【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】

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497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/04/14(日) 00:13:05.72 ID:zD8whw1O0
1です。
なんかPCから書き込みどころか
読み込みもできないんですが。
解除されるまで暫時お待ち下さい。
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/04/14(日) 23:05:50.17 ID:72t6XhYT0
追いついたー
マヂですか
早く解除されるのを願って続きを全裸待機
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/04/21(日) 03:01:32.05 ID:vt0jZKFu0
次で500だなぁ
500 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:34:16.96 ID:H2vvtUtFo
書き込みテスト
501 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:35:01.88 ID:H2vvtUtFo

おお、やっと書き込めた。
ここしばらくまったく書けなくてぐんにょりと悩んでて
ようやくある程度の形になったので投下しようとしたら
書き込みできずへこんでおりました。ひとまず書き込めるっぽいので投下します。

今回初めて名前が出てくるメディウムはこちら。

・フローラ・チュウシャキ:注射器を抱えたナースのメディウム。注射器を射出し、刺さった人間に謎の液体を注入して体調を崩させる罠。
  巨大な注射器を抱えたナース姿の女性。柔和に見えるが薬物による尋問拷問もこなせるくらいには酷薄。魔神様も実験台の候補らしい。
・クロエ・ワンダーバルーン:サーカスのピエロのような装束のメディウム。風船が人間を包み込み、ふわふわと空へ飛ばしてしまう罠。
  たくさんの風船を持ち歩く道化師。笑顔を振りまきつつ風船を配り、あらゆる悩みも空へと導いて、問題を忘れさせてしまおうとする。
・シャルロッテ・バナナノカワ:バナナを模した衣装を身に纏ったメディウム。足元におかれたバナナの皮が、人間を転ばせ怒らせる罠。
  アイドルを自称する少女。キラキラしたものが好きでステージ上でも輝くためアイドルを目指す。努力する姿は人に見せたくないタイプ。
502 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:35:46.28 ID:H2vvtUtFo

 * 墓場島鎮守府 埠頭〜本館連絡通路 *

提督「……」

大和「提督? こちらへ戻られてから、ずっと表情が優れないようですが……大丈夫ですか?」

提督「んー……まあ、ちょっと昔のことで考え事をしててな」

ニコ「もしかして、ぼくたちが関係することかな?」

提督「いや、俺が小さいころ……子供だった頃の話だ。だから、お前たちとはまだ出会ってないころの話になるな」

提督「多分、お前たちに話しても理解できない話だ」

大和「私たちにはわからないと仰るんですか!?」

戦艦水鬼改「ソレハ聞キ捨テナラナイワネ?」

提督「いやいや、わかんねえと思うぞ? だって俺の父親が何を考えてたか、って話なんだ」

ニコ「父親が?」

提督「ああ。あいつは俺が生まれる前に、エフェメラに言われて俺を魔神の生贄に差し出す契約をしたらしいんだよ」

提督「それから15〜6年くらい、まともな親子関係じゃなかったとはいえ、一応は一緒に暮らしてたんだ」
503 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:36:30.75 ID:H2vvtUtFo

提督「その間、あいつが何を考えて俺を育てていたのか、どんなつもりで俺と接していたのかがわからなくってなあ……誰か説明できるか?」

大和「……」

ニコ「……」

戦艦水鬼改「ソレハ確カニ、理解デキナイワネェ……」

大和「むしろ理解したくもありませんね」

ニコ「そういうことなら、エフェメラの思惑が多分に絡んでいた、と、考えるべきかな」

戦艦水鬼改「確カ、世間体ヲ気ニシテイタ、トカイウ話モ、ナカッタカシラ?」

大和「仮にも議員をやっているというのですから、義務教育中の息子を放り出すわけにはいかなかった、というのはあるでしょうね」

提督「むしろ、出来の悪い息子でも向き合って育てたっつう実績ができれば、逆に箔もつくか?」

大和「そういう見方もできるかもしれませんね。だとしても、結果的に勘当されているのですから、箔と言うほどのものもないのでは……」

戦艦水鬼改「トニカク、父親ノモトヲ離レタ後ニ、海軍ニスカウトサレテ、提督業ニ就イタンデショウ?」

戦艦水鬼改「私ニトッテハ、提督ガコノ島ニ来テクレタノハ、結果的ニ良カッタ話ダケレド」

戦艦水鬼改「ソレデ父親ノ評価ガ上ガッテタリスルノハ、チョット気分ガ悪イワネェ?」

大和「ええ、まったくです。提督は、ずっと一緒にいた妖精さんにいろんなことを教わったと聞いています」

大和「そもそも提督は、妖精さんとお話ができると言うだけで、必要以上に悪し様に言われたのですから、それだけでも心外です!」プンスカ!
504 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:37:15.89 ID:H2vvtUtFo

提督「……やっぱり、つまるところは世間体か。学生時代のいじめの事件で弁護士呼んだのもそういうことだろうな」

ニコ「べんごし?」

提督「ガキのころにいじめで自殺した奴がいたんだよ。俺は関わっちゃいなかったんだが、教師どもが俺に言いがかりをつけてきてなあ」

提督「それで親が弁護士呼んで、俺が関係ないことを俺の代わりに証明したんだ」

提督「そこだけ見れば子供思いにも見えるが、ありゃ単純に手前の保身のために呼んだんだろうな」ウンウン

大和「提督が納得できる答えを見つけたのはよろしいんですけどぉ……」ムー

戦艦水鬼改「改メテ、ソイツガ屑ダッテコトガ理解ッタワ」ムスッ

ニコ「魔神様、いつでもぼくたちを使ってくれていいんだからね」

提督「大丈夫だよ、そっちはそのうち人間どもの手で裁かれるはずだ」

大和「そうなんですか?」

提督「H大将がそいつの金回りを調べてる」

提督「調査に手こずってたらしいが、あいつの背後にいたエフェメラが調査の邪魔していたとしたら、あれから少しは進展があるはずだ」

提督「その後のお裁きの結果に納得いかなかったら、ニコたちの手を借りるかもしれねえが……」

提督「H大将たちが無能でない限りは、放っておいても二度と関わることはねえだろうな」
505 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:38:00.93 ID:H2vvtUtFo

ニコ「魔神様はそれでいいの……?」

戦艦水鬼改「弟ニモ同ジ対応ダッタワネ。ソモソモ、関ワリアイタクナイ、ッテコトカシラ?」

提督「下手に関わってぎゃーぎゃー喚かれても、つまんねえ捨て台詞吐かれて強がられても不愉快なだけだしなぁ」

ニコ「言葉を封じるメディウムが必要かな……フローラあたりにそんな薬がないか、聞いてみようかな」

提督「喋れなくして顔に一発蹴りでも……いや、やっぱやめとくか。どうせ許す気もねえし、何やったって気が晴れそうにねえな」

戦艦水鬼改「トリアエズ、ソイツノ考エヲ理解シヨウトスルノハ、ヤメタホウガイインジャナイ?」

提督「……そうか?」

大和「私も同感です。いくら考えても、提督のストレスにしかならないと思います」

ニコ「そうだね。殺す以外で関係を断ちたいと言うのなら、そいつらことは忘れてしまったほうがいいよ」

ニコ「どう始末するか、って方向でなら、ぼくたちがいくらでも考えてあげるけど?」

提督「……そうだなあ。どうしてそういう考えに至るのかを知りたくて考えてたんだが、狂ってるなら理解しようとするだけ無駄か」

戦艦水鬼改「一族ノ?栄ッテイウ、エフェメラトノ約束ノタメニ、アナタヲ生カシテイタ、トイウ程度ノ理由シカ、ナサソウジャナイ?」

大和「……提督がお労しい限りです」
506 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:39:00.73 ID:H2vvtUtFo

提督「そう渋い顔すんな。今はそいつから離れたわけだし、こうやってお前たちに心配もされてるから、俺的にはすげえ救われてんだぜ」

大和「そ、そうですか?」

提督「そうだよ、おまけにこっちはみんな俺の味方をしてくれて、至れり尽くせりだ。こんなボヤキに付き合ってくれて、本当に助かってる」

ニコ「魔神様、こういうことは自分だけで抱え込まなくていいんだよ? お姉ちゃんは、いつでも相談に乗ってあげるからね」

大和「その通りです! 提督はおひとりではないんですから! 大和もいつでも力になります!」

提督「なんか、お前たちは、自分自身のことより俺のことを心配してくれてるからなあ。そう思えば、昔のことなんて些細なもんだな」

戦艦水鬼改「フフ、気分ハ晴レタヨウダナ? 褒メテクレテ、イインダゾ?」ニヤッ

提督「そうだな……」

大和「それでは!!」リョウテヒロゲ

提督「ハグしろってか……いいけどよ」ギュ

大和「ありがとうございます!」ギュー

提督「んで、ニコはどうする?」

ニコ「えっ!? ぼ、ぼくも、その……同じでいいよ……」マッカ

提督「そうか?」ギュ

ニコ「……///」ギュー
507 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:39:46.12 ID:H2vvtUtFo

提督「ル級……じゃなかった、水鬼はどうする」

戦艦水鬼改「ソウネエ、ソレジャ私ハ……」ズイ

 ンチューーー…

提督「!?」

ニコ「」

大和「」

戦艦水鬼改「……ンフッ」ペロリ

戦艦水鬼改「次ハ、モウ少シ、長メニイタダクワネ?」ニヤッ

提督「……そうか。まあ、お手柔らかにな」セキメン

ニコ「魔神様!? お、お姉ちゃんはそんなこと許してないよ!?」

大和「提督! 私も! 今後は私もそっちのがいいです!!」

ニコ「ちょっ、ぼくの話、聞いてた!?」

戦艦水鬼改「フフフッ」ニマニマ
508 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:40:30.99 ID:H2vvtUtFo

 * 執務室 *

吹雪「あわわわ……し、司令官! 早くここから避難したほうがいいですよ!?」

提督「……」

軽巡棲姫「提督……? アナタハ、コイツト、ナニヲ、シテタノォ……!?」ヌォォォ…

戦艦水鬼改「オ前ニ、コイツ呼バワリハ、心外ネエ」

提督「……もしかして、アレ、見てたのか?」

クロエ「ええ、見てたらしいですよ? 先ほど遠征から戻ってきて、真っ先に執務室へおいでになりまして」

クロエ「それで、団長が戻って来てない、ということでそこの窓から外を眺めましたところ、団長のキスシーンを目撃したようです!」

クロエ「いやー、ニコさんもいるその真ん前で! 真昼間から団長も隅に置けませんねえ!」

ニコ「ぼくは許可してないよ?」

クロエ「おや、そうなんですか? そういうニコさんもニコさんで、大和さんの次に団長と抱き合っていたところは私も目撃しましたが?」

提督「そこまで見てて、お前は俺のキスシーンは見てなかったんだ?」

クロエ「軽巡棲姫さんに窓際から引き剥がされまして! で、ニコさん? 抱き着いたのはどうなんです? 本当なんですか?」

ニコ「! そ、それは……ぼくは魔神様のお姉ちゃんなんだから、そのくらい……!」
509 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:41:16.49 ID:H2vvtUtFo

軽巡棲姫「オネエチャンダカラッテ、ナニヲシテモイイト思ッテルノォ?」ヌラリ

ニコ「……うん。いいと思ってるけど?」フンス!

クロエ「開き直った!?」ガーン

提督「……」

クロエ「えー、団長? 団長からの何かしらの申し開きはございませんので?」

提督「面倒臭え」

クロエ「めんどう!?」ガビーン!

吹雪「司令官ってそういう人ですもんね」タラリ

大和「今の沈黙で、そう仰るのではないかと思っていましたが……」

クロエ「は、はあ、そうですか……それはそれとして、団長? そもそも、なぜニコさんたちと抱き合うようなことになったんです?」

提督「ちょっとした悩みを相談してたんだ。それで気分が晴れたから」

軽巡棲姫「ナンデ私ニ相談シテクレナカッタノォォオ!!?」

提督「こればっかりはタイミングの問題だろが。お前はいろいろ間が悪かったんだよ、この場は諦めろ」

吹雪「悩みって、どんな悩みだったんですか?」

提督「ん? 俺の父親が何を考えて俺を育ててたのかわからなくてな」
510 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:42:00.95 ID:H2vvtUtFo

提督「生まれる前から魔神の生贄にすることを決めてたってのに、どの面下げて父親面してたのか、お前たちは理解できるか? って」

吹雪「……」

軽巡棲姫「……」

クロエ「……」

提督「そこでクロエまで同じ顔すんのかよ」

ニコ「ぼくたちもこんな顔してたのかな?」

戦艦水鬼改「シテタワヨ?」フフッ

クロエ「私としたことが、思わず顔が固まってしまいました……しかしなるほど! そういうお悩みでしたら、このクロエの出番ですね!」

クロエ「そんな悩むにも馬鹿馬鹿しい悩みは、紙に文句を書きなぐって、この風船に括りつけて飛ばしてしまえばいいんですよ!」

吹雪「えええ!? それじゃ根本的な解決にならないんじゃ!?」

軽巡棲姫「私ナラ、提督ノ悩ミノ種ハ、根絶ヤシニ、シテキテアゲルワヨォ……?」

提督「いや、そこまでやる必要ねえって。忘れちまおうぜ、ってことで話は終わったんだ」

吹雪「い、いいんですか? 何もしなくて!」

戦艦水鬼改「イイコトニ、シタワ。ソモソモ、私タチモ、ソイツノ考エヲ理解デキルト思エナイシ? 考エルダケ、時間ノ無駄デショ」

大和「それに、海軍が大佐との関係を探っています。私たちが手を下すまでもなく、人の法の裁きを受けるでしょう」
511 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:42:46.38 ID:H2vvtUtFo

ニコ「そいつのことを考えても、腹が立つだけだしね。図らずともクロエの考え方が一番近いかな?」

クロエ「おお……!」

軽巡棲姫「チョット、納得イカナイノダケレド」

提督「俺の不快な相手をどうにかしようって気持ちはありがたいが、近々ケリの着きそうな話だからな。まあここは穏便に頼むぜ」ナデ

軽巡棲姫「……アナタガ、ソウ言ウノナラ、仕方ナイワネ……」モジモジ

吹雪「あ、し、司令官! 私も、なにかあればお手伝いしますから!」

提督「ああ、わかった。なんかあったら頼りにさせてもらう」ナデ

吹雪「はいっ!」パァッ

クロエ「……」

大和「クロエさんが面白くなさそうな顔をしてますね?」

ニコ「クロエだけ頭を撫でられてないからかな?」

クロエ「はっ!? いえいえ、なんのことでしょう!? そのような顔は」

戦艦水鬼改「シテタワヨ?」

クロエ「してないですよ!?」

提督「つうか、頭撫でるのも本人が望めばなんだけどな。吹雪や軽巡棲姫は前々からそうしてたから、自然な流れで撫でたけどよ」
512 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:43:30.90 ID:H2vvtUtFo

提督「むしろ、男に頭撫でられるのって、普通なら抵抗あるもんだろ? クロエだってそうじゃねえか?」

クロエ「はっ!? い、いえいえそんなことは! 団長から褒めていただけるというのは恐れ多いと言いますか、なんと言いますか」

戦艦水鬼改「ソウハ言ウケド、アナタ、イ級タチノ頭モ撫デテタデショ?」

提督「あ、そういやそうだ」

ニコ「あれはたぶん、人型じゃないから、犬か猫みたいな感覚で撫でてたんじゃない?」

提督「単純に労いたかっただけなんだがなあ……あんまり気軽に頭撫でるのも良くねえか」ウーン

大和「そんなことはないと思いますよ? といいますか、この鎮守府に嫌がる人がいるんですか?」

提督「山城」

大和「ああ……」

提督「あとあいつだ、クイーンハイヒールのヴァージニア」

ニコ「そうだね、ヴァージニアもプライドが高いから、嫌がられそうだね」

提督「ヒサメやヴェロニカあたりも喜ぶと思えねえし、あとは那珂とかシャルロッテとかも、気軽なお触わりは厳禁だろ?」

戦艦水鬼改「握手ハオーケーッテ言ッテナカッタ?」

提督「そうなのか? まあ、どっちにしろスキンシップは当人が望まない限りはやらないつもりだからな」
513 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:44:16.05 ID:H2vvtUtFo

軽巡棲姫「私ハ、モット触ワッテ、イイノヨォ?」スリスリ

ニコ「……魔神様、それよりお仕事しないと」

提督「わかってるよ。軽巡棲姫も手伝ってくれるか?」

軽巡棲姫「ウフフ、勿論ヨ」

ニコ「……ほら、いつまでくっついてるの? 早く離れて」ムスッ

クロエ「……」

戦艦水鬼改「……デ、アナタハ、提督ニ撫デテモラワナイノ?」

クロエ「はっ!? いえいえそんなことは!? 万が一にも私のメイクが団長の衣装に移ってはいけませんし!」

吹雪「メイク? 司令官にそこまでくっつくつもりですか?」

クロエ「そそそそのようなことはありませんでございますよ!!?」

ニコ「……クロエ、珍しく動揺してるね」

クロエ「いえいえいえいえ! あ、ちょっとわたくし外に出てまいります!」ピャッ

吹雪「あっ」

戦艦水鬼改「逃ゲタ」
514 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:45:01.22 ID:H2vvtUtFo

ニコ「クロエは何しに来たんだろう……」

吹雪「えっと、一応、お仕事のお手伝いに来たみたいなんですが」

吹雪「難しいことや都合の悪いことが書いてある書類は、全部風船を括りつけて飛ばしてしまおうと考えてたみたいで……」

提督「駄目じゃねえか」ガクッ

ニコ「クロエは『手に届くから悩みが生まれる、空へ放って手が届かなくなれば悩みは悩みでなくなる』っていう、独自の哲学の持ち主だからね」

ニコ「悩ましいことはなんでも風船にくっつけて、飛ばして笑ってしまおう、って感じなんだよね」

提督「この島の安定は、先送りしていい悩みじゃねえからな。クロエの話が通用するのは、その問題が解決してからだ」

戦艦水鬼改「ソウネェ。早ク平和ニシテ、私タチノ世界ヲ作ラナイトネェ?」

大和「ええ、その通りです」ウナヅキ

吹雪「……」ニコニコ

提督「吹雪、嬉しそうだな?」

吹雪「はい、それはもう! 深海棲艦のル級さんのほうから、平和にしようって言ってもらえたんですから!」

ニコ「……申し訳ないけれど、ぼくたちは、この世界のそういう交渉事にはあまりお役に立てないかな?」

提督「そいつはいいさ。こっちの世界のことはこっちの世界の住人に任せとけ」

提督「その代わり、決め事を破ってこっちに向かってくる愚かな連中を撃退するときは、メディウムたちに頼らせてもらうからな」

ニコ「うん。そう言ってもらえると嬉しいな」

大和「それでは、早速執務に取り掛かりましょう!」

軽巡棲姫「面倒ナコトハ、サッサト終ワラセテ、ソノ後ハ……ウフフフ」ニヤァ

戦艦水鬼改「抜ケ駆ケハ駄目ヨォ?」

吹雪「……あの、喧嘩しないようにお願いしますね?」タラリ

提督「……」

提督(我ながら、随分幸せな立場になったもんだな……)フフッ
515 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:45:46.53 ID:H2vvtUtFo

 * 北東の海岸 *

クロエ「ううっ、このクロエ、何たる不覚! まさか団長と触れ合う機会を無碍にするとは!!」

クロエ「しかし! 道化たるこの私が、団長に思いを寄せていることを知られては、道化を演じるどころではなくなってしまいます……!」

クロエ「……ええい、かくなる上は!」

 (ペンと便箋を取り出し、何かを書いて封書に閉じて、風船を括りつける)

クロエ「とうっ!」

クロエ「……これで良し! 団長への思いはこれで遥か遠くに」

 深海艦載機<ブゥーン

クロエ「あ」

 風船<スパーン!

クロエ「あああ!?」

 手紙<ヒラヒラ…

クロエ「これはよくありません! あのお手紙にはもっと遠くに飛んで行ってもらわないと!!」

深海海月姫「アラ? コレ、ナニカシラ」ヒロイアゲ

南太平洋空母棲姫「オ手紙? アノ風船ニクッツイテタノ?」

クロエ「あああああ!! い、いけません! 返して! 返してぇぇ!!?」イヤァァァ!!
516 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/12(日) 21:47:46.04 ID:H2vvtUtFo
短いですが今回はここまで。
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/05/13(月) 05:37:35.17 ID:RixUp1Mk0
舞ってた
518 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:51:46.89 ID:2Z+U+lOLo
今回は再び海軍と不穏なお話です。
残念ながらメディウムと深海棲艦の出番はなし。

続きです。
519 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:52:34.28 ID:2Z+U+lOLo

 * 翌日 *

 * 墓場島沖 海軍巡視船 甲板上 *

 ザザァ…

中将「おお、よく来てくれた。忙しいだろうに、連日呼び出してすまなかった」

提督「……いいえ。おひとりですか? 護衛の艦娘は……」

中将「ここにいるのは儂だけだよ。君に、頭を下げたかったのでな」

提督「!」

中将「儂の息子が、墓場島と呼ばれたあの島に、自分の意に従わない者、邪魔立てする者を置き去りにしたと聞いている」

中将「君もそのひとりだったと、赤城たちから聞いたよ。本当に、申し訳ないことをした。すまなかった」ペコリ

提督「中将……」

中将「ほかにも、儂の息子がやったこと、J少将がやったこと……海軍の愚行に君を巻き込み続けたこと」

中将「儂が頭を下げて済むようなことではないことは、重々承知している」

提督「……」

中将「謝らなければならないのは、過去のことだけではない。我々はこれからも、深海棲艦と対話するために君を頼ろうとしている」

中将「我が国のためと言う大義名分のもと、稀有な力を持っているというだけで、このような過酷な生活を強いてなお……」

中将「我々は、君に、負担をかけ続けようとしている。君を利用しようとしている」
520 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:53:17.45 ID:2Z+U+lOLo

提督「……」

中将「我々の我儘に付き合わせてしまい、申し訳なく思っている」

提督「……」

中将「……」

提督「……まあ、散々な目に遭わされたのは違えねえな」

中将「!」

提督「あの不愉快極まるくそ野郎に封じ込められた状況で、どうやって艦娘たちを気楽に生活させようかって悩んでいたのも事実だし……」

提督「今も今で、生活そのものはまだまだ不安定。海軍の一部の連中も、何を考えてるかさっぱりわからねえ」

提督「とにかく今は、あいつらを安心させてやるのが俺の望みだ。不安要素がたくさんある現状は、いい状態とは言えねえな」ハァ…

中将「……すまないな。人間と言うものは、みな自分のエゴのため……おのが望みのために、動いている」

中将「儂も、海の平和のため……人々が安心して海を行き来できるようにするため、多少の悪事も見逃してきた自覚はある」

中将「息子のことも……つまりはそういうことだ。君にいらぬ負担をかけたこと、本当に申し訳ないと思っている」

提督「……そうかよ」

中将「……」

提督「……」
521 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:54:01.58 ID:2Z+U+lOLo

中将「ところで、いきなり別の話をさせてもらうが。先日、I提督の亡骸が見つかったと報告があった」

提督「!」

中将「艦娘である翔鶴の首を抱えて白骨化した姿で、鎮守府の焼け跡、地下から……捜索したはずの場所から見つかったらしい」

中将「改めて供養して、彼女の両親と一緒の墓に納骨してもらえるそうだ。翔鶴も一緒にな」

中将「X大佐から、君が彼女のことを知っていたと聞いた。君の耳にも入れておきたかったのだ」

提督「……」

中将「そのI提督のご両親は、ある事件によって殺害された。実は、その犯人がまだ存命しておるのだが……」

中将「近々、ほかの凶悪犯とともに、海外に護送されることになった」

提督「護送? ……まだ殺さねえのかよ」

中将「うむ。それが我が国の司法が下した判決だ」

提督「……」

中将「その護送に用意された船だが、型落ちの古い船らしいのだ。それから護送時には、この島の近海を渡ることになった」

中将「道中は艦娘が護衛するとはいえ、船そのものの老朽化もあり、トラブルがないとも限らない……」

提督「……おい。本気かよ。あんた、俺にそいつらを事故に見せかけて始末しろってのか……?」

中将「……」
522 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:54:46.60 ID:2Z+U+lOLo

提督「その企みが明るみに出たら、洒落にならねえだろ。それじゃまるで、深海棲艦に襲わせて謀殺するのと同じ……」

提督「かつてF提督や、俺やあんたが、あのくそ大佐どもから殺されかけたあの状況と、一緒なんじゃねえのか?」

中将「……うむ、そうだな。だが、儂はそれで良いと思っている」

中将「あの犯罪者たちは、己の欲望を優先し、他者の財産を奪い、他者の命を脅かし……それを、間違っていないと……正しいと宣った」

中将「儂に、彼らを非難する資格はないのかもしれん。しかし、儂は、彼らの存在に憤ったのだ」

中将「君の個人的な部下は、悪人の魂を欲している、とも聞いた。君たちにとっても、都合が悪い話ではないと思うのだが」

提督「……」

中将「これは、儂のさいごの望みだ。その船に乗る者たちを、君の手で始末してほしい」

提督「……操船する乗員もか?」

中将「ああ。残念ながら、海軍にも始末に負えぬ愚か者がいるのでな」

提督「どんな連中だよ」

中将「ふむ……例えば、I提督からの支援要請を揉み消した男だな」

中将「I提督に思いを寄せていたらしいが、一向に靡かぬために、思い知らせてやろうとして、彼女を見殺しにしたらしい」

中将「それから、F提督の襲撃に関わった者も、今回、海外の泊地に着任させるついでと言う形で、護送に参加させることにした」

提督「……そうやって、なんらかの問題がある奴だけ乗せてたら、あからさますぎて怪しまれるんじゃねえのか?」
523 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:55:32.17 ID:2Z+U+lOLo

中将「そこは心配ない。その船には、儂も船長として同乗する」

提督「はあ!?」

中将「儂が一緒なら、彼らも怪しいとは思うまい。言っただろう、儂の『最期』の望みだと」

提督「……そっちの最期かよ」

中将「彼らを、儂もろとも屠って欲しいのだ。息子の蛮行に君を巻き込んだ罪を、儂の命で償わせてもらいたい」

提督「……」

中将「……」

提督「はぁ……そうきたか。そう、きやがったか」アタマオサエ

中将「……?」

提督「っざけんな! 何がもろともだ! 耄碌してんじゃねえぞこのくそじじい! 何考えてやがる!」

中将「くそ……!?」

提督「いいか! あんたの後任の与少将は、あんたを慕って海軍に入ってんだ。あんたが死んだら真っ先に嘆き悲しむのが与少将だ!」

提督「これから俺たちはX大佐や与少将と話し合っていかなきゃならねえってのに、ここであんたを俺たちが殺したらどうなる!?」

提督「与少将から恨まれて話が進まなくなるに決まってんだろ!? なんでわざわざ拗れそうな真似しようとすんだよ!?」

中将「む……」
524 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:56:16.65 ID:2Z+U+lOLo

提督「死んで詫びるだぁ? んなもん、手前が消えて楽になりたいってだけの逃げだろうが!」

提督「贖罪したいってんなら、生きてこれからも与少将をバックアップしやがれってんだ、くそが!」

中将「……き、君は、儂を恨んでないのかね?」

提督「あぁ? 別に恨んじゃいねえよ。むしろ、あんたには、轟沈した艦娘をあの島で運用できるように取り成してもらってる」

提督「あの頃の海軍のお偉方は、俺があの島で轟沈経験艦を運用することに対して文句しか言わなかったんだろ?」

提督「それを通してくれたんだ。これでも俺は、あんたには一応感謝してんだぜ」

中将「あの大佐が、儂の息子であってもか」

提督「それを言ったら、その息子に殺されかけたあんたこそどうなんだ、ってんだよ」

提督「いくら義理の息子だとはいえ、あんたのことは少なからず気の毒には思ったぞ?」

中将「……そうか。そこまで知っていたか……儂への連絡が少ないから、嫌われておったかと思っていたが」

提督「そりゃ俺が分を弁えてただけだ。准尉の俺が、大佐不在でもないのに中将に直接具申なんて、していい立場じゃねえ」

提督「いくら不知火がいたとはいえ、直属の上司である大佐を毎度毎度飛び越して話を通してたら、さすがに大佐も不快に思うはずだ」

提督「残念ながら、俺の命はあのとき大佐の手のひらの上にあった。余計な真似は、極力したくなかったんだ」

提督「人間の世界に関わりたくない、人の世の平和に貢献なんかしたくない、っていう、俺の本音もあったけどな」

中将「……」
525 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:57:01.32 ID:2Z+U+lOLo

提督「で? 仮に中将もろとも船を沈める計画がなしになったとして、だ」

提督「そうなったら、あんたはその船に乗らなくなるのか? そうなったとしたら、そいつらが素直に島の近くを通るのか?」

中将「……そうなればわからんな。他に航路もある。そもそも、エンジントラブル自体も儂がその場でリモコンで起こすつもりでいた」

提督「……」

中将「君に協力を頼めないとなると、諦めざるを得ないか。すまないが、今の話は聞かなかったことにしてくれ」

提督「いや、そうもいかねえんじゃねえか? そこまで話ができているってことは、それなりに準備が整ってるんだろう?」

提督「中将がそれなりの覚悟を持って計画し……そして、俺がここで断ると思ってもいなかった。そういうことだよな?」

中将「……そうだ。いま、君が儂に協力する理由がない」

提督「いいや? I提督が関わってるなら、ちょっと話が変わってくるぜ」

中将「? 君はI提督と面識はあったのかね」

提督「直接はねえよ。けど、俺はあの世で、I提督と、I提督の両親の事件に姉が関わったっていうQ中将に会ってきた」

中将「あの世で……!?」

提督「ああ。Q中将から聞いたが、I提督の母親を殺した奴は、母親の首を抱えたまま自殺して、永遠に一緒になろうとしてたらしいな?」

提督「その話を聞いて、俺も不愉快に思った口だ。んな狂った奴、ただ殺したんじゃ、そいつの望み通りになっちまう」

提督「だから中将。計画通りやってくれ。そのくそどもの血肉と魂はあの世には行かせねえ。もれなく俺たちの餌にしてやろうじゃねえか」
526 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:57:46.72 ID:2Z+U+lOLo

中将「や、やってくれるのか……!?」

提督「ああ。X大佐のところへ行った暁や川内も、もとはI提督のもとにいた艦娘だ。これも何かの縁って奴さ」

提督「ただ、海軍の連中は、その時の反応次第になるな……まあ、そのとき考えればいいか」

提督「で、あとはあんたは俺たちに助けられたていを装って、そのまま退役するなり相談役に徹するなりして、隠居すりゃあいい」

提督「あんたを助けりゃ、与少将にも恩を売れるしな」ククッ

中将「なるほど。君たちには、そのほうが都合がいい、か……」

提督「度を超えた要求をする気はねえから、安心しな。欲をかいて失敗した連中は、俺もたくさん見てきた」

提督「とりあえず、あとで日程を教えてくれ。万全の態勢で、そいつらを歓迎するからよ」

中将「わかった……何から何まで、重ね重ね、すまない。ここまで考えてくれるとは、儂としても望外であった」ペコリ

中将「かつて不知火からは、君が私に感謝していると聞いてはいたのだが……儂はそんなことはないと思い込んでおったのだ」

中将「大佐の独り善がりの決定に任せてあの島に君を行かせて、そのままにしてしまったのだからな」

中将「おまけにこの場で、君に変な気遣いをさせてしまった。儂も老いたものだ、みっともないところを見せてしまったな」

提督「……ま、俺が愛想悪くしてきたのも確かだし……これ以上気にしないでくれよ。俺も猫被るのやめたし、おあいこってことでよ」

中将「うむ……」
527 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:58:31.53 ID:2Z+U+lOLo

提督「にしても、あんたも結構、清濁併せ呑むってタイプか? 初めて赤城と顔を合わせた時も、そういう感想を抱いた記憶があるが」

提督「もしかしてあいつ、あんたに似たのか? 変なところで自己犠牲も厭わないような言い方もそうだし……」

中将「赤城がか……?」

提督「ああ。大佐の部下の艦娘を慮ったのか、それともあんたがいた鎮守府の名声を傷つけないようにしたのかは知らないが」

提督「わざと冷血漢を装いつつ、あの大佐のやってたことを白く見せてたのが、あの赤城だ」

提督「あいつも、自分が悪く言われることには躊躇も頓着もしてなかったからな」

提督「俺も人のことは言えねえが、あいつがそうなったのは……いや、そうしたのは、あんたの影響もあったのか、ってよ」

中将「……冷血漢か。儂の前では、そこまでではなかったのだがな。そうか、赤城が……」

提督「……」

中将「うむ。提督、良いことを思いついた」

提督「ん?」

中将「赤城を、君の妻にしてはどうかね」

提督「……はぁあ!?」

中将「儂は、前の妻とも子を残せなかった。いま思えば、赤城には儂の知る知識をすべて与えた、いわば娘のようなもの……」

提督「いやちょっと待て! どっから出てきたそんな話!!」
528 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 21:59:16.53 ID:2Z+U+lOLo

中将「不満かね? 君のことを話す赤城が嬉しそうにしていたことを思い出したのだよ。彼女もまんざらでは……」

提督「そうじゃなくてだな!? なんでそんな下世話な話になるんだよ!? 飛躍しすぎだろ!?」

中将「君のようないい男が、妻も娶らずに独り身のままでいるのは、些か忍びないと思ったのだが」

提督「余計なお世話だよ……あんたといいQ中将といい、じじいどもはとんでもねーとこで世話焼いてきやがるな、くそ……!」アタマカカエ

中将「君には、良い人生を歩んで欲しいと、思っただけだ……他意はない」

提督(? なんだ……何か言い淀んでるな。魔神の目で見てみるか)メヲトジ

中将「……提督? どうかしたかね」

提督「ふーん、なるほど。そういうことか」メヲヒラキ

提督「中将、俺も余計なことを言わせてもらうぞ。あんた、いまの後妻をなんとかしたほうがいい」

中将「!!」

提督「あんたが現役の間はとんと音沙汰なかったってのに、引退が近くなってからはあんたにすり寄って、甲斐甲斐しくしてるみてえだな?」

提督「健康でいて欲しいとのたまう割には、やたらと味の濃い飯ばかり出してきて……さては糖尿病にでもしてやろうって魂胆か?」

中将「……そんなことまで知っているのかね」

提督「残念ながら、俺はもう人間じゃないんでな。あんたの抱えた不調や不安を見ようと思えば見えちまうんだ」
529 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:00:06.33 ID:2Z+U+lOLo

提督「あんたが死にたがった一因がそれなんだろ。今の嫁には、金蔓としか見られていなかったのが虚しいからって、殉職を志願した、って」

中将「提督。やめてくれたまえ……これは私の問題だ」

提督「そうもいかねえよ。誰かが自暴自棄になって、その結果で嫌な奴が笑うのは面白くねえって言ってんだ」

提督「さっきも言ったが、与少将みたいにあんたを慕う人間のためにも、あんたにゃもう少し健康でいてもらわなきゃ困る」

中将「……」

提督「知ってんだろ? もともと俺は、この島が艦娘たちだけで統治できるようになったら、この島から去るつもりだった、って」

提督「それをうちの艦娘たちに知られて、顰蹙買って、どこにも行くな、死のうとするなって言われてよ」

提督「多分、同じことを与少将たちが言ってくるはずだ。こんな話、俺にだけ喋ったら、俺が非難されるのが目に見えてる」

提督「つまんねえこと考えてねえで、あんたは、今後どうやって生活していくか、そっちを考えるべきなんだ」

中将「……そうか。ある意味、君と同じことを考えねばならんと言うことか」

提督「……だな。結局、俺たちは同じ穴の狢だったってか?」

中将「かもしれんな。ふふ……」

提督「なんで楽しそうにしてんだよ……」
530 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:00:48.52 ID:2Z+U+lOLo

 * 巡視船内 会議室 *

H大将「なんだ、苦虫を噛み潰したような顔をして。頭でも痛いのか」

朧「提督、さっきまで中将さんと話をしてきたんですよね?」

X大佐「なにかまずいことでもあったのかい?」

提督「……大丈夫だ。ちょっと面倒な話を聞いてきただけだ」

大淀「本当に大丈夫ですか? 何か都合の悪いことでも……」

提督「いや、そういうことじゃねえ。昔の、大佐のこととかでいろいろとな……まあ、終わった話だ。これ以上面倒にはならねえよ」

H大将「そうか。では俺から、少し気が楽になる話をしてやろう」

H大将「まず、北上たちの移籍だが、受け入れることにした。大井と荒潮に判断してもらったが、問題なく馴染めるだろう、とのことだ」

大淀「そうですか、であれば大変喜ばしいことです。ありがとうございます」

X大佐「僕たちの鎮守府も、暁と川内を受け入れることになったよ」

X大佐「響……ヴェールヌイが暁にべったりくっついて、うちのビスマルクがちょっとやきもち焼いてるけどね」

提督「……うちの暁はすげえ大人びてるらしいからな。あまり悪影響にならねえといいんだが」

X大佐「大丈夫だよ。僕たちが、みんなをサポートするから」ニコ

大淀「是非、よろしくお願いいたします」ペコリ
531 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:01:31.82 ID:2Z+U+lOLo

X大佐「それから、新人の礼提督のところには、五月雨、若葉、龍驤、雲龍の移籍が決定したよ。長門と潮は、保留になった」

朧「保留?」

X大佐「どうやら、長門がすごく頼れるらしくてね。他の鎮守府からも来て欲しいって言われてるくらいなんだ」

X大佐「引き抜き工作されてるから、まだ君の鎮守府に在任している扱いにさせてもらってる。そのほうがあの二人も安心するかと思ってね」

提督「ああ。そういう事情ならそうしてくれ、変な連中にうちの艦娘預けるよりずっといい」

X大佐「ほかの艦娘に関しては……L少佐の鎮守府には、千歳、足柄、古鷹、加古、朝雲、山雲の移籍が決定した」

X大佐「W大佐の鎮守府には、最上と三隈。仁提督の鎮守府には、伊勢、日向、黒潮が、それぞれ決定」

X大佐「F提督の鎮守府には、利根、筑摩、五十鈴、そして神通。神通は元の鎮守府に戻る形になるね」

大淀「五十鈴さんは筑摩さんと一緒の鎮守府に行くことにしたんですね」

提督「あいつもなんだかんだで心配性で面倒見がいいからな。筑摩と一緒なら大丈夫だろ」

X大佐「R提督の隼鷹も、同じように舞鶴の鎮守府に戻ることになった。あとは、与少将殿の鎮守府に、武蔵と那智が移籍予定、かな」

X大佐「最後に、城塞鎮守府。リンガ泊地の演習が盛んな鎮守府に移籍するのが、霧島、摩耶、鳥海、利根、名取、弥生、初霜」

朧「あれ? 鳥海さんは、加古さんと一緒じゃないんですか?」

提督「摩耶が鳥海のことを気にかけてたからな。古鷹も加古が心配らしい。それより、一番悩んでた名取たちも、行き先を決めたんだな」

朧「摩耶さんたちが以前一緒にいた、三日月たちに誘われたみたいですよ」
532 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:02:17.73 ID:2Z+U+lOLo

大淀「これで残留を希望している艦娘以外で、移籍が決まっていないのは川内さんだけになりますね。うるさいほうの」

提督「ああ、あの夜戦夜戦ってうるさいほうのあいつか……」

X大佐「そちらの川内については、引き続き移籍先を探してみるよ」

大淀「はい、よろしくお願いいたします」ペコリ

H大将「それから、先日の曽大佐のところの小さくなった艦娘については、解体せずに様子を見ることになった」

H大将「曽大佐の代わりに着任した提督が子供好きと言うこともあって、どうにか解体せずに済むよう張り切っているらしい」

H大将「憲兵や特別警察隊もすべて入れ替え、在籍している艦娘の再教育も平行に行われる。しばらくは戦力として期待できなくなるな」

朧「……やっぱり、そうなるんですね」

H大将「体制そのものが全て変わるわけだからな。今後は相互に監視しつつ、協力していく体制を作り上げてもらわねばならん」

提督「H大将はお咎めなしで済んだのか?」

H大将「俺か? 一応はな。曽大佐の離反は、あいつ自身の暴走、と言う形で処理された」

提督「ならいいや、海軍にもちゃんとまともな判断できる奴がいるみたいで安心したぜ」

H大将「……俺は心配されたのか?」

朧「だと思います!」
533 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:03:01.66 ID:2Z+U+lOLo

X大佐「その代わりじゃないけど、曽大佐を諫めることなくその気にさせてしまったということで、呉の和中将に処分が下っているけどね」

提督「……なんか、ますます逆恨みされそうだな?」

大淀「心配ではありますが、処分が下ったそうですし、今後こちらに接触してくる可能性は減った……と、考えてよろしいですよね?」

X大佐「うん、いいと思うよ。和中将もご自身で、もう関わりたくないと言っていたそうだ」

H大将「それから、お前の父親の件だが、無事逮捕された」

大淀「本当ですか!」

提督「ふーん……」

朧「……提督? 嬉しくないんですか?」

提督「いや、他人だしな。どうとも思わねえ……が、安心したっていえば、安心したか」

朧「……」

H大将「丁度、政府がお前たちと接触を試みた日を境に、妨害がなくなって決定的な証拠を掴めたと聞いているんだが……」

提督「妨害してた奴を倒したから、か?」

朧「やっぱりエフェメラが妨害してたんですね」

X大佐「この前、祢大将殿がいらしたときに話していた、魔神のしもべのことだね?」

H大将「深海棲艦とは異なる、世界の危機が迫っていたと聞いたが」
534 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:03:47.11 ID:2Z+U+lOLo

提督「あー、そう言われればそうだな。もしエフェメラの望んだ神が復活してたら、深海棲艦どころの騒ぎじゃなかったはずだ」

H大将「さらっと言ってくれるな。今は大丈夫なんだな?」

提督「ああ、ひとまず脅威は去った」

H大将「……一応、あらましは祢大将とX大佐から聞きはしたが、まさかお前の父親がそんな連中と繋がっていたとはな」

大淀「それで、その後進展はあったんでしょうか」

H大将「提督の父親はあっけないくらい神妙にお縄についた。この調査のために、何人もの刑事や調査員が行方不明になったと聞いている」

H大将「彼らをどこへやったのか、その件についても調査を進めるそうだ。と言っても、調査は難しいと思うが……お前はどう思う?」

提督「夢も希望もない言い方しちまうけど、全員殺されてんじゃねえかな。あのエフェメラが人間に手心加えるとは思えねえ」

提督「エフェメラがやったなら、凶器とか血痕みたいな証拠も残ってるかすら怪しいし、そいつらが死んだことを証明するのも難しそうだ」

H大将「そうなると、提督の父親が素直だったのは、エフェメラという後ろ盾を失ったことで観念したか……」

H大将「あくまで協力者がやったことで、証拠が見つからないからと開き直ったか。そのどちらか、ということになるか」

提督「あいつの考えてることは俺には理解できねえから、その辺の考察は俺はパスだ」

H大将「……提督、そういう貴様はどうなんだ?」

提督「? どういう意味だ?」

H大将「お前はメディウムの親玉だろう? お前自身は、生きるために人間の命を必要としてはいないのか?」

X大佐「!」
535 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:04:31.65 ID:2Z+U+lOLo

提督「……ああ、そういう意味か。それなら心配しなくていい。普通に飯食って寝て過ごすところは、今んとこ、これまでと変わりねえ」

提督「ぶっちゃけ、そっちも心配されるほど困ってねえしな。結構な頻度で命知らずどもが島に来てるしよ」

X大佐「な……!? ど、どういう意味だい、それは!?」

H大将「……お前の撒き餌が効果を発揮しているということか?」

提督「いや、盗掘目的の連中もいるっちゃあいるが、それより軍事的な目的でこの島を占拠しようとする奴らのほうが最近は多いぜ」

X大佐「!?」

H大将「なんだそれは……仮にも深海棲艦相手に、そんな馬鹿なことを考える国があるのか」

提督「それなんだが、おそらくそいつらは、俺たちが人間との交渉の席に立った理由を勘違いしてる気がするんだよな」

提督「俺たちはあくまで、人間と戦わないための話し合い、取り決めを交わしたいだけなんだが……」

提督「あいつらはそれを、俺たちが力を失って弱体化したせいで人間に助けを求めてきた、命乞いしてきた、と解釈したんだと思う」

X大佐「弱い深海棲艦たちだと思い込んだってことかい……?」

提督「たぶんな。人間より強い存在が、わざわざ人間と約束事なんかするはずがない、って考えたんだろう」

提督「最初は難民装った海賊みたいな連中が来てたんだが、少しずつ攻め込んでくる人数っつうか、規模がでかくなって」

提督「そいつら返り討ちにしてたら、艦隊連れてきやがったんだ。この間、新聞にもそれっぽい記事が載ってたよな? 偽装されてたけど」

H大将「記憶にないぞ、いつの記事だ?」
536 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:05:16.60 ID:2Z+U+lOLo

朧「少し前に、某国の空母が、深海棲艦と交戦したニュースが少し前にあったと思うんですが」

X大佐「……もしかして、通常兵器で深海棲艦と交戦できるかを実験して失敗したっていう……?」

H大将「あの無謀すぎる実験の件か」

提督「そうそう、多分それだ。実際には、島への侵攻中に、島の近海を縄張りにしてる深海棲艦に全滅させられたんだよ」

X大佐「え? 君たちは手を出してないのかい?」

提督「おう。俺たちは小さい船を返り討ちにしてきただけで、新聞に載った空母は俺たちは無関係だな」

H大将「なるほど、道中での全滅じゃ国としてのメンツも丸潰れ……それで実験ということにしたと。あまりに苦し紛れがすぎる発表だな」

X大佐「……途中で思い直せば良かったのに」アタマカカエ

提督「俺たちを侮りまくってたんだろうなあ。こんなはずはない、みたいな感じでよ」

提督「それで大戦力を投じて一気に制圧しようとしたんじゃねえかな。でかい船を持ち出したら深海棲艦に攻撃されることも忘れてな」

H大将「艦娘も随伴せずにか……」

提督「あの国、自前の艦娘いねえだろ。他国からレンタルして随伴させたら手前らのやってることがばれるから、できなかったんだろうけど」

提督「そういう大ドジをやらかすくらい、俺たちが利用しがいのあるコマに見えたんだろうな」

提督「艦娘と深海棲艦を大量鹵獲できたら大喜びするはずだぜ、あの国は。なんなら海軍にスパイが入ってたって話もそこ絡みだろ?」

H大将「よく知っているな……」

提督「一応、海軍にいたころはちゃんと新聞読んでたしな」
537 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:06:01.41 ID:2Z+U+lOLo

X大佐「……それで、その国の船は、撃退……したんだね?」

提督「ああ。別にその国に限らないが、領海に入った連中は全部始末してる」

X大佐「そうか……仕方ないな」

提督「ま、連中は政府と目的が違うからな。俺たちのことを力づくで従わせようとする連中なんざ、わざわざ慮ってやる理由がねえ」

X大佐「……H大将殿。各国に対する通知の文面を、もっと緊張感のあるものに変えるべきですね」

H大将「そのほうがいいな。しかし、なんでお前たちが攻撃を受けているという話をこちらに寄越さなかったんだ」

提督「内々で処理できている話だからな。わざわざ海軍に連絡して顔色伺う話じゃねえし」

提督「そもそも、海軍にこの話が行ってないってことは、そいつらがやってることが海軍に相談できないような類の話だってことだろ?」

提督「海軍はこういうのを取り締まるのもお仕事だって言うのかもしれないが、そいつらがおとなしくごめんなさいするとは思えねえ」

H大将「……だから俺たちに知らせなかったと?」

提督「以前もこの席で言ったが、死にたがりの尻拭いなんか海軍がやる仕事じゃねえよ」

提督「俺たちが海軍に求めているのは、俺たちの立場を各国へ通達してもらって理解してもらうことだ。余計な仕事は増やしたくねえ」

提督「これでも俺は、海軍に協力してもらってることには感謝してるんだ。下手に連絡してドンパチして海軍に被害が出ても気分が悪い」

提督「あの鎮守府にいた艦娘の居場所を作ってくれたりしているし、島そのものの扱いだって、こっちに都合良くしてもらってるしな」

X大佐「提督……」

H大将「……」
538 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:06:46.89 ID:2Z+U+lOLo

提督「だからこそ、頭の悪い連中のために海軍がしなくていい苦労をするのは、俺としちゃあ面白くねえな」

H大将「お前の言いたいこともわかるが、その苦労をしなければ、世界全体が足並みを揃えなければ、海全体の平和を作ることはできん」

提督「……あんな連中、見捨ててやりゃあいいのによ。よくやるぜ」

H大将「それが俺たちの仕事だ。もっとも、余所の国との対話は外務省に任せるしかないのが、もどかしいがな」

X大佐「……提督の父親の話からだいぶ話がそれてしまいましたが、次に提督の弟さんに関しても話したいのだけれど、いいかな?」

提督「弟のこと?」

H大将「ああ。お前の弟が、政府との交渉の日にあの島に上陸したらしいな」

H大将「お前はこの前、家族の話を出されたときに殺気立っていたが、実際に顔を合わせて大丈夫だったのか?」

提督「思ったよりもな。ガキのころの顔しか知らなかったもんで、会っても誰だかピンとこなかったからってのもある」

H大将「お前の弟は、あの島に上陸してまでお前に会いに行ったと聞いたが、それは何故だ?」

提督「うーん……なんか、単純に、あいつが俺に対していろいろ恨みがあったっぽいんだよな」

H大将「恨み? 恨まれるようなことをしてたのか……?」

提督「俺、あいつの言うこと最初から聞く気なかったから、覚えてねえんだよ……朧、覚えてるか?」

朧「えっと……提督を兄と認めない、みたいなこと言ってた気がします。お父さんに迷惑かけたとか、そういう理由で提督を悪く言ってて」

朧「一家の恥さらしとか……なんか、朧も聞いてて頭に血が上って、途中からよく覚えてなかったですけど」ムスッ
539 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:07:30.93 ID:2Z+U+lOLo

H大将「家柄に誇りを持ってたってことか? それで提督が気に入らん、と……逆恨みに近いな」

朧「はい。あ、あと、提督の代わりに島の統治者になるとか言ってましたよね?」

提督「言ってた気がするな。どうやって深海棲艦を従えるつもりなのか、何考えてんだと思いながら聞いてたけど……」

提督「島にいるメディウムたちも支配するつもりでいたらしいから、力で抑え込むつもりだったのかもなあ」

朧「エフェメラから魔神の力を借りて、その力で提督も殺すつもりでいたんですよね。あっけなく返り討ちに遭ってましたけど」

大淀「聞く限り、エフェメラの力を信じすぎて、自信過剰になっていたのかもしれませんね」

提督「かもな。そうじゃなきゃ、官僚のエリート街道から外れるような真似はしないだろうしな」

H大将「で、その弟だが……怪我をして入院しているんだが、退院とともに退職して田舎に帰るらしい」

提督「んん? なんだ、仕事辞めるのか」

H大将「おそらくだが、父親があっさりと逮捕に応じたこともあって、今の仕事を続けられなくなったと考えたんだろう」

H大将「どのみち、あの場に出てくるなと言われていたのに、それに背いたことで評価を落としているからな」

X大佐「それに加えて、同行した仲間に得体のしれない力……エフェメラの力でしょうね、それで怪我を負わせたそうです」

X大佐「省内で悪評が立ったとも聞いています、職場に居づらくなったのかもしれません」

H大将「残れたとしても、問題児として閑職に追いやられそうだな」

朧「……割と、提督の望んだとおりになった感じですね?」

提督「みたいだな」
540 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:08:17.01 ID:2Z+U+lOLo

朧「あの、H大将さん? 話は変わりますけど、提督のお母さんはどうなったか知っていますか?」

H大将「ん? ああ、一応調べたが、数年前から夫と別居中で、今も独り暮らしを続けているそうだ」

朧「そうですか……提督のお父さんが一族の繁栄を望んだ割には、誰も幸せになってないんですね」

H大将「……確かにな。だが、少し前まではそれなりに幸せだったろう。弟は官僚になってエリート街道を歩いていたし」

H大将「夫である父親は政治家となって、党内からも一目置かれる存在になっていた。金にもそこまで困っていなかったように見える」

H大将「夫婦の別居の理由も、海に近づきたくないから……父親の新事務所が海沿いにできたということなんだが、それを嫌がったそうだ」

H大将「お前たちの言っていた、深海棲艦に襲われた事件が余程堪えているようだな」

大淀「……そこからいきなり、夫が逮捕されて、息子さんが職を失うわけですよね。大丈夫なんでしょうか?」

X大佐「それは何とも言えないけど、仮に何かあっても、僕たちや提督が手出しして、どうにかできることでも、していいことでもないね」

提督「そうだな。俺たちには関係ねえ」

H大将「残念ながら、関係ない、というわけにはいかん。お前の父親のスキャンダルについては、これからも調査が続くだろう」

H大将「お前があの男の息子であることもマスメディアは知ったようだ。何をしてくるかわからんが、くれぐれも手を出さんようにな?」

提督「ちっ……手を出さない自信がねえな」

H大将「いいから言葉だけでも自重しろ。俺は言ったぞ、手を出すなとな」
541 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:09:01.70 ID:2Z+U+lOLo

朧「それ、提督が自重しても、メディウムや深海棲艦のみんなは自重しないと思いますよ」

H大将「わかっている。言うだけ無駄でも、俺の立場からは言っておかねばならん」アタマオサエ

提督「大将殿も大変だな」

H大将「お前が言うな、当事者だろう……!」

提督「そうは言ってもなあ……」

大淀「提督の評価に関わる話では手が出ても仕方ありませんよ? メディウムは特にそうでしょうし、深海棲艦も面白く思わないでしょうね」

H大将「……マスメディアにも注意喚起しなければならんな」

大淀「はい、是非そのようにお願いいたします。島に住む姫級、鬼級の数も増えましたし、私たちでも抑えきれるかどうか……」

H大将「増えたのか? 姫級が」

提督「おう。戦艦水鬼改に、軽巡新棲姫、防空巡棲姫、南太平洋空母棲姫、南方戦艦新棲姫……あと、深海海月姫と、欧州水姫か」ユビオリカゾエ

H大将「待て待て、どうしてそんなに一度に姫級鬼級が増えるんだ。洒落にならんぞ」

X大佐「それで、深海棲艦の名前を調べられる資料が欲しいって話だったのか……いったいどこから連れてきたんだい?」

大淀「今回増えた姫級や鬼級は、海軍でル級やタ級と呼ばれている深海棲艦が強化、進化したものなんです」

X大佐「また初めての事象が……」
542 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:09:47.82 ID:2Z+U+lOLo

H大将「まったく、話題に事欠かんな。お前たちと暮らしていた深海棲艦が強くなったのは今回が初めてか?」

朧「かつて提督が大佐に殺されかけた時、友好的な戦艦ル級さんが怒って、赤いオーラや黄色いオーラを纏うようになることがありました」

X大佐「Elite級やFlagship級になったってことかい……!?」

朧「そうです。今回は、曽大佐の艦娘との戦闘で提督が狙われたときですね。ル級さんたち深海棲艦が鬼級や姫級になったんです」

H大将「なんだそれは。提督がピンチになると、深海棲艦がパワーアップするとでも言いたいのか」

提督「それだけじゃねえな。欧州水姫は仲間のタ級がダメージ食らったときに怒って変身した、って言ってたよな?」

朧「あ、そうです、そういえばそうでした」

H大将「仲間を傷つけられると、深海棲艦がパワーアップする、と言う法則でもあるのか……?」

X大佐「いえ、これまでも大型の深海棲艦が、大打撃を与えてから強化されるケースは散見されていましたよ」

X大佐「さすがに、ル級やタ級が姫級鬼級になる現象は初めて聞く話ではありますが」

H大将「……お前、何かしたのか? なにかきっかけはないのか」

提督「おそらくなんだが……うちにいる連中の場合は、ある程度文化的な生活に触れたから、こうなったんじゃねえかと思ってるんだ」

H大将「……なんだそれは」

提督「深海棲艦てのは、地域によって差はあるが、それこそその辺の魚みたいな、だいぶ本能に寄った生活をしてるみたいなんだ」

提督「会話じゃなく信号を送って意思疎通し、海の中で魚と同じように寝て……さすがに衣服はどうだか知らねえけど」
543 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:10:32.00 ID:2Z+U+lOLo

提督「それが、俺たちの鎮守府に入ってもらったとき、俺たち人間の住処に近い鎮守府で暮らすようになってる。そこが変化点だと思うんだ」

提督「飯を食って、口で話し合って、布団で寝て。そうして人の気持ちを理解し、人の生活に触れて、人との関わりを思い出し……」

提督「人の心を知った結果、自分のルーツとなる艦の存在を思い出し、その姿に変貌した、と考えられそうなんだよな。俺の私見だけどよ」

X大佐「確かに、こちらに話しかけてくる深海棲艦は、姫級や鬼級といった、まとめ役の深海棲艦ばかり……」

提督「おそらく、人を理解し、思い出したからこそ、声を発するに至ったんじゃねえか?」

提督「特別海域の連中は、その方向性がちっとばかし人間に対する憎悪に偏りまくってる、とかな」

H大将「……」

朧「……なんだか、今の話を持ち帰ってもらったら、交渉役より研究者がいっぱい来そうじゃないですか?」

提督「うげっ……! そいつは勘弁してほしいな」タラリ

H大将「そこは大丈夫だろう。生きた深海棲艦を相手に研究したがる命知らずなんて、いないはずだ……多分」

朧「多分ですか……」タラリ

H大将「とはいえ、深海棲艦がパワーアップすると言う情報は、海軍としてみればあまり喜ばしくない情報だな……」

X大佐「そうは仰いますが、深海棲艦が強くなる理由のひとつが明確になったとすれば、十分有益な情報です」

X大佐「それに、提督とここの深海棲艦たちは話が通じないということではないようですから、必要以上に恐れる必要はないはずです」

X大佐「むしろ、人間の生活習慣を知ってもらっているのなら、人との対話にプラスの影響を及ぼすとも考えていいのではないでしょうか」

H大将「希望的観測ではあるが……提督と友好関係を結べているというのなら、まだ悪い情報とは言い切らなくても良いか」
544 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:11:17.08 ID:2Z+U+lOLo

H大将「お前のことだ、人間と争うな、くらいのことは、その深海棲艦たちにも言い聞かせているのだろう?」

提督「まあな。思ったよりも話が分かる深海棲艦ばかりで助かってるぜ」

H大将「ならいい。島を訪れる海軍の安全の確保についても、話は進んでいると思っていいな?」

提督「ああ、島の中では連絡は行き渡らせた。外海から来た奴にも警戒するよう伝えてるし、居着く気なら俺に会わせるよう通達もしてる」

提督「ただ、島の外にいる深海棲艦からの連絡は、いまんとこ、どこからも反応が来てねえな」

提督「北方棲姫あたりは性格が穏やかっつうか、人懐っこいらしいから、なにかしら返事くらいは来てくれるかと期待してたんだが……」

H大将「……そこはまだ実績がないからかもな。最悪、お前たちも余所の深海勢力からは信用を得られていないのかもしれん」

提督「まあ、そうかもなあ……いきなりそんな話をしても、罠だと思われてもしょうがねえ。舐められてんのかもしれねえし」

X大佐「そういう僕たちも、まだ交渉する人員があまりいないんだけどね」

X大佐「以前、島に上陸した時に、与少将殿と泊地棲姫が和やかに話していたのを見て、すごく希望が持てたんだけど……」

大淀「とりあえず、近日中に改めて政府との話し合いの場を持つことは決定しましたから、まずはそちらに集中したほうがよろしいかと」

提督「そうだな。とりあえず目の前の話し合いを成功させないとな」

X大佐「政府との交渉がうまくいった実績ができれば、静観してる深海勢力も、話し合いに動き出すかもしれないね」

提督「……そうなりゃ、交渉のために建てたあの建物も、いよいよ出番となるわけだな」

大淀「忙しくなりますね」ニコ

朧「朧もサポートします!」

提督「……」

H大将「そこで面倒臭そうな顔をするな」

X大佐「……」ニコニコ

H大将「そしてX大佐はなんで笑っているんだ」

X大佐「面倒臭い、と言うのが彼の本音ですよ。彼が我々に対しては遠慮しないで感情を出してくれているんです。いいことじゃありませんか」

提督「……ほんっとに変な奴だよな、お前」

H大将「お前も人のことは言えんからな?」

545 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/05/20(月) 22:12:01.67 ID:2Z+U+lOLo
ということで、今回はここまで。
546 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:16:48.14 ID:zKOQ1ZX7o
今回、スレ初登場のメディウムはこちら。
タライのメディウム、フウリについては、可能であればWikiにてビジュアルも確認していただきたく。

・シルヴィア・シャークブレード:ダイバースーツ姿のメディウム。鮫の背びれのような刃物が地面を滑走し、人間を切り裂く罠。
  泳ぐことが大好きなお姉さん。神殿の周囲には沼しかないため海に出て泳ぐのが夢だった。スーツは普段着にするには少々窮屈らしい。
・メアリーアン・スノーボール:防寒具に身を包んだメディウム。巨大な雪玉が落ちてきて、触れた人を巻き込み飲み込み転がっていく罠。
  大きな雪玉を抱えたカントリーガール。田舎育ちのためか訛りが強く性格もおおらか。暖かい飲み物が好きで、時々皆に振舞っている。
・フウリ・タライ:裾の短いバスローブを纏った少女のメディウム。空から金だらいが降ってきて、人間の頭に直撃して怒りを誘う罠。
  人前で話すのが苦手な少女。お風呂が大好きで、入っていればご機嫌なのだが、そのせいか服がバスローブしかないのを悩んでいる。
・マルヤッタ・トゥームストーン:墓石を背負い包帯を体に巻き付けた姿のメディウム。頭上から墓石を落として人間を押し潰す罠。
  墓守を名乗る、語尾が特徴的な少女。ミイラのように体に包帯を巻き、なぜかその上に「まるや」と書かれたゼッケンをつけている。

続きです。
547 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:17:32.82 ID:zKOQ1ZX7o

 * 工廠 *

工廠妖精「あのちっちゃくなった大和たちも、無事暮らせるようになったんだって?」

朝潮「はい! そのように報告がありました!」

提督「あの時はありがとな、艤装や服のサイズも調整してくれて、助かった」

工廠妖精「いいよいいよ、大仕事だったけど、みんな可愛かったしね!」

提督「今回の一件もあったことだし、海軍に、うちの工廠の設備をグレードアップできないか、掛け合ってる」

提督「なんせ深海棲艦も使うドックだ、設備は充実してるに越したことはねえ」

工廠妖精「そうしてもらえると嬉しいね。増員は期待できないだろうから、設備面だけでも便利になって欲しいなー」

提督「……確かに、ここに来たい奴なんてそうそういないだろうなあ、艦娘ならなおさらだ」

提督「以前のようにここに流れ着いてきたとしても、それはそれで不幸なことがあった奴だろうし、増えないほうが望ましいんだよな」

工廠妖精「ここへ攻めてきた大和たちも、ある意味では不幸だったってことだよね?」

提督「まあ、そうだな……曽大佐の下に就いた時点でそうなんだろうな。なんか、あっちでやむなく解体処分になる艦娘もいるらしいしよ」

工廠妖精「それはしょうがないよ、余所の鎮守府の事情だもの。提督は提督で、この鎮守府にいるみんなを大事にしてあげないとね」
548 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:18:18.43 ID:zKOQ1ZX7o

工廠妖精「久々に長門たちも戻ってきてるんでしょ? 困ってないか、話を聞いてあげたらいいんじゃない?」

提督「ま、そうだな。まずは目の前のことから解決してかねえとな」

朝潮「? 司令官、何か気になることが……」

 ドドドド…

工廠妖精「ん?」

比叡「司令! 司令!! しいいい、れえええ、えええい!!!」ドドドド…

朝潮「比叡さん!?」

工廠妖精「早速やってきたみたいだね……」

提督「ああ……まあ、比叡は来るだろうなって思ってたんだけどよ」

工廠妖精「なんだって? どういう意味?」

提督「それがなあ……」

 ドドドドキキーーーッ!

比叡「司令!! どうして金剛お姉様がまた島の外に行っちゃうんですかっ!!」プンスカ!

朝潮「ああ、その件ですか……!」
549 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:19:03.22 ID:zKOQ1ZX7o

提督「……それなんだが、金剛が前いた鎮守府で、ガキが無許可であちこち写真撮ったって話、聞いてるだろ?」

比叡「写真? あ、はい、写真を撮られたことは聞いてますけど……」

朝潮「本来、撮影禁止区域である鎮守府内で撮影を行ったために、処分が下った件ですね」

提督「そうそう、それだ。それでそのガキを連れてきた若い司令官が左遷されてな?」

提督「後釜が決まらなくて困ってて、それまで提督代理っつうか、提督見習の補佐を金剛にやって欲しい、って話なんだよ」

比叡「えええ……? それでなんで金剛お姉様が!? その鎮守府、他に人がいっぱいいるはずじゃないんですか!?」

工廠妖精「そうだよ、Q中将の直属の部下とかはどうしたの?」

提督「何でもできる優秀な奴らはあちこちに引き抜かれたらしい。どこも人材難だ、この前も俺が曽大佐を使えなくしたばかりだしな」

提督「もともと提督業は離職率が高えって言われてる。民間から引き抜いた連中も長続きしなかったり、知識不足で運営が覚束なかったり」

提督「だから元自衛官やら今の海軍の人間やらが代行なり補佐なりして、各地の鎮守府をやりくりするため、頻繁に配置換えが起きてる」

提督「いまはそれでも手が足りないんで、執務だけじゃなくいろいろ経験を積んでる艦娘が、補佐のために異動させられたりしてるんだ」

朝潮「礼提督のところに行った五月雨さんも、そのような感じでしょうか?」

提督「あそこは司令官自らスカウトしに来たようなもんだが、まあ近いかな」
550 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:19:47.77 ID:zKOQ1ZX7o

比叡「でも、だからってどうして金剛お姉様が……」

提督「Q中将夫人がまだ鎮守府の食堂に勤めてたから、ってのもある。金剛があっちにいたとき、いろいろ世話になってたんだと」

工廠妖精「Q中将の奥様に?」

提督「ああ。食堂とはいえ5年くらい務めてて、そこそこ鎮守府の事情を知ってるもんだから、海軍から質問攻めされて参ってるんだとよ」

提督「それで、中将夫人と特に親しかったっていう金剛が、夫人をサポートする意味でも出張る羽目になったんだ」

比叡「うー……そういうことなら、しょうがないかあ」ムスッ

提督「金剛には、中将夫人へ鎮守府から離れてもいいんじゃねえかって言ってみたらどうだ、って話もしたんだけどな」

提督「どうやらそれを話す間もなくこの騒ぎだ。この調子じゃあ、いま鎮守府に残ってる艦娘もちょっと頼りねえ面々なんだろう」

比叡「となると、金剛お姉様はまたしばらく帰ってこられなくなるんですか……」ションボリ

提督「ちょうどいい機会だ、金剛がこの島に住むのか、あっちに留まるのか、今回を機に結論出してもらうのもいいかもしれねえな」

比叡「ヒエエエエエ!? こ、金剛お姉様が、出て行ってもいいんですか司令!?」

提督「そこは、俺がどう思うより金剛がどう思ってるかが優先だ。前にも言ったけどよ」

朝潮「司令官、そのお話の際は、比叡さんは不在だったと思います」

提督「ん、そうだったか?」

工廠妖精「金剛のことだから、提督から離れたくないって言いそうだけどねぇ……」ボソッ
551 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:20:32.47 ID:zKOQ1ZX7o

提督「とにかく、比叡が金剛と離れたくないっつうんなら、それは金剛に訴えていいと思う」

提督「それ以外にも、比叡が金剛と一緒に向こうへ行く、っつう選択肢もあるんだぞ?」

比叡「……えええ?」

工廠妖精「それこそ大丈夫なの? ここの厨房を任せてる相手にそんなことを言って」

提督「それこそ比叡の自由にさせてやりたいんだけどな。ぶっちゃけこの島は、資材の面でも物流の面でも人材の面でも不自由極まりねえ」

提督「それどころか、俺たちは今後、人間だけじゃなく艦娘も仮想敵として対応を考える必要がある」

提督「この島に残るかどうか判断してもらうときにも言ったが、古鷹と並んで人一倍優しい金剛が、そのことに耐えられるかが単純に心配なんだよ」

提督「実際に俺たち……というか、メディウムは人間をだいぶ殺してるし、その辺の心境の変化も、そろそろ現れてくるんじゃないかと思ってる」

比叡「司令……」

提督「それに加えて、あの社交性と博愛精神を持つ金剛がここにいるのは、個人的にはちょっともったいないんじゃないかとも感じてる」

提督「あいつには、もう少しいい環境があるんじゃねえか、と、漠然とだが思ってたりするんだ。これは俺の独り善がりだけどな」

工廠妖精「……うーん」

提督「でだ、比叡も外の世界が見たいってんなら、金剛についてくのもありだと思うんだよ」

提督「そうでなくても、比叡が出撃したり、怪我して入渠して厨房に立てないときもあるんだ。比叡に任せっきりは良くねえよ」
552 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:21:17.50 ID:zKOQ1ZX7o

提督「スズカやセレスティアもいるし、なんなら他の艦娘や、深海棲艦から料理できる奴を募ってもいい……つうか、作れた方がいいな」

比叡「うーん、それは確かに……以前は長門さんにも厨房に立ってもらってましたから、それなりに出撃もできてましたねえ」

提督「前は戦艦だと比叡、長門、大和が厨房のローテーション組んでたんだよな?」

提督「長門も余所に移るかもしれない今、もう一人くらい増員できねえか検討するのも当然あっていいと思うんだ。大和の負荷も下げてやりたいし」

工廠妖精「確かにそうなんだよね……長門がいないから、私たちも人手不足なことが起きてて」

比叡「えっ?」

朝潮「あ、それはお裁縫のことですか?」

工廠妖精「そう。長門がミシン使えてたじゃない?」

工廠妖精「私たちも妖精用でミシンはあるんだけど、艦娘が使う小物とかだと、やっぱり長門に手伝ってもらったほうが速いんだ」

提督「ああ……そうか。暁も裁縫を勉強してたが、その暁もX大佐のところに行っちまったしなあ」

工廠妖精「お裁縫のできる艦娘が、みんな外に行っちゃったからね。そうなると、新しい布製品は外から買わなきゃいけなくて」

工廠妖精「みんなの普段着とかおしゃれ着とか、調達してリサイズするにも、いろいろとね〜」

提督「そういや、比叡の割烹着も長門のオーダーメイドだったな」

比叡「はい! サイズぴったりで着心地も良くて……そっか、同じものを作ってもらうのも、できなくなっちゃいますよね」シュン

提督「ほつれたりしたら修繕もできねえとな。俺も正直、裁縫はそんなに得意じゃねえっつうか、苦手な部類だし……」
553 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:22:02.60 ID:zKOQ1ZX7o

提督「メディウムにも仕立て屋はいねえんだよな。針仕事が一番得意なのはヴェロニカだが、得意っつっても刺繍が得意だって話だし」

提督「朝潮も修繕はできるが、服一着作れるほどのスキルはねえだろ?」

朝潮「は、はい、そうですね……申し訳ありません」シュン

提督「いや、謝らなくていいぞ……ん?」

戦艦棲姫「タシカ、コッチデ、良カッタノカシラァ?」キョロキョロ

集積地棲姫「! 提督、ココニイタノカ」

提督「おう、こっちに来るなんて珍しいな。どうした、何かあったか」

戦艦棲姫「入用ナモノガアルカラ、買イ物ガシタクテ。シュホ? ガ、コッチニアル、ッテ聞イタノダケレド」

提督「ああ、そりゃこっちだな。何が必要なんだ?」

戦艦棲姫「水着ッテ、置イテアルカシラ?」

提督「水着?」

集積地棲姫「サングラスモ、アルト嬉シイ」

提督「サングラスはあったよな……けど、水着はあったか?」

工廠妖精「あるにはあるけど、いま置いてあるのは潜水艦用の水着くらいかなあ?」
554 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:22:47.71 ID:zKOQ1ZX7o

工廠妖精「この前、新しい荷物が来てたけど、水着があったかどうかは、私は確認してないや」

工廠妖精「確か、一緒に新しい通販カタログが何冊か届いてたから、そっちを見たほうがいいかもしれないね」

戦艦棲姫「ソウナノ?」

工廠妖精「うん、カタログ探すからちょっと待ってて。えっと、どこに置いたっけ……?」ゴソゴソ…

提督「……さすがに水着やサングラスは俺たちじゃ作れねえな」

工廠妖精「それはそうだね。それはやっぱり市販品をお勧めするよ」

提督「なあ、集積地棲姫? この手の市販品つうか、人間の作ったものって深海棲艦も普通に使えるのか?」

集積地棲姫「モノニヨルナ。造リノイイモノナラ、ソレナリニハ使エルガ、安物ハスグ壊レテ駄目ダ」

提督「やっぱりか……」

工廠妖精「そうなの?」

提督「人間が深海棲艦に触れられると、そこから壊死するみたいな話があったろ?」

集積地棲姫「ソンナコトガアッタノカ?」

提督「ああ。無機物に対してもそうなったりしないか、気になって訊いたんだ」
555 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:23:32.53 ID:zKOQ1ZX7o

集積地棲姫「ソレデ人間ノ作ッタモノハ、壊レヤスカッタノカ」

提督「多分な。俺はそういうことなんじゃないかって思ってる」

戦艦棲姫「フーン……デモ、アナタ、軽巡棲姫トカニ触ラレテナカッタ?」ツンツン

提督「あ、俺は触られても平気だぞ」

集積地棲姫「エ、本当カ」ペタペタサワサワ

朝潮「!?」

戦艦棲姫「……ナントモナイノネ?」ベタベタムニムニ

提督「いや待てどこ触ってんだよお前ら」ポ

集積地棲姫「ダッテ私、人間ヲ触ッタコトナイシ」

戦艦棲姫「私タチト、カラダツキガ違ウカラ……ネェ?」

提督「戦艦棲姫のツレはどうなんだよ。あいつも筋肉質だろ、俺よりでけえし」

戦艦棲姫「アナタトハ、全然、違ウワヨ? 鉄ミタイナ感ジナノ」

朝潮「し、司令官大丈夫ですか!? お怪我はありませんか!?」サワサワペタペタ

提督「大丈夫だよ、つうかお前までどさくさに紛れてどこ触ってんだ」

工廠妖精(朝潮も何気なくむっつりだよね……)
556 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:24:17.35 ID:zKOQ1ZX7o

提督「それより、どんなものでもすぐ壊れたりするのは問題だな。水着がすぐ破けるようじゃ最悪だ」

工廠妖精「あ、そこはわたしたちがいれば大丈夫だと思うよ?」

工廠妖精「わたしたちが特殊な加工をすれば、そういう装備品も簡単には壊れなくなるし、ドックに入ったときに一緒に直せるようになるよ」

提督「そんなことできるのか!?」

工廠妖精「うん。ほら、一部の艦娘って、すごい装飾の入った着物を着てる子もいるでしょ? あれを毎回買い直すとなったら、ねえ?」

提督「あー……着物じゃあ、物によってはウン百万とかになるんだっけか」

工廠妖精「そういうこと……っと。うーん、カタログ、見当たらないなあ。とりあえず酒保に行こうよ、そっちに置いてあるかも」

工廠妖精「で、その中でめぼしいものを見つけたら注文して、買って届いた後で私たちが加工してあげる」

工廠妖精「その場にあるものなら、すぐに加工してあげられるから、いいのがあったら教えてね」

集積地棲姫「ソウシテモラエルト、助カル」

戦艦棲姫「早ク行キマショ?」ルンルン

提督「……あ」

比叡「どうしました、司令?」

提督「なあ妖精、いまの話、メディウムにも適用できるか? できるんだったら、比叡にジュリアを呼んできて欲しいんだが」

工廠妖精「?」

比叡「?」
557 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:25:02.86 ID:zKOQ1ZX7o

 * それからしばらくして *

 * 酒保 *

シルヴィア「魔神さん、話は聞かせてもらったわよー!」

提督「おう、来たか……って、シルヴィア? お前も希望者なのか?」

シルヴィア「まあね。ほら、このダイバースーツっていうの? 私の体にぴったりじゃない?」

シルヴィア「泳ぐ分にはいいんだけれど、普段着として着るにはちょっと窮屈なの。陸にいるとき用のゆったりした服が欲しくって」

提督「なるほど、そういうことならいいんじゃねえか。それよりジュリアたちは……」

ジュリア「魔神様っ! あたくしたちも来ましたわよ!」

メアリーアン「よろすぐお願いすっただあ。ほれ、みんなも早くこっちゃくっただよぉ?」

フウリ「は、はい……よろしく、お願いしまひゅっ」

シエラ「お、お邪魔します……」

提督「思ったより希望者が多いな? ジュリアとフウリだけかと思っていたが」

シエラ「ちょ、ちょっと、私は、事情が違いますけど……」

長門「我々も邪魔するぞ、提督は……ああ、いたな、変わりはないか?」

提督「おう、お前たちも来たのか」
558 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:25:47.50 ID:zKOQ1ZX7o

三隈「お久し振りですわ、提督」

最上「やっほー、元気ー?」

潮「お邪魔、します……!」

提督「久し振りだな。良かったなフウリ、お前、潮と仲良かったろ」

フウリ「は、はいぃ! もう、会えて嬉しいです……!」

長門「提督も大変だったそうだな? ル級が戦艦水鬼になっていて驚いたぞ」

提督「まあな。お前たちも元気そうでなによりだ」

三隈「提督、早速ですが、こちらをどうぞ」

提督「ん? そいつは……」

三隈「以前、他の鎮守府からいろいろな雑誌をいただいていたことを思い出しまして。ファッション誌を持ってきたんです」

最上「W大佐の鎮守府で鈴谷達が買ってた本と同じのを、おみやげ代わりに買ってきたんだ!」

提督「マジか。すっげー助かる、まさしく渡りに船だ」

長門「そんなに丁度良いタイミングだったのか?」

提督「以前ジュリアが、今の衣装に不満がある、って言ってたことを思い出してな。衣装を変えたいメディウムに集まってもらったんだ」

ジュリア「そうなんですの。ほら、このあたくしの衣装、結構露出が激しいと思いませんこと?」
559 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:26:32.48 ID:zKOQ1ZX7o

ジュリア「個人的には、もう少し肌の露出を控えたほうが好みなんですけれど、この衣装を勝手に変えることもできなくて……」

長門「着替えもできないのか」

ジュリア「そうなんですの。例えばあたくしたちが傷ついて、治療のために魔力槽に入ると、衣服も一緒に復元するんですけれど」

ジュリア「この衣装をアレンジしようとしたりしても、結局直すときには元通りになってしまいまして」

提督「理屈はわからないが、艦娘の衣装と艤装と同じようなつくりになってるらしいんだ」

長門「なるほど。では、もとの衣装を着たり脱いだりする分には、問題ないんだな?」

ジュリア「ええ、脱ぐ分には何ら差し支えなく。仕方なくルミナに相談したところ、そもそもあたくしたちのこの姿は……」

ジュリア「あたくしたちの原型である罠そのものが、最高の力を発揮できる姿を顕現したものだと推測できる、と言うことらしいんですの」

ジュリア「確かに、あたくしが人間どもを張り倒して勝ち誇る分には、このくらい豪奢な姿であることが望ましいのでしょうけれど?」フフン!

朝潮「ジュリアさんのその姿にも、ちゃんと由来や理由があって、その姿になっている、ということですね」

提督「……ジュリアの場合はアレか。だいぶ前に流行った、ボディコンスーツに羽根つき扇子を持って踊ってたやつか」

最上「ボディコン……?」

三隈「長門さん、わかります?」

長門「いや、そのあたりの話は、私はよく知らないぞ」
560 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:27:17.52 ID:zKOQ1ZX7o

提督「好景気だったころ……日本のバブル期の娯楽のシンボルみたいなもんさ。俺もよく知らないから、わからなくていい」

ジュリア「聞くに享楽の象徴でしょう? できればタチアナのように、もう少しお堅い職が由来の衣装になって欲しかったのですけれど」

提督「しかし、それ以外だとハリセン振り回すのなんてお笑い芸人くらいだぞ。真面目なお前の性格からして、それもちょっとなあ?」

ジュリア「ええ、そもそも人間の男どもの耳目を集める趣味はございませんので、できればそれも御免被りたいですわねぇ」

提督「どっちかっつったらリンダがそうだよな……つっても、あいつはボケるばかりでハリセンでツッコミ入れられる側だが」

提督「とにかくだ。魔神は、魔神の知識の範囲でハリセンを振り回すのに最適な姿として、今のお前の姿を創造したわけだな?」

ジュリア「あなたがその魔神様でしてよ?」ズビシッ!

ジュリア「いま初めて聞いたばかりだ、と言わんばかりのその態度は、いささか白々しくありませんこと?」

提督「悪いがその辺は記憶にねえぞ。魔神の記憶から思い出そうとしても……あ」

最上「なにか思い出したの?」

提督「雰囲気で、って単語が出てきた」

ジュリア「いい加減ですわね!?」

三隈「……ジュリアさんのツッコミの鋭さなら、芸人さんでも良さそうですけど……」

ジュリア「謹んでご辞退申し上げておりましてよ!?」
561 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:28:02.68 ID:zKOQ1ZX7o

長門「とにかく、今の姿が不満だから、提督に直談判したわけだな?」

ジュリア「そういうことですわ。魔神様も覚醒しつつありますし、叶うのならばと申し立てしましたの」

ジュリア「魔神様があたくしたちをご創造なさったのですから、当然、衣装のリメイクも魔神様のお役目だと思いませんこと?」

提督「へいへい……けど、俺に服飾のセンスはねえからな。できればここにある既存の服でいいものはねえかな、と思ったんだ」

ジュリア「そうは仰いますけど、これは人間用の衣装でしょう? 私たちが着ても大丈夫なんですの?」

提督「妖精が、艦娘や深海棲艦が着ても大丈夫なように加工できる技術を持ってるんだと」

提督「メディウムにも応用できるんじゃねえかと思って、まずは今の衣装に悩んでるやつを優先して対応しよう、って考えたんだ」

シエラ「うーん、あくまで衣装の話デスか……いや、それでもいいかもしれないデス」ボソボソ

工廠妖精「提督ー、こっちのカタログあったよー。一緒に服飾の雑誌もあったから、ここに置いておくね」

提督「お、ありがとな。とりあえず、こいつと三隈が持ってきた本を見て、良さそうな服を探してみてくれ」

シルヴィア「そうね、それじゃ早速見せてくれる?」

ジュリア「シルヴィア? その前に、その腕についてる物騒な刃物、外してくださる? 本が引き裂かれてしまいますわ」
562 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:28:47.51 ID:zKOQ1ZX7o

 * *

メアリーアン「いろんな服が載ってあんだなあ」

シルヴィア「水着もあるのねー」

工廠妖精「あ、そうだ、水着なら新しいのがこっちに数着届いてたよ。見てみる?」

シルヴィア「実物あるの? ちょっと見せて!」タタッ

ジュリア「……意外と、地味ですわね」ペラリ

フウリ「わあ……これ可愛い……!」キラキラキラッ

提督「しかし、メアリーアンも別の服が欲しいと言うとは思ってなかったな」

メアリーアン「おらは、もうちょい軽めの普段着が欲しいんだあ。雪玉いじる分には、これでええんだげんど」

最上「この夏の陽気の島では、その防寒具はさすがに暑そうだね」

メアリーアン「おらぁ、この服でも暑さには慣れてるげんど、『かずあるなこーと』も憧れんだよなあ」ポヤッ

三隈「カジュアルなコートって仰ってるのかしら……あ、こっちのはいかが?」

メアリーアン「ほーお! これもええごんだなあ!」

フウリ「あ、あの、潮ちゃん、これ、可愛いと思わない?」

潮「えっ? 本当だ、可愛い……!」
563 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:29:32.86 ID:zKOQ1ZX7o

提督「シエラは見ないのか?」

シエラ「私は……どっちかというと、衣服じゃなくて、性格をもう少し変えて欲しいのデス」

シエラ「魔神様が、私たちの服を作り変えられるのなら、私の性格も、もう少し明るくしてもらいたいと思ってるデス……」

提督「性格を?」

シエラ「ルミナといろいろ相談したデスが……ジュリアも言ってた通り、私たちメディウムを生み出したのが魔神様デス」

シエラ「それなら、私たちの姿かたちや気質を変えることも、できるのではないかと……艦娘たちを幼子に変えた時のように、デス」

提督「ああ……あんな感じで性格も操作しろと?」

シエラ「可能であれば、デスが……」

提督「だったらやめといたほうがいいな。あれはあくまであいつらの攻撃的な部分を手当たり次第取り払っただけなんだ」

提督「どこをどう切り取ったら性格が変わるか、俺自身しっかり理解したうえでやったわけじゃねえんだよ」

シエラ「……ということは、魔神様も手探り状態、デスか」タラリ

提督「そうだな。もう少し練習っつうか、確認しながら施術しねえと不安だから、俺としてはやりたくないってのが本音だ」

提督「実験台が都合よく現れてくれりゃいいんだが、そうもいかねえだろうし」

提督「なにより、お前の大事な記憶を間違って消すわけにはいかねえからな」

シエラ「あう……残念、デス……」
564 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:30:17.91 ID:zKOQ1ZX7o

フウリ「あ、あの、ご、ご主人様っ! わ、わたし、これ、着てみたいですっ!!」ズズズイッ!

提督「うお、なんだ? お前がそこまでアピールするなんて珍しいな」

フウリ「ご主人様の力で、この服に変えられませんか!? 毛がふわふわなんです! すっごく可愛いんですよこのバスローブ!」

提督「お前なんでバスローブ選んでんだよ!? 外出用の服欲しかったんじゃねえのか。しかもこれ、子供用だぞ」

ジュリア「それは良いのではありませんこと? 魔神様がリサイズしてくださればいいだけのことですわ」

フウリ「ご主人様、お願いしますっ!!」

提督「……わかった、わかったよ。うまくできるかどうかわかんねえけど……」

フウリ「はいっ!」

提督「よし……」スッ

潮「提督がフウリちゃんの頭に手をのせて……どうするんですか?」

ジュリア「ルミナに聞いたのですけれど、魔神様はあたくしたちメディウムの形を変えられるかもしれない、と言うんですの」

ジュリア「魔神様はあたくしたちメディウムの創造主。直にメディウムに触れ、念じることで姿が変わる……らしい、ということですわ」

長門「ん? らしい、なのか?」

ジュリア「これまで誰も試したことがありませんから」

長門「……」
565 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:31:02.62 ID:zKOQ1ZX7o

潮「だ、大丈夫なんでしょうか……」

 ズズズズ…

 (フウリの衣装が変わって、雑誌の衣装の見た目になる)

フウリ「……ふ、ふわあああ!?」

提督「ふう、どうだ?」

フウリ「わあ、可愛い……すごいです、ご主人様! あ、でも、なんか、すーすーしますよ……?」

最上「ねえ提督、作った衣装が前半分しかできてないよ? 背中とおしりが丸出しなんだけど」

フウリ「キャアアアアアアアアアアア!?!?!?」カオマッカ

三隈「くまりんこー!?」キャーー!?

最上「あはは、三隈のその悲鳴も久し振りだね」

三隈「最上さんはマイペースが相変わらず過ぎますわ!?」

提督「そういやこれ、後ろからのデザインが載ってねえな。想像できなくて作り切れてなかったか……」

メアリーアン「ひゃあ、大胆だでざいんだべなあ」

長門「絶対デザインじゃないぞ、あれは」タラリ
566 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:31:48.06 ID:zKOQ1ZX7o

フウリ「ご、ごごごごご主人様ああああ!?」

提督「悪い。悪かった。とにかくもとに戻すからちょっと来てくれ」

 ズズズズ…

フウリ「……ご主人様のいじわる……」ナミダメ

提督「いや、本当に悪かった。誓ってお前に恥ずかしい思いをさせたいわけじゃねえから、あんまり睨んでくれるな」

最上「提督、こっちの本を見てよ! これなら後ろのデザインも載せてあるし、作れるんじゃない?」

提督「ん? そ、そうか? フウリ、もう一回トライしてもいいか?」

フウリ「こ、今度は大丈夫ですよね……?」プクー

提督「ああ、ちゃんと後ろも作る」

フウリ「……そ、それじゃあ……」

提督「よし、やるぞ……!」

 ズズズズ…

フウリ「……!」

最上「今度は成功したみたいだね!」

潮「良かったぁ……!」
567 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:32:47.27 ID:zKOQ1ZX7o

フウリ「わぁ……! これ、素敵……! いつもと違う、ひらひらした服もいいですね……なんだかウキウキします……!」クルクル ピョンピョン

提督「ふう、うまくいったか。機嫌が直ったようでなによりだ」

フウリ「……」クルクル…

潮「? フウリちゃん、どうしたの?」

フウリ「こ、この服、結構、汗ばむ……!」ヌギッ

三隈「くまりんこーーー!」キャーーーー!

潮「フウリちゃん!? ここで脱いじゃ駄目だよ!?」オロオロ

フウリ「汗かいちゃった……お風呂入りたい……」

提督「この服、布地は薄いがひらひらが多くて布が重なりまくってるデザインだな。こりゃ汗っかきにはつらいか……フウリ、元に戻すぞ」

フウリ「ふあい……」フラフラ

 ズズズズ…

フウリ「……やっぱり、元に戻ってきちゃうんですねえ……」ションボリ

提督「可愛くても肌に合わねえんじゃなあ。服選びもなかなか難しいもんだな……」ナデナデ
568 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:33:47.56 ID:zKOQ1ZX7o

長門「それなら、そうだな……提督。試しに、潮の制服をイメージしてもらえるか?」

提督「ん? 潮のか? ……やってみるか」

フウリ「ふえっ!?」

 ズズズズ…

フウリ(八駆制服)「わ、わわわ……!」

潮「わぁ……!」

長門「ふむ、いいんじゃないか?」

朝潮「思ったよりも違和感ありませんね……!」

シエラ「フウリが艦娘になったデス……!」

潮「お揃いだね、フウリちゃん!」

フウリ「お、おそっ、おそ……はわわわ……!」カオマッカ

 フラッ

提督「危ねえ!?」ガシッ

フウリ「きゅう……」
569 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:34:32.95 ID:zKOQ1ZX7o

潮「ふ、フウリちゃん!? 大丈夫!?」

提督「……なんでぶっ倒れてんだよ、フウリは」ダキカカエ

シエラ「えっと、あの、単純に、恥ずかしかったからじゃ、ないかと、思うデス」

提督「恥ずかしい?」

シエラ「いや、その、恥ずかしいというか、照れた、と、いうか……お揃いが、嬉しかったと思うのデスが」

最上「感激しすぎちゃった、って感じかな?」

提督「それでなんで倒れるんだよ。やっぱり元に戻してやるしかねえか」

 ズズズズ…

フウリ(元の服)「はう〜……」オメメグルグル

提督「こうなると、フウリが外で着ていける服なんてあんのか?」

三隈「露出を抑えて、かつ汗っかきが着ても問題ない服、ってことですよね……難しいですね」

シエラ「ある意味、今の姿が最適化されてる、ってことになるのデスか……」

提督「仕方ねえ、衣装を新しくするんじゃなくて、さっと羽織れるようなサマーコートでも見繕った方がいいな」
570 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:35:17.75 ID:zKOQ1ZX7o

ジュリア「……」ムー…

提督「ジュリアはジュリアで、自分の好みの服が見つからなさそうだし」

ジュリア「……残念ですわ。なかなか理想通りというか、これ! と言う絶妙な一品がありませんわね……」

メアリーアン「焦んねぐでいいべ。たくさんあっぺす、おらはもう少しゆっくり見さしてもらうだあ」

シルヴィア「ねえねえ魔神さん! こっちの水着、どうかしら?」バッ

提督「ん? 悪くはねえと思うが、水着? お前が探してたのは陸の上で着る服じゃなかったか?」

シルヴィア「あ、そういえば。ついつい泳ぐときに着る服を優先して考えちゃったわ……いっけない」テヘッ

提督「別に気に入ったんなら買っててもいいけどよ。サイズは大丈夫なのか?」

シルヴィア「そうそう! サイズを調整して欲しくて、さっきの妖精さんを探してたんだけど、先客がいるらしくてね」

提督「先客?」

工廠妖精「ふう、やっと終わったぁ」

 更衣室のカーテン<シャッ!

戦艦棲姫「コノ水着、ナカナカイイ感ジネ」(←黒い極小マイクロビキニ装備)

三隈「くまりんこーーーーーー!!!」キャーーー!

提督「なんだあの布面積は。ほぼ裸じゃねえのかよ」ドンビキ
571 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:36:02.59 ID:zKOQ1ZX7o

集積地棲姫「ダ……大胆スギナイカ?」タラリ

戦艦棲姫「ソンナコト、ナイト思ウケド」クルリ

シエラ「あ、あわわわ……お、おしりもほぼ丸見えデス……!」マッカ

長門「というか、後ろ姿は完全に裸だな……」ドンビキ

朝潮「そういえば、水着が欲しいということで、先ほどこちらに案内したばかりでしたね……」

最上「へーえ、提督、いつのまに戦艦棲姫とも仲良くなったの?」

提督「まあ、いろいろあってな」

潮「も、最上さんは、順応力が高すぎです……!」セキメン

戦艦棲姫「アラ、提督。丁度良ク、イイ水着ガアッタカラ、コレ、イタダイテイクワネ」

提督「おう、お気に召したんならいいけどよ……おい妖精、あんな水着、在庫にあったのかよ」

工廠妖精「あったんだよね、なぜか。わたしも、それでいいの? って訊いたんだけど、彼女がいいって言うから……」

戦艦棲姫「集積地モ、ソンナ囚人服ミタイナノジャナクテ、コッチノビキニヲ着レバイイノニ」ピトッ

集積地棲姫「ワ、私ハ、コレデイインダ……コッチノ、控エ目ナヤツデ……!」

戦艦棲姫「コッチニシマショ? ネェ?」グイグイ

集積地棲姫「ソ、ソンナ紐ミタイナノハ、チョット……!」
572 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:36:48.21 ID:zKOQ1ZX7o

シルヴィア「ねえ、思ったんだけど、あんまり布地が小さいと、日焼けしちゃわない?」

戦艦棲姫「アラ、ソウ? ソレジャ、ドウシヨウカシラ……」

ジュリア「やはり本人の希望に合わせるのがいいと思いますわ。最悪、恥ずかしがって海に出てこなくなっては、本末転倒ですわよ?」

戦艦棲姫「……集積地ニ、似合ウト思ッタンダケド」シュン…

集積地棲姫「エ……ソ、ソレナラ、コレジャナクテ、コッチノホウガ……」

戦艦棲姫「着テクレルノ!?」キラッ!

集積地棲姫「!? エ、マ、マア……ソウダナ」ビクッ

長門「ちょろすぎないか集積地棲姫」

提督「簡単に絆されてるな。おまけに押しに弱すぎる」

ジュリア「あら、いい趣味なさってますわ。そのくらい攻めるなら……こちらはいかが?」ハイレグー

シルヴィア「こっちもセクシーでいい感じじゃない?」Tバックー

戦艦棲姫「ソレモイイワネ……!」キラキラッ!
573 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:37:32.67 ID:zKOQ1ZX7o

集積地棲姫「……誰カ、助ケテクレ」

最上「大丈夫大丈夫。ちょっとくらい大胆でも問題ないよ。今は水着の上にTシャツ着たりして、肌を隠すみたいだからね」

戦艦棲姫「ソレジャ、モウ少シ大胆デモ……」

集積地棲姫「ソレ以上ハ勘弁シテクレ!」ガシッ

長門「最上は事態を悪化させるんじゃない」

最上「えー? そんなつもりはなかったんだけど」

フウリ「う、うーん……」ムクリ

潮「あ、フウリちゃん気が付いた?」

フウリ「う、潮ちゃ……へあっ!? な、なんかすごい恰好の人が……!?」

集積地棲姫「ソレヨリ、オ前、本気ソノ恰好デ海ニ出ルノカ!?」

戦艦棲姫「ソウヨ? アナタモモット開放的ニナレバイイノニ」ズズイ

フウリ「へ、へあああ……お、おふろじゃないのに、おしりがまるみえ……きゅうぅ……」クラクラッ

潮「フウリちゃーーん!?」ガシッ

朝潮「あの、司令官? 戦艦棲姫を見る限り、下着を履かないほうが健康的という説はやはり事実なのでは……?」

提督「そんなわけねえっつうの……お前、まだ利根の怪しい民間療法を信じてんのかよ」アタマカカエ

三隈「くまりんこくまりんこ……」アタマカカエ

シエラ「あ、あの……ま、魔神様も、くまりんこさんも、大丈夫なのデスか……」オロオロ

メアリーアン「みんな、なして脱ぎたがるんだべなあ?」
574 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:38:29.62 ID:zKOQ1ZX7o

 * その後のおまけ *

朝潮「司令官、提案なのですが」キョシュ!

提督「ん?」

朝潮「フウリさんは、いっそ水着を着たほうが良いのではないでしょうか?」

フウリ「ほえっ!?」

朝潮「湯あみが好きということですから、いつでも水に入れる衣装を、と考えたのですが、いかがでしょう」

提督「あー……それもありか。日本以外だと水着着て温泉入るらしいしな」

朝潮「確か、潮さんも水着を持っていたはずでは?」

潮「あ、そういえば……!」

フウリ「い、いえ、あの、さすがに普段から水着でいるのもちょっと……」

提督「遠慮したいか? それならそれでいいが。はっちゃんみたいに潜水艦娘でもなけりゃ、日頃から水着はちょっと不自然かもな」

朝潮「……シルヴィアさんも水着に近いのでは?」ウーン

提督「シルヴィアはそんなに肌出してるわけじゃねえぞ?」

朝潮「なるほど、そうですか……良いアイデアかと思ったのですが、仕方ありません」ムムム…

フウリ(……マルヤッタちゃんがそれに近い恰好してるけど、誰も気付きませんように……)プルプル
575 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/01(土) 00:41:23.27 ID:zKOQ1ZX7o
今回はここまで。
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/06/01(土) 13:03:07.27 ID:CiBknWQr0
おつやで
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/06/01(土) 20:01:59.27 ID:VeSaVRJ20
まってた
578 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:43:31.53 ID:+ekmNVAbo
>576-577
すみません、お待たせしております。

短いですが続きです。
579 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:44:18.38 ID:+ekmNVAbo

 * 鎮守府内連絡通路 *

朝潮「迷子ですか?」

由良「そう。そういうわけで、その深海棲艦を保護したんだけど」

提督「迷い込んできた深海棲艦……なあ」

朝潮「もしかして、外海の深海勢力からの使者でしょうか?」

由良「そういうわけでもないみたい。ただ、こちらに害意はないから、食堂の外のウッドデッキに案内して、休んでもらってるんだけど」

由良「提督さん、とりあえず会ってもらえないかしら。拍子抜けするくらい友好的だから」

提督「……まあ、そういうことなら話は早そうだな」


 * 食堂外 テラス席 *

軽巡棲鬼「コレ、オイシーー!」モグモグ

マーガレット「それは良かったです! いっぱいありますから、たくさん召し上がってくださいね!」

提督「……あいつか?」

由良「はい、この前海軍からいただいた資料によれば、あの個体は軽巡棲鬼と呼ばれている深海棲艦ですね」

由良「ただ、髪型がちょっと違ってて……資料の写真には髪をまとめてお団子にしてるんですが、あの軽巡棲鬼にはそれがないんです」
580 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:45:16.14 ID:+ekmNVAbo

提督「ふーん……なんつうか、深海棲艦らしくねえ深海棲艦だな?」

朝潮「朝潮も同感です。あんなににこにこ笑ってる深海棲艦は珍しいと思います」

提督「……まあいいや。ちょっと邪魔するぞ」

朝潮「失礼いたします!」

マーガレット「あっ、マスター!」

軽巡棲鬼「ワァ!? 艦娘ト……人間ノ提督サン!? 深海棲艦ガイルノニ!? ココッテ、ドウイウトコロナノ!?」

提督「俺は提督。こっちは今日の秘書艦の朝潮だ」

朝潮「駆逐艦、朝潮です!」ビシッ

提督「この島にはちょっと特殊な事情があって、深海棲艦と艦娘の両方が暮らしてる。俺はそのまとめ役みたいなもんだ」

マーガレット「私たちメディウムのマスターで、魔神様ですよ!」エッヘン

提督「ややこしくなるから、そっちの話はあとでな。で、お前は一体何者だ? とりあえず名前は?」

軽巡棲鬼「私、最新鋭深海棲艦ノ、阿賀野デース!」

提督「阿賀野? 軽巡級にそんな名前の艦娘がいたな……?」

朝潮「しかも、最新鋭深海棲艦、と言いましたね」
581 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:46:00.87 ID:+ekmNVAbo

提督「とりあえず、阿賀野……でいいのか? お前が何でこの島に来たのかを知りたいんだが、話せるか?」

軽巡棲鬼「ハーイ、エーットネェ……アレ? 阿賀野?」

提督「うん?」

軽巡棲鬼「……イマ、私、自分ノコトヲ、阿賀野ッテ言ッタノヨネ?」

提督「ああ、言ったな」

軽巡棲鬼「エエエ!? アレ? ドコカラ出テキタンダロ……」オロオロ

提督「……大丈夫か?」

朝潮「自分で言ったことに混乱しているんですか?」

軽巡棲鬼「チョ、チョット待ッテ……エット、ウン、ダンダン、ナントナク、ワカッテキタ……ドコカラ話シタライイノカナ」

提督「覚えてるところからでいいぞ。順番は後で整理すりゃいい。話せるだけ話してみてくれ」

軽巡棲鬼「ウン……私、今ハ深海棲艦ナンダケド、艦娘ダッタコロノコト、少シ覚エテテ」

提督「は? 艦娘だったって!?」

軽巡棲鬼「ソウナノ! 確カ……私、事故カナニカデ両足ガ動カナクナッチャッテ、スッゴイ落チ込ンデタノ!」
582 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:46:46.00 ID:+ekmNVAbo

提督「事故? どんな事故だ?」

軽巡棲鬼「ソコマデハ覚エテナインダケド。デモ、杖? ヲ、ツイテタコトハ覚エテテ」

軽巡棲鬼「背中モ痛クテ、歩ケルカドウカモワカラナイ、ッテ言ワレテタヨウナ、気ガスル」

軽巡棲鬼「ソレガスゴク悲シクテ、夜、海ノ近クデ泣イテタコトハ覚エテルノ」

提督「……そのあとは?」

軽巡棲鬼「ソノアトガヨク覚エテナクッテ……気付イタラ海中ニイテ、苦シクテ、意識ガ真ッ暗ニナッテ……」

軽巡棲鬼「イツノ間ニカ、コウナッテタ気ガスルノヨネー」

提督「お前が覚えているのは、そのあたりの記憶と、名前だけか?」

軽巡棲鬼「ソウネエ? ホカニ覚エテルコト……ウーン、スグニハ出テコナイカナア?」

提督「そうか。まあ、無理に思い出さなくていいぞ。忘れたってことは思い出したくない過去なのかもしれねえし」

軽巡棲鬼「ソウ? ソレジャ、マタ、ケーキ食ベテイイ?」

提督「……いいけどよ……切り替え速すぎんだろ」

由良「なんだか、いつもの質問、聞かなくても良さそうですね?」

提督「そうだなっつうか、すでに一回死んでるようなもんだしな……ん? お前、脚がないのか?」
583 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:47:31.04 ID:+ekmNVAbo

軽巡棲鬼「ア、コレ? 心配シナクテモ大丈夫ヨ? コレ、モトカラダシ、私、浮イテ移動デキルカラ」

提督「どうなってんだそれ……」

軽巡棲鬼「ン−トネ、ヨイショ、ット……コウナッテルノ。見エル?」グイ

提督「……脚の切り口っつうか、断面がなんかの噴射口みたいだな? ここから何か噴き出して浮いてるってか」

軽巡棲鬼「ソウナノ。タダ、ソノセイカ、移動スルダケデ、スッゴイエネルギー使ッチャウミタイデ、疲レルノヨネ〜」

提督「それ、艦娘のときに脚を怪我してたことが由来してんのか……?」

由良「いえ、軽巡棲鬼はもともとこういう見た目ですね。フロート船みたいに海の上を浮いて滑走してるようです」

提督「もとからなのか」

軽巡棲鬼「タブン、ソウヨ〜。私、自分ノ姿ガオカシイトカ思ワナカッタモン」

提督「なるほど……昔のことはとりあえずそこまででいいか。じゃあ今は今で、どうやってこの島に来たんだ?」

軽巡棲鬼「……ウーント、海ノ中デ気ガ付イテ、フラフラ〜ット海面ニ顔ヲ出シテ。デモ、誰モイナクテ……オカシイナ、ッテ思ッテテ」

軽巡棲鬼「キット私、イツモ誰カト一緒ニイタノヨ。艦娘ダッタ頃ニ、一緒ニイタ人ガ、イッパイイタハズナノ!」

由良「ってことは、どこかの鎮守府に所属していた、ってことですよね?」

提督「そうっぽいな。で、それからどうしたんだ?」

軽巡棲鬼「ソノアトハ、ヒトリナンダ〜ッテ思イナガラ、コレカラドウシヨウ、ッテ。ボンヤリシテタラ、オ腹ガ鳴ッチャッテ……」ポ
584 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:48:15.88 ID:+ekmNVAbo

軽巡棲鬼「行ク宛テモナイシ、仰向ケニ水面ニ浮イテ、波間ヲ漂ッテタノ。オ空ガ綺麗ネ〜トカ、オ腹スイタナ〜トカ思イナガラネ」

軽巡棲鬼「デ、プカプカ浮イテタラ、イツノ間ニカ、コノ島ニ流レ着イテテ。ソコデ出会ッタ潜水艦ノミンナニ見ツケテモラッテ……」

提督「潜水艦?」

軽巡棲鬼「ソウソウ。イキナリ魚雷ヲ構エラレチャッテ、ビックリシタケド、待ッテ待ッテーッテ叫ンダラ、ワカッテクレテ!」

軽巡棲鬼「モー、同ジ深海棲艦ダカラ撃タレナイト思ッテタノニ、ソンナコトナインダモン。ドウナルコトカト思ッタワヨ〜」

提督「お前、どこかの深海勢力に所属してるとかはないのか」

軽巡棲鬼「所属? ソウイウノ、深海ニモアルノ?」

提督「ああ。ここだと泊地棲姫が深海棲艦のまとめ役だな」

軽巡棲鬼「フーン、ソウナンダ? 挨拶トカ、シテキタ方ガイイ?」

提督「そうだな。この島の立ち位置が他の拠点とだいぶ違うから、面通しはあったほうがいいな。つうか、さっきいたはずだが」

由良「あれ? 泊地棲姫ってさっき厨房に……」

泊地棲姫(可愛いエプロン装備)「コーヒーヲ持ッテキテヤッタゾ」

軽巡棲鬼「キャーー、アリガトーーー!」

由良(ほぼ裸みたいな姿にフリフリヒラヒラのエプロン姿……この前までエプロンなかったのに)タラリ
585 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:49:01.18 ID:+ekmNVAbo

朝潮「……どうして厨房から泊地棲姫さんが?」

提督「好きなことやっていいぞ、って言ったらこうなってな……そういや朝潮はコーヒー飲めないんだっけか」

朝潮「はい、そもそも間食を控えていたため、こちらに来る機会を逸しておりました!」

提督「そこまでガチガチに真面目にならなくていいんだぞ?」

朝潮「司令官がお食事以外はお水しか口にしておられませんでしたので、それに倣っていました!」

提督「……俺もたまにこっちに来るか」

泊地棲姫「アア、来ルトイイ。歓迎スルゾ?」ククッ

マーガレット「泊地棲姫さんは、今やこのカフェのマスターですよ!」

軽巡棲鬼「エ、一番偉イ人ガ、カフェノマスター、ヤッテルノ? スゴーイ、格好イイ!」キャー!

泊地棲姫「コーヒー専門ダガナ」フフン

マーガレット「お茶菓子は、私や間宮さんが担当です!」エヘン!

提督「なんでかんで間宮も馴染んだみたいだな」

朝潮「ちゃんと役割分担ができてて、朝潮も感心しました!」
586 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:49:45.98 ID:+ekmNVAbo

提督「それにしても、艦娘のときの記憶を持った深海棲艦なんて、初邂逅だな。丁度いい、泊地棲姫も話を聞いてくれ」

泊地棲姫「ナンダ?」

提督「さっきお前がコーヒーを出した深海棲艦……」

泊地棲姫「軽巡棲鬼ネ?」

提督「ああ。どうやら、元艦娘だってのは間違いなさそうだ」

提督「怪我してたとか、他の誰かと一緒にいた、って話してたから、もともと人間社会にいたことは違いない」

提督「その後、何があったかはわからないが、おそらくあいつは何らかの形で轟沈してると思っていいだろう」

朝潮「司令官? これまでは艦娘が轟沈して砂浜に打ち上げられても、みんな艦娘のままだったと思うのですが……」

提督「そこはおそらくなんだが、そいつらは轟沈してからそんなに時間をおかずに浜に打ち上げられたんじゃないか、と思うんだ」

提督「由良にしても朝潮にしても、一度は沈んだとはいえ、そこまで長時間海底に沈んでたわけじゃねえだろ?」

由良「うーん、わからないけど……そういうことになるのかな」

提督「それ以外にも、川提督んとこの蒼龍に言われたんだよ」

提督「轟沈した艦娘が深海棲艦になるというのなら、どうして埋葬した艦娘たちは深海棲艦にならなかったのか、って」

提督「ある程度、時間が経たないと深海化しないとすれば、泊地棲姫が目撃したことがない、って言う話の裏付けにもなるんだけどなぁ」

泊地棲姫「ソコハソウダナ」
587 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:50:31.60 ID:+ekmNVAbo

由良「……その理屈だと、潜水艦の子たちは大丈夫なのかしら」

提督「そこは妖精たちが対策取ってんじゃねえか? でなきゃ今頃、世界中の潜水艦娘が深海化してるはずだ」

提督「その妖精たちの取った対策が、攻撃を受けて崩されて……加護がなくなって沈むと轟沈、って扱いになるんじゃねえかな」

提督「その状態で、艦娘が海底に留まり続けていると深海棲艦化する……ってのが、俺の考えてる説なんだが」

泊地棲姫「ソウダナ……アリ得ナイ話デハナイカモシレナイ」

由良「!」

泊地棲姫「深海ノ特ニ暗イトコロ……多クノ艦ガ、沈ンダ海域カラハ、強イ深海棲艦ガ現レルコトガ多イ」

泊地棲姫「ソコニ轟沈シタ艦娘ガ迷イ込ンダトシタラ……」

朝潮「し、深海棲艦になるんですか?」

泊地棲姫「……カモシレナイナ。ソレカ、ソコニ棲ム深海棲艦ノ餌ニナルカ……」

朝潮「餌……ですか」

泊地棲姫「餌ニナッタ艦娘ノ特徴ヲ引キ継イダリスレバ、転生シタヨウニモ見エソウジャナイ?」

由良「ぞっとしないわね……」

泊地棲姫「タダ、ソレモアクマデ、私ノ想像ダ。ソウイウケースヲ、ジカニ見タワケデハナイカラナ」

朝潮「……そう考えられる、ということですね?」
588 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:51:16.13 ID:+ekmNVAbo

泊地棲姫「タブンネ。ソノ話ヲサテ置イテモ、人間ニ対スル憎悪ヤ反感ヲ抱イタ深海棲艦ガ、鬼級ヤ姫級ニナッテイルノダカラ……」

泊地棲姫「ソウイウ『素養』ノアル艦娘ガ、ソウイウ海域デ沈メバ、ソウイウ深海棲艦ニナル、トイウノハ、アリ得ルカモシレナイ」

提督「けどよ、今回の軽巡棲鬼……阿賀野の場合は、阿賀野自身が人間に対して憎く思ってた感じじゃないよな?」

泊地棲姫「ソウ……ソコガワカラナイ。ソモソモ、深海棲艦デアリナガラ、アンナ風ニ明ルク振舞エル者ハ、私モ初見タコトガナイ」

マーガレット「あのぉ……でしたら、一度、魔神様があの人の魂を見てみたらいいのではないでしょうか?」

提督「……それしかねえかなあ」

泊地棲姫「アラ、躊躇シテルノ? アノ大和タチノ頭ノナカモ、イジクッタンデショウ?」

提督「敵だったからな。そうでもない他人の頭ん中を覗き見するのは、やっぱりちょっとなあ」

泊地棲姫「訊イテミレバイイジャナイ。軽巡棲鬼?」

軽巡棲鬼「モグモグ……エ? ワタシ?」

提督「なあマーガレット、あいつに出したケーキ、何個目だ?」

マーガレット「えっと、今のでホールケーキまるっと1個分ですね!」

提督「……」アタマオサエ
589 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:52:01.56 ID:+ekmNVAbo

泊地棲姫「トリアエズ、訊クダケ訊イテミレバ?」

提督「ああ……食ってる途中で悪いが、お前の昔のことを知りたい。協力してもらえないか?」

軽巡棲鬼「ンー、イイケド、私、アマリ覚エテナイヨ?」

提督「とりあえず、昔のことを調べるのは問題ないんだな?」

軽巡棲鬼「イイワヨー。私モ、私ノ昔ノコトハ知リタイシ!」

提督「よし、同意を得られたな」ガシッ

軽巡棲鬼「エ?」アタマツカマレ

 ズヴュッ!

軽巡棲鬼「ア゜ェッ?」ビクッ

朝潮「!?」

提督「……んー……」

軽巡棲鬼「……」ビクビクッ

由良「ねえ、今の音って何……?」タラリ

泊地棲姫「……フーン、ソウヤッテ頭ノ中ヲ見テイルノネェ」

 ズリュッ

軽巡棲鬼「オ゜ッ?」
590 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:52:45.88 ID:+ekmNVAbo

提督「……ふう、なるほど」

軽巡棲鬼「」シロメ

由良「何をしたんですか……」

提督「魔神の力で、魂の色とこいつの過去を探ってみた」

泊地棲姫「ナニカワカッタノ?」

提督「阿賀野はどこかの鎮守府で療養中だったみたいだな。事故で背骨をやったらしくて、そのリハビリ中だったようだ」

提督「けど、リハビリも難航してたらしく、松葉杖つきながら港に来て自分を責めて泣いて……そこで足を滑らせて海に落ちたらしい」

提督「そのまま意識を失って、沈んだところに深海棲艦の魂が入ってきて、今の姿になったみたいだな」

朝潮「深海棲艦の魂が!?」

提督「まあ、深海棲艦とは言ったが、いわゆる戦争時の戦没者の無念の魂みたいなんだ。それも、飢えの苦しみを味わった者たちのな」

由良「飢え、ですか……」

提督「そういう無念の魂が寄り固まって生まれるのが、深海棲艦……ってことなんだろうな、多分」

泊地棲姫「私モ、ソウナノカ……?」

提督「そりゃわからねえが、お前もお前で、人間に対する恨みというか、嫌な思いはあったんじゃねえか?」

泊地棲姫「確カニ、ソンナ感情モ、アッタヨウナ……」
591 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:53:31.32 ID:+ekmNVAbo

提督「で、あいつの頭の中っつうか、魂を見てみたんだが」

提督「ここでまともなもの、と言うよりケーキみたいな贅沢品が食えたのが幸いしたんだか、思ったより魂の色が穏やかな色調だった」

提督「あいつが深海棲艦になり得る感情ってのも、自分の無力さとか肝心な時に動かない自責の念からくる自己嫌悪が大部分みたいだったし」

提督「軽巡棲姫と比べても暗い色の魂がかなり少ないから、姿こそ深海棲艦だが、かなり艦娘寄りと言えそうだったな」

泊地棲姫「見タ目ダケガ深海棲艦、トイウ感ジカ?」

提督「そこまで……いや、そう言ってもいいかもしれねえな。とりあえず、しばらくの間は様子見しようと思う」

朝潮「承知しました!」ビシッ

マーガレット「あのぉ、魔神様? さっきからこの人の意識が戻ってきてないんですが……」

軽巡棲鬼「」シロメ

泊地棲姫「オイ提督、オ前ノヤッタコトダロウ」

提督「わかってるよ……おーい、阿賀野ー?」ユサユサ

軽巡棲鬼「……ハウッ!? コ、ココハドコ!? 私ハ最新鋭!?」

由良「こんなときにまで最新鋭にこだわるの!?」

軽巡棲鬼「ナ、ナンカ、イマ、阿賀野ノ大事ナトコロニ、ハイラレタヨウナ気ガ、シナイデモナインダケド!?」モジモジ

朝潮「……」

由良「……」

泊地棲姫「思ワセ振リナ、言イ回シダナ」
592 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:54:16.35 ID:+ekmNVAbo

提督「あー、それよりもだ。軽巡棲鬼……っつうか、お前のことはどう呼んだらいい? 阿賀野って自覚があるなら阿賀野と呼ぶが」

軽巡棲鬼→深海阿賀野「エ? ソウネェ……ソレジャ、阿賀野デオ願イシマース!」

提督「おう、んじゃこれからよろしく頼むぜ」


朝潮「司令官。今度、あの阿賀野さんに先程やったことと同じことを、朝潮にも試してみていただけますでしょうか」キリッ

マーガレット「え、あの頭の中を見るあれですか!?」

提督「別に試す必要ねえだろ……」アタマカカエ

朝潮「司令官には、この朝潮のことをもっと深く知っていただきたく!」ズイッ!

提督「わかったわかった……そのうちな、そのうち」ガックリ

軽巡棲姫「私ハ、ヤッテモラッタコト、アルワヨォ?」ヒョコッ

朝潮「本当ですか!!」

由良「……」

提督「お前もいきなり出てきて煽ってくれてんじゃねえよ……」アタマカカエ
593 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/07(金) 23:55:01.08 ID:+ekmNVAbo
ということで、今回はここまで。
594 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/21(金) 22:05:33.68 ID:OUf9SW8Ho
ルート的にこちらに行っていいものか、ものすごーーく悩みましたが……続きです。
595 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/21(金) 22:06:16.70 ID:OUf9SW8Ho

 * 夜 提督の寝室 *

提督「ふー……毎日いろいろあり過ぎだ」

 扉<チャッ

如月「ふんふんふーん♪ あら、司令官! 今日もお疲れ様でした」

提督「……」

如月「どうしたの? 司令官」

提督「いや……俺の部屋に誰かしらいるのも、なんだか当たり前になっちまったなあ、って、しみじみ思っちまってなあ」

如月「……嫌だったかしら?」

提督「まあ……一人になる時間がない、って点では、少しな」

提督「あとは、俺はもともと他人に依存しなくてもいいように過ごしてきたからな。いまも単純にこれでいいのか、って戸惑ってる」

提督「けど、よく考えりゃ、これまでずっと妖精と一緒だったわけだしな……独りじゃ、なかったんだよな、俺は」

如月「司令官……」

提督「とはいうものの、毎日誰かが日替わりで部屋にいるっつうのも、それはそれでどうなんだ?」

如月「そうかしら?」

提督「なんか、まるで俺がお前たちを毎日とっかえひっかえしてるみたいでなあ……傍から見たらくそみたいな男って感じがしないか?」

如月「私たちが好きで押しかけてるんだもの、そうはならないわよ」フフッ

提督「そうだと嬉しいけどな……」アタマガリガリ
596 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2024/06/21(金) 22:07:02.08 ID:OUf9SW8Ho

如月「嬉しいの!?」パァッ

提督「いや、嬉しいっつうか……」

如月「違うの……?」

提督「んー、まあ、なんだ。単純に喜べてないのは、俺がはしゃいで調子に乗ってしまいそうで怖いんだ」

提督「嬉しいことは嬉しいんだよ、これまでにないことだったし。それで舞い上がってお前たちに嫌な思いさせたくねえ、ってだけで……」

提督「あと、これまで厳しめに突き放してきてたのに、その態度をひっくり返してるわけだからなぁ。俺、結構な勢いで拒絶してたろ?」

如月「そうねえ……でも、いまはそうでもないんでしょう?」

提督「まあ、いまはな……」

如月「ふふっ、なら、それでいいじゃない。司令官は、これまで死ぬつもりでいて、だからこそ私たちとの関わりを避けてたんでしょう?」

如月「避ける理由がなくなったんだもの。変わって当然だと思うわ」

提督「変わって当然か……なあ、如月?」

如月「なあに?」

提督「俺って、そんなに変わったか?」

如月「ええ、昔に比べたらだいぶ変わったわ。柔らかくなった、っていうか、素直になったって言うか」

提督「んじゃあ、少し前に船の上で肩を並べて話をした時の俺と、今の俺の雰囲気は同じか?」

如月「? それだと、そこまで変わったように思えないけど……それってどういう意味?」クビカシゲ

提督「この前のエフェメラの襲撃で、魔神の魂が目覚めちまっただろ? そのせいで、俺の言動や行動が変になってないか……」
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