文才ないけど小説かく 7
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354:家族の距離(お題:クレヨン)4/5[sage]
2016/12/28(水) 12:09:58.81 ID:K2s4O66Qo
 妹はじっとそれを手にとって見ていた。物欲しそうに見ていた。
 するといつの間にかすぐ近くまで来ていた母がそれを後ろからとりあげて「サキちゃん、クレ
ヨンなんかもう持ってるでしょ」と言ってクレヨンを商品棚に戻して、またどこかへ歩き去って
行った。偶然近くに居ただけらしい。
 妹はもう姿も見えなくなった母の去っていった方向をじっと睨みつけた。僕は彼女の、まだ欲
しいとも何とも言っていないのに、という悔しい気持ちが手に取るようにわかった。妹はクレヨ
ンを手にとってじっと葛藤していたのにちがいない。しかし彼女の中にあった感情の揺れ動き
は、母に完全に無視されてしまった。
 ついに妹は退屈そうな表情を崩すことなく、プール施設をうろつくだけだった。父と母は良き
休日を過ごせたという表情で帰り支度を始めた。
 僕は帰り支度の途中一人トイレに向かった。けれどじっとりと湿ったトイレサンダルや、水色
のタイル張りのひんやりした床、異様にスースーする芳香剤の匂いを嗅いで、やめた。ここは最
低な場所だ。
 みんなのところへ戻る前に、僕は売店であのクレヨンを買った。九百円もした。
 帰りの車で父はラーメンを食べて帰ろうと言い、母はそれに反対して言い合いになった。僕と
妹は後部座席でそんな親二人の様子をぼうっと見ていた。


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