587: ◆S0mvz1PntgQY[saga]
2016/09/20(火) 04:37:58.09 ID:hFhRzfxk0
「今日ね、二人、呼んだんだ」
「知ってる。差し入れ、来てたわね」
渋谷凛と、神谷奈緒。二人名義のスナック菓子の差し入れが、ケータリングスペースに並んでいたことを思い出す。
「絶対に、負けたくない」
加蓮はぼそりと呟いて、私が離そうとしたその手を強く握った。
「……誰に?」
「わかんないけど。負けたくない。……多分、礼子さんにも、みくにも、奏にも、凛にも奈緒にも、他の誰にも、他の何にも、どんなものにも」
ああ。そういうことよね。怪我を押して、曲も振付も減らして、それでもファンの前に立つ。私たちは、戦ってるんだ。
「……大丈夫。あなた自身が育てたアイドルよ」
気休めに聴こえたならごめんなさい。でも、速水奏の、数少ない本音よ。
「……アタシだけが、アタシを育てたわけじゃないよ」
ようやく私の手を離して、クスリと笑った加蓮の顔は、いつもより神々しくさえ見えて。
「大丈夫。あなたが育てたアイドルだよ」
そう言って、移動に付き添うスタッフに掴まってスタンバイ位置に向かう加蓮に、私は言葉を返せなかった。
私だけが、貴女自身だけが、貴女を、私を育てたわけじゃない。貴女も私も解ってる。
今までの全てが私たちを築いてきたんだもの。私たちはいつも、全てを懸けてる。
私たちは戦う。アイドルだから。
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