勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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76:名無しNIPPER[saga]
2016/02/28(日) 19:45:56.23 ID:09+TUdRc0
勇者の右腕が、肘と手首のちょうど中ほどまでぐちゃぐちゃに潰された段階で、騎士はその手を止めた。
ぼそぼそと、勇者が何か呟き始めたからだ。
勇者「……や…だ…」
騎士「……何だって?」
勇者「嫌だ…嫌だ……」
騎士「何が嫌なんだ?」
勇者「痛いのは嫌だ……死ぬのは嫌だ……剣で斬られると本当に痛いんだ……血がいっぱい出るのを見るのは本当に怖いんだ……」
涙と鼻水と涎で汚れた己の顔を拭おうともせず、勇者は呆としてうわ言のように言葉を漏らす。
その姿は、もはや正気を保っているのかも疑わしいほどだ。
騎士は己の悲願の成就を予感し、快感にぶるりと身を震わせる。
騎士「だったら勇者、何て言わなきゃいけないんだ?」
勇者「な、に……を…?」
騎士「教えてやるぜ。こう言うんだ」
騎士「『戦士と僧侶を好きにしてもいいから、僕の命だけは助けてください』ってな」
僧侶「な……」
騎士「もちろん、その言葉の通り戦士と僧侶に関しちゃ俺の好き放題させてもらう。だが、その代わりお前の命は絶対に保障しよう。なーに、心配するな。戦士と僧侶も殺したりはしねえさ」
騎士が言葉巧みに勇者を誘導する。
その言葉を吐く勇者の姿こそが、騎士の最も見たいものだった。
保身のために愛する仲間を差し出した時―――その瞬間が、勇者の在り方の根幹が崩れる時だ。
もぞもぞと勇者が体を動かした。
今度は騎士もそれを邪魔したりはしない。
勇者は己の姿勢を仰向けに直すと、またしてもうわ言のように言葉を発した。
勇者「痛いのは嫌だ……死ぬのは嫌だ……」
呪詛のように繰り返されるその言葉は、まるで自らを正当化するように。
これから起こす行動に対し、自らを勇気付けるように。
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