女神
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165:名無しNIPPER
2016/03/24(木) 23:44:22.55 ID:jhPeExTco

 中学生の頃までは、僕は欲しいものには何でも手が届くのだろうと考えていたものだっ
た。

 成績は学年でもトップクラスだったし、学校の授業と関係ない雑学的な知識や文学的な
素養、そしてパソコンやネット関係のスキルまで僕には備わっていた。学業を除けばそれ
らのスキルは苦労して習得したものではなく、日々の生活の中で自然に身に付いたものだ
った。

 とは言っても僕にも弱点はあった。スポーツ関係の能力だけは人より劣っていたし、腕
力的喧嘩的な意味でも平均以下の能力しか持ち合わせていなかったのだ。

 そういう僕に対して、どういうわけか中学の時はみんなが僕に一目置いていた。その頃
の僕の交際範囲は広かった。僕の知り合いには成績優秀な同級生もいたし、反対に半ば学
校生活を諦めていて乱暴な態度によってしか自己表現できないやつらもいたのだけれど、
そういう乱暴者たちにも僕は人気があったのだ。

「あいつはただ頭いいだけのやつじゃねえよ。俺たちみたいな出来損ないのこともよくわ
かってるしな」

 こういう乱暴な連中と付き合うことも、その頃の僕には負担にならなかった。

 品行方正成績優秀な同級生も粗暴で教師から将来を心配されている連中も、彼らに共感
し彼らの話を聞いてあげられる僕に対しては、双方ともまるで借りてきた猫のように大人
しくなり、僕に懐いてきたものだった。

 もちろん僕のことを嫌う同級生はいなかったわけではない。その中でもどういうわけか
僕を目の敵にしていたそいつは、ある日僕の胸元を掴んで乱暴な声で威嚇するように言っ
た。

 「自分のことを僕なんて呼ぶやつが本当にいるんだな。おまえ、きめえよ」

 僕のことを嫌っていた不良じみた同級生の一人は、僕にそう言い放って僕に殴りかかっ
た。でも、その時彼は、僕がよく相談に乗っていたクラスのアウトローの親玉みたいなや
つに制止されぼこぼこにされたのだった。

「おまえ大丈夫だったか」

 僕を助けたやつは、床に這いつくばってうなっているそいつには構わず僕に話かけた。
その一件以来、暴力で僕の相手をしようという生徒は一人もいなくなった。

「あんたっていい子ぶってるけど、実際は不良みたいな知り合いばっかと仲良くしてるよ
ね」

 やはり僕のことを嫌っていた成績優秀な女の子は、ある時僕をひどく責めたものだった。
なぜ彼女が僕のことをそこまで嫌ったのかはわからない。でも、その翌日から彼女は、そ
れまで親しくしていた頭のいいグループの女の子たちから仲間はずれにされた。

 あんなに一生懸命で他人のことを構ってくれるあんたのことを一方的に誹謗中傷する彼
女とはもう付き合えないよ。僕を慰めるようにそう言ってくれた子はクラス委員をしてい
るやはり成績のいい女の子だったのだ。

 こういう状況は僕にとって凄く居心地がよかったけど、それでも僕は次第に、どうして
こんなに僕の都合のいいようにこの世界は回るのだろうと考えるようになった。

 僕の成績がいいからではない。成績のいいやつは他にもいっぱいいた。知識が豊富だか
らでもないだろう。僕の得意としていたPCスキルなんて、不良じみた同級生も品行方正な
クラス委員の女の子も等しく興味がないようだった。そう考えて行くと、僕が同級生に人
気があるのは人の話を親身に聞いてあげられるというスキルのせいではないのだろうか。
僕はそこに気が付いた時、密かに興奮した。

 人の話を聞くスキル。ネットで検索すると正確かどうかはともかく、かなりそのあたり
の理論が記されているサイトがヒットしたので、僕はそれらの記述を読み漁ったものだっ
た。

 傾聴という用語がある。どんなにくだらない心情の発露であっても、とりあえず自分の
価値判断を保留し相手の主張を受け止めてあげる技術だった。確かに僕は人の話を聞くこ
とが好きだったし、どうして相手がこういう行動を取るに至ったのかという動機に興味が
あったから、別に無理しているわけでもなく、相手の話をとことん聞くことは苦ではなか
った。

 そして、承認欲求。どんな人でも自分を理解して欲しいという感情がある。自分のこと
を話したい聞いてもらいたい、そしてその内容を他者に理解して欲しいという欲求だそう
だ。

 そして僕は期せずしてクラスメートのそういう需要に応えていことに気付いた。

 そう考えていくと、僕はまるでコンサルタントのようだった。人の話を親身に聞いてあ
げられるというその一点で、僕は中学で人気のある生徒という立場を確保していたのだろ
うか。不良も優等生も等しく、僕自身に興味があるのではなく自分に興味を持って親身に
話を聞いてくれる僕のことが大切なだけだったのだ。

 それに気づいても、僕にとっては人から信頼され頼られているという感覚はまるで麻薬
のように心地よかった。それで、中学時代の僕はそういう自分の役割に満足していたし、
そこから得られる見返りも当然だと思って享受していたのだった。そんなある日、僕は不
思議な少女の噂を聞いたのだった。


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