勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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218:名無しNIPPER[saga]
2016/05/08(日) 17:24:58.80 ID:niX7BoNT0
そして、勇者と戦士は無事に下山を終え、遂に町の中へと足を踏み入れた。
緊張でからからになった喉にごくりと唾液を通して、勇者はきょろきょろと周りを見渡す。
建造物は色合いこそ人間が作る物と異なるものの、木造建築やレンガ造りに近いものではないかと推測されるものばかりで、魔界特有の何かしらというものを特別感じることは無かった。
道行く者が実に様々な種族の魔物であることを除けば、そこまで大きくない普通の人間の町と―――それこそ、勇者と戦士の故郷の町と、それほど変わらぬ雰囲気であった。
魔族A「××××××、×××××××?」
勇者「はぅ…!」
町の住人らしき魔族の男に話しかけられて、勇者の息が一瞬止まる。
勇者「ええと、その、何というか、その……」
魔族A『なんだ、言葉がわからねえのか? おいおい、あんたら何処から来たんだよ』
勇者(え〜っと、なんだろ。多分何処から来たのか聞いてるっぽい?)
勇者「え〜っと、向こう。ず〜と、ず〜〜っと向こう。オーケー?」
魔族A『俺達の言葉がわからねえ程遠くってことは、もしかして西の果てから来たのか? あっちの方は特に荒廃が酷いって聞くぜ。よく生きてここまで来られたな!』
町の住民らしき魔族の男は豪快に笑うと勇者の背中をばんばんと叩いた。
勇者の背中から生えている翼は、変化の杖でそこにある様に見せかけているだけなので、変化がばれないか冷や冷やしながら勇者は男の言葉を必死で考察する。
勇者(何か歓迎されてるっぽい? 敵意がないなら、もう少し関わって反応を伺ってみるか…?)
勇者「なあ、この町は何なんだ? 魔界にはこんな町が他にもいっぱいあるのか?」
魔族A『この町を見て驚いているようだな。無理もねえ。今の魔界でこんな豊かな場所なんて、もうここぐらいだからな。それもこれも、みんな大魔王様のおかげだ』
勇者(ん? 今なんか魔王みたいな発音が聞こえたような気が……)
魔族A『ここは試験都市フィルスト。大魔王様が魔界を救う第一歩として始めなさった実験的生活都市さ』
勇者には魔族の言葉はほとんど理解できなかった。
ただ何となく、この町の名前がフィルストであることと、この町に大魔王が関わっていることだけは、ニュアンスで掴んだのだった。
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