勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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219:名無しNIPPER[saga]
2016/05/08(日) 17:27:31.44 ID:niX7BoNT0
魔族A『ここまでの道中大変だったろう。俺ん家に来な。ちょうど今日はご近所さん集めてパーティーするところだったんだ。余所じゃ絶対食えないような旨いものを食わせてやるぜ』

 魔族に手招きされ、勇者は考える。
 どうやら魔族はついてこいと言っているようだが……

戦士「勇者…ついて行って大丈夫なのか?」

勇者「わからん……でも、どうやら変化がばれてる様子もないし、友好的っぽいから、大丈夫だとは思うけど……いざとなれば、『翼竜の羽』での緊急離脱も出来るし、行ってみよう。虎穴に入らずんばってやつだ」

 迷った末に、勇者と戦士は取りあえず魔族についていくことにした。
 勇者も戦士も、少しでも何か情報は無いかと目を皿にして町の様子を観察する。
 そのうち、どうにも違和感があることに気付いた。
 どこもかしこも、何か見たことがある気がする。
 物の本によると、初めて見たはずの光景が、かつてどこかで見たことがある様に感じられる現象をデジャヴと呼ぶらしい。
 その類の現象かと思い、勇者がふと戦士の顔を見ると、戦士も何やら難しい顔をしていた。

勇者「もしかして、戦士も何か変な感じしてる?」

戦士「ああ……何なんだコレは。この町は、まるで……」

 戦士は勇者よりも違和感の正体に思い至っている様子だった。
 勇者もまた、戦士の言葉を受けて違和感の正体について考察する。

勇者(まるで…? 戦士は今、まるで、と言ったな。まるで何の様だと、戦士は感じているんだ?)

 勇者は再び町の様子を観察した。
 よく分からない看板が出ている建物があった。おそらくは何かを販売している店だろう。
 看板の文字はまるで読めないが、あの位置なら恐らく道具屋だ。
 あっちの店は、多分宿屋だ。あの位置にあるのなら、多分そうだ。

勇者(――――どうしてそんなことが俺にわかるんだ?)

 ぞくり、と寒気が走るのが分かった。
 空は赤くて、建物は緑で、草の絨毯は紫色で、色彩感覚が狂ってしまっていたから気付くのが遅れたけれど。
 最初にこの町を訪れた時に抱いた感想。
 似ている、と、そう思った。
 自分達の故郷に。『始まりの国』に。
 だけど、気付いてみれば、これは――――似ているどころではない。
 同じだ。
 使われている材料が異なるだけで、この町は自分達の故郷と同じ形をしているのだ。

勇者(そうだ……あの家なんて、まるで俺ん家、そのものじゃないか……)

 ぼうと足を止めてしまった勇者の見ている前で、その家の玄関の扉が開いた。
 じわりと勇者の手のひらに嫌な汗がにじむ。

魔族娘「パパー!! 早く早くーー!!」

 しかしその玄関のドアから飛び出してきたのは、勇者の全く知らない少女だった。
 少女はその肌こそ浅黒くあるものの、魔族特有の翼を持っておらず、人間だと言い張っても通じるような姿かたちをしていたが、ともかく。
 知らない少女であることには変わりない。
 ほっと息をつき、歩みを再開しようとして。
 再び、勇者の息が止まった。




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