414:タイトル:ぬくもり(お題:時代遅れ)2/6[saga]
2017/04/28(金) 00:58:52.67 ID:eOaQ9WgS0
ふと、足元に目をやると、隅に無愛想な顔をした三毛猫が座っていた。
「かわいい猫ちゃんですね、この猫は、ご主人の猫ですか?」
私は屈んで、猫の首元をくすぐりながら言った。ご主人は、座っていた猫を一瞥後、
「いえ、違いますよ、ぼくの猫ではありません…おそらく、以前の飼い主の猫なのでしょう。」
私は猫の頭を撫でながら「その…失礼ですが、以前とは…?差し支えなければ教えていただけないでしょうか。」
猫は、目を細め気持ちよさそうに私の手に頬を擦り寄せている。
ご主人は、吃り手をもじもじとこねくり回しながら、言いにくそうに「あの…そのー、前に管理人の婆さんが住んでいてですね。それが、5年程前に亡くなりましてね。
おそらくその猫は、飼い主が死んだ今も家に残っているんでしょうね。猫は人よりも家につくっていうでしょ、たぶん、それでしょね。」ご主人は猫を伏し目がちに見ていた。
逆光の影が全身を覆い、ご主人の表情は見えにくくなっていた。猫はごろごろと喉を鳴らし、手に絡みついている。
西日が眩しい。私は、目を細めて、なんとかご主人の表情を伺おうとしたが、駄目だった。
ご主人の表情を伺おうとするのは諦め、猫の方に顔を向けながら「へぇー、そうだったのですね。この子は自分の意思でここに残ったのでしょうね。しかし、本当に人懐っこい子ですね、相当可愛がられていたんでしょうね。」
日が傾き、オーナーの表情は完全に見えなくなった。
ご主人は、傾きつつある日が眩しいのか手をかざして日差しを遮った。
ご主人の履いていた合成皮革のつっかけが僅かに私の方に向き「まあ、そんなところでしょうねぇ。立ち話もなんですし、そろそろ中を、案内しますよ。」と静かに私を促した。
「えぇ、よろしくお願いします。」
私は撫でていた猫から手を離し立ち上がると、ご主人の方へ向き直った。
猫は尻尾をくねくねさせながら、退屈そうに長いあくびをした。
ご主人は、目で合図すると鍵を開けた。重い裏口の防火扉を開けると、埃とカビが混じった臭いが鼻をついた。
ご主人の案内で中に入ると、ひんやりとしたコンクリート剥き出し特有の空気が身を包んだ。
コンクリート製の冷たい階段を埃のかぶった手摺りを伝い、つっかけと革靴が昇って行く。
ご主人の足が止まった。
「ここです。」
私は、上がる息をどうにか抑えようとして、ワイシャツ越しに胸を掴んだ。俯き加減になっていた顔をあげると、ポッカリと空いた広い空間が目の前に飛び込んできた。
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