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【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】
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577 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/06/01(土) 20:01:59.27 ID:VeSaVRJ20
まってた
578 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:43:31.53 ID:+ekmNVAbo
>576-577
すみません、お待たせしております。
短いですが続きです。
579 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:44:18.38 ID:+ekmNVAbo
* 鎮守府内連絡通路 *
朝潮「迷子ですか?」
由良「そう。そういうわけで、その深海棲艦を保護したんだけど」
提督「迷い込んできた深海棲艦……なあ」
朝潮「もしかして、外海の深海勢力からの使者でしょうか?」
由良「そういうわけでもないみたい。ただ、こちらに害意はないから、食堂の外のウッドデッキに案内して、休んでもらってるんだけど」
由良「提督さん、とりあえず会ってもらえないかしら。拍子抜けするくらい友好的だから」
提督「……まあ、そういうことなら話は早そうだな」
* 食堂外 テラス席 *
軽巡棲鬼「コレ、オイシーー!」モグモグ
マーガレット「それは良かったです! いっぱいありますから、たくさん召し上がってくださいね!」
提督「……あいつか?」
由良「はい、この前海軍からいただいた資料によれば、あの個体は軽巡棲鬼と呼ばれている深海棲艦ですね」
由良「ただ、髪型がちょっと違ってて……資料の写真には髪をまとめてお団子にしてるんですが、あの軽巡棲鬼にはそれがないんです」
580 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:45:16.14 ID:+ekmNVAbo
提督「ふーん……なんつうか、深海棲艦らしくねえ深海棲艦だな?」
朝潮「朝潮も同感です。あんなににこにこ笑ってる深海棲艦は珍しいと思います」
提督「……まあいいや。ちょっと邪魔するぞ」
朝潮「失礼いたします!」
マーガレット「あっ、マスター!」
軽巡棲鬼「ワァ!? 艦娘ト……人間ノ提督サン!? 深海棲艦ガイルノニ!? ココッテ、ドウイウトコロナノ!?」
提督「俺は提督。こっちは今日の秘書艦の朝潮だ」
朝潮「駆逐艦、朝潮です!」ビシッ
提督「この島にはちょっと特殊な事情があって、深海棲艦と艦娘の両方が暮らしてる。俺はそのまとめ役みたいなもんだ」
マーガレット「私たちメディウムのマスターで、魔神様ですよ!」エッヘン
提督「ややこしくなるから、そっちの話はあとでな。で、お前は一体何者だ? とりあえず名前は?」
軽巡棲鬼「私、最新鋭深海棲艦ノ、阿賀野デース!」
提督「阿賀野? 軽巡級にそんな名前の艦娘がいたな……?」
朝潮「しかも、最新鋭深海棲艦、と言いましたね」
581 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:46:00.87 ID:+ekmNVAbo
提督「とりあえず、阿賀野……でいいのか? お前が何でこの島に来たのかを知りたいんだが、話せるか?」
軽巡棲鬼「ハーイ、エーットネェ……アレ? 阿賀野?」
提督「うん?」
軽巡棲鬼「……イマ、私、自分ノコトヲ、阿賀野ッテ言ッタノヨネ?」
提督「ああ、言ったな」
軽巡棲鬼「エエエ!? アレ? ドコカラ出テキタンダロ……」オロオロ
提督「……大丈夫か?」
朝潮「自分で言ったことに混乱しているんですか?」
軽巡棲鬼「チョ、チョット待ッテ……エット、ウン、ダンダン、ナントナク、ワカッテキタ……ドコカラ話シタライイノカナ」
提督「覚えてるところからでいいぞ。順番は後で整理すりゃいい。話せるだけ話してみてくれ」
軽巡棲鬼「ウン……私、今ハ深海棲艦ナンダケド、艦娘ダッタコロノコト、少シ覚エテテ」
提督「は? 艦娘だったって!?」
軽巡棲鬼「ソウナノ! 確カ……私、事故カナニカデ両足ガ動カナクナッチャッテ、スッゴイ落チ込ンデタノ!」
582 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:46:46.00 ID:+ekmNVAbo
提督「事故? どんな事故だ?」
軽巡棲鬼「ソコマデハ覚エテナインダケド。デモ、杖? ヲ、ツイテタコトハ覚エテテ」
軽巡棲鬼「背中モ痛クテ、歩ケルカドウカモワカラナイ、ッテ言ワレテタヨウナ、気ガスル」
軽巡棲鬼「ソレガスゴク悲シクテ、夜、海ノ近クデ泣イテタコトハ覚エテルノ」
提督「……そのあとは?」
軽巡棲鬼「ソノアトガヨク覚エテナクッテ……気付イタラ海中ニイテ、苦シクテ、意識ガ真ッ暗ニナッテ……」
軽巡棲鬼「イツノ間ニカ、コウナッテタ気ガスルノヨネー」
提督「お前が覚えているのは、そのあたりの記憶と、名前だけか?」
軽巡棲鬼「ソウネエ? ホカニ覚エテルコト……ウーン、スグニハ出テコナイカナア?」
提督「そうか。まあ、無理に思い出さなくていいぞ。忘れたってことは思い出したくない過去なのかもしれねえし」
軽巡棲鬼「ソウ? ソレジャ、マタ、ケーキ食ベテイイ?」
提督「……いいけどよ……切り替え速すぎんだろ」
由良「なんだか、いつもの質問、聞かなくても良さそうですね?」
提督「そうだなっつうか、すでに一回死んでるようなもんだしな……ん? お前、脚がないのか?」
583 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:47:31.04 ID:+ekmNVAbo
軽巡棲鬼「ア、コレ? 心配シナクテモ大丈夫ヨ? コレ、モトカラダシ、私、浮イテ移動デキルカラ」
提督「どうなってんだそれ……」
軽巡棲鬼「ン−トネ、ヨイショ、ット……コウナッテルノ。見エル?」グイ
提督「……脚の切り口っつうか、断面がなんかの噴射口みたいだな? ここから何か噴き出して浮いてるってか」
軽巡棲鬼「ソウナノ。タダ、ソノセイカ、移動スルダケデ、スッゴイエネルギー使ッチャウミタイデ、疲レルノヨネ〜」
提督「それ、艦娘のときに脚を怪我してたことが由来してんのか……?」
由良「いえ、軽巡棲鬼はもともとこういう見た目ですね。フロート船みたいに海の上を浮いて滑走してるようです」
提督「もとからなのか」
軽巡棲鬼「タブン、ソウヨ〜。私、自分ノ姿ガオカシイトカ思ワナカッタモン」
提督「なるほど……昔のことはとりあえずそこまででいいか。じゃあ今は今で、どうやってこの島に来たんだ?」
軽巡棲鬼「……ウーント、海ノ中デ気ガ付イテ、フラフラ〜ット海面ニ顔ヲ出シテ。デモ、誰モイナクテ……オカシイナ、ッテ思ッテテ」
軽巡棲鬼「キット私、イツモ誰カト一緒ニイタノヨ。艦娘ダッタ頃ニ、一緒ニイタ人ガ、イッパイイタハズナノ!」
由良「ってことは、どこかの鎮守府に所属していた、ってことですよね?」
提督「そうっぽいな。で、それからどうしたんだ?」
軽巡棲鬼「ソノアトハ、ヒトリナンダ〜ッテ思イナガラ、コレカラドウシヨウ、ッテ。ボンヤリシテタラ、オ腹ガ鳴ッチャッテ……」ポ
584 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:48:15.88 ID:+ekmNVAbo
軽巡棲鬼「行ク宛テモナイシ、仰向ケニ水面ニ浮イテ、波間ヲ漂ッテタノ。オ空ガ綺麗ネ〜トカ、オ腹スイタナ〜トカ思イナガラネ」
軽巡棲鬼「デ、プカプカ浮イテタラ、イツノ間ニカ、コノ島ニ流レ着イテテ。ソコデ出会ッタ潜水艦ノミンナニ見ツケテモラッテ……」
提督「潜水艦?」
軽巡棲鬼「ソウソウ。イキナリ魚雷ヲ構エラレチャッテ、ビックリシタケド、待ッテ待ッテーッテ叫ンダラ、ワカッテクレテ!」
軽巡棲鬼「モー、同ジ深海棲艦ダカラ撃タレナイト思ッテタノニ、ソンナコトナインダモン。ドウナルコトカト思ッタワヨ〜」
提督「お前、どこかの深海勢力に所属してるとかはないのか」
軽巡棲鬼「所属? ソウイウノ、深海ニモアルノ?」
提督「ああ。ここだと泊地棲姫が深海棲艦のまとめ役だな」
軽巡棲鬼「フーン、ソウナンダ? 挨拶トカ、シテキタ方ガイイ?」
提督「そうだな。この島の立ち位置が他の拠点とだいぶ違うから、面通しはあったほうがいいな。つうか、さっきいたはずだが」
由良「あれ? 泊地棲姫ってさっき厨房に……」
泊地棲姫(可愛いエプロン装備)「コーヒーヲ持ッテキテヤッタゾ」
軽巡棲鬼「キャーー、アリガトーーー!」
由良(ほぼ裸みたいな姿にフリフリヒラヒラのエプロン姿……この前までエプロンなかったのに)タラリ
585 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:49:01.18 ID:+ekmNVAbo
朝潮「……どうして厨房から泊地棲姫さんが?」
提督「好きなことやっていいぞ、って言ったらこうなってな……そういや朝潮はコーヒー飲めないんだっけか」
朝潮「はい、そもそも間食を控えていたため、こちらに来る機会を逸しておりました!」
提督「そこまでガチガチに真面目にならなくていいんだぞ?」
朝潮「司令官がお食事以外はお水しか口にしておられませんでしたので、それに倣っていました!」
提督「……俺もたまにこっちに来るか」
泊地棲姫「アア、来ルトイイ。歓迎スルゾ?」ククッ
マーガレット「泊地棲姫さんは、今やこのカフェのマスターですよ!」
軽巡棲鬼「エ、一番偉イ人ガ、カフェノマスター、ヤッテルノ? スゴーイ、格好イイ!」キャー!
泊地棲姫「コーヒー専門ダガナ」フフン
マーガレット「お茶菓子は、私や間宮さんが担当です!」エヘン!
提督「なんでかんで間宮も馴染んだみたいだな」
朝潮「ちゃんと役割分担ができてて、朝潮も感心しました!」
586 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:49:45.98 ID:+ekmNVAbo
提督「それにしても、艦娘のときの記憶を持った深海棲艦なんて、初邂逅だな。丁度いい、泊地棲姫も話を聞いてくれ」
泊地棲姫「ナンダ?」
提督「さっきお前がコーヒーを出した深海棲艦……」
泊地棲姫「軽巡棲鬼ネ?」
提督「ああ。どうやら、元艦娘だってのは間違いなさそうだ」
提督「怪我してたとか、他の誰かと一緒にいた、って話してたから、もともと人間社会にいたことは違いない」
提督「その後、何があったかはわからないが、おそらくあいつは何らかの形で轟沈してると思っていいだろう」
朝潮「司令官? これまでは艦娘が轟沈して砂浜に打ち上げられても、みんな艦娘のままだったと思うのですが……」
提督「そこはおそらくなんだが、そいつらは轟沈してからそんなに時間をおかずに浜に打ち上げられたんじゃないか、と思うんだ」
提督「由良にしても朝潮にしても、一度は沈んだとはいえ、そこまで長時間海底に沈んでたわけじゃねえだろ?」
由良「うーん、わからないけど……そういうことになるのかな」
提督「それ以外にも、川提督んとこの蒼龍に言われたんだよ」
提督「轟沈した艦娘が深海棲艦になるというのなら、どうして埋葬した艦娘たちは深海棲艦にならなかったのか、って」
提督「ある程度、時間が経たないと深海化しないとすれば、泊地棲姫が目撃したことがない、って言う話の裏付けにもなるんだけどなぁ」
泊地棲姫「ソコハソウダナ」
587 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:50:31.60 ID:+ekmNVAbo
由良「……その理屈だと、潜水艦の子たちは大丈夫なのかしら」
提督「そこは妖精たちが対策取ってんじゃねえか? でなきゃ今頃、世界中の潜水艦娘が深海化してるはずだ」
提督「その妖精たちの取った対策が、攻撃を受けて崩されて……加護がなくなって沈むと轟沈、って扱いになるんじゃねえかな」
提督「その状態で、艦娘が海底に留まり続けていると深海棲艦化する……ってのが、俺の考えてる説なんだが」
泊地棲姫「ソウダナ……アリ得ナイ話デハナイカモシレナイ」
由良「!」
泊地棲姫「深海ノ特ニ暗イトコロ……多クノ艦ガ、沈ンダ海域カラハ、強イ深海棲艦ガ現レルコトガ多イ」
泊地棲姫「ソコニ轟沈シタ艦娘ガ迷イ込ンダトシタラ……」
朝潮「し、深海棲艦になるんですか?」
泊地棲姫「……カモシレナイナ。ソレカ、ソコニ棲ム深海棲艦ノ餌ニナルカ……」
朝潮「餌……ですか」
泊地棲姫「餌ニナッタ艦娘ノ特徴ヲ引キ継イダリスレバ、転生シタヨウニモ見エソウジャナイ?」
由良「ぞっとしないわね……」
泊地棲姫「タダ、ソレモアクマデ、私ノ想像ダ。ソウイウケースヲ、ジカニ見タワケデハナイカラナ」
朝潮「……そう考えられる、ということですね?」
588 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:51:16.13 ID:+ekmNVAbo
泊地棲姫「タブンネ。ソノ話ヲサテ置イテモ、人間ニ対スル憎悪ヤ反感ヲ抱イタ深海棲艦ガ、鬼級ヤ姫級ニナッテイルノダカラ……」
泊地棲姫「ソウイウ『素養』ノアル艦娘ガ、ソウイウ海域デ沈メバ、ソウイウ深海棲艦ニナル、トイウノハ、アリ得ルカモシレナイ」
提督「けどよ、今回の軽巡棲鬼……阿賀野の場合は、阿賀野自身が人間に対して憎く思ってた感じじゃないよな?」
泊地棲姫「ソウ……ソコガワカラナイ。ソモソモ、深海棲艦デアリナガラ、アンナ風ニ明ルク振舞エル者ハ、私モ初見タコトガナイ」
マーガレット「あのぉ……でしたら、一度、魔神様があの人の魂を見てみたらいいのではないでしょうか?」
提督「……それしかねえかなあ」
泊地棲姫「アラ、躊躇シテルノ? アノ大和タチノ頭ノナカモ、イジクッタンデショウ?」
提督「敵だったからな。そうでもない他人の頭ん中を覗き見するのは、やっぱりちょっとなあ」
泊地棲姫「訊イテミレバイイジャナイ。軽巡棲鬼?」
軽巡棲鬼「モグモグ……エ? ワタシ?」
提督「なあマーガレット、あいつに出したケーキ、何個目だ?」
マーガレット「えっと、今のでホールケーキまるっと1個分ですね!」
提督「……」アタマオサエ
589 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:52:01.56 ID:+ekmNVAbo
泊地棲姫「トリアエズ、訊クダケ訊イテミレバ?」
提督「ああ……食ってる途中で悪いが、お前の昔のことを知りたい。協力してもらえないか?」
軽巡棲鬼「ンー、イイケド、私、アマリ覚エテナイヨ?」
提督「とりあえず、昔のことを調べるのは問題ないんだな?」
軽巡棲鬼「イイワヨー。私モ、私ノ昔ノコトハ知リタイシ!」
提督「よし、同意を得られたな」ガシッ
軽巡棲鬼「エ?」アタマツカマレ
ズヴュッ!
軽巡棲鬼「ア゜ェッ?」ビクッ
朝潮「!?」
提督「……んー……」
軽巡棲鬼「……」ビクビクッ
由良「ねえ、今の音って何……?」タラリ
泊地棲姫「……フーン、ソウヤッテ頭ノ中ヲ見テイルノネェ」
ズリュッ
軽巡棲鬼「オ゜ッ?」
590 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:52:45.88 ID:+ekmNVAbo
提督「……ふう、なるほど」
軽巡棲鬼「」シロメ
由良「何をしたんですか……」
提督「魔神の力で、魂の色とこいつの過去を探ってみた」
泊地棲姫「ナニカワカッタノ?」
提督「阿賀野はどこかの鎮守府で療養中だったみたいだな。事故で背骨をやったらしくて、そのリハビリ中だったようだ」
提督「けど、リハビリも難航してたらしく、松葉杖つきながら港に来て自分を責めて泣いて……そこで足を滑らせて海に落ちたらしい」
提督「そのまま意識を失って、沈んだところに深海棲艦の魂が入ってきて、今の姿になったみたいだな」
朝潮「深海棲艦の魂が!?」
提督「まあ、深海棲艦とは言ったが、いわゆる戦争時の戦没者の無念の魂みたいなんだ。それも、飢えの苦しみを味わった者たちのな」
由良「飢え、ですか……」
提督「そういう無念の魂が寄り固まって生まれるのが、深海棲艦……ってことなんだろうな、多分」
泊地棲姫「私モ、ソウナノカ……?」
提督「そりゃわからねえが、お前もお前で、人間に対する恨みというか、嫌な思いはあったんじゃねえか?」
泊地棲姫「確カニ、ソンナ感情モ、アッタヨウナ……」
591 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:53:31.32 ID:+ekmNVAbo
提督「で、あいつの頭の中っつうか、魂を見てみたんだが」
提督「ここでまともなもの、と言うよりケーキみたいな贅沢品が食えたのが幸いしたんだか、思ったより魂の色が穏やかな色調だった」
提督「あいつが深海棲艦になり得る感情ってのも、自分の無力さとか肝心な時に動かない自責の念からくる自己嫌悪が大部分みたいだったし」
提督「軽巡棲姫と比べても暗い色の魂がかなり少ないから、姿こそ深海棲艦だが、かなり艦娘寄りと言えそうだったな」
泊地棲姫「見タ目ダケガ深海棲艦、トイウ感ジカ?」
提督「そこまで……いや、そう言ってもいいかもしれねえな。とりあえず、しばらくの間は様子見しようと思う」
朝潮「承知しました!」ビシッ
マーガレット「あのぉ、魔神様? さっきからこの人の意識が戻ってきてないんですが……」
軽巡棲鬼「」シロメ
泊地棲姫「オイ提督、オ前ノヤッタコトダロウ」
提督「わかってるよ……おーい、阿賀野ー?」ユサユサ
軽巡棲鬼「……ハウッ!? コ、ココハドコ!? 私ハ最新鋭!?」
由良「こんなときにまで最新鋭にこだわるの!?」
軽巡棲鬼「ナ、ナンカ、イマ、阿賀野ノ大事ナトコロニ、ハイラレタヨウナ気ガ、シナイデモナインダケド!?」モジモジ
朝潮「……」
由良「……」
泊地棲姫「思ワセ振リナ、言イ回シダナ」
592 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:54:16.35 ID:+ekmNVAbo
提督「あー、それよりもだ。軽巡棲鬼……っつうか、お前のことはどう呼んだらいい? 阿賀野って自覚があるなら阿賀野と呼ぶが」
軽巡棲鬼→深海阿賀野「エ? ソウネェ……ソレジャ、阿賀野デオ願イシマース!」
提督「おう、んじゃこれからよろしく頼むぜ」
朝潮「司令官。今度、あの阿賀野さんに先程やったことと同じことを、朝潮にも試してみていただけますでしょうか」キリッ
マーガレット「え、あの頭の中を見るあれですか!?」
提督「別に試す必要ねえだろ……」アタマカカエ
朝潮「司令官には、この朝潮のことをもっと深く知っていただきたく!」ズイッ!
提督「わかったわかった……そのうちな、そのうち」ガックリ
軽巡棲姫「私ハ、ヤッテモラッタコト、アルワヨォ?」ヒョコッ
朝潮「本当ですか!!」
由良「……」
提督「お前もいきなり出てきて煽ってくれてんじゃねえよ……」アタマカカエ
593 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/07(金) 23:55:01.08 ID:+ekmNVAbo
ということで、今回はここまで。
594 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:05:33.68 ID:OUf9SW8Ho
ルート的にこちらに行っていいものか、ものすごーーく悩みましたが……続きです。
595 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:06:16.70 ID:OUf9SW8Ho
* 夜 提督の寝室 *
提督「ふー……毎日いろいろあり過ぎだ」
扉<チャッ
如月「ふんふんふーん♪ あら、司令官! 今日もお疲れ様でした」
提督「……」
如月「どうしたの? 司令官」
提督「いや……俺の部屋に誰かしらいるのも、なんだか当たり前になっちまったなあ、って、しみじみ思っちまってなあ」
如月「……嫌だったかしら?」
提督「まあ……一人になる時間がない、って点では、少しな」
提督「あとは、俺はもともと他人に依存しなくてもいいように過ごしてきたからな。いまも単純にこれでいいのか、って戸惑ってる」
提督「けど、よく考えりゃ、これまでずっと妖精と一緒だったわけだしな……独りじゃ、なかったんだよな、俺は」
如月「司令官……」
提督「とはいうものの、毎日誰かが日替わりで部屋にいるっつうのも、それはそれでどうなんだ?」
如月「そうかしら?」
提督「なんか、まるで俺がお前たちを毎日とっかえひっかえしてるみたいでなあ……傍から見たらくそみたいな男って感じがしないか?」
如月「私たちが好きで押しかけてるんだもの、そうはならないわよ」フフッ
提督「そうだと嬉しいけどな……」アタマガリガリ
596 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:07:02.08 ID:OUf9SW8Ho
如月「嬉しいの!?」パァッ
提督「いや、嬉しいっつうか……」
如月「違うの……?」
提督「んー、まあ、なんだ。単純に喜べてないのは、俺がはしゃいで調子に乗ってしまいそうで怖いんだ」
提督「嬉しいことは嬉しいんだよ、これまでにないことだったし。それで舞い上がってお前たちに嫌な思いさせたくねえ、ってだけで……」
提督「あと、これまで厳しめに突き放してきてたのに、その態度をひっくり返してるわけだからなぁ。俺、結構な勢いで拒絶してたろ?」
如月「そうねえ……でも、いまはそうでもないんでしょう?」
提督「まあ、いまはな……」
如月「ふふっ、なら、それでいいじゃない。司令官は、これまで死ぬつもりでいて、だからこそ私たちとの関わりを避けてたんでしょう?」
如月「避ける理由がなくなったんだもの。変わって当然だと思うわ」
提督「変わって当然か……なあ、如月?」
如月「なあに?」
提督「俺って、そんなに変わったか?」
如月「ええ、昔に比べたらだいぶ変わったわ。柔らかくなった、っていうか、素直になったって言うか」
提督「んじゃあ、少し前に船の上で肩を並べて話をした時の俺と、今の俺の雰囲気は同じか?」
如月「? それだと、そこまで変わったように思えないけど……それってどういう意味?」クビカシゲ
提督「この前のエフェメラの襲撃で、魔神の魂が目覚めちまっただろ? そのせいで、俺の言動や行動が変になってないか……」
597 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:07:46.65 ID:OUf9SW8Ho
提督「お前から見て、俺の本質的なところが変わってないか、違和感ないかってところを確認したかったんだよ」
如月「ふぅん……そういうことなら、司令官は変わってないと思うわ。だって……」スッ
提督「……!」ダキツカレ
如月「……ほら。こうやって不意に抱き着くと、どぎまぎしてすぐに抱き返してくれないところは、これまでの司令官と一緒よ?」
提督「なるほど……」タラリ
如月「司令官は、自分が変わるのが嫌なの?」
提督「……俺の変化が魔神の力のおかげだと思いたくないってだけさ」
提督「魔神の力を得たから強くなったんじゃなく、お前たちと信じあえる仲になったから……って思いたいだけだよ」
提督「でなきゃ、こうやって如月を受け入れる資格もあったもんじゃないだろ?」ナデ
如月「……司令官って、本当に真面目よね」
提督「こういうのは真面目にならなきゃ駄目だろ? 如月だって冗談のつもりはないんだろうし」
如月「そうね……」
提督「如月……?」
如月「……それじゃあ、司令官? 今日こそは、私の気持ちも、冗談にしないで受け取ってくれる?」ギュ…
提督「っ!」
如月「私は、あなたが答えてくれるのを、ずっと待っていたんだけれど?」
提督「……」
598 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:08:31.14 ID:OUf9SW8Ho
如月「……」
提督「それってつまり……」ポ
如月「……」ポ
提督「そう……だな。あれだけのことを言って、この期に及んでちゃんと向き合わねえのも、どうかしてるな」アタマガリガリ
如月「!」
提督「受け止めきれるかわからねえが、努力はする……それでもいいか?」ダキヨセ
如月「司令官……!!」ヒシッ
提督「ただ、ちょっと、トラウマ持ちなんでな……その、できるだけ、みっともないことにならないようにするけどよ」ムムム…
如月「わ、わかってるわよぅ。私だって、初めてなんだし、ちゃんとできるかわかんないけど……」セキメン
提督「……お、俺だって、至らないところも多々あるっつうか、まともにわかってねえから……き、気負わなくていいんだからな?」セキメン
如月「……」
提督「……」
如月「ねぇ……お風呂、行きましょ?」マッカ
提督「……そ、そうだな」マッカ
* * *
* *
*
599 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:09:16.40 ID:OUf9SW8Ho
* 翌朝 食堂外 テラス席 *
如月「……」ポヤー
電「き、如月ちゃん? どうしたのですか?」
如月「……」ポヤー
電「……如月ちゃん?」ホッペツンツン
如月「! きゃっ!? ど、どうしたの!?」
電「それは電の台詞なのです。さっきからぼんやりしてて……」
如月「そ、そうね……ちょっと、寝不足っていうか……ふふ、うふふっ」ニヘラ
電「……」
扶桑「ああ、こっちにいたのね。如月さん?」
如月「は、はい?」
扶桑「ちょっとお話があるのだけれど……少しだけ、お時間、いいかしら?」テマネキ
如月「? なんでしょう?」
電「寝不足……」
電「……」ポクポクポク
電「……」チーン
電「なのです!?」ズギャーーン!
由良「電ちゃんはどうしたの?」
敷波「さあ?」
600 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:10:01.21 ID:OUf9SW8Ho
* ランドリールーム *
扶桑「……」ニコニコ
如月「ええと、扶桑さん? お話と言うのは……」
扶桑「昨晩のことなのだけれど……」
如月「……!」
扶桑「お誘い、うまくいったのね?」ニコニコ
如月「……そ、それは……」セキメン
扶桑「うふふ、ごめんなさい、どうしてもそれを訊きたくて」ニコニコ
扶桑「ねえ、如月さん? 今後の参考のためにも、そのこと、あとで詳しく聞かせてもらえるかしら?」
如月「あ、あとでですか?」
扶桑「ええ。どういうアプローチをしたとか、提督に何をすると喜んでくれるのか。私のほかにも、知りたい人がいると思うの」チラッ
コソッ
扶桑「ふふっ、はっちゃんも隠れてなくていいのに」
伊8「……ばれてましたか」コソッ
601 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:10:46.28 ID:OUf9SW8Ho
扶桑「はっちゃんのお部屋のお泊り日は明後日だったかしら。だとすると、はっちゃんには先を越されてしまいそうね、うふふっ」
伊8「いよいよ決戦です」フンス!
扶桑「そういうわけだから、今夜お部屋にお伺いしてもいいかしら?」
如月「え、ええ、構いませんけど……その、どうしてわかったんですか?」
扶桑「私は、洗濯した提督のお召し物を、毎日お部屋まで届けてるんだもの。お部屋の匂いで気付くわ?」
如月「ああ……そ、そういうことですか」ポ
伊8「ていうか、扶桑さんも、知らないふりして抜け目ないですよね」
扶桑「そうかしら? はっちゃんだってそうだったでしょう? ずっと提督に迫ってたと思っていたんだけど」
伊8「確かにそうですけど、一番手は如月ちゃんか大和さんあたりだと思って、自分からは一応遠慮してましたよ?」
如月「えっ」
扶桑「そこはそうねえ……でも、その次あたりに、あなたかル級さんあたりが来るんじゃないかって思ってもいたんだけど」
如月「えっ」
602 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:11:31.36 ID:OUf9SW8Ho
伊8「そんなに押しが強く見えましたか……あ、はっちゃんはみんなと争う気はありませんよ?」
伊8「提督のそばにいられればなんでもいいです。それこそ、セフレでもペットでも○○○でも構わないです」
扶桑「まあ、大胆。でも提督は、仮にはっちゃんが望んだとしても、ペットとか○○○扱いはしないんじゃないかしら」
扶桑「提督のことですもの、艦娘の人格や尊厳を損なうようなことは、たとえお遊びの場でも忌避すると思うわ」
伊8「うーん……多分、そうなるでしょうね、逆はあったとしても。如月ちゃんも、昨晩はすごく大事にされたんでしょ?」
如月「えっ!? え、ええ、その……すごく、気を使ってもらったっていうか」セキメン
扶桑「あら、今はダメよ、詳しい話はまた夜に、ね?」
伊8「……わかりました」ウナヅキ
扶桑「それじゃ如月さん、よろしくお願いね」フリフリ
如月「は、はい」
スタスタ…
如月「……」
如月「……な、何を聞かれちゃうのかしら」ポッ
603 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:12:16.41 ID:OUf9SW8Ho
* 一方の執務室 *
電「司令官さんっっ!?」トビラバーーン!
提督「!?」
霞「い、電!?」
ジュリア「な、なんですの!? なにごとですの!?」
防空巡棲姫「チョット、ウルサインダケド」
早霜「……」
電「司令官さんは! 『ああいうこと』が苦手ではなかったのですか!?」
提督「あ?」
霞「? ああいう……?」
ジュリア「何の話ですの?」
防空巡棲姫「意味ワカンナイ」
早霜「電さん。ああいうことというのは、どういうことでしょう?」
電「どういうこと、って、司令官さんは……あの、その」カオマッカ
提督「……!」ピクッ
早霜「……フフ、フフフ」ニヤリ
604 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:13:01.11 ID:OUf9SW8Ho
防空巡棲姫「ネエ、ナンノ話?」ハヤシモツンツン
早霜「電さんは、司令官のナニを問い詰めたいのかしら……?」
電「そ、それは、その……」カオマッカ
早霜「おそらく、司令官が昨晩、如月さんとナニをしていたか……ということですよね?」クリッ
提督「こっち見んな」ポ
早霜「つまり、昨夜はお愉しみだったということですね? 男と女のやることの、最後まで行ったということですね? フフフ……!」
霞「ちょっ……えええ!?」カオマッカ
防空巡棲姫「アア、ソウイウ……ヘー、提督サンモ、スミニオケナインダ」ニヤリ
ジュリア「は、は、破廉恥ですわぁぁぁぁ!!?」ハリセンスパーーーーン!
霞「あ、あ、あんた、何考えてんのよーー!!」
防空巡棲姫「? ……意味ワカンナイ。ソンナニ大騒ギ、スルホドノコトナノ?」
提督「とりあえず、霞も電もジュリアも落ち着け……」アタマカカエ
霞「落ち着いてなんていられないわよ!」
防空巡棲姫「……ソレ、マジデ意味ワカンナイ。ナンデ落チ着ケナイノ?」
霞「えっ!? そ、それは……」
605 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:13:48.17 ID:OUf9SW8Ho
早霜「まあまあ、それはさておいて……それで、司令官は、無事にことを終えたのですか?」ニチャァ…
提督「……一応はな。恥はかかさずに済んだ……と、思いたい。つうか、あまり追及してくれるな、くそ恥ずかしい」セキメン
電「はわわわ……ほ、ほんとうに、ほんとうなのですか……!?」カオマッカ
霞「だとしても、馬鹿正直に答えてるんじゃないわよ……」アタマカカエ
提督「言えばそれきりだ、言い淀んで変な想像を広められたくねえ。俺だってこれ以上話す気はねえぞ」
防空巡棲姫「フーン……提督サン、ソウイウ話、嫌イナンダ」
ジュリア「艦娘とスキンシップが多い割には、その反応は意外ですわね?」
提督「そういう希望が多いから、希望通り対応してるだけだ。俺の方から頼んだりはしてねえよ」
提督「そもそも俺は、学生ん時にひっでえ現場見ちまったショックで、男の能力が不能になっちまったからな」
防空巡棲姫「酷イ現場?」クビカシゲ
霞「知らないほうが幸せよ。とにかく、それであいつはそういう話を忌避するようになったってこと」
提督「ま、そういうことだ。で、この島に来た艦娘も、だいたいが人間に嫌な思いをさせられた艦娘ばかりだった」
提督「とくにセクハラされて逃げてきたような艦娘にとっては、俺がそういう行為のできない人間であるほうが都合がいいだろ?」
早霜「そのせいで、男性不信の艦娘にも、安心してくっつかれていたと」ニヤリ
提督「……まあ、そういう面もあったかもな。とにかく、それを別にしても、艦娘たちには好意的に接してもらえたし……」
606 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:14:32.22 ID:OUf9SW8Ho
提督「一部の艦娘には、しょっちゅうくっつかれたおかげで、多少克服できたというかなんつうか……」セキメン
防空巡棲姫「慣レチャッタンダ」
提督「……まあ、そうだな。すっげえにこにこしながら、くっついて来るんだ。それに俺が癒されてたのも、結果的には事実なんだ」
提督「とにかく、気分を悪くしなくなっても俺のコレが治ったわけじゃなかったから、俺はそれまでのスタンスを保つつもりでいたんだよ」
提督「それが、メディウムがやってきて、魔力槽に入れられて、体のほうも治っちまった。残りは俺の覚悟の問題だった、ってことだ」
ジュリア「魔力槽……キャロラインとの一件ですわね」
早霜「そして、今のままでは嫌だと熱烈に迫られて陥落した……ということですね?」
提督「間違っちゃいねえが、できれば『受け入れる覚悟を決めた』とか言って欲しいけどなぁ。俺が臆病だったのが悪いのは確かだけどよ」
防空巡棲姫「フーン……」
早霜「それで、司令官? 昨晩は、トラウマによる体調不良はなかったんですね?」
提督「そこはまあ、ありがたいことにな」ハァ…
防空巡棲姫「良カッタジャナイ。ナンデ、嬉シソウジャナイノ?」
提督「俺の体が好転したって点ではそうかもしれないが、こういうシモの話って、べらべら話していいもんか? 普通秘めとくもんだろ?」
ジュリア「お堅いですわ……」
防空巡棲姫「貞操観念ガッチガチダネ」
607 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:15:16.13 ID:OUf9SW8Ho
霞「……あああ、もう! とにかく!! まさかあんたが、よりによって駆逐艦に手を出すとは思ってもなかったわ!!」
霞「もうちょっと節度のある男だと思ってたけど、私の思い過ごしだったみたいね!! 見誤ってたわ!!」
提督「ま、ロリコン扱いされんのは当然だとは思うけどよ。如月放っておいて他の奴に手を出すのも、それはそれでちょっとなあ」
霞「!」
提督「確かに、見た目的な意味で、大和とか金剛とか他に適任がいたかもしれねえが……」
提督「なんでかんで俺はあいつに一番心配してもらって、一番世話になってんだ。真っ先に応えなきゃならねえ相手だと思ってたんだが」アタマガリガリ
電「……司令官さん……!」
霞「ああ、そう……で? 今後はどうするの? このことが皆に知れたら、艦娘どころか深海棲艦やメディウムも放っておかないでしょ?」
提督「そうなるだろうな。ま、向き合うしかねえだろ。ひとりひとり」
ジュリア「ひとりひとり? 魔神様をお慕いしている者が何人いるとお思いですの? 両手を使っても足りないのではなくて?」
提督「それでもだよ。逆にまとめて相手しようとするほうが嫌がられねえか? 横着してるように思われそうだろ」
防空巡棲姫「ドッチニシテモ、提督サンノ体力ガ心配ダネ」フフッ
提督「……つうか、霞や電に聞かせる話じゃねえと思うんだが」タラリ
霞「ほんっと今更過ぎるわね!!」マッカ
電「はわわわわ……」マッカ
608 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:16:01.23 ID:OUf9SW8Ho
早霜「私は、そうじゃないと言うの……?」
提督「お前は動じてねえどころか興味津々じゃねえか、言わせんな」
早霜「……フフフ、そうね。よく見てるわね、司令官……」ニマァ…
提督「ぶっちゃけ電もこの話で赤面するようなタマじゃねえと思ってたんだがな。しょっちゅう、あのマリッサにちょっかい出されてんだろ」
電「そ、それはそうなのですけどぉ……」
提督「お前の場合はマリッサが誰かに余計な手出しをさせないために、自分が囮になろうとしてたと思ったが……さては楽しくなってきたか?」
電「そそそそんなことないのです!?」
防空巡棲姫「ツマリ、コノ場デ一番純情ナノハ、コノ艦娘ダッテコトダネ」ジッ
霞「んなっ!? そ、そんなこと……!」
提督「いや、純情って言うのかそれ? どっちかっつうと、この鎮守府で一番常識的でしっかりしてるから、そういう反応なだけだろ?」
霞「……っ!」
ジュリア「あぁら、そうでしょうか。彼女はこの中で一番お子様だと思われたくないんでは?」
提督「ああ? わざわざ厭味ったらしく言い換えてんじゃねえよ、そういう貶めるような言い方すんなよな」
提督「霞が一番分別があるって話で、考え方が大人で節度があって、ちゃんと恥じらいがあるからこその反応だってんだろが」
霞「……っ」プルプル
電(霞ちゃんの顔が真っ赤なのです……)
早霜(ほめ殺しですね)
609 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:16:46.15 ID:OUf9SW8Ho
防空巡棲姫「ジャア、コノ艦娘トハ、性交シナインダ?」
霞「ちょっ、何言ってんのおおお!?!?」
提督「お前、もうちょっと言い方ってもんがあるだろ……」アタマオサエ
電「そう言いますけど、司令官さんも普段の言動はこのくらい無遠慮でストレートなのですよ?」ジトッ
提督「そりゃ悪かったよ、くそが……」
ジュリア「ええと……魔神様? それで、今後は本気で、真面目にひとりひとりお相手するつもりですの?」
提督「ま、当人から希望があればな。何事も、当事者が俺に言わない限りは動かねえってスタンスは、今後も変える気はねえぞ」
防空巡棲姫「フーン……」
早霜「そうだとすると、今夜以降も司令官は夜の個人面談で大忙しですね……フフフ」
霞「どういうことよ」
早霜「確か、今夜は大和さんで、次がル級さんだったはずですね」
電「ああ……絶対、逃してもらえなさそうなのです」
提督「……」
早霜「そのあとの順番で行くと、伊8さん、軽巡棲姫さん、朝潮さん、扶桑さん、榛名さん、泊地棲姫さん、大淀さん……」ユビオリカゾエ
霞「……」
電「いろいろと洒落が通じなさそうな人たちばかりなのです……」
610 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:17:31.30 ID:OUf9SW8Ho
提督「その中だと、楽に構えてられそうなのが朝潮と大淀くらいしかいねえ」アタマオサエ
霞「朝潮姉に手を出したら承知しないわよ!?」ギロリ
提督「出さねえよ。そもそもあいつ、本当に肩を並べて寝てるだけでにこにこしてるから、むしろ俺が癒されてるほうだぞ」
防空巡棲姫「元ル級モソウダケド、姫級ノ二人ハ前カラ提督ニ御執心ダッタシ。マ、ソウナッチャッテモ、ショウガナイヨネ」
ジュリア「本っ当に、魔神様のお体は大丈夫なんですの?」
提督「そこはもう、腹を括るしかねえんじゃねえの」
霞「いいから責任取ってあげなさい。朝潮姉も含めて、私にはどうやっても止められない人たちばかりだわ」マガオ
電「霞ちゃんが匙を投げたのです……」
早霜「明石さんへ、酒保に精力剤でも置くよう進言しましょうか」
提督「変な方向に気を利かすんじゃねえよ……行くなら俺が行く」
早霜「否定はしないのね。フフフ……」
提督「……」
ジュリア「魔神様、しゃきっとなさってくださいませ?」
提督「わかってるよ……ったく」
611 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/06/21(金) 22:18:16.29 ID:OUf9SW8Ho
今回はここまで。
612 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/06/23(日) 00:06:55.82 ID:BIdsH9zZ0
うぽつ、ゆうべはおたのしみでしたね
613 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:09:47.94 ID:bjkl9tyOo
おたのしみでしたねえ。
さてさて、待ち受けるは修羅場修羅場……。
続きです。
614 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:10:32.92 ID:bjkl9tyOo
* その夜 居住区内のとある一室 *
如月「……って感じで……」テレテレ
扶桑「あらあら」ニコニコ
伊8「ふむふむ……」
早霜「フフフ……」ニマニマ
軽巡棲姫「……アァァア……提督、提督ゥウ……早ク、早ク逢イニ行キタイ……!」ウズウズプルプル
戦艦水鬼改「我慢シナサイ。アナタノ順番ハマダデショ?」
軽巡棲姫「ナンデ……ナンデオ前ノホウガ、先ナノヨォォ……!」
ニコ「……」カオマッカ
ヴェロニカ「……ちょっと、ニコ? こういう話が苦手なら、どうして聞きに来ようとしたのよ」
ニコ「ぼ、ぼくは、お姉ちゃんとして、魔神様がどうしてるのか、心配だから聞きに来たんだよ……!」ワタワタ
ヴェロニカ「私はあなたのほうが余計に心配なのだけれど?」ハァ…
ノイルース「……」マッカ
オボロ「……」マッカ
ヴェロニカ「というか、なんであなたたちも縮こまってるの。後学のためとか言ってたくせに、その有様で何か学べると思って?」
615 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:11:17.67 ID:bjkl9tyOo
ノイルース「いえ、何と言いますか……」
オボロ「うむ……ここまで甘露と言うか、甘々と言うか……」
ノイルース「ええ、聞いているだけで顔が火照ってくるような話は、なかなか経験できないと言いますか……」
オボロ「それがしも、まだまだ修行不足か……くっ!」
伊8「意外とメディウムのみなさんは集まりませんでしたね? もっと大挙して押し寄せてくるかと思ってたんですけど」
ヴェロニカ「傍にいるだけでいい、みたいなおこちゃまな子が意外と多いのよ」
ヴェロニカ「今だって坊やのお部屋に表立って定期的に通ってるの、キャロラインくらいでしょ?」
ヴェロニカ「マリッサやケイティーみたいにぶっ飛んでる子もいるけど、マリッサは最初からこの子の話を参考にはしないでしょうし」
ノイルース「それこそ我が道を行きますからね。それからケイティーは引き続き懲罰中です」
伊8「両極端ですね」
ヴェロニカ「そういう艦娘も、坊やに興味がある子が多い割には、これしか集まってないのは意外じゃないの?」
伊8「メディウムとは少し事情が違いますけど……まず、駆逐艦の子たちは呼ばないようにしていました」
早霜「私は、聞いていましたので……フフフ」
伊8「それから、榛名さんは聞きたくない、って言ってましたね。陸奥さんはわざわざ聞くまでもない、って」
ヴェロニカ「むっ……そうなの?」
616 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:12:02.92 ID:bjkl9tyOo
伊8「もしかしたらふたりは、事前に情報を仕入れることで、本番の楽しみを減らしたくなかったのかもしれません」
ヴェロニカ「……ふん、そう」ムスッ
伊8「ヴェロニカさんも、そうしておけば良かったって思ってます?」
ヴェロニカ「別に。そんなことはないわ」プイッ
軽巡棲姫「ソレヨリ、モット話ヲ聞キタイノダケレド……アノ人ハ、ドウシタラ悦ンデクレルノォ……?」ズイッ
如月「えっ? えっと……そうね、司令官は、意外と……ごにょごにょ……」
軽巡棲姫「……ソレ、本当?」
如月「そうだと思うわ……」
戦艦水鬼改「チョット、ナニヲフタリデコソコソ話シテルノ」ズイ
ノイルース「ええ、肝心なところが聞こえませんでしたよ」ズイ
扶桑「内緒は良くないわ? 何の話だったの?」ズイ
軽巡棲姫「」ビクッ
如月「え、えっと……司令官は、キスが好きなんじゃないか、って」
ヴェロニカ「あら」キラッ
オボロ「まことでござるか!?」キラッ
伊8「その辺、詳しくお願いします」キラッ
如月「え? え、ええ、その……実は司令官に……」
ニコ「……///」ミミマデマッカ
早霜「ニコさんも照れていないで、しっかりと聞いたほうがよろしいかと……フフフ」
ニコ「わ、わかってるってば……///」
617 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:12:47.23 ID:bjkl9tyOo
* 一方 工廠 *
明石「それで、みんな如月ちゃんのところに話を聞きに行ったらしくて。今頃あっちは盛り上がってるんだろうなあ」
敷波「……明石さんは興味ないの?」
明石「うーん、ないと言えば嘘になるけど、別に提督とそういうことをしたいとは思ってないかな」
軽巡新棲姫「ヘー、ソウナンダ」
明石「っていうか、敷波ちゃんからそういう話題が出てくること自体、私的には結構衝撃なんだけど?」
敷波「まあ……あたしも、何にも知らないわけじゃないからさ。こういう相談できそうな人、明石さん以外に知らないし」ポ
ブリジット「……し、敷波殿は、意外と、進んでいたのでありますな」セキメン
敷波「別に、進んでもないし。っていうか、進んでるって何さ?」ムッ
ブリジット「あ、いえ、そのぉ……す、すみませんであります……」
軽巡新棲姫「フフッ、フタリトモ、ウブナンダネー」ニマニマ
ブリジット「……かくいう軽巡新棲姫殿は、余裕でありますな?」
軽巡新棲姫「マーネ。ワタシモ、ソウイウ経験ハ無イケド、知識ガ無イワケジャナイシ、ソウイウノガ嫌ダッテワケデモナイシ」
軽巡新棲姫「ッテユーカ、逆ニ、ワタシハ興味ハアルカナー。コノ前ハ、エロ触手ヲ、特等席デ見テタワケダシ?」
敷波「ああ……」セキメン
ブリジット「マリッサの件でありますな……」カオマッカ
618 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:13:32.90 ID:bjkl9tyOo
明石「? 何かあったの?」
敷波「この前、島に攻めてきたあっちの大和さんを、クラーケンがさ……」
軽巡新棲姫「ドロドロノ、デロデロノ、グチョグチョニ、シタンダヨネエ」ニヤニヤ
ブリジット「それを我々も見てしまったのであります……」ミミマデマッカ
明石「……」アタマカカエ
敷波「さすがにああいう普通じゃないのは、あたし、好きじゃないから。その、やっぱり、するんだったら普通のほうが……」モジモジ
軽巡新棲姫「ソレナラ、提督ト普通ニシテクレバ、イイジャナイ」
敷波「ほえっ!?」マッカ
明石「何を唐突に言い出すんですか……」ズツウ
敷波「そ、そんな、やらないよ……!?」
軽巡新棲姫「ソウナノ?」
敷波「その、好き同士ってわけでもないのに、体の関係持つのって変だよ……司令官もそうだと思ってるはずだし」カオマッカ
軽巡新棲姫「フーン。ダッタラ、彼女ニナッチャエバ、イイジャナイ」
ブリジット「押しが強すぎるであります!?」シロメ
619 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:14:17.17 ID:bjkl9tyOo
敷波「かの……っ!? そ、それだって気が早いってば!! 司令官とは、まだそこまでの関係じゃないし……」
敷波「っていうか、他の子もいるしさ? あたしはまだ、今の関係のままのほうが、いいっていうか……」
敷波「司令官ってなんでも背負っちゃうし、変にプレッシャーかけて司令官の重荷にもなるのも嫌なんだよね、なんていうか……」
明石(ああ、甘酸っぱいなあ……)
軽巡新棲姫「フーン。ソレジャ、アタシガ彼女ニ立候補シチャオッカナ」ニンマリ
敷波「!?」
ブリジット「一足飛びすぎであります!?」
明石「いやー、それはそれで大変だと思うけどなあ。だって、ライバルが如月ちゃんに、大和さんに、金剛さんに……」
明石「ル級さん……じゃなくて、今は戦艦水鬼か、あとは軽巡棲姫に泊地棲姫に……さらにはメディウムのみんなにも好かれてるでしょ?」
明石「仮に二股三股が許されたとしても、そこへ割り込んでいくには、相当に大変だと思うんだけど」
ブリジット「群雄割拠でありますな……」タラリ
軽巡新棲姫「ッテイウカ、ミンナ堅苦シク考エスギジャナイカナー。提督サンモ、含メテサ?」
敷波「……まあ、別に誰が彼女になってもいいけどさ。きっと司令官は、みんなを分け隔てなく受け入れてくれると思うよ?」
620 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:15:02.12 ID:bjkl9tyOo
敷波「でも……それで司令官に無理させて、司令官の身になにかあったら、あたし怒るけど。それはいいよね?」ギロッ
明石「……」
ブリジット「……」
軽巡新棲姫「……」
敷波「ちょっと、なんでみんな黙っちゃうの?」
軽巡新棲姫「エ、ダッテ怖イシ……」
明石「提督みたいな目つきしてたから……」
敷波「え、司令官みたいだった?」パァッ
明石「そこで嬉しそうな顔をするのは間違ってるからね?」
ブリジット「敷波殿も愛情が重いであります……」
621 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:16:02.27 ID:bjkl9tyOo
* そして *
大和「提督、ついに契りを結ぶ日が来たのですね……!」
* 次の日の夜 *
戦艦水鬼改「マサカ、コンナ日ガ、来ルトハネ……!」
* その次の日の夜 *
伊8「ずーっと待ってました。待ちくたびれました」シタナメズリ
* そのまた次の日の夜 *
軽巡棲姫「絶ッ対、逃ガサナインダカラァ……!!」
* またまた次の日の(略) *
朝潮「司令官には、朝潮のことを、もっともっと知っていただきたく!!」ズイッ!
* またまたまた次(略) *
扶桑「提督……やっと、あなたに救ってもらった御礼ができるのですね……」
* またま(略) *
榛名「提督になら、榛名は何をしていただいても大丈夫です!!」ハダカリボン
* (略) *
泊地棲姫「私ガ見込ンダ男……簡単ニハ、果テテクレルナヨ……?」
* (ry *
大淀「明らかに寝不足です! ちゃんと寝てください!!」ウワーン!
提督「おう……そ、そうさせてもらうから泣くな」メノシタニクマ
622 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:16:47.18 ID:bjkl9tyOo
* 翌朝 工廠 *
明石「それで大淀はなにもしなかった、と……」
大淀「……」
明石「まあ、お部屋に泊まりに行っただけでも大きな進歩だとは言えるけど……どうして何もなかったのに、目の下にクマができてるのよ」
大淀「……眠れなかったの」
大淀「提督の隣で寝て、静かな寝息を聴きながら……細いなりにごつごつした、血管の浮いた腕と手の甲と、細くて長い指を触ってて」
大淀「提督の寝顔とか寝息とか、その腕とか肌の感触を確かめてるだけで時間を忘れちゃって……気付いたら朝日が昇ってたの」ウフフ…
明石「ふーん」
大淀「それよりも提督が明らかに眠そうにしてるのがつらくって……ずっとお仕事で頑張ってるのに!」
大淀「それからあの部屋! 今やもう完全にヤ○部屋じゃない!! 雄と雌の匂いが微かにベッドに残ってるし!」
明石「ヤ○部屋とかオスメスって、大淀……」ヒキッ
大淀「いいえ由々しき問題です! いくら毎日シーツを洗ってたとしても、あれじゃベッドに匂いがこびりつくのも時間の問題……!」
大淀「あんな環境で、提督が安眠できると思えないわ。早くなにかしら手を打たないと!」
明石「まあ、それなら……一応、もう手を打ったっていうか、有志が動いたって言うか」
大淀「えっ?」
扉<ギィィ…
大淀「!?」ビクッ
623 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:17:32.14 ID:bjkl9tyOo
敷波「……ただいま」ヌッ
明石「あ、おかえりー」
ブリジット「ただいま戻りましたであります」
軽巡新棲姫「Aloha〜」
ヴェロニカ「……邪魔するわよ」
明石「あら、ヴェロニカさんも一緒だなんて珍しい」
大淀「ね、ねえ明石、なんか、敷波ちゃんがイライラしてるみたいなんだけど……敷波ちゃん、何かあったの?」
敷波「あー、あたし? ちょっとさ……説教、してきたの」
大淀「説教?」
ヴェロニカ「ええ。この子が、坊やと『おいた』した子たちを全員呼び出して、もっと体を気遣ってやれ、って、ね」
軽巡新棲姫「目ツキガ、提督サンニ、ソックリデサ。アレ、駆逐艦ノ出シテイイ雰囲気ジャナイヨー」
ブリジット「ぶっちゃけ滅茶苦茶怖かったであります……自分は同席したニコさんと震えてたであります」ガタガタ
明石「まあ、鬼神と呼ばれた艦娘の妹艦だからねえ」
大淀「……」タラリ
624 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:18:17.29 ID:bjkl9tyOo
敷波「これで少しは、みんなが司令官を気遣ってくれるといいんだけど」ハァ…
軽巡新棲姫「Gallery モ大勢イタシ、コレカラハ、ミンナ気ヲツケルンジャナイ?」
明石「でも、ひとりひとりだと次に同衾できるまでのサイクルも長いし、一回一回の行為が濃くなっちゃうのは仕方なくない?」
敷波「そうであっても手加減なしは駄目だよ。結局、それで司令官は寝不足になって、大淀さんが司令官と何もできなかったんじゃない」
大淀「えっ!? いえ、その……まあ、私はまだ、いいん、です、けど……」カオマッカ
敷波「……大淀さんがそう言うなら、ま、いいけどさ」フゥ…
ヴェロニカ「そんなアンニュイな顔するくらいなら、お嬢ちゃんも坊やを襲えばいいのに。人に説教するくらいなんでしょう?」
軽巡新棲姫「野暮ナコト言ワナイノ。ソコハ、乙女ノ事情、ッテヤツヨー?」
ヴェロニカ「……ふん、わかってるわよ」フゥ…
ブリジット「こう言いはしますが、ヴェロニカも言うほど魔神様に迫ってるわけでもないでありますし……」ボソッ
明石「気にはしてるけど手は出せない……つまり敷波ちゃんといい勝負だと」ヒソッ
ヴェロニカ「なんですって?」ジロリ
敷波「何か言った?」ギンッ
ブリジット&明石「「いいえなにも!」」ビシッ!
625 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:19:02.32 ID:bjkl9tyOo
軽巡新棲姫「大淀ハ、次ニ期待ダネー」
大淀「ちょ、ちょっと待ってください、私が提督の部屋に入ったことも、それで何もしなかったことも、皆さん周知済みなんですか」
軽巡新棲姫「ミンナ知ッテルト思ウヨ?」
ヴェロニカ「騒ぎを見に来た子たちも含めてね」
大淀「」シロメ
大淀「」シロメ
大淀「」ヒザカラクズレオチ
明石「ちょっ、大淀!?」
軽巡新棲姫「ソンナンデ、次ハ大丈夫ナノカナー」
ヴェロニカ「駄目に決まってるでしょう、言うまでもなく」
明石「それにしてもさあ、提督をおもちゃにしたいヴェロニカさんと、提督をおもちゃにされたくない敷波ちゃんがさ」ヒソヒソ
明石「同じような理由で似たような溜息をつくのって、なかなか芸術点高いと思わない?」ニチャァ…
ブリジット「自分にはそこまで恋バナを愉しむ余裕はないであります……」ドンビキ
626 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/07(日) 22:21:14.72 ID:bjkl9tyOo
というわけで今回はここまで。
627 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage ]:2024/07/12(金) 17:23:34.63 ID:AZSXcyhM0
幼女か?いやアレね、頑張乙
628 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:47:48.54 ID:O6Y5narxo
もう一方、胸中穏やかではない方がおられるので。
続きです。
629 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:48:31.53 ID:O6Y5narxo
* 一方 時雨の部屋 *
(時雨のベッドの上で山城が時雨に抱き着いて眠っている)
山城「……」スヤ…
時雨「……」
扉<コンコン
電「失礼、するのです」コソッ
吹雪「……時雨ちゃん、入っても大丈夫?」ヒソッ
時雨「うん、どうぞ」ムクッ
朧「それじゃ、お邪魔します」ソロッ
時雨「来てくれてありがとう、みんな座って。僕は、ここから動けないから、このまま話を聞かせてもらうけど」ベッドノフチニスワリ
山城「んむ……」
時雨「大丈夫だよ山城。僕はここにいるから」テヲニギリ
吹雪「……山城さん、相当ショックだったんだね、扶桑さんのこと」
電「今朝からこんな調子なのですか?」
時雨「これでも、だいぶ落ち着きはしたよ。それより、敷波の話を聞かせてくれる? どんな内容だったの?」
朧「うん。えーと、要は、提督に無理をさせるな、って話だったよね?」
630 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:49:16.07 ID:O6Y5narxo
電「なのです。司令官さんが毎日眠そうにしてたのは、結局そういうことだったので……」セキメン
吹雪「司令官が目に見えて弱ってたのを知ってたから、みんな反論しないで、おとなしく聞き入ってた感じだったね」
時雨「……そっか。鬼気迫るものを感じてたから、ひと騒動あるのかと身構えてたんだけど」
電「みんな調子に乗ってたのを自覚してたみたいだったのです。あと、敷波ちゃんの目つきと雰囲気が司令官さんそっくりだったのです」
朧「朧も、あんなに怖い敷波を見たのは初めてだったなあ。ブリジットさんが震えながら抱きついてたニコさんもちょっと気圧されてたし」
吹雪「由良さんも怯えてたもんね。初雪ちゃんだけ全然動じないで見てたのも、ある意味すごかったけど……」
時雨「そっか。見てみたかったなぁ。提督はどうしてたの?」
吹雪「今日はずーっと執務室にいるよ。寝ぼけててサインがぐちゃぐちゃになった書類が多いから、書き直すんだって」
吹雪「霞ちゃんが手伝いに行ったから、心配ないと思うけど」
朧「霞が? 提督と一緒にいて大丈夫なの? 朝潮のときの件で怒髪天になってたから、接触を避けさせてたと思うんだけど」
吹雪「あれは霞ちゃんの誤解だったってことで落ち着いたみたいだよ」
朧「誤解?」
電「あの日は、朝潮ちゃんが自分のことを魔神の力で全部見て欲しいと、司令官さんに迫ったそうなのです」
電「で、実際に見てもらったらしくて、そのあとも迫り続けたらしいのですが、司令官さんに窘められて、そこまでだったらしいのです」
吹雪「朧ちゃんが来る前に朝潮ちゃんがそういう話をしてて、それを聞いてた霞ちゃんが司令官のところに向かったんだよね」
631 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:50:00.93 ID:O6Y5narxo
朧「そうなんだ。じゃあ朧は、霞と入れ違いになったってこと?」
電「そういうことなのです」
時雨「霞が執務室に手伝いに向かったのは、提督へ勘違いのお詫びのためのついで、ってことかな」
電「だと思うのです」
時雨「でも、その様子だと、朝潮が提督とそういう関係になりそうなのは時間の問題に思えるね。根本的な解決には至らない気がする」
吹雪「そ、そうだね……」
扉<トントン
那珂「時雨ちゃーん、入っていい?」
時雨「うん、どうぞ」
那珂「お邪魔しまーす……わあ、お客さんいっぱいだ」
吹雪「あ、那珂ちゃん!」
朧「どうして那珂さんが……あ、もしかして山城さんですか」
那珂「うん。まだ回復してないのかなーって」
632 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:51:00.47 ID:O6Y5narxo
朧「……ねえ、そろそろあたしたちは、おいとましよっか」
吹雪「そうだね。山城さんが起きるといけないし」
山城「起きてるわよ……」ボソッ
電「!」
朧「!」
吹雪「!」
那珂「山城ちゃん!」
山城「話は途中から聞いてたけど……あの邪知暴虐の限りを尽くすあの男を、止めようって話じゃなかったのね」ムクッ
吹雪「むしろ司令官が迫られてて困ってるんですけど……」タラリ
山城「あああ……扶桑お姉様を手にかけるだけに飽き足らず、艦娘どころか深海棲艦をも餌食にしてるだなんて……!」ワナワナ
時雨「山城、大袈裟だよ。深く考えすぎだって」
山城「何言ってるの時雨! このままじゃ、この鎮守府の女たちは全員あの男に食われるわよ!? なんて恐ろしい……!!」
吹雪(私はそれでもいいかなあ……)ポ
朧(……うん、嫌じゃないかも)ポ
電「はわわわ……」ポ
時雨「……みんな、満更じゃなさそうだね?」ボソッ
吹雪朧電「「!?」」
633 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:51:46.59 ID:O6Y5narxo
那珂「うーん、やっぱり山城ちゃんは考えすぎだと思うなあ。少なくとも那珂ちゃんは、提督さんとはそういう関係にはならないよ?」
山城「那珂ちゃん……そうね、那珂ちゃんは、私が守るわ……絶対、提督に渡すものですか」ギリギリギリッ
朧「うわぁ……」
吹雪「山城さん、そんなに扶桑さんが司令官に靡いたことが気に入らないんですか」ヒキッ
山城「ええ気に入らないわ。扶桑お姉様は、かつての鎮守府でこれ以上ない扱いを受けていたのよ……」
山城「あいつを……D提督を殺した後、扶桑お姉様は、自分の中に何もなくなってしまったと言っていたわ……」
山城「それほどまでに、耐え難い屈辱と怨嗟を抱えていた扶桑お姉様を支えることこそが、この山城の役目……だと言うのに!」
山城「よりによってあの男が! 扶桑お姉様の……お姉様の……ぅあああああ!!」アタマカカエ
那珂「山城ちゃん落ち着いてー!?」
吹雪「これは重症だね……」
時雨「これでも落ち着いたほうなんだけどね?」
電「山城さんは欲張りなのです」
山城「!?」
朧「ちょっと、電……?」
電「だって、そうなのです。山城さんは、扶桑さんにはずっと山城さんを見てて欲しいって考えてるように見えるのです」
時雨「……」
634 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:52:31.50 ID:O6Y5narxo
電「そのうえ、那珂ちゃんのことも、ファン1号だからってすごく熱心に追いかけてますし」
電「いまも、時雨ちゃんのことをそうやって独り占めしてるのです」
電「山城さんこそ、山城さん自身に都合の良い世界を作ろうとしてるのではないですか?」
山城「んなっ!? そ、そんなこと……!!」
電「だったら、扶桑さんや時雨さんを解放して欲しいのです。時雨ちゃんは、敷波ちゃんのことを気にかけていました」
電「でも、山城さんが心配だから、電たちに話の内容を聞かせて欲しいって頼んできたのです」
山城「私が……私が、時雨の邪魔をしてるっていうの……!?」
電「……」
山城「邪魔なんかじゃないわよ……私は、ただ……」
山城「私は、ただ、時雨と一緒にいたいだけよ……それが、悪いっていうの?」
山城「あのD提督のせいで、顔を合わせてもろくに話もできず! やっと一緒に出撃できたと思ったら、轟沈させられて!!」
山城「その上、時雨まであんな目に遭わせて……私は……私は、時雨と、何もできなかった。時雨のために、何もできなかった!!」
山城「その時間を取り戻したいだけよ……扶桑お姉様と……時雨と……あの時、どうやっても手に入らなかった、あの時間を……」ポロポロポロ…
山城「私は……扶桑お姉様と時雨の笑顔を、ずっと見ていたいだけよ……それだけなのよ……!!」
635 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:53:16.26 ID:O6Y5narxo
朧「……えっと、那珂さんは?」
山城「そんなの歌ってる那珂ちゃんの笑顔と歌声が最高過ぎてずっと見ていたいだけに決まってるじゃない」デロリ
吹雪(怖っ!?)
朧「い、いまの話に、那珂さんが出てこなかったから……」
山城「それとこれとは話が別よ? 区別して当然でしょう?」
山城「あんな不幸のどん底みたいなD提督鎮守府の思い出に那珂ちゃんを巻き込もうだなんて暴挙は絶対に許しておけないわよ?」
朧「そ、そういう意味ですか」
山城「そうでなくても那珂ちゃんがここに来るまで、どれほど不幸極まりなかったか……!」
那珂「山城ちゃん……!」
朧「……」
山城「……わかってるわよ。電の言う通りよ」
山城「こんなの、どうせ私の独り善がりだって。扶桑お姉様の笑顔が、私以外の誰かに向くのが、気に入らないだけ」
山城「那珂ちゃんの歌だって、私が聴きたいから。時雨にすがっているのも、私が甘えたいだけ……それが、私の幸せだから」
山城「……でも、扶桑お姉様にも、那珂ちゃんにも、時雨にも……幸せに、なって欲しいって気持ちは、本当よ……」ウナダレ
時雨「山城……」
吹雪「……」
朧「……」
636 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:54:01.42 ID:O6Y5narxo
電「……山城さん?」
山城「……なによ」
電「司令官さんも、みんなに幸せになって欲しいって気持ちは、一緒ですよ?」
山城「……」
電「司令官さんは、きっと、山城さんの幸せも叶えてあげようとするのです」
電「島にいるみんなに、笑顔でいて欲しいって……そのために、司令官さんはいつも行動しているのです」
山城「だからわかってるわよ、そんなこと……あいつが、それこそ邪知暴虐の限りを尽くして、人間たちを追い払って」
山城「どんな手を使ってでも、自分がどんな目に遭ってでも、私たちを幸せにしようとしてることくらい、わかってるわよ……!」
時雨「それで扶桑が提督を褒めるのが気に入らないだけだよね。実際山城が陣頭指揮取ってそういうことしたわけじゃないし」
山城「……うぐ……っ」
吹雪「あー……」
電「時雨ちゃん、核心を突いちゃったのです」
那珂「んもー、山城ちゃんったら、大人げないんだから〜」
山城「……うう、那珂ちゃんに言われたら返す言葉もないわ」グスグス
637 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:54:46.25 ID:O6Y5narxo
時雨「ねえ山城? 山城は、ずっと扶桑に見ててもらいたいの?」
山城「……そ、そうよ」
時雨「ふーん、そっか……ねえ、山城……?」
山城「なによ……」
時雨「僕じゃ、ダメかな?」テレッ
山城「!?」
時雨「山城がそうだったたように、僕も、扶桑や山城とのコミュニケーションを、ずっとD提督に邪魔されていたんだ」
時雨「それどころか、八つ当たりも同然の山城たちの悪口を、ずっとD提督から聞かされてて、不愉快で仕方なかったよ」
時雨「山城たちに嘘をついて、沈めたと聞いた時は立っていられなかった」
山城「……」
時雨「それで、D提督のところから逃げて、轟沈して。山城たちと出会った後も、僕はずっと、この島の様子を眺めてるだけだった」
時雨「すぐそこに山城も扶桑もいるのに、全然話が出来なくて、触れることもできなくて……すごく寂しかったんだ」
山城「時雨……」
時雨「こうやって、やっとみんなと触れられるようになった後も、山城からは避けられてた気がしたんだよね」
638 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:55:30.91 ID:O6Y5narxo
時雨「扶桑からは逆に思いっきり抱き着かれたけど。ねえ、山城はなんで僕とのスキンシップは避けてたの?」
山城「す、スキンシップって、お、おかしいでしょ!? 戦艦が、駆逐艦にべたべたしてたら……!」
時雨「今朝はそうでもなかったじゃないか。山城は、つらくなったから僕に頼りに来たんじゃなかったの?」
山城「そ、それは……」
時雨「ああ、もしかして扶桑に遠慮してたのかな? 僕は構わないよ。むしろ、もっと触って欲しいな」ニコ
山城「あ、あんた、何を言い出すの……!?」
時雨「僕の正直な感想だよ。扶桑が提督に靡いたことに落ち込んで、僕を頼ってきたのも、扶桑には悪いけど嬉しかったし……」ズイ
時雨「不貞寝するときに抱き枕にされたのも、悪い気分じゃなかった……っていうか、むしろ役得? って感じだったし、ね」テレッ
山城「……じょ、冗談は、やめなさいよ……」
時雨「冗談? それこそ冗談じゃないよ。そうじゃなきゃ、僕のベッドで山城を寝かせる理由がないと思うんだけど?」ズズイ
山城「……っ」
時雨「だからさ」オシタオシ
山城「っ!」オシタオサレ
時雨「僕はもっと山城に触れ合いたいんだ。山城も……僕のこと、もっと好きにしていいんだよ……?」オオイカブサリ
山城「……っっっ!!」ゾクゾクゾクッ
639 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:56:15.92 ID:O6Y5narxo
時雨「ふふっ、山城、耳まで真っ赤だ。恥ずかしいの? それとも……興奮してるの?」フーッ
山城「っ、ちょ、ちょっと待ちなさい時雨! みんな見てるでしょ!?」アセアセ
時雨「みんな?」フリムキ
ガラーン
山城「」
時雨「みんななら空気を読んで部屋から出て行ってくれたよ?」
山城「……ウソデショ?」
時雨「僕の部屋に来て、ベッドに入って……ふたりっきり」ポ
山城「」
時雨「なんて顔してるのさ。朝に山城が訪ねてきたときだって、同じシチュエーションだったじゃないか」
時雨「山城……いいよね? 山城も好きにしていいから、僕も……」ニコ
山城「ちょ、待っ、しぐっ、こ、こころの、準備が……!!」
時雨「……嫌なの?」ションボリ
山城「えっ!? い、いえ、嫌じゃないけど……」
時雨「やったぁ」ニマァ
山城「ひっ」
640 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:57:00.81 ID:O6Y5narxo
* 時雨の部屋の外 *
那珂「聞き耳立てちゃ駄目だよ?」
電「……気になるけど、仕方ないのです」
吹雪「時雨ちゃんも、山城さんのこと心配してたからね……」
電「荒療治が必要だって言ってたのです」
朧「だ、大丈夫なのかな……」タラリ
那珂「うーん、でも那珂ちゃん、山城ちゃんの気持ち、ちょっとわかるなあ」
電「そうなのですか?」
那珂「うん。だってほら、那珂ちゃんはアイドルでしょ? アイドルは恋愛禁止とか言われたりするじゃない?」
那珂「みんなに夢を与えて、みんなから愛される存在だからこそ、現実をにおわせるような行為は忌避されてるって言うか」
那珂「あんまり自分であまり言いたくないけど、ぶっちゃけアイドルって清廉さと言うか、処女性を求められてると思うんだよね!」
電「ぶっちゃけすぎなのです!?」
那珂「きっと山城ちゃんは、扶桑さんにもそういうのを求めてる気がするんだよねー」
朧「ああ……!」
那珂「山城ちゃんにとって、扶桑さんは支えなきゃいけない相手って言うのもあるけれど」
那珂「それ以上に憧れを抱いてる感じでしょ? 崇拝の対象になってる。だから神聖視して偶像化して……綺麗さを求めすぎてる感じ?」
641 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:57:45.94 ID:O6Y5narxo
那珂「神様みたいな存在だから、ずっと綺麗なままでいて欲しい、ずっと高嶺の花であり続けて欲しい、みたいな」
那珂「だからこそ、自分が触るのも恐れ多いのに、どうして提督さんが、って思ってるんだと思う」
吹雪「……綺麗なものを、ずっと綺麗なままで取っておきたい、ってことなのかな?」
那珂「そういうことだと思うなあ」ウンウン
那珂「扶桑さんに処女性求めてるってのもあるし、その扶桑さんを寝取られたのが悔しいってのもあるんだろうけど」
電「だからぶっちゃけすぎなのです!」
朧「でもそれじゃ、扶桑さんを縛ることになるんじゃ……あ、それで電が解放しろって言ってたのか」
電「なのです。司令官さんは好きにしろと突き放しますが、山城さんは逆なのです」
那珂「山城ちゃんは結構、独占欲が強いと思うよ? 那珂ちゃんのことも大事にしてくれるけど、ちょっと用心深すぎるってくらいだし」
那珂「握手するときも恐る恐る触ってる感じ? 腫れ物扱いじゃないけど、割れ物に触るような……大事にされてる感はすごかったなあ」
那珂「多分、時雨ちゃんに対しても、必要以上に気遣ってくれてる感じはするね!」
朧「気に入った人に対する過保護が過ぎる感じですかね……」
那珂「そういうところは提督さんとそっくりだよね、素直じゃないところとか、ベクトルが違うけど面倒臭いところとかも含めて!」
那珂「山城ちゃんは絶対認めようとしないだろうけど! あ、提督さんも認めたがらないかな?」
電「那珂さん今日はいろいろぶっちゃけすぎじゃないですか!?」
642 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:58:31.44 ID:O6Y5narxo
那珂「とにかく、山城ちゃんの扶桑さんに対する理想が崩れちゃったからこそ、時雨ちゃんに甘えたくなっちゃったんだろうね」
那珂「那珂ちゃんに抱き着くのは山城ちゃん的にはご法度みたいだし、だから時雨ちゃんに向かったんじゃないかな」
吹雪「そっかぁ……確かに山城さん、ちょっと潔癖なところもありますもんね」
電「……あの、いま思ったのですけど、まずくはないですか?」
吹雪「なにが?」
電「山城さんが時雨ちゃんにも清廉さや潔癖さを求めているとしたら、今まさに時雨ちゃんがそれをぶち壊そうとしてるわけですよね?」
那珂「……」
吹雪「……」
朧「……」
電「……」
那珂「那珂ちゃん的には、これ以上いい方法が思いつかないかなあ。頑張って! ってしか言えないなー」
吹雪「えっ」
朧「えっ」
電「いっそのこと、山城さんは一度、現実をしっかり見る必要があると思うのです」
那珂「電ちゃん厳しーい!」
吹雪「……山城さん、立ち直れるのかな」
朧「どうだろ……」アタマカカエ
643 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 12:59:16.57 ID:O6Y5narxo
* 後日談 *
扶桑「……山城?」ジロリ
山城「ひっ!? ど……どうされました、扶桑お姉様」
扶桑「あなた、時雨と一緒のお布団でお休みしたんですって?」ジトッ
山城「はうっ! そ、それは、そのお、お休みと言いますか……」シセンオヨギ
扶桑「……時雨のお部屋のお布団で、抱き合って寝たと聞いたのだけれど?」ジトッッ
山城「ど、どこからそんな話が漏れたんですか……!?」
扶桑「やっぱりそうなのね……!? 山城ったら、私を差し置いて時雨と仲良くして……」
山城「……! ふ、扶桑お姉様? そ、それはですね……」
扶桑「山城ばかり、ずるいわ……!」
山城(扶桑お姉様が、私に嫉妬してる……!?)ゾクゾクッ
扶桑「山城? どうやって時雨と仲良くなったのか、教えなさい? 私、時雨にはちょっと避けられてるのよ?」ガシッ
山城「ふえっ!? ちょ、ちょっと待っ」
扶桑「どうなの? やーまーしーろー?」ズズイ
山城「ふあああ!?」
山城(ほほを膨らませて迫ってくる扶桑お姉様可愛いいいい!?)
提督「何やってんだ、あのふたり」
時雨「イチャイチャしてるだけだから、放っておいていいよ」
644 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/07/15(月) 13:00:00.52 ID:O6Y5narxo
というわけで今回はここまで。
645 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2024/07/16(火) 08:26:38.59 ID:/GQVRtUJo
那珂ちゃんさんのぶっちぎりな吹っ切れ具合たまらんねw
646 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:34:02.53 ID:P7OtzRTpo
お待たせしました、続きです。
今回はメディウムは別行動中です。
647 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:34:47.07 ID:P7OtzRTpo
* 数日後 *
* 墓場島 埠頭 *
(墓場島沖で黒煙を上げながら沈む輸送船)
与少将「中将閣下あああああ!!!」ウワーン!
武蔵「少将殿、落ち着いてくれ! 私の水偵から、中将閣下が船から脱出されたとあった!」
与少将「本当かああああ!!!」ウワーン!
提督「うるせえな……無事だから安心しろ。ほれ」ユビサシ
ザザァ…!
大和「提督! 中将閣下をお連れしました!」
中将「す、すまんな大和」ダキカカエラレ
与少将「おおお、よくぞご無事でぇぇぇ!!」ウワーーン!
提督「ご苦労さん。中将だけか?」
大和「はい、他の人たちはすでに逃げていたようで、船内には誰もいなくなってまして……」チュウジョウオロシ
提督「中将残して全員逃げたってか? ひっでえなそれ」
648 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:35:34.54 ID:P7OtzRTpo
武蔵「そんな状況で中将閣下は大丈夫だったのですか」
中将「儂は問題ない。が、他の者は、退避の指示を出すより先に、彼女らを見て一目散に逃げてしまってな……」ジメンニスワリコミ
提督「……まあ、無理もねえかな、この面子じゃ」
南方戦艦新棲姫「アイツラ、ビビリスギジャネ?」
欧州水姫「マッタクダ。コチラハ、手ヲ出シテモイナイ上ドコロカ、船ヲササエテ、助ケヨウトシテイタノダゾ」
防空巡棲姫「マァ、戦艦多イシ、迫力アッタンジャナイ。ナンカ、アタシ出ルマデモナカッタ感ジ?」
戦艦水鬼改「アノ船ガ沈マナイヨウニ、掴ンデタダケナンダケド……ネェ?」
戦艦水鬼改の艤装『グゥ……』ションボリ
陸奥「船体がメキメキと音を立ててたから、船そのものを潰されるんじゃないかって勘違いしたんでしょうね」
中将「それと、おそらく、船を支えた際に、砲口がこちらを向いてしまったせいだろうな」
戦艦水鬼改「ソレハ、タマタマ、ヨ? 提督ニ言ワレタ通リ、撃ツツモリハ、ナカッタンダカラ」
中将「申し訳ない。船員たちが、この鎮守府の事情をよく理解していなかったがゆえの失態だ」ペコリ
陸奥「それで提督? こっちの子たちはどうするの?」
提督「んー……そうだな」
649 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:36:17.06 ID:P7OtzRTpo
葛城「姫級と鬼級が合わせて4隻……」
瑞鳳「どうして深海棲艦に艦娘が随伴してるのぉ……!?」ビクビク
天津風「……い、いったいなんなのよ、あんたたち……!」
春風「み、皆様、油断なさらぬよう……!」
夕張「と、とにかく落ち着いて。刺激しないように、いまはおとなしく従いましょ……?」
南方戦艦新棲姫「イマハ?」ジロリ
夕張「ひっ」
欧州水姫「アマリ、カラカッテヤルナ」
南方戦艦新棲姫「ワルイワルイ」テヘペロー
夕張「」シロメ
提督「中将、こちらの5人の艦娘たちは?」
中将「彼女たちは、奈准将の艦娘だ。今回、我々の乗った輸送船の護衛任務を、奈准将配下のこの5名が請け負っている」
提督「奈准将? 聞いたことがねえな……」
中将「今回、海外の泊地に着任することになった提督たちがいるが、そのうちのひとりの上官だ」
650 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:37:02.08 ID:P7OtzRTpo
中将「奈准将も、問題行動の多い部下に困り果てていてな。今回の海外泊地への移籍の話で、その彼の部下も送り届けることになったのだ」
提督「なるほど……上官としての義理を立てて、艦娘を派遣したってことですか」
武蔵「それより、いったいなにがあったんです? 中将閣下の乗った船が、煙を上げていたように見えましたが……」
中将「この島の領海近くを航行中に攻撃を受けた。魚雷のようなのだが、どうも流れ弾らしいのだ」
武蔵「流れ弾ですか?」
中将「この海域の近くに差し掛かった時に、島の反対側から向かってきたらしい魚雷が艦底に複数被弾し、航行不能に陥った」
中将「ただ、随伴した空母の艦娘たちも、この近辺で戦闘の形跡はないと言う」
中将「状況的には、どこかの戦闘の流れ弾と考えるほかないのだが、直接の原因は残念ながら確認できなかった」
武蔵「それで救援要請が出ていたのですね」
中将「うむ。護送中の乗員を緊急用の脱出艇に乗せ、船員が追って脱出の準備をするところまでは持ちこたえていたのだが」
中将「いよいよ船が傾き沈み始めたところを、彼女たちに助けられたというわけだ」
戦艦水鬼改「チョット、危ナカッタワネェ」
中将「君たちのおかげで、儂も沈む船から脱出ができたと言えよう。感謝申し上げたい」
651 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:37:47.69 ID:P7OtzRTpo
中将「……ただ、先に言った通り、船員たちは彼女たちに襲われたものと勘違いしてしまってな」
武蔵「それで中将閣下が置き去りにされたと!?」
中将「船長である儂がしんがりを務めるのも想定内ではある」
武蔵「いえ、そう仰られましても……!」
中将「それに、彼らの胸中を考えれば致し方ない。儂が彼らとまともに顔を合わせるのも、今回が最初で最後であろうし」
中将「引退間近の儂に媚びを売ってもどうにもならんと思ったのだろう。自らの命を優先するのも、当然と言えば当然の判断ともしれん」
与少将「おいたわしや中将閣下ぁぁぁ!!」ウワーーーン!
提督「……ところで、奈准将は俺たちのことは知ってるんですか?」
中将「いや、そこは儂もよくわからん。そちらの艦娘たちにも、君たちのことについては何も話しておらんからな」
提督「奈准将がどんな人物かご存知で?」
中将「残念ながら、数回顔を合わせた程度だ。真面目そうな印象ではあったが、彼がどんな思想の持主かは、心得ていない」
提督「なるほど……おい、お前ら」
瑞鳳「ひっ!?」ビクッ
652 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:38:32.08 ID:P7OtzRTpo
提督「お前らは、この島のことについてどれだけ知ってる?」
春風「え……し、失礼ながら、どういう意味でしょう? わたくしたちは、この島がどういった場所なのか、皆目見当もつかないのですが」
提督「かつて墓場島と呼ばれていた島、って言えば、少しは知ってるか?」
葛城「はかばじま……?」
夕張「……うえっ! も、もしかして最近話題になった、深海棲艦に割譲した島!?」
天津風「えええ!? こ、ここが!?」アオザメ
春風「深海棲艦の領土、ですか……」マッサオ
葛城「み、みんなに手出しはさせないわよ……!」
瑞鳳「か、葛城さぁん!」ヒシッ
陸奥「そこまで怯えなくてもいいんだけど。どうなってるの? この島の評判」
提督「俺はこのくらいの反応返すくらいがいいけどな。おいそれとこの島に入ってきて欲しくねえし」
与少将「まあ、そこはあれじゃな。彼女らが怯えちょるんは、先日X大佐から、この島に関する少し物騒な文面の通知を出したせいじゃろ」
提督「ああ……確かにこの前、そんな話をしたばっかりだな。X大佐は仕事が早くて感心するぜ」
653 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:39:17.15 ID:P7OtzRTpo
武蔵「しかし提督よ、この島は、そこまで無差別に誰もかれも殺すような者たちばかりではなかったんじゃないのか?」
葛城「そ、そうなの……?」
提督「いや、残念ながら、今はそうでもねえぞ」
葛城「え」
武蔵「それは、他国から侵攻を受けているという話が原因か?」
提督「まあな。あとは盗掘目的の海賊もどきもたまに来る」
武蔵「海軍の支配下ではなくなったことで、無法地帯化しているという話は事実だったということか」
提督「ああ。だから、俺たちに話を通さず無許可で上陸しようとする連中は、例外なくすべて殲滅してる」
天津風「ちょっと待ってよ! それじゃ、護送中の人たちはどうなるの!?」
提督「中将と一緒にいたなら無事だったかもしれねえが、そうじゃなけりゃ命の保証はねえな」
瑞鳳「そんな……!?」
春風「あ、あの……そういった事情がありながら、わたくしたちもですが、中将閣下を助け出したのは、どうしてなのですか?」
提督「中将に関しては俺の元上官だからな」
春風「そうなのですか……!?」
提督「そのよしみもあって、事前にこの辺通るって話も聞いてたんだ。で、ここ一帯の海域の哨戒もして、万が一の出撃準備もして」
654 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:40:02.13 ID:P7OtzRTpo
提督「それで見送るだけだと思ってたんだが……それがまさかこうやって艦隊出す羽目になるとはな」
葛城「……私たちは本当に運が良かったのかしら」
提督「流れ弾か何かの魚雷食らって船を沈められてんじゃねえか。それを運が良いとは言えねえよ」
葛城「そ、それもそうね……」
天津風「あの、ちなみにそっちの女の人は……」
提督「本営の与少将だ。中将の後任で、X大佐と一緒にこの島の対応をしてもらってる。俺たちからすると、海軍との窓口役だな」
提督「で、こっちの武蔵は俺の部下なんだが、与少将のところに籍を移そうか検討中。だよな?」
武蔵「ああ、そうだ」
提督「で、与少将や武蔵がこの島に来たのは、今後の話をしたり、うちに貨物を輸送するためなんだが……」
提督「このタイミングでこの島に寄ったのは、中将の最後の仕事を見送りたかったから、だよな?」
与少将「そん通りじゃ! なんせ中将閣下の最後の仕事と聞いちょったからの! それがあのような目に遭われるとは……!」
葛城「それじゃ、中将はここの深海棲艦とも知り合いってことなの?」
提督「いや、中将と面識があったのは大和だけのはずだ」
戦艦水鬼改「私、コノ人間トハ、少シダケダケド面識アルワヨ?」
提督「そうなのか?」
655 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:41:02.11 ID:P7OtzRTpo
中将「む……すまない、儂は鬼級の深海棲艦とは初対面なのだが」
戦艦水鬼改「アア、アノ時ハ、ル級ダッタカラ、気付ケナイト思ウケド」
中将「ル級……? もしや君が、この島が焼けた時にあの海で出会った深海棲艦の一人だというのか」
南方戦艦新棲姫「ソレ、アタシタチモ、ソコニイタヨナ?」
欧州水姫「アア。ソコニイタ人間ノ顔ハ、アマリ見テイナカッタガ……我々モ、ソノ場ニイタコトハ、確カダ」
中将「……戦艦クラスということは、君たちはタ級かね……!」
欧州水姫「ホウ……覚エテイルノカ?」
中将「ああ、忘れられんよ。儂が初めて対話した深海棲艦だ。ル級が1人、タ級が2人、ヲ級が1人、ツ級が2人……覚えておるとも」
中将「もしや、そちらの君もそうなのかね」
防空巡棲姫「ンー、話シテナイケド、一応ネ。ツ級ッテ呼バレテタンダッケ、アタシ」
中将「なるほど、君もそうか……姫級や鬼級となるような者たちと仲良くしておるとは、提督は友に恵まれておるな」
与少将「おおお……中将閣下も、深海棲艦と対話を果たされておられたとは……!」
春風「そのようなお話、わたくしたちは初めて耳にしました……」
提督「俺たちのことは、あまり良いように言いふらさないで欲しいって頼んでるからな。興味本位で海域に出入りされても困るしよ」
葛城「でも、ここって、割譲する代わりに深海棲艦と人間が友好関係を結ぶための場所を設けてくれたんでしょ?」
提督「そういう場所だからこそルールは厳格にしとくもんだぜ。それに、そもそも俺は基本的に人間や海軍を信用してねえ」
656 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:41:46.90 ID:P7OtzRTpo
春風「そ、それではなおのこと、わたくしたちを助ける理由がなくなるのでは……?」
戦艦水鬼改「提督ハ、人間ガ嫌イナダケヨ。艦娘ヤ深海棲艦ハ別ナノ」
春風「そうなのですか……?」
武蔵「ああ。もともとこの島には轟沈した艦娘が良く流れ着く。その艦娘を助けてきたのがここの提督だ」
中将「轟沈した艦娘は深海棲艦になる、というのが海軍の通説だ。だが、彼はそれを承知で、儂に轟沈艦娘を運用したいと申し出たのだ」
中将「何より、捨て艦をはじめとした人道に反した艦娘の扱いに憤っておった。彼が深海棲艦に好かれるのも、彼の人徳ゆえだろう」
提督「……」アタマガリガリ
瑞鳳「そんなことがあったなんて……」
葛城「なんていうか、未だに信じられないけど……こんなに穏やかに深海棲艦たちと話せていること自体が、その証拠なんでしょうね」
夕張「し、信用していい、んですよね……?」
防空巡棲姫「シタクナイナラ、シナクテモイインジャナイ」
夕張「!?」
欧州水姫「ダカラ、アマリ、カラカッテヤルナト言ッテルダロウ」
防空巡棲姫「ンー、カラカッタツモリ、ナイケド」
南方戦艦新棲姫「アトランタハ、相手スルノガ面倒ナダケダロ?」ニヒヒ
657 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:42:32.17 ID:P7OtzRTpo
欧州水姫「……話ヲ、ヤヤコシクスルナ」アタマオサエ
提督「いや、俺も同意見だぞ。したくないなら、しなくていい」
防空巡棲姫「エ、ソウ? ヤッタネ、イエーイ」ピース
夕張「」
欧州水姫「……イエーイジャナイ」アタマカカエ
陸奥「ほらほら、あんまりこの子たちを困らせてあげないの。ごめんね、提督って去る者追わずな人だから」フフッ
欧州水姫「アノ男ハ、来ル者モ追イ返スヨウナ、勢イジャナイカ?」
南方戦艦新棲姫「面倒ゴトガ、嫌イダシナ」ニヒヒ
提督「さてと、俺は様子を見てくるか。ボートっぽいのが島に向かって流れてきてたし、そいつらもその辺に漂着してんだろ」
瑞鳳「……そ、それなら、私たちも、行かないといけなくない……かな?」
葛城「そ、そうかもね……」
提督「あ、それはやめとけ。お前らもこの島じゃ見ない顔だ。島の連中に敵認定されてうっかり殺されても困る」
瑞鳳「」
葛城「」
658 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:43:17.25 ID:P7OtzRTpo
提督「とりあえず、奈准将は俺たちのことをあまり知らないみたいだな。どんな奴なんだ?」
葛城「……ちょっと。『奴』って言い方はないんじゃない?」ムスッ
提督「ふーん……そういう反応返すってことは、まあまあ慕われてるみたいだな」
葛城「!」
提督「陸奥、悪いが中将たちを任せていいか? なんなら食堂に案内して茶でも飲んでいてくれ。俺は海岸を見て回ってくる」
陸奥「ええ、わかったわ。任せて頂戴」
武蔵「中将閣下。いま、与少将の船から車椅子を持ってきてもらっています。到着し次第、館内に入らせてもらいましょう。提督、いいか?」
提督「おう、この奈准将んとこの艦娘も一緒に案内して、楽にしててくれ」
中将「すまないな、提督」
大和「提督! 私は提督にご一緒してよろしいですか?」
戦艦水鬼改「私モ、着イテ行ッテイイ?」
提督「ん? 来てくれるなら助かるが……相手が相手だ、気分が悪くなるかもしれねえぞ?」
戦艦水鬼改「大丈夫ヨ、構ワナイワ」
提督「そうか? じゃあ頼む」
大和「さあ、参りましょう!」
スタスタ…
659 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:44:01.76 ID:P7OtzRTpo
欧州水姫「フゥ……ノドガ渇イタナ。余モ Tea Time ニスルカ」
南方戦艦新棲姫「アア、Coffee break ダナ」
欧州水姫「……」ムム…
南方戦艦新棲姫「……」ニヤリ
防空巡棲姫「喧嘩シナイデネ。仲裁スンノ面倒臭イカラ」
欧州水姫「ワカッテイル。陸奥ヨ、余ハ先ニ行クゾ」
陸奥「ええ、いってらっしゃい、お疲れ様」ヒラヒラ
スタスタ…
与少将「深海棲艦たちが漫才しちょるところを見られる日が来るとはのう」
中将「微笑ましい光景だ。触れ合うことが出来なくても、我々人間と艦娘、深海棲艦が、相争わず、あのように並んで歩ければ……」
武蔵「……ええ」ウナヅキ
瑞鳳「そ、そんな呑気なこと言ってていいんですかね……」ビクビク
天津風「……い、一体全体、なんなのよ、ここは……」アタマカカエ
660 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:44:47.11 ID:P7OtzRTpo
葛城「それよりさ、私たち、どうなるんだろうね」
夕張「それは、もうおとなしくしてるしかないんじゃ……」
葛城「そういう意味じゃなくて。仮に無事に戻ったとしても、私たち、任務失敗してるじゃない」
夕張「……」
春風「逃げた皆様がご無事であればよいのですが……」
中将「戻った後の事情は儂が説明しよう。少なくとも、君たちは己の責務を果たしている。差し出すのは儂一人の馘で良かろう」
与少将「何を仰いますか! あれは中将閣下のみの責ではありませぬ!」
武蔵「私の水偵も、上空から様子を撮影しています。その映像も出せば、提督たちが保護しようとしていた様子も確認できるでしょう」
中将「……すまんな、皆」
武蔵「ところで……この中では葛城が旗艦か?」
葛城「そうですけど……」
武蔵「奈准将とお前たちのことについて、道すがら教えてくれないか」
武蔵「我々も後で話をすることになるだろう。どんな人物か、お前たちはその鎮守府でどんな立場なのかを知っておきたい」
葛城「……わかりました」
661 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:45:32.15 ID:P7OtzRTpo
* 食堂外 テラス席 *
間宮「あら? 陸奥さん、こちらの皆さんは?」
陸奥「中将の船を護衛していた艦娘のみんなよ」
間宮「……ということは、提督の計画通りに船を襲撃できたんですね?」ヒソッ
陸奥「そういうことになるわね」ヒソヒソ
那智「ここが食堂ですね」(←中将の乗る車椅子を押している)
中将「おお……深海棲艦もこのような住まいで暮らすことができているのか。これは興味深い」
あきつ丸(与少将配下)「……まさか、我々がこの島の内部にまで上陸するとは思わなかったであります」ダンボールカカエ
神州丸(与少将配下)「まったくであります。して那智殿、この荷物はどちらに?」ダンボールカカエ
那智「ああ、それはこちらの厨房の裏口まで頼む」
与少将「むう……わしが前に来た時は、こんな洒落たテラスはありゃせんかったぞ?」
武蔵「私もこれは初めて見るな。届けた木材はこれに使われたのか」
南方戦艦新棲姫「アレ? セレスティアタチハ居ナイノカ?」
泊地棲姫「人間ガ来タトイウカラ、出撃シタゾ。人間ノ来客モアルシ、イナイホウガ都合ガイイダロウ」
南方戦艦新棲姫「アー、ソウイウコトカ〜」
662 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:46:19.67 ID:P7OtzRTpo
葛城「泊地棲姫がエプロンつけてる……」
天津風「間宮さんと一緒に厨房にいるってどういうことなの……」
あきつ丸「……失礼するであります。この荷物は食堂に、とのことでしたが、どなたに預ければ良いでありますか」
泊地棲姫「私ガ受ケ取ロウ。コレハモシヤ、新シイ、コーヒーカ?」
あきつ丸「そうであります。それからこちらもお願いするであります」
神州丸「自分の箱は紅茶の茶葉であります。X大佐のところのウォースパイト殿に薦められた品であります」
欧州水姫「Lady ノ、オススメダト!?」キラッ!
泊地棲姫「欧州水姫、ソノ箱ヲ持ッテ、コチラニ運ンデクレ」
欧州水姫「任セヨ!」ヒョイッ
あきつ丸「……姫級の戦艦が、瞳を輝かせてスキップしながら持って行ったでありますな」タラリ
神州丸「帰って誰かにこのことを話しても、誰も信じなさそうであります」タラリ
与少将「ああも喜んでくれるとあっては、持ってきた甲斐があったというもんじゃ!」ニコニコー
夕張「姫級とかって、すっごい怖いイメージあったのに……」
瑞鳳「以前戦った戦艦棲姫とか、絶対あんな顔しなかったわよね?」
663 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:47:02.11 ID:P7OtzRTpo
時雨「あれ? やあ、武蔵じゃないか、久し振りだね」
武蔵「おお、時雨か。そっちにいるのは……誰だ? 村雨か?」
白露型イ級「?」
時雨「ううん、駆逐イ級だよ」
武蔵「は……?」
白露型イ級「ムサシ? ヨロシクネー」テヲフリ
武蔵「あ、ああ……イ級なのか?」
時雨「うん。提督が魔改造したと思ってくれればいいよ」
武蔵「……」アタマオサエ
パシャパシャッ
水路に現れたヨ級「」ザパッ
春風「きゃっ! せ、潜水艦もいるのですね……!」
水路の縁に手をかけるヨ級「」ガシッ
夕張「……え? ヨ級って、腕の存在、確認されてたっけ……」
ヨ級「ヨイショット」ザバー
夕張「えええええ!? 下半身もあるうう!?」
春風「まるで艤装が浮き輪みたいに……」
664 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:47:46.97 ID:P7OtzRTpo
時雨「ああ、それも提督の仕業だよ。ほら、そっちのマスクを外してるカ級も、足が生えて普通に歩いてるし」
カ級「ン? ドウカシタ?」スタスタ
夕張「」
春風「」
武蔵「これは一体どういうことなんだ? 私がいたころは、こんなことはなかっただろう」
時雨「うーん、平たく言うと、深海棲艦たちが艦娘に近づいた、って感じかな」
武蔵「近づいた?」
時雨「うん。ちゃんとした理屈で説明はできないんだけど……例えば、艦娘の駆逐艦と深海棲艦の駆逐艦って、見た目が全然違うよね?」
時雨「深海棲艦は、人間に対して敵意や憎悪といった感情が強いって言うか、そういう感情だけで動いてる獣に近いって言うのかな」
武蔵「獣と言うよりは、怨霊のようなものかとも思えるが」
時雨「ああ、そう言ったほうがいいかも。そういう思念が先走ってるから、人の形をしていないって提督は考えてるみたいなんだ」
時雨「その提督が、イ級たちを労って頭を撫でてあげたのがきっかけなんだけど……」
時雨「人を理解するために、体も人に近づけようとして、こういう姿に変化したんじゃないかって考えてるみたいだよ」
武蔵「そうなのか?」
白露型イ級「ヨクワカンナイ! ケド、イマハ陸モ歩ケルカラ、イロイロ便利ッポイ! コトバモ、シャベリヤスイシ!」
665 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:48:32.02 ID:P7OtzRTpo
武蔵「あちらの潜水艦たちも、そういうことか?」
時雨「理屈としてはそういうことだね」
夕張「ね、ねえ……その子、なんだか夕立ちゃんに似てない?」
時雨「それは多分、轟沈した艦娘の魂が影響してるせいじゃないかな。夕立だけじゃなく、白露型の要素が集まってる感じだね」
夕張「それってつまり、夕立ちゃんたちが轟沈したから、ってこと……!?」
時雨「残念だけど、そういうことだね。昔、捨て艦戦法が考案されて、たくさんの駆逐艦が沈んだ時期があったと思うけど……」
時雨「丁度その頃、この島の砂浜に艦娘の遺体がたくさん流れ着いてたからね。その時沈んだ艦娘の姿が色濃く出ている、と考えてくれていいよ」
春風「……」
武蔵「この島が墓場島と呼ばれているのも、提督が彼女たちを丘の上に埋葬して、墓標代わりの艤装が並んでいたから、だったな」
夕張「……」
春風「もしや、こちらの潜水艦のおふたりも、轟沈した艦娘なのですか?」
時雨「どうだろう? でも、あのカ級は髪を束ねたら伊168に似てるって、誰かが言ってた気がするから、もしかしたらそうなのかな?」
武蔵「なるほど、言われてみれば……そういえば、そのカ級の着ているあのスクール水着はどうしたんだ?」
時雨「あれは酒保で売られてる艦娘用の水着だよ」
666 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:49:16.97 ID:P7OtzRTpo
時雨「ここの潜水艦娘は伊8さんしかいないけど、サイズはいろいろ取り揃えてあるから、それを着てもらってるんだ」
武蔵「ふむ……ん? あのヨ級はビキニを着てるんだな」
カ級「ジュース持ッテキタヨー。アレ、水着変エタノ?」チャクセキ
ヨ級「ウン。アノ水着、チョット、胸がキツクッテ……陸ノ上ナラ、コウシテルト少シ楽ナノ」ノシッ
白露型イ級「ウワァ、テーブルノ上ニ、胸ガオ餅ミタイニ乗ッカッテル!」
時雨「」
夕張「」
春風「」
天津風「」
葛城「」
瑞鳳「」
あきつ丸「全員すごい表情になってるであります!?」
与少将「なにをやっちょるか……いやまあ、気持ちはわからんでもないが」アタマカカエ
武蔵「むう、私よりでかいな。雲龍といい勝負か」
時雨「見てなよ、僕だって改装すれば……」ムムム…
中将「……し、深海棲艦にも、人並みの悩みと言うものがあるのだな」
那智「中将閣下、無理にフォローなさらなくても大丈夫ですよ」
陸奥(この場に龍驤がいたら……でも、あの龍驤なら、さらっと受け流せるかしら)クスッ
667 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/04(日) 20:50:30.08 ID:P7OtzRTpo
というわけで、今回はここまで。
>645
この鎮守府の那珂ちゃんには、酸いも甘いも知っている強者感を出していきたいですね。
668 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/08/18(日) 20:57:21.44 ID:tFEUt7vU0
久しぶりに墓場島から読み返してるけど読みやすすぎて時間が溶ける。
続きが楽しみや
669 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:21:01.53 ID:1RqAqzjro
今回出てくるメディウムはこちら。というか、戦闘シーンなので、無理矢理詰め込みましたがこれで全員登場です。
あとで説明分まとめとくか……。
・ミーシャ・ハンギングチェーン:釣竿を持つおとなしい少女のメディウム。足元に設置された虎ばさみが人間を捕らえ逆さ吊りにする罠。
麦わら帽子をかぶったおとなしい少女。姉のアーニャ同様に釣り好きだが、ちょっと内気で日差しが苦手。完全防備しているので色白。
・ツバキ・カビン:丁半賭博の賭場にいるような、右肩を晒した着物姿のメディウム。上から花瓶を落として人の頭に被せて視界を奪う罠。
時代劇か任侠映画の世界から出てきたような姉御肌の女性。胸元にはさらしを巻き、振り壺ならぬ花瓶を手に立ち向かう、肝っ玉姐さん。
・レイラ・マジックバブル:人魚を思わせる舞台衣装を身につけた女性のメディウム。大きな泡の玉が人間を閉じ込め窒息させる罠。
豪奢なドレスを着たミュージカル歌手のような女性。自分が作る泡を使い舞台演出まで手掛けようとしている。肝心の歌の実力は不明。
・イーファ・スパイクボール:半人半獣のメディウム。とげ付きの鉄球が人間を刺し貫く罠。坂があれば転がって人間を巻き込みながら貫く。
ヤマアラシを連想させる固い針のような体毛と尻尾を持つ少女。主さえも触れたら怪我させてしまいそうな自分の体を疎んでいる。
・サム・ヴォルテックチェア:執事の着る燕尾服を着た男装の麗人のメディウム。電気椅子が現れて、座った人間に強力な電気を流す罠。
椅子を傍らに携える執事姿の優雅な女性。魔神に対し多分に毒を含んだ物言いが多く、隙あらばいたずらと称して電撃しようとする曲者。
・ウーナ・ヘルファイヤー:松明を持った野生児のようなメディウム。強力な火柱が立ち上がり、人間を燃やして吹き飛ばす罠。
カタコトの言葉で話しかけてくる野生児メディウム。暗いところが苦手で常に松明を持ち歩く。火を消すのは夜空の星を眺める時くらい。
・リンメイ・メガバズソー:チャイナドレス姿のメディウム。刃のついた巨大なホイールが転がって、人間を切り裂きながら吹き飛ばす罠。
自分の武器を回転ゴマにして操る曲芸師。さすがに自分もこのコマは怖いらしい。たまにすっぽ抜けてどこかに飛んでいくのもご愛敬?
・ティリエ・ゴウモンシャリン:動物着ぐるみパジャマ姿のメディウム。とげのついた車輪が転がり、人間を巻き込みながら弾き飛ばす罠。
車輪を転がし駆け回るのが好きなシニカル少女。何かにくるまっていると落ち着くため、暑くても着ぐるみパジャマは脱がない主義。
・シェリル・ヘルジャッジメント:メタルロック歌手のメディウム。避雷針が落ちてきて、直後にその針に雷が落ちて人間を雷撃する罠。
魂まで痺れさせる歌を目指して歌い続けるロッカー。硬派なイメージで売りたいようだが、部屋には可愛いぬいぐるみがわんさかある。
では続きです。
670 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:21:46.19 ID:1RqAqzjro
* 一方 島の北東部 かつての砂浜の岩礁地帯 *
提督「こっちに新しい足跡があるな。よし、お前たちはここで待機しててくれ」
大和「いえ、大丈夫ですよ?」
戦艦水鬼改「ココマデ来タンダモノ、一緒ニ行クワヨ」
提督「そうか、じゃあ……」
大和「さ、行きま」
提督「……いや、やっぱり待っててくれ」
大和「ええ!?」
戦艦水鬼改「ナニカアッタノ?」
提督「いや、特に何かあったわけじゃねえが……ここから先の俺は『人でなし』になるからな」ニガワライ
提督「あんまり見せたくねえんだ、俺のそういう顔」
大和「何を仰るんですか。これまでも提督とはずっと一緒に敵と戦ってきたではありませんか」
戦艦水鬼改「アナタノ悪イ顔ナンテ、サンザン見テキタワヨ?」
提督「いやあ……そうかもしれねえけどよ」ホッペポリポリ
671 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:22:32.05 ID:1RqAqzjro
提督「やっぱり見せたくねえんだよ。人を殺すのも平気になったし、俺の容赦ない時の醜い顔ってのをさ……ほら、その、なんだ」
提督「お前たちのこと、好きになっちまったからよ……俺の嫌なとこ、見せたくねえんだ」セキメン
大和「提督……!」ポ
戦艦水鬼改「アラアラ……嬉シイコト言ッテクレルジャナイ」ポ
提督「だから、お前たちは」
戦艦水鬼改「ソレヲ聞イタラ、マスマス一緒ニ行カナイトネェ?」
提督「は? なんでだよ」
大和「いいところも悪いところも、理解しあえばいいではありませんか。それに、私たちはもう契りを結んだ、ただならぬ仲……!」ニヤァ
戦艦水鬼改「ソウイウコト。独リデ行カセタリナンテ、デキナイワヨネェ?」ニヤァ
提督「水鬼も大和もそういう悪い顔すんじゃねえよ……そうなって欲しくなくて、ここに留まって欲しいって言ってんのによ」
提督「でもまあ、今更か……仕方ない、一緒に来てくれ。先回りしてるあいつも止めてやりたいしな」
大和「? 誰か来ているんですか?」
672 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:23:16.91 ID:1RqAqzjro
* 島の北部 洞窟近くの岩礁地帯 *
提督「ああ、いたいた。おーい、如月」
如月「あっ、司令官!」
大和「如月さん!? あなたが来ていたの!?」
如月「はい、何かのお役に立てないかと思って」
提督「戦艦棲姫たちに伝えてもらうだけで十分だ。あとはメディウムたちに任せてくれ」
戦艦棲姫「マッタク、厄介ナコトヲ、シテクレルワネ。事情ハ、コノ如月ッテ艦娘カラ聞イタワヨ」
提督「悪いな、ちょっとだけ協力してくれ」
戦艦水鬼改「戦艦棲姫タチハ、コッチニ居ヲ構エテルンダッタワネ?」
戦艦棲姫「ソウヨ。私タチノ住処ニ、人間ドモガ侵入スルナンテ、考エタクモナイワ」
提督「道ができてるから、こっちに来ちまうんだろうなあ。岩か何かで隠したほうがいいか?」
戦艦棲姫「ドウシテ、ココニ住ンデル私タチガ、隠レナイトイケナイノヨ」
提督「それもそうだな。それなら、勝手に誰か入らないよう、しっかりした門と錠前と、ついでに表札も付けるか」
673 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:24:01.56 ID:1RqAqzjro
大和「提督、それより先に侵入者をなんとかしませんと」
戦艦水鬼改「ムコウカラ、人間ノ気配ヲ感ジルワヨ」
提督「わかってるって。こうやって駄弁ってりゃ、声につられて寄ってくる奴がいるかも、って」
<ドカーン!!
提督「思ってたんだが……!」
戦艦棲姫「アノ爆発音、マタカ……!」
提督「また? ってことは、すでに何回か起きてるのか」
戦艦棲姫「ソウヨ。騒々シクテ、カナワナインダケド」
大和「行ってみますか?」
提督「いや、その必要はねえよ。ほれ、向こうから来なさったぜ」
カビンを被った男「う、うう……」ヨロヨロ
戦艦水鬼改「アレハ、海軍ノ人間デハ、ナイナ?」
提督「あの船に乗ってた護送中の囚人のひとりだな」
674 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:24:46.50 ID:1RqAqzjro
戦艦棲姫「私タチハ、手ヲ出サナクテ、イイノネ?」
提督「おう、眺めてていいぞ」
バナナノカワ<チョコン
カビンを被った男「うわあ!?」ギュム ズデーン! ガシャーン!
戦艦棲姫「アノ人間ガ被ッテタ、カビンガ割レタゾ。イイノカ?」
提督「ああ、いいからまあ見とけ」
ゴウモンシャリン<ガシャーン! ゴロゴロゴロ
男「ぐえっ!」ガラガラガラ…
戦艦棲姫「トゲ付キ車輪ニ、巻キ込マレタナ……」
スイングハンマー<ブゥン!!
男「ぎゃああ!?」ガッシャーン!
戦艦棲姫「……アノ石柱、ドコカラ出テキタ?」
ヘルファイヤー<ゴォォォオオオ!!
男「ぎぇ」ボワアァァァ!
戦艦棲姫「アノ炎モ、ドウヤッテ燃エテルノ」
提督「全部、俺の仲間の能力だ」
戦艦棲姫「……全体的ニ、オーバーキル、ジャナイノ?」タラリ
675 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:25:31.41 ID:1RqAqzjro
提督「下手に生き延びたりされても困るからな。今回の相手はやり過ぎるくらいでいい」
ティリエ「おお? ご主人、来てたのか! 遅かったな!」タタッ
提督「よう、順調か?」
カトリーナ「おう! たくさん潜んでたけど、全員ぶっ飛ばしてやったぜ!」
ツバキ「残り少ないようでありんすが、親分さんにご来駕いただいたんじゃア、ますますやる気を見せンといけやせんなァ」
シャルロッテ「シャルロッテちゃんのステージはこれからも最高潮だよー! 見ててねマスター!」
ウーナ「リーダー! ウーナ、トドメさしたゾ! 見たかー!?」ガオー!
提督「ああ、見た見た。派手に転ばせたし派手に燃えてたな」フフッ
アカネ「わたしもどっかーん! って爆発させたよー! 綺麗だったでしょ!?」
提督「いや、お前のブラストボムは遠くて音しか聞こえてねえ」
アカネ「そんなあ!?」
提督「それより、残りはどうした? 人間どもは15人くらいいたんだろ?」
カトリーナ「アタシたちが仕留めたのが、これで3人だったっけ?」
ティリエ「そうだなー。いくつかの班に分かれて人間退治してるから、もうそろそろ終わるんじゃないか? ご主人、やっぱり来るのが遅いぞ?」
提督「お前たちの仕事が早いんだよ。いい仕事しやがって」フフッ
ウーナ「お? ウーナたち、褒められたか? えへへ……」テレテレ
676 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:26:17.20 ID:1RqAqzjro
アカネ「こ、今度こそ、私の活躍を見てもらうんだから! 照れてないで、人間を探しに行くわよー!」ダッシュ!
カトリーナ「あっ、待てよ!」
ツバキ「……遠くに走ってっちゃあ、親分さんにお姿見せられんとちゃいますのん?」
ティリエ「アカネ、聞いてないみたいだぞ」
ウーナ「ヒトリは危ない! 追いかけるゾ!」
シャルロッテ「マスター、またね〜!」
タタタタッ…
提督「アカネの走ってった方に敵の気配はねえんだけどなあ……」
大和「えっ、誰もいないほうに走って行ったんですか!?」
戦艦水鬼改「ソソッカシイノネェ……」
??「うわああああ! た、助けてくれええ!」
提督「ん?」
如月「あれは……あの人、司令官と同じ海軍の制服を着てるわ。海軍の関係者かしら」
提督「そうみたいだな。あいつは……」
677 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:27:01.37 ID:1RqAqzjro
??→軍人「か、艦娘か!? おーい! た、助け」
スマッシュフロア<バイン!!
軍人「うわああああ!?」ブットバサレ
スパークロッド<ニュッ バリバリバリー!
軍人「ばばばば!?」バリバリバリー!
フライングケーキ<バシュッ!
軍人「ぶぼっ!?」ベチャア!
戦艦棲姫「……チョット、アノケーキ、モッタイナイジャナイ」
提督「あー、あれもそういう罠なんだよ」
戦艦棲姫「アンナコトスルクライナラ、私タチニ食ベサセナサイヨ」
大和「鎮守府に併設した食堂にお越しになればいいと思いますよ?」
如月「一緒にお茶やコーヒーも楽しめますし」
戦艦棲姫「アラ、ソウナノ?」
戦艦水鬼改「……チョット、ソンナ話ヲ、シテル場合?」タラリ
提督「大丈夫だよ、ちゃんと次が控えてる」
678 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:27:46.40 ID:1RqAqzjro
軍人「ぐぶぶ……な、なんだ、何も見え」ヨタヨタ
ハンギングチェーン<ガチン!! キュルキュルキュル…
軍人「痛っ!? な、なんだ……うわああ、なんだなんだ!? お、おろしてくれえ!」サカサヅリ
提督「……うーん、こいつを含めて、敵は残り3人、ってとこか?」
ニコ「そんな感じだね。他の人間たちは、みんなが始末してくれてるよ」スッ
提督「気配で敵の数が分かるとか、なんかいよいよ化け物じみてきたな、俺」
戦艦棲姫「……チョット、コノ娘、イキナリ現レナカッタ?」
大和「ニコさんは神出鬼没なんですよ」
戦艦水鬼改「提督ノ、ストーカー、ダカラネ」
ニコ「お姉ちゃんだよ!?」ジトッ
軍人「お、おおい! 無視してないで、助けてくれえ!!」ブランブラン
戦艦棲姫「助ケナイノ? オ前ト同ジ服ヲ着タ、仲間ミタイダケド?」
提督「仲間? 勘弁してくれよ。あいつ、余所の女提督に振られた腹いせに、鎮守府の救援要請を握り潰して見殺しにするような奴だぞ?」
戦艦棲姫「エェ……」ヒキッ
大和「それはもしや、先日お話しされていた、暁さんのいた鎮守府の……!?」
679 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:28:31.32 ID:1RqAqzjro
軍人「お、おおーい! 聞こえてないのか!? 早く助けてくれええ!」
提督「ったく、うるせえな。聞こえてるから黙ってろ」
軍人「なっ……黙ってろはないだろう!? 助けてくれ!」
提督「知るかよ。手前の感情だけで鎮守府ひとつ潰しておいて、それで自分のときだけ助けてもらえると思ってんじゃねえ」
軍人「い、いったい何の話だ!?」
提督「とぼけんな。以前お前が救援要請を握り潰したせいで鎮守府がひとつ陥落してんだぞ。I提督って女提督のこと、忘れたか?」
軍人「……!!」
戦艦水鬼改「今ノ反応……ソノ女提督ノコトヲ、知ッテルミタイネ」
提督「……へえ、お前、それで妻帯者なのか。じゃあ、お前の家族にこの話を伝えておくか。死んでも悲しまないようにな」
軍人「なっ!? そ、それだけはやめてくれ! 頼む! お願いだ!!」
提督「じゃあ助けねえけど、いいのか」
軍人「い、いや、助けてくれ!」
戦艦水鬼改「提督ハ、アイツヲ、カラカッテル?」
如月「そうみたいね。助けるつもりはないでしょうから」
680 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:29:16.29 ID:1RqAqzjro
戦艦棲姫「アイツハ、逆サ吊リニシテ、終ワリナノ?」
提督「いや、まだ途中だよ。いま、あいつのお仲間を連れてきてる最中だ」
戦艦棲姫「仲間?」
メガヨーヨー<ズガァン!
囚人「ぎゃああ!!」ブットバサレ
戦艦棲姫「!」
ペッタンアロー<パシュ!
囚人「ひいい!!」ペタッ グイーーン
スプリングフロア<ズバーン!
囚人「ぐげっ」ブットバサレ
クレーン<ガシッ!
囚人「う、うげえええ!」ツリアゲラレ
戦艦棲姫「スゴイ方法デ、人間ヲ運ンデキタワネ……ソレデ、アイツガ仲間ナノ? 海軍ノ人間ジャナイミタイダケド」
提督「仲間っつうか、同類だな。あの軍人が見殺しにした女提督の母親を殺したのが、あの囚人だ」
大和「本当ですか!?」
提督「魔神の力であいつの過去を見てるんだが、どうやら立件されてねえだけで、父親も殺したみたいだな。Q中将の言ってた通りだ」
如月「なんてこと……!」
681 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:30:01.58 ID:1RqAqzjro
提督「そういうわけなんで、同類のあのじじいも一緒に始末してやろうと思ったんだ。パメラ!」
スローターファン<ギュイイイイイ!
戦艦棲姫「ナンダ、アノ風車ハ」
提督「近づくなよ? あれは近づいたものを引き寄せて切り刻む罠だ」
戦艦水鬼改「ソレヲ、アノ吊ルシタ人間タチノ下ニ置イタ、トイウコトハ」
ハンギングチェーン<パッ
クレーン<ポイッ
軍人「いぎゃああ!!」ザクザクザクー
囚人「ぎええええ!!」ズバズバズバー
如月「ああ……そうなっちゃうのね」
戦艦棲姫「吸イ込マレナガラ、切リ刻マレテイルノカ……」
提督「ああ。けど、あいつらは、あんなもんじゃ済まさねえ」
ギルティランス<ズバッ!
軍人&囚人「ぐぎゃっ!!」ドスドスドスッ
メガバズソー<ゴロゴロゴロッ!
軍人&囚人「ぎゃあああ!!」ズガシャーン
ヘルレーザー<ズビーーーム
軍人&囚人「があああ!?」ズバーーー
682 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:30:46.36 ID:1RqAqzjro
大和「なんとも痛そうな罠が連続で……」
ニコ「ふふっ、残虐系メディウムが大活躍だね」
提督「さて、そろそろ死んだか?」
軍人「い、いやだ……死にたく、な……」ガクッ
囚人「……う、ううう……」
提督「なんだ、じじいのほうがまだ息があるのか。それなら……サム、いるな?」
ヴォルテックチェア<ガシャッ!
囚人「ぐえっ! ……こ、これは、電気椅子か……こんなところで、俺は、殺されるのか……!」
提督「なんだお前、嬉しそうにしやがって。気持ち悪いな」
囚人「自死では駄目なんだ……殺されれば、あの世で、また、彼女に会える……ふ、ふふふ」
提督「彼女? ああ、そいつは無理だぞ。お前は天国にも地獄にも行けねえからな」
囚人「……どういう意味だ」
提督「見ろよ」
(こと切れた軍人の屍が、光の粉になりながら徐々に消えていく)
囚人「!?」
683 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:31:31.25 ID:1RqAqzjro
提督「普通なら、人が死ねば、その肉体は土に還り、その魂はあの世に向かう。が、俺たちが始末した人間どもは、そうはならない」
囚人「な、何を言っている? お前なんかに、死後の世界の何が分かるんだ……!」
ズズズズ…
提督→魔神提督『そりゃこっちの台詞だ。ただの人間のお前にこそ、この世の何が分かるんだ?』
囚人「う……ば、ば、化け物!?」
魔神提督『もうひとつ訊こう。お前は、この俺をなんだと思ってる? 答えてみろよ』
囚人「し……知らない! な、なんなんだ、お前は!?」
魔神提督『それならひとつだけ教えてやる。俺たちは、殺した連中の肉体も魂も、俺たちの好きにできるんだ』
魔神提督『お前の魂は天国へも地獄へも向かうことなく、この場で俺たちに分解されて消える。さっき光りながら消えた奴みたいにな』
囚人「なっ!? そ、そんなことがあってたまるか!!」
魔神提督『お前が何を言おうとお前の未来は変わらない。お前の考えも知ったことか。とっとと餌になって、世界から消えてしまえ』ギロリ
囚人「ひっ!? い、嫌だ!」ガシャガシャッ
ヴォルテックチェア<バリバリバリバリ!!
囚人「ぎゃあああああ!? 助けて……助けてく」
フォールニードル<ガラララ…ズシィィィンン!!
囚人「」グシャ…!
684 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:32:16.42 ID:1RqAqzjro
ズズズズ…
魔神提督→提督「……これで、あとひとりか?」
ニコ「うん。でも、みんなが頑張ってくれてるから、すぐに片付くと思うよ」
提督「そうか」
戦艦棲姫「ナカナカ、エグイワネェ……」
提督「そうか? 残念なことに、死体は見慣れてるから、そうは思わなかったんだが」
戦艦棲姫「ソッチジャナクテ、アナタノ姿ノホウヨ。艦娘タチハ、見慣レテルノ?」
如月「うーん、司令官の姿そのものは、あまり気にしなかったけれど。今の人を怖がらせたかったんでしょう?」
提督「まあな」
大和「私はどちらかと言うと死体のほうが……」ウーン
戦艦水鬼改「スグ消エテクレルノハ、良心的ヨネ?」
ニコ「……それを良心的と言っていいのかな?」
如月「それよりも、司令官は大丈夫なの? 無理してない?」
提督「ん? 別に何ともないが……」
ニコ「無理、って、どういう意味かな?」
685 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:33:01.41 ID:1RqAqzjro
如月「さっき、I提督のかたきを取ったときとか、魔神の姿になったとき、司令官は全然笑ってなかったでしょ?」
如月「恨まれて当然ってくらい悪い人たちが相手なのに、詰ったり辱めたりしてても、なんていうか、ずっと不機嫌そうで……」
大和「わかります。なんとなく、気が晴れてないと言いますか……」
戦艦水鬼改「……アア、言イタイコトガ、ワカッタ。不快ナ相手ヲ殺シテテモ、愉シソウジャナイ、ッテコトネ」
大和「ええ。こう言っていいのかわかりませんが……仇を取っているわけですし、悪い気分にはならないのではないかと」
戦艦水鬼改「以前、コノ島ニ侵入シタ人間ヲ私ガ殺シタトキモ、ナントモ思ワナカッタ、ッテ言ッテタワヨネ?」
大和「えっ!? いつの話ですか、それ!?」
提督「……テレビ局の連中が死んだときの話か?」
如月「あれ、ル級さんが関係してたの?」
戦艦水鬼改「……提督、知ラセテナカッタノ?」
如月「少なくとも私は初耳よ?」
提督「如月だけじゃなく、誰にも話しちゃいねえよ。誰かに話すようなことでもねえし、あれはあいつらの自己責任だ」
戦艦棲姫「変ワッテルナ……オ前ハ、自分ガ憎イ相手ヲ殺シテモ、ナントモ思ワナイノカ?」
提督「いいや? さすがに、俺がさんざん嫌がらせされた大佐やJ少将が相手だったら、ざまあみろとも思うんだが……」
提督「いま始末した連中に関しちゃ、俺は話を聞いて不愉快になっただけの、ほぼ他人だ。俺にとっては、本当にどうでもいい奴らだ」
大和「それで、感情的になれなかった、ということなんですか」
686 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:33:46.90 ID:1RqAqzjro
提督「最後の奴だけは、絶望させたかったんで回りくどいことしちまったけどよ……」
提督「まあ、I提督とその両親の事情も知らないわけじゃないし、それを知ってあいつらを始末しようと考えたのも間違いはない」
提督「が、それで俺がそいつに怒りやらをぶつけるのは、筋が違うと思ってる。あいつらの気持ちを、俺が勝手に解釈するわけにはいかねえよ」
提督「それにどうせ、あいつらを殺せばI提督たちが喜ぶってわけじゃねえし……この世に戻ってくるわけでもねえしな」
如月「司令官……」
提督「ま、時雨や早霜みたいに戻ってきた例外もいるが、普通そういうことは起こらねえ。メディウムもそうだろ?」
ニコ「うん。メディウムも、無理して壊れたら消失する。ぼくたちがやっていることも、戦いだからね」
戦艦棲姫「……私タチハ、ドウナノダロウナ。艦娘ニ沈メラレテ、艦娘ニナッタ深海棲艦モ、ソレナリニ、イルラシイケド?」
戦艦水鬼改「ソウイウ話ハアルケレド、泊地棲姫ハ、ソウイウシーン、見タコトナイミタイヨネ?」
如月「逆に、艦娘が深海棲艦になったレアケースはあったわよね。ほら、この前、漂着してきた軽巡棲鬼の阿賀野さん」
提督「あいつもイレギュラーだよなあ……」
戦艦棲姫「ソウネ。普通、ナイワヨ?」
大和「なんと言いますか、この島に限って言えば、その普通じゃないことが割と普遍的に起きてませんか?」
大和「ル級さんが鬼級になったのもそうですし、駆逐イ級が人型になるのだって、普通あり得ないことでは?」
687 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:34:31.78 ID:1RqAqzjro
如月「確かに……」
戦艦水鬼改「言ワレテミレバ、ソウカモ……」
ニコ(……ぼくたちが、関わったせいかな?)ウーン
提督「そもそも、こんな顔ぶれが穏やかに話してる時点で普通じゃねえよな」
戦艦棲姫「ネエ、ソレハイイカラ、早ク残リノ人間モ片付ケナサイヨ。アト1人ナンデショ?」
提督「ああ、わかってるよ。多分こっちに……」
タタタッ
イーファ「あ、ご主人様……!」
提督「イーファか? どうした、なにかあったのか」
イーファ「ううん、みんなが、もうすぐおしまいだから、ご主人様を呼んできて、って……」
<イヤァァァァ!
戦艦棲姫「!」
ニコ「今の悲鳴で、人間狩りが終わったのかな? どこに潜んでたんだろう」
提督「よし、行ってみるか」
688 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:35:16.23 ID:1RqAqzjro
* *
イーファ「こっちだよ。岩と岩の間に隠れてたみたい。ミュゼさんが見つけて、誘い出してくれたの」
女囚「」グチャァ…
提督「おお、見事にぐちゃぐちゃだな。もうこと切れてたか」
如月「お、女の人だったのね……何をした人なのかしら」
マルヤッタ「なんでも、シューキョーカンケーのサギシ? らしいじょ」
提督「お、マルヤッタか。お前がやったのか?」
マルヤッタ「とどめと言うか、駄目押ししたのがマルヤッタだじょ。実際にとどめになったのはシェリルだったかの?」
シェリル「ああ、あたしのシャウト……ヘルジャッジメントでしびれさせてやったのさ」ドヤッ!
提督「そうか、お疲れさん。これで全員だな?」
ニコ「……そうだね。この一帯で、人間の気配はもう感じないね」
戦艦棲姫「ソレジャ私ハ、モウ引キ上ゲテモ、イイワネ?」
提督「ああ、付き合わせて悪かったな。今度、この辺の門扉とか鍵の話をさせてくれ」
マーガレット「魔神様〜!」トテトテトテッ
如月「あら、他のところにいたメディウムのみんなも、戻ってきたみたいね」
提督「マーガレット、お前は走らなくていいぞ。またケーキ持ってコケたらいけねえし」
マーガレット「そんなにしょっちゅう転びませんよ!?」
689 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:36:01.26 ID:1RqAqzjro
戦艦棲姫「アナタダッタノネ、ソノケーキ」
マーガレット「あ、お話は聞いてました、あとでご馳走しますよ! いつも食堂で準備してますから!」
ミュゼ「あ゛〜、疲れたぁ。私も食堂でお茶してきまーす」
レイラ「ミュゼ、あなたまたテツクマデをそっちに置き忘れてるわよ?」
ミュゼ「えええ!? やだっ、ごめんなさい!」タタッ
ニコ「珍しいね、レイラがこんな岩場に来るなんて。色気がない場所は好きじゃない、って言ってたのに」
レイラ「ええ、ですが今回は、大人数相手の大舞台でしょう? 出ないわけには参りませんわ」
レイラ「それに、たまにはこういう荒々しいロケーションを味わうのも、悪くはありませんわね。次の舞台の参考にいたしましょう」フフッ
提督「シェリルやシャルロッテもそうだが、お前たちはいつも舞台にいるもんな。こういう場所でもちゃんと戦ってくれるのは助かるぜ」
シェリル「いいってことさ。あたしはどんな場所だろうと、あたしの歌を響かせてやるぜ!」
サム「では、お席は私がご用意いたしましょうか」スッ
提督「……」
ニコ「……そう言ってヴォルテックチェアを出したりしないよね?」
サム「おや。そのように疑いの眼差しを向けなくても良いのですよ? 大丈夫ですとも、フフフ……」
ナンシー「そんなことより、早く帰ってお茶にしましょ?」
ソニア「さんせーい!」
リンメイ「お風呂でもイイヨ!」
コーネリア「久々の大仕事だ。槍の手入れもしとかないとな」フフッ
690 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:36:46.33 ID:1RqAqzjro
ミーシャ「そういえば、アカネさんたちって、戻ってきてましたっけ……?」
アーニャ「大丈夫だよ、戻ってくるって、そのうち!」
パメラ「そのあたりのお仕事はニコちゃんがやってくれるでしょ?」
ニコ「……確かにそうだけどさ。ほら、みんなも一緒に探してきてよ。いま、鎮守府に戻っても、まだ人間がいるんだからね」
レイラ「あら、そうなんですの?」
イーファ「……くんくん、バナナのにおいがする。シャルロッテはこっちかな? ぼく、探しに行ってみるね」
シェリル「仕方ないな……魔神さん、あたしたちは少し時間を潰してから戻るよ」
ゾロゾロ…
戦艦棲姫「メディウムハ、コンナニ大勢、潜ンデイタノカ」
提督「罠一種類につき一人だからな。15人も相手するとなったら、70人いるメディウムを総動員させて丁度いいくらいだ」
提督「しかも相手は10人が護送中の犯罪者で、5人が海外へ左遷させられる予定だった海軍の関係者だからな」
提督「全員堅気じゃねえから、全力で潰しに行かねえとこっちが痛い目見ちまう。やり過ぎるくらいでいいっつったのも、そういう理由だ」
戦艦棲姫「ソイツラ、何ヲシタノ?」
提督「ん? ええっと……犯罪者のほうは、殺人とか通り魔とか性的暴行とか、あとは政治犯とか、詐欺で数億盗んだとかいう連中だな」
提督「軍の関係者のほうは、パワハラで部下を自殺させたとか、横領とか、嘘ばっかり報告してた支離滅裂野郎とか……」
戦艦棲姫「ソンナ人間、生カシテオク必要アルノ?」
提督「簡単に殺せないから、人間どもも苦慮してんだよ」
691 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:37:31.24 ID:1RqAqzjro
戦艦棲姫「人間ノ法律ガ悪ルイノネ。サッサト作リ変エテシマエバ良イノニ」
提督「簡単に言うなよ……」
戦艦棲姫「簡単ニ言ウワヨ、他人事ダモノ。オマエナラ、ソンナ面倒ナコト、シナイデショウ?」
提督「……まあ、そうかもだけどな」
戦艦水鬼改「アラ、コノヒト、意外ト面倒ナコト、スルワヨ? 今回ノコノ騒ギダッテ、ワザワザ船ヲ……」
提督「余計な事言うな」クチフサギ
大和「それより提督! ひとまずこの場の確認も済んだことですし、提督は皆さんより先に戻って中将にご報告いたしましょう!」
如月「そうね。司令官は先に行ったほうがいいわ、大和さんと水鬼さんもね」
戦艦水鬼改「私モ?」
如月「ええ、水鬼さんも中将に会ってきたんでしょう? そうだとしたら、一緒に戻って顔を見せないと、ね?」
提督「……余計な事言うなよ?」
戦艦水鬼改「ワカッテルワヨォ」プー
提督「んじゃ、とりあえず行ってくるか。如月とニコに、この場を任せてもいいか?」
如月「ええ、大丈夫よ。ニコちゃんもいいわよね?」
ニコ「……しょうがないなあ。魔神様、ここはお姉ちゃんに任せて、行っておいで」
692 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:38:32.81 ID:1RqAqzjro
提督「助かる。ありがとな」
如月「ふふっ、どういたしまして」
ニコ「後でみんなも労ってあげてね?」
提督「ああ、勿論だ」
スタスタ…
ニコ「……ふう……」
如月「? 溜息なんかついて、どうしたの?」
ニコ「いつも思うんだけど……これで、良かったのかな、って」
戦艦棲姫「ドウイウ意味?」
ニコ「本当なら、魔神様が人間と手を取り合うなんてこと、ないはずなんだ」
ニコ「それを、頭を下げて、約束を作って、僕たちと人間との間に『境界線』を引こうとしてる。ぼくは、どうしてもそれが納得できなくて」
ニコ「魔神様にとって、それは屈辱じゃないのかな。深海棲艦にとっても、そうじゃないのかい?」
戦艦棲姫「私ハ、人間ニ、頭ヲ下ゲルツモリハナイワ」
ニコ「君たち艦娘も……特に如月、きみにとっては、人間なんて救いようのないものだったんじゃないのかい?」
如月「……そうね。司令官に出会うまで、ずっと私は、地獄にいたような気分だったわ」
如月「その司令官が、人に対して頭を下げるのは、間違っているのかもしれない……」
如月「でも、司令官は言っていたじゃない。私たちの目的は、私たちの居場所を作ること。誰にも邪魔されない安住の地を得ること」
如月「司令官は、そのために、人間と話し合いを進めてきたのよ」
ニコ「……」
693 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:39:17.34 ID:1RqAqzjro
如月「ニコちゃんが納得できないのはわかるわ。私だって、そう思うときがあるもの」
如月「でも、司令官は、人間を知っているからこそ、私たちが戦わなくていいような、人間に関わらずに済むような手段を取ろうとしているの」
如月「それが、今の司令官の『戦い』なんだと思うわ……!」
ニコ「……ぼくたちこそ、魔神様のために戦ってるのに……」
如月「司令官も同じなのよ。ニコちゃんたちも、深海棲艦たちも、私たちも心配だから……みんなを守るために、司令官は動いてる」
如月「曽大佐の艦隊が来た時だって、そうだったでしょう? 司令官として、魔神様として、私たちと同じように、命を懸けたいのよ」
戦艦棲姫「……私ニハ、声ヲカケテ来ナカッタナ?」
如月「それは単純に、戦いに巻き込みたくなかったからじゃない? 私たちが引き起こしたからって考えてたんだと思うわ」
戦艦棲姫「……本当ニ、変ワッテルワネェ」
ニコ「魔神様が、命を懸けたいなんて……」
如月「私としては、そういう危険なことはやめて欲しいんだけど。ニコちゃんもそうでしょ?」クスッ
ニコ「うん……魔神様も、一緒に……か」ウツムキ
戦艦棲姫「……ネェ」ヒソヒソ
如月「?」
戦艦棲姫「アイツ、嬉シソウネエ?」ニヤリ
如月「ふふっ、そうねぇ」ニコニコ
ニコ「ちょっと、何の話!?///」カオマッカ
694 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/08/24(土) 23:40:07.57 ID:1RqAqzjro
今回はここまで。
>668
お褒めにあずかり恐縮です。
ほぼほぼ台詞で構成しているので、できる限り読んでわかりやすく、というのは心がけています。
695 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:04:31.35 ID:eLSxtmOxo
それでは続きです。
696 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:05:16.49 ID:eLSxtmOxo
* 島の北東部 かつての砂浜の岩礁地帯 *
提督「さて、さっさと戻って中将に……ん? ありゃ誰だ」
(何者かが岩場の上で海側に足を向けて、大の字になって寝転んでいる)
戦艦水鬼改「……艦娘ッポイナ?」
大和「艤装が煙を吹いてますね……ここに流れ着いてきた艦娘でしょうか」
秋雲(中破)「……ふえっ!? だ、誰!? って、大和さん!? と……どぇええぇえ!? 深海棲艦んん!?」
戦艦水鬼改「知ッテル艦娘カ?」
提督「いや、知らない顔だな」
秋雲「あれれー、おっかしいなぁー!? あたしってば、いつ沈んだっけ!? まだあの世には来てないはずなんだけどおお?」オメメグルグル
提督「なに寝ぼけてんだ。ほれ、お前はどこのどいつだ、何が望みだ、早く言え」
秋雲「ちょっとお!? そんなに立て続けに言われたってこっちにだって心の準備ってのがあんのよ!? ちょっと待ってってーの!」プンスカ!
提督「中破してる割には元気だな。早霜に似た服を着てるが、同型艦か?」
大和「いえ、夕雲型には似ていますが、彼女はその前の陽炎型ですね。形が似ているために、夕雲型の制服を着ているようです」
提督「ふーん……」
697 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:06:00.83 ID:eLSxtmOxo
秋雲「……うーん、三途の川の渡し守にしては、健康的な小麦色の肌の色をしてるなあ」マジマジ
秋雲「そしてその見慣れたその海軍の制服……もしかして、あなたどこかの提督さん? なんで深海棲艦が一緒にいるの?」
提督「それに答える前に、先にこっちの質問に答えろよ。お前、墓場島鎮守府って知ってるか」
秋雲「なにその推理小説にでも出てきそうな島の名前! そんな鎮守府あるの!?」
戦艦水鬼改「知ラナイノカ?」
秋雲「うん、初めて聞いたなあ。墓場島鎮守府……もしかして、あっちに見える建物がそうなの?」
大和「本来は××島鎮守府ですけれど、そちらの名前のほうが広まっていますね。とりあえず、あなたの名前と所属を訊いても?」
秋雲「あ、ごめんごめん、あたしの名は秋雲! 良提督鎮守府の秋雲さんだよー!」
戦艦水鬼改「ノリガ、軽イナ……」
提督「良提督? 聞いたことねえな。で、お前はどうしてここに来た?」
秋雲「どうして……あー、そりゃ、ちょっと言いづらいんだけどぉ……」
戦艦水鬼改「……言ワナイノカ」ジトッ
秋雲「ちょっ! ちょっとタンマ! さっきから戦艦の姐さんの圧がすごいんだけど!? 言います! 言いますってば!」
698 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:06:46.04 ID:eLSxtmOxo
秋雲「えー、そのぉ、秋雲さんはですねえ……ちょっと、あの、お恥ずかしい話ですが……家出……してきたん、ですよ」
大和「家出? 鎮守府から?」
提督「何か不満でもあったのか」
秋雲「まあ、不満と言いますか、何と言いますか……方向性の違いと言いますか」
戦艦水鬼改「?」
提督「……とりあえず、詳しく事情を聞く前に、ひとつ肝心なこと訊いておくか。お前、生きたいか、それとも死にたいか、どっちだ?」
秋雲「いやいやちょっと待って!? なにそのとんでもない2択!! 今の流れでどうして死ななきゃいけない選択肢が出てくんの!?」
提督「自殺志願者じゃねえんだな?」
秋雲「ないよ!? 死ぬ気ないよ! 死にたくもないしそういう考えに至ってもいないし! え、ってゆーか、そういう島なの……?」
提督「ろくでもない目に遭わされた艦娘が多いのは確かだな」
秋雲「うへえ……秋雲さんどうなっちゃうのよコレ」
699 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:07:31.75 ID:eLSxtmOxo
* 食堂外 テラス席 *
中将「……生存者は確認できず、か」フゥ…
提督「行方不明って扱いにしてもいいでしょう」
葛城「……」
中将「君たちが責任を感じる必要はない。指揮を執ったのはこの私だ」
与少将「……しかしそれでは……!」
提督「艦娘がいるから忘れられてるが……この御時世、人間にとっては渡航そのものが命がけだ」
与少将「!」
提督「人間が艦娘連れて渡航した場合も、3回に1回は深海棲艦と交戦して、そのうち8回に1回は船が沈んでるって聞いてる」
提督「艦娘だって時々沈んでるのに、人間に犠牲が及ばない航海を約束すんのは無理がある。船だって的として見りゃでかいしな」
提督「あの船も旧式とはいえそこそこ速度も出るって聞いてるのに、それで魚雷に被弾しちまったってのは運が悪かったとしか言えねえよ」
提督「なんらかの攻撃を受けて、艦娘が無事。かつ、中将という生存者もいる。まずはそれで良かったと思えってんだ」
葛城「そうかも、しれませんけど」
提督「つうか、もともと厄介払いの連中ばかりだろ? 囚人に至っちゃあ殺す手間が省けていいじゃねえか。生かしてたって税金の無駄だろ」
葛城「そういう問題じゃなくて!!」クワッ!
提督「なんだ真面目だな。いずれにしろ、終わっちまったことをぶちぶち言ってもしょうがねえよ」
700 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:08:15.79 ID:eLSxtmOxo
提督「お前らも訓練してきているんだろうが、今回のは完全に事故だ。犬に?まれたと思って諦めろ」
葛城「……」
提督「それで納得できねえんなら強くなりやがれ。お前らがこれからやれることと言ったらそれくらいだろ」
葛城「……っ! わ、わかってるわよ! 見てなさい、いつか瑞鶴先輩みたいになってやるんだから!!」
提督「おう、せいぜい頑張りな。ところで与少将、この件、俺が口を出してもいいか?」
与少将「……まあ、ややこしくならん程度に頼むぞ?」
提督「ああ。まあ、事故に近いっつう状況説明だけにしといてやるよ」
提督「それから、ちょっと考えたんだけどよ。事態をややこしくさせかねないことを言うが……」
提督「今回の魚雷って、案外、海軍が秘密裏に魚雷の威力確認のためにどっかで演習してた、その流れ弾とかじゃねえの?」
与少将「……何を言うちょるか!?」
葛城「海軍内の仕業だって言うんですか!?」
提督「まず、海軍かどうかは別にしても、魚雷を撃った奴は確実にいるわけだ」
提督「俺たちも兵器開発をしてないわけじゃないが、いまのところは、それでわざわざ領海の外に出てはいないし」
提督「そもそも俺たちが中将の乗ってる船に向かって攻撃する理由がねえ。普通に中将はこの島に対しての協力者だし」
提督「政府との会談を控えてるこの時期にそんなことしたら、いろいろ台無しになっちまう」
与少将「確かにのぉ……」
701 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:09:01.73 ID:eLSxtmOxo
提督「で、俺としちゃあ、海軍がなんか新兵器でも開発してんのか? と思っちまうんだよ。信用してない分、余計にな」
与少将「いやいや、いくらなんでも、それで中将閣下の船が被害を被るようなことはせんじゃろ……」
提督「そうかあ? 深海棲艦は絶対滅ぼす、みたいな脳みその奴、まだいるんじゃねえの? 曽大佐みたいによ」
提督「そういうやつが、あわよくば一矢報いる思いで、俺たちの島に向かって魚雷を撃った、ってほうがあり得そうだけどな」
葛城「曽大佐って、あの、おじいちゃんになっちゃったっていう……!?」ゾッ
提督「知ってんのか」
与少将「今では有名じゃぞ、悪い意味でな。しかし、そのおかげで、この島に攻撃を仕掛けようという声が鎮静化したのも事実ではあるが」
提督「だからこそ秘密裏に、って思ったんだけどな」
与少将「……となると、ますますどこから来たかがわからんちあ」
提督「まあ、後は……新たな脅威となる深海棲艦がいる、って線も考えられるが、今んとこ、そういう報告も受けてねえしなあ」
与少将「むー……」
葛城「……」
提督「……ここまで喋っておいてなんだが、ことがことだし、事故扱いで処理されて有耶無耶になりそうだな?」
与少将「むう……」
702 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:09:46.24 ID:eLSxtmOxo
提督「連中が乗ったボートも見つからないってことなら、この辺の早い潮に流されて転覆したってこともあり得るし」
提督「海軍もこれ以上の不始末は表沙汰にしたくもねえだろ。適当な原因でっち上げてもそれまでなんじゃねえの」
与少将「不本意だが、場所が場所だけに調査もできんじゃろうし、そういうことにされそうじゃな」
葛城「私たちは……中将さんは、どうなるんですか」
提督「悪いようにならねえように、俺たちが立ち回るしかねえんじゃねえか。武蔵の映像もある、海軍だっておおごとにしたくねえはずだ」
与少将「……ところで、艤装がボロボロの艦娘を連れて来ちょったが、どうしたんじゃ」
提督「あいつもあの船と同じく、流れ弾らしい魚雷に被弾したみたいでな。島の北東に流れ着いたところを保護した、ってとこだな」
与少将「中将閣下の船を狙った魚雷と同じものか?」
提督「かもな。詳しい話はこれからだ」
クルリ スタスタ…
与少将「……その事情によっては、わしらの出番になるかもしれんちゅうわけか?」
那智「そうなるでしょうね。ただ、ここに流れ着くような艦娘が、素直に元の鎮守府に戻れるような事情か、というのはありますが」
葛城「どういうことよ、それ……」
間宮「……陸奥さん。提督さんって、自分でやっておいてよくあそこまで口が回りますね?」ヒソヒソ
陸奥「ふふっ、秘密よ?」ウインク
703 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:10:31.62 ID:eLSxtmOxo
*
秋雲「……えーと、あたしたち、漫画を書いてたんですよ」
提督「へぇ……てことはお前、絵が上手いのか」
秋雲「まあ、それなりには。で、ほかの鎮守府の同型艦……同じ秋雲たちに誘われて、一緒にサークル作って同人誌作ってたんですけど」
戦艦水鬼改「ドウジンシ?」クビカシゲ
秋雲「んっとねえ、同好の士っていうか、趣味が同じ人が集まって作る本のことなんですけど」
秋雲「あくまで内輪で、自分たちが作りたい趣味の本を自分たちのために作っちゃう感じ?」
戦艦水鬼改「本ヲ作ルノカ……楽シイノカ?」
秋雲「そりゃもう! みんなでひとつの本を作るって、それまでやったことなくって!」
秋雲「こう、モノが出来上がると、やり遂げたなあ、って感じで感動もひとしおで!」
秋雲「で、次はもっといいもの作ろう! ってみんなでまたワイワイやりだすんだよねぇ」ニヒヒッ
秋雲「……で、そういう楽しい期間がそれなりにあったんだけど、最近それが楽しいと思えなくなっちゃって……」
提督「ふーん。なにかあったのか」
秋雲「……疑問に思うようになっちゃったんですよ。私って、こういうのが描きたいんだっけ? って」
提督「? どういう意味だ?」
704 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:11:16.01 ID:eLSxtmOxo
秋雲「うーん、なんて言えばいいかなぁ……絵を描くことは好きなんだけど、なんか、これじゃない? みたいな?」
提督「よくわかんねえな……?」
秋雲「自分でもよくわかってなくて、うまく説明できないんですよー。このわけのわからない違和感のせいで、どうにも集中できなくて」
秋雲「で、それ以来、自分が思うように絵が全然描けなくなっちゃいまして。今も大絶賛スランプ中!」アタマカカエ
秋雲「だから一度絵を描くのをやめよう、絵から距離を置こう、って考えて。本業の出撃に影響出ても嫌だしさ?」
提督「……まあ、海軍に所属する艦娘としては正しいな」
秋雲「それで、サークル活動もお休みしようと思って、みんなに相談したんだけど……それがすっごい勢いで猛反対されて!」
大和「どうして反対されたんです?」
秋雲「それもわかんないの。なんか、辞めるのがもったいないとか、とにかくすっごい引き留められたんだよねぇ……」
戦艦水鬼改「辞メル? ソノ、サークルカラ、抜ケルノ?」
秋雲「うん。今の私はなんにも描けないんだから、サークルに残っててもしょうがないと思うのよ」
秋雲「勿論、みんなにはいろいろお世話になったから悪いなあって思ったし、引き留めてもらったりもして嬉しかったんだけど」
秋雲「みんなの役に立てない以上は、そこに居座ってもしょうがない気がしてさ。そもそも、絵から距離を置きたかったわけだし」
提督「で、辞められなかったから家出ってか?」
秋雲「いやぁ、結果的にはその通りなんだけどぉ、そうなるまでに葛藤とか、いろいろあったのよー?」
705 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:12:00.80 ID:eLSxtmOxo
秋雲「ほら、どうせ残るならなにかしら活動の役に立ちたいと思うじゃない? でも、私、戦うのと絵を描く以外はすっごい苦手でさ?」
秋雲「ストーリーを作るのなんかも全然だし、じゃあ何かサポートできるか、って言われても……私には絵しかなかったからさ」シュン…
秋雲「本を作るって目標があるのに、私だけ何もしてないってなると、いたたまれないし気まずいし、そこにいるだけで罪悪感がひどくって」
秋雲「一度、絵から離れたら、何か違うものが見えるかも、って考えもあったし、全部手放してすっきりしたかったってのもあったの」
秋雲「なのにしつこく引き留められて、だいぶ神経すり減らされちゃってさあ……それでますます厭になっちゃったっていうか」
秋雲「絵を描くこと自体は好きなはずなんだけど、全然楽しいと思えなくなっちゃって。ストレスで手が震えて出撃にも影響出るくらい」
戦艦水鬼改「重症ネェ」
秋雲「もー、そのくらい本当にやばかったから、ある日、絵を描くのも辞める覚悟でサークルから脱退します! って連絡したのよ」
秋雲「そんでスマホも連絡先全部拒否って電源落として、道具も机に全部しまって鍵かけて! 潔く、漫画のことは忘れよう、って!」
秋雲「そうやって、全部封印した矢先にうちの良提督が、サークルのみんなから漫画描く依頼を受けてきちゃってさあ……」ガクーッ
大和「ええ……?」
戦艦水鬼改「ソイツ、ナニヤッテンノ……?」
秋雲「ええ、なにやってくださりやがってんだって思いましたよ……良提督にサークルのことを話してなかった私も悪いんだけど」
706 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:12:47.10 ID:eLSxtmOxo
秋雲「それでもさ、私がどうしても描けないから辞めたいんだって訴えれば、良提督が味方になってくれると思ってたのよ」
秋雲「それがさ!? 私が描けないから離れたいって言ってんのに、みんなが褒めてたから描いたほうがいいとか言って私の話を聞いてくれないんですよ!」
秋雲「才能がもったいないとかみんなと一緒に活動したほうが幸せとか! そんな外からの声よりこの秋雲さんの切実な訴えに耳を傾けていただきたいんですけど!?」
秋雲「君のためを思ってとか美辞麗句並べてるけどそれどう考えても引き受けた手前引っ込みがつかないから私に折れろって感じの保身から来てるやつじゃないですかねえ!!?」ウガー!
大和「……」アタマオサエ
提督「肝心な時に役に立たねえなそいつ……」
戦艦水鬼改「ソイツ、駄目ナコトシカ、シテナクナイ……?」
秋雲「そうなの!! ほんっと、それダメなやつで! マジで味方から背中を撃たれるってやつでさあぁぁ!」ナミダジョバー!
秋雲「だいたいなんで提督が海軍の本来のお仕事より、趣味のサークルのお手伝いを優先するよう自分の部下に説得しちゃうのよ!?」
秋雲「普通逆じゃないの!? 提督としての自覚ある!? それとも秋雲さん艦娘として戦力に数えられてない!?」ウワァァァ!
秋雲「……ということがありまして。その流れで出撃しなくていいよと戦力外通達されて主砲も魚雷も取り上げられたのが何日か前」ハイライトオフ
大和「えっ」
秋雲「ぼけーっと海を見てたところまでは覚えてたんだけど、なんか気が付いたら海にいて」
戦艦水鬼改「アンタモ、ナニヤッテンノ……」
秋雲「よくわかんないうちに魚雷貰っちゃって、航行できずにあの岩場に流れ着いて、いまココ! って感じ? うふへへへへ」
提督「躁鬱の差が激しいな……」
707 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:13:45.81 ID:eLSxtmOxo
秋雲「いひっ、いやもう、こうやって整理して話してたら、あー秋雲さん帰りたいって思ってないんだなーって心境が確認できちゃってさあ」
秋雲「てゆかもうこれ脱走じゃん。秋雲さんてばもう一巻の終わり? 馘で済む話じゃないよね? 物理的に艦首が飛ぶよね?」
戦艦水鬼改「普通ナラ、ソウカモシレナイワネェ」
秋雲「やっぱりぃ? そんなことならさっさと三途の川を渡っとけば良かったかなあ……」グンニョリ
大和「……提督、秋雲さんから事情を聞く限りは、良提督の対応に問題があるように思えますね」
提督「ま、俺たちが何を言ってもしょうがねえ。改めて訊くか、おい秋雲」
秋雲「ぁい?」
提督「お前はこれからどうしたい? 死にてえのか生きてえのか、どっちだ? お前の、望みはなんだ?」
秋雲「望み……望みかあ……」ボンヤリ…
大和「……」
戦艦水鬼改「……」
秋雲「あたしは……艦娘として、普通に出撃したい、っていうのと……やっぱり、絵が、描きたいなー」
提督「絵?」
秋雲「うん。絵を描くの辞める、って、その場で言いはしたけど……やっぱり、あたし絵が好きなのよ」
秋雲「いま、自分が何がしたいか、って単純に考えたら、やっぱり、紙と鉛筆持って、あたしの好きに描きたいっていうか……」
708 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:14:30.64 ID:eLSxtmOxo
提督「好きなものを描いてたんじゃねえのか?」
秋雲「うーん、最初は嫌じゃなかった気がするけど……今はもうわかんなくなっちゃった」
戦艦水鬼改「……何ガ違ウノカシラ」
秋雲「えっとねえ……これまでは、みんなでお話を考えて、構想を練って、それをわーっと絵にしていく、って感じだったのよ」
秋雲「ずーっと机に向かって描いてたから息が詰まっちゃって……それで気分転換に外に出て、その辺の草花描いたりしてたんだよね」
秋雲「でさ、ここもロケーションすっごいいいよねー。オープンテラスで、花壇があって、水路があって……すっごい綺麗」
提督「……まあ、ここに住んでる住人たちのおかげで、綺麗にしてるからな」
秋雲「こういう景色を描き残したいなあ……って、ぼんやり眺めてて思ったの。水の音や、風やにおいを感じながら描けたら幸せだなーって」
大和「ということは、秋雲さんは漫画家ではなく風景画家を志望している、と……?」
秋雲「あ、ああ……それ! それかも!」キラキラッ!
秋雲「うわあああ、なんか見えてきた! ばーっと、私のやりたいことが目の前に広がってきたー!!」
秋雲「描きたい! 紙と鉛筆と消しゴムと肥後守が欲しい!! 出来ないんなら涙で床板を濡らしてその水で絵を描いてやるー!」ウオオー!
戦艦水鬼改「……ヒゴ?」
提督「肥後守っつう折り畳み式の小刀があるんだよ。今の話だと、鉛筆削るのに使いてえんだろ」
709 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:15:15.73 ID:eLSxtmOxo
朧「涙で絵を描くってところは雪舟ですね」スッ
秋雲「うおぅ!? お、朧もいたの!?」
朧「……なに? 朧がいたらおかしいの?」ムッ
秋雲「いやいや、そうじゃなくて、確かに言い方悪かったけど! そこはほんとごめん!」ワタワタ
秋雲「てかさ、この島、深海棲艦がたくさんいるから、そんな島にも朧がいるのがびっくりでさー! 朧は大丈夫? 元気なんだよね?」
秋雲「……うん、いま冷静になったけど、すごいとこだよね、ここ。なんで私、戦艦クラスの鬼級の隣で優雅にコーヒー飲んでるの?」シロメ
泊地棲姫「気絶シテナイデ、冷メナイウチニ、コーヒー飲ミナサイ」
秋雲「アッハイ、アリガトウゴザイマス」シロメ
提督「……中将、与少将。とりあえず奈准将の艦娘たちは、海軍まで送り届けてもらっていいか?」
与少将「ん? おお、こっちの艦娘はわしらに任しとき。で、そっちの秋雲は、時間を置いてから迎えに来るとええんか?」
提督「いや、秋雲のことは、こっちから連絡するまで秘密にしておいてくれねえか? 特に良提督には知られたくねえな」
秋雲「!」
与少将「……んむ、ええじゃろ。わしも傍から聞いてて、良提督はどうもええ格好しぃのケがあるように思えるけえの」
与少将「下手に知らせたら、自分の名誉回復のために出しゃばってくるとしか思えんし、最悪この島に内緒で押しかけてきそうじゃな?」
提督「だよなあ……やっぱりそう思うか?」
710 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:16:00.93 ID:eLSxtmOxo
与少将「部下の不満に耳を傾けず、余所からの頼みごとを聞いて無理を強いちょるようじゃ、他にも問題ぶち起こしてそうじゃな……」
与少将「とにかく、秘密にするのは決まりじゃけえ、葛城たちは、この島の秋雲のことを口外せんようにな。ええな?」
葛城「は、はいっ」
提督「悪いな、そうしてもらえると助かる」
泊地棲姫「ナカナカ理解ノアル将官ネェ。ソウイウ人間バカリダトイインダケレド」
与少将「お前たちが良い隣人なら、わしらもそうあるべきじゃろ。わしこそ、提督がここまで善人だと思わんかったぞ?」
提督「善人? 俺がか?」
与少将「妖精に育てられた、と聞いてからは納得しちょるがの。人間嫌いと言う割に他者に対する配慮が行き届いちょる」
与少将「泊地棲姫も提督を信頼しておるようじゃが、この男のそういうところが気に入ったんじゃろ?」
泊地棲姫「ソウダッタカナ……」
与少将「む、違うのか?」
提督「……何訊いてんだお前。子姑根性出してんじゃねえよ」
与少将「わしは単純に仲良くなったきっかけを知りたいだけじゃ」
泊地棲姫「キッカケカ……強ソウダッタカラ、ダナ」
与少将「強そう?」
711 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:16:45.95 ID:eLSxtmOxo
泊地棲姫「私ガ攻メ込ンダトキノ艦娘タチハ、トンデモナイ気配ヲ纏ッテイタカラナ。ソレヲ纏メテイタ提督モ、コンナ姿デハナカッタ」
提督「あー……そうか、俺が泊地棲姫と初めて会ったときは、半分深海棲艦の姿だったもんな」
泊地棲姫「強イモノニ従ウノガ、我々深海棲艦ノ常ダガ……二度目ニ会ッタトキハ、人間ノ姿ヲシテイタカラ、少シ驚イタ」
泊地棲姫「ツイデニ、頭ヲ掴マレタノモ、アンナニ痛イ思イヲシタノモ、ソノアト優シクシテモラッタノモ、全部初メテダッタ……」ポ
戦艦水鬼改「思ワセブリナ、言イ方ヲスルナ」
与少将「提督、泊地棲姫の頭を掴んだんか……?」タラリ
提督「ああ。ちょっとあんまりなことを言い出すもんでな」
与少将「ようけ無事じゃったのぉ……」
秋雲「いやいやちょっと待って、なんで私、フリフリエプロン着た泊地棲姫にコーヒー淹れてもらってるの? こんなの絶対おかしいよ」シロメ
泊地棲姫「マダ順応デキテナイノカ」
提督「ま、しょうがねえんじゃねえか。こんな状況、来てすぐ受け入れられる艦娘も、そうそういないだろ」
戦艦水鬼改「……最上クライカシラ?」
朧「ああ、確かに、最上さんはすんなり受け入れ過ぎと言うか、図太いというか……」
大和「そうですねえ」クスッ
712 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:17:30.92 ID:eLSxtmOxo
夕張「私も信じたい気持ちと信じられない気持ちがせめぎあってて混乱するわ……正直、こんな状況おかしいと思うんだけど」アタマカカエ
天津風「そうよね、こうやって話し合えるって言うのなら、なんで私たちは戦わなきゃいけないのかしら……」
提督「ん? なんで、って、そりゃ話し合えないからだろ? わかってんじゃねえか」
天津風「そ、そういうことじゃなくて……!」
提督「そういうことだよ。人間だってそうじゃねえか。話し合いで解決できないから、同じ人間同士でも争うし殺しあう」
提督「さっきの秋雲の話だって、他人が自分の理想や都合を押し付けてくるから、秋雲が苦しんだって話だぜ?」
天津風「……!」
提督「俺たちも、話が通じない奴は、人間も深海棲艦も、艦娘であっても関係なくぶっ潰すつもりでいるんだ」
提督「お前たちが出会った深海棲艦たちも、話し合うつもりのない、手前の感情を押し付ける連中ばっかりだった。それだけの話じゃねえの?」
天津風「そ、そうかもしれないけど……そうだって言うんなら、この島の住人はそういう深海棲艦とは違うっていうのね?」
提督「俺からは島に住むならそうお願いしてるが、俺は人間と仲良くしたいと思ってねえ。争わないように疎遠になりてえんだ」
天津風「……なんなのよ、それ」ジトッ
武蔵「そういう反応も仕方ないとは思うが、提督自身が人間に嫌な思いばかりさせられ続けていたからな」
武蔵「この島の艦娘も、捨て艦だけじゃなく、冤罪を受けたりセクハラされたりと、人間に嫌な思いをさせられた艦娘ばかりだ」
武蔵「提督は、そういう人間たちから艦娘を庇い続けてきたのだからな。人間嫌いに拍車がかかってもやむをえまい」
葛城「さっきの話につながってくるわけね……」
713 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:18:16.10 ID:eLSxtmOxo
秋雲「ちょっと待ってなに今の話!? って言うことは朧も捨て艦とかにされたってこと!?」ガタッ!
朧「……まあ、朧はそうだったけど」
秋雲「よく生きてたねえ! ううっ、本当に良かったよぉ!!」ダキツキッ
朧「ちょっと、そういうの鬱陶しいから、やめて」ヒキハガシ
秋雲「……オボロガ、冷タイヨ……」ヨコタワリ
提督「……朧、秋雲とはなんかあったのか?」
朧「艦のときに、一緒に五航戦の護衛についてただけです」
提督「なるほど。知った顔がいりゃあ、頼りたくもなるか」
春風「話が少しそれましたが……こちらの司令官様の意図としては、人に虐げられた艦娘や、厭戦的な深海棲艦の保護のため……」
春風「人間と距離を置くべく、武器を置いて話し合いをなさっている、という理解でよろしいんですね?」
提督「まあ、そんなとこだな。うちの連中を面倒な目に遭わせたくねえ。外と関わって嫌なことに巻き込まれるのは最低限にしたい」
天津風「……だからこの島の中は、深海棲艦がいるのに穏やかな風が吹いてるのね。ほとんどの特別海域って、暗雲が立ち込めてるし」
瑞鳳「こっちのお菓子もおいしいし……この島、なごみ成分が多すぎよ?」モグモグ
714 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:19:00.83 ID:eLSxtmOxo
間宮「あら、泊地棲姫さんの焼いたクッキーも好評みたいですね」
瑞鳳「えっ、そうなの!?」
泊地棲姫「フフフ、当然ダ」テレッ
あきつ丸「こう言ってはいけないかもしれませんが、親近感がわいてしまうでありますな」
葛城「言っちゃってるじゃない……」
那智「以前はここに住む深海棲艦はル級だけだったんだがな。随分と賑やかになったものだ」フフッ
中将「……提督は、本当に良い仲間に恵まれたな。この島を戦いに巻き込まぬよう、儂も働かねばならん」ウム…!
神州丸「……ときに、少将殿? あの手紙は、提督殿に渡したでありますか?」
与少将「む! いかんいかん、忘れとった! 提督! お前さんに個人的な手紙が届いちょるぞ!」サシダシ
提督「ん? 手紙? 誰からだ……宛先が俺と、吹雪?」ウケトリ
朧「……提督、この人、もしかしてあの吹雪の……」
提督「あいつか……! 朧、悪いが吹雪を呼んできてくれるか?」
朧「はいっ!」
715 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:19:45.96 ID:eLSxtmOxo
* それからしばらくして 食堂内 *
吹雪「お待たせしました司令官! 吹雪をお呼びですか?」
提督「おう、懐かしい奴から手紙が届いたぞ」
吹雪「懐かしい? 誰でしょう」
朧「あれ、まだ封を切ってなかったんですか?」
提督「宛先が俺と吹雪だからな。見るなら揃って見ないと駄目だろ。ほら吹雪、早く隣に座れ」チョキチョキ
吹雪「は、はい! それで、この手紙は……」チャクセキ
提督「吹雪からだ。S提督んとこのな」
吹雪「S提督の!? あの改二になってた吹雪ちゃんからですか!?」
提督「ああ。差出人の名前は吹雪じゃねえけど……」ガサッ
(封書の中から出てくる数枚の写真と手紙)
吹雪「!! これは……この人がS司令官です!! うわあ、懐かしい……!!」ウルッ
提督「……隣にいる女、吹雪に似てるな?」
吹雪「ほ、ほんとですね……でも、明らかに私や、あの吹雪ちゃんよりずっと大人に見えますよ」
与少将「ちょいと邪魔するぞ……ああ、解体された吹雪っちゅうんは、この娘じゃったか」
提督「解体!?」
716 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:20:30.72 ID:eLSxtmOxo
与少将「艦娘の解体処分には2種類あるんじゃ」
与少将「艦娘をまるっと艦として全部処分する解体と、艦娘の娘の部分を切り離して艦の部分だけを解体する解体とな」
提督「そんなことできるのか……」
与少将「これも妖精さんのオーバーテクノロジーっちゅう奴じゃ。後者はわしも数回しか事例を知らんがの」
与少将「この吹雪の場合は、後者を選んで、かつ、成人年齢にまで成長した状態にしてもらったと聞いちょるぞ」
提督「……」マユヒソメ
与少将「この制度を利用すれば、提督が危惧してそうな『悪いこと』もできるんじゃが……」
与少将「妖精さんたちの厳しい審査を通らんと、切り離すタイプの解体はできんけえ、安心せえ」
提督「妖精が審査するのか……なら、信用しても良さそうだ」
吹雪「司令官、早くお手紙読みましょう!」
*
提督「……」
吹雪「……良かった、二人とも幸せそうで」グスッ
吹雪「差出人の名前が全然違ってたのも、艦娘を辞めた時に名前を変えたからだったんですね……!」
提督「まさか艦娘辞めてS元提督と二人で暮らせてるなんてな。大団円じゃねえか、こうなりゃこっちからは何も言うことはねえ」
吹雪「何を言ってるんですか! お祝いの一言くらい返してあげないと!!」
提督「そうか……?」
717 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:21:15.79 ID:eLSxtmOxo
朧「提督、こっちの吹雪も元気だって、伝えてあげてもいいと思いますよ?」
提督「……まあ、そういうことなら……」
吹雪「司令官、私たちも写真撮りましょうよ! 送ってあげて、私たちも元気だって、安心させてあげましょう!」
提督「わかったよ……青葉呼んで撮ってもらうか」アタマガリガリ
朧「……艦娘って、辞められるんだ……」
中将「艦娘にも、戦う以外の違う人生があっても良いだろう。軍人も死ぬまで戦い続けるわけではない」
朧「!」
中将「君も、艦娘を辞めたいと思ったのかね?」
朧「……いえ、朧は、ずっと艦娘のままでいると思います」
中将「ふむ……そうかね」
朧「はい。辞める気はないんですけど……艦娘を辞めて人間になるとき、名前って変えられるんですか?」
中将「ああ、変えられるようにした。その理由の一つに、彼女たちが元艦娘であることを知られないようにするため、というものがある」
中将「過去に、海軍の内情を探ろうとした輩が、元艦娘の女性を拉致しようとした事件があった」
中将「その時は幸いにもその女性が返り討ちにしたのだが、名前がそのままでは危ないということで、好きに名乗ってもらうことになったのだ」
朧「そうだったんですか……」
718 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:22:16.13 ID:eLSxtmOxo
中将「それに、そうでなくとも、戦争が終わるなどして仮に退職者が多数現れれば、同じ名前の娘が何人も現れることになってしまうし」
中将「たとえ同じ艦であっても、別個体である以上、個性がある。人間になろうとする事情も様々であろう」
中将「新しい人生を歩むのだ、いつまでも艦娘であったころの名前に縛られていることもあるまい」
朧「……それで、あの吹雪は『マナツ』なんて名前に変えたんですね」
朧(たぶん、あの司令官が轟沈させた『吹雪』のことを、思い出させないために……かな)
* 夕方 *
伊8「戻りました」
提督「よう、お疲れ。遠くまで出張ってくれてありがとな。ちょっといいか?」テマネキ
伊8「はい?」
提督「中将の船を超長距離魚雷で狙ったとき、船の周囲以外に艦娘はいたか?」ヒソヒソ
伊8「いえ、艦隊はいなかったと思いますけど」ヒソッ
提督「もし、ひとりだけ、ぽつんといたら?」
伊8「単艦ですか? ……もしかしたら、感知漏れの可能性はあります」
提督「そうか……じゃあ、秋雲を巻き込んでても仕方ねえか」
伊8「??」
719 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/07(土) 09:23:15.99 ID:eLSxtmOxo
ということで、今回はここまで。
720 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2024/09/09(月) 11:18:06.48 ID:UXEBM6NC0
解体の後…全解体と人間化両方採用してるSSは初めて見た。
721 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2024/09/24(火) 14:19:17.47 ID:yEQdH6x50
墓場島鎮守府から読み始めてとうとう追いついてしまった...
とっても面白くて、艦これSSの中でも特に好きな作品です!!
応援してます!!
722 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:38:11.46 ID:JF/c9yZ6o
それでは続きです。
723 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:39:01.40 ID:JF/c9yZ6o
* 数日後 *
* 墓場島鎮守府 埠頭 *
吹雪「司令官! 青葉さんがいらっしゃいましたよ!」
青葉「……お久し振りです、司令官」
提督「ん……? どうした青葉、いつになく元気がねえな?」
青葉「実はちょっと困ったことがありまして……司令官、青葉は以前、J少将の鎮守府にいたことをお話ししましたよね?」
提督「ああ」
青葉「そこに所属していた阿賀野さんが、行方不明なんですよ……」
提督「阿賀野? それ、いつ頃の話だ?」
青葉「実は、先月の末から……もうすぐ1か月が経とうとしています」
青葉「大怪我をしていたのに、無理に病院の外を出歩いて……松葉杖が付近で見つかりましたが、それ以外まったく手掛かりがなく」
吹雪「司令官、それってもしかして」
提督「そういうことだろうな。青葉、阿賀野なら来てるぞ」
青葉「へっ? き、来てるってどういうことですか!?」
提督「深海棲艦になって流れ着いてきたんだよ」
青葉「……はいィ!?」
724 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:39:45.67 ID:JF/c9yZ6o
* 翌日 *
* 墓場島鎮守府 埠頭そばの倉庫内事務所 *
青葉「というわけで、皆さんには事情を話さず連れてきたわけですが」
提督「まあ、昨日の青葉の反応からして、こうもなるよな」
朧「無理もないと思います」
矢矧「」マッシロ
能代「」マッシロ
衣笠「あああ、ふたりともしっかりしてー!!」アセアセ
酒匂「ぴゃああ……ほ、本当に、阿賀野お姉ちゃん?」
深海阿賀野「ソウヨ〜? ホラァ、矢矧モ能代モ、ナンデ立ッタママ、気ヲ失ッテルノヨォ〜!」プンスカ!
青葉「いやぁ、姉妹艦が深海化してたら、普通にショックだと思いますよ……?」
提督「おそらく阿賀野としては、全然変わってないどころか、体だけの悪いところが治っただけって感覚なんだろうなあ」
酒匂「うん、リアクションそのものは阿賀野お姉ちゃんとそっくり……っていうか、そっくりじゃなくてお姉ちゃんなんだよね?」
深海阿賀野「ソウヨ〜? 私ハ最新鋭軽巡、阿賀野型ノネームシップ、阿賀野ナンダカラ〜」ムネハリッ
青葉「衣笠のことも覚えてるんですよね?」
725 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:40:31.28 ID:JF/c9yZ6o
深海阿賀野「ナントナク、ダケドネ〜。ソウイエバ、秋月型モ、イナカッタッケ?」
朧「今日は秋月型は来てないんですね」
青葉「あ、はい。大人数になりますし、またケーキを顔で受けさせるわけにもいかないので」
提督「ケーキを顔で受け止める前提なのかよ」
青葉「二度あることは三度あるって言うじゃありませんか」
提督「そこは三度目の正直って言えよ。確かに俺も青葉の言うほうになりそうな気がするけどよ」
朧「否定しないんですか……」
提督「まあ、来ないのは正解かもな。パンプキンマスクのロゼッタが、もう涼月とは会いたくないとか言ってたし」
青葉「それも無理もありませんかねえ……」
衣笠「あのー、提督さん? 阿賀野ちゃんは、体のほうはもう大丈夫なんですか?」
提督「一応な。確か阿賀野は、鉄骨落ちてきて背骨やったんだっけか?」
衣笠「はい、そうです。一時期は二度と歩けないって妖精さんにも言われてて、私たちもすごくショックで……」
提督「妖精に言われたのか? そうなら、あとでこっちの工廠妖精にも精密検査してもらわねえとまずそうだな?」
朧「大丈夫だと思いますよ。いまは厨房のお手伝いもしてくれてますし、その時に体の異常を訴えたりはしてないみたいですから」
726 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:41:17.34 ID:JF/c9yZ6o
朧「それに、厨房でも活動できるようにするために、妖精さんたちに頼んで、阿賀野さんに義足の艤装を作ってあげたんですよね?」
提督「まあな。まあ、身体に問題がありゃ、取り付ける時に気付くか……」
深海阿賀野「ウフフ、コノ脚、トッテモ助カッテルワヨ〜」アシフリアゲ
深海阿賀野「コレノオカゲデ、キッチンデ、オ塩トカ小麦粉トカヲ、撒キ散ラサナクテ済ムシ!」
矢矧「あ、阿賀野姉さんが何かやらかしたんですか!?」
提督「別に意図してやらかしたわけじゃねえよ。あの義足をつける前は、ブースターみたいな脚で地面を浮いて走ってたんだが……」
提督「ヘリコプターみたいに風がすごくてな。阿賀野がいるといろんなものが風圧で取っ散らかっちまってた、ってだけだ」
深海阿賀野「ワザトジャ、ナイワヨー?」
提督「わかってるよ、責めてるわけじゃねえから心配すんな」
能代「も、申し訳ありません! 姉がご迷惑をおかけして……」
提督「迷惑じゃねえし、仕方ねえだろあの脚じゃ。今は厨房手伝ってもらってんだ、迷惑どころか助かってるぜ」
能代「そ、そうなんですか……?」
深海阿賀野「ソウヨ〜? 比叡サンカラモ、炒飯ノ味トカ褒メラレタンダカラ〜」
矢矧「え……?」
青葉「ここの比叡さん、お料理上手なんですよ。お墨付き頂いたってことは、結構な腕前ってことですよね?」
提督「比叡が言うんだからそうだと思うけどな。生憎、俺はまだ食べたことねえんだけど」
727 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:42:00.35 ID:JF/c9yZ6o
能代「何から何まで、私たちの鎮守府のトラブルに更に巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません……」
矢矧「もとはと言えば、私たちの司令官だったJ少将が、あんなことをしなければ……」
衣笠「うん……」
提督「しつけえな、終わった話だからもういいだろ。そういう口実で呼べっつったのは確かだけどよ……ん?」
深海阿賀野「……」
提督「阿賀野、どうした?」
深海阿賀野「……J少将……?」
能代「……阿賀野姉?」
深海阿賀野「ソウダワ……J少将……ワタシ、ドウシテ、忘レテイタノカシラ」メラッ
朧「阿賀野さんの目から、青い炎が……!」
深海阿賀野「アイツガ……アイツガ、青葉サンタチヲ殺ソウトシテ……アイツヲ、止メナキャ……!」ゴゴゴゴ…
青葉「し、司令官! これ、まずくないですか!?」
提督「……大丈夫だ、阿賀野。J少将なら俺たちが始末したぞ」
深海阿賀野「……ソウ、ナノ……?」
提督「おう。鎮守府ん中でメディウムたちにも会ったろ? あいつらにも手伝ってもらったんだ」
728 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:42:45.54 ID:JF/c9yZ6o
朧「あ、朧もそのとき一緒にいた気がします。はっきり覚えてませんけど……アタシ、ヲ級になってたんでしたっけ?」
衣笠「ヲ級!?」
提督「ああ、そういやそうだったな。初春もル級になってて、軽巡棲姫もいたんだっけな」
矢矧「……ル級? 駆逐艦娘が、ル級やヲ級になっていたんですか?」
提督「朧たちは、J少将とZ提督が作ってた深海棲艦の弾丸に撃たれたんだ」
提督「その弾丸の材料にされた、ヲ級とル級の力が二人に宿ったんだろう、って考えてる」
深海阿賀野「ソレジャ、アナタタチガ……J少将ヲ……」
提督「ああ。俺たちがぶちのめして、溶岩の中に放り込んだ。あいつは骨も残さず全部燃えて、今はこの世のどこにも存在しちゃいねえよ」
深海阿賀野「……ソウ……ソレジャア、アイツノセイデ……青葉サンヤ、能代タチガ、傷付クコトハ、モウ、ナイノネ……?」
提督「ああ。少なくとも、J少将やその部下のK大佐は、もうこの世にいない。安心しな」
深海阿賀野「……良カッタ……」グスッ
深海阿賀野「能代モ、自分ヲ撃ッタ、ッテイウカラ……心配、シタノ……!!」ポロポロッ
能代「阿賀野姉……大丈夫! 私はもう、大丈夫だから……!」
深海阿賀野「良カッタ……良カッタヨォ……!」ウエーン
矢矧「阿賀野姉さん……!」
酒匂「……良かったねえ……」グスン
729 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:43:30.76 ID:JF/c9yZ6o
*
深海阿賀野「ウン、ナンカ、泣イタラ、イロイロスッキリシチャッタ!」ニコニコー
能代「……」
深海阿賀野「? 能代、ドウシタノ? ナンカ難シイ顔シチャッテ」
能代「提督さん? どうして阿賀野姉さんが元に戻らないんですか!?」
提督「ああ?」
矢矧「阿賀野姉さんの心配事がなくなったんですよ? こういうのは、恨みや悩みが消えたら深海棲艦から元に戻るんじゃないですか!?」
提督「なんだそりゃ? そんな簡単に深海棲艦から艦娘に変われてたまるかよ、都合のいいこと言ってんじゃねえ」
提督「俺たちもいろんな事例を見てきたが、いまのところ轟沈以外の方法で深海棲艦が艦娘に変わる手段はねえってのが結論だぞ」
能代「阿賀野姉に沈めって言うんですか!?」
提督「艦娘にしたいなら今んところはそうするしかねえし、それも確実じゃねえからやめとけって話じゃねえか」
酒匂「えー? なんかいい方法ってないのー?」
提督「俺が知る限りの情報はもう全部喋ったぞ。手前に都合のいい情報がねえからって適当なこと言わせようとすんな」
矢矧「そこでどうして投げ遣りなんですか!」
提督「……」
朧「あ」
730 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:44:15.85 ID:JF/c9yZ6o
青葉「矢矧さん駄目ですよ司令官にそんなこと言っちゃ」
矢矧「でも!」
提督「お前らなあ、阿賀野が深海棲艦になるに至った轟沈自体は、俺たちには何も関係ねえんだぞ?」
提督「ただ阿賀野拾ったってだけの俺たちが、なんでそこまで面倒見なきゃいけねえんだよくっそ面倒臭え」ケッ
能代「」
矢矧「」
酒匂「」
青葉「あー、ついに出ちゃいましたかあ、司令官の伝家の宝刀『面倒臭い』が」
衣笠「よく言うの?」
朧「よく言いますね」
深海阿賀野「別ニ、無理ニ戻ラナクテモ、イイト思ウケド? 阿賀野、アノ鎮守府ダト、オ荷物扱イダッタシ〜」
提督「なんだよ、本人が戻る気ねえんじゃねえか」
青葉「いえいえ、お荷物扱いされていたのは理由がありまして。阿賀野さん、青葉より先にJ少将を怪しんでたらしいんですよ」
青葉「阿賀野さんが冷遇されていたのもそのせいらしく、青葉もそれを知らなくて、阿賀野さんと協力体制を取ってなかったんです」
深海阿賀野「アレ、ソウダッタッケ?」クビカシゲ
731 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:45:00.51 ID:JF/c9yZ6o
青葉「そうですよぉ、青葉が調べてた時も、阿賀野さんのほうからわざわざ協力を申し出てくださったのに……」
青葉「それを青葉が巻き込みたくなくてお断りしちゃったんですから」
青葉「ふたりで協力していたら、今とはまた違う結果になっていたかもと思って、本当に申し訳なく思ってるんですよ?」
深海阿賀野「……ソノ辺リ、忘レチャッタナー」
提督「なんにしても今の阿賀野じゃ戻れねえだろ。深海棲艦が普通の鎮守府に滞在できるようなルール、どこにもねえだろ?」
青葉「……それはまあ、そうですねえ」
提督「こっちで身柄預かりでいいじゃねえか。阿賀野に会いたきゃ、青葉と一緒に会いに来りゃいい」
能代「何から何まで……本当に申し訳ありません」
提督「だから謝んなって、しつっけえな。悪いのはJ少将だ」
矢矧「私も厚かましいお願いをして、すみませんでした……能代姉さん、私たちは阿賀野姉さんを元に戻す方法を考えましょ?」
能代「そうね。艦娘から深海棲艦になったんだもの、逆だってあり得るはず。確実な条件を見つけ出さないと……」
深海阿賀野「アンマリ根詰メナクテ、イイワヨ〜?」
衣笠「あの、提督さん? ひとつ気になったんですが、阿賀野ちゃんは、ここに来た当初は健康だったんですか?」
提督「来た当初……せいぜい腹を空かしてたくらいだな。見る限り普通に過ごしてたぞ」
732 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:45:45.97 ID:JF/c9yZ6o
衣笠「そうですか。だとすると、背中の怪我って深海棲艦になったから治ったんですかね……」
提督「……そんな簡単に治るか? 歩けないほどってなると、多分脊髄だろ? 船で言う竜骨がやられてたから一生もんだって話だよな?」
提督「もしそうだとして、艦娘の阿賀野がベースなら、何かしら後遺症なり障碍なりが残ってておかしくねえと思うが」
提督「それがないって言うのなら、肉体が一度滅んでリセットされたって可能性のほうが高えな。なんかの拍子に生まれ変わったとか……」
衣笠「生まれ変わるって……あるんですか?」
提督「死んで体も失った奴が戻ってきた事例があるんでな。阿賀野は体の悪いところが消えたんだし、短絡的にそう考えてもいいだろ」
朧「っていうか、提督も体を作り変えられたときがありましたよね」
提督「あー、あったな」
衣笠「えっ」
朧「そういう提督は、3回くらい死んだり復活したりしてませんでしたっけ」
提督「そんなにあったか?」
朧「大佐に撃たれたときと、魔力槽に入って体を全部作り変えられたときと、島が燃えた時に天国に行ってたっていうときと……」
朧「あ、エフェメラにバラバラにされたときも含めると4回ですか」
提督「言われてみればそうだな……」
衣笠「えっ? えっ? どういうこと?」
733 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:46:30.37 ID:JF/c9yZ6o
提督「意外と死にかけてんだな、俺って」
青葉「今更ですけど、ちょっとのんきすぎますよ司令官?」
衣笠「ね、ねえ、体を作り変えられたとか、バラバラにされたっていったい何!? 大丈夫なんですか!?」
提督「落ち着け。今は俺よりも阿賀野だろ、阿賀野」
朧「とりあえず、阿賀野さんはもう一度妖精さんと明石さんに精密検査してもらいましょうよ」
朧「提督は……また、人間ドックに診てもらいます?」
提督「いや、俺もう人間じゃねえし。それに、またあの本営の船医みたいな変な奴に目を付けられたくねえし」
提督「ドックの話を向こうに持ちかけた時点で、あの連中が目ぇ輝かせて立候補してきたらと思うとうんざりするぜ」
青葉「そういうことでしたら信頼できる筋へ手配しますよ?」
衣笠「誰に頼もっか?」
提督「いやもう面倒臭えから放っといてくれよ……俺は大丈夫だっつの」
734 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:47:15.86 ID:JF/c9yZ6o
能代「とにもかくにも、阿賀野姉が私たちの鎮守府に戻ってくるには、どうにかして艦娘に戻る方法を考えないといけないわね」
酒匂「そんな方法、あるのかなあ……ここの提督さんもわからないってくらいだし」
矢矧「絶対に何かあるはずよ。戻ったら本営にも掛け合ってみましょ!」
能代「提督、それまで阿賀野姉のことを、どうかよろしくお願いします」
矢矧「私たちは、元に戻す方法を頑張って調べてみます!」
酒匂「阿賀野姉、わたしたち、また来るからね!」
深海阿賀野「ウフフ、ミンナアリガトウネ〜」
提督「いや、本営に連絡入れるのはやめとけ」
衣笠「? そんなにまずいんですか?」
<アオバチャーン!
朧「あれ? あれは……」
那珂「青葉ちゃーん!!」タタタッ
青葉「おおっと、那珂ちゃんお久し振りです!」
735 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:48:00.80 ID:JF/c9yZ6o
那珂「久し振り〜って、本当に久し振りだよー! いまのいままでどこ行ってたのー!?」
那珂「最近来てくれないから、カメラに向かってポーズする練習できなくて困ってたんだからねー?」
衣笠「そんなことしてたの?」
青葉「ええまあ、一応、カメラの腕を買われまして……」テヘッ
那珂「青葉ちゃんが素敵に撮影してくれるんだけど、ポーズとかカメラに向かうアングルとか目線とか、一緒にチェックしてるんだ〜」
衣笠「え〜、青葉、頼りにされてるじゃない!」
青葉「いやあそれほどでもぉ〜」テレテレ
提督「……そうだよなあ、この件、おそらく那珂も関わってんだよな」
那珂「? 提督さん、一体どうしたの?」
提督「一応確認するが、お前たちは阿賀野がここにいること、ここにいる艦娘以外の誰かに話したか?」
矢矧「いえ、誰にも。J少将の件で聞きたいことがあると聞いていましたので、鎮守府の臨時の責任者にはそう伝えています」
能代「深海化の話もですが、阿賀野姉がいること自体、聞かされていませんでしたから、誰にも話はしていません」
提督「ならいいけどよ……お前たち、阿賀野がここにいること、深海棲艦になったことは、そのまま誰にも他言するなよ? 本営にもだ」
矢矧「……なにか、あったんですか?」
736 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:48:45.59 ID:JF/c9yZ6o
提督「ああ、あったんだけどよ。理由、話さなきゃいけねえよなあ」ハァ…
酒匂「……すっごい嫌な予感がする」
提督「ああ、いい話じゃねえから覚悟を決めて聞いてくれ、J少将の部下だったってんなら、なおさら他人事にはできねえはずだ」
衣笠「え……?」
提督「J少将とK大佐が、いろいろ悪いことしてたのは知ってると思うが……まず、深海棲艦を武器に作り変えてた話は知ってるよな?」
青葉「はい、よーく知ってますよ?」
提督「J少将たちは、ある組織にその弾丸の製作を任せていたらしいんだが、そこでは他にもろくでもねえ研究をしてるんだよ」
提督「そのうちのひとつが、艦娘を深海棲艦にできないか、って研究だ」
矢矧「な……っ!?」
深海阿賀野「ソレッテ、私ミタイニシタイ、ッテコト……?」
能代「なんでそんなことを……」
提督「それができりゃあ、わざわざ深海棲艦を鹵獲する必要がなくなるからだよ。『武器の素材』の調達のために危険を冒さずに済む」
能代「素材って……まさか、深海化した艦娘のことを言ってます!?」アオザメ
提督「ああ。人間が携帯して扱える武器として有効なら、J少将のように運用を考える連中がいておかしくねえ」
737 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:49:45.75 ID:JF/c9yZ6o
提督「俺も悪い冗談だと思いたいが、艦娘も深海棲艦も、人間さえも実験材料にするような狂った連中だ」
提督「そいつらの耳に阿賀野が深海化した話が届いたとしたら、とてもとてもおとなしくしてるとは思えねえんだよ」
青葉「その組織の人間が、阿賀野さんに接触してくる……あるいは連れ去りに来る可能性がある、と言うことですか」
提督「来るだろうな。艦娘のころの記憶を持ったまま深海棲艦化したんだぜ、研究のサンプルとしては最高の素材なんじゃねえの?」
深海阿賀野「チョット、ヤダァ!?」
提督「とにかく、阿賀野のことが連中に知られなきゃいいとは思っているが、かといって楽観視もできないと思ってる」
提督「ただでさえJ少将がいた鎮守府だ、そのコネや遺志や悪縁といった残りカスを後生大事に隠し持ってる馬鹿がいないとも限らねえ」
提督「阿賀野が深海化して生きてるってことを、お前たちの鎮守府で大っぴらに話すのはやめておけ、と、俺は言いたいな」
提督「仮にそれが知られれば、阿賀野が危険にさらされるだろうし、そうなればこの鎮守府の平穏も脅かされる」
提督「最悪、阿賀野に手が出せないなら、二匹目のドジョウを見越して、J少将鎮守府の艦娘を、特にお前たち阿賀野型を連れ去る恐れもある」
酒匂「ふぇ……!?」ゾッ
青葉「司令官の心配はごもっともですが、不祥事のあったばかりで特警の目も厳しい鎮守府で、そこまでしますかね?」
提督「逆に好都合だと思うがな。まだ混乱が落ち着いてないなら、この機に乗じてひとりふたりいなくなっても誤魔化せるんじゃねえか?」
提督「そもそも、その特警だって信用できんのか? そいつらの息のかかった連中じゃねえだろうな?」
青葉「……そこまで疑われると、返す言葉がありませんねえ」
738 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:50:45.93 ID:JF/c9yZ6o
提督「俺が人間不信で疑り深いってことは認めるが、それでも俺は用心しとくに越したことはねえと思ってるぜ」
提督「どっかの鎮守府で不要になった、行き場を失った艦娘がそこに連れられて実験材料になったって話も、不確かながらあるくらいだ」
提督「組織につながってる奴が紛れ込むには、今の混乱具合こそが、ちょうどいい頃合いじゃねえかな」
那珂「ねえ、提督さん?」
提督「ん?」
那珂「さっき那珂ちゃんも関係あるって言ってたけど、もしかして那珂ちゃんがいた養成所もそこなのかな?」
青葉「……!!」
那珂「一週間以上休まず戦い続けて、合格出来たら艦娘として正式採用されるって言われてたけど……」
那珂「あれはもしかして、那珂ちゃんたちに負荷をかけて……轟沈させて、深海棲艦にならないかを実験してたのかな……?」
提督「……そうだな。俺はそうだと思ってる」
那珂「そう……なんだ」
提督「確たる証拠があるわけじゃねえ。だが、連中が艦娘の深海化の研究をしてるって話を時雨から聞いてからは、多分そうだと思ってる」
提督「お前が来た時に聞いた養成所の話も、艦娘になるために試験があるなんて話も聞いたことがねえ」
提督「那珂がいた場所が、その研究施設とイコールかどうかはわからねえが、繋がってることは確かだろうな」
那珂「……」ウツムキ
739 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:51:30.87 ID:JF/c9yZ6o
青葉「……司令官は、これからどうするおつもりですか?」
提督「どうするも何も、今の俺たちじゃどうにもできねえよ。これまで通り、俺たちの意図を感付かれないように息を潜めるしかねえ」
提督「俺たちには、そういう組織があるってレベルの知識しかねえんだ。大雑把にしか場所もわからなきゃ敵戦力もさっぱりだ」
提督「海軍にいる連中の、誰がそこの関係者かすらもわからねえのに、場所を探し出して攻め込むなんて、成功すると思うか?」
青葉「今は雌伏の時、と仰りたいわけですね……」
提督「青葉みたいに勘が鋭いなら潜入捜査もありだろうが、連中の得体が知れない以上、それもあまりお勧めしたくねえな」
提督「それから、仮に連中が阿賀野のことを知らないとしても、この島が狙われる要素が別にある」
青葉「と、仰いますと……」
提督「ひとつは、俺たちが、大佐やJ少将といった組織と通じている人間を始末している、ってとこだ」
提督「俺たちがあいつらにとっての顧客やスポンサーを殺しているとしたら、逆恨みされててもおかしくねえ」
提督「あいつらには警戒されていると同時に興味を持たれてると思ってる。良くも悪くも、な」
提督「それから、この島に住んでいる深海棲艦が、連れ去りのターゲットにならないかも心配だ」
提督「この海域から出てきた深海棲艦が、この島に帰ってくることが分かっているなら、待ち伏せして鹵獲しようと考えるかもしれねえ」
矢矧「姫級や鬼級も大勢確認されているというのに、そんな無茶をするでしょうか……?」
提督「やるんじゃねえか? むしろできるんなら絶対やりたがるだろ。それこそ俺たちの常識で考えるような話じゃねえ」
矢矧「……そこまでの相手なんですか」
740 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:52:16.00 ID:JF/c9yZ6o
提督「ま、あいつらが直接かかわってこないとしても、俺たちはあの連中とは無駄に因縁がある」
提督「もし情報が手に入って戦りあうことができるんなら、奴らはただ殺すだけで済ますつもりはねえ……!」ゴゴゴ…
青葉「し、司令官落ち着いてください! 怖いですよ!?」
提督「ん? ああ、悪い悪い」
朧「……あいつらのせいで、一緒にいた妖精さんが犠牲になりましたからね。提督が怒るのも無理はないと思います」
衣笠「そんなことがあったの……」
青葉「ところで司令官? 老婆心ながら……これまで出会った海軍の人たちには、その組織の関係者がいる可能性はないんですよね?」
提督「んー、心配は心配だが、よく話す奴らはその可能性が低そうだな。まず中将やX大佐はありえないだろうし……」
矢矧「奴ら……?」タラリ
能代「中将閣下を……」タラリ
朧「細かいことは気にしないほうがいいですよ」ヒソッ
提督「X大佐の叔父のT大将やH大将も、深海棲艦の武器化に反対してJ少将に消されかけたクチだ、つるんでるとは思えねえ」
提督「与少将も深海棲艦との話し合いを是としているし、祢大将も魔神の力を使って背後関係を読んだが、そういう組織とは無関係だった」
酒匂(まじんのちから?)クビカシゲ
青葉「え、そんなことまでわかるようになったんですか……」
741 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:53:01.81 ID:JF/c9yZ6o
提督「おう。あと、顔色だけだとわからねえのはH大将の部下のW大佐だが……J少将と繋がってる感じはねえな。分別もあるようだ」
提督「あと怪しいのは……昔、大佐んところにいた連中くらいか? つっても、O大尉は大佐に目障りに思われて追い出されてるし」
提督「そのO大尉と親しい城塞鎮守府の知大尉も、関わってるとは思えねえ。大佐の太鼓持ちだった士官も付き合いが3か月じゃあな……」ウーン
朧「とりあえず、提督が良く関わる人たちは、そういう組織とのつながりは薄そうだ、って感じですか」
提督「多分だけどな。一度、全員魔神の力で背後関係を読みたいところだが……」
提督「俺たちが付き合ってる海軍の人間は、そこまでしなくても良さそうな連中は多いな」
提督「いずれにしろ、今は関係者がどこにいるかわからねえ。祢大将には協力を仰いだが、連中もそうそう尻尾は出さねえだろう」
酒匂「それじゃ、私たちはどうしたらいいの?」
提督「やっぱり黙ってるしかねえな。あいつらに対抗する以前に、あいつらの動きを察知する手段が、俺たちにもお前たちにもなさすぎる」
酒匂「……そっかぁ」
矢矧「で、でも、それじゃ、阿賀野姉の深海化を元に戻す調査すらできなくなりますよ!?」
提督「お前らが襲われて阿賀野に二度と会えなくなるよりはましだろ?」
矢矧「そ、それはそうですけど……」
提督「それより、いま俺が喋ってて気付いたんだが、お前たちはこれからどうなるんだ?」
742 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:53:45.81 ID:JF/c9yZ6o
提督「J少将がいなくなったんだ、次の司令官がこれから来るんだろう?」
青葉「ええ、そうですね。その提督のなり手が、人手不足のため難航しているようです」
衣笠「最悪、みんなばらばらの鎮守府に引き抜かれそうな感じだよね」
提督「もし、新しく来る奴が、その組織とつながりがあるんなら、そいつを絞めて情報吐かせようと思ったんだが……」
能代「」
矢矧「」
酒匂「ぴゃああ……提督さん、本気なの?」
提督「それが一番手っ取り早いだろ。お前らを利用しようって奴らに容赦なんかいるか?」
衣笠「……ねえ、提督さんていつもこんな感じなの?」
朧「こんな感じですね」
那珂「いつもこうだよね〜」
提督「とにかく、大丈夫なんだろうな? 次に来るお前らのトップは」
青葉「そんなに心配なら提督も一緒に来て、その人に会ってくださいよ〜」
提督「……」
青葉「そこで面倒臭い顔しますか!? 言い出しっぺのくせに!」
提督「島から出たくねえ……なんで人間がいる場所に戻んなきゃなんねえんだよ、くっそうざってえ」
743 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:54:30.88 ID:JF/c9yZ6o
青葉「んもー、そういうとこはつくづく厭世的と言いますか、面倒臭がりですよね司令官は……」
提督「しょうがねえだろ。そもそも俺は深海棲艦と魔神のハイブリッドだぞ? 人間社会に溶け込めなくて当然なスペックなんだ」
青葉「それはまあ……メディウムの皆さんを率いている時点で、人間社会には戻れませんもんね。戻る気もないでしょうけど」
酒匂「ねえねえ、深海棲艦と『まじん』のハイブリッドって、なんのこと? っていうか『まじん』って何?」クビカシゲ
提督「ああ、俺は半分深海棲艦なんだよ。で、もう半分は艦娘とも深海棲艦とも異なる『魔神』っつう異界の化け物だ。まともな人間じゃねえ」
能代「」
矢矧「」
酒匂「」
衣笠「」
青葉「……司令官、もうちょっと言い方ってもんがあるんじゃないですかねえ?」
提督「事実だろ?」
深海阿賀野「エー、スッゴーイ! 提督サン、深海棲艦ナノ?」
提督「半分はな」
酒匂「阿賀野姉、簡単に受け入れ過ぎじゃない?」タラリ
744 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:55:15.76 ID:JF/c9yZ6o
能代「と、ところで、メディウム……って何の話?」
提督「ああ、能代はメディウムを知らないか。なら、一人くらい紹介してやるよ、丁度よくこっちに来たみたいだしな」スタスタ
提督「……」コンコン
矢矧「? どうしてドアをノックしてるんです?」
扉<コンコン
能代「ノックが帰ってきた……!」
扉<ガチャー
ハナコ「魔神様? ハナコをお呼びになりましたでしょうか?」ベンザニチャクセキ
衣笠「!?」
酒匂「と、トイレの花子さんー!?」
ハナコ「はい、わたくし、ウォッシュトイレのメディウム、ハナコと申します」ペコリ
能代「この子がメディウム……なんですか?」
提督「おう。ハナコが座ってる洋式トイレがその罠なんだけどな」
能代「罠?」
酒匂「……あ」
矢矧「……!」セキメン
衣笠「?」
745 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:56:01.57 ID:JF/c9yZ6o
ハナコ「わたくしのウォッシュトイレは、強力な水流で身も心も綺麗にいたします。お座りになられます?」
提督「と、ハナコは言ってるが、実際にはその強力な水流で座った相手をすっ飛ばす罠だ」
能代「罠……なんですか」
ニコ「そう、メディウムは罠の化身。そのメディウムたちを統括、使役しているのが魔神様というわけだよ」ヌッ
酒匂「ぴゃああ!?」ギョッ
青葉「ど、どこから出てきたんですかニコさんは!?」
衣笠「い、いきなり提督さんの背後から現れた気がするけど……」
提督「最近気付いたんだが、なんか、俺の体を通って出てくるみたいだぞ」
深海阿賀野「エー、スッゴーイ! ドウヤッテルノー?」キラキラッ
那珂「阿賀野ちゃんすごいね、全然驚いてないよ?」
ニコ「……ぼくも、こんなに瞳を輝かせた深海棲艦は見たことないかな」
能代「あ、あの、こちらの女の子は……」
提督「んー……魔神を蘇らせた魔神の眷属、ってとこか。俺にとっては姉貴みたいなもんだ」
ニコ「そう、ぼくが魔神様のお姉ちゃんだよ」ドヤッ!
那珂(提督さん、ニコちゃんの扱いがうまくなってる……)タラリ
746 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:57:02.12 ID:JF/c9yZ6o
提督「それから、メディウムに関してなんだが、確か、衣笠や矢矧、酒匂はX大佐の船で他のメディウムにも会ったろ?」
朧「会ってますよね。秋月たちがケーキを顔に乗せてた時、マーガレットさんがいましたし、ロゼッタさんもいましたから」
酒匂「えっ、あの子たちがメディウムなの!?」
提督「あの船にいた俺の仲間は、艦娘以外は全員メディウムだぞ。どんな罠かはお前らの想像に任せるが」
深海阿賀野「トコロデ、矢矧ガ、サッキカラ顔ガ赤インダケド」
ハナコ「あら。あなたさまは確か」
矢矧「人違いです!」カオマッカ
ハナコ「いえいえ、よーく覚えていますよ、あなたさまのお尻のかたちを」
矢矧「人違いですっっ!!」ミミマデマッカ
能代(あの罠にかかったんだ……)
提督(かかったのか……)
酒匂「お尻のかたちで覚えてるんだ……」
矢矧「人違いですってばっっ!!」
*
青葉「とりあえず、青葉は皆さんをお送りするので、H大将への報告も兼ねて、舞鶴まで行って参ります」
提督「舞鶴? ……ああ、そうか、J少将はH大将の部下だったな、そういえば」
提督「余計なお世話だと思うが、X大佐経由でも話を通しとくか。J少将の後釜に、くだんの組織が絡んでそうな奴が入らないように」
青葉「H大将なら、すでにそのあたりも考慮していただいていそうですけどね」
提督「それもそうか……ま、所詮、俺は海軍の部外者だ。あっちでなんとかしてもらうしかねえな」
747 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/09/29(日) 20:59:45.65 ID:JF/c9yZ6o
今回はここまで。
>720
この世界の艦娘は、深海棲艦と同じく得体の知れないもの、という世界観ですが、
ちょっとくらいはこういう救いがあってもいい世界になっています。
妖精さんの匙加減というか、ご機嫌次第的な面もかなりありますが……。
748 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 22:56:46.07 ID:FOj89Oplo
今回は、最近の提督と、その能力について。
ちょっと閑話休題的なお話です。
749 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 22:57:31.56 ID:FOj89Oplo
* 数日後 *
* 墓場島鎮守府 執務室 *
提督「はぁ……」
霞「何よ、その溜息は。しゃきっとしなさい、しゃきっと」
提督「そうは言うけどよ……ろくに寝てねえんだぞ。来週も政府との会談控えてるっつうのに、毎晩誰かしら相手させられて……」ポ
霞「……」
提督「すげえんだぞあいつら。体がっちり抑えつけられて、何が何でも離れようとしねえし……」セキメン
霞「……」
提督「やっぱあいつら化け物だ……それを相手できてる俺も化け物だ……つうか、化け物じゃねえと生きてられねえ」カオマッカ
霞「……この……」
提督「ん?」
霞「このクズがぁぁぁああ!!」ドロップキック
提督「ぐあ!?」ゲシーッ
霞「なんて話をしてんのよ!! あんた自分が何を喋ってたか理解してる!?」ミミマデマッカ
提督「……ああ!」
霞「いま気づいたみたいなリアクションしてんじゃないわよっ!!」
750 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 22:58:16.37 ID:FOj89Oplo
提督「マジやべえな俺……感覚麻痺してるじゃねえか。俺の羞恥心、どこに置いてきた?」アオザメ
霞「一応はそういう危機感持ってるのね。完全に向こう側に行ったのかと思ったわ」ハァ…
提督「そりゃ、エロなんて大っぴらにしていいもんじゃねえからな……マジで悪かった。こりゃ俺も敷波に叱られるな」ウナダレ
霞「まあ、そうね。あんたですらそうなんだもの、みんながそういう話を吐き出せる場所を作ってあげないと……」
提督「なんか問題あったのか?」
霞「あったに決まってるわよ! あんたのせいで! あんたがそういうことを許容したから、その手の話をしたがる人が増えてるのよ!!」
提督「……」アタマカカエ
霞「キス程度の話ならともかく! 夜がどうだったとか、あんたの……その、ゴニョゴニョ……がどうだったとか!」セキメン
霞「食堂みたいなみんながいる場所で、そういう話で下手に盛り上がられると困るのよ……!」
霞「特に赤城さんとか! めちゃくちゃ顔を真っ赤にしてて、見てらんないっていうか、いたたまれない感じなんだから!」
提督「マジか……そりゃよろしくねえな。そういう話は、さすがに時と場所を選ばねえと……」
早霜「ないなら作りましょうか」ヌッ
提督「うお!?」ビクッ
霞「きゃっ!? い、いきなり現れないでよ!!」ビクッ
早霜「フフフ……ごめんなさいね」
提督「いつから潜んでやがった? ……いや、まあそれはいいや」
霞(深入りを避けたわね……)
751 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 22:59:00.84 ID:FOj89Oplo
提督「早霜、なんかいいアイデアがあるのか?」
早霜「はい。バーを作るのはいかがでしょう」
提督「……バー、ねえ」
早霜「静かで落ち着いた雰囲気の中でお話していただくには、相応しいと思います。無論、そういった席にはお酒も付き物でしょうし」
早霜「飲み屋のスタイルでは騒々しくなることが容易に想像できますので……しっとりとしたムードで語り合えば、騒々しくはならないかと」
霞「そうね……そういうことが好きな人は、そっちに行ってもらえると助かるわ。騒々しくなることは避けられない気もするけど?」
提督「やれるんなら任せたいけどよ。店主は誰に頼むんだ?」
早霜「それは私が。憧れていたんです……バーテンダーに」
提督「お前の希望でもあると?」
早霜「はい」ウナヅキ
提督「そういうことなら進めようぜ。お前が店主なら、お前のルールに従わせよう」
霞「それじゃ、早速場所を手配しないと。上下水道の準備も必要でしょ」
提督「ああ。取り急ぎ、明石とタチアナと泊地棲姫に声をかけるか」
神殿の扉<バーン!
リサーナ「面白そうなお話、聞いちゃったぞーぅ!」ピョーン!
霞「な、なに!? 次はなんなの!?」
752 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 22:59:46.54 ID:FOj89Oplo
提督「何しに来たんだリサーナ……」
リサーナ「うふふっ、ハヤシモちゃんだったかなー? このバニーさんがあなたのお店のお手伝い、してあげてもいいわよ〜?」
提督「いくらなんでも話が早すぎねえか。この部屋、盗聴器でも仕掛けられてんのか?」キョロキョロ
リサーナ「あら、リサーナちゃんはちょっと耳がいいだけよ〜? マスターのこととなればなおさら! ぜーんぶ聞き逃さないんだから!」
早霜「……司令官」
提督「ん?」
早霜「採用したいのだけれど、いいかしら」
リサーナ「キャー! 雇ってもらえるのぉ!? ありがとー!」ハヤシモニダキツキー
霞「ちょっと、いいの? 判断早すぎじゃないの!?」
提督「いや……確かに即決過ぎるが、意外と適任じゃねえか?」
提督「バーにいてもまあまあ不思議じゃねえ恰好だし、早霜ひとりで店を回せるかってのもあるしな」
リサーナ「さっすがマスター! 理解があるマスターで嬉しいわー!」テイトクニダキツキー
提督「お、おい、抱き着くな」
リサーナ「えー? いいじゃない、マスターと私の仲なんだし!」グイグイ
提督「そうじゃなくてだな……」セキメン
753 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 23:00:30.72 ID:FOj89Oplo
リサーナ「もう、マスターったらそんなふうに腰を引かなくても……あ」
霞「?」
早霜「ああ。司令官の主砲の仰角が」
霞「なにやってんのよこのクズがあああああああ!!!」ウシロマワシゲリ
提督「うおっ!?」カイヒ
リサーナ「きゃっ!?」
霞「避けてんじゃないわよ! 一撃入れさせなさい!」ヒャクレツキック
提督「リサーナまで巻き込んで蹴ろうとすんじゃねえよ! しかもどう見ても一撃じゃねえし! ここ最近マジで足癖悪ぃなお前!」ガード
早霜「霞さん、ごく一般的な男性の生理現象にそこまで怒るのは、少々行き過ぎではないでしょうか」
霞「時と場合を考えたら怒るべきよ!」
早霜「それから、そのように足を高く振り上げては、あなたの下着が見えてしまうと思うのですけれど」
霞「!!」マッカニナッテスカートオサエ
リサーナ「あー、そっかあ〜。マスターったら性欲らしい性欲がなかった、って、みんなによく言われてたものねぇ」
リサーナ「それであの子も安心して、足技を繰り出してたわけね? んもう、マスターったら罪づくりなんだからあ」
霞「……」プルプルプル
754 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 23:01:17.74 ID:FOj89Oplo
提督「俺は何も言ってねえし見ようともしてねえぞ……つっても、こういうのは理屈じゃねえしなあ」
提督「霞がブチ切れる前に対策するか。要は、男の体が反応しなきゃいいんだろ」
ズズズズ…
提督→女提督「……これでどうだ?」
リサーナ「!?」
霞「!?」
早霜「……なるほど、物理的にアレをなくしたと言うことですか」
女提督「ああ。体形は俺のおおもとになった深海棲艦準拠だが、そこまで不自然じゃねえよな?」
女提督「とりあえずこの姿なら、体がそういうもんに反応することもねえだろ。ちょっと慣れねえが、執務に支障は出ないはずだ」
早霜「良いのではないでしょうか。皆さんがその姿に納得してくださるかどうかは別ですが」
リサーナ「うーん、髪型はベリーショートのままかあ……似合ってるとは思うけど、伸ばしたほうが可愛いよ〜?」ホッペツンツン
女提督「別に可愛くするのが目的じゃねえからな。霞もこれで安心だろ?」
霞「……」アングリ
女提督「くっそ驚いてるな……」
霞「っ……ちょっと! 女になったんなら言葉遣いには気をつけなさいよ! くそとか言うのは禁止よ! 禁止!!」
女提督「なんでだよ面倒臭え……中身は変わってねえんだぞ」
755 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 23:02:00.95 ID:FOj89Oplo
リサーナ「……」
モニュ
女提督「!?」
リサーナ「うーん、お胸も控え目ねえ?」モニュモニュ
女提督「そ、そんなのはどうでもいいだろ!? 離れろおい!」セキメン
扉<コンコンコン ガチャー
リンメイ「師父ー! ワタシ新しいメガバズソーのワザ開発したカラ見て欲しアナタ誰ヨーーーー!?」ズギャーン!
女提督「ん? リンメイか? ここに来るなんて珍しいな」
初春「む……? 貴様、もしや提督か!?」
深海海月姫「ドウシタノ、ソノ姿」
リンメイ「ちょと待つヨロシ! なんで師父、女になたか!?」オロオロ
リサーナ「女の子に抱き着かれてもぉ、オトコノコの部分が反応しないように、ってことらしいわよー?」
リンメイ「なんでそんな話になたヨ! 理解デキナイネ!」アタマカカエ
初春「……ふむ、まさか貴様がその姿になろうとはのう」
深海海月姫「思ッテタヨリモ、可愛イワネ」
女提督「可愛いとか言うな、くすぐってぇ」アタマガリガリ
756 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 23:02:45.78 ID:FOj89Oplo
初春「髪は伸ばさぬのか? 似合うと思うがのう」
女提督「別におしゃれしたくてこの姿になったわけじゃねえからな。俺が男であるために起こり得る弊害を未然に防ぐためだ」
初春「ふむ、そうであったか……のう、提督よ。少ししゃがんでもらえんかの」
女提督「? なんだ?」シャガミ
初春「よいせ、と」ダキツキー
女提督「!?」
霞「!?」
初春「このままわらわを持ち上げてみるんじゃ」
女提督「な、何言ってんだお前」
初春「良いから頼む」
女提督「……」ヒョイ
初春「……うむ、悪くない。背丈も似ておるし、長門も不在。わらわが疲れた折には、こうしてもらおうかのう……」スリスリ
女提督「長門の代わりかよ……」セキメン
757 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 23:03:31.27 ID:FOj89Oplo
深海海月姫「提督」ズイ
女提督「……お前はどうした」
深海海月姫「前カラ思ッテイタケレド、アナタ、女ノ子ノ姿、可愛イワ」ピトッ
女提督「」
深海海月姫「デキレバ、ズットソノ姿デ過ゴシテモラエルト、嬉シイノダケレド」ギュ…
女提督「」
リサーナ「なんか、想定してたことと逆効果になってない?」
早霜「そのようですね……フフフ」
霞「……」アタマカカエ
ズズズズ…
女提督→提督「……」
初春「む? どうして戻ってしまうんじゃ!?」オロサレ
深海海月姫「残念……ドウカシタノ?」
758 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 23:04:16.19 ID:FOj89Oplo
提督「いや、いろいろとおかしいだろ。なんで俺が女の姿なのに引っ付いてくるんだよ」
初春「わらわはそれで良いと思うておるが?」
深海海月姫「私、可愛イモノハ好キヨ?」
提督「……おい霞」アタマカカエ
霞「諦めなさい。あんたはそういう星のもとに生まれたのよ」トオイメ
提督「……」
早霜「司令官、現実逃避も結構ですが、バーの新設についてはよろしくお願いしますね」
提督「くそ、わかったよ……つうか現実逃避って言うな。逃げてんのは霞も一緒だろ」
霞「誰も逃げてないわよっ!?」
リンメイ「師父が男でなくなたら、師父を師父と呼べないネ! 師母か? 師姉か? ワタシなんと呼べばいいかー!?」アイヤー!
リサーナ「マスターなら、もうもとに戻ってるわよ〜?」
759 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2024/10/12(土) 23:05:00.73 ID:FOj89Oplo
短いですが、今回はここまで。
760 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2024/12/20(金) 08:12:51.39 ID:OK09/+WcO
ほしゅ
761 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:01:33.68 ID:JxF4gpdbo
長らくお待たせしました、続きです。
登場人物が勝手にごちゃごちゃ動き回って、まとめるのが大変でした……。
762 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:02:19.18 ID:JxF4gpdbo
* 数日後 *
* 墓場島沖 海軍巡視船内 会議室 *
R提督「お久し振りです、提督」ケイレイ
提督「よう。堅苦しい挨拶は抜きで頼むぜ」
不知火「皆さん、お元気そうで何よりです」ケイレイ
隼鷹「久し振りだねえ、元気だった〜? 不知火は相変わらず真面目だねえ」ヒラヒラ
飛鷹「ちょっと隼鷹、あなたこそ真面目にしなさいよ! すみません提督、隼鷹が失礼な……」
隼鷹「飛鷹、大丈夫だって! 提督は普通に接してた方がいいんだよ〜」
飛鷹「あなたねえ……」
提督「いやいや、隼鷹の言う通り、楽にしてくれていいぞ。俺もこうなんだ、お前も逐一目くじら立てるのも面倒臭えだろ?」
飛鷹「そ、そういうことでは……というか、めんどうって」アッケ
不知火「飛鷹さんもどうかお気になさらず。司令は攻撃的でない限り、相手の態度に頓着しない方ですので」
隼鷹「それで提督、あたしたちがここに来た時点で、ある程度は察してくれたと思うんだけど」
提督「ああ、隼鷹たちも舞鶴だったんだよな。ってことは、矢矧たちの新しい提督になるのがR提督ってことになるんだな?」
R提督「はい、改めて私からご報告いたします。J少将とK大佐の配下の艦娘を、私どもが引き取ることになりました」
763 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:03:03.55 ID:JxF4gpdbo
R提督「先日この島に来ていたという阿賀野型や衣笠、そして彼女たちと仲の良い秋月型は我々の艦隊に編入する予定です」
R提督「理由は聞いていませんが、彼女たちからはこの島への往来を許可して欲しいという話を聞いています」
R提督「それならば、この島のことを知っている隼鷹もいる、私たちの鎮守府に来たほうが都合も良いでしょう」ニコ
提督「いいアイデアだけどよ……思ったんだが、本当にそれで良いのか? あんたたちを散り散りにして僻地へ飛ばした奴の部下だろ?」
R提督「それはあくまで私の落ち度ですので。それに、彼と彼の部下は別人です。何から何まで同じと言うわけではないでしょう」
R提督「勿論、我々の方針に賛同できない艦娘もいるでしょうから、その場合は、別の提督のもとへ行ってもらうことになりますが」
提督「舞鶴の中でも艦娘を率いてる提督が何人かいるんだよな? そっちに行かせるってことか」
R提督「はい。正直なところ、私がすべての艦娘を引き取るには少々手が足りず……というのも、少将の鎮守府はそれなりに大所帯でして」
R提督「そのため、艦娘の希望を確認したうえで、舞鶴にある他の鎮守府にも艦娘を引き取っていただくよう、協力をお願いしております」
R提督「ちなみにK大佐の艦娘はJ少将の艦隊の別動隊扱いだったこともあり、K大佐の艦娘はごく少数です。阿武隈たちがそうですね」
提督「なるほど。で、その余所の鎮守府の提督連中は信用できるのか?」
R提督「そういう方々を募ったつもりですが……なかにはちょっと問題があると聞いている提督がいますね。例えば止准尉ですとか」
不知火「准尉?」
R提督「はい。なんでも、徹底的に夜戦を嫌い、結果として味方の損害を恐れて艦娘を出し渋って閑職に追いやられたと言う話でして」
764 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:03:49.40 ID:JxF4gpdbo
R提督「少し前に横須賀から舞鶴に移ってきた提督ということもあって、私も初めてお会いすることに……」
提督「待て待て、なんか聞いたことあるぞそいつ。確か、うちにいた川内や若葉が以前そいつのところにいたはずだ」
隼鷹「えっ、マジで?」
提督「ああ。若葉が言うには、命令に背いて夜戦に入って敵の輸送艦を潰したら馘を言い渡されたって。あいつら、それでうちに来たんだよ」
飛鷹「ええっ? 敵を見逃そうとしてたってことですか!?」
提督「見方によっちゃ、お前の言う通りなんだけどよ。そいつの場合はとにかく夜戦が怖い、夜が怖い、って話らしいんだ」
飛鷹「私も航空母艦ですから、夜が怖いというのは理解できますけど、提督がそれを言っては……それで提督業をやっていけてるのかしら」
隼鷹「今回の艦娘の受け入れの候補になってるんなら、まだ提督を続けてるはずだよねえ?」
提督「なんでそんなざまで提督続けてんだ? とっとと辞めりゃいいのによ」
R提督「私もそう思って、彼を知る方に提督を続けている理由を訊いているのですが、当人からは何の回答もないそうで」
不知火「お辞めになる気もないと?」
R提督「ないようですね。意地になっているのか、何が何でも提督を続けたい理由があるのか……」
R提督「逆に辞められない理由があるのかもしれませんね。その辺りを詳しく訊ければ良いのですが」
提督「なんだか面倒臭え奴だな……それじゃ艦娘もそいつんところには行きたがらねえだろ?」
R提督「そうですね。たとえ民間出身者であっても、艦娘を率いる提督業に就くのならば大尉として着任するのが通例です」
R提督「艦娘の立場から見ても、そんな提督のもとへ行きたいと思う艦娘はいないでしょうね……」
765 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:05:03.29 ID:JxF4gpdbo
提督「とはいえ、俺は俺で准尉で島を任されたんだがな。そういう前例があるから、そいつも解任されてないってことになるのかねえ」
R提督「いやいや、提督のケースこそ例外中の例外ですよ! 本来ならばそんなことはあってはならないことです!」
R提督「提督として着任したのに初期艦すらつけてもらえなかったと伺っていますし、どうしてそんな横暴が許されたのか……!」
隼鷹「提督の場合はホント例外としか言いようがないんだよねえ。妖精さんと話せる能力を疎まれて、それで島流しされたんでしょ?」
提督「だな。俺の直属の上官が、鎮守府内の妖精から手前の悪事や悪評をを聞き出して言いふらさないように、って話だからな」
R提督「……その件については、同じ海軍の人間として本当に申し訳ありません」
提督「謝んなくていいぞ。俺の着任の話にあんたが関わることはなかったんだし」
提督「それに、俺も都合がいいからと享受してた面もあったしな。山城じゃねえが、俺も不幸に慣れっこになってたんだ」
飛鷹「享受できるような事態があったんですか……?」
隼鷹「妖精とお話ししてても眉を顰められない環境は、提督にとっても居心地が良かったって聞いてるよ? だよね提督」
提督「ああ。海軍内でも、妖精と話ができる人間は珍しいみたいだから、変な目で見られてぶっちゃけ居心地悪かったしな」
飛鷹「そうなんですか……?」
隼鷹「まあ、あたしたちも見えない人たちからは気を使われてるよね。そういうところは、ちょっと一線引かれてる感じしない?」
飛鷹「私たちの場合はそれが当然だと思って、妖精さんたちともどもそれが慣れっこになっちゃってるけど……」
不知火「R提督は妖精さんが見えるのですか?」
R提督「いえ、残念ながら……」
隼鷹「あたしたちと付き合いが長いから、その辺は察してくれてるけどね。気を遣わせてると言えば、そうかなぁ」
766 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:05:48.65 ID:JxF4gpdbo
R提督「話がそれましたが……その艦娘の移籍先の振り分けのため、移籍先候補の鎮守府の提督が、明日、私の鎮守府に集まる予定です」
提督「明日?」
R提督「はい、各人どのような人物かを知るため、顔合わせも兼ねて懇親会を予定しました」
R提督「同じ舞鶴にいるにしても、なかなか顔を合わせる機会のない方もいますし……」
R提督「私もしばらく舞鶴を離れてましたので、私自身の顔見せも兼ねて、ということで」
提督「ふーん。集まるのは、艦娘が移籍する先の鎮守府の提督だけか?」
R提督「はい。戦力が十分に整っている鎮守府や、艦娘が多すぎて育成に余裕がない鎮守府などからは、不参加の連絡が来ていますね」
R提督「艦娘の振り分け自体は、その懇親会を経てから行うことにしています」
提督「……あんた、J少将の話はどこまで聞いてる?」
R提督「どこまで……と仰いますと、J少将が艦娘をよく思っていなかった、と言う話のことですか?」
提督「いや、それよりもっとやばい話だ。あいつが艦娘をどう利用しようとしていたか……」
R提督「利用……深海棲艦の武器化の話なら聞いています」
提督「……艦娘で実験をしていた、という話は?」
R提督「そこまで行くと、あくまでも噂で、というレベルですね」
R提督「過去に艦娘で実験していた提督が捕まったと聞いてからは、もういなくなったものだと思っていましたが……」
提督(……嘘はついてねえみたいだな。むしろ……)
767 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:06:33.68 ID:JxF4gpdbo
提督「まあ、あんたは知らないことの方が多いか。ショートランドに行かされてたんだもんな」
R提督「……お恥ずかしながら」
隼鷹「あ、もしかして、提督はJ少将みたいな、艦娘をどう扱うかわからない人のところに艦娘が配属するのを危惧してる感じ?」
提督「まあ、そうだな。行った先の鎮守府で不幸になって轟沈したんじゃ気分が悪い」
提督「たとえくそ野郎の部下であっても、話せばわかる艦娘たちなら、せめて行く先は吟味してやりてえな」
隼鷹「相変わらず艦娘には甘いねえ」ニヒヒッ
飛鷹「隼鷹、あまり茶化しちゃ駄目よ? 真面目に考えてくださってるんだから」
隼鷹「わかってるって。だから嬉しくて笑ってるんじゃないのさ」
R提督「提督の心配もごもっともです。我々が、これから艦娘を任せる提督たちがどんな人物か、ちゃんと見抜く力を持たないと……」
提督「見抜く力ねえ……言っちゃ悪いがR提督、あんた結構なお人好しだろ? 大丈夫か?」
隼鷹「うーん。それはあるかもねえ?」
飛鷹「確かに、そういうところはありますね」
提督「だよな? ちょっと頼りねえ気がするな」
R提督「んむむ……」
不知火「皆さん手厳しいですね」
768 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:07:18.56 ID:JxF4gpdbo
提督「んじゃあ仕方ねえな……面倒臭えが青葉にも言った手前だ、俺が心配なら送る先の連中を俺がひとりひとり見てくしかねえよな」
隼鷹「へっ?」
提督「艦娘の安全を第一に考えるならそれしかねえ。悪いが半日……いや、3時間くらい待っててくれるか。舞鶴に行く準備をしてくる」ガタッ
飛鷹「えっ」
不知火「司令?」
提督「俺もその会合に出る。艦娘を引き取るっつう、そいつらの顔を見ておきたい。不知火、お前も準備できるか」
不知火「は、はい!」
隼鷹「どゆこと? 提督も舞鶴に来んの!?」
提督「ああ。これからだと舞鶴に着くのは多分夕方だろ? R提督の鎮守府で一晩寝泊りできると助かる。頼んでいいか?」
R提督「し、承知いたしました!」ビシッ
飛鷹「えっ、ちょっと、どういうこと!?」
R提督「てっ、提督の護送任務だ! 総員、第一級の警戒態勢!! H大将閣下へ報告っ!!」
隼鷹「あーそっかぁ、将来の国賓だもんねえ。すごいことになっちゃったなあ」
飛鷹「のんきに構えてる場合じゃないわよっ!?」
769 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:08:03.43 ID:JxF4gpdbo
* 翌日 早朝 *
* 舞鶴 R提督鎮守府内の一室 *
(シングルサイズのベッドを二つ繋げたベッドに3人が横たわっている)
提督「ん……何時だ」パチリ
提督「……5時15分。だいたいいつも通りだな」ムクッ
グイ
提督「ん?」
リ級「スヤァ……」テイトクニシガミツキー
提督「……」
不知火「んむ……! おはようございます、司令」ムク…
提督「おう、おはよう……おいリ級、お前も起きろ」
リ級「ンー……」スリスリ
提督「寝ぼけてる場合じゃねえぞ、ったく」
不知火「猫みたいですね」
770 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:08:48.43 ID:JxF4gpdbo
提督「こいつ、連れてくるときは真面目そうだったんだがなあ……泊地棲姫んところの古株だっていうし」
提督「場所が場所だけに、姫級連れてくるわけにもいかなかったから、人選として丁度いいかと思ってたんだが」
リ級「フワァ……モウ朝カ」メヲコスリコスリ
提督「本当に大丈夫かよ」
リ級「……任務ノコトハ忘レテイナイカラ、大丈夫ダ」ノビーッ
リ級「ソウイエバ、ココハ人間ノ鎮守府ダッタンダナ。イツニナク、安心シテ眠レタ気ガスル……」
提督「眠れた、って、お前、ここのほうが安心できるのか?」
リ級「ソウジャナクテ、ココニ丁度イイ抱キマクラガ、アッタカラダ」
提督「……」
リ級「私ダッテ人間ハ好キジャナイシ、人間ノ拠点ダカラ警戒モシテルゾ?」
提督「その割にはぐっすりだったじゃねえか」
リ級「ソコハ自分デモ驚イテル。スゴク安心デキタカラ、姫様ガ、オ前ニ執着スルノモ、ワカル気ガスルナ」
提督「加古みてえなこと言いやがる」
不知火「同じ重巡級ですから、感覚も似ているのではないでしょうか」
提督「そういうもんかね……」
771 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:09:33.45 ID:JxF4gpdbo
* その後 *
扉<コンコン
飛鷹「おはようございます、提督。朝餉の準備ができましたが、入ってもよろしいでしょうか?」
提督「ん、入ってくれ」
飛鷹「失礼いたします」チャッ ガラガラ…
提督「わざわざ持ってきてくれたのか」
飛鷹「はい、食堂に案内しても良かったのですが、注目されるのもお嫌かと思いまして」
提督「まあ、確かにな……」
飛鷹「提督は、和食と洋食とどちらになさいます?」
提督「2種類用意してくれたのか?」
飛鷹「はい。お好きなほうをどうぞ」
提督「んじゃ、俺はたまには洋食にすっかな……ふたりはどうする」
不知火「不知火は和食を希望します」
リ級「私ハ、パントコーヒーノホウガイイナ」
飛鷹「かしこまりました。少々お待ちください」カチャカチャ…
772 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:10:33.44 ID:JxF4gpdbo
リ級「ナンダ? ココデ調理スルノカ?」
飛鷹「ええ、簡単なものだけですが。本来なら言うべきではないのですが……お食事の中に毒が入っていては困りますでしょう?」ジュワ…
リ級「!?」
飛鷹「ですので、私もこちらでお食事をご一緒させていただきます」
提督「なるほど、最初から出来合いを盛り付けされてたんじゃ、食い物の中に何か仕込まれる可能性もあるから、と……」
提督「で、秘書艦のお前が同じものを食べるってことは、毒見役も引き受けてる、ってことか」
リ級「……大丈夫ナノカ?」
提督「俺たちに信用してもらうために、飛鷹が俺たちと同じものを作って食べるっつってんだ。そこまでやるなら心配しなくても大丈夫だろ」
飛鷹「私自身は信じていますが……ほかの誰が深海棲艦にどんな思いを抱いているかは、さすがにわかりませんし」
飛鷹「海軍の中に深海棲艦とは相容れないと考えている者がいるとお考えならば、このくらいのことはするべきかと」
提督「実際にここに来た時も、リ級が姿を見せた時は固まってた奴がいたもんな。恨まれてないとは言えねえか」
飛鷹「ええ。もしも姫級や鬼級といった深海棲艦が来ていたら、更に混乱していたと思いますよ?」
リ級「ン? ……私ハ、侮ラレテイル、トイウコトカ?」ムスッ
不知火「現実的な問題として、姫級は勿論、戦艦や空母の深海棲艦を、普通の鎮守府が受け入れられるかと言えば、厳しいと思います」
不知火「重巡クラスなら……失礼ながら、数を揃えればぎりぎり抑え込めそうな気はしますね」
リ級「……舐メラレテイルナ」ムスッ
773 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:11:33.08 ID:JxF4gpdbo
提督「そうは言うがお前、戦闘中は特殊装甲と黄色いオーラ出せるんだろう? 泊地棲姫に聞いたぞ?」
リ級「マア、出セルケド」
飛鷹「え゛っ、そうなの!?」ヒキッ
提督「いいリアクションしやがるな。ほれ、この飛鷹がこのくらいビビってるんだ」
提督「お前が本気出してたら、ここに寝泊りできたかどうかも怪しいもんだぜ? 言うだろ、能ある鷹は爪を隠す、って」
リ級「……ソウイウコトニ、シテオクガ」ムー
リ級「鷹……Hawk、トイウナラ、コノ艦娘ノホウガ、ソウナンダロウ?」
飛鷹「え?」
不知火「なるほど。飛鷹さんのお名前に『鷹』の文字が入っているから、ですか。よくお気付きですね」
リ級「姫様ガ、提督ノ母国語モ勉強シロ、ト、言ッテイタカラナ。身ニ着ケテイレバ、艦娘トノCommunicationモ捗ル」
リ級「漢字ノ勉強ガ、イチバン大変ダッタケド、意味ガワカレバ、オモシロイト思ウヨウニモナッタ」
提督「へえ、すげえなお前」
飛鷹「本当……こんなに勤勉だったなんて。見た目が普通だからと侮っていた自分が恥ずかしいわ」ウーン
リ級「フフ、モット褒メテイイゾ」ニッ
774 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:12:33.29 ID:JxF4gpdbo
不知火「……不知火も侮っていました。あなたがそこまで泊地棲姫を信頼していたとは思っていませんでした」
リ級「姫様モ言ッテルガ、チカラヲ持ツモノガ上ニ立ツノガ、私タチノ常ダ。ソシテ強イ個体ハ、必然的ニ知恵ヤ知識モ持ッテイル」
リ級「ダカラ姫様ノ言ウコトニハ、私モ従ッテイル。強イ者、賢イ者ニ従エバ、ソレダケ生存率モ上ガルシナ」
飛鷹「その言い方だと、忠誠と言うより、生存競争に生き抜くため、って感じがするのだけれど……」
リ級「ソノ認識デ、間違ッテイナイ。人間ニ対スル敵意ヲ抑エラレナイカラコソ、強イ個体ヲ頼ッテ、ソレヲ成ソウトシテイタ面モアル」
飛鷹「……!」
リ級「タダ、ソノ思考ガ、私ソノモノカラ出テイタモノカハ、定カジャナイ。強イ個体ニ影響サレル者モ、少ナカラズ、イルシ……」
リ級「コノ男ノオカゲデ、人間ト争ウ必要ガ、ナクナリツツアル。私ノ考エモ、今デハ変ワッテキテイル」
飛鷹「なるほど……興味深いわ。では、その話の続きは、朝餉を取りながら聞かせてもらえるかしら」コトッ
提督「目玉焼きか……長らく久し振りなものが出てきたな」
飛鷹「そうなんですか?」
提督「島じゃ卵もそれなりに貴重品でな。料理に使うことはあるが大量には使えないから、こうして一人一人に出すことがあまりないんだ」
提督「養鶏でもしようかと思ったが、それはそれで大量の飼料が必要になるし、狭い島の中じゃ限度がある」
リ級「……ナンダ? 初メテ見ルハズナノニ、食ベタ記憶ガアル……」ウーン
不知火「大丈夫ですか?」
提督「……それも、艦だったころの記憶かもな。とりあえず、冷めないうちにいただくか」テアワセ
775 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:13:18.32 ID:JxF4gpdbo
*
不知火「ごちそうさまでした」ペコリ
飛鷹「はい、お粗末様でした」
リ級「……コノコーヒー、酸味ガ強イナ……」
飛鷹「お口に合いませんでしたか」
リ級「イヤ、オイシイト思ウ。タダ、好ミカト言ワレルト、普段飲ンデイルコーヒーノ方ガ、飲ミヤスクテ好ミ、トイウダケダ」
提督「R提督はこういうのが好きなのか?」
飛鷹「はい。お気に入りの中でも、比較的飲みやすいものを選んだつもりです」
リ級「クセガアルガ、慣レレバ、コレガ好キトイウノモ、マアマア納得デキルナ」
提督「俺はもうちょっと濃いめに淹れたほうがいいな……」
リ級「エ……本気カ?」
不知火「司令は飲み物に関しては、渋めのほうが好みですから」
リ級「私ハ、苦イコーヒーハ、好キジャナイ……」
提督「あくまで俺の好みなんだから、お前はお前で好きなのを飲んでいいぞ? 俺の好みのほうが珍しいだろうし」
776 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:14:03.54 ID:JxF4gpdbo
提督「泊地棲姫んとこの深海棲艦は、いわゆるアメリカンコーヒーが好きな奴のほうが多いんだよな。米軍艦だった奴らが多いせいか?」
飛鷹「そうなんですか?」
提督「ああ。泊地棲姫自身も真珠湾にゆかりがあるらしいし、だからこそルーツに米軍艦が多い奴が集まったんじゃねえかと予測してる」
リ級「ダカラ、タ級タチモ、アアナッタ、ッテ話ダッタナ」
提督「もしかしたら、お前もそうなるかもしれないと思ってるんだが……泊地棲姫とは長い付き合いなんだろ?」
リ級「ソレハソウダガ、ドウダロウナ? マダ、コウ……明確ナ過去ノ記憶ハ、出テコナイナ」クビカシゲ
飛鷹「? 何の話ですか?」
不知火「あの島で暮らしている泊地棲姫の配下の深海棲艦が、何名か姫級や鬼級に変異したんです」
飛鷹「え゛っ」アオザメ
不知火「付き合いの長かったル級さんも戦艦水鬼に変異しましたし、もしかしたらリ級さんも……」
飛鷹「こ、ここでそうなるのはやめてくださいね!? 洒落にならないから!!」アセアセ
提督「大丈夫だろ、多分」
リ級「多分ネ」
飛鷹「ほ、本当でしょうねえ……?」タラリ
777 :
◆EyREdFoqVQ
[sage saga]:2025/01/26(日) 20:15:51.89 ID:JxF4gpdbo
今回はここまで。
本来向かっていたはずのシナリオの辻褄があわなくなって、
いろいろ書き直しながら進んでいますので、このスレで終わるか怪しくなってきました……。
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