の記憶を色濃く内包しているのだろうと思った。

 酔いは覚めても、夢は醒めなかった。

 おわり。


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