勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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554:名無しNIPPER[saga]
2017/06/25(日) 16:11:45.38 ID:dyU/3Fo20
唐突であった。
ほんの僅か、ほんの数ミリほど、大魔王の左手の先に暗闇が生じた瞬間。
大魔王の左腕がもぎ取られ、その穴に吸い込まれていった。
大魔王「ぬ、ぐ…!!」
勇者「な、あ…!?」
目の前で起きた現象に理解が追い付かず、逡巡した一瞬の間に、その穴は拡大した。
今までに生じた暗闇とは違う。
あらゆるものを飲み込まんと口を開けたその穴は、凄まじい吸引力で周囲にあるものを吸い込んでいく。
勇者は咄嗟に床に剣を突き立て、吸い込まれないように踏ん張った。
大魔王「かつて、空間魔法の能力を自覚したばかりの俺は、とにかくいろんな世界に穴をあけてはその世界の様子を見てまわっていた。ある時だ。いつものように適当に世界を繋げた瞬間、俺は両腕を持っていかれた」
大魔王「あらゆるものを飲み込む深淵の闇。そんな世界がどうやらどこかには存在していたようなのだ。あらゆる命の存在を許さぬ暗黒空間。さしずめ、ブラック・ホールとでもいうべきか。その時はとにかく必死で門を閉じて、両腕の犠牲だけで済んだのだが」
大魔王は地に伏せ、必死で『奈落』の吸引に抗っている。
両腕を失くし、それでもなお地面にしがみつく。
如何にしてそんな芸当を可能にしているのか―――その秘密は床にあった。
いつの間にか、床の一部が突出しており、触手のように大魔王の体に巻き付いていた。
大魔王「先ほど見せたように、俺の義手は特別製だ。俺の魔力に反応し、任意にその形を変えることが出来る。そしてだな、実はこの大魔王城も同じ材質で出来ているのだ。俺の魔力が通っている間は途轍もなく頑丈になるし―――こんな芸当だって、可能になる」
大魔王が嗤った。
大魔王の体から発せられた魔力に反応し、勇者の足元の床が輝く。
剣を突き立てて踏ん張る勇者の足元が爆砕し、勇者の体が宙に投げ出された。
勇者「な、に…!?」
大魔王「さよならだ、勇者。出来ることなら分かり合いたかったぜ」
宙に浮いてしまっては、どんなに強大な力を持っていようと踏ん張ることは出来ない。
虚空を泳ぐように手足をばたつかせたって、『奈落』の吸引に抗うだけの推進力を得られるわけもない。
だというのに、勇者は笑った。
こんな状況もまた、勇者にとっては慣れっこのものだった。
勇者「『呪文・極大烈風』!!!!」
勇者は己の体に風をぶつけ、空中での推進力を得る。
これは勇者が今まで好んでよく使っていた戦法だった。
しかして呪文の威力はこれまでとは比にならず。
その威を得た勇者はもはや一筋の流星となって大魔王の元へと突進する。
大魔王「なに!?」
驚愕する大魔王。着弾する流星。
大魔王の体を支えていた床は爆散し、大魔王の体が宙に投げ出される。
その体を、勇者が両腕でがっしりと拘束した。
勇者「行くなら一緒に行こうぜ。奈落の底ってやつによ」
勇者と大魔王は二人して宙を舞い、『奈落』に向かって吸い込まれていく。
両腕を失くした大魔王に、勇者の体を振りほどく術はない。
この状況では、如何に床から体を繋ぎとめるための楔を伸ばそうと、勇者によって切り離されてしまうだろう。
大魔王「ぬああ!!」
大魔王は慌てて『奈落』を閉じた。
『奈落』の吸引によって宙を舞っていた大魔王の体は落ち、背中を強か地面に打ち付けた。
大魔王「ぐ…ぬ…」
苦痛に顔を歪める大魔王。
ごほっ、とひとつ咳をして、大魔王は咄嗟に閉じてしまっていた目を見開いた。
―――大魔王の目に飛び込んできた光景は、自身に跨って剣を振りかぶる勇者の姿だった。
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