371: ◆DTYk0ojAZ4Op[saga]
2015/11/25(水) 02:55:49.10 ID:Mm2oT6db0
生活が困窮し、、
母が働きに出るようになっても、
父は時計を作り続ける。
彼は、そんな父を見捨てられない母を見捨てられず、
妹を食わせる必要もあり、
彼もまた働きに出るようになった。
作れど作れど発注は来ない。
家は時計が溢れかえり、
こち、こち、と寸分の狂いなく時を刻み続ける。
ある日彼はもう何年も父の声を聞いていない事に気付いた。
妹がいつの間にか家族を見捨て家を出たのは、その頃だった。
嵩む時計の製作費。
彼は何度も父を捨て家を出ようと訴えたが、母の耳には届かず、
少しでも多い収入を求めた母は、仕出し女として従軍する事を決め、
帰宅は数ヶ月に一度となった。
家には彼と時計を作る父、そして、山のような時計のみが残された。
2人を囲む時計たちは全て同じリズムで時を刻む。
こち、こち、こち、と。
振り返ってこっちを見ろ、
時計を作るのをやめろ。
それができないのなら、母を解放してくれ。
詰る彼の言葉も、父に流れる正確な時間を止める事はできない。
怒り狂った彼が時計を破壊し、父の向かう机に叩きつけると、
父は少し目を歪め、製作途中の時計を脇へ追いやり、
何事もなかったかのように破壊された時計を修理し始めた。
その時。
背骨が熱された鉄芯に感じられるほどの激しい怒りが心を満たし、
彼は、ならばその正確な時を止めようと思い至った。
ふた月後、母が帰宅した。
久しく見る母はどこか窶れて見え、"父さんはどこへ?"と問いかけてきた。
彼は、"出て行った"、とだけ伝えた。
"そう"それだけ言葉を発すると、母は倒れ、その日から床に伏した。
従軍中、兵士に強姦され、その傷が元で感染症を引き起こしたと知ったのは、
母が亡くなった後だった。
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