女神
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76:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします[saga]
2016/01/09(土) 00:18:05.11 ID:wFKv96Wio

 しばらく電車の中で沈黙が漂った。

 有希の突然の告白に動揺したし、夕也の気持ちも気にはなっていたけど、どういうわけ
かこの時の俺はその悩みを忘れ、二見との間の沈黙の方に気をとられていた。二見は今何
を考えているのだろうか。そのことを知りたいという欲求が沸いたからだ。

 この気持ちは恋ではない。いろいろ複雑なことになってはいるけど、俺が本当に好きな
のは幼い頃からずっと好きだった有希で、そのことに間違いはなかった。そして長年の片
想いが今日初めて報われそうになっていたことも間違いのない事実だった。ただ夕也の気
持ちを考えると、その場で素直に有希の気持ちを受け入れることが出来なかっただけで。

 それなのになぜ俺は、夕也の捜索をあっさりと諦めて二見と肩を並べて座っているのだ
ろう。

 二見は可愛らしい。背は有希と同じくらいだけど、ロングヘアの有希と違って髪の毛は
肩にかかるかかからないかくらいで、それに全体に華奢な印象がする。学校の中では普通
に可愛い部類に入っていると思う。そして性格は。

 こうして二人で話をするようになるまでは、謎めいてはいるけど陰気で無口な女だと思
っていた。でも、一度話をするとその社交性や明るい受け答えに驚いた。これが学校で友
だちもいない、いつも一人きりで過ごしている二見と同一人物かと驚くほどに。でも、よ
く考えれば二見はそれほど饒舌と言うわけではなかった。俺に対して全然臆することなく
はきはきと話はしているけど、実はそれほどペラペラ世間話をしているわけではない。そ
れなのに俺が有希の初告白を忘れるほど二見に関心を持つのは、短い一言一言に意味があ
るように思えたからだった。逆に言うとあまり意味のない世間話のような話題はほとんど
彼女の口からは出てこなかった。そして同時に彼女は自らのことをほとんど俺に語ってい
ないことに気がついた。

 こういう女の子は自分の世界が確立されているのだろうと俺は思った。そして彼女にと
っては、学校がその場所でないことは確かだった。どこが学校でない場所や時間に自分を
表現できる場所を持っているのだろう。

 俺が、自分が二見に関心があり彼女のことをよく知りたいと思っていることを、はっき
りと自覚したのは、この日からだった。

 俺は沈黙を破りたいという気持ちもあり、無難な上にも無難な質問をぶつけてみた。

「あのさあ、おまえって兄弟いるの」

「一人っ子だよ」

 二見はあっさりと答えた。そして俺の方を見て、にっていう感じの笑いを浮かべて自分
についての情報を自ら開示してくれた。

「あと、お父さんは普通の会社員で、お母さんも普通の会社員。つまり共働きね。だから
あたしはいつもは学校でも家でもぼっちなんだよ」

 彼女は平然とそう言って笑った。そして、俺の目を見て続けた。

「あたしのことなんか本当に知りたいの?」

 俺はそれ以上自分から質問をする気を失って二見の言葉をただ聞いていた。

「君が知りたいなら別に隠すことなんかないしね」


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