魔王に捧ぐ鎮魂歌

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2 :創る名無しに見る名無し :2023/08/12(土) 13:02:52.67 ID:vbTj/C9bO
◯ ◯ ◯

 サナと出会ってから、早くも一年と半年が経とうとしていた。最近はイーロス騎士団(騎士団なんて名前の割に、使う獲物はもっぱら銃が多いけれど)からの逃げ方も分かってきて、平和に暮らすことが出来ている。最初にいた街からは随分と離れたところだけれど、この地域では魔王の伝承があまり広まっていない。そんな地域柄もあって、限られた店だけではあるけれど、外食もできるようになった。
 正直、一人暮らしで、そこまで自炊もしていなかった人間が、いきなり毎日、自炊しろというのは辛いのだ。だから、こうして外食ができるようになったのはとてもありがたい――んだけれど、どうやらサナさんには不評のご様子で、私の作ったご飯がいいって文句を言っている。それでも、こうして週に一回は外食に行ってくれる辺り、できた子だよなあ。

「レンリさん、あーん」

けど、トマトはやっぱり苦手らしく、サラダに入っていたトマトを私に差し出してくる。まあ、一個は食べたし良しとしますか。

「しょうがなっ――」

 パァン! と音がしたと思ったら、体に穴が空いて、トマトみたいに中身が飛び出た。

× × ×

眼の前で、レンリさんが倒れた。響く銃声。血と硝煙の香り。首から血が流れている。止まらない。どんどん赤に染まっていく。目が虚ろになっていく。どんどん冷たくなっていく。動かない。私のせいだ。私がいるから。まって、行かないで。

「う、あ、うううッ、あ、ああああああッッッ!!! レンリさん!! まって、まって、やだ。やだやだやだやだ」

店の入口の方から男たちが入ってくる。

「ガキは[ピーーー]なよ!」

リーダーらしき奴が何かを言っている。腕にはイーロスの団証。

「お前えッ!!!」

怒りで目の前が真っ白になって、体に底知れない力が溢れてくる。イーロスの奴らは私を見ると怯えたような表情をしていた。邪魔だ。

「死ッ――」

『[ピーーー]』その一言だけで、私はあいつらを殺せた。それでも、それが叶わなかったのは。
 レンリさんが私に後ろから私に抱きついて、私の口を塞いでいた。
 
+ + +

 レンリさんは私の口を抑えたまま、ホルスターから銃を抜いて、イーロスの奴らを撃ち殺した。それが終わると、糸が切れたように動かなくなって、私の背中から滑り落ちていった。
 優しかった目に光はなくて。暖かかった体は冷たくて。トクトクと鳴っていた心臓の音はしなくて。
 
 「レンリさん……。やだ、待って。いかないで。まだ一緒にいたいよ。やだやだやだやだ」

 どんなに私がレンリさんの死を拒んでも、事実は変わらない。
 私の、せいだ。私がいるから。私がいなければ、レンリさんは死ななかった。私がいなければ、レンリさんの心を苦しめることもなかった。私がっ、私が、いなければっ。全部、私のせいじゃないか。なんで、忘れていたんだろう。私は魔王だから、いるだけでたくさんの人を[ピーーー]んだ。お父さんもお母さんも村の人たちも、みんなみんな、私が殺したんだ。

「う、あ。うううあああああああっ!」

 私はレンリさんの銃を拾って、頭を撃った。けれど、銃弾は私の頭を貫くことなく、足元に転がった。もう一度、撃った。銃弾が足元に転がった。なんでなんでなんでなんでなんで。
 私はもう、死ぬことすら叶わなかった。
 セカイは何処までも残酷に私を打ちのめした。

* * *

 私がレンリさんを抱えて、外に出るとイーロスの奴らが蛆の様に湧いていた。邪魔だよ。

「[ピーーー]」

 私が一言そう口に出すと、あいつらは脳漿をぶちまけて死んだ。心は痛まなかった。
 試しに、自分に向けて「[ピーーー]」と言ってみる。――なにも起こらなかった。
 一番、殺したいやつを殺せないこの力に何の意味がある? 一番、救いたかった人を救えないこの力になんの意味がある?
 こんなセカイになんの意味がある?

 そうして私は、魔王になった。
3 :創る名無しに見る名無し :2023/08/12(土) 13:03:53.58 ID:vbTj/C9bO
# # #

 レンリさんが死んでから、300年が経った。レンリさんが死んだあと、セカイを滅ぼそうとも思ったけれど、私はセカイが滅んでもきっと生きている。だったらと、私を殺してくれる奴が現れるのを待ってみることにした。 
 そうして待つこと300年、勇者が現れた。
 けれど、その勇者は私を殺さなかった。私を[ピーーー]ことが出来たはずなのに。頭では殺さなきゃと思うのに、感情がそれを拒むらしい。
 勇者はこのセカイの皆から私を[ピーーー]ことを期待されている。そんな周りの願いと自分の感情の差異に悩んでいるのが、なんだかレンリさんみたいで、感傷的になったのだろうか。
 私は勇者に私とレンリさんの話をすることにした。

♡ ♡ ♡

 私が話をし終えると、勇者は泣いていた。「私を絶対に殺してみせるから」って泣きながら言うものだから、本当に殺してくれるのか不安になってしまう。
 涙で狙いが定まらないと言って、私に銃を突きつけて撃つことになった。
 勇者は銃を構えた。
 
一発目。私を守る障壁にヒビが入った。
 
二発目。私を守る障壁が壊れた。
 
三発目。私にかかる不老不死の呪いが解けた。
 
四発目。ただの人になった。
 
五発目。勇者は撃てなかった。
 
「早くしないと、私の障壁も呪いも力も戻っちゃうよ?」

勇者は俯いたまま動かない。

「勇者くん、ありがとう」

 後は、私一人でもできる。
 死に際になってようやく、なんでレンリさんがあのとき私の口を塞いだのかが、わかった気がした。こんなもの、背負わせちゃダメだもんね。

 五発目。私が撃った。

 ああ、レンリさん。ようやく、会いに行けるよ。

Fin.
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/08/14(月) 09:32:25.43 ID:zXo7vNGio
ありきたりながらも
短くまとまってて良い
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/08/14(月) 09:33:16.25 ID:zXo7vNGio
メール欄に「saga」で伏せ字を回避できるよ
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