勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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217:名無しNIPPER[saga]
2016/05/08(日) 17:23:16.64 ID:niX7BoNT0
 山の中で勇者を少なからず驚かせるものがあった。
 それは植物らしきものの存在である。
 山の中にはごく僅かではあるが、植物らしきものが群生していたのだ。
 植物だと断言できなかったのは、それが紫や赤など、あまり元の世界では見られないような色のものばかりだったからである。
 しかも、先に進むにつれてその植物らしきものの量はどんどんと増えているように思えた。

戦士「勇者! あれ!!」

 戦士が指差した方を見て、勇者は目を見開いた。
 山の中腹に、果樹園があった。
 どのような実がなっているのかは遠くて確認できない。
 だが、あまりに整然と並ぶその木々の様子からして、明らかにそれは誰かの手によって管理されているものだった。
 逸る気持ちを押さえ、勇者達は慎重に山を登る。
 やがて頂上に出て、景色が急に開けた。
 勇者も戦士も、息を呑む。


 眼下には、町並みが広がっていた。


勇者(町……町だ。本当にあった)

勇者(『魔界』なんて名前から、勝手におどろおどろしい世界を想像していたけど、よく考えたら魔物の中にも人間みたいな奴がいたから、当然そいつらの町とかがあってもおかしくはないんだ)

勇者(予想はしていたけれど、やっぱり衝撃が大きい……それはきっと、天敵だと決めつけていた奴らが、理解し得ないものとして忌避してきた奴らが俺達と同じ『営み』をしているんだってことを見せつけられたから)

勇者(人間と魔物にも、共通する部分があるのだということを、直視せざるをえなくなったからだ)


 勇者と戦士は山を下りる前に、変化の杖で自分達の姿を変えた。
 山の方まで何者かの手が入っている以上、その何者かと下山中に鉢合わせる可能性は少なくなく、その際人間の姿だと何かと問題が生じる可能性があると危惧したからだ。
 顔の造形などは特にいじらず、肌の色を浅黒く変え、そして背中から翼を生やした。
 これは今まで何度か遭遇した魔族の姿を参考にしたものである。

勇者「それじゃ、行こう」

 勇者と戦士は頷き合って、眼下に広がる町へと歩を進めた。

勇者(魔界に生きる者達の町……魔界を統治するという『大魔王』の情報はきっと集まるだろう。だけど果たして、親父の、『伝説の勇者』のことを知っている奴はどれくらいいるだろうか……)



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