勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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25:名無しNIPPER[saga]
2016/01/31(日) 21:54:32.56 ID:zBP9Ql630
 騎士は戦士の一撃をこそ危険と判断し、その剣が向かっていた先―――己の首を両腕で庇った。
 しかし戦士もさるもの、その動きを読み、一瞬で剣を斬り返して狙いを騎士の胴体に変えた。
 ずぶり、と戦士の持つ剣の切っ先が騎士の腹に沈む。

騎士「ぐぼ…!! ……おぉぉぉおおおおおおお!!!!」

 騎士は死力を振り絞って地面を蹴った。
 それでも戦士の剣から逃れきることは叶わず、騎士の腹部は横に大きく裂かれた。
 零れ出る己の臓物を焦りをもって見つめる騎士の頭部に―――武道家の、精霊甲に硬く覆われた拳がめり込んだ。

騎士「ぶがふ」

 奇妙な声が騎士の口から漏れた。
 騎士の体が後方に吹き飛ぶ。
 騎士の頭―――額の右上辺りから武道家の拳が抜ける際、みきぱきぱきと砕けた骨が擦れる音がした。
 ねっとりと、武道家の拳と騎士の額の間に血の線が伸びる。

武道家(仕留めたッ!!!!)

 その手応えに、武道家は勝利を確信する。
 ずしゃあ、と騎士の体が土煙を上げ、横向きに地面に転がった。
 腹からは臓物が零れ、額は深く陥没して目は虚ろ。
 誰がどう見ても致命傷だ。
 その様子を見た勇者もまた、勝利を確信して安堵の息をつく。
 ごろん、と騎士の体が仰向けに転がった。
 勇者、戦士、武道家の三人は同時に異変に気付く。
 いつの間にか、騎士の口には奇妙な形のガラス瓶が咥えられていた。
 騎士の体が仰向けになったことで、重力に引かれるままに中の液体が騎士の口の中に注ぎ込まれていく。

戦士「――――ッ!!!!」

 その液体の正体に唯一思い当った戦士が駆け出した。
 騎士にとどめを刺すため、その剣を騎士の喉元目掛けて振り下ろす。
 騎士の体が跳ね起きた。

騎士「どらっしゃあ!!!!」

 戦士の剣を躱し、騎士は戦士の体を蹴り飛ばした。
 吹き飛んだ戦士の体は木の幹に衝突し、戦士はくぐもった悲鳴を上げる。

僧侶「せ、戦士!!」

 今までずっと身を伏せていた僧侶が回復の為に飛び出してきた。
 勇者と武道家は、驚愕の面持ちで騎士を見つめている。

武道家「ば、馬鹿な……確かに、致命傷だったはず……」

勇者「くそ、まさか、そんな……!」

 騎士は落としていた精霊剣・湖月を拾い上げるとコキコキと首を鳴らした。

騎士「いやー、今のはマジで危なかったぜ。虎の子の魔法薬を使っちまうことになるとは思わなかった」

 騎士の体からは、額の傷も、腹部の傷も、痕を残してこそいるものの―――無くなってしまっていた。

戦士「瞬時に体力を全快させる魔法薬……お前がまさかそれを持っていたとは……」

 僧侶による治療を終えた戦士が立ち上がり、そう騎士に声をかける。
 戦士の脳裏には、かつて盗賊の首領に無理やり魔法薬を飲まされた時の記憶が蘇っていた。

戦士「こんな事なら、確実に首を刎ねてやるべきだった……いや、そうか。だからお前は……」

騎士「そうだ。何が何でも首だけは守り通した。でも危なかったぜ。腹を切られた時、一瞬でも回避が遅れてたら体をそこで上下に両断されてた」

騎士「そうなったらゲームオーバーだったぜ。物理的に距離が離れちまえば、流石に魔法薬の効果は及ばねえ。惜しかったな、戦士ちゃん」

戦士「く…!」

騎士「さて……」

 騎士が改めて勇者の方に向き直る。
 しかしその時には、既に勇者は呪文の発動を終えていた。



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