328:名無しNIPPER[saga]
2016/07/31(日) 23:40:26.97 ID:rPhbjypgo
「麻人」
「あいつはもう学校になんて来れるわけねえだろ・・・・・・ちくしょう」
麻人は初めて私の方も向いてくれたけど、その目は私の身体を通りこして何か遠くを睨
んでいるようだった。
「あいつは何も悪いことはしてねえのに」
正直に言うと麻人に言いたいことはいっぱいあった。二見さんの行動の持つ悪い影響の
ことも諭せるものなら彼に諭したかった。でも、そんな社会的な影響よりもこのことが私
麻衣ちゃんや夕也の関係に及ぼした影響のことの方が私には気になっていた。
今のところ麻人は自分と二見さんのことしか頭にない。それは無理もないことではあっ
たけど、二見さんの考えなしの行為によって私たちの行動にいろいろな負の影響が出てい
ることもまた事実なのだった。でも、今の麻人にそのことを責めるように言うことは気が
引けた。
「・・・・・・絶対につきとめてやる」
麻人は真剣な声で言った。
「優を追い詰めたやつ、絶対に校内のやつだ」
「え・・・・・・、あんた何をしようと」
私は驚いて麻人の方を見た。麻人はただ絶望していただけではないようだった。いいか
悪いかは別にして、麻人は行動を起こそうとしていたのだ。
「見つけてやる。優を傷つけたやつを。報いを与えてやる」
麻人はここで初めて私の方を見て、そして微笑んだ。
私はその日の昼休み、相変わらず周囲の生徒たちに無視されていて、でもそんなことは
あまり気にならない様子で自分の携帯を覗き込んでいた麻人を、無理に引き摺るようにし
て中庭に連れ出した。夕也は、私が引き止める猶予すら与えてくれずに、昼休みになった
途端に教室を出て行ってしまっていた。
中庭のベンチに座った私は、とりあえず誰のためということもなく一人分以上を作って
きたお弁当をそこに広げた。
「・・・・・・食べなきゃ駄目だよ」
私は食欲の無さそうな表情でぽつんと座っている麻人に話しかけた。
「ああ。ありがと」
彼はそう答えた。「悪いな、弁当まで作ってもらってさ」
二見さんのことしか考えられなかったであろう麻人は、私のことも気にしているかのよ
うな言葉をかけてくれた。もう私たちが戻れない日々、麻人と麻衣ちゃんと私の三人がい
つも一緒に行動していた頃の、まだ麻人が二見さんと知り合う前の麻人ならば、そんな遠
慮を私に対してすることはなかっただろう。かつて他の誰もが邪魔できないほど親密だっ
た私と麻人と麻衣ちゃんは、もはやみんな戻れないところまで来てしまったのだった。
麻人は二見さんのことしか考えられないほど彼女に夢中になっていた。その恋はひょっ
としたら、既に破綻していたのかもしれないけど、麻人はその事実に対して無謀な反撃に
出ようとしていた。
私はここで変質してしまった、私たちのことをもう一度振り返ってみた。
麻人に対してあそこまであからさまに依存して麻衣ちゃんは、大切な麻人のことを私に
託したのだった。麻衣ちゃんが不本意ながら踏み切ったのかそれとも麻人への依存から卒
業しようとしたのかは私にはわからなかった。
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