314: ◆DTYk0ojAZ4Op[saga]
2015/10/22(木) 01:24:18.68 ID:GXsKHRI30
盗賊「(やはり、及ばぬか………ッ!)」
盗賊の顔に焦りが滲み出る。
そもそも勇者と剣を交わす事が、彼にとっての死地となる事は、
彼なら理解できていただろう。
得物の間合いの不利。
足に古傷を抱え、疾走が許されぬ事。
力量の差。
グルカナイフは厄介な武器だが、
その利は投擲にこそある。
接近戦では決め手に欠ける武器を用いる事に加え、
足を使えず距離の取れない事からしてこの状況は、
勝利もなく敗走も許されぬ、
ただ死を待つ戦いだ。
一際高い剣戟の音がして、
ふたつの刃が鬩ぎ合う。
鍔元で刃を受ける勇者に対し、
盗賊は反りの中央に落としこむように受け止める。
体格は盗賊が有利だが、勇者の鋭い踏み込みによる体勢の差が災いし、
拮抗した鍔迫り合いとなった。
勇者「実はなかなか腕が立つみたいだけど。
あんまり怖くはないかな」
盗賊「…ご冗談を。
あなたが恐怖を感じる事など、ありはしないでしょうに」
鍔迫り合いは続く。
どこか愉悦を覚えたような勇者とは対照的に、
盗賊はもはや忘我の域にでも居るのか、
表情は引き攣り、大粒の汗を額に浮かばせ、
しかし確かな感情の昂ぶりを見せている。
それは使命を帯び絶望の戦場に赴く兵士の貌。
そこに趨勢を案じる必要は無く、
ただ使命のために己を賭すのみ。
そこが生の終着地となろうと、
己が役割を果たさんとするだけの男の貌だ。
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