女神
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166:名無しNIPPER
2016/03/24(木) 23:45:44.72 ID:jhPeExTco

 僕より一年下級生のその女の子はやはりクラスで人気があるらしい。そして、その子は
見た目も可愛らしいし成績もいいのだけれど、クラスのみんなから慕われていたのはそれ
だけの理由ではないというのだった。

 僕はその話を僕に心酔してくれていた学級委員の女の子から聞いたのだった。その子が
人気のある下級生の女の子をほめる言葉はひどく抽象的で、とにかくいい子なのというレ
ベルの話だったのだけれど、その時僕は直感したのだった。

 その下級生の女の子も僕の仲間ではないのか。同級生の持つ承認欲求をていねいに聞い
てあげることで人気があるのではないのだろうか。

 その子に興味を覚えた僕は、その子のことを聞いて回るようになった。そしてその探索
の結果では、彼女は僕と同類の優秀な「コンサルタント」ではないかと思い始めた。僕は
その子に声をかけてみようと思った。もちろん、その子の気持ちを聞いてあげようという
よい「コンサルタント」として。

 そういうわけで僕はある日、その女の子に気軽に声をかけたのだった。この子の心のケ
アも僕がしてあげようというくらいの気軽な気持ちで。

 ところが想定外なことに、僕はその子のケアをするどころか彼女に心を奪われてしまっ
たのだった。

 学級委員の女の子に下級生のその子を紹介してくれるように頼んだ時、僕が考えていた
のは例によって僕に救える子は救ってあげようという程度の傲慢な気持ちからだった。そ
してその時にもう少し自分の心を掘り下げて考えていたなら、僕は下級生の少女を救いた
いという自分の気持ちに裏に、もう少し別な欲求が潜んでいたことに気が付いていたかも
しれない。

 この頃になると自分でも気付いていたのだけれど、校内での僕の特異な立ち位置という
か優位性は、僕が中学生離れした傾聴の能力を身につけていたからこそ得られたものだっ
た。誰だって人の話をひたすら聞いて相手に共感し、その相手を励ますよりは、自分の気
持ちを自由に吐き出せた方が楽に決まっている。それでも敢えてこんな、一見自分にとっ
て得にならいようなことをしたのは、逆説的になるけど傾聴によって自分の評判を高める
ためだった。つまり動機は完全に自己中心的なものだったのだ。

 単純な承認欲求は、人に話を聞いてもらい聞き手に認めてもらえれば簡単に成就する。
でも僕はそれだけでは不満だった。いつのまにか多数の信者が僕を崇めてくれる。そうい
う状況を作り出すためには、声高に自分の感情を吐き出すよりもっといい手段がある。そ
れは手間と時間がかかり面倒だけれど、コンサルタントに徹するということにコストはか
かるのは承知の上だった。そしてその効果は疑り深い僕が満足するほど絶大だったのだ。

 僕は、成績は悪くはなく判断力も持ち合わせていると思うけど、そんな生徒なら他にも
いっぱいいる。さらに言えば運動音痴で腕力にも自信がない僕が、校内でここまで心地よ
い居場所を築けたのは、人の相談に乗るという地道な活動の成果なのだった。

 そのせいで、僕には真面目な子から乱暴な先輩までいろいろな友人がいたし、一部の教
師たちにさえ僕の能力を認められてもいた。そして、ここまで敢えて言及しなかったこと
を語れば、僕の容姿は決して人より抜きん出ているものではなかったけれど、そんな僕に
愛を囁いてくる早熟な同級生の女の子もかなりの数でいたのだった。

 その僕と同じように周囲の信頼を勝ち取っている女の子がいると言う。僕でさえこうい
う活動は精神的に辛いときもあるのだから、下級生のその子も辛いだろう。同業者として
サービスで彼女をケアしたあげたい。僕はその時そう考えたのだったけど、この時自分の
心の奥底を探っていれば、また違う考えが見えていたのだろうけど。

 今にして思えば分かれけど、僕はこう考えていたのだ。たかが中学生の分際で、いっぱ
しのコンサルタントやケースワーカーのように、傾聴の技術を持つ小ざかしいガキはこの
学校には僕一人でいい。だから僕はこの小ざかしい下級生の子の悩みを聞いてあげるつも
りだった。そして、人の話を傾聴するより、自分の悩みや主張を誰かに吐き出せる方がよ
ほど気楽で甘美なものであることを経験をさせてあげようと思った。そうすれば、彼女は
人の悩みを聞くより自分の悩みを吐き出すほうがどんなに楽か理解するに違いない。しか
も、彼女の話を聞いてくれる相手は、百%彼女の味方になってあげられるこの僕なのだか
ら。


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