文才ないけど小説かく 7
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352:家族の距離(お題:クレヨン)2/5[sage]
2016/12/28(水) 12:08:59.76 ID:K2s4O66Qo
 実のところ、僕は妹がどうして突然ヒステリックに「自分のアイスを食べられた」と騒ぎ出し
たのか知っている。彼女はしばしば、突然思いついたように出来事をでっちあげて、自分を被害
者にするのだ。そうして周囲の反応を見る。今回は「自分がとっておいたアイスを兄に食べられ
た」というストーリーを作り上げて、母が自分をどんなに味方してくれるかを試したのにちがい
ない。実際僕はファミリーパックのアイスの最後の一つを食べたにすぎないし、妹がそれに名前
を書いたりして自分のものだと主張したわけでもない。
 おそらく最初は、「アイスを食べようと思ったが、予想に反してそれはもうなくなっていた」
というだけだった不満の感情が「兄に食べられた」という物語にすり替えられたのだ。
 なぜこれほど妹の心理が分かるかといえば、妹は常々こんなことを繰り返しているからだ。
「サキのアイスだとは思わなかったんだよ。気づかなかった」
 僕は爆発しそうな怒りの感情を飲み込んで、力なくそう言うしかなかった。それでも母は追い
討ちのようにすかさず言った。
「ごめんなさいは?」
 もう一度煮えくり上がってきた感情を飲み込めもせず、ひたすらな気持ちになって僕は「ごめ
んなさい」と妹に頭を下げた。
 妹は何も言わず、ぼうっとした無表情で僕と母のやりとりを眺めているだけだった。
 自室に帰って僕は布団に潜り込んで少し泣いた。僕の頭はとてもクリアで、論理的で、この事
件において何が起きているのかすべて理解しているつもりだ。けれども、ああして母に理不尽な
言葉をぶつけられると、頭とは別の部分が大きくぐらついて、気がつくと目頭が熱くなってしま
うのだった。
 なぜ母は妹の悪癖に気がつかないのだろう。僕は怒りを伴って疑問を抱いた。つまるところ、
母は僕たち子供のことをちっとも見ていないのだという気がする。彼女の目には「兄」「妹」と
いう関係だけが見えていて、本当のところは何も見ていない。妹は憎たらしくてたまらないし、
母親には怒りを覚える。毎日がその繰り返しだ。


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