勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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210:名無しNIPPER[saga]
2016/05/08(日) 17:14:35.37 ID:niX7BoNT0
勇者「さあ、行こう」

 勇者と戦士は覚悟を決めて泉の中に飛び込んだ。
 身に纏う装備品や剣の重量に引かれてどんどん自分の体が沈んでいくのが分かる。
 勇者と戦士は固く閉じていた目を開いて水底に視線を向けた。
 水底に見える空は、まだ遠い。
 息もそれ程長く止められるものではない。勇者と戦士は頭を下に向け、水を蹴ることで潜る速度を上げようと試みた。

 ―――瞬間、凄まじい勢いの水流が二人の体を襲った。

 横合いから突如襲ってきた水圧に為すすべなく巻かれ、ぐるぐると回転した二人はあっさりと平衡感覚を手放し、上下左右も分からなくなった。
 それでも繋ぎ合った手だけは離さぬよう必死で握りしめ、二人は互いに無我夢中で水流からの脱出を試みる。
 水圧に耐えて目を見開くと、そう遠くない所に水面があるのが分かった。
 勇者と戦士は頷き合い、二人で必死に水を蹴って水面を目指す。

勇者「ぷあっ!!!!」

戦士「ぷはっ!!!!」

 勇者と戦士は二人同時に水面から顔を出した。
 そして二人とも大きく息を吸って肺の中一杯に空気を取り込む。

勇者「はぁ〜〜びびった!! 死ぬかと思った!!」

戦士「おい、勇者……周り……」

 勇者は戦士に促されて周囲の景色に目を向ける。
 辺りの景色は、泉に飛び込む前の魔王城のものとは一変していた。
 空が見える。赤い空に、黒い雲。
 見渡す限りの、灰色の荒野。

勇者「ここが……魔界……」

 勇者と戦士は泉から這い上がり、息を整えてから改めて周りを見渡した。
 空が赤いのは、既に今が夕焼けの時間帯だからか。それとも、元々空の色が赤いのか。
 見渡す限りの灰色の荒野は、遠く霞む地平線まで続いていて、永遠に広がっているかのように錯覚させる。
 見える範囲においては、生物のようなものは見受けられなかった。
 それは、そう、植物さえも。

勇者「……いや、植物の色も緑とは限らないからな……植物は緑っていう先入観のせいで、見逃しているだけかも……」

戦士「勇者、あれはなんだろう?」

 戦士が指差す先に視線を向けてみれば、地面に一部黒い部分があることに気付いた。

勇者「なんだろう…パッと見、沼っぽく見えるけど……」

戦士「行ってみるか?」

勇者「そだね。他に指標もないし、俺の火炎呪文で濡れたもん乾かしたら行ってみよう。薪がないから呪文出しっぱにせにゃならんくて辛いぜ!」



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