236:名無しNIPPER[saga]
2016/05/06(金) 22:49:24.49 ID:my8qAWPQo
あまり食欲はないけど午後の授業中にお腹が鳴ったりすると恥かしい。僕は購買で余り
物のパンでも買うことにして席から立ち上がった時、教室のドアから誰かを探しているよ
うに室内を覗き込んでいる下級生の姿に気がついた。
「先輩、まだいてくれてよかった。間に合わないかと思っちゃった」
麻衣は教室内で食事をしている上級生たちを全く気にせず、僕に向かって大きな声で話
しかけた。
「どうしたの」
麻衣の方に近寄りながら、僕は周囲の生徒の視線が気になって低めの声で返事した。普
通、学年によって校舎が別れているうちの学校では下級生の生徒が上級生の教室を訪れる
ことは滅多にない。そのうえ麻衣のような少女が僕のような冴えない男を訪ねてきたのだ
から、その姿に教 室内の注目が集まったのも無理はなかった。
「これからお昼でしょ? 一緒に食べない?」
麻衣は周囲の上級生を気にせず平然とした態度で言った。
「別にいいけど。急にどうしたの」
「急じゃないの。先輩、いつも購買でパン買ってるみたいだから今日は一緒に食べようと
思って先輩のお弁当を作ってきたんだけど」
「え」
さっきまで期待する理由がないと自分で結論を出したばかりの僕は再び動揺した。女の
子が僕のためにお弁当を作ってくれるなんて生まれて初めての体験だった。
「今朝、先輩に話そうと思ったんだけど浅井先輩に邪魔されて言えなかったよ」
「そうだったの」
麻衣に恋焦がれている僕としては天に昇っているような幸せな気持になってもよかった
はずなのだけど、やはり僕はどこまでも卑屈にできているのだろう。同級生たちの面白が
っているような表情に僕は萎縮してしまっていた。
麻衣はそんな僕の手を握った。
「天気がいいから屋上に行きましょ。中庭はさっき見たらもうベンチは空いてなかったし
ね」
僕は呆けたように麻衣を見つめながら彼女に手を引かれるまま教室を後にした。
屋上のベンチにも結構人がいたけど、どういうわけか前に麻衣と一緒に座ってモバイル
ノートで女神スレを見た時のベンチが空いていたので、僕たちはそこに腰かけた。麻衣は
持参していた可愛らしい巾着袋を開けてお弁当が入ったタッパーを取り出した。
「先輩、どうぞ。美味しくないかもしれないけど」
僕は彼女に勧められるままに小さなおにぎりや、ちまちまとした綺麗な色彩のおかずを
食べたのだけど、もちろん味わって食べる余裕なんてその時の僕にはなかった。
「美味しい?」
麻衣が無邪気に聞いた。
「うん」
僕はとりあえず頷いた。
「あ、そうだ。先輩に教えてもらいたいんだけど」
食事中に急に思いついたように麻衣が言った。
「あたしも自分の部屋にパソコンが欲しくて・・・・・・どんなのを買ったらいいと思う?」
「どんなのって」
突然思ってもいなかった話題を振られて面食らった僕だけど、これは考えるまでもなく
返事できるような質問だった
468Res/896.79 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20