416:タイトル:ぬくもり(お題:時代遅れ)4/6[saga]
2017/04/28(金) 01:02:29.19 ID:eOaQ9WgS0
暫くして、つっかけの引きずるような足音が近づいて、止まった。
「先生、今日はもう閉めたいのだけど、ええかい?見たかったら、また明日来てくれんかね。」
「いえ、もう本日は、結構です。今日はありがとうございました。」
「そうかい、よかった、よかった。よかったら、また明日来てな。ええ、明日も伺います。」
「じゃあ、行くかね。」
「はい。」
ふたつの足音が階段を下る音ががらんどうの建物にこだまする。
「それでは、これで。また、お伺いする時に電話しますね。」
「ああ、待っとるよ。」
外に出ると、猫はもういなかった。
青白い街灯が途切れ途切れに辺りを照らしていた。
日付を跨いだ。
私は、事務所の手元だけを照らした蛍光灯の元、デスクに置かれたスケッチとパソコンを見比べていた。
パソコンで、物件の周りの地図を検索する。
幾度と無く、縮尺を変えては、地図と睨み合う。夜は、静かに動いていた。
半径1km圏内に、商店街、小学校があり、団地が密集している。
半径3km圏内には、用水路、河川敷がある。
半径5km圏内には、大型ショッピングモールが存在していることがわかった。
目線が何度も地図とスケッチを行き来するうちに、ある考えが浮かんだ。
明日から本格的に時間帯を変えて、街がどんな動きをするのか、見てみようと思っていた。
実際に歩いてみないことには、住んでいる人の流動が読めないからだ。
翌日、朝早く起床した私は、地図、鉛筆、クロッキーブックを持って、早朝の街を見て回ることにした。
街はまだ人が動き始めたばかりで、静かな中に騒々しさが存在している。
登校する小学生がぽつぽつと通っていく。
パートに出勤するだろうと思われる、主婦がバタバタと団地を駆け出していく。
昼になった。
ハナミズキの白い花が春風に揺れている。
街は静かだ。昼時ということもあり、人は動かない。用水路の水は少ない。
午後になった。
下校する小学生の群れに遭遇した。
パート帰りの主婦と思われる女性が乗った軽4が幾度も往来した。
482Res/279.34 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20