女神
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168:名無しNIPPER[saga]
2016/03/24(木) 23:54:49.42 ID:jhPeExTco

「・・・・・・こんには先輩。はじめまして」

 放課後の図書室に現れた二見さんは、あらかじめクラス委員の子に聞いていたのだろう。
それほど緊張している様子もなく僕に挨拶したのだった。そして意外なことに彼女はすご
く可愛らしい女の子だった。

 こんな小ざかしい技術を駆使してまで校内で人気を得ようという女なんて、容姿が優れ
ているわけがない。僕は何となくそう考えていたのだった。それは自分を考えればよくわ
かることでもあった。傾聴なんて小ざかしいことをしなくても人気があるような容姿や性
格を備えていたら、僕だってこんな面倒なことはしない。でも、その考えを裏切って僕の
前に現れた少女は、今まで会ったこともない美少女だった。

 ・・・・・・まるで女神のようだ。

 僕は一瞬自分が彼女を呼び出した理由も忘れて、呆けたように彼女の艶やかな姿を見つ
めていた。

「はじめまして。突然呼び出してしまってごめんね」

 少しして、ようやく我に返った僕は彼女に挨拶をした。実はここからもう彼女との戦い
は始っていたのだから、僕は精一杯の笑顔を作って彼女に話しかけた。

「いえ。全然大丈夫です」

 一学年下の二見さんはにっこりと微笑みながら気後れする様子もなく、図書室の椅子に
座っていた僕の斜め前の椅子に腰掛けた。正面ではなく真横でもなく斜め前に。

 それは傾聴する際に必要になる基本的なポジションだった。人は正面に座られると入試
の面接のようなシチュエーションに緊張して簡単には心を開いてくれない。かといて真横
に座るのはもっと親しくなってからが望ましい。初対面の段階では真横のポジションはか
えって逆効果になることもある。そういう意味では彼女の選んだ位置は、ベストポジショ
ンということになる。僕は彼女の美少女ぶりに動揺した分、いろいろと女さんに後れを取
って、しょっぱなから主導権を握られたように感じた。その考えは僕を密かに動揺させた。

 それでも僕は心を引き締めて体勢を立て直した。今日は是が非でも彼女に正直に悩みを
打ち明けさせて、その悩みを傾聴してやり彼女の信頼を勝ち取らなければならなかった。

「同級生のクラス委員から君のこと聞いたんだ。君が悩んでる人の相談に乗っているすご
くいい子だって」

 僕はとりあえず彼女を持ち上げることにした。とにかく彼女の方から積極的に自分のこ
とを話させなければいけないけど、初対面の男にいきなりそんなことをする女の子も普通
はいない。だからまず彼女の信頼を勝ち取らなければならない。

 ・・・・・・でも僕の最初の言葉はどういうわけか彼女の心には全く響かず不発に終ったよう
だった。

「はい?」

 二見さんは何か理解不能なことを言われたように、不審そうに首をかしげた。

「ごめんなさい。いったい何の話ですか」

 それは演技ではないようだった。ひょっとして僕は彼女のことを買い被りすぎていたの
か? だけど、クラス委員の子の話が嘘でないとすると、この子は少なくとも同級生のい
い相談役のはずだった。そしてその一点で彼女は同級生たちに人気があるはずだった
のだ。

「君が同級生の悩みをよく聞いてあげるって聞いたんだけど」

 僕は少し気弱になりながら聞いてみた。すると彼女は少し複雑そうな表情で、でも思い
当たることはあるような曖昧な口調で答えた。

「ああ。もしかして、千佳ちゃんのことですか? あれは別にそんな」

 ようやくとっかかりができた。もう勘違いでも何でもいい。とにかく彼女の話を傾聴す
るのだ。

「君の話を聞きたいな。別に興味本位じゃないよ。でも、友だちの悩みを解決できるって
凄いと思うし、僕にも同じような悩みを持っている友だちがいるんで参考にしたいな」

 それは僕に相談したがっている連中に話しをさせる時と違って、ひどく無様な誘いだっ
た。僕はコンサルタントとしてのプライドをいたく傷つけられたけど、それでも何とか彼
女に話をさせないといけなかった。

「あれは別にそんな・・・・・・。でも千佳ちゃんから相談されたんで話を聞いてあげただけ
で」

 二見さんはようやくありがちな女友だち同士のトラブルの相談に乗ったエピソードを話
してくれたのだった。

 ・・・・・・二見さんの話はありきたり過ぎて正直興味を抱けるような話ではなかった。僕は
むしろ彼女の話を聞きながら、彼女の傾聴の技術が思ったより高そうなことに驚いた。


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