183:夕立3/4[saga]
2016/06/22(水) 18:32:48.71 ID:GZmCfzRq0
喜び勇み、アキに抱きつくユキコの鼻頭に冷たい雨滴が当たった。
「あ……」
見上げると薄暗い雲が空を覆い、まばらに雨が降り出していた。
しばらく沈黙のまま掲示板を見上げていたアキがぽつりと言った。
「ごめん……」
興奮していたユキコを現実に引き戻すようにさーっという雨音が辺りを包み込んでいた。
「ごめん……」
雨音にかき消されるくらい小さな声でアキがもう一度呟いた。
その泣き顔を隠すように雨が一層強く降ってきていた。
本当は知っていながら知らぬふりをしていたのだ。仲の良いアキが、滑り止めに受けた高校を、ユキコが知らないはずがなかった。
そして、自分の通う高校の前から出てるバスが、アキの高校前で停まることも。
知らないはずがなかった。
ただ、まさかという思いがユキコの中にはあった。この日、このタイミングで、まさかアキがこのバスに乗ってくるなんて。
あの日以来、アキがユキコに連絡をしてくることはなかった。ユキコもまた、負い目のようなものを感じて声をかけることができずにいた。
そもそも、なんと声をかければ良かったのだ。一緒に受験した希望校に、自分だけが受かったのに。
バスは直に終点の駅前に到着する。ここでまた、見なかったふりをして帰途につくのか。それではまるで、
二人の訣別を決定づけるような気がしてならなかった。でも、今更なんと声をかける。核心を避けて笑顔を取り繕って、
あの日のことなんてなかったかのように話すべきなのか。まるで、親しくない間柄の世間話のように。
そんなこんなと考えているうちにバスは終点に到着してしまった。
アキが一度、ちらとユキコの方を振り返った。一瞬、何かを言いたげに口ごもるが、すぐにそそくさとバスを降りていってしまった。
それを見てユキコは決意した。
自分から話かけないと、きっとこれっきりだ、と。
ユキコは急いでバスを降りると、傘を差して歩きだしたアキの背中に声をかけた。外は、小雨と言っていいほどに落ち着いてきていた。
「アキ!」
振り返った彼女の表情は、どこか苦しげに歪んでいた。ユキコも声を掛けたものの、何を話すべきのか、まったくわからないままだった。
「あ、あのさ……」
ユキコは苦笑いを浮かべながら空を指さした。
「傘忘れちゃったから入れてもらってもいい……?」
アキは一瞬ぽかんと口を開けてから、ぷっ吹き出した。
「ユキコはほんともう……」
そう言って笑うアキの顔は、前と変わらぬ屈託のないものだった。
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