177:名無しNIPPER[saga]
2016/03/27(日) 22:42:03.26 ID:q8J8eS9oo
これでは、あんまりだ。僕の気持ちも副会長の気持ちも救われない。だらだらと続く優
の自分語りは、今では僕にとって意味のないお経の詠唱のように意味を失っていた。
この時の僕は、本心からいらいらしていた。これが彼女以外の相手だったら、僕の本心
に気づかれることはなかったろう。僕は表情をコントロールすることができたのだし。で
も、相手は優だった。僕と同じようなスキルと性格を持っている優なのだ。
一応、その時僕も軌道修正しようと試みたのだ。これでは、僕の持つ傾聴のスキルがす
たる。優の言動がどんなに自分勝手でも、僕は彼女に惚れているんだし。そう思って、僕
は副会長の泣き出しそうな顔の記憶を振り払い、再び身を入れて彼女の話を聞こうと思い
直した時だった。
優が自分語りを中断して僕に言った。
「先輩。あたしの話、聞いてるの?」
彼女は自分語りをやめ、真面目な表情で僕を見つめて言った。
「やっぱり、こうなっちゃうのね。先輩、あたしの話を聞くのが嫌になってきたんでし
ょ」
「そんなことないよ」
僕は驚いて言った。実際、僕のことには全然興味を示さない彼女にじれったい思いをし
てはいたけど、彼女への関心は僕からは失われてはいなかった。副会長の告白への無関心
からは、優の冷たさを思い知った感じがして、そのことに少し悩んではいたけれど、それ
でも彼女への恋情や関心が無くなるなんてことは、全くと言っていいほど考えられなかっ
たのだ。
「ううん、いいの」
優は妙に悟ったように言った。
「結局、こうなっちゃうの、あたしは。人の話しを聞いてあげずに自分のことだけ話して
ばっかりのあたしなんか、やっぱり誰にも関心を持たれないのね」
「ち、違う。話を聞いてくれよ」
嫌な予感が脳裏を締め出した僕は、必死で彼女の話を遮った。
「先輩ならあたしの話を聞いてくれる。先輩に対しては、素直に自分のことを全部話せる
と思ったんだけど」
彼女の澄んだ黒い瞳から一筋の涙が流れ落ちた。
「ごめんね、先輩。今まで迷惑だったでしょ」
「おい・・・・・・」
「もう、先輩を困らせることはないから。彼女の気持ちを邪魔することもないし」
「・・・・・・ちょっと、待ってくれ。僕は本当に君のことが」
その時、優は僕の言葉を遮って、唐突に、一方的に別れを告げたのだった。
「さよなら、先輩。今までありがとう」
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