女神
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169:名無しNIPPER[saga]
2016/03/24(木) 23:57:33.76 ID:jhPeExTco

「君って人の話を聞くの上手みたいだね」

 彼女の友人のエピソードは無視して、僕は敢えて核心に触れてみた。その時、初めて彼
女は動揺して迷っている様子で僕の方を覗った。何かある。僕は直感したけど、ここは敢
えて口を開かずに彼女が自分から話をするのを待った。

 そして、二見さんはついに少しづつ自分のことを語り始めたのだった。

「あたし、これまで転校ばっかしてたんです。だから友だちができてもすぐにお別れだっ
たんですね。それで転校を繰り返しているうちに友だちを作る方法とかわかちゃって」

 僕は内心しめたと思った。自分語りを始めさせればもうこっちのものだ。あとはどれだ
け親身になって彼女の話をきいてあげられるかが勝負だった。

「先輩、あたしが必要に迫られて習得したテクニックって、何だかわかります?」

 彼女は淡々と話を続けた。

「うん? 何だろ」

 僕は傾聴の基本どおり彼女の目を見つめて真面目に悩むふりをした。

「あたしね、自分の話したいことを二割くらいしか喋らないようにして、残り八割の時間
は相手が話すことを聞いてあげることにしたんです」

 彼女は僕の答えを待たずに自分から言った。傾聴テクニック的にはいい傾向だった。

「本当は相手の話になんか興味はなくても、親身に聞くことに徹したんですね。そしたら
友だちはできるし、クラスでも評判がよくなって」

 人というのは例外なく自分のことや自分の知っていること、考えていることを話したが
る。そして、話した内容から自分を評価して認めてもらいたがるものなのだということを、
度重なる出会いと別れの間に彼女はは学んだそうだ。誰も別に彼女の考えていることなん
かに深い興味はない。

 行きずりの友人たちも自分の話を聞いてくれて評価してくれた彼女に親しげに振る舞っ
たみたいで、その一点だけで引越しと転校を繰り返していた彼女には、何度新しい環境に
放り込まれても、友だちが出来ないということはなかったそうだ。

 そしてもちろん、人とそういう接し方をしている限り、普通の友だちは出来ても心を許
しあえる親友は二見さんにできることはなかったのだった。

 それは辛い話だったけど、正直その時僕は有頂天になっていた。この同学年に人気にあ
る美少女が、僕に素直に心情を明かしてくれたのだ。最初に考えていたように彼女は好き
で傾聴をしているのではないらしいことは理解できた。それはこれまで過ごしていた環境
から彼女が自然に身につけたテクニックだったのだ。とりあえず僕にはもう彼女は脅威で
もライバルでもないことはわかっていたけど、このまま話を聞いてあげて彼女を精神的に
楽にしてあげようと僕は思った。「学校コンサルタント」の意地にかけて。

 ふと気付くと彼女は話を終え僕の方を見ていた。恐ろしいほどに澄んだ黒い瞳で。

 こんなことは初めてだったけど、僕は傾聴中に初めて内心相手の話以外のことを考え
てしまっていたようだった。

 やがて彼女は僕を見つめたまま再び話し出した。

「それで先輩は何であたしの話を親身に聞いてる振りをしてくれてるんですか? あたし
たち同級生でもないし初対面なのに」

 二見さんは僕に向かって軽く微笑んだ。


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