勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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213:名無しNIPPER[saga]
2016/05/08(日) 17:19:09.77 ID:niX7BoNT0
さしたる傷も負わず、勇者と戦士は恐竜型魔物を打ち倒した。
かつては報奨金を得るために魔物を倒せば必ず戦利品を持ち帰っていたものだが、もう今はそんなことをする必要はない。
魔王討伐に多大に寄与した勇者一行は、各国から手厚い補償を受けている。
勇者も戦士も、武具の更新や旅に必要な物資についてはほぼ無償で提供を受けることが出来た。
勇者「さて……」
しかし勇者は倒した魔物の死体の傍に屈みこみ、検分を始めた。
先ほどの戦闘を通して、少しばかり魔物の様子に違和感を覚えたためである。
勇者「この魔物、途中で明らかに俺達の方が強いってことに気が付いていたはずだ。なのに、逃げずに最後までこちらに向かってきた。言うなれば、そう、必死だった」
勇者は魔物の腹を湖月を使って斬り開いた。
勇者「内臓の構造はそれ程変わった点は見られない……とすると、これが恐らく胃だな」
それまでは内臓を傷つけないように腹内から引っ張り出していた勇者だったが、胃と思しき部位を見つけるとそれを躊躇なく切り開いた。
どろりと胃液らしき粘性を持った黄色の液体が零れだすが、そこには固形物の類は何ら見当たらなかった。
勇者「やっぱり、胃の中がからっぽだ。それに、腹の下に全然脂肪分が無い。余程飢えていたんだな、この魔物」
あらかた魔物の体を調べ終えた勇者は、風の呪文を地面にぶつけて土を吹き飛ばし、巨大な穴を掘った。
そこに魔物の残さを放り込み、土を被せて埋める。
作業を終えた勇者に、戦士が水で濡らしたタオルを差し出した。
勇者「ありがとう」
勇者はそれを受けとり、血で汚れた体を拭く。
戦士「まだ汚れているぞ」
戦士はもうひとつタオルを準備し、それで勇者の顔を拭った。
勇者「あ、あり、ありがとう?」
戦士「どういたしまして」
咄嗟の事にどぎまぎして勇者は戦士に礼を言った。
勇者「さて、ちょっと分かったことがある」
気を取り直して勇者はそう切り出した。
勇者「魔界ってことで身構えていたけど、魔物の強さは俺達の世界に居た奴と比べても大した違いは無い。むしろ、もっと弱いんじゃないかってとこまである」
戦士「考えてみれば、私達の世界に居たのは異世界を侵略するための尖兵ということだものな。より強い魔物を送るのが当たり前か」
勇者「騎士との戦いを経て、今の俺達はもはや万全の獣王にすら独力で勝ち得る程に加護レベルが上がっている。これからの戦いで魔物相手に後れを取ることはそうそうないだろう」
戦士が頷くのを確認して、勇者は言葉を続けた。
勇者「ただし、どうもこの辺りの魔物は飢えて気が立っている様子だ。そういう奴は何をしてくるかわからんので、くれぐれも油断しないこと」
戦士「ああ、わかっている」
勇者「それじゃ、行こう。この砂漠みたいに何もないエリアがどれだけ続いてるか分からないけど、ここはさっさと抜け出したいな」
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