勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
↓ 1- 覧 板 20
82:名無しNIPPER[saga]
2016/02/28(日) 19:49:13.61 ID:09+TUdRc0
勇者「『呪文・大雷撃』ッ!!!!」
失いそうになる意識を必死でつなぎ止めながら、勇者は叫ぶ。
新たな雷が己の体を打った。直後に、僧侶の回復呪文が飛んでくる。
それによって痛みは多少マシになる―――が、すぐに新しい雷が体を打つ。
まあ、呼んでいるのは自分なのだが……常に真新しい苦痛に晒されるというのは、実に凶悪な拷問だ。
この作戦を思いつき、実行する前は、いずれ痛みにも慣れるのではないかと思っていたが、それは淡い期待だった。
痛みに慣れるというのは、体の中の痛みを感じる機能が死んでしまう事なのだと思う。
僧侶の回復により定期的に体が回復する自分には、そんな状況が訪れることはない。
勇者(どうして俺は、こんなにまでなって……)
勇者はこれまでも何度も沸いてきていた疑問について改めて考えた。
痛いのは嫌いだ。死ぬのは嫌だ。
それはずっと昔から変わらない。それらを出来る限り回避して生きていこうという己の根底にある信念は変わっていない。
と、思う。
の、はずだ。
だけども、仲間が出来て、長い旅をして、色んな経験をして、今まで知らなかった自分の一面に気付いた、というのはある。
痛いのは嫌いだ。死ぬのは嫌だ。
だけど、平気で他人を傷つけることが出来る奴はもっと嫌いだ。
自分が何もしないせいで誰かが酷い目にあうというのは死ぬほど嫌だ。
成程確かに、新たに芽吹いたこんな気持ちによって、最善を希求した結果自分をある程度犠牲にすることもあったかもしれない。
自分の痛みと他人の幸せを比較して、他人の幸せを優先したこともあったかもしれない。
だけど今自分がやっているこれは、明らかにやり過ぎだ。
自分の命を完全に捨てて、敵をやっつけようとするなんて。
つまりそれは、敵をやっつけた後の結果なんてどうでも良いということではないか。
自分が敵をやっつけたことで世界にどんな影響が起きるのか、そういうことに全く興味を無くしている。
つまり『何かを目的とした時の手段としてそいつを倒す』のではなく、『その男を倒すことが最終目的となっている』ということだ。
ああ―――そうだ
結局そういうことなのだ
今の自分にとっては、騎士という男を倒すことだけが至上の目的となっている。
もし相手が魔王だったら?
敵わないと悟れば逃げて別の手を考えていただろう。
もしかしたら他の誰かに任せてしまってもかまわないと思っていたかもしれない。
相手が大魔王だったとしても?
一緒だ。変わらない。命を犠牲にしてまで戦いに挑む理由がない。
平和の為に―――なんて曖昧模糊な理由で人は命を懸けられない。
人が命を懸けられるのはいつだって――――自分の為だけだ。
758Res/394.23 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20