301: ◆yyODYISLaQDh[saga]
2016/10/14(金) 22:22:18.68 ID:J8WJ1/+kO
――真九郎の視界の外から飛んでくる、鋭い蹴り。
それは紛れもなく、目の前の女性が繰り出した蹴りであった。
一撃必殺を思わせる速度と鋭さ。
撓るように放たれた脚は、しかし、真九郎のこめかみの手前で、ピタリとその動きを止めた。
「…………」
「…………」
女性はその姿勢のまま真九郎を観察し、そして真九郎もまた、女性を無言で観察していた。
ほんの数秒ほどそうしてから女性は元の姿勢に戻り、真九郎からグラスを受け取る。
「この程度にも反応できないの?」
漸く口を開いたかと思えば、嘲笑うような、落胆したような声色で言葉を向けてくる女性。
その声は、女性と言うよりも少女に近い、と言うのが真九郎の感想だった。
大人びてはいるがまだ少し幼さが残る雰囲気で、おそらくは真九郎よりも年下。
「定期報告のために俺より年下の方がお見えになるのは、初めてですね」
「……そうね」
帽子のせいで表情を窺うことはできないが、今の一言だけで自分の年齢を看破されたことに驚いたのか、グラスの水面に小さな波紋が起きる。
明らかな経験不足が見えるが、真九郎はあえてそこを追求するようなことはしない。
経験不足と言えば、先ほどの蹴りもそうだ。
先程の蹴りには、全く殺気が見えなかった。
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