【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】

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712 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:17:30.92 ID:eLSxtmOxo

夕張「私も信じたい気持ちと信じられない気持ちがせめぎあってて混乱するわ……正直、こんな状況おかしいと思うんだけど」アタマカカエ

天津風「そうよね、こうやって話し合えるって言うのなら、なんで私たちは戦わなきゃいけないのかしら……」

提督「ん? なんで、って、そりゃ話し合えないからだろ? わかってんじゃねえか」

天津風「そ、そういうことじゃなくて……!」

提督「そういうことだよ。人間だってそうじゃねえか。話し合いで解決できないから、同じ人間同士でも争うし殺しあう」

提督「さっきの秋雲の話だって、他人が自分の理想や都合を押し付けてくるから、秋雲が苦しんだって話だぜ?」

天津風「……!」

提督「俺たちも、話が通じない奴は、人間も深海棲艦も、艦娘であっても関係なくぶっ潰すつもりでいるんだ」

提督「お前たちが出会った深海棲艦たちも、話し合うつもりのない、手前の感情を押し付ける連中ばっかりだった。それだけの話じゃねえの?」

天津風「そ、そうかもしれないけど……そうだって言うんなら、この島の住人はそういう深海棲艦とは違うっていうのね?」

提督「俺からは島に住むならそうお願いしてるが、俺は人間と仲良くしたいと思ってねえ。争わないように疎遠になりてえんだ」

天津風「……なんなのよ、それ」ジトッ

武蔵「そういう反応も仕方ないとは思うが、提督自身が人間に嫌な思いばかりさせられ続けていたからな」

武蔵「この島の艦娘も、捨て艦だけじゃなく、冤罪を受けたりセクハラされたりと、人間に嫌な思いをさせられた艦娘ばかりだ」

武蔵「提督は、そういう人間たちから艦娘を庇い続けてきたのだからな。人間嫌いに拍車がかかってもやむをえまい」

葛城「さっきの話につながってくるわけね……」
713 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:18:16.10 ID:eLSxtmOxo

秋雲「ちょっと待ってなに今の話!? って言うことは朧も捨て艦とかにされたってこと!?」ガタッ!

朧「……まあ、朧はそうだったけど」

秋雲「よく生きてたねえ! ううっ、本当に良かったよぉ!!」ダキツキッ

朧「ちょっと、そういうの鬱陶しいから、やめて」ヒキハガシ

秋雲「……オボロガ、冷タイヨ……」ヨコタワリ

提督「……朧、秋雲とはなんかあったのか?」

朧「艦のときに、一緒に五航戦の護衛についてただけです」

提督「なるほど。知った顔がいりゃあ、頼りたくもなるか」

春風「話が少しそれましたが……こちらの司令官様の意図としては、人に虐げられた艦娘や、厭戦的な深海棲艦の保護のため……」

春風「人間と距離を置くべく、武器を置いて話し合いをなさっている、という理解でよろしいんですね?」

提督「まあ、そんなとこだな。うちの連中を面倒な目に遭わせたくねえ。外と関わって嫌なことに巻き込まれるのは最低限にしたい」

天津風「……だからこの島の中は、深海棲艦がいるのに穏やかな風が吹いてるのね。ほとんどの特別海域って、暗雲が立ち込めてるし」

瑞鳳「こっちのお菓子もおいしいし……この島、なごみ成分が多すぎよ?」モグモグ
714 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:19:00.83 ID:eLSxtmOxo

間宮「あら、泊地棲姫さんの焼いたクッキーも好評みたいですね」

瑞鳳「えっ、そうなの!?」

泊地棲姫「フフフ、当然ダ」テレッ

あきつ丸「こう言ってはいけないかもしれませんが、親近感がわいてしまうでありますな」

葛城「言っちゃってるじゃない……」

那智「以前はここに住む深海棲艦はル級だけだったんだがな。随分と賑やかになったものだ」フフッ

中将「……提督は、本当に良い仲間に恵まれたな。この島を戦いに巻き込まぬよう、儂も働かねばならん」ウム…!

神州丸「……ときに、少将殿? あの手紙は、提督殿に渡したでありますか?」

与少将「む! いかんいかん、忘れとった! 提督! お前さんに個人的な手紙が届いちょるぞ!」サシダシ

提督「ん? 手紙? 誰からだ……宛先が俺と、吹雪?」ウケトリ

朧「……提督、この人、もしかしてあの吹雪の……」

提督「あいつか……! 朧、悪いが吹雪を呼んできてくれるか?」

朧「はいっ!」
715 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:19:45.96 ID:eLSxtmOxo

 * それからしばらくして 食堂内 *

吹雪「お待たせしました司令官! 吹雪をお呼びですか?」

提督「おう、懐かしい奴から手紙が届いたぞ」

吹雪「懐かしい? 誰でしょう」

朧「あれ、まだ封を切ってなかったんですか?」

提督「宛先が俺と吹雪だからな。見るなら揃って見ないと駄目だろ。ほら吹雪、早く隣に座れ」チョキチョキ

吹雪「は、はい! それで、この手紙は……」チャクセキ

提督「吹雪からだ。S提督んとこのな」

吹雪「S提督の!? あの改二になってた吹雪ちゃんからですか!?」

提督「ああ。差出人の名前は吹雪じゃねえけど……」ガサッ

 (封書の中から出てくる数枚の写真と手紙)

吹雪「!! これは……この人がS司令官です!! うわあ、懐かしい……!!」ウルッ

提督「……隣にいる女、吹雪に似てるな?」

吹雪「ほ、ほんとですね……でも、明らかに私や、あの吹雪ちゃんよりずっと大人に見えますよ」

与少将「ちょいと邪魔するぞ……ああ、解体された吹雪っちゅうんは、この娘じゃったか」

提督「解体!?」
716 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:20:30.72 ID:eLSxtmOxo

与少将「艦娘の解体処分には2種類あるんじゃ」

与少将「艦娘をまるっと艦として全部処分する解体と、艦娘の娘の部分を切り離して艦の部分だけを解体する解体とな」

提督「そんなことできるのか……」

与少将「これも妖精さんのオーバーテクノロジーっちゅう奴じゃ。後者はわしも数回しか事例を知らんがの」

与少将「この吹雪の場合は、後者を選んで、かつ、成人年齢にまで成長した状態にしてもらったと聞いちょるぞ」

提督「……」マユヒソメ

与少将「この制度を利用すれば、提督が危惧してそうな『悪いこと』もできるんじゃが……」

与少将「妖精さんたちの厳しい審査を通らんと、切り離すタイプの解体はできんけえ、安心せえ」

提督「妖精が審査するのか……なら、信用しても良さそうだ」

吹雪「司令官、早くお手紙読みましょう!」

 *

提督「……」

吹雪「……良かった、二人とも幸せそうで」グスッ

吹雪「差出人の名前が全然違ってたのも、艦娘を辞めた時に名前を変えたからだったんですね……!」

提督「まさか艦娘辞めてS元提督と二人で暮らせてるなんてな。大団円じゃねえか、こうなりゃこっちからは何も言うことはねえ」

吹雪「何を言ってるんですか! お祝いの一言くらい返してあげないと!!」

提督「そうか……?」
717 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:21:15.79 ID:eLSxtmOxo

朧「提督、こっちの吹雪も元気だって、伝えてあげてもいいと思いますよ?」

提督「……まあ、そういうことなら……」

吹雪「司令官、私たちも写真撮りましょうよ! 送ってあげて、私たちも元気だって、安心させてあげましょう!」

提督「わかったよ……青葉呼んで撮ってもらうか」アタマガリガリ


朧「……艦娘って、辞められるんだ……」

中将「艦娘にも、戦う以外の違う人生があっても良いだろう。軍人も死ぬまで戦い続けるわけではない」

朧「!」

中将「君も、艦娘を辞めたいと思ったのかね?」

朧「……いえ、朧は、ずっと艦娘のままでいると思います」

中将「ふむ……そうかね」

朧「はい。辞める気はないんですけど……艦娘を辞めて人間になるとき、名前って変えられるんですか?」

中将「ああ、変えられるようにした。その理由の一つに、彼女たちが元艦娘であることを知られないようにするため、というものがある」

中将「過去に、海軍の内情を探ろうとした輩が、元艦娘の女性を拉致しようとした事件があった」

中将「その時は幸いにもその女性が返り討ちにしたのだが、名前がそのままでは危ないということで、好きに名乗ってもらうことになったのだ」

朧「そうだったんですか……」
718 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:22:16.13 ID:eLSxtmOxo

中将「それに、そうでなくとも、戦争が終わるなどして仮に退職者が多数現れれば、同じ名前の娘が何人も現れることになってしまうし」

中将「たとえ同じ艦であっても、別個体である以上、個性がある。人間になろうとする事情も様々であろう」

中将「新しい人生を歩むのだ、いつまでも艦娘であったころの名前に縛られていることもあるまい」

朧「……それで、あの吹雪は『マナツ』なんて名前に変えたんですね」

朧(たぶん、あの司令官が轟沈させた『吹雪』のことを、思い出させないために……かな)


 * 夕方 *

伊8「戻りました」

提督「よう、お疲れ。遠くまで出張ってくれてありがとな。ちょっといいか?」テマネキ

伊8「はい?」

提督「中将の船を超長距離魚雷で狙ったとき、船の周囲以外に艦娘はいたか?」ヒソヒソ

伊8「いえ、艦隊はいなかったと思いますけど」ヒソッ

提督「もし、ひとりだけ、ぽつんといたら?」

伊8「単艦ですか? ……もしかしたら、感知漏れの可能性はあります」

提督「そうか……じゃあ、秋雲を巻き込んでても仕方ねえか」

伊8「??」
719 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/07(土) 09:23:15.99 ID:eLSxtmOxo
ということで、今回はここまで。
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2024/09/09(月) 11:18:06.48 ID:UXEBM6NC0
解体の後…全解体と人間化両方採用してるSSは初めて見た。
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/09/24(火) 14:19:17.47 ID:yEQdH6x50
墓場島鎮守府から読み始めてとうとう追いついてしまった...
とっても面白くて、艦これSSの中でも特に好きな作品です!!
応援してます!!
722 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:38:11.46 ID:JF/c9yZ6o
それでは続きです。
723 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:39:01.40 ID:JF/c9yZ6o

 * 数日後 *

 * 墓場島鎮守府 埠頭 *

吹雪「司令官! 青葉さんがいらっしゃいましたよ!」

青葉「……お久し振りです、司令官」

提督「ん……? どうした青葉、いつになく元気がねえな?」

青葉「実はちょっと困ったことがありまして……司令官、青葉は以前、J少将の鎮守府にいたことをお話ししましたよね?」

提督「ああ」

青葉「そこに所属していた阿賀野さんが、行方不明なんですよ……」

提督「阿賀野? それ、いつ頃の話だ?」

青葉「実は、先月の末から……もうすぐ1か月が経とうとしています」

青葉「大怪我をしていたのに、無理に病院の外を出歩いて……松葉杖が付近で見つかりましたが、それ以外まったく手掛かりがなく」

吹雪「司令官、それってもしかして」

提督「そういうことだろうな。青葉、阿賀野なら来てるぞ」

青葉「へっ? き、来てるってどういうことですか!?」

提督「深海棲艦になって流れ着いてきたんだよ」

青葉「……はいィ!?」
724 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:39:45.67 ID:JF/c9yZ6o

 * 翌日 *

 * 墓場島鎮守府 埠頭そばの倉庫内事務所 *

青葉「というわけで、皆さんには事情を話さず連れてきたわけですが」

提督「まあ、昨日の青葉の反応からして、こうもなるよな」

朧「無理もないと思います」

矢矧「」マッシロ

能代「」マッシロ

衣笠「あああ、ふたりともしっかりしてー!!」アセアセ

酒匂「ぴゃああ……ほ、本当に、阿賀野お姉ちゃん?」

深海阿賀野「ソウヨ〜? ホラァ、矢矧モ能代モ、ナンデ立ッタママ、気ヲ失ッテルノヨォ〜!」プンスカ!

青葉「いやぁ、姉妹艦が深海化してたら、普通にショックだと思いますよ……?」

提督「おそらく阿賀野としては、全然変わってないどころか、体だけの悪いところが治っただけって感覚なんだろうなあ」

酒匂「うん、リアクションそのものは阿賀野お姉ちゃんとそっくり……っていうか、そっくりじゃなくてお姉ちゃんなんだよね?」

深海阿賀野「ソウヨ〜? 私ハ最新鋭軽巡、阿賀野型ノネームシップ、阿賀野ナンダカラ〜」ムネハリッ

青葉「衣笠のことも覚えてるんですよね?」
725 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:40:31.28 ID:JF/c9yZ6o

深海阿賀野「ナントナク、ダケドネ〜。ソウイエバ、秋月型モ、イナカッタッケ?」

朧「今日は秋月型は来てないんですね」

青葉「あ、はい。大人数になりますし、またケーキを顔で受けさせるわけにもいかないので」

提督「ケーキを顔で受け止める前提なのかよ」

青葉「二度あることは三度あるって言うじゃありませんか」

提督「そこは三度目の正直って言えよ。確かに俺も青葉の言うほうになりそうな気がするけどよ」

朧「否定しないんですか……」

提督「まあ、来ないのは正解かもな。パンプキンマスクのロゼッタが、もう涼月とは会いたくないとか言ってたし」

青葉「それも無理もありませんかねえ……」

衣笠「あのー、提督さん? 阿賀野ちゃんは、体のほうはもう大丈夫なんですか?」

提督「一応な。確か阿賀野は、鉄骨落ちてきて背骨やったんだっけか?」

衣笠「はい、そうです。一時期は二度と歩けないって妖精さんにも言われてて、私たちもすごくショックで……」

提督「妖精に言われたのか? そうなら、あとでこっちの工廠妖精にも精密検査してもらわねえとまずそうだな?」

朧「大丈夫だと思いますよ。いまは厨房のお手伝いもしてくれてますし、その時に体の異常を訴えたりはしてないみたいですから」
726 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:41:17.34 ID:JF/c9yZ6o

朧「それに、厨房でも活動できるようにするために、妖精さんたちに頼んで、阿賀野さんに義足の艤装を作ってあげたんですよね?」

提督「まあな。まあ、身体に問題がありゃ、取り付ける時に気付くか……」

深海阿賀野「ウフフ、コノ脚、トッテモ助カッテルワヨ〜」アシフリアゲ

深海阿賀野「コレノオカゲデ、キッチンデ、オ塩トカ小麦粉トカヲ、撒キ散ラサナクテ済ムシ!」

矢矧「あ、阿賀野姉さんが何かやらかしたんですか!?」

提督「別に意図してやらかしたわけじゃねえよ。あの義足をつける前は、ブースターみたいな脚で地面を浮いて走ってたんだが……」

提督「ヘリコプターみたいに風がすごくてな。阿賀野がいるといろんなものが風圧で取っ散らかっちまってた、ってだけだ」

深海阿賀野「ワザトジャ、ナイワヨー?」

提督「わかってるよ、責めてるわけじゃねえから心配すんな」

能代「も、申し訳ありません! 姉がご迷惑をおかけして……」

提督「迷惑じゃねえし、仕方ねえだろあの脚じゃ。今は厨房手伝ってもらってんだ、迷惑どころか助かってるぜ」

能代「そ、そうなんですか……?」

深海阿賀野「ソウヨ〜? 比叡サンカラモ、炒飯ノ味トカ褒メラレタンダカラ〜」

矢矧「え……?」

青葉「ここの比叡さん、お料理上手なんですよ。お墨付き頂いたってことは、結構な腕前ってことですよね?」

提督「比叡が言うんだからそうだと思うけどな。生憎、俺はまだ食べたことねえんだけど」
727 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:42:00.35 ID:JF/c9yZ6o

能代「何から何まで、私たちの鎮守府のトラブルに更に巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません……」

矢矧「もとはと言えば、私たちの司令官だったJ少将が、あんなことをしなければ……」

衣笠「うん……」

提督「しつけえな、終わった話だからもういいだろ。そういう口実で呼べっつったのは確かだけどよ……ん?」

深海阿賀野「……」

提督「阿賀野、どうした?」

深海阿賀野「……J少将……?」

能代「……阿賀野姉?」

深海阿賀野「ソウダワ……J少将……ワタシ、ドウシテ、忘レテイタノカシラ」メラッ

朧「阿賀野さんの目から、青い炎が……!」

深海阿賀野「アイツガ……アイツガ、青葉サンタチヲ殺ソウトシテ……アイツヲ、止メナキャ……!」ゴゴゴゴ…

青葉「し、司令官! これ、まずくないですか!?」

提督「……大丈夫だ、阿賀野。J少将なら俺たちが始末したぞ」

深海阿賀野「……ソウ、ナノ……?」

提督「おう。鎮守府ん中でメディウムたちにも会ったろ? あいつらにも手伝ってもらったんだ」
728 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:42:45.54 ID:JF/c9yZ6o

朧「あ、朧もそのとき一緒にいた気がします。はっきり覚えてませんけど……アタシ、ヲ級になってたんでしたっけ?」

衣笠「ヲ級!?」

提督「ああ、そういやそうだったな。初春もル級になってて、軽巡棲姫もいたんだっけな」

矢矧「……ル級? 駆逐艦娘が、ル級やヲ級になっていたんですか?」

提督「朧たちは、J少将とZ提督が作ってた深海棲艦の弾丸に撃たれたんだ」

提督「その弾丸の材料にされた、ヲ級とル級の力が二人に宿ったんだろう、って考えてる」

深海阿賀野「ソレジャ、アナタタチガ……J少将ヲ……」

提督「ああ。俺たちがぶちのめして、溶岩の中に放り込んだ。あいつは骨も残さず全部燃えて、今はこの世のどこにも存在しちゃいねえよ」

深海阿賀野「……ソウ……ソレジャア、アイツノセイデ……青葉サンヤ、能代タチガ、傷付クコトハ、モウ、ナイノネ……?」

提督「ああ。少なくとも、J少将やその部下のK大佐は、もうこの世にいない。安心しな」

深海阿賀野「……良カッタ……」グスッ

深海阿賀野「能代モ、自分ヲ撃ッタ、ッテイウカラ……心配、シタノ……!!」ポロポロッ

能代「阿賀野姉……大丈夫! 私はもう、大丈夫だから……!」

深海阿賀野「良カッタ……良カッタヨォ……!」ウエーン

矢矧「阿賀野姉さん……!」

酒匂「……良かったねえ……」グスン
729 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:43:30.76 ID:JF/c9yZ6o

 *

深海阿賀野「ウン、ナンカ、泣イタラ、イロイロスッキリシチャッタ!」ニコニコー

能代「……」

深海阿賀野「? 能代、ドウシタノ? ナンカ難シイ顔シチャッテ」

能代「提督さん? どうして阿賀野姉さんが元に戻らないんですか!?」

提督「ああ?」

矢矧「阿賀野姉さんの心配事がなくなったんですよ? こういうのは、恨みや悩みが消えたら深海棲艦から元に戻るんじゃないですか!?」

提督「なんだそりゃ? そんな簡単に深海棲艦から艦娘に変われてたまるかよ、都合のいいこと言ってんじゃねえ」

提督「俺たちもいろんな事例を見てきたが、いまのところ轟沈以外の方法で深海棲艦が艦娘に変わる手段はねえってのが結論だぞ」

能代「阿賀野姉に沈めって言うんですか!?」

提督「艦娘にしたいなら今んところはそうするしかねえし、それも確実じゃねえからやめとけって話じゃねえか」

酒匂「えー? なんかいい方法ってないのー?」

提督「俺が知る限りの情報はもう全部喋ったぞ。手前に都合のいい情報がねえからって適当なこと言わせようとすんな」

矢矧「そこでどうして投げ遣りなんですか!」

提督「……」

朧「あ」
730 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:44:15.85 ID:JF/c9yZ6o

青葉「矢矧さん駄目ですよ司令官にそんなこと言っちゃ」

矢矧「でも!」

提督「お前らなあ、阿賀野が深海棲艦になるに至った轟沈自体は、俺たちには何も関係ねえんだぞ?」

提督「ただ阿賀野拾ったってだけの俺たちが、なんでそこまで面倒見なきゃいけねえんだよくっそ面倒臭え」ケッ

能代「」

矢矧「」

酒匂「」

青葉「あー、ついに出ちゃいましたかあ、司令官の伝家の宝刀『面倒臭い』が」

衣笠「よく言うの?」

朧「よく言いますね」

深海阿賀野「別ニ、無理ニ戻ラナクテモ、イイト思ウケド? 阿賀野、アノ鎮守府ダト、オ荷物扱イダッタシ〜」

提督「なんだよ、本人が戻る気ねえんじゃねえか」

青葉「いえいえ、お荷物扱いされていたのは理由がありまして。阿賀野さん、青葉より先にJ少将を怪しんでたらしいんですよ」

青葉「阿賀野さんが冷遇されていたのもそのせいらしく、青葉もそれを知らなくて、阿賀野さんと協力体制を取ってなかったんです」

深海阿賀野「アレ、ソウダッタッケ?」クビカシゲ
731 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:45:00.51 ID:JF/c9yZ6o

青葉「そうですよぉ、青葉が調べてた時も、阿賀野さんのほうからわざわざ協力を申し出てくださったのに……」

青葉「それを青葉が巻き込みたくなくてお断りしちゃったんですから」

青葉「ふたりで協力していたら、今とはまた違う結果になっていたかもと思って、本当に申し訳なく思ってるんですよ?」

深海阿賀野「……ソノ辺リ、忘レチャッタナー」

提督「なんにしても今の阿賀野じゃ戻れねえだろ。深海棲艦が普通の鎮守府に滞在できるようなルール、どこにもねえだろ?」

青葉「……それはまあ、そうですねえ」

提督「こっちで身柄預かりでいいじゃねえか。阿賀野に会いたきゃ、青葉と一緒に会いに来りゃいい」

能代「何から何まで……本当に申し訳ありません」

提督「だから謝んなって、しつっけえな。悪いのはJ少将だ」

矢矧「私も厚かましいお願いをして、すみませんでした……能代姉さん、私たちは阿賀野姉さんを元に戻す方法を考えましょ?」

能代「そうね。艦娘から深海棲艦になったんだもの、逆だってあり得るはず。確実な条件を見つけ出さないと……」

深海阿賀野「アンマリ根詰メナクテ、イイワヨ〜?」

衣笠「あの、提督さん? ひとつ気になったんですが、阿賀野ちゃんは、ここに来た当初は健康だったんですか?」

提督「来た当初……せいぜい腹を空かしてたくらいだな。見る限り普通に過ごしてたぞ」
732 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:45:45.97 ID:JF/c9yZ6o

衣笠「そうですか。だとすると、背中の怪我って深海棲艦になったから治ったんですかね……」

提督「……そんな簡単に治るか? 歩けないほどってなると、多分脊髄だろ? 船で言う竜骨がやられてたから一生もんだって話だよな?」

提督「もしそうだとして、艦娘の阿賀野がベースなら、何かしら後遺症なり障碍なりが残ってておかしくねえと思うが」

提督「それがないって言うのなら、肉体が一度滅んでリセットされたって可能性のほうが高えな。なんかの拍子に生まれ変わったとか……」

衣笠「生まれ変わるって……あるんですか?」

提督「死んで体も失った奴が戻ってきた事例があるんでな。阿賀野は体の悪いところが消えたんだし、短絡的にそう考えてもいいだろ」

朧「っていうか、提督も体を作り変えられたときがありましたよね」

提督「あー、あったな」

衣笠「えっ」

朧「そういう提督は、3回くらい死んだり復活したりしてませんでしたっけ」

提督「そんなにあったか?」

朧「大佐に撃たれたときと、魔力槽に入って体を全部作り変えられたときと、島が燃えた時に天国に行ってたっていうときと……」

朧「あ、エフェメラにバラバラにされたときも含めると4回ですか」

提督「言われてみればそうだな……」

衣笠「えっ? えっ? どういうこと?」
733 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:46:30.37 ID:JF/c9yZ6o

提督「意外と死にかけてんだな、俺って」

青葉「今更ですけど、ちょっとのんきすぎますよ司令官?」

衣笠「ね、ねえ、体を作り変えられたとか、バラバラにされたっていったい何!? 大丈夫なんですか!?」

提督「落ち着け。今は俺よりも阿賀野だろ、阿賀野」

朧「とりあえず、阿賀野さんはもう一度妖精さんと明石さんに精密検査してもらいましょうよ」

朧「提督は……また、人間ドックに診てもらいます?」

提督「いや、俺もう人間じゃねえし。それに、またあの本営の船医みたいな変な奴に目を付けられたくねえし」

提督「ドックの話を向こうに持ちかけた時点で、あの連中が目ぇ輝かせて立候補してきたらと思うとうんざりするぜ」

青葉「そういうことでしたら信頼できる筋へ手配しますよ?」

衣笠「誰に頼もっか?」

提督「いやもう面倒臭えから放っといてくれよ……俺は大丈夫だっつの」
734 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:47:15.86 ID:JF/c9yZ6o

能代「とにもかくにも、阿賀野姉が私たちの鎮守府に戻ってくるには、どうにかして艦娘に戻る方法を考えないといけないわね」

酒匂「そんな方法、あるのかなあ……ここの提督さんもわからないってくらいだし」

矢矧「絶対に何かあるはずよ。戻ったら本営にも掛け合ってみましょ!」

能代「提督、それまで阿賀野姉のことを、どうかよろしくお願いします」

矢矧「私たちは、元に戻す方法を頑張って調べてみます!」

酒匂「阿賀野姉、わたしたち、また来るからね!」

深海阿賀野「ウフフ、ミンナアリガトウネ〜」

提督「いや、本営に連絡入れるのはやめとけ」

衣笠「? そんなにまずいんですか?」

 <アオバチャーン!

朧「あれ? あれは……」

那珂「青葉ちゃーん!!」タタタッ

青葉「おおっと、那珂ちゃんお久し振りです!」
735 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:48:00.80 ID:JF/c9yZ6o

那珂「久し振り〜って、本当に久し振りだよー! いまのいままでどこ行ってたのー!?」

那珂「最近来てくれないから、カメラに向かってポーズする練習できなくて困ってたんだからねー?」

衣笠「そんなことしてたの?」

青葉「ええまあ、一応、カメラの腕を買われまして……」テヘッ

那珂「青葉ちゃんが素敵に撮影してくれるんだけど、ポーズとかカメラに向かうアングルとか目線とか、一緒にチェックしてるんだ〜」

衣笠「え〜、青葉、頼りにされてるじゃない!」

青葉「いやあそれほどでもぉ〜」テレテレ

提督「……そうだよなあ、この件、おそらく那珂も関わってんだよな」

那珂「? 提督さん、一体どうしたの?」

提督「一応確認するが、お前たちは阿賀野がここにいること、ここにいる艦娘以外の誰かに話したか?」

矢矧「いえ、誰にも。J少将の件で聞きたいことがあると聞いていましたので、鎮守府の臨時の責任者にはそう伝えています」

能代「深海化の話もですが、阿賀野姉がいること自体、聞かされていませんでしたから、誰にも話はしていません」

提督「ならいいけどよ……お前たち、阿賀野がここにいること、深海棲艦になったことは、そのまま誰にも他言するなよ? 本営にもだ」

矢矧「……なにか、あったんですか?」
736 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:48:45.59 ID:JF/c9yZ6o

提督「ああ、あったんだけどよ。理由、話さなきゃいけねえよなあ」ハァ…

酒匂「……すっごい嫌な予感がする」

提督「ああ、いい話じゃねえから覚悟を決めて聞いてくれ、J少将の部下だったってんなら、なおさら他人事にはできねえはずだ」

衣笠「え……?」

提督「J少将とK大佐が、いろいろ悪いことしてたのは知ってると思うが……まず、深海棲艦を武器に作り変えてた話は知ってるよな?」

青葉「はい、よーく知ってますよ?」

提督「J少将たちは、ある組織にその弾丸の製作を任せていたらしいんだが、そこでは他にもろくでもねえ研究をしてるんだよ」

提督「そのうちのひとつが、艦娘を深海棲艦にできないか、って研究だ」

矢矧「な……っ!?」

深海阿賀野「ソレッテ、私ミタイニシタイ、ッテコト……?」

能代「なんでそんなことを……」

提督「それができりゃあ、わざわざ深海棲艦を鹵獲する必要がなくなるからだよ。『武器の素材』の調達のために危険を冒さずに済む」

能代「素材って……まさか、深海化した艦娘のことを言ってます!?」アオザメ

提督「ああ。人間が携帯して扱える武器として有効なら、J少将のように運用を考える連中がいておかしくねえ」
737 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:49:45.75 ID:JF/c9yZ6o

提督「俺も悪い冗談だと思いたいが、艦娘も深海棲艦も、人間さえも実験材料にするような狂った連中だ」

提督「そいつらの耳に阿賀野が深海化した話が届いたとしたら、とてもとてもおとなしくしてるとは思えねえんだよ」

青葉「その組織の人間が、阿賀野さんに接触してくる……あるいは連れ去りに来る可能性がある、と言うことですか」

提督「来るだろうな。艦娘のころの記憶を持ったまま深海棲艦化したんだぜ、研究のサンプルとしては最高の素材なんじゃねえの?」

深海阿賀野「チョット、ヤダァ!?」

提督「とにかく、阿賀野のことが連中に知られなきゃいいとは思っているが、かといって楽観視もできないと思ってる」

提督「ただでさえJ少将がいた鎮守府だ、そのコネや遺志や悪縁といった残りカスを後生大事に隠し持ってる馬鹿がいないとも限らねえ」

提督「阿賀野が深海化して生きてるってことを、お前たちの鎮守府で大っぴらに話すのはやめておけ、と、俺は言いたいな」

提督「仮にそれが知られれば、阿賀野が危険にさらされるだろうし、そうなればこの鎮守府の平穏も脅かされる」

提督「最悪、阿賀野に手が出せないなら、二匹目のドジョウを見越して、J少将鎮守府の艦娘を、特にお前たち阿賀野型を連れ去る恐れもある」

酒匂「ふぇ……!?」ゾッ

青葉「司令官の心配はごもっともですが、不祥事のあったばかりで特警の目も厳しい鎮守府で、そこまでしますかね?」

提督「逆に好都合だと思うがな。まだ混乱が落ち着いてないなら、この機に乗じてひとりふたりいなくなっても誤魔化せるんじゃねえか?」

提督「そもそも、その特警だって信用できんのか? そいつらの息のかかった連中じゃねえだろうな?」

青葉「……そこまで疑われると、返す言葉がありませんねえ」
738 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:50:45.93 ID:JF/c9yZ6o

提督「俺が人間不信で疑り深いってことは認めるが、それでも俺は用心しとくに越したことはねえと思ってるぜ」

提督「どっかの鎮守府で不要になった、行き場を失った艦娘がそこに連れられて実験材料になったって話も、不確かながらあるくらいだ」

提督「組織につながってる奴が紛れ込むには、今の混乱具合こそが、ちょうどいい頃合いじゃねえかな」

那珂「ねえ、提督さん?」

提督「ん?」

那珂「さっき那珂ちゃんも関係あるって言ってたけど、もしかして那珂ちゃんがいた養成所もそこなのかな?」

青葉「……!!」

那珂「一週間以上休まず戦い続けて、合格出来たら艦娘として正式採用されるって言われてたけど……」

那珂「あれはもしかして、那珂ちゃんたちに負荷をかけて……轟沈させて、深海棲艦にならないかを実験してたのかな……?」

提督「……そうだな。俺はそうだと思ってる」

那珂「そう……なんだ」

提督「確たる証拠があるわけじゃねえ。だが、連中が艦娘の深海化の研究をしてるって話を時雨から聞いてからは、多分そうだと思ってる」

提督「お前が来た時に聞いた養成所の話も、艦娘になるために試験があるなんて話も聞いたことがねえ」

提督「那珂がいた場所が、その研究施設とイコールかどうかはわからねえが、繋がってることは確かだろうな」

那珂「……」ウツムキ
739 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:51:30.87 ID:JF/c9yZ6o

青葉「……司令官は、これからどうするおつもりですか?」

提督「どうするも何も、今の俺たちじゃどうにもできねえよ。これまで通り、俺たちの意図を感付かれないように息を潜めるしかねえ」

提督「俺たちには、そういう組織があるってレベルの知識しかねえんだ。大雑把にしか場所もわからなきゃ敵戦力もさっぱりだ」

提督「海軍にいる連中の、誰がそこの関係者かすらもわからねえのに、場所を探し出して攻め込むなんて、成功すると思うか?」

青葉「今は雌伏の時、と仰りたいわけですね……」

提督「青葉みたいに勘が鋭いなら潜入捜査もありだろうが、連中の得体が知れない以上、それもあまりお勧めしたくねえな」

提督「それから、仮に連中が阿賀野のことを知らないとしても、この島が狙われる要素が別にある」

青葉「と、仰いますと……」

提督「ひとつは、俺たちが、大佐やJ少将といった組織と通じている人間を始末している、ってとこだ」

提督「俺たちがあいつらにとっての顧客やスポンサーを殺しているとしたら、逆恨みされててもおかしくねえ」

提督「あいつらには警戒されていると同時に興味を持たれてると思ってる。良くも悪くも、な」

提督「それから、この島に住んでいる深海棲艦が、連れ去りのターゲットにならないかも心配だ」

提督「この海域から出てきた深海棲艦が、この島に帰ってくることが分かっているなら、待ち伏せして鹵獲しようと考えるかもしれねえ」

矢矧「姫級や鬼級も大勢確認されているというのに、そんな無茶をするでしょうか……?」

提督「やるんじゃねえか? むしろできるんなら絶対やりたがるだろ。それこそ俺たちの常識で考えるような話じゃねえ」

矢矧「……そこまでの相手なんですか」
740 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:52:16.00 ID:JF/c9yZ6o

提督「ま、あいつらが直接かかわってこないとしても、俺たちはあの連中とは無駄に因縁がある」

提督「もし情報が手に入って戦りあうことができるんなら、奴らはただ殺すだけで済ますつもりはねえ……!」ゴゴゴ…

青葉「し、司令官落ち着いてください! 怖いですよ!?」

提督「ん? ああ、悪い悪い」

朧「……あいつらのせいで、一緒にいた妖精さんが犠牲になりましたからね。提督が怒るのも無理はないと思います」

衣笠「そんなことがあったの……」

青葉「ところで司令官? 老婆心ながら……これまで出会った海軍の人たちには、その組織の関係者がいる可能性はないんですよね?」

提督「んー、心配は心配だが、よく話す奴らはその可能性が低そうだな。まず中将やX大佐はありえないだろうし……」

矢矧「奴ら……?」タラリ

能代「中将閣下を……」タラリ

朧「細かいことは気にしないほうがいいですよ」ヒソッ

提督「X大佐の叔父のT大将やH大将も、深海棲艦の武器化に反対してJ少将に消されかけたクチだ、つるんでるとは思えねえ」

提督「与少将も深海棲艦との話し合いを是としているし、祢大将も魔神の力を使って背後関係を読んだが、そういう組織とは無関係だった」

酒匂(まじんのちから?)クビカシゲ

青葉「え、そんなことまでわかるようになったんですか……」
741 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:53:01.81 ID:JF/c9yZ6o

提督「おう。あと、顔色だけだとわからねえのはH大将の部下のW大佐だが……J少将と繋がってる感じはねえな。分別もあるようだ」

提督「あと怪しいのは……昔、大佐んところにいた連中くらいか? つっても、O大尉は大佐に目障りに思われて追い出されてるし」

提督「そのO大尉と親しい城塞鎮守府の知大尉も、関わってるとは思えねえ。大佐の太鼓持ちだった士官も付き合いが3か月じゃあな……」ウーン

朧「とりあえず、提督が良く関わる人たちは、そういう組織とのつながりは薄そうだ、って感じですか」

提督「多分だけどな。一度、全員魔神の力で背後関係を読みたいところだが……」

提督「俺たちが付き合ってる海軍の人間は、そこまでしなくても良さそうな連中は多いな」

提督「いずれにしろ、今は関係者がどこにいるかわからねえ。祢大将には協力を仰いだが、連中もそうそう尻尾は出さねえだろう」

酒匂「それじゃ、私たちはどうしたらいいの?」

提督「やっぱり黙ってるしかねえな。あいつらに対抗する以前に、あいつらの動きを察知する手段が、俺たちにもお前たちにもなさすぎる」

酒匂「……そっかぁ」

矢矧「で、でも、それじゃ、阿賀野姉の深海化を元に戻す調査すらできなくなりますよ!?」

提督「お前らが襲われて阿賀野に二度と会えなくなるよりはましだろ?」

矢矧「そ、それはそうですけど……」

提督「それより、いま俺が喋ってて気付いたんだが、お前たちはこれからどうなるんだ?」
742 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:53:45.81 ID:JF/c9yZ6o

提督「J少将がいなくなったんだ、次の司令官がこれから来るんだろう?」

青葉「ええ、そうですね。その提督のなり手が、人手不足のため難航しているようです」

衣笠「最悪、みんなばらばらの鎮守府に引き抜かれそうな感じだよね」

提督「もし、新しく来る奴が、その組織とつながりがあるんなら、そいつを絞めて情報吐かせようと思ったんだが……」

能代「」

矢矧「」

酒匂「ぴゃああ……提督さん、本気なの?」

提督「それが一番手っ取り早いだろ。お前らを利用しようって奴らに容赦なんかいるか?」

衣笠「……ねえ、提督さんていつもこんな感じなの?」

朧「こんな感じですね」

那珂「いつもこうだよね〜」

提督「とにかく、大丈夫なんだろうな? 次に来るお前らのトップは」

青葉「そんなに心配なら提督も一緒に来て、その人に会ってくださいよ〜」

提督「……」

青葉「そこで面倒臭い顔しますか!? 言い出しっぺのくせに!」

提督「島から出たくねえ……なんで人間がいる場所に戻んなきゃなんねえんだよ、くっそうざってえ」
743 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:54:30.88 ID:JF/c9yZ6o

青葉「んもー、そういうとこはつくづく厭世的と言いますか、面倒臭がりですよね司令官は……」

提督「しょうがねえだろ。そもそも俺は深海棲艦と魔神のハイブリッドだぞ? 人間社会に溶け込めなくて当然なスペックなんだ」

青葉「それはまあ……メディウムの皆さんを率いている時点で、人間社会には戻れませんもんね。戻る気もないでしょうけど」

酒匂「ねえねえ、深海棲艦と『まじん』のハイブリッドって、なんのこと? っていうか『まじん』って何?」クビカシゲ

提督「ああ、俺は半分深海棲艦なんだよ。で、もう半分は艦娘とも深海棲艦とも異なる『魔神』っつう異界の化け物だ。まともな人間じゃねえ」

能代「」

矢矧「」

酒匂「」

衣笠「」

青葉「……司令官、もうちょっと言い方ってもんがあるんじゃないですかねえ?」

提督「事実だろ?」

深海阿賀野「エー、スッゴーイ! 提督サン、深海棲艦ナノ?」

提督「半分はな」

酒匂「阿賀野姉、簡単に受け入れ過ぎじゃない?」タラリ
744 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:55:15.76 ID:JF/c9yZ6o

能代「と、ところで、メディウム……って何の話?」

提督「ああ、能代はメディウムを知らないか。なら、一人くらい紹介してやるよ、丁度よくこっちに来たみたいだしな」スタスタ

提督「……」コンコン

矢矧「? どうしてドアをノックしてるんです?」

 扉<コンコン

能代「ノックが帰ってきた……!」

 扉<ガチャー

ハナコ「魔神様? ハナコをお呼びになりましたでしょうか?」ベンザニチャクセキ

衣笠「!?」

酒匂「と、トイレの花子さんー!?」

ハナコ「はい、わたくし、ウォッシュトイレのメディウム、ハナコと申します」ペコリ

能代「この子がメディウム……なんですか?」

提督「おう。ハナコが座ってる洋式トイレがその罠なんだけどな」

能代「罠?」

酒匂「……あ」

矢矧「……!」セキメン

衣笠「?」
745 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:56:01.57 ID:JF/c9yZ6o

ハナコ「わたくしのウォッシュトイレは、強力な水流で身も心も綺麗にいたします。お座りになられます?」

提督「と、ハナコは言ってるが、実際にはその強力な水流で座った相手をすっ飛ばす罠だ」

能代「罠……なんですか」

ニコ「そう、メディウムは罠の化身。そのメディウムたちを統括、使役しているのが魔神様というわけだよ」ヌッ

酒匂「ぴゃああ!?」ギョッ

青葉「ど、どこから出てきたんですかニコさんは!?」

衣笠「い、いきなり提督さんの背後から現れた気がするけど……」

提督「最近気付いたんだが、なんか、俺の体を通って出てくるみたいだぞ」

深海阿賀野「エー、スッゴーイ! ドウヤッテルノー?」キラキラッ

那珂「阿賀野ちゃんすごいね、全然驚いてないよ?」

ニコ「……ぼくも、こんなに瞳を輝かせた深海棲艦は見たことないかな」

能代「あ、あの、こちらの女の子は……」

提督「んー……魔神を蘇らせた魔神の眷属、ってとこか。俺にとっては姉貴みたいなもんだ」

ニコ「そう、ぼくが魔神様のお姉ちゃんだよ」ドヤッ!

那珂(提督さん、ニコちゃんの扱いがうまくなってる……)タラリ
746 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:57:02.12 ID:JF/c9yZ6o

提督「それから、メディウムに関してなんだが、確か、衣笠や矢矧、酒匂はX大佐の船で他のメディウムにも会ったろ?」

朧「会ってますよね。秋月たちがケーキを顔に乗せてた時、マーガレットさんがいましたし、ロゼッタさんもいましたから」

酒匂「えっ、あの子たちがメディウムなの!?」

提督「あの船にいた俺の仲間は、艦娘以外は全員メディウムだぞ。どんな罠かはお前らの想像に任せるが」

深海阿賀野「トコロデ、矢矧ガ、サッキカラ顔ガ赤インダケド」

ハナコ「あら。あなたさまは確か」

矢矧「人違いです!」カオマッカ

ハナコ「いえいえ、よーく覚えていますよ、あなたさまのお尻のかたちを」

矢矧「人違いですっっ!!」ミミマデマッカ

能代(あの罠にかかったんだ……)

提督(かかったのか……)

酒匂「お尻のかたちで覚えてるんだ……」

矢矧「人違いですってばっっ!!」

 *

青葉「とりあえず、青葉は皆さんをお送りするので、H大将への報告も兼ねて、舞鶴まで行って参ります」

提督「舞鶴? ……ああ、そうか、J少将はH大将の部下だったな、そういえば」

提督「余計なお世話だと思うが、X大佐経由でも話を通しとくか。J少将の後釜に、くだんの組織が絡んでそうな奴が入らないように」

青葉「H大将なら、すでにそのあたりも考慮していただいていそうですけどね」

提督「それもそうか……ま、所詮、俺は海軍の部外者だ。あっちでなんとかしてもらうしかねえな」
747 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/09/29(日) 20:59:45.65 ID:JF/c9yZ6o
今回はここまで。


>720
この世界の艦娘は、深海棲艦と同じく得体の知れないもの、という世界観ですが、
ちょっとくらいはこういう救いがあってもいい世界になっています。
妖精さんの匙加減というか、ご機嫌次第的な面もかなりありますが……。
748 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:56:46.07 ID:FOj89Oplo
今回は、最近の提督と、その能力について。
ちょっと閑話休題的なお話です。
749 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:57:31.56 ID:FOj89Oplo

 * 数日後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「はぁ……」

霞「何よ、その溜息は。しゃきっとしなさい、しゃきっと」

提督「そうは言うけどよ……ろくに寝てねえんだぞ。来週も政府との会談控えてるっつうのに、毎晩誰かしら相手させられて……」ポ

霞「……」

提督「すげえんだぞあいつら。体がっちり抑えつけられて、何が何でも離れようとしねえし……」セキメン

霞「……」

提督「やっぱあいつら化け物だ……それを相手できてる俺も化け物だ……つうか、化け物じゃねえと生きてられねえ」カオマッカ

霞「……この……」

提督「ん?」

霞「このクズがぁぁぁああ!!」ドロップキック

提督「ぐあ!?」ゲシーッ

霞「なんて話をしてんのよ!! あんた自分が何を喋ってたか理解してる!?」ミミマデマッカ

提督「……ああ!」

霞「いま気づいたみたいなリアクションしてんじゃないわよっ!!」
750 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:58:16.37 ID:FOj89Oplo

提督「マジやべえな俺……感覚麻痺してるじゃねえか。俺の羞恥心、どこに置いてきた?」アオザメ

霞「一応はそういう危機感持ってるのね。完全に向こう側に行ったのかと思ったわ」ハァ…

提督「そりゃ、エロなんて大っぴらにしていいもんじゃねえからな……マジで悪かった。こりゃ俺も敷波に叱られるな」ウナダレ

霞「まあ、そうね。あんたですらそうなんだもの、みんながそういう話を吐き出せる場所を作ってあげないと……」

提督「なんか問題あったのか?」

霞「あったに決まってるわよ! あんたのせいで! あんたがそういうことを許容したから、その手の話をしたがる人が増えてるのよ!!」

提督「……」アタマカカエ

霞「キス程度の話ならともかく! 夜がどうだったとか、あんたの……その、ゴニョゴニョ……がどうだったとか!」セキメン

霞「食堂みたいなみんながいる場所で、そういう話で下手に盛り上がられると困るのよ……!」

霞「特に赤城さんとか! めちゃくちゃ顔を真っ赤にしてて、見てらんないっていうか、いたたまれない感じなんだから!」

提督「マジか……そりゃよろしくねえな。そういう話は、さすがに時と場所を選ばねえと……」

早霜「ないなら作りましょうか」ヌッ

提督「うお!?」ビクッ

霞「きゃっ!? い、いきなり現れないでよ!!」ビクッ

早霜「フフフ……ごめんなさいね」

提督「いつから潜んでやがった? ……いや、まあそれはいいや」

霞(深入りを避けたわね……)
751 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:59:00.84 ID:FOj89Oplo

提督「早霜、なんかいいアイデアがあるのか?」

早霜「はい。バーを作るのはいかがでしょう」

提督「……バー、ねえ」

早霜「静かで落ち着いた雰囲気の中でお話していただくには、相応しいと思います。無論、そういった席にはお酒も付き物でしょうし」

早霜「飲み屋のスタイルでは騒々しくなることが容易に想像できますので……しっとりとしたムードで語り合えば、騒々しくはならないかと」

霞「そうね……そういうことが好きな人は、そっちに行ってもらえると助かるわ。騒々しくなることは避けられない気もするけど?」

提督「やれるんなら任せたいけどよ。店主は誰に頼むんだ?」

早霜「それは私が。憧れていたんです……バーテンダーに」

提督「お前の希望でもあると?」

早霜「はい」ウナヅキ

提督「そういうことなら進めようぜ。お前が店主なら、お前のルールに従わせよう」

霞「それじゃ、早速場所を手配しないと。上下水道の準備も必要でしょ」

提督「ああ。取り急ぎ、明石とタチアナと泊地棲姫に声をかけるか」

 神殿の扉<バーン!

リサーナ「面白そうなお話、聞いちゃったぞーぅ!」ピョーン!

霞「な、なに!? 次はなんなの!?」
752 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 22:59:46.54 ID:FOj89Oplo

提督「何しに来たんだリサーナ……」

リサーナ「うふふっ、ハヤシモちゃんだったかなー? このバニーさんがあなたのお店のお手伝い、してあげてもいいわよ〜?」

提督「いくらなんでも話が早すぎねえか。この部屋、盗聴器でも仕掛けられてんのか?」キョロキョロ

リサーナ「あら、リサーナちゃんはちょっと耳がいいだけよ〜? マスターのこととなればなおさら! ぜーんぶ聞き逃さないんだから!」

早霜「……司令官」

提督「ん?」

早霜「採用したいのだけれど、いいかしら」

リサーナ「キャー! 雇ってもらえるのぉ!? ありがとー!」ハヤシモニダキツキー

霞「ちょっと、いいの? 判断早すぎじゃないの!?」

提督「いや……確かに即決過ぎるが、意外と適任じゃねえか?」

提督「バーにいてもまあまあ不思議じゃねえ恰好だし、早霜ひとりで店を回せるかってのもあるしな」

リサーナ「さっすがマスター! 理解があるマスターで嬉しいわー!」テイトクニダキツキー

提督「お、おい、抱き着くな」

リサーナ「えー? いいじゃない、マスターと私の仲なんだし!」グイグイ

提督「そうじゃなくてだな……」セキメン
753 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:00:30.72 ID:FOj89Oplo

リサーナ「もう、マスターったらそんなふうに腰を引かなくても……あ」

霞「?」

早霜「ああ。司令官の主砲の仰角が」

霞「なにやってんのよこのクズがあああああああ!!!」ウシロマワシゲリ

提督「うおっ!?」カイヒ

リサーナ「きゃっ!?」

霞「避けてんじゃないわよ! 一撃入れさせなさい!」ヒャクレツキック

提督「リサーナまで巻き込んで蹴ろうとすんじゃねえよ! しかもどう見ても一撃じゃねえし! ここ最近マジで足癖悪ぃなお前!」ガード

早霜「霞さん、ごく一般的な男性の生理現象にそこまで怒るのは、少々行き過ぎではないでしょうか」

霞「時と場合を考えたら怒るべきよ!」

早霜「それから、そのように足を高く振り上げては、あなたの下着が見えてしまうと思うのですけれど」

霞「!!」マッカニナッテスカートオサエ

リサーナ「あー、そっかあ〜。マスターったら性欲らしい性欲がなかった、って、みんなによく言われてたものねぇ」

リサーナ「それであの子も安心して、足技を繰り出してたわけね? んもう、マスターったら罪づくりなんだからあ」

霞「……」プルプルプル
754 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:01:17.74 ID:FOj89Oplo

提督「俺は何も言ってねえし見ようともしてねえぞ……つっても、こういうのは理屈じゃねえしなあ」

提督「霞がブチ切れる前に対策するか。要は、男の体が反応しなきゃいいんだろ」

 ズズズズ…

提督→女提督「……これでどうだ?」

リサーナ「!?」

霞「!?」

早霜「……なるほど、物理的にアレをなくしたと言うことですか」

女提督「ああ。体形は俺のおおもとになった深海棲艦準拠だが、そこまで不自然じゃねえよな?」

女提督「とりあえずこの姿なら、体がそういうもんに反応することもねえだろ。ちょっと慣れねえが、執務に支障は出ないはずだ」

早霜「良いのではないでしょうか。皆さんがその姿に納得してくださるかどうかは別ですが」

リサーナ「うーん、髪型はベリーショートのままかあ……似合ってるとは思うけど、伸ばしたほうが可愛いよ〜?」ホッペツンツン

女提督「別に可愛くするのが目的じゃねえからな。霞もこれで安心だろ?」

霞「……」アングリ

女提督「くっそ驚いてるな……」

霞「っ……ちょっと! 女になったんなら言葉遣いには気をつけなさいよ! くそとか言うのは禁止よ! 禁止!!」

女提督「なんでだよ面倒臭え……中身は変わってねえんだぞ」
755 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:02:00.95 ID:FOj89Oplo

リサーナ「……」

 モニュ

女提督「!?」

リサーナ「うーん、お胸も控え目ねえ?」モニュモニュ

女提督「そ、そんなのはどうでもいいだろ!? 離れろおい!」セキメン

 扉<コンコンコン ガチャー

リンメイ「師父ー! ワタシ新しいメガバズソーのワザ開発したカラ見て欲しアナタ誰ヨーーーー!?」ズギャーン!

女提督「ん? リンメイか? ここに来るなんて珍しいな」

初春「む……? 貴様、もしや提督か!?」

深海海月姫「ドウシタノ、ソノ姿」

リンメイ「ちょと待つヨロシ! なんで師父、女になたか!?」オロオロ

リサーナ「女の子に抱き着かれてもぉ、オトコノコの部分が反応しないように、ってことらしいわよー?」

リンメイ「なんでそんな話になたヨ! 理解デキナイネ!」アタマカカエ

初春「……ふむ、まさか貴様がその姿になろうとはのう」

深海海月姫「思ッテタヨリモ、可愛イワネ」

女提督「可愛いとか言うな、くすぐってぇ」アタマガリガリ
756 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:02:45.78 ID:FOj89Oplo

初春「髪は伸ばさぬのか? 似合うと思うがのう」

女提督「別におしゃれしたくてこの姿になったわけじゃねえからな。俺が男であるために起こり得る弊害を未然に防ぐためだ」

初春「ふむ、そうであったか……のう、提督よ。少ししゃがんでもらえんかの」

女提督「? なんだ?」シャガミ

初春「よいせ、と」ダキツキー

女提督「!?」

霞「!?」

初春「このままわらわを持ち上げてみるんじゃ」

女提督「な、何言ってんだお前」

初春「良いから頼む」

女提督「……」ヒョイ

初春「……うむ、悪くない。背丈も似ておるし、長門も不在。わらわが疲れた折には、こうしてもらおうかのう……」スリスリ

女提督「長門の代わりかよ……」セキメン
757 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:03:31.27 ID:FOj89Oplo

深海海月姫「提督」ズイ

女提督「……お前はどうした」

深海海月姫「前カラ思ッテイタケレド、アナタ、女ノ子ノ姿、可愛イワ」ピトッ

女提督「」

深海海月姫「デキレバ、ズットソノ姿デ過ゴシテモラエルト、嬉シイノダケレド」ギュ…

女提督「」

リサーナ「なんか、想定してたことと逆効果になってない?」

早霜「そのようですね……フフフ」

霞「……」アタマカカエ

 ズズズズ…

女提督→提督「……」

初春「む? どうして戻ってしまうんじゃ!?」オロサレ

深海海月姫「残念……ドウカシタノ?」
758 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:04:16.19 ID:FOj89Oplo

提督「いや、いろいろとおかしいだろ。なんで俺が女の姿なのに引っ付いてくるんだよ」

初春「わらわはそれで良いと思うておるが?」

深海海月姫「私、可愛イモノハ好キヨ?」

提督「……おい霞」アタマカカエ

霞「諦めなさい。あんたはそういう星のもとに生まれたのよ」トオイメ

提督「……」

早霜「司令官、現実逃避も結構ですが、バーの新設についてはよろしくお願いしますね」

提督「くそ、わかったよ……つうか現実逃避って言うな。逃げてんのは霞も一緒だろ」

霞「誰も逃げてないわよっ!?」


リンメイ「師父が男でなくなたら、師父を師父と呼べないネ! 師母か? 師姉か? ワタシなんと呼べばいいかー!?」アイヤー!

リサーナ「マスターなら、もうもとに戻ってるわよ〜?」
759 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/10/12(土) 23:05:00.73 ID:FOj89Oplo
短いですが、今回はここまで。
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/12/20(金) 08:12:51.39 ID:OK09/+WcO
ほしゅ
761 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:01:33.68 ID:JxF4gpdbo
長らくお待たせしました、続きです。
登場人物が勝手にごちゃごちゃ動き回って、まとめるのが大変でした……。
762 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:02:19.18 ID:JxF4gpdbo

 * 数日後 *

 * 墓場島沖 海軍巡視船内 会議室 *

R提督「お久し振りです、提督」ケイレイ

提督「よう。堅苦しい挨拶は抜きで頼むぜ」

不知火「皆さん、お元気そうで何よりです」ケイレイ

隼鷹「久し振りだねえ、元気だった〜? 不知火は相変わらず真面目だねえ」ヒラヒラ

飛鷹「ちょっと隼鷹、あなたこそ真面目にしなさいよ! すみません提督、隼鷹が失礼な……」

隼鷹「飛鷹、大丈夫だって! 提督は普通に接してた方がいいんだよ〜」

飛鷹「あなたねえ……」

提督「いやいや、隼鷹の言う通り、楽にしてくれていいぞ。俺もこうなんだ、お前も逐一目くじら立てるのも面倒臭えだろ?」

飛鷹「そ、そういうことでは……というか、めんどうって」アッケ

不知火「飛鷹さんもどうかお気になさらず。司令は攻撃的でない限り、相手の態度に頓着しない方ですので」

隼鷹「それで提督、あたしたちがここに来た時点で、ある程度は察してくれたと思うんだけど」

提督「ああ、隼鷹たちも舞鶴だったんだよな。ってことは、矢矧たちの新しい提督になるのがR提督ってことになるんだな?」

R提督「はい、改めて私からご報告いたします。J少将とK大佐の配下の艦娘を、私どもが引き取ることになりました」
763 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:03:03.55 ID:JxF4gpdbo

R提督「先日この島に来ていたという阿賀野型や衣笠、そして彼女たちと仲の良い秋月型は我々の艦隊に編入する予定です」

R提督「理由は聞いていませんが、彼女たちからはこの島への往来を許可して欲しいという話を聞いています」

R提督「それならば、この島のことを知っている隼鷹もいる、私たちの鎮守府に来たほうが都合も良いでしょう」ニコ

提督「いいアイデアだけどよ……思ったんだが、本当にそれで良いのか? あんたたちを散り散りにして僻地へ飛ばした奴の部下だろ?」

R提督「それはあくまで私の落ち度ですので。それに、彼と彼の部下は別人です。何から何まで同じと言うわけではないでしょう」

R提督「勿論、我々の方針に賛同できない艦娘もいるでしょうから、その場合は、別の提督のもとへ行ってもらうことになりますが」

提督「舞鶴の中でも艦娘を率いてる提督が何人かいるんだよな? そっちに行かせるってことか」

R提督「はい。正直なところ、私がすべての艦娘を引き取るには少々手が足りず……というのも、少将の鎮守府はそれなりに大所帯でして」

R提督「そのため、艦娘の希望を確認したうえで、舞鶴にある他の鎮守府にも艦娘を引き取っていただくよう、協力をお願いしております」

R提督「ちなみにK大佐の艦娘はJ少将の艦隊の別動隊扱いだったこともあり、K大佐の艦娘はごく少数です。阿武隈たちがそうですね」

提督「なるほど。で、その余所の鎮守府の提督連中は信用できるのか?」

R提督「そういう方々を募ったつもりですが……なかにはちょっと問題があると聞いている提督がいますね。例えば止准尉ですとか」

不知火「准尉?」

R提督「はい。なんでも、徹底的に夜戦を嫌い、結果として味方の損害を恐れて艦娘を出し渋って閑職に追いやられたと言う話でして」
764 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:03:49.40 ID:JxF4gpdbo

R提督「少し前に横須賀から舞鶴に移ってきた提督ということもあって、私も初めてお会いすることに……」

提督「待て待て、なんか聞いたことあるぞそいつ。確か、うちにいた川内や若葉が以前そいつのところにいたはずだ」

隼鷹「えっ、マジで?」

提督「ああ。若葉が言うには、命令に背いて夜戦に入って敵の輸送艦を潰したら馘を言い渡されたって。あいつら、それでうちに来たんだよ」

飛鷹「ええっ? 敵を見逃そうとしてたってことですか!?」

提督「見方によっちゃ、お前の言う通りなんだけどよ。そいつの場合はとにかく夜戦が怖い、夜が怖い、って話らしいんだ」

飛鷹「私も航空母艦ですから、夜が怖いというのは理解できますけど、提督がそれを言っては……それで提督業をやっていけてるのかしら」

隼鷹「今回の艦娘の受け入れの候補になってるんなら、まだ提督を続けてるはずだよねえ?」

提督「なんでそんなざまで提督続けてんだ? とっとと辞めりゃいいのによ」

R提督「私もそう思って、彼を知る方に提督を続けている理由を訊いているのですが、当人からは何の回答もないそうで」

不知火「お辞めになる気もないと?」

R提督「ないようですね。意地になっているのか、何が何でも提督を続けたい理由があるのか……」

R提督「逆に辞められない理由があるのかもしれませんね。その辺りを詳しく訊ければ良いのですが」

提督「なんだか面倒臭え奴だな……それじゃ艦娘もそいつんところには行きたがらねえだろ?」

R提督「そうですね。たとえ民間出身者であっても、艦娘を率いる提督業に就くのならば大尉として着任するのが通例です」

R提督「艦娘の立場から見ても、そんな提督のもとへ行きたいと思う艦娘はいないでしょうね……」
765 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:05:03.29 ID:JxF4gpdbo

提督「とはいえ、俺は俺で准尉で島を任されたんだがな。そういう前例があるから、そいつも解任されてないってことになるのかねえ」

R提督「いやいや、提督のケースこそ例外中の例外ですよ! 本来ならばそんなことはあってはならないことです!」

R提督「提督として着任したのに初期艦すらつけてもらえなかったと伺っていますし、どうしてそんな横暴が許されたのか……!」

隼鷹「提督の場合はホント例外としか言いようがないんだよねえ。妖精さんと話せる能力を疎まれて、それで島流しされたんでしょ?」

提督「だな。俺の直属の上官が、鎮守府内の妖精から手前の悪事や悪評をを聞き出して言いふらさないように、って話だからな」

R提督「……その件については、同じ海軍の人間として本当に申し訳ありません」

提督「謝んなくていいぞ。俺の着任の話にあんたが関わることはなかったんだし」

提督「それに、俺も都合がいいからと享受してた面もあったしな。山城じゃねえが、俺も不幸に慣れっこになってたんだ」

飛鷹「享受できるような事態があったんですか……?」

隼鷹「妖精とお話ししてても眉を顰められない環境は、提督にとっても居心地が良かったって聞いてるよ? だよね提督」

提督「ああ。海軍内でも、妖精と話ができる人間は珍しいみたいだから、変な目で見られてぶっちゃけ居心地悪かったしな」

飛鷹「そうなんですか……?」

隼鷹「まあ、あたしたちも見えない人たちからは気を使われてるよね。そういうところは、ちょっと一線引かれてる感じしない?」

飛鷹「私たちの場合はそれが当然だと思って、妖精さんたちともどもそれが慣れっこになっちゃってるけど……」

不知火「R提督は妖精さんが見えるのですか?」

R提督「いえ、残念ながら……」

隼鷹「あたしたちと付き合いが長いから、その辺は察してくれてるけどね。気を遣わせてると言えば、そうかなぁ」
766 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:05:48.65 ID:JxF4gpdbo

R提督「話がそれましたが……その艦娘の移籍先の振り分けのため、移籍先候補の鎮守府の提督が、明日、私の鎮守府に集まる予定です」

提督「明日?」

R提督「はい、各人どのような人物かを知るため、顔合わせも兼ねて懇親会を予定しました」

R提督「同じ舞鶴にいるにしても、なかなか顔を合わせる機会のない方もいますし……」

R提督「私もしばらく舞鶴を離れてましたので、私自身の顔見せも兼ねて、ということで」

提督「ふーん。集まるのは、艦娘が移籍する先の鎮守府の提督だけか?」

R提督「はい。戦力が十分に整っている鎮守府や、艦娘が多すぎて育成に余裕がない鎮守府などからは、不参加の連絡が来ていますね」

R提督「艦娘の振り分け自体は、その懇親会を経てから行うことにしています」

提督「……あんた、J少将の話はどこまで聞いてる?」

R提督「どこまで……と仰いますと、J少将が艦娘をよく思っていなかった、と言う話のことですか?」

提督「いや、それよりもっとやばい話だ。あいつが艦娘をどう利用しようとしていたか……」

R提督「利用……深海棲艦の武器化の話なら聞いています」

提督「……艦娘で実験をしていた、という話は?」

R提督「そこまで行くと、あくまでも噂で、というレベルですね」

R提督「過去に艦娘で実験していた提督が捕まったと聞いてからは、もういなくなったものだと思っていましたが……」

提督(……嘘はついてねえみたいだな。むしろ……)
767 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:06:33.68 ID:JxF4gpdbo

提督「まあ、あんたは知らないことの方が多いか。ショートランドに行かされてたんだもんな」

R提督「……お恥ずかしながら」

隼鷹「あ、もしかして、提督はJ少将みたいな、艦娘をどう扱うかわからない人のところに艦娘が配属するのを危惧してる感じ?」

提督「まあ、そうだな。行った先の鎮守府で不幸になって轟沈したんじゃ気分が悪い」

提督「たとえくそ野郎の部下であっても、話せばわかる艦娘たちなら、せめて行く先は吟味してやりてえな」

隼鷹「相変わらず艦娘には甘いねえ」ニヒヒッ

飛鷹「隼鷹、あまり茶化しちゃ駄目よ? 真面目に考えてくださってるんだから」

隼鷹「わかってるって。だから嬉しくて笑ってるんじゃないのさ」

R提督「提督の心配もごもっともです。我々が、これから艦娘を任せる提督たちがどんな人物か、ちゃんと見抜く力を持たないと……」

提督「見抜く力ねえ……言っちゃ悪いがR提督、あんた結構なお人好しだろ? 大丈夫か?」

隼鷹「うーん。それはあるかもねえ?」

飛鷹「確かに、そういうところはありますね」

提督「だよな? ちょっと頼りねえ気がするな」

R提督「んむむ……」

不知火「皆さん手厳しいですね」
768 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:07:18.56 ID:JxF4gpdbo

提督「んじゃあ仕方ねえな……面倒臭えが青葉にも言った手前だ、俺が心配なら送る先の連中を俺がひとりひとり見てくしかねえよな」

隼鷹「へっ?」

提督「艦娘の安全を第一に考えるならそれしかねえ。悪いが半日……いや、3時間くらい待っててくれるか。舞鶴に行く準備をしてくる」ガタッ

飛鷹「えっ」

不知火「司令?」

提督「俺もその会合に出る。艦娘を引き取るっつう、そいつらの顔を見ておきたい。不知火、お前も準備できるか」

不知火「は、はい!」

隼鷹「どゆこと? 提督も舞鶴に来んの!?」

提督「ああ。これからだと舞鶴に着くのは多分夕方だろ? R提督の鎮守府で一晩寝泊りできると助かる。頼んでいいか?」

R提督「し、承知いたしました!」ビシッ

飛鷹「えっ、ちょっと、どういうこと!?」

R提督「てっ、提督の護送任務だ! 総員、第一級の警戒態勢!! H大将閣下へ報告っ!!」

隼鷹「あーそっかぁ、将来の国賓だもんねえ。すごいことになっちゃったなあ」

飛鷹「のんきに構えてる場合じゃないわよっ!?」
769 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:08:03.43 ID:JxF4gpdbo

 * 翌日 早朝 *

 * 舞鶴 R提督鎮守府内の一室 *

 (シングルサイズのベッドを二つ繋げたベッドに3人が横たわっている)

提督「ん……何時だ」パチリ

提督「……5時15分。だいたいいつも通りだな」ムクッ

 グイ

提督「ん?」

リ級「スヤァ……」テイトクニシガミツキー

提督「……」

不知火「んむ……! おはようございます、司令」ムク…

提督「おう、おはよう……おいリ級、お前も起きろ」

リ級「ンー……」スリスリ

提督「寝ぼけてる場合じゃねえぞ、ったく」

不知火「猫みたいですね」
770 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:08:48.43 ID:JxF4gpdbo

提督「こいつ、連れてくるときは真面目そうだったんだがなあ……泊地棲姫んところの古株だっていうし」

提督「場所が場所だけに、姫級連れてくるわけにもいかなかったから、人選として丁度いいかと思ってたんだが」

リ級「フワァ……モウ朝カ」メヲコスリコスリ

提督「本当に大丈夫かよ」

リ級「……任務ノコトハ忘レテイナイカラ、大丈夫ダ」ノビーッ

リ級「ソウイエバ、ココハ人間ノ鎮守府ダッタンダナ。イツニナク、安心シテ眠レタ気ガスル……」

提督「眠れた、って、お前、ここのほうが安心できるのか?」

リ級「ソウジャナクテ、ココニ丁度イイ抱キマクラガ、アッタカラダ」

提督「……」

リ級「私ダッテ人間ハ好キジャナイシ、人間ノ拠点ダカラ警戒モシテルゾ?」

提督「その割にはぐっすりだったじゃねえか」

リ級「ソコハ自分デモ驚イテル。スゴク安心デキタカラ、姫様ガ、オ前ニ執着スルノモ、ワカル気ガスルナ」

提督「加古みてえなこと言いやがる」

不知火「同じ重巡級ですから、感覚も似ているのではないでしょうか」

提督「そういうもんかね……」
771 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:09:33.45 ID:JxF4gpdbo

 * その後 *

 扉<コンコン

飛鷹「おはようございます、提督。朝餉の準備ができましたが、入ってもよろしいでしょうか?」

提督「ん、入ってくれ」

飛鷹「失礼いたします」チャッ ガラガラ…

提督「わざわざ持ってきてくれたのか」

飛鷹「はい、食堂に案内しても良かったのですが、注目されるのもお嫌かと思いまして」

提督「まあ、確かにな……」

飛鷹「提督は、和食と洋食とどちらになさいます?」

提督「2種類用意してくれたのか?」

飛鷹「はい。お好きなほうをどうぞ」

提督「んじゃ、俺はたまには洋食にすっかな……ふたりはどうする」

不知火「不知火は和食を希望します」

リ級「私ハ、パントコーヒーノホウガイイナ」

飛鷹「かしこまりました。少々お待ちください」カチャカチャ…
772 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:10:33.44 ID:JxF4gpdbo

リ級「ナンダ? ココデ調理スルノカ?」

飛鷹「ええ、簡単なものだけですが。本来なら言うべきではないのですが……お食事の中に毒が入っていては困りますでしょう?」ジュワ…

リ級「!?」

飛鷹「ですので、私もこちらでお食事をご一緒させていただきます」

提督「なるほど、最初から出来合いを盛り付けされてたんじゃ、食い物の中に何か仕込まれる可能性もあるから、と……」

提督「で、秘書艦のお前が同じものを食べるってことは、毒見役も引き受けてる、ってことか」

リ級「……大丈夫ナノカ?」

提督「俺たちに信用してもらうために、飛鷹が俺たちと同じものを作って食べるっつってんだ。そこまでやるなら心配しなくても大丈夫だろ」

飛鷹「私自身は信じていますが……ほかの誰が深海棲艦にどんな思いを抱いているかは、さすがにわかりませんし」

飛鷹「海軍の中に深海棲艦とは相容れないと考えている者がいるとお考えならば、このくらいのことはするべきかと」

提督「実際にここに来た時も、リ級が姿を見せた時は固まってた奴がいたもんな。恨まれてないとは言えねえか」

飛鷹「ええ。もしも姫級や鬼級といった深海棲艦が来ていたら、更に混乱していたと思いますよ?」

リ級「ン? ……私ハ、侮ラレテイル、トイウコトカ?」ムスッ

不知火「現実的な問題として、姫級は勿論、戦艦や空母の深海棲艦を、普通の鎮守府が受け入れられるかと言えば、厳しいと思います」

不知火「重巡クラスなら……失礼ながら、数を揃えればぎりぎり抑え込めそうな気はしますね」

リ級「……舐メラレテイルナ」ムスッ
773 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:11:33.08 ID:JxF4gpdbo

提督「そうは言うがお前、戦闘中は特殊装甲と黄色いオーラ出せるんだろう? 泊地棲姫に聞いたぞ?」

リ級「マア、出セルケド」

飛鷹「え゛っ、そうなの!?」ヒキッ

提督「いいリアクションしやがるな。ほれ、この飛鷹がこのくらいビビってるんだ」

提督「お前が本気出してたら、ここに寝泊りできたかどうかも怪しいもんだぜ? 言うだろ、能ある鷹は爪を隠す、って」

リ級「……ソウイウコトニ、シテオクガ」ムー

リ級「鷹……Hawk、トイウナラ、コノ艦娘ノホウガ、ソウナンダロウ?」

飛鷹「え?」

不知火「なるほど。飛鷹さんのお名前に『鷹』の文字が入っているから、ですか。よくお気付きですね」

リ級「姫様ガ、提督ノ母国語モ勉強シロ、ト、言ッテイタカラナ。身ニ着ケテイレバ、艦娘トノCommunicationモ捗ル」

リ級「漢字ノ勉強ガ、イチバン大変ダッタケド、意味ガワカレバ、オモシロイト思ウヨウニモナッタ」

提督「へえ、すげえなお前」

飛鷹「本当……こんなに勤勉だったなんて。見た目が普通だからと侮っていた自分が恥ずかしいわ」ウーン

リ級「フフ、モット褒メテイイゾ」ニッ
774 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:12:33.29 ID:JxF4gpdbo

不知火「……不知火も侮っていました。あなたがそこまで泊地棲姫を信頼していたとは思っていませんでした」

リ級「姫様モ言ッテルガ、チカラヲ持ツモノガ上ニ立ツノガ、私タチノ常ダ。ソシテ強イ個体ハ、必然的ニ知恵ヤ知識モ持ッテイル」

リ級「ダカラ姫様ノ言ウコトニハ、私モ従ッテイル。強イ者、賢イ者ニ従エバ、ソレダケ生存率モ上ガルシナ」

飛鷹「その言い方だと、忠誠と言うより、生存競争に生き抜くため、って感じがするのだけれど……」

リ級「ソノ認識デ、間違ッテイナイ。人間ニ対スル敵意ヲ抑エラレナイカラコソ、強イ個体ヲ頼ッテ、ソレヲ成ソウトシテイタ面モアル」

飛鷹「……!」

リ級「タダ、ソノ思考ガ、私ソノモノカラ出テイタモノカハ、定カジャナイ。強イ個体ニ影響サレル者モ、少ナカラズ、イルシ……」

リ級「コノ男ノオカゲデ、人間ト争ウ必要ガ、ナクナリツツアル。私ノ考エモ、今デハ変ワッテキテイル」

飛鷹「なるほど……興味深いわ。では、その話の続きは、朝餉を取りながら聞かせてもらえるかしら」コトッ

提督「目玉焼きか……長らく久し振りなものが出てきたな」

飛鷹「そうなんですか?」

提督「島じゃ卵もそれなりに貴重品でな。料理に使うことはあるが大量には使えないから、こうして一人一人に出すことがあまりないんだ」

提督「養鶏でもしようかと思ったが、それはそれで大量の飼料が必要になるし、狭い島の中じゃ限度がある」

リ級「……ナンダ? 初メテ見ルハズナノニ、食ベタ記憶ガアル……」ウーン

不知火「大丈夫ですか?」

提督「……それも、艦だったころの記憶かもな。とりあえず、冷めないうちにいただくか」テアワセ
775 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:13:18.32 ID:JxF4gpdbo

 *

不知火「ごちそうさまでした」ペコリ

飛鷹「はい、お粗末様でした」

リ級「……コノコーヒー、酸味ガ強イナ……」

飛鷹「お口に合いませんでしたか」

リ級「イヤ、オイシイト思ウ。タダ、好ミカト言ワレルト、普段飲ンデイルコーヒーノ方ガ、飲ミヤスクテ好ミ、トイウダケダ」

提督「R提督はこういうのが好きなのか?」

飛鷹「はい。お気に入りの中でも、比較的飲みやすいものを選んだつもりです」

リ級「クセガアルガ、慣レレバ、コレガ好キトイウノモ、マアマア納得デキルナ」

提督「俺はもうちょっと濃いめに淹れたほうがいいな……」

リ級「エ……本気カ?」

不知火「司令は飲み物に関しては、渋めのほうが好みですから」

リ級「私ハ、苦イコーヒーハ、好キジャナイ……」

提督「あくまで俺の好みなんだから、お前はお前で好きなのを飲んでいいぞ? 俺の好みのほうが珍しいだろうし」
776 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:14:03.54 ID:JxF4gpdbo

提督「泊地棲姫んとこの深海棲艦は、いわゆるアメリカンコーヒーが好きな奴のほうが多いんだよな。米軍艦だった奴らが多いせいか?」

飛鷹「そうなんですか?」

提督「ああ。泊地棲姫自身も真珠湾にゆかりがあるらしいし、だからこそルーツに米軍艦が多い奴が集まったんじゃねえかと予測してる」

リ級「ダカラ、タ級タチモ、アアナッタ、ッテ話ダッタナ」

提督「もしかしたら、お前もそうなるかもしれないと思ってるんだが……泊地棲姫とは長い付き合いなんだろ?」

リ級「ソレハソウダガ、ドウダロウナ? マダ、コウ……明確ナ過去ノ記憶ハ、出テコナイナ」クビカシゲ

飛鷹「? 何の話ですか?」

不知火「あの島で暮らしている泊地棲姫の配下の深海棲艦が、何名か姫級や鬼級に変異したんです」

飛鷹「え゛っ」アオザメ

不知火「付き合いの長かったル級さんも戦艦水鬼に変異しましたし、もしかしたらリ級さんも……」

飛鷹「こ、ここでそうなるのはやめてくださいね!? 洒落にならないから!!」アセアセ

提督「大丈夫だろ、多分」

リ級「多分ネ」

飛鷹「ほ、本当でしょうねえ……?」タラリ
777 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/01/26(日) 20:15:51.89 ID:JxF4gpdbo
今回はここまで。

本来向かっていたはずのシナリオの辻褄があわなくなって、
いろいろ書き直しながら進んでいますので、このスレで終わるか怪しくなってきました……。
778 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:53:18.98 ID:eOSul5Hco
続きです。

今回はちょっと【影牢〜もう一人のプリンセス】要素が出てきます。
779 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:54:04.17 ID:eOSul5Hco

 * R提督鎮守府内 会議室 *

飛鷹「みなさんこちらへどうぞ。H大将閣下、R提督麾下の飛鷹が、提督をお連れしました」コンコンコン

H大将「入ってくれ」

飛鷹「失礼いたします」チャッ

提督「よう。H大将も来てたのか」

H大将「……お前は相変わらずのようだな」

提督「まあな。俺がニコヤカな笑顔浮かべて仰々しく『よろしくおねがいいたします』なんてほざいたら気持ち悪いだろ?」ククッ

H大将「否定はしないが、それをお前自身が言うな」アタマオサエ

提督「まあ、俺みたいな見た目若造にタメ口利かれんのは面白くねえとは思うが、変に取り繕うのも今更って感じだしな。大目に見てくれ」

H大将「ふん……まあいい。俺も同じようなものだからな」

不知火「H大将閣下、ご無沙汰しております」ケイレイ

リ級「フーン、アイツガ、姫様ノ言ッテタ、話シ合イニ参加シテタ人間カ……」

北上「やっほー、提督久しぶりー。重巡の深海棲艦も連れてきちゃったんだ?」フリフリ

大井「北上さん!? そんなに砕けた挨拶して大丈夫なんですか!?」ギョッ!

提督「ああ、気にしなくていいぞ、俺はそのほうがいいし。北上は元気そうだな、霰たちも元気か?」
780 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:54:46.96 ID:eOSul5Hco

北上「うん、今日は二人も一緒に来てるよ。今はR提督たちのお手伝いに回ってるけど、もうすぐこっちに来るんじゃないかな」

提督「そうか、とりあえず元気なら何よりだ。それにしても、H大将は急な話だったのに、よく来れたな? 呉に行ってたんだろ?」

H大将「お前が来るとなれば、来ないわけにはいかんだろう」

H大将「今のお前は良くも悪くも超重要人物なんだ、少しは自分の立場を理解して行動してもらいたい」

H大将「そういうお前こそ、人間嫌いを公言しておきながら、突発的とはいえまさか舞鶴に姿を見せるとはな。しかも、深海棲艦を連れて」

提督「J少将とK大佐んところの艦娘をあちこちに割り振るって聞いてな。どんな奴らが引き取るのか、見に来たんだ」

H大将「それだけのために、ここに顔を出したのか」

提督「そいつらの中に『あいつら』とつながってる奴らがいるとしたら、それを見逃すわけにはいかねえからな」

H大将「なるほど、だからこそ、か」

提督「J少将とK大佐の部下だった艦娘を引き取るんだ。あいつらとしても、動向を気にする奴はいるんじゃねえか?」

H大将「そうであっても、簡単に尻尾を出すとは思えんぞ。判別する方法があるのか?」

提督「まあな。詳しくは言えないが、つながってるかくらいは見てわかるぜ」

H大将「そいつも、魔神の力というやつか?」

提督「そういうこった。内緒に頼むぜ?」ニヤリ
781 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:55:32.61 ID:eOSul5Hco

H大将「まあいい。で、その深海棲艦は、どういう意図があって連れてきたんだ?」

提督「こっちの鎮守府がどんなものか……まあ、興味本位みたいなもんだ。あとは、俺がこういう立場だってことを知ってもらうためだな」

北上「そういう意味ではインパクト抜群だったねえ」

リ級「……」ジーッ

提督「? どうした?」

リ級「アノ雷巡」

大井「!」

リ級「相当、ヤルヤツダナ」

提督「……興味あるのか?」

大井「な、なによ……やるっていうの!?」

リ級「イヤ、絶対ヤダ」

大井「」ガクッ

提督「嫌なのかよ」

リ級「ヤッタラ、オ互イ、タダジャ済マナイハズダカラ。ソレニ、提督ハ、余計ナ戦イハ、シタクナインダロウ?」

提督「まあ、そりゃそうだけどよ」

大井「な、なんなのよ、もう……びっくりさせないでよ」
782 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:56:17.08 ID:eOSul5Hco

リ級「……ヤッパリ、縄張リノ外ノ世界ヲ見ルノハ、イイコトダナ。強力ナ艦娘ノ存在ヲ知ルトイウノハ、重要ダ」ウンウン

北上「おお〜、なんか一目置かれてるよ、すごいね大井っち!」ヒトミキラキラ

大井「き、北上さんに言われると照れますけれど……なんだか複雑です」

H大将「そうだな。変に目をつけられても困る」

提督「そうか? 戦いたいわけじゃねえって言ってんだが」

 扉<コンコン

隼鷹「隼鷹でーっす、入りまーす!」

飛鷹「ちょっと隼鷹!? 大将閣下がいらっしゃるのよ!? もうちょっと慎ましやかにできないのっ!?」

リ級「ナァ……アイツモ少シ、ウルサクナイカ?」ヒソヒソ

大井「……もう、なんで深海棲艦に指摘されてるのよ」アタマオサエ

H大将「……入ってくれ」アタマオサエ

隼鷹「失礼しまーす!」チャッ

R提督「失礼いたします! おや、提督もこちらにいらっしゃっていましたか」

飛鷹「もう、隼鷹ったら……R提督からもちゃんと注意してください!」
783 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:57:02.65 ID:eOSul5Hco

満潮「失礼しま……! て、提督も来てたのね……!」

霰「んちゃ……」

提督「よう。満潮も霰も元気そうで安心したぜ」

荒潮「あらぁ、この人が噂の深海棲艦と一緒に暮らしている提督ね? 私、H大将の部下の荒潮です」

提督「おう、よろしくな。満潮たちと制服が似てるな、お前も朝潮型か?」

満潮「そうよ、荒潮は朝潮型の4番艦なの。こっちに来てからは、荒潮にいろいろ教えてもらってるわ」

提督「そうか。ふたりが良くしてもらってるなら言うことはねえ。これからもよろしく頼む」

荒潮「ええ、こちらこそ、よろしくお願いしますね〜、うふふっ」

リ級「……アイツモ、カナリ、ヤルヤツダナ」ボソッ

不知火「そうですね……」ウナヅキ

満潮「って、あんた重巡の深海棲艦も連れて来てたの!?」ギョッ

霰「びっくり、されなかった?」クビカシゲ

提督「まあ、それなりにされたな。けど、俺のスタンスを知ってもらうにはこれ以上ないだろ」

霰「ふぅん……リ級さんも、おつかれさま」

リ級「初メテ、ネギラッテモラエタ! オマエ、イイ子ダナ!」パァッ!

大井「あんなに表情豊かな深海棲艦、初めて見るわ……」

荒潮「本当ですねぇ」
784 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:58:01.73 ID:eOSul5Hco

R提督「ひとまず準備が整いましたので、私はこれから艦娘の引き渡しの候補となる提督とその秘書艦を、こちらに案内いたします」

R提督「本来はすぐに会場へ通す予定でしたが、提督がいらっしゃるということで、一時的に別の部屋に集まって待機してもらっています」

隼鷹「それじゃ早速呼びに行ってきますかぁ! あ、何人ずつ呼んだらいいかな?」

H大将「出来ればひとりずつ通してくれ。他の提督がいると話しづらいことがあるかもしれん」

R提督「承知しました、隼鷹!」

隼鷹「任務了解! 行ってきまーす!」タタッ

飛鷹「隼鷹!? H大将閣下の御前だって言ってるでしょ!?」

H大将「……まあ落ち着け。余所で見た隼鷹や、あの艦娘に比べたらまともだ。うるさくしなくていい」

飛鷹「よ、よろしいんですか……?」

大井「余所の隼鷹さん……ああ、先日あの鎮守府で見た、あの酔っ払いまくりの」ウヘェ

荒潮「そこにいたPolaさんも、すごかったですよね〜。全裸でワインボトル抱えて歩いてたのは驚きました〜」

提督「なんだそりゃ……ポーラ? 海外艦か?」

大井「イタリアのZara級重巡洋艦娘です。なんでもお酒が入ってない日はないほどのお酒好きだそうで」

大井「彼女にはZaraという姉妹艦……ネームシップである姉がいるそうなんですが」

大井「その鎮守府にZaraさんがは着任していないためか、制御が利かないというか、自由を満喫しすぎてるというか」アタマオサエ
785 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:58:46.68 ID:eOSul5Hco

提督「……ブレーキ役の姉妹がいなくて、好きに呑んだくれてるってか」

大井「彼女にお酒を控えるよう、鎮守府全体で抑え込もうとしたところを、そこの提督の秘蔵の数本を見つけられご機嫌に……」

大井「というのが、その鎮守府の秘書艦の言い訳でした」

提督「艦娘にもそういうとんでもない奴がいるんだな……けど、さすがにそいつは極端すぎる例じゃねえか?」

提督「下の下とも言えるそいつと今の隼鷹を比較されてマシとか言われてもなあ」

大井「まあ、そう言われてみればそうですね。とはいえ、私たちが出会う余所の隼鷹さんは、だいたいいつもお酒が入ってますし……」

提督「マジか……」

R提督「私どもの隼鷹も、私が処分される以前は、ちょっと怪しいところはありましたね……お恥ずかしながら」

飛鷹「まあ……そうね。今でこそ自制してるけど、以前の隼鷹もお酒にだらしなかったから……」ウーン

提督「酒が入ってんのが平常運転なのかよ」

H大将「……あの隼鷹も、あの島で生活していた一人だな? 何があったか、あとで教えてくれるか」

提督「それはできれば本人から聞いてくれ。余所の隼鷹や酒飲み艦娘の対応の参考にしたいんだろう?」

提督「俺が話すよりも、あいつ自身がどういう心境だったか、って面で正確な話が聞けるはずだ」

提督「それに本人不在で勝手に俺がべらべら話すのは、あいつにとっても心証がよろしくねえだろ」

H大将「……変なところが律儀だな、お前は?」

提督「そうか?」
786 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/07(金) 23:59:31.75 ID:eOSul5Hco

大井「H提督、それより面談の段取りを説明しませんと……」

H大将「ん、そうだな。と言っても、提督は俺の隣で基本何もせず座っていてくれればいい」

提督「それでいいのか?」

H大将「お前の見立てて怪しいと思ったときに俺に声をかけてくれ」

H大将「提督は見た目が若いから、俺が連れてきた下士官のふりをしても怪しまれんだろうし、お前もお前で目立ちたくはないんだろう?」

提督「……まあ、そうだな。わかった、俺は基本口を出さないことにするぜ」

H大将「不知火とリ級は、後ろの衝立の陰に隠れててくれるか? この場で不用意に深海棲艦が姿を見せたのでは混乱するだろうからな」

不知火「承知しました。リ級さんもよろしいですか」

リ級「……ワカッタ。従オウ」


 * *


飛鷹「これで6組中、3組の面接が終わりですね」

H大将「どうだ、怪しい奴はいたか? ずっとだんまりなところを見ると、そういうことはなさそうだが」

提督「いまのところはそうだな。まあ、普通に新米っぽい若い奴ばかりで、違う意味で艦娘を任せるのが心配だけどよ」

 扉<コンコン

H大将「入ってくれ」
787 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:00:17.56 ID:0p8QtWGlo

隼鷹「失礼しまーす! 止准尉をお連れしましたー!」ガチャッ

提督「止准尉……あいつが?」

止准尉「……失礼、します」

山城(止准尉の秘書艦)「失礼します……」

提督「……若えどころじゃねえな。ありゃ中学生か?」

大井「いいえ、今年二十歳になるそうですよ」

提督「夜が怖くて夜戦するなと言われてその命令に背いた川内たちを追放したのが2年くらい前だ。高校にいる間に提督になったのか?」

大井「いえ、そうではなく……」

提督「あ、悪い。その辺の事情は、聞かなくても、俺が視れば良かったんだ」メヲトジ

大井「は?」

提督「……ふーん……ん? これは……」

H大将「どうした?」

提督「……なんであいつが、そんなこと知ってんだ?」

H大将「……なにかあったのか」
788 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:01:16.92 ID:0p8QtWGlo

提督「ああ、本当ならちょっと良くねえな。範囲広げて探ってみるか……」

止准尉「……」

山城「あの……一体何の話なんですか」

H大将「ん? ああ、悪いな。とりあえず座って、ちょっと待っていてくれ」

山城「そうですか……呼び出されて待たされて、何の話かと思ったら、また待たされるなんて……」

山城「ただのお食事会と聞いていたのに、不幸だわ」ハァ

止准尉「……」

提督「……」

大井「さっきからずっと目を瞑って……なにをしてるんですか?」

H大将「まあ待て、様子を見よう」

提督「……」

リ級「……提督ハ気付イテイルヨウダガ、部屋ノ外カラ嫌ナ臭イガスルナ」

不知火「外?」

荒潮「……! 大井さん」ヒソッ

大井「荒潮も気付いたの? 誰かいるのね?」ヒソヒソ
789 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:02:01.88 ID:0p8QtWGlo

隼鷹「あ、確かになんか気配するね?」

飛鷹「隼鷹!」シーッ!

提督「……」

リ級「提督。私ガ出ヨウカ?」

提督「大丈夫だ、まあ任せとけ」

 <ウオッ!?

H大将「!」ガタッ

大井「部屋の外から!?」

提督「飛鷹! そこのドアを開けろ!」

飛鷹「えっ!? は、はい!」ガチャッ

奇妙な仮面をかぶった男「ウグブブブ!!」ヨタヨタ

飛鷹「ひっ!?」

隼鷹「うわっ、なにこれ!?」

不知火「あれは……!?」
790 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:02:46.96 ID:0p8QtWGlo

提督「スクリームフェイスってやつだ。よし、お前ら全員動くな!」

 UFO<プワワワワ…

男「う、うわああ!? なんだなんだ!?」フワー

大井「え、えええ……? UFOが男の人を連れてきたんだけど……なにあれ」

不知火「部屋の中に入ってきましたが、いいのですか?」

提督「ああ、問題ねえ」

 ダツイクローゼット<バコン!

荒潮「えっ、あんな衣装棚、この部屋にあったかしら」

 ダツイクローゼット<バクン! ガタガタ…

大井「男の人が飛んで入って……中に閉じ込められてる!?」

霰「人食い衣装箱……」ゾッ

 ダツイクローゼット<ペッ!

男「ぐえっ!!」ベチャッ

飛鷹「ちょっ、なんで下着一枚になってるのよこの人!?」

 サラシダイ<ガシャッ!

男「ひいいっ!?」ガシャッ!!

提督「捕獲成功……これで良し」
791 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:03:33.74 ID:0p8QtWGlo

飛鷹「……い、いったい、なんなんですか!?」

H大将「こいつが魔神の力というやつか」

提督「あまり人に見せたくねえが、あいつらにつながってる手掛かりだ。出し惜しみはしていられねえ」

リ級「提督、メディウムハ、ドウシタ? 連レテキテナイヨナ?」

隼鷹「っていうか、こんな罠のメディウムいたっけ?」

提督「こいつは俺の力だ、まだメディウムにしてないやつだな。さてと……」スクッ

提督「舌を噛まれても面倒だ。とっととこいつの頭の中身を吸い出すか」アタマツカミ

男「な、なにを……ひぐっ!?」

提督「……」

男「ぐ、ぎ、ぐぇぇ……お、おっご、おほぉっ!?」ビクビクッ

北上「……頭の中を吸い出す? って……」

満潮「そんなことできるの!?」

提督「なんだこいつ、ろくな情報持ってねえな。下っ端もいいとこじゃねえか、つまんねえやつだ」
792 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:04:21.17 ID:0p8QtWGlo

不知火「何が目的だったんです?」

提督「止准尉があることについて喋ってないか、見張り目的で来たらしいな」

止准尉「……!」

提督「盗聴器やレコーダーも用意してたみたいだ。たったいま服と一緒にぶっ壊しちまったけど」

H大将「なんだと? 何を盗聴していたか記録は取れんのか」

提督「あー……どうだろな、破片で良ければこの辺に散らばってるが……ただ、止准尉はこいつの前では一言もしゃべってねえみたいだな?」

男「う、うげええ……」ガクガク

提督「さてと、こいつどうする? 始末していいならこのまま俺が殺っとくぞ」

H大将「簡単に始末などと言うな。そいつの身柄は海軍で預かる」

提督「そうか。なら断っておくが、こいつの頭の中身をまさぐったときに、ちょっとあちこち壊しちまってな」

H大将「なに?」

提督「嘘が付けない可哀想な頭にしちまった。まあ許せ、あんたたちにも都合がいいだろ」

H大将「……」アタマカカエ

山城「さ、さっきから何なのよ一体……何の話なの!? しかも、そっちに隠れてるの、深海棲艦じゃない!」アオザメ

リ級「ア、ヤバ。気付カレテタカ」

提督「心配すんな、と言いたいが、まあ状況が状況だしなぁ……」
793 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:05:16.98 ID:0p8QtWGlo

隼鷹「んじゃ、私が簡単に説明するよ。この人はねえ……」

 * *

山城「……この男が、深海棲艦と一緒に離島で暮らしてる、ですって……?」

隼鷹「そういうこと。私も一時期、その島で提督にお世話になってたから、安心していいよ〜」

リ級「私ハ、コノ男ト一緒ニ、島カラ来テヤッタンダ」ドヤッ

山城「なんでそんなに偉そうなのよ……」

H大将「この男がここに来たのは、今後艦娘を任せるのに問題ない人物かどうかを見極めるためであり……」

H大将「そして、艦娘の保護を邪魔する者がいないか、いればそいつを捕縛するためだ。結果として、見事不審者が捕まったわけだが」

提督「この鎮守府の敷地の外に協力者がいたようだが、逃げたみたいだな。盗聴器を壊されたことに感付いて警戒したのかもしれねえ」

R提督「そんなことまでわかるのですか……」

提督「大まかに、だけどな。だいたい似たような気配を放ってるから、俺の『眼』の届く範囲にいればギリわかる」

提督「それよりH大将、悪いが止准尉と山城の衣服と艤装、それから身の回りのものを洗ってくれるか? ないとは思うんだが念のためだ」

H大将「……わかった。荒潮、今朝話しておいた部屋まで、ふたりの案内を頼む」

荒潮「は〜い、わかりました〜」
794 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:06:01.86 ID:0p8QtWGlo

山城「はぁ……今日はとことん不幸だわ。提督、行きましょ……」

止准尉「……」

H大将「北上はこの侵入者を別の部屋に連行してくれ。頼めるか」

北上「はーい。あ、一応、霰も一緒に来てもらっていい?」

霰「はい……!」

北上「んじゃ、連れてくねー」ヒョイッ

男「ぐえっ」カカエラレ

 スタスタ…

H大将「やれやれ、嫌な予感は当たるものだな……」

提督「なんだ、予見できてたのか?」

H大将「貴様が来ると聞いた時点で、何か起こりそうだと薄々思っていた。とにかく、止准尉からはあとでゆっくり話を聞くとしよう」

満潮「ねえ提督、さっき洗うって言ってたけど……それって、あのふたりにも盗聴器が仕掛けられてるって思ったの?」

提督「いや、おそらく止准尉たちの衣服とかには、仕掛けられてないはずだな。じゃなきゃわざわざ侵入者が見張りに来るはずがねえ」

提督「ただ、止准尉があの通りだんまりだったからな。ありゃ自分たちが監視されてることを自覚してたからこそだと思ってる」

提督「となると、誰にも話せず抱え込んでいたんだろう、警戒心を解くためにもやっといた方がいいなって思ってたんだ」

満潮「ふーん……そういう判断なら、確かにやっておいた方がいいわね」
795 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:06:46.79 ID:0p8QtWGlo

H大将「ということは、ここへ申し込んできた目的も、艦娘の補充ではなくこの件を誰かに伝えるため、助けを求めて、と見るべきだな?」

提督「そうだな。臆病者が、臆病者なりに勇気を出してここに来たってことなんだろう」

R提督「……すみません、そうだとすると、この申込書の名前は……」ペラリ

H大将「ん? この名前……しばらく休職すると申し出のあった提督の名前だな」

H大将「さては、R提督がしばらく舞鶴から離れてたのをいいことに、わからないと思って余所の鎮守府の誰かの顔と名前を借りたか」

提督「ってことは、普通に招き入れていたら、H大将が気付いてたんじゃねえか?」

H大将「その前に逃げていたかもしれんぞ。あくまで目的が止准尉の監視であるならな」

R提督「……H大将閣下と提督にご足労いただいて、本当に良かった……私だけだったらどうなっていたことか。本当にありがとうございます」

飛鷹「それよりR提督、艦娘引き渡しで待たせている提督が、あとひとりいらっしゃいます」

H大将「よし、一応そいつの顔も見ておくか……なんだ、海外の泊地から来たのか?」ペラリ

R提督「はい。どうしても融通して欲しいとのことで、申し込みがありまして」

飛鷹「早速お呼びしますね」

提督(……ん? なんだこの厭な寒気は)ゾワリ
796 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/08(土) 00:07:35.75 ID:0p8QtWGlo
と言うわけで今回はここまで。
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2025/02/08(土) 00:27:45.93 ID:4eBspP6m0
おつやで
798 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:00:04.72 ID:dLbzsdaXo
続きです。
組織の核心に迫る前に、提督のトラウマ? のお話です。
799 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:00:46.40 ID:dLbzsdaXo

 *

H大将「さて、最後の一人は一体何者だ……?」

隼鷹「お連れしましたー!」

雷「失礼しまーす!」

遠中尉「失礼いたします!」ケイレイ!

イントレピッド「……失礼します」

不知火「あれは……!」

提督「……不知火、知ってんのか?」

不知火「司令? 覚えていらっしゃらないのですか?」

提督「ん? 俺も知ってる奴なのか?」クビカシゲ

不知火「覚えて……ないのですね」タラリ

H大将「なんだ? 知っているのか」

R提督「ええと……遠中尉でしたか、秘書艦はひとりではないのですか?」

遠中尉「秘書艦は雷ですが、どうしても彼女も来たいと申してまして!」

雷「折角だから、一緒に来てもらったの! ね、イントレピッドさん!」
800 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:01:31.55 ID:dLbzsdaXo

R提督「どういうことだ? 人数が合わないぞ? 隼鷹、提督6人と艦娘6人だだっただろう?」

隼鷹「そうだったんだけど。あ、そういえば、さっき呼びに行ったとき、いつの間にかひとりいなくなってたねえ?」

雷「トイレに行くって言ってたわ!」

不知火「……ということは、他の提督は自身と秘書艦、スパイは単独で、この方だけ艦娘をふたり連れてきたということですか」

飛鷹「確かにそれだと数は合うわね……でも、そんな数え間違いあるかしら」

H大将「あのスパイの男がそういうふうに誤魔化して話したのならあり得るな」

雷「それより、こんなところで提督准尉に会うなんて! 久し振りね!」

提督「……んん? なんで俺のことを知ってんだ? つうか、准尉?」クビカシゲ

遠中尉「なんで? 貴様、とぼけているのか?」

提督「いや、真面目にお前、誰だっけ?」

遠中尉「……」

不知火「……」アタマオサエ

リ級「ドウイウコトダ不知火? 提督ノ知ッテル人間ジャナイノカ?」ヒソヒソ

不知火「いえ、司令も会ってはいるのですが、思い出したくないのでしょう……」

大井「え、思い出したくないって、どういうこと?」

不知火「その……当時のやり取りが、なかなか強烈でして」
801 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:02:30.82 ID:dLbzsdaXo

イントレピッド「Ah... Excuse me. 私、発言、しても、いいですか?」

H大将「なんだ? 言ってみろ」

イントレピッド「Thank you... 私、彼の指揮下から脱出? したいです……!」

雷「えええ!?」ギョッ

遠中尉「どういうことだ!?」ギョッ

H大将「除隊を希望すると言うのか?」

イントレピッド「Yes ! だって……だってもう、耐えられないんだもの!!」

イントレピッド「こんな大の大人が、こんな小さな Destroyer girl に抱き着いて! Mamma, mamma って何度も叫ぶんですよ!?」ブワッ!

H大将「……は?」

イントレピッド「もう嫌なの! この人と一緒にいると頭がおかしくなりそう!!」

遠中尉「何を言うんだスカイママ!」

イントレピッド「Nooo !! I'm not your mother !! Why did you call me 'Sky-mamma' !?」

H大将「何を言っとるんだ、こいつらは……?」

大井「さあ……」

隼鷹「あ、あたしちょっとわかったかも。ほら、空母って空の母って書くじゃん」

飛鷹「それでスカイママ……?」タラリ

リ級「……アル意味、直訳、カ」アタマオサエ
802 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:03:16.28 ID:dLbzsdaXo

北上「ただいまー……あれ、なにやってんの」

荒潮「あらあら、状況がよくわからないんだけど〜?」

霰「なにが、あったの……?」

満潮「この人が連れてきた空母艦娘が、この人の艦隊から抜けたい、って……」

提督「ぐああぁぁぁ!! も……もしかして、あいつかぁ……!?」ガクーッ!

北上「うわあ、提督もいきなり頭抱えてどうしちゃったのさ」

不知火「……思い出しましたか、司令」

提督「思い出した……これっぽっちも思い出したかねえけど、思い出したぞくそが……っ!」ギリギリギリ

遠中尉「なにがくそだと言うんだ准尉! さっきから失礼な!!」

提督「うるせえ! てめえがくそじゃなかったら何がくそだってんだよ、この金魚のくそ野郎が!!」(#゚皿゚)凸ズビシ!

隼鷹「あー、提督、さすがに中指立てるのはやめよーよ、ねぇ?」

H大将「提督、この男を知っているのか?」

提督「ああ、こいつは……遠大佐は、俺の鎮守府にくそ馬鹿芸能人連れてきて鎮守府引っ掻き回してくれたくそったれだ!」

H大将「芸能人?」

大井「大佐?」
803 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:04:01.12 ID:dLbzsdaXo

不知火「呉鎮守府の祢大将殿と仲の良い映画俳優さんがいらっしゃるはずです。たしか、留父さんと仰ったか……」

不知火「その方の息子にご自身の大佐の地位を譲ろうとしたのが、そこにいる遠、元大佐です」

R提督「もと? ですか」

不知火「はい。彼が中尉になっていたことは、不知火もたった今、初めて知りましたが……」

北上「提督がすっごい不機嫌になってんだけど、なんかあったの?」

不知火「はい。遠大佐は、轟沈した艦娘の救出と言う名目で、島に芸能人と番組制作スタッフを引き連れて押しかけてきたんです」

H大将「……本当か」

雷「ええ、本当よ。そのときは、提督には本当に迷惑をかけてしまったわ……」シュン

H大将「不知火、もう少し詳しく説明してくれるか?」

不知火「はい。留という当時売り出し中の男性アイドルが、呉にある遠大佐の鎮守府に一日提督として着任したのが、おそらく事の発端です」

大井「留……? なんか聞いたことあるわね。結構前にスキャンダル起こしてたような……」

不知火「はい、その人です。留氏が遠大佐の鎮守府で艦隊の指揮を執ったのですが、彼の指揮のせいで遠大佐の艦娘が轟沈しまして」

満潮「はぁ!?」

不知火「留氏は自身の名誉を挽回すべく、轟沈艦が流れ着く先を調べ、私たちの鎮守府がある島に乗り込んできたのです」

大井「それで、島から轟沈艦娘を引き取ろうとしたの? 今だって無理なのに、そんなこと許されないでしょう?」

不知火「はい、今以て許されていませんし、我々もさせませんでした。そもそも司令は、来港した彼らの上陸を一度は明確に拒否しています」
804 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:04:46.05 ID:dLbzsdaXo

不知火「その後、轟沈した艦娘と話したいという名目で会議室までは通したものの」

不知火「彼らは鎮守府内および島内を無断で散策し撮影を行うなど、当方の指示を一切聞かず勝手な行動を取り続け」

不知火「挙句、夜間に無断外出したテレビクルーが死亡事故を起こしたり、遠大佐鎮守府所属の艦娘に対して強姦未遂事件を起こしたり」

不知火「軽く思い出すだけでも顔の筋肉がひきつるような迷惑行為を引き起こしています」

H大将「……」アタマカカエ

隼鷹「あ、なんか聞いたことあるわ。あたしが島に着く前くらいに、そんな騒動があったんだっけ?」

北上「えーと……なんてーか、迷惑って言葉で片付けていい話には思えないんだけど?」アゼン

不知火「不知火も同感です。もっとも、彼らを連れてきた遠大佐も、彼らがそこまで暴走するとは予想していなかったようですが」

満潮「だとしても信じらんない。なんでそいつらがそこまで好き勝手に振る舞えたのよ、非常識すぎるわ……!」

不知火「先程も申し上げたように、留氏は遠大佐から大佐の地位を譲ってもらえるはずだったからです」

満潮「それこそなんでよ!?」

不知火「その点について、不知火が把握している遠大佐の目的はふたつありまして」

不知火「ひとつは、彼に大佐の地位を押し付け、艦娘の指揮の難しさを思い知らせてみじめな思いをさせようとしたこと」

不知火「もうひとつは遠大佐自身が他の提督に引け目を感じて、一線から退こうとしたからだと、不知火は認識しています」

満潮「っ……そ、そんなことのために、大佐の地位を捨てようとしてたの……!?」クラッ
805 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:05:31.65 ID:dLbzsdaXo

不知火「はい。そもそも彼は、雷と一緒にいられれば、大佐の地位などなくても良かったのでしょう」

不知火「遠大佐は、雷に、母親になって欲しいと請願したくらいですから」

H大将「……は?」

大井「はぁ?」

飛鷹満潮「「はぁぁぁ!?」」

北上隼鷹霰「「「……なにそれ」」」ドンビキ

荒潮「みんな綺麗にハモってるわねぇ……」

雷「そんなに驚くことかしら?」クビカシゲ

R提督「普通は驚くよ?」ヒキッ

不知火「御覧の通り、雷もそれを喜んで受け入れています。ですから、遠大佐は今も雷をママと呼んでいるのでしょう」

不知火「そちらのイントレピッドさんが仰るように」チラッ

イントレピッド「」シロメ

荒潮「ね、ねえ、今の話、イントレピッドさんも初めて聞いたんじゃないのぉ……?」

R提督「この反応からするとそのようだ……」

イントレピッド「」フラァ

R提督「って、危ない!?」ガシッ
806 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:06:18.27 ID:dLbzsdaXo

不知火「司令が遠大佐のことを思い出せなかったのも、彼の発言が司令の理解の範疇を大きく外れていたがため」

不知火「記憶に残らないと言うより、理解が追いつかず記憶に残せなかった、と言ったところでしょうか」

提督「つうか理解したくねえよこんな話」

遠中尉「こんな話とはなんだ! 私は真剣なんだぞ! 私もママも今の関係を良しとしているんだ!」

遠中尉「やはり貴様のように親に甘やかされて育った甘ったれに、私の境遇など理解できるわけがない!」

隼鷹「ん? 提督って、親に甘やかされたりしてないよねえ?」

遠中尉「なに? 准尉は政治家のボンボンだろう?」

隼鷹「いやぁ? 提督ってば、親とは縁を切ってるはずだよ? だよねぇ?」

提督「まあな」

H大将「ふむ……遠中尉とその秘書艦は、一旦もとの部屋に戻ってくれ。まずはイントレピッドから話を聞く」

遠中尉「わ、わかりました……」

R提督「で、では、このふたりには戻っていただきます。隼鷹、案内を頼んでいいか?」

隼鷹「あー、りょうかーい」

雷「それじゃ、失礼します。行きましょう司令官、お部屋に戻りましょ?」

遠中尉「うん、ママ!」

全員「「……」」

 ガチャッ…スタスタ…
807 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:07:01.20 ID:dLbzsdaXo

提督「うん、やっぱり理解できねえし理解したくねえ。あいつらのこと、忘れていいか? つうか忘れるぞ」オテアゲー

北上「いやいや、忘れようとしちゃ駄目でしょこんな大問題……」

満潮「私も忘れてしまいたいわ……頭が痛いどころじゃないわよ、こんなの」アタマカカエ

提督「だよな? 普通耐えられねえだろ」

霰「うん、無理。絶対無理」

リ級(食イ気味ニ反応シタナ……)

荒潮(霰ちゃんの遠中尉を見る目が、まるで汚物を見るかのような目つきだったわぁ……)タラリ

イントレピッド「ウ……」ヨロッ

R提督「お、おい、大丈夫か」

イントレピッド「え、ええ……大丈夫です、けど、あの二人は……?」

R提督「いま、別室に案内した。先に君から話を聞こうと思ってる」

イントレピッド「そ、そうですか……その、本当に気を付けてくださいね」

H大将「なにをだ?」

イントレピッド「あのふたり、ふたりきりになると、本当に気持ち悪いことを言い出しますから……」アオザメ

R提督「……」
808 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:07:45.72 ID:dLbzsdaXo

H大将「艦娘一人では荷が重いか? R提督、悪いがあの二人に同行して見張っててくれるか。秘書艦たちも同伴してくれていい」

R提督「わ、わかりました。なにやら不安ですが……飛鷹、一緒に行くよ」

飛鷹「り、了解です」

 スタスタ…

提督「あいつら、もう部屋に閉じ込めて放っといた方がいいんじゃねえの?」

大井「それで目を離した隙にどこかへ脱走されても困ります」

提督「脱走……まあ、確かにねえとは言えねえか」

不知火「脱走と言うより逃避行しかねな……いえ、すでに逃避行は敢行済みでしたね」

北上「あんなのに付き合わされるR提督が不憫だねえ」

提督「まったくだ。もうここになんか置いてないで、とっとと追い返しちまったほうがいいってのによ」

H大将「逸る気はわかるが落ち着け。それで、イントレピッド。あの男はあれで艦娘を管理運用できているのか?」

イントレピッド「Ah...オソラク? Perhaps」

H大将「Perhaps か……またネガティブな回答だな」
809 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:08:30.88 ID:dLbzsdaXo

提督「お前、あいつの鎮守府に着任してどのくらい経つ?」

イントレピッド「Hmm... サンガツ? about three month ?」

提督「3か月ねえ……じゃあ、お前と同じように気分を悪くした艦娘はどれくらいいる?」

イントレピッド「So many ! たくさんよ! たくさん! みんな、キモチワルイ、って言ってたわ!」

提督「あー、こりゃもう結論出てんじゃねえか? あいつに艦娘を預けんのはやめたほうがいい。そうだろ?」

大井「現時点では、そう考えざるを得ませんね。艦娘の指揮がままならないのは、あの遠提督とその秘書艦の関係が原因に他ならないと」

H大将「遠中尉を帰す前に、中尉の鎮守府に探りを入れよう。実態としてイントレピッドと同じ感想を持つ艦娘がいるか、確認が必要だ」

大井「荒潮さん、泊地を統括しているそこの中将に連絡を頼めるかしら。特警を派遣して調査してもらいましょう」

荒潮「はぁい、手配しますね〜」スクッ

提督「さてと……イントレピッドのケアも必要だが、それより先に俺は止准尉に話を聞きに行きてえな」

H大将「そうだな。いま、優先すべきはそちらだ」
810 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:09:16.34 ID:dLbzsdaXo

H大将「大井、まずは止准尉たちを呼び戻してくれ。イントレピッドは入れ替わりでその部屋に待機しててもらおう」

提督「ん? 俺たちがそっちに行くんじゃ駄目なのか?」

H大将「不知火はともかく、あいつを鎮守府の中を出歩かせるのは考え物だろう」

リ級「ウン、私ハ、ソウダネー」

提督「……そういやそうだったな。手前の鎮守府のつもりで考えちまったぜ」

イントレピッド「!? ど、どうしてここに、Enemy ship が!?」ガタガタッ!

提督「Enemy じゃねえよ。あいつは、俺の鎮守府の仲間だ」

イントレピッド「……仲間? あ、あなた、シンカイセーカンと、オトモダチなの!?」

提督「おう、そうだ。だからこいつにゃ手を出すんじゃねえぞ」

イントレピッド「...Oh my god」

リ級「オトモダチ、カァ……部下ジャナインダ?」

提督「俺は泊地棲姫を部下にしたわけじゃねえからな。同じ理屈でお前も部下とは呼ばねえよ」

提督「ま、強いて言うならあの島の責任者……地主っつうか家主っつうか、保護者とでも言ったほうがいいか?」

リ級「……ナルホド。ヘーェ」
811 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2025/02/15(土) 21:11:07.05 ID:dLbzsdaXo
というわけで今回はここまで。

年内に終わらせたいとかこのスレで完結させたいとか思っていたのに全然話が終わってくれない…。
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