240:名無しNIPPER[saga]
2016/05/06(金) 22:51:55.62 ID:my8qAWPQo
麻衣は僕の腕の中から抜け出して、身体を真っ直ぐにして僕の方を見た。
「お兄ちゃんの相手が二見さん以外の人なら誰でもいい。でも裸で縛られてる姿を誰にで
も見せるような二見さんがお兄ちゃんの彼女なのは許せない」
「・・・・・・うん」
「先輩、あたしを助けてくれますか」
普段から馴れ馴れしい麻衣にしては珍しく敬語で僕に頼んだ彼女の表情は、日ごろから
動じない彼女が始めて見せるような緊張したものだった。
僕はその瞬間に心を決めた。
「僕は君を助けたい。君がやるなら僕もやるよ」
「ごめんね先輩」
この時、どういうわけか麻衣は僕に謝ったのだった。それから麻衣は黙って再び僕に寄
り添って、僕のシャツの胸に顔を当てたまま静かに涙を流した。
僕は、その日はもう放課後に麻衣と会わないことにした。結局昼休みの間中、僕は僕に
くっついて泣いている麻衣の頭をずっと撫でていた。
午後の授業が始まる前に僕は麻衣に注意した。心を乱している彼女にうまく伝わるか不
安だったけど、案外彼女は冷静に僕の指示を理解してくれた。
「今日は部活は休みにしよう。君は真っ直ぐに家に帰るんだ」
「うん」
「そして今日家に帰って池山君に会っても、彼のことを責めちゃだめだよ」
「・・・・・・うん」
「池山君と二見さんの交際に理解を示す必要はないけど、二人の交際は許さないみたいな
態度は絶対取っちゃ駄目だ」
「わかった」
「これからすることが君の差し金だったなんて池山君に知れたら、彼が君のことをどう思
うかわかるよね?」
麻衣もそのことは十分理解しているようだった。
「わかってる。お兄ちゃんにはなるべく普通に接するようにする」
「くれぐれも嫉妬心を表わし過ぎないように。そうでないと優を陥れたのは君だと疑われ
るかもしれない」
「心配しないで」
麻衣は言った。大分落ち着いてきたようで、その頃には彼女の言葉は柔らかいものにな
っていた。
「先輩の言うとおりにするから」
そこで麻衣は再び僕を潤んだ瞳で見つめた。
「大袈裟かもしれないけど、先輩の恩は一生忘れないから」
「本当に大袈裟だよ。誉めるなら全部うまく言ってから誉めてくれよ」
麻衣はくすっと笑った。昼休み時間の最後になって、ようやく僕は麻衣に笑顔を取り戻
させることができたようだった。それが僕には嬉しかった。
「じゃあ、もう行かないと」
麻衣はそう言ってった立ち上がった。昼休みも残り僅かになっていた。
麻衣が僕の腕から抜け出して先に立ち上がったせいで、まだベンチに座っていた僕は彼
女を見上げる体勢になった。
「じゃあ、また明日」
麻衣が不意に少し屈んで僕にキスした。前のキスとは違ったところに。
僕は自分の唇に少し湿った小さな柔らかい感覚を覚えながら、早足で屋上から去ってい
く麻衣の姿を見つめていた。
・・・・・・今日は早く家に帰って準備をしないといけない。とりあえずWEBメールで捨て
アドを作るところから始めよう。
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