勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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176:名無しNIPPER[saga]
2016/04/17(日) 11:32:54.80 ID:GzXa1Wz40
 勇者の脳裏に浮かぶのは、『あの時』騎士と交わした最後の会話。
 ずっと忘れようと思っていた。
 ずっと、気にしないように努めていた。
 だけど、駄目だった。
 父の墓の前で今でも涙を流し、ふとした時に深いため息をつく母の姿を見るたびに、胸が締め付けられる思いだった。
 だから勇者は決心した。

 魔界へ向かう。
 ただしそれは、大魔王を討伐するためではなく、父を救出するために。
 いつだって帰ってこれると騎士は言った。
 なのに父が帰ってこないという事は、帰ってこれないという事だ。
 なにかのっぴきならない状況に、父は陥ってしまっているという事だ。
 だから、助けに向かう。
 死んだはずの『伝説の勇者』を連れて帰って来て、この物語はようやくハッピーエンドを迎えることが出来るのだ。

勇者「よし…!」

 決意を新たに、勇者は魔王城の奥へと進む。
 見張りの者には既に話をつけてある。勇者を止めようとする者は誰も居ない。
 そのはずだった。

「待て」

 勇者の前に立ち塞がる者があった。
 燃え盛る火炎の如き紅蓮の大剣を背負った金髪の美女。
 勇者の前に立ち塞がったのは、戦士だった。

戦士「……どこに行くつもりだ?」

勇者「……少しだけ、魔界へ」

 逡巡の末、勇者は正直に答えることにした。
 元より、この場所にあってはどう言いつくろっても誤魔化しはきくまい。

戦士「そうか」

勇者「驚かないんだな」

戦士「お前の様子を見て、何か考え込んでるのは分かってたからな」

 戦士もまた、勇者と共に魔物の残党の討伐を行っていた。
 必然、勇者と行動を共にする機会は多かったのだ。

戦士「お前、黒髪の少女の告白を断ったろう」

勇者「……何で知ってるんだ?」

戦士「気になってな。後をつけてしまった」

勇者「プライバシーの侵害だ」

戦士「ごめん。でも、その時に聞いてしまったんだ。お前が『まだ自分の命がどうなるかわからないから』と言って断るのを」

戦士「その時に、色々考えた。正直、お前も私も、もはやこの世界に敵はいない。それほど、突出した強さを私達は得てしまっている。そんなお前が、命を危ぶむほどの状況……考えるほどに、答えはひとつしか思い浮かばなかった」

戦士「だから、お前の様子を注意深く伺っていた。そうしたらこの二、三日で、大荷物の準備を始めたから、ピンときたんだ」

勇者「いよいよもって、プライバシーの侵害だな」

戦士「ごめん。本当にごめん」

勇者「いいよ。それで、何しに来たんだ? お前も、そんな大荷物を持って」

戦士「わかっているんだろう? 私も一緒に連れていけ」





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