300: ◆yyODYISLaQDh[saga]
2016/10/14(金) 22:21:52.68 ID:J8WJ1/+kO
庭師や警備の努力によって死角は極力減らされているが、上から見ても庭園の警備員から見ても死角となる部分が一箇所だけある。
頻繁にこの屋敷に招待されている者や、この屋敷を守護している者も気づかない、或いは見過ごしてしまう程の本の小さな死角。
草木によって作り上げられたその死角――そこに佇む、一人の女性。
この庭園の死角は偶然できたものではなく、人為的に作られたものだ。
真九郎の経験上、パーティーの会場で密かに逢瀬を楽しむ男女(或いは同性かもしれないが)の為に、こういった場所が設けられている屋敷は少なくないが、警護する側からすればはた迷惑な話だ。
「こんばんは」
真九郎は、その女性に声をかける。
身長は真九郎と同じ程度で、女性にしては長身。
黒い喪服のようなドレスを身に纏い、帽子を目深に被っている。
女性の装いに対して、脳裏に黒猫を抱いた魔女が浮かぶが、雰囲気や身体的な特徴から、それは違うと真九郎には断言できる。
「…………」
どうぞ、と言ってグラスを差し出すが、対する女性は口も開かないまま真九郎の顔を見つめている。
警戒されているのだろうか、と真九郎は考えるが、この場所と時間を指定してきたのは相手側であるし、さっさと話を進めろ、ということか。
真九郎は警護の仕事の為にこの屋敷へ来た。
しかし、この屋敷には、もう一つ用事がある。
それが、この女性と落ち合い、報告をすることだった。
このほんの小さな死角も、彼女が指定してきた場所である。
「あの――」
依然として沈黙を保つ女性に対して、真九郎がその報告を口にしようとした瞬間――
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