304: ◆yyODYISLaQDh[saga]
2016/10/14(金) 22:24:03.58 ID:J8WJ1/+kO
その挑発に対して少女は応えず、逆に挑発めいた言葉を返してきた。
《星?》家は、《悪宇商会》という人材派遣会社の設立に深く関わった一族だ。
人材派遣といえば聞こえはいいが、その実、ボディガードから誘拐・暗殺までなんでも請け負う、裏社会の住人が蠢く巣窟。
真九郎も、かつては《星?》の当主であり、《悪宇商会》最高顧問であった星?絶奈と対立し、殺し合った関係である。
およそ同じ人間とは思えない肉体と思想、倫理。
一度は人外の敵と見做した相手をどうして助けてしまったのか、真九郎にもよくわからない。
それでも、あの弱り切った絶奈を前にして、真九郎は手を伸ばさずにはいられなかったのだ。
しかし、《円堂》からすればそんな真九郎の心情など関係ない。
一年前の件だけでいえば被害者であった絶奈個人ではなく、表の世界にまで影響を及ぼした事件の発端である《星?》を危険視するのは当然のことだ。
そんなことは百も承知だが、理屈と感情が完璧に合致することなどそうはない。
それとも、揉め事処理屋として、一人の男として、真九郎がまだまだ未熟なだけなのだろうか。
「俺は《崩月》ですよ。裏の人間同士でつるんでいたって、別に不思議じゃないでしょう」
「…………」
真九郎の皮肉めいた言葉に対して、少女は言葉を返さない。
揉め事処理屋の紅真九郎が《崩月》の戦鬼であることは、裏世界の人間ならば誰でも知っている。
特に1年前の事件を知る者の間では、真九郎は《悪鬼》などという異名を付けられているほどだ。
そんな連中から言わせれば、紅真九郎という人間はとうに箍が外れているも同然。
更に言えば、そんな真九郎を《円堂》が警戒していないわけがない。
しかし先程の少女の発言は、まるで真九郎がまともな人間であるとでも言っているかのようにもとれる。
まるで、真九郎がどんな人間なのかを知っているような――
「そろそろ、戻った方が良いんじゃないかしら」
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