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映画の脚本を書いて、ひとりの女の子と出会った話。
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63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/08/16(金) 15:28:43.93 ID:mJTsWdVB0
「俺に?」
「そうです」彼女はちいさく頷いた
どうして、という言葉を飲み込んで
「俺もだよ」とこたえた。
「本当ですか?」彼女は不安そうな声でそう言った
「嘘を言ってどうするんだよ」
「たしかに、そうですよね」
ヒツジはやけにおかしそうに笑っていた。
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/08/16(金) 15:31:48.21 ID:mJTsWdVB0
それから俺たちはコンビニで酒を買い、
公園のブランコで、ささやかな二次会をすることにした。
はじめはお互いに探り合うような会話をしていたけれど、
時間が経つにつれてあの頃のような距離感にかわっていった。
今でも週末は本を読み続けていること、
演劇部を通じて今の事務所を紹介されたこと、
大学をやめて親にひどく怒られてしまったこと、
どれも初めて聞くことばかりだったんだ。
だけど、たったそれだけのことだったとしても、
少しずつ彼女のこれまでが分かっていくような気がして、
俺はそれが心底うれしかったんだよ。
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/08/16(金) 15:36:43.01 ID:mJTsWdVB0
「ちゃんとした女優になるまで、
先輩とは会わないつもりだったんです」
「それはどうして?」
「さあ、なんででしょうか」
彼女はそう言って少しだけ押し黙った。
「たぶん、こわかったんですよ」
「こわかった?」
「ええ、相談もしてませんでしたから」
「俺ってそんな風に見えてるのか」
「そうですよ。自覚なかったんですか」
「ああ。はじめて知った」
俺たちは互いの顔を見て、それからしばらくわらった。
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/08/16(金) 15:42:11.39 ID:mJTsWdVB0
「もう、脚本は書いていないんですか?」
「そうだな」
「そうですか」彼女はすこしだけ寂しそうな顔をみせた
「たまに夢を見るんですよ」
「夢?」
「そうです。また、先輩の映画にでる夢です」
「それは楽しそうだな」と俺はわらった
「ええ、ぜったいたのしいですよ」
そう言って彼女は酒をひとくち飲んだ。
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/08/16(金) 15:51:19.65 ID:mJTsWdVB0
あともうすこしなので、最後までお付き合いください。。
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/08/16(金) 18:09:41.97 ID:Wpqfjx1Fo
みてるよ
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/08/16(金) 18:26:51.47 ID:VDRDR3xzO
おつ。こういうの久々。楽しみに続きまってます。
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[age]:2024/08/20(火) 20:24:33.36 ID:yQCtn/M6O
【訃報】声優・田中敦子さん死去。61歳。攻殻機動隊「草薙素子」コナン「メアリー・世良」Fate「キャスター」ベヨネッタ、スパロボα〜OG「ヴィレッタ」Vガンダム「ユカ・マイラス」鉄血のオルフェンズ「アミダ・アルカ」ジョジョ2部「リサリサ」呪術「花御」フリーレン「フランメ」など★2 [Ailuropoda melanoleuca★]
https://hayabusa9.5ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1724152049/
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/08/28(水) 22:35:23.71 ID:NyFMAH14O
まだ?
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[age]:2024/08/28(水) 22:54:24.02 ID:3lMyNX0No
『協力版オンリーアップ with親友』
▽Steam(PC)Chained Together
×天狗ちゃん(川上マサヒロ)
×よっちゃん(鈴木義久)
わっちゃん(WAS)
(19:59〜)
https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/08/31(土) 09:01:21.88 ID:1PJvC4D10
続き待ってる
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/03(火) 23:40:51.42 ID:tvVwDFm30
そうしてしばらく話をしていると
そろそろ終電の時間になろうとしていた。
「そろそろ行きましょうか」と彼女は言った。
俺が頷いて立ち上がると、ヒツジはそっと俺の手を握った。
「急にどうしたんだよ」
「これが最後なので、生きている確認をしました」
「最後?」俺はわけも分からず聞き返した。
「ええ。実はうちの事務所、意外ときびしいんです」
ヒツジは、今日の飲み会も事務所に黙って来ていたんだよ。
俺はそんなことも知らずに、のうのうと今まで過ごしていたんだ。
その時は、憂いを帯びた彼女の表情を
じっと眺めていることしかできなかったな。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/03(火) 23:43:08.68 ID:tvVwDFm30
「また会えてすごくうれしかったです」
「……俺もだよ」
枯れそうな声をなんとか振り絞って答えたんだ
周りの喧騒すらもひとつも耳には入らなかったな
「私のこと、忘れないでくださいね」
「ああ」
「最後にキスでもしますか?」
彼女はそう言ってこちらを見つめてきた。
俺は少し困って、代わりにその頭をやさしく撫でた。
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/03(火) 23:43:44.23 ID:tvVwDFm30
「言っただろ、今日は口を忘れてきたんだ」
「たしかに、そうでしたね」
ヒツジはくすくすとおかしそうな顔をして、
それから俺の手をそっと離した。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
「それじゃあ、また」
「ああ」
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/03(火) 23:46:11.41 ID:tvVwDFm30
彼女はそうやっていつもみたいに笑って、
その場から去っていった。
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/03(火) 23:47:18.03 ID:tvVwDFm30
ひとり取り残された俺は、
次の日も仕事があるっていうのに
その場所で酒を飲んでいたんだ。
さっきまで隣に彼女がいたことなんて
その時にはもう幻みたいに思えてたんだな
今さら悲しむ余裕もなかったんだ。
いっそ雨に降られでもしたらよかったのにな
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/03(火) 23:52:41.85 ID:tvVwDFm30
その後の生活は悲惨なものだったな。
仕事をして、寝るためだけに家に帰るような生活を続けてたんだ。
あの時こうしていれば、なんてそんなことを
考え始めると少しずつ心がすり減っていく気分だった。
要するに、これらはすべてボタンをひとつかけ違えた、
そんな些細なことの積み重ねの結果だったんだ。
思い返せば何もかも間違いだったのかもしれないと
そんな後悔ばかりを抱えながら生きていたよ。
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/03(火) 23:54:45.90 ID:tvVwDFm30
そんな風に毎日焦燥に駆られる生き方にも次第に疲れていって、
いよいよ限界を迎えたころ、俺は会社を辞めることにした。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/03(火) 23:56:03.07 ID:tvVwDFm30
数年勤めた仕事から距離を置いたら、
もしかしたら何かが変わるかもしれないと
そんな淡い期待を抱いていたんだよな。
だけども、部屋でひとりで過ごしていると
悪い想像ばかりが頭を占めていくんだよ。
俺は殻に閉じこもるようにカーテンを閉め切って、
ずっと本だけを読んでいたんだ。
それでもどこか満たされなくて、
ついにはそれすらも辞めてしまったんだ
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/03(火) 23:58:36.74 ID:tvVwDFm30
生きる指針すら失ってしまった俺は、
週末にふらっと近くの公園に訪れると
ぼんやりと湖の方を眺めたりしてたんだ
そしたら10代くらいのカップルがその辺で
手を繋いで愛を囁き合ってるんだよ。
それを眺めてる俺はなんて惨めなんだろうって思ったよ
だけども、本当の意味で幸せな瞬間ってのは
傍から見ている方がはっきりと分かるもんなんだよな
俺にだって、そんな時間が確かにあったんだと思う。
そんな時、いつだって思い出すのはヒツジと過ごしたひと時だった。
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:00:56.35 ID:lGZh6aoj0
今更彼女とのことをどうにかしようとは考えていなかった、
それでも彼女のために「何か」を行動すべきだという思いに偽りはなかった。
だから、秋晴れの真っ新な空を眺めているうちに、
頭のなかが段々とクリアになっていったんだ
それは、成すべきことが分かった、
という感覚にも近かったんだろうな
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:03:55.05 ID:lGZh6aoj0
それからしばらくして、
俺はまたあの頃みたいに脚本を書き始めたんだ
何枚も何枚も、ひたすらに文字を連ねていく、
ただそれだけの作業に時間を費やす生活だった。
寝る間も惜しんで、毎日俺はそれを続けていたんだ。
不思議と疲れは感じなかったな。
仕事もしていなかったせいで時間だけは有り余ってたんだ。
それでも何かに打ち込めるという状況は
ある側面では救いのようにも思えてたんだな
目が覚めている間はそのことばかり考えてたよ。
そうでもしないと余計なことが頭を埋め尽くしそうで怖かったんだ。
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:10:16.72 ID:lGZh6aoj0
だから、脚本が出来上がった時は
達成感というよりも終わってしまった、
という気持ちになってたな。
俺は本の山に囲まれた部屋で横になって、
そのまま天井を見上げてたんだ。
何のためにやってたのかも分からなかった。
体もボロボロになって、声もまともに出なくなっていた。
思い返せば、そんな風に身を削ってまで
何かをやり遂げたってことも
今までほとんど経験がなかったんだ
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:11:12.43 ID:lGZh6aoj0
くだらないことだけども、その瞬間、
俺ははじめて真っ当に生きてると思えたんだ。
なぜだかその喜びを誰かと分かち合いたくて
俺は深夜にも関わらず電話をかけた。
きっと、寝不足で頭がおかしくなってたんだな
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:12:43.65 ID:lGZh6aoj0
「……もしもし?」
向こう側からは、やけに眠そうな声が聞こえてきた。
「寝てたのか?」
「そりゃあ、いま何時だと思ってるんですか」
時計を見ると既に1時を回っていた。
ふつうの人間ならもう眠ってる時間だよな
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:13:18.78 ID:lGZh6aoj0
「悪かったよ、急に電話して」
「私も先輩じゃなかったら出てませんよ」
「声が聞きたくなったんだ」と俺は言った
「本当に先輩ですか?」
「疑ってるのか?」
「私の知ってる人なら、そんなことは言いませんよ」
たしかにそうかもな、と心の中で相槌を打った。
俺だって自分のことはよくわかってないんだ
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:17:54.39 ID:lGZh6aoj0
「……でも、うれしかったです」
「え?」
「もう二度と話せないかと思ってましたから」
「そんなわけないだろ」
「ええ、そうですよね」
電話越しに、囁くようなヒツジの笑い声が聞こえてきた。
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:18:54.52 ID:lGZh6aoj0
「さっきまで、脚本を書いてたんだ」
「え?」彼女は少しだけ驚いていた
「それで、ふと話したくなった。本当にそれだけだよ」
「だけど、もう書かないって言ってたのに」
「気が変わったんだ。なんでだろうな」
「なにかあったんですか?」
「さあ。だけど、書いているときは、
生きてて一番幸せだった瞬間を思い出してたよ」
それがヒツジとくだらない話をして笑ってる時だったと言うと、
彼女はまたおかしそうにくすくすとわらっていた。
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:19:30.13 ID:lGZh6aoj0
「そんなことを考えていたんですか?」
「ああ、不思議だよな。もうずっと会話もしてなかったのに」
「そうですね」
そんなことを彼女に伝えたのは初めてだったんだ。
どこか遠くで踏切の音が聞こえたような気がした。
それで俺もヒツジもちょっとの間、お互いに黙ったままでいたんだ。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:21:24.46 ID:lGZh6aoj0
「私、先輩の脚本よんでみたいです」
口火を切ったのは彼女からだった
「脚本を?」俺は改めて尋ねた。
「はい」
「家に送ればいいのか?」
「住所を教えるのは禁止されているんですよ」
「メールで送ればいいか?」
「あいにく私用のアドレスを消されてしまいまして」
「それじゃあどうするんだよ」
「カフェで待ち合わせをしましょう」
「……はい?」
俺は思わず喉の奥から声を出した。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:32:34.69 ID:lGZh6aoj0
「行きつけの喫茶店がありまして。そこなら人も来ないでしょう」
あまりにも彼女の態度が平然としているので
ちょっと待て、と俺は口をはさんだ。
「もう会わないんじゃなかったのか?」
「ええ、私もそのつもりでしたよ」
「それならどうして?」
「……えーと、つまりですね。気が変わったんです」
それから、彼女はこほんと咳払いをした
俺はその時になってようやくその意味を理解できた
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:34:13.59 ID:lGZh6aoj0
「なるほど、気が変わったのか」
「そうです」
そう言ってから、俺たちは次第におかしくなって、
しばらく二人で笑いあった。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:36:58.42 ID:lGZh6aoj0
「事務所に怒られないのか?」
「さあ、ばれたらすごく怒られるでしょうね」
「俺も綱渡りに付き合わされるわけか」
「そうですよ、一蓮托生です」
いい言葉だな、と言いかけて俺はそれを飲み込んだ。
気づけば、随分と話し込んでしまっていたようだった
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:39:18.07 ID:lGZh6aoj0
「今日はもう寝ようか」
「そうですね」
「……それじゃあ、また」
「はい、また連絡しますね」
「わかった」
俺はそう言って電話を切った。
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 00:50:11.70 ID:lGZh6aoj0
静寂が訪れてから、ふとさっきまでのことを思い返していた。
彼女と話した、本当にたったそれだけのことのはずなのに、
まるで世界が丸っきり変わってしまったかのようにも思えた
だけども俺にはそれくらい大きな出来事だったんだ。
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 01:08:14.35 ID:lGZh6aoj0
それから、ベッドに横たわると俺は瞼を閉じた。
思えば最近まであんまり寝てなかったんだ、
頭もぼんやりとして正しく機能してなかったな。
だけども、それすら今はどうだってよかったんだ。
起きたら部屋を掃除しよう、それから仕事も探そう。
カーテンの隙間からは、月明かりが差し込んでいた。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 01:08:51.44 ID:lGZh6aoj0
そして、久しぶりに会うヒツジのことを考えながら、
俺はそのまま深い眠りについた。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 01:39:39.10 ID:lGZh6aoj0
——それから、何やら色々なことがあったが、
それら全てが些末な出来事で片づけられてしまうだろう。
ただ、その中でもひとつだけ付け加えるとすれば、
俺がいまだに脚本を書いているということに違いない。
何の因果かはわからないが、俺は脚本家の道を選んだ。
自分には出来るわけがないと高をくくっていたが、
始めてしまえば案外と続くもんなんだよな。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/04(水) 01:42:30.42 ID:lGZh6aoj0
あれからヒツジは大々的に女優としてデビューをした。
世間的には空前の人気作を呼び起こすような
ヒットメーカーとして広く知られているのだろう
けれども彼女は今でも当たり前のように家にやってくるし、
手料理をつくっては盛大に失敗して丸焦げにしてしまうし、
深夜にふらっと二人でレイトショーを見にいくような関係を続けていたんだ
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/09/09(月) 23:24:30.86 ID:vKVwa+7u0
続き来てた!嬉しい
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/13(金) 01:41:39.38 ID:weXThE3b0
その日の帰り道、ふいに彼女が俺の手を繋いできた。
俺は思わず周りを見渡して、それから彼女の顔を見つめた。
「急にどうしたんだ?」
「特に理由はないですよ」
「そんなことはないだろ」
「よくわかりましたね」と彼女はわらった。
「まあな」
「実は報告がありまして」
「報告?」
俺がそうやって聞き返すと、
ヒツジは一度だけ頷いた
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/13(金) 01:42:44.85 ID:weXThE3b0
「今度、先輩の映画に出ることになりました」
「え?」俺は思わずその場に立ち止まった
「頑張ったんですよ、これでも」
たくさん褒めてください、とヒツジは付け加えた。
「びっくりしてたんだよ」
「で、今の心境は?」
「うれしいよ、すごく」
やったー、と言ってヒツジはそのまま
俺の胸に飛び込んできた。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/13(金) 01:43:31.43 ID:weXThE3b0
「私もうれしいです、すごく」
「今日は素直なんだな」
「いつも素直じゃないですか」と彼女はこたえた。
「どうだったかな」
「先輩って意地悪ですよね」
「そんなこともないだろ」
「さあ、どうでしたかね」
そうして、ふたつの影はひとつに重なった
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/13(金) 01:44:33.19 ID:weXThE3b0
「……誰かに見つかったらどうするんだ?」
呆気にとられた俺は、思わず彼女の方を見つめた。
「それはその時にまた考えましょう」
けれども、ヒツジは特に気に留める様子もなかった。
「それに、わたし達なら大丈夫ですよ、きっと」
それは何の根拠もなかったけれど、
俺はどこか腑に落ちた気分になった
「さあ、行きましょう」
それから、彼女は俺の手を引いて歩き出した。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/13(金) 01:45:13.31 ID:weXThE3b0
「せっかくなので、今日はお祝いでもしませんか?」
「ああ、酒でも飲もうか」
「いいですね、ついでに映画も観ましょう」
「さっき観たばかりじゃないか」
「わかってないですね。それがいいんですよ」
「そうなのか?」と俺は尋ねた。
「そうですよ。覚えておいてくださいね」
「わかったよ」
そう答えると、彼女はやけに嬉しそうにわらっていた
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/13(金) 01:47:20.72 ID:weXThE3b0
その日の帰り道は二人で昔話をした。
ちょうど大学生くらいのことだ、
俺たちは偶然にもめぐり合って、
映画を撮って、少しばかり仲良くなった。
あの頃、女の子はどこか物憂げな顔で
ベンチに座って空を見上げていた
それはどこまでも透明で、美しいものに見えた。
始まりは本当に、ただそれだけのことだったんだ。
おわり
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2024/09/13(金) 01:56:09.44 ID:weXThE3b0
思ってたよりも長くなっちゃったんですが、
見てくれた方々ありがとうございました。
よかったら、数年前に書いた夏のお話も読んでみてください
5000円払って、彼女の1時間を買った話。
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1485084336/
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/09/13(金) 15:30:27.74 ID:M+b/GrKY0
乙
こういうSS久しぶりに読んだわ
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/09/14(土) 14:53:10.74 ID:jurxzPwIO
おつ。よかった。またそのうち書いてくれ!
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/09/14(土) 15:05:08.99 ID:gXZ1fMXOO
乙
前作も読んでた
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