勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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263:名無しNIPPER[sage saga]
2016/06/26(日) 19:15:18.05 ID:Trw4ei5x0
「きゃああああああああああ!!!!」
男の背後に控えていた、魔族母と魔族娘の叫び声が重なる。
鼻っ柱にまともに勇者の拳を受けた男は背後に吹っ飛び、背中から地面に倒れた。
勇者「は、はは。ははははは!!!! 結構思いっきり殴ったのに、頭砕けねえんだな!! 流石は『伝説の勇者』様だ!! かつて世界を救ったその精霊加護は健在ってわけか!!」
男「う…ぐ…」
男は呻き声を上げつつ、地面から身を起こそうとする。
その鼻からはどくどくと血が流れ、男の服の襟を汚していた。
ずかずかと勇者は男に歩み寄る。
身を起こしかけていた男の顔面を、勇者は靴の底で踏み蹴った。
男「ぶがっ!!」
戦士「勇者ッ!!」
そのまま男に馬乗りになって拳を振り上げた勇者を、戦士は慌てて羽交い絞めにして男から引きはがした。
勇者「ぐぅ! ふぐ!! んぬううう!!」
鼻息荒く、勇者は戦士の拘束を解こうと我武者羅に身を捩る。
勇者「覚えてやがった!! 覚えてやがったよこの野郎!! 俺達の事を、ちゃんと覚えてやがる!!」
勇者が戦士に拘束されたまま喚き散らす。
それは魔界の町で家族をもって過ごす父の姿を目撃した時に、勇者が咄嗟に考えた可能性だった。
父は、激しい戦いによる故か、はたまた大魔王の妖術による故か、過去の記憶を失って操り人形と化してしまっている。
―――――そんな可能性に、縋った。
そんな妄想に逃避した。
でも、違った。
父は、勇者のことを覚えていた。
勇者の正体に気付いた時、明らかに罪悪感に顔が曇った。
つまり――――
つまり、つまり――――!!
勇者「コイツはまっとうに俺達を―――――母さんを、捨てていやがった!!!!!!」
どう見ても父はその身に束縛を受けていない。
この町を抜け出すのは容易だったはずだ。
魔界と元の世界を繋ぐあの池までは、『伝説の勇者』ほどの脚力なら二日とかからず辿りつく距離だ。
帰ってくるのは容易かったはずなのだ。
――――帰ってこれなかったんじゃない。
――――帰ってこなかっただけなんだ。
勇者「しかも、ええ? おい、何なんだよそいつらは。何なんだよパパってよ」
勇者は魔族の母娘に目を向ける。
魔族の娘は人間でいえば4〜5歳といった年のころだろうか。肌の色は他の魔族と比べて薄く、人間と言い張っても通じそうなくらい、その容姿は人間に寄っている。
魔族の母もまた人間に非常に近い姿かたちをしており、しかも良く見ればその容姿は人間の価値基準で言えばとびきり美人でグラマラスといってよかった。
そのことが、今の勇者を殊更に苛立たせた。
勇者「魔界の女たらしこんで、よろしくやって子供まで作ってましたって……? 何だオイ、てめえ随分楽しんでたんだなあこの五年間!!!! 俺はよぉ、俺は、てめえのせいで、てめえの息子ってだけで、俺は……!!」
勇者の脳裏を長く辛かった修業の記憶が駆け巡る。
ここに至るまでの旅路を急速に思い返す。
ぼろぼろと、勇者の目から涙が零れだした。
勇者「ほんっと、もう、俺馬鹿みてえじゃん……なんなんだよ、お前……お前、クソ……なんで、なんでてめえみたいのの息子ってだけでさあ!!!!」
勇者「せめてお前言いに来いよ!! 駄目でしたって! 大魔王倒すの諦めました、僕なんて全然大したこと無かったですって!! そうすりゃみんな目ェ覚ましてさぁ……俺みたいな奴に馬鹿みたいに期待するようなことも無かったのによぉ!!!!」
嗚咽まじりで言葉を詰まらせながら、勇者は男を責め続ける。
男「すまない……すまない……」
男は顔を伏せ、ただただ謝罪の言葉を繰り返した。
勇者は一瞬の隙をついて戦士の拘束を振りほどき、男に掴みかかる。
慌てて再度勇者に向かって手を伸ばそうとした戦士の動きが止まった。
男の襟首を掴む勇者の顔からは、不気味なほど色が消えていた。
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