358: ◆DTYk0ojAZ4Op[saga]
2015/11/23(月) 01:34:12.98 ID:9DwdlqBj0
どれだけの戦闘があったのか。
岩場は夥しい魔物の血で黒く染まり、
累々と魔狼の屍が横たわる。
そして倒れ伏し小さく唸る最後の一頭に穂先を突き立てた男もまた、
深く傷つき、吐く息は硬く、眼や鼻からすら流血し、
長物の支えが無ければ地を踏む事すら難しいといわんばかりに、
斧槍に身体を預けていた。
血を失いすぎたのか、
戦士は朦朧と、すぐ側まで迫る自らの死に思いを馳せる。
旅の目的とはなんだったのか。
足取りを追う度に、彼女の短い生涯が、
無学な田舎者の範疇に収まらぬものと知るのみだ。
鉱山都市での彼女の行い、
中央王国で見た研究の実情。
そのどちらもが彼女だとすれば、
幸せに過ごした3ヶ月間すら、今や虚像と思えてしまう。
彼女が止めたかったという戦争は避けられぬものとなり、
敵の姿も未だ見えず、
魔神の足取りもわからない。
勇者を止めるもできず、
魔物を狩るために磨いたはずの腕すら力が及ばない。
状況に流され続け、こうして命を落とすのなら、
この旅に意味などなかったのだろうか。
戦士「………………死ねば、会える、か」
どうしてだか、
これでは死後彼女に会えると思えないが、
既に手に力は入らないし、
膝ももう伸ばしていられない。
ずるずると柄から崩れ落ち、
あるはずの地がないかのように、意識の底へと落ちていく。
なにもかもが希薄に感じられる中、
ただ孤独感だけが昏く大きく心に陰を落とした。
「ああ。それが死というものだよ」
どこからか響く声。
これは彼女も味わったものだと思えば、少しだけ、
その孤独感も受け入れられた。
復讐は身を滅ぼすとどこかで聞いた事があるが、
その意味が少しだけわかった気がした。
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