223:夏が訪れる(お題:ななし,ラムネ) 3/8[sage saga]
2016/07/03(日) 23:21:49.02 ID:/c5Rqj1io
風に誘われて草が舞い踊る畦道を、水滴を纏わせたラムネ瓶を片手に歩く。
鬱陶しい蚊柱を手で払いながら、神社のある山の麓を目指す。
去年までは親に従うがままに来ていたこの田舎に初めて進んでやってきた。
彼女に会うために。
両親はさぞ不思議がっただろう。
いつもはごろ寝した後、気怠さを払拭するように出かけてたのに、今日は荷物を家に入れてすぐ元気に出かけて行ったのだから。
爺ちゃんにも婆ちゃんにもただいまだけ。
それほどまでに俺は彼女に焦がれていたのだ。じりじりと肌を焼く太陽よりも熱く、真っ赤に。
逸る気持ちを抑えながら歩いていると、石で造られた階段が見えてきた。
ここだ。三十段ほどの階段の上には赤く古ぼけた鳥居が鎮座している。
唾をのみ込み、心を落ち着かせて、一歩、また一歩と石段を踏みしめる。
周りで蝉が鳴いている声も、木が風によって騒めく音も、心臓の音に掻き消される。
全ての石段を登りきり、鳥居の奥に建っている神社の前には―――
「久しぶり」
「うん、久しぶり」
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