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不思議な女の子と、クリスマスイブを一緒に過ごした話。
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:22:19.27 ID:zGU0K/8Z0
教室でよく、一人きりで本をよんでる女の子がいた。
その子は物静かでなんにも喋らないせいか、
まわりからは「カオナシ」ってよばれていた。
彼女が学校にやって来たのは、九月のはじめごろ。
家族を殺したせいで転校してきたという噂だったので、
あんまり近寄ろうとする人はいなかった。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1727274139
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:25:28.93 ID:zGU0K/8Z0
わたしが彼女と話したのは、
ちょっとしたきっかけだった。
期末テストが終わりを迎えて、
年内の登校も残り二週間に迫っていた。
担任が冬休みの諸注意を告げるなか、
クラスメイトの連中はいつもより浮かれた気分で、
あれやこれやと小声でささやきめいていた。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:31:58.95 ID:zGU0K/8Z0
「うちのクラスで、冬期講習の
プリント作成を手伝ってほしい」と担任は言った。
誰も立候補しようとする奴はいなかった。
もちろんわたしだってそうだ。
ただ、運動部の連中がこちらを見てくるのが
何となく居心地が悪くて、仕方なくわたしは手を上げた。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:33:34.45 ID:zGU0K/8Z0
「立候補はふたりか。終礼後残ってもらえるか」
担任の言葉に、わたしは窓際の席へと視線を送る。
カオナシは、わたしの方を見ることもなく、
どこか涼しげな顔で、ただ静かに黙ったまま
こくりと一度だけ頷いた。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:36:54.92 ID:zGU0K/8Z0
中学に進学して、いつの間にかイジメを受けていた。
内容は、そこまで苛烈なものではなかった。
わたしの言うことは無視されたり、
クラスのグループから外されたり、その程度のものだ。
今回のことも「面倒ごとはわたしに押し付ければいい」という魂胆なのだ。
所詮、学校なんてわたしの居場所ではないとわかっていた。
だからこそ、わたしはそんな行いに堪えることができた。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:37:45.07 ID:zGU0K/8Z0
わたしは、担任から渡されたプリントの山を一瞥した。
机に積まれたそれらは、おおよそ一時間もあれば終わる量だった。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:39:41.08 ID:zGU0K/8Z0
教室にふたりきり取り残されたわたし達は、
しばらくしてすぐに書類の整理を始めた。
雑多に並べられたプリントを数字の順番にならべて、
それらをホッチキスで束ねていく、
本当に、たったそれだけの簡単な作業だった。
少しだけ開いた教室の窓からは、つめたい風が流れ込んでいた。
わたしは手のひらに息を当てて、かじかんだ指先をあたためた。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:44:46.47 ID:zGU0K/8Z0
「ねえ。どうして手を挙げたの?」と彼女は言った。
「え?」
わたしは思わずワンテンポ遅れて返事をした。
彼女はすこしはなれたところに立ち、
紺色のカーディガンから覗いたほっそりとした指で
鼻先をさわっていた。
「……ほんとは、ひとりでやろうと思ってたのに」
彼女の声をちゃんと聴いたのは、それがはじめてだった。
空気が冷たいせいか、それはとても鮮明にきこえた。
こちらを見ようともせず、カオナシはプリントの束を整理していた。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:52:51.86 ID:zGU0K/8Z0
「早く終わらせたかっただけだよ」とわたしは答えた。
「終礼を?」
「うん。長引くと、あいつらうるさいじゃん」
にやにやと笑うクラスメイトの顔だけが、
やけにはっきりと脳裏をかすめた。
「ふうん、そっか」
それだけ言って、何かを納得したかのように
彼女は何度かうなずいていた。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:55:33.99 ID:zGU0K/8Z0
「そっちは?」とわたしは何気なく訊いた。
どうしてそんな風に話しかけたのか、
自分でも理解は出来なかった。
けれど返事がかえってこなかったので
わたしはふいに顔を上げた。
真っ白なシャツから覗いた彼女の首元には、
校則違反のネックレスがきらりと光っていた。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:58:33.91 ID:zGU0K/8Z0
「んー。どうしてだと思う?」
「なにそれ? 自分のことでしょ」
「それはそうなんだけど」
そう言って彼女はそっぽを向いた。
「たぶん今日が、お姉ちゃんの命日だったからかな」
「え?」
「だから少しいい子にしてみようかなって、そう思っただけ」
ふうん、とわたしは答えた。だけど姉の命日だって?
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:59:09.73 ID:zGU0K/8Z0
「あんた、自分の家族を殺したんでしょ?」
「……ん、まあね」
「はあ?」わたしは思わず声を荒げた。
「どこまで知ってるの? 私のこと」
何にも臆することのない瞳に見つめられて、
わたしは思わず「さあ」と目を逸らした。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/25(水) 23:59:45.12 ID:zGU0K/8Z0
「カオナシ」と彼女は言った。
「はい?」
「あー。周りからそう呼ばれてるんでしょ、私」
ふわふわと掴みどころのない会話だった。
けれどそっちの方が、どことなく傷ついているように見えた。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/26(木) 00:01:01.01 ID:rKG8UjHE0
「べつに誰に何て呼ばれてもいいけど。なんか、悔しいよね」
「悔しいって?」わたしはそのまま訊き返した。
「うーん。私の何を知ってるんだろって、思う」
「それは、」
わたしは返す言葉に迷った。
彼女もなにも言おうとはしなかった。
なぜだか少しだけ、その場から逃げ出したくなった。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/26(木) 00:01:27.71 ID:rKG8UjHE0
「ねえ。冬休みは何するの?」
彼女は垂れ下がったきれいな髪を耳にかける。
「さあ。寝て起きて、たぶんそれだけ」
「つまんないね」
「うん」
「でも、一緒だ。私もそう、それだけだよ」
「……友達、いなさそうだもんね」
「え?」
わたしは思わず自分の口をおさえた。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/26(木) 00:01:56.94 ID:rKG8UjHE0
だけど、そんなことに怒る素振りもなく、
なぜだかうれしそうな顔をした彼女は、
しばらくして、くふふと笑いはじめた。
よくわかんないまま、そんな彼女のことを見つめていた。
意味がわかんないな、とわたしは自分の頬をかいた。
それなのに、どうしてか笑った彼女はやけに可愛くみえた。
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/26(木) 00:03:24.47 ID:rKG8UjHE0
それからしばらく他愛ない会話をしているうちに、
いつの間にか、書類の山はすべて片付いていた。
「さて。雑用も終わったことだし、先生に渡してこようか」
彼女は椅子から立ち上がると、手を差し伸べて、
わたしは、それをしぶしぶ握りしめた。
「名前、なんていうの?」
「ちひろ」とわたしは答えた。
「ふふ、なにそれ。運命じゃん」
しろくてか細い、彼女の指先にぎゅっと力が入った。
わたしは「そうかもね」と照れ隠しに笑った。
ふしぎと悪い気はしなかった。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/26(木) 00:04:03.71 ID:rKG8UjHE0
わたし達はそのまま教室を出て、職員室に足を運んだ。
プリントを提出した後は、下駄箱で「おわかれ」の挨拶をした。
「それじゃ、また明日」
「うん」
そう頷くと、彼女は足早に去っていった。
わたしはそんな後ろ姿を、なぜだかずっと見つめていた。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/26(木) 00:05:34.69 ID:rKG8UjHE0
一旦ここまで。もうすこしつづきます・・・
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/28(土) 09:41:56.48 ID:tn6qKCSu0
次の日から、彼女は教室で、わたしに話しかけるようになった。
「ちひろ。次の移動教室、いっしょにいこうよ」
「……ん、べつにいいけど」
そう言ったものの、突然の出来事にわたしは一瞬目を丸くしてしまった。
周りは明らかにおかしな目でわたし達を見ていた。
それは、いじめられっ子であるわたしと、
はみ出し者である彼女が、親しげに会話をしているのが
とても奇妙に思えたせいかもしれない。
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/28(土) 09:58:25.84 ID:tn6qKCSu0
「ねえ。わたしたちって友達に見えるのかな」
「なにそれ?」
彼女は廊下でちいさく伸びをしている。
「いやー。周りの目がさ、変に痛いっていうか」
「そんなの気にしなければいいじゃん」
「……そうかな?」
「そうだよ」
力強く頷いた彼女の言葉を、
自然とわたしは呑み込んでいた。
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/28(土) 09:59:01.90 ID:tn6qKCSu0
その日、わたし達に話しかけてくる者は
ひとりもいなかった。
こんなにも静かな平日は、とても久しぶりに思えた。
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/28(土) 10:05:33.87 ID:tn6qKCSu0
「もしかして、迷惑だった?」と彼女は言った。
帰り道のバス停には、わたし達以外は誰もいない。
「なにが?」
「今日一日、ずっと一緒にいたから」
「あー。べつに大丈夫だよ。むしろ楽だった」
「楽?」
どうやら彼女は、わたしがクラスでいじめられっ子である
という認識が欠けていたらしい。
それらを説明すると、やけに納得したかのように、
彼女は何度か頷いていた。
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/28(土) 10:07:57.66 ID:tn6qKCSu0
「じゃあみんなは、私が怖いからちひろに近寄らなかったんだ」
「そうみたいだね」とわたしは言った。
「……そしたらさ。やっぱり友達になろうよ、私たち」
「え?」
気付けばわたしの喉からは、
とびきり素っ頓狂な声がとびだしていた。
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/28(土) 10:08:35.25 ID:tn6qKCSu0
「授業を受けて、昼休みに本を読んで、
家に帰って眠って。毎日それしかやらないんだもん、つまんないよ」
わたしは目線を落として「かもね」と言った。
「私は退屈を埋められる、ちひろは学校で嫌な思いをしなくて済む。
これってすごく素晴らしいことじゃないかな」
どうだろ、と彼女はすこしだけ不安そうな表情をする。
その顔がやけにおかしくて、わたしは思わず笑いそうになってしまった。
「じゃあさ、今から遊びに行こうよ」とわたしは言った。
「今から?」
「うん。映画でもみて、それからカフェでしゃべろう」
わたしはそう言って、彼女の手のひらを取り、
駅とは反対方向のバスへと飛び乗った。
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