370: ◆DTYk0ojAZ4Op[saga]
2015/11/25(水) 02:54:12.56 ID:Mm2oT6db0
出自にとりわけ意味はなく、
なんの事はない町で産まれた。
時計職人の厳格な父と、美しく優しい母、気の強い妹の4人家族だった。
厳格な父は仕事ぶりもまた、その性に相応しく厳格なものであり、
父の作る時計は、大陸で最も正確に時を報せると言われる鐘の音と、
如何なる時も寸分の狂いなく時刻を示した。
父は毎日のように時計を作り続けた。
春夏秋冬、雨の日も、風の日も。
幼心に、父は誇れるものだった。
厳格な父の作品は厳格に時を刻み続ける。
その仕事は一日たりとも休まれる事はない。
命芽吹く春も、茹だるような暑い夏も。
葉が黄金色に色づき虫たちの音色が響く秋も、
身体の芯まで凍りつくような冬も。
父はまるでそれしかないようにひたすらに時を刻み続ける。
ただ、正確に時を刻む事こそが父の人生であるというように。
魔法技術の発展に伴い、
もはや世の中が機械仕掛の時計を必要としなくなっても、
父は時計を作り続けた。
発注など来ないというのに、
もはや高価な壁掛け時計など誰も必要としないというのに、
正確な時計の動きを再現するだけの金属板の方がずっと小型で便利だというのに、
父は何も言わず時計を作り続けた。
そしてやがて、
14に差し掛かる頃、やっと彼は、
父には本当に"それ"しかないのだと気付いた。
父は時間に魅せられていた。
何十年という間、正確な時に生き、正確に時を刻もうとし続けた父は、
もはや他にすべき事を見出だせなくなっていたのだと。
時計は父の自我の結晶であり、
自分とは流れる時の異なる、自らの妻や子供にすら、
興味を失ってしまっているのだと。
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