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【シャニマス×ダンガンロンパ】シャイニーダンガンロンパv3 空を知らぬヒナたちよ【安価進行】Part.1

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696 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:33:48.50 ID:SZAKbp9W0

あさひ「みんなで一緒に遊ぶの楽しみっす〜! ワクワクしてきたっす!」

霧子「ふふ……あさひちゃんも、体を動かすのは好き……?」

あさひ「はいっす! 学校の授業も体育の授業は毎回楽しみにしてるっすよ!」

(芹沢さんもなんだか普通の女の子に戻ったみたいに見えるな……)

思えば出会ったその日から私たちはコロシアイを要求され、常に猜疑心の目を向け合っていた。
そんな生活の中で同年代、同じ性別、同じ言語の間柄の相手に本来寄せるべき感情を見失いかけていたけれど、
今ようやく、それを拾い上げることができそうだ。

恋鐘「灯織は得意なスポーツとかあるばい?」

灯織「わ、私ですか……? えっと、そうですね……テレビでたまに観戦はしますが、自分でプレーしたりだとかは……」

恋鐘「だったらせっかくの機会だし、色々試してみんとね! 灯織の中ん潜在能力うちらで見つけ出しちゃるけん!」

灯織「ふ、ふふ……大袈裟ですよ、月岡さん」

そして、それは私にとって一番のターゲットである風野さんもまた同じこと。
周りをキョロキョロと見渡してしばらく様子を見ていた彼女も、気がつけば私たちの輪の中に抱き込まれ始めていた。

697 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:34:36.51 ID:SZAKbp9W0


めぐる「それじゃあ体育祭の開催は明日! 今日はその準備に当てようと思います!」

甘奈「うん! せっかくだから思い出に残る、楽しい会にしようね☆」

にちか「準備って何すればいいですかね?」

夏葉「そうね……そうはいっても、設備自体は十分整っているものね。やりたい種目の洗い出しや、飲食物の準備、スポーツ用品の搬入などになるかしら」

霧子「応急処置の準備もやっておくね……」

夏葉「おっと、いちばん大切なことが抜けていたわね。ありがとう霧子」

霧子「ふふ……♪ おまかせあれ……♪」

愛依「そんぐらいの準備なら、一日がかりでやらなくても十分明日に間に合いそうなカンジがすんね」

真乃「そうですね。夕方くらいから、少しずつ準備を進めて行きましょうか……っ」

夏葉「透、一応円香にも声はかけてみてもらえるかしら。せっかくだから、親睦を全員で深められたらと思うの」

透「あー……うん、了解」

夕方からの準備を約束し、私たちは一旦は解散することになった。
樋口さん、それに浅倉さんは参加するかどうか分からないけど……それ以外のみんなは参加してくれそう。
昨日声をかけてくれた八宮さんには頭が上がらないな。
698 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:36:18.42 ID:SZAKbp9W0
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【にちかの部屋】

「そろそろみんな準備に動き出す頃かな?」

時計に目をやると短針は5の少し先を指していた。
立案者のうちの一人として、私が動かないわけにはいかないよね。
うんと伸びを一つしてから、私は校舎の方へと歩いて向かった。
699 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:37:48.23 ID:SZAKbp9W0
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【1F 体育館】

明日の体育祭は基本この体育館の中で行う予定。
バスケットボールのコートがまるまる2面入るぐらい大きな敷地に、私が何人も縦に積み上がるぐらい高い天井。
体を動かすにはもってこいの会場だ。
既に何人か集まって、準備のために動き出しているみたい。

にちか「すみません! 言い出しっぺなのに遅くなっちゃったみたいで……!」

真乃「ううん、今さっき始めたところだから大丈夫だよ」

櫻木さんは私の謝罪をやんわりと諌めると、すぐに向こうにいる八宮さんを呼び寄せた。
八宮さんは小型犬みたいな笑顔と共にこっちに駆け寄ってくる。

めぐる「あっ、にちか! 来てくれたんだね! えへへ、一緒に準備頑張ろうねー!」

にちか「はい……よろしくお願いします。えっと、何からやりますかねー」

めぐる「えっとね……さっき夏葉さんとも話をしたんだけど、私たちはスポーツ用品の搬入を行おうかなって」

にちか「ってことは八宮さんの才能研究教室とここの往復ってことですかね?」

(うっ……いちばんの重労働……)

めぐる「あはは……3人で一緒に持ち運びすればそんなにたくさん往復する必要はないと思うから、頑張ろう!」

(まあ元は私たちが言い出したことだしな……しょうがないか)

真乃「他の食べ物や飲み物、会場のセッティングは残りのみんなでやってくれるみたいだから頑張ろうね……にちかちゃん!」

真乃「ファイトだよ! むんっ!」

(む、むん……?)

そこから私たちは八宮さんの才能研究教室に3人で向かって作業を開始した。

700 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:39:20.22 ID:SZAKbp9W0
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【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室】

教室には既にいくつか荷物の積み込まれた袋が積まれていて、すぐに持ち出せるようになっていた。
本当に昨日の晩に八宮さんは一人で黙々と準備をしていたらしい。
なんだかちょっと申し訳ないな……

めぐる「使いそうなラケットとかボールとかは昨日の晩にちょっとまとめておいたから、持てそうな分だけ持ってみて!」

真乃「う、うん……この袋のことかな?」

めぐる「そうそう! 気をつけて持ってね!」

にちか「あ、櫻木さん! そっちのやつは私持ちますよ!」

八宮さんの指示に従って、順番に荷物を持ち出していく。
15人がプレーする分の荷物となると、結構な重量で嵩張る代物だ。
一度に全部持っていくことはできないだろう。

真乃「うんしょ……うんしょ……」

にちか「はぁ……はぁ……」

めぐる「頑張ろう! まだまだ始まったばかりだよ!」

両手に荷物を抱えては体育館まで持って降りて。
荷物を下ろしたら今度はまた三階まで取りに戻る。

真乃「結構……大変だね……っ!」

にちか「で、ですね……明日筋肉痛になんなきゃいいけど……」

めぐる「あはは、本番は明日なんだよー?」

階段の上り下りってだけで大変なのに、両手で大きな荷物を抱え込んでいる。
二、三回運んだ後には既に汗だく状態になっていた。

……そんな状態だから、気が漫ろになってしまっていたんだと思う。
701 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:40:14.36 ID:SZAKbp9W0

真乃「めぐるちゃん、次はこれかな……?」

めぐる「うん、ゆっくりでいいからね。体を痛めないことがいちばん大事だよ!」

にちか「ふぅ……あっついなぁ……」

真乃「よいしょ……それじゃあ持っていくね……っ!」

めぐる「うん……あっ、真乃! ちょっと待って!」

真乃「え? ……わ、わわっ!?」

制服の襟元を指で掴んでパタパタと風を仰ぐのに必死になっていた私は、すぐ後ろに近づいていた櫻木さんの存在に気づいていなかった。
櫻木さん自身も、抱き抱えている荷物のせいで前が見えておらず……

衝突は避けられようがなかった。



ガッシャーン!



702 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:41:57.75 ID:SZAKbp9W0

床に荷物がぶつかって立てる音が部屋に響き渡った。
轟音が耳を突き抜けて、頭の中を反響するのがうざったくて眉間に皺を寄せてから、数秒。
そこでやっと自分自身の右腕からの痛みの信号に気がついた。

にちか「痛っ……」

真乃「に、にちかちゃん! ごめんなさい……だ、大丈夫……?」

どうやら袋のファスナーが半開きになっていたらしく、そこから飛び出したバドミントンのラケットが私の右手に強くぶつかったらしい。
私の右腕は軽い内出血を起こしたようで、出来立てほやほやの痣が浮かび上がっていた。

にちか「あー、なんかちょっと打っちゃったみたいです」

めぐる「だ、大丈夫?! ちゃんと動く?!」

見た目ほど深刻な怪我じゃない。
手で押してみるとちょっと痛むけど、それぐらい。
普通に動かす分には問題ないし、荷物だって持てる。
703 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:43:24.30 ID:SZAKbp9W0

真乃「ごめん、ごめんね……にちかちゃん……っ」

にちか「いやいや、そんな謝ってもらうほどの怪我じゃないんで……頭上げてください」

さっき遅刻の謝罪をしていた時とは態度が逆転。
必要以上の謝罪を繰り返す櫻木さんを私が諌める構図になった。

めぐる「大した事故にならなくてよかったけど……今日はこれぐらいにしておいた方が良さそうだね」

とはいえ、流石に衝突があった後で作業を続けるわけにもいかず。八宮さんの方からストップがかかってしまった。

めぐる「二人とも、疲れが溜まってるよね? 殆どは運び終えたんだし、続きは明日の朝にやろうよ」

真乃「め、めぐるちゃんはまだ元気そうだね……」

にちか「ここは……八宮さんの言うことに従っておきましょうか」

真乃「う、うん……」

しゅんとしてしまった櫻木さんを私と八宮さんで励ましながら、寄宿舎へと戻った。
704 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:44:44.40 ID:SZAKbp9W0
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【寄宿舎前】

真乃「今日はごめんなさい……せっかくにちかちゃんも張り切って準備をしてくれてたのに、それを邪魔するような真似をして」

にちか「いや、だからもういいですって! 大体不注意の責任は私にもありますので!」

夜時間までの時間もそう残っていない。
檻越しに見える空もオレンジ色に染まってきた。
私たち3人は明日の体育祭のことを話しながら、ゆっくり寄宿舎へと向かっていた。
すると、丁度道の合流地点あたりに華奢なシルエットが見える。

遠目でも分かった。あの警戒した足取りは、風野さんだ。

灯織「……こんばんは」

近づいてくる私たちに逃げられないと悟ると、低い声で風野さんは挨拶をした。

めぐる「灯織〜! こんばんは! お散歩中?」

灯織「えっと……その……」

八宮さんはそれを知ってか知らずか、いつもと変わらぬ調子で距離を詰める。
たじろいだ風野さんの右手からはカサッとビニールが擦れるような音がした。
705 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:46:19.09 ID:SZAKbp9W0

にちか「……? それって……」

めぐる「何持ってるの? 灯織?」

灯織「えっと、その、これは……」

真乃「……!」

真乃「違ったらごめんね……っ! もしかすると、灯織ちゃんが手に持ってるそれ……明日の体育祭のお弁当だったりしないかな」

櫻木さんの推測に、風野さんは口をあんぐりと開いた。

灯織「……当たり」

どうやらご明察だったらしい。
私たちはずっと道具の搬入をしていたけど、明日の準備は他の人たちも動いてくれていた。
体育館のセッティングが飲食物の用意。
風野さんも、裏でそのために動いていてくれたらしいのだ。
今朝は場の雰囲気に流されて渋々といった様子だったけど、風野さん自身も乗り気でいてくれたのかなと俄かに嬉しくなる。

706 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:47:44.37 ID:SZAKbp9W0


にちか「風野さん……明日の体育祭に参加してくださるんですね」

思わず、そんな言葉が口から出た。
返事なんて返ってこないこと、分かっていた。



灯織「……はい」



(……! 今、私の問いかけに言葉を返してくれた……!?)

______はずなのに。

私のみならず、櫻木さんと八宮さんもこれには驚いた様子。
3人の反応を悟った風野さんは伏し目がちに、辿々しく言葉を紡ぐ。
707 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:49:09.57 ID:SZAKbp9W0

灯織「……ずっと、ずっと悩んでるんです」

灯織「この数日間、私が見てきた七草さんは直向きで、全力に……私たちに向き合っていて、そこに裏なんて何も見えない」

灯織「私たちを欺いて、出し抜こうとした裁判の時の七草さんとは違って見えるんです」

灯織「でも、だからってそれを認めてしまっていいものか……と。私はまた騙されているんじゃないかって」

それは、私が彼女を抉った爪痕。
彼女の純真無垢だった心に、私は消えない引っ掻き傷を作った。
自身で作り出した壁の中に篭りがちだった彼女が、極限状態の中意を決して飛び出したところに私がした仕打ちは、
トラウマとして残るには十分なものだったらしい。

灯織「私にはもう……自信がないんです。誰かを信じ抜く自信が。他の誰かを信じようとする度に、また裏切られるんじゃないかって考えが頭をよぎってしまう」

灯織「今はただ……他の人の領域に踏み込んでいくのが……怖くて」

裁判で与えてしまったトラウマは色濃く。
肩を振るわせ、色を失った瞳は虚を見つめる。
血の気の引いた顔は、見ているこちらもくらりと倒れてしまいそうなほど。



めぐる「わたしは灯織のことを信じてるよ」




そんな彼女の手を、迷いなく八宮さんは握った。
708 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:51:12.12 ID:SZAKbp9W0

灯織「……えっ?」

めぐる「あのね、信じるってことは……その人に全部を委ねるって言うこととはちょっと違うと思うんだ」

柔らかく温かい手のひらからはじんわりと熱が伝わっていく。
それは八宮さん自身の思いやりであり、感情であり、そして、言葉だ。

めぐる「この人と一緒にいたい、一緒に笑いたい、一緒に歩いて行きたい……そういう気持ちが信じるってことなんじゃないかな」

めぐる「もちろん、そう思った相手が自分の思ってたのと違う面を見せることだってあるかもしれない。裏切られたーって感じる時だってあるかもしれない」

めぐる「でも、だからといって灯織がその人のことを信じたことが間違いだったわけじゃない。信じたことを間違いだって決めつけちゃうのは、その時の灯織の気持ちを否定しちゃうことになるんだよ」

めぐる「人を信じたいって思うのはその時の素直な気持ち……そこには責任もしがらみも、無いんじゃないかな」

そう、私たちは始めから思い違いをしていた。
誰かを信じたからには、運命を共にする義務があると思っていた。
必ずしもそれは間違いじゃないのかもしれない。
だとしても、共に歩む友人、仲間に向ける信頼はもっと軽率で、安易で、単純なものでいい。
この人を手放したくないという気持ちを仲介するものこそが信頼なのだと八宮さんは説いた。
709 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:52:19.69 ID:SZAKbp9W0

灯織「……」

風野さんを取り囲む壁越しの、八宮さんの説得。
壁は分厚く、高く、よじ登ることは難しい。
外から中に入ることなど、出来ないのかもしれない。

めぐる「もしよかったら、なんだけど……灯織は今、どう思ってるのか聞かせてもらえたら嬉しいかな」

ただ、壁の向こうから聞こえてきたその溌剌とした声は……

灯織「私、は_______」



_____壁の中の少女を、外の世界へと誘った。


710 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:53:51.87 ID:SZAKbp9W0


「私のことをこんなにも大切に思ってくれる人がいる」

「私のことを友達だって言ってくれた人がいる」

「何度拒絶されても、私に向き合おうとしてくれる人がいる」

「そんなみんなと、一緒に生きていきたい」


(……!)

風野さんの笑顔を、初めて見た。
星の輝きのように、見るものを惹きつけるような、澄んで美しい表情。
ずっとこのコロシアイの闇世の中に飲まれていたその光が、やっと雲の合間をぬって出た。
私たちの元に届いたその純な光が、胸を打った。
711 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:55:39.74 ID:SZAKbp9W0

灯織「……そっか、私は自分自身の感情にすら、向き合えてなかったんだね」

灯織「教えてもらえなきゃ、ずっと気づけなかったかもしれないな」

灯織「ありがとう、【めぐる】」

めぐる「ひ、灯織……今、わたしのこと……!?」


外の世界へと踏み出した少女の足取りは、軽やかで、そして勇ましい。


灯織「それに、ずっと私のことを気遣ってくれてありがとう。【真乃】」

真乃「ほ、ほわっ……」


一歩一歩着実に踏みしめて、私たちの元へと歩み寄る。


灯織「素直に気持ちを受け止めることができなくて、ごめんなさい。辛い思いを何度もさせたと思う」


そしてその足跡は、



灯織「これからは、私もあなたに向き合うつもりだから……いいかな、【にちか】」



私の元へと続いてくれた。
712 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:56:46.55 ID:SZAKbp9W0

にちか「は、はい……! もちろん、喜んで……!」

風野さんが私へと差し伸べた手のひら。
私はそれを寸分の悩みもなく、握りしめた。
風野さんの体温は低く、私の熱がどんどんと吸われているような気すらした。
でも、それと同時にこちらに返ってくるものがある。
風野さんが私に向けてくれる信頼、一緒に歩みたいと思ってくれたその心が、確かな実感として伝わってくる。
そのことが、これ以上になく心地よかった。

めぐる「灯織……なんだか、本当の意味で今友達になれた気がするよ……!」

灯織「うん……ありがとう、めぐる。あと少しで私は大切なものを取り逃すところだった」

真乃「ううん、遅すぎるなんてことはないと思う……これからしっかりと、一緒に歩いていこうね……っ!」

にちか「よかったです……風野さん。私、もう風野さんには一生認めてもらえないんじゃないかって思ってたので」

灯織「……」
713 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:58:20.39 ID:SZAKbp9W0

灯織「ねえ、真乃、めぐる。私、今結構勇気出して一歩を踏み出したんだけど……この中に一人、まだ安全圏にいる人がいる気がするんだ」

にちか「え? な、なんです……?」

めぐる「おやおや〜、それは誰のことなのかな〜? 真乃、灯織、誰のこと〜?」

真乃「ふふ……一体誰のことなんだろうね、灯織ちゃん、めぐるちゃん!」

(……うっ、3人からの視線を感じる)

(これは……逃げられない、腹を括るしかないみたいだ)

にちか「分かった、分かりましたよ……これからは私も下の名前で呼ばせてもらいますから!」


にちか「あ〜、もう! これからよろしく! 【真乃ちゃん、灯織ちゃん、めぐるちゃん】!」


めぐる「こちらこそだよ〜〜〜!!」

にちか「わっ、ちょっと! 急に抱きしめないで!」

灯織「め、めぐる……苦しい……!!」

ようやく、辿り着けた。
ずっと果ての見えない過酷な道を歩き続けていた。
必死に必死にもがき続けて、結果を望むことは傲慢だと思って、足掻くことが責務だと思って闇雲に遮二無二になっていた。
その結果、ルカさんのいう通り、開けた運命があった。
掴み取れた運命があった。
この悪路を進んでいなければ、この今はなかっただろうと思う。


______本当に、諦めなくてよかった。

714 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:59:19.94 ID:SZAKbp9W0

灯織「ごめんね、3人の手伝いに行ければよかったんだけど」

にちか「いや、気にしないで大丈夫! 明日の朝にちゃちゃっとやっちゃえば終わるはずだから!」

真乃「うん、灯織ちゃんは今日はお弁当を作ってくれてたんだよね? 明日食べられるのが楽しみだなぁ……」

めぐる「明日がすごい楽しみになってきた……どうしよう、今日寝られないかもしれない!」

灯織「もう……明日に体力を残しておかなくちゃでしょ? 今日はしっかり休もう」

にちか「ほんと、すでにくったくただから……今日は早いとこ寝とこ〜……」

真乃「お疲れ様、にちかちゃん」

私たちは胸にこれ以上ない充実感を抱きながら、それぞれの個室へと戻っていった。

715 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:00:14.72 ID:SZAKbp9W0
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノダム『今日ハ夜食ニピッタリナメニューヲ紹介スルヨ』

モノスケ『全国の受験生、それに受験生をお持ちの親御さん必見や!』

モノファニー『メモ用紙を持ってモニターの前に集まってちょうだいね!』

モノダム『マズ、国産牛ノサーロインステーキヲミディアムレアマデジックリ焼クンダ』

モノダム『ステーキガ仕上ガッタラソノママノ勢イデ唐揚ゲ粉ノ中ニダイブ』

モノダム『ソノママ250℃の油デ揚ゲチャオウネ』

モノタロウ『ステーキの唐揚げなんて超贅沢! 涎が止まらないよ〜!』

モノダム『ゴ飯ニ乗セテマヨネーズヲカケレバ完成ダヨ』

モノスケ『うんこの香りや〜! たまらん、たまらんでぇ!』

モノファニー『例の如く、これはアタイたちだけの夜食だからね!』

モノタロウ『キサマラはひもじくおにぎりでも食べてればいいんだよ!』

『ばーいくま〜〜〜〜!!!!』

プツン

(うぅ……何あれ、見てるだけで胃もたれというか……吐き気までしてくる)

相変わらず最悪な中身の放送は見なかったことにして、ベッドの上にゴロリと転がり込む。
この学園に来て初めての感覚だ。
まだ体がなんだかフワフワしてる。
信頼を勝ち取ると言うことがこれほどまでに充実感と自己肯定感が得られるモノだとは知らなかった。
お互いを下の名前で呼び合う仲なんて、久しく構築していなかったし、特別な存在だって相互に認識できたのは素直に嬉しい。

始まる前から成功体験を得られて浮き足立つのを、必死にベッドに縛りつけた。
もうこれだけのものが得られたのだから、明日の体育祭は最高の経験になるはずだよね!
716 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:01:15.06 ID:SZAKbp9W0

……私は本気でそんなとぼけたことを思っていた。
自分は今日常の中にいない。
コロシアイという非日常の中にいるってことを完全に失念していた。
私は嫌というほどに知っていたはずなのに。



期待というのは、簡単に裏切られるものだということを忘れていた。



717 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:02:00.73 ID:SZAKbp9W0
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【???】

灯織「失礼します……」

灯織「……あの、どうしたんですか? 明日の体育祭のことで、何か……?」

灯織「……誰もいないのかな」

灯織「呼び出し場所は、ここで間違いないはずだけど……」

???「……」

灯織「……っ?! 誰っ?!」



ガンッ


718 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:03:27.24 ID:SZAKbp9W0
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【School Days 11】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『おはっくまー! 何やらキサマラ、今日は楽しそうなことをやるみたいだね!』

モノダム『ミンナデ仲良ク体育祭、イイナァ……』

モノファニー『アタイも一緒に混ざってやりたいわ! 汗をかくのは老廃物を流してくれるし美容にもいいもの』

モノスケ『ケッ、くだらんくだらん。そないなことしてもビタ一文の儲けにもならへんやないか』

モノダム『……』

モノスケ『大体ワイらはギスギスあってこそのモノクマーズや! ザコどもに感化されたりしたらなんかあかん!』

モノスケ『キサマラもその体育祭とやらですっ転んで怪我してしまえばいいんや!』

モノスケ『擦りむいた膝小僧に砂利が入り込んで消毒液が染み込んじまえ!』

モノダム『……』

プツン

うーん、いい目覚め。
昨日の夜、かけがえのないものを得た私はいつも以上にすんなりと眠りに入ることができた。
体の疲れもちゃんと取れてる、かつてないほどのベストコンディション!
これなら今日は一日目一杯楽しめそうかな。

私はいつもより早足で朝の支度を終えると、靴もつっかけで履いて、バタバタと体育館へと向かった。
719 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:05:25.86 ID:SZAKbp9W0
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【体育館】

にちか「おはようございますー! あ、真乃ちゃん……もう来てたんだね」

真乃「にちかちゃん、おはよう。昨日はよく眠れたみたいだね!」

にちか「そりゃもう! おかげで元気満タン! ムキムキにちかだよ!」

真乃「ふふ……にちかちゃん、すごく楽しそう……!」


体育館には既に多くの人が集まっていた。


恋鐘「昨日のうちにいっぱい灯織と凛世と一緒にお弁当作っといたからね! 今日はた〜んと食べてもらうばい!」

凛世「ちゃんと冷蔵庫にも入れておきましたので……衛生面も万全にございます……」


昨日のうちからお弁当の用意をしてくれていた月岡さんに杜野さん。


霧子「絆創膏に包帯、湿布、消毒液……怪我をしたり、しんどくなったりしたらいつでも声をかけてね……」

甘奈「倉庫から扇風機も持ってきたから、汗をかいたら涼むのに使ってね☆」


みんなの体のことを気遣って、無理をしないように注意を促してくれてる幽谷さんと甘奈さん。

720 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:06:41.68 ID:SZAKbp9W0

樹里「うっし……今日はとにかく体を動かして楽しむかんな!」

愛依「うっひゃ〜、燃えてきた〜! うち、マジの全力見せちゃうかんね!」

あさひ「あはは、負けないっすよ! 二人とも!」


これから始まる激闘を間近に、昂りを隠せずにいる西城さん、愛依さん、芹沢さん。


真乃「ふふ……みんな、楽しみにしてくれてたんだね!」


そして、ずっと一緒に準備をしてきた大切な友達の真乃ちゃん。


にちか「……あれ? なんか……少なくない?」


体育館には私を含めたこの【9人しか】、姿がなかった。

721 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:08:01.45 ID:SZAKbp9W0

真乃「円香ちゃんと透ちゃんは……参加は難しかったのかな?」

あさひ「その二人はまあなんとなくわかるっすけど……夏葉さんとかもいないっすね」

樹里「ったく、相変わらず朝に弱いんだから……どうせ寝坊してんだろ?」

甘奈「甜花ちゃんは昨日は参加するって言ってたからいずれ来ると思うけど……」

恋鐘「灯織も準備手伝うてくれたし、来てくれるはずばい」

真乃「にちかちゃん、めぐるちゃんはもしかすると……才能研究教室にいるのかもしれないよ」

にちか「あー……そういえば、昨日の作業がまだ途中だったもんね。めぐるちゃんだけ先に行って作業をしてるのかも」

甘奈「あれ、二人はめぐるちゃんの居場所に心当たりがあるの?」

真乃「うん……ちょっと呼んでくるね」

甘奈「だったら甘奈も一緒に行くよ! 荷物運びだったら人手が必要でしょ?」

にちか「ありがとうございます、甘奈さん!」

樹里「じゃ、アタシは寄宿舎に戻って夏葉と甜花を呼んでくるよ。どうせ二人とも寝てるんだろうしさ」

恋鐘「灯織は食堂に行ったとやろか……うち、ちょっと様子見てくるばい」

凛世「では、凛世も随伴いたします……」

愛依「おっけー! それじゃうちらは体育館で待機しとくね!」

霧子「気をつけて、行ってきてね……」

まあまだ朝のアナウンスが鳴って間もないし、全員が集まってなくてもおかしくはない。
私たちは三手に分かれて、それぞれまだ来てない人たちを呼びに行くことにした。
722 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:09:25.36 ID:SZAKbp9W0

体育館から3階までは結構距離があるので、その道中は呑気に雑談をしていた。
同年代の女子らしく、小突きあいながら、戯れ合いながら、これから始まる楽しいひとときに思いを馳せていた。
階段を一段一段登るたびに、気持ちも弾んでいく。
上がるテンション、早まる鼓動。
早く早くと急かす心から溢れ出すワクワクとドキドキに、すっかり緩み切っていた。

甘奈「せっかくだから円香ちゃんにも声をかけてみようか。3階の上がりついでに!」

真乃「うん……一緒に遊べたら、嬉しいけど……」

にちか「いやー……どうだろう……樋口さん、だいぶ頑なだしなー……」

甘奈「……あれ? そういえばにちかちゃんって前から真乃ちゃんのこと下の名前で呼んでたっけ?」

にちか「え。あ、あー……あはは、ちょっと昨日から、流れで」

甘奈「えー、いいなー! ずるいよ、甘奈も下の名前で呼んでほしい!」

にちか「甘奈さんは元から下の名前で呼んでますよ?」

甘奈「甘奈さんじゃなくて、甘奈がいいの。せっかくこうして出会えたんだから、みんなと仲良くなった証明が欲しいんだ〜」

甘奈「年上だからって遠慮とかいらないから……ね?」

にちか「えー……じゃあ、甘奈ちゃん……?」

甘奈「やったー☆」

真乃「ふふっ……それじゃあ私も甘奈ちゃんって呼んじゃってもいいかな?」

甘奈「もちろんだよ〜!」
723 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:10:35.21 ID:SZAKbp9W0

にちか「よいしょ……着いたね、二人とも」

真乃「物音は……しないね。ここじゃなかったのかな?」

甘奈「奥の方で作業をしてるのかも? とりあえず覗いてみようよ」

にちか「そうだね……とりあえず扉、開けますね」

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【超研究生級のスポタレの才能研究教室】

甘奈「めぐるちゃん……いないね」

真乃「ほわ……どこに行っちゃったんだろう」

部屋に入ってみたけどめぐるちゃんの姿はそこにはない。
昨日作業が中断されたスポーツバッグの山もそのままになっている。

にちか「めぐるちゃーん? いないのー?」

とはいえ、めぐるちゃんが他に行きそうなところも思いつかないしな。
どこかに隠れたりでもしてるんじゃないだろうか。
そんな能天気なことを考えながら、呼びかける声を上げながら、部屋の中を歩き回って、

シャワールームの中を見た。
724 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:11:29.09 ID:SZAKbp9W0





______見てしまった。





725 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:11:55.45 ID:SZAKbp9W0





【シャワールームの壁にもたれかかるようにして頭から血を流して息絶えているめぐるちゃんの姿を、目撃してしまった】




726 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:12:22.17 ID:SZAKbp9W0
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CHAPTER 02

退紅色にこんがらがって

非日常編



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727 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:15:53.06 ID:SZAKbp9W0

かなり間延びさせてしまいましたが、ここまでで2章の事件発生までの一区切りです。
先述の通り、ココから先は安価の領域を縮小して更新していきます。
捜査パートにおいても、安価は取らずに自動進行で進めることとします。
また明日以降、合間を見つけて書き込みにまいります。
728 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:06:13.69 ID:jj1t/rmq0

【ピンポンパンポーン……】

『死体が発見されました! 死体発見現場は3階の超研究生級のスポタレの研究教室ですよ〜!』

『ハリアップ! みんな現場まで集まってくださ〜い!』


「う……そ……」

全身を包み込む虚脱感に、思わず膝から崩れ落ちる。
つい昨日の私は、こんな予想なんてしていなかった。
今日という未来には、希望しか待っていないと本気で信じて、期待に胸を膨らませていた。
期待が泡と消えた今となっては、そんなのはただの伽藍堂だ。
ぽっかりと空いてしまった空虚な胸の内に、喪失感が絶望を埋め尽くしていく。

「やっと……友達になれた……友達だって認められたばっかりだったのに……」

落下して地面にぶつかった時の衝撃は、より高いところから落ちたときの方が大きい。
昨日のことがあった手前、私を打ちのめさんとする衝撃は筆舌に尽くし難いものがあった。
729 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:07:16.14 ID:jj1t/rmq0


しばらくして、アナウンスを聞いたみんながやって来た。

恋鐘「い、今のアナウンスはなんね?! し、死体ってそげなことあるわけが……」

恋鐘「ふぇぇぇぇ?! め、めぐるが頭から血流しとる?!?!」

愛依「う、嘘だよね……?! めぐるちゃん……?!」

樹里「なっ……ま、マジかよ……」

霧子「そんな……」

凛世「また、起きてしまったのですか……」

円香「……」

部屋に入った瞬間全員が言葉を失う。
当然だ、こんなの予想なんかしてない。
あっちゃならない。
よりにもよって、私たちを笑顔へと導いてくれるはずの彼女がこんなところで血に沈んでいいはずがないんだから。

……そんな状況でも、彼女は違った。
いや、彼女だからこそ違ったんだ。
私たちが絶句し、悲しみにその肩を振るわせる中で、ただ一人だけが……ほくそ笑んでいた。



あさひ「……あははっ、ついに始まったっすね」


730 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:08:19.91 ID:jj1t/rmq0

にちか「芹沢さん……」

彼女は意気揚々とした様子でめぐるちゃんの亡骸へと近づいていく。
新しい玩具を見つけた時のように、首を小さく傾げながら、自重にもたげる顔を覗き込んだ。

あさひ「二人目はめぐるちゃんっすか……意外なところで来たっすね」

樹里「あさひ……やめろ、もうやめてくれよ……なんでそんな嬉しそうな表情ができるんだよ」

あさひ「……? 別にわたしだってめぐるちゃんが死んで嬉しいわけじゃないっすよ?」

あさひ「でも、また学級裁判ができるっす! 犯人とわたしたちの真剣勝負……どっちがこのゲームに勝てるかの騙し合いが始まるっすから」

あさひ「気合を入れていかないと、負けちゃうっすよ! 樹里ちゃん!」

芹沢さんはどこまでも私たちの言葉を意に介そうとしない。
彼女は純粋に、学級裁判をゲームとして楽しんでいる。
自分自身がゲームに勝つこと、それしか彼女の頭にはないんだ。

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノタロウ「わー! 大変だ! またしても犠牲者が出ちゃったよ〜!」

モノファニー「うそ……もしかして、その子死んじゃってるの……?」

モノダム「ホント、ダヨ」

モノファニー「でろでろでろでろでろでろ……」
731 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:10:19.90 ID:jj1t/rmq0

モノスケ「おもろなってきたやん! ずっと日常系アニメ未満の起伏のないストーリーを見せられて、こちとらイライラしてきとったところなんや!」

モノスケ「やっぱり血みどろにドロドロの騙し合いあってこその学園生活やな!」

モノクマ「うんうん、青春とはこうじゃなくっちゃね! 麗しき友情と別れ!」

モノクマ「うぷぷぷ……友と友が分たれる時のカタルシスこそが青春の醍醐味だよね」

モノスケ「流石お父やんや……歪んだ認知が最高にイカしとるで」

しばらくして、私たちの雰囲気に一切配慮をしない騒々しいやり方でモノクマとモノクマーズも姿を現した。
私たちをどこまでもおちょくるような態度が腹立たしい。

霧子「モノクマさん……あなたがこうやってまた出てきたということは……」

霧子「また、学級裁判をやるんですか……?」

モノクマ「もっちもち! 芹沢さんもやりたくてウズウズしてるよね?」

あさひ「あはは、そうっすね!」

愛依「また……あれが始まるん……? うちら同士で疑い合う、犯人当てが……」

透「マジかー……きっつ」

……まだ前回の学級裁判からは一週間も経ってない。
私の体はまだあの時の感覚を覚えている。
他の人たちを騙すために、必死に裏を掻こうとする焦燥感。
常に他人の目が自分に向けられているのではないかと気にしてしまう不安感。
そして何より、自分自身が生きるか死ぬかの瀬戸際に立っているという恐怖感。
あの時と変わらない、いやむしろまた同じことを繰り返してしまったという後悔はより一層その嫌な感情の波に拍車をかけてすらいる。
ゾワゾワという言葉で足りないぐらいの悪寒が私を襲った。
732 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:11:19.22 ID:jj1t/rmq0

あさひ「それじゃ早速、モノクマファイルを貰えるっすか?」

真乃「……やらなくちゃ、いけないんだね。また、捜査から……」

モノクマ「……」

モノタロウ「あ、あれ……? お父ちゃん? 聞こえてる?」

樹里「……あ? 何出し渋ってんだよ。そっちからこのコロシアイは仕掛けてきてるんだろ。だったら最低限ちゃんと運営ぐらいしろって」

モノクマ「……」

甘奈「な、なんか様子がおかしいね……?」

モノクマ「うぷぷぷ……オマエラ、どうして疑問に思ってないの?」

(……え?)

モノクマ「さっきのアナウンス、斑鳩さん殺しの時と【違った】よね?」

(ルカさんの時と、アナウンスが違う……?)
733 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:12:38.92 ID:jj1t/rmq0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【ピンポンパンポーン……】

にちか「な、何?!」

霧子「あっ……モニター……何か出てきたよ……!」

『来た! ついに来た! 死体が発見されましたよ〜!』

『いや〜、まさか本当にコロシアイが起きないんじゃないかとヤキモキしたけどオマエラを信じて正解だったよ〜!』

『死体発見現場の地下図書室までオマエラ【全員】お集まりください! モノクマからお話がございます!』

◆◇◆◇◆◇◆◇

【ピンポンパンポーン……】

『死体が発見されました! 死体発見現場は3階の超研究生級のスポタレの研究教室ですよ〜!』

『ハリアップ! みんな現場まで集まってくださ〜い!』

にちか「う……そ……」

◆◇◆◇◆◇◆◇


(……それってもしかして)

にちか「【全員に】集まれって言ってない……?!」

愛依「え、ええ?! そ、それどーいうことなん?! なんか変わんの?!」

あさひ「あっ、そういう意味っすか。まだみんな揃ってないのにモノクマたちが出てきておかしいなって思ったけど」
734 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:13:38.90 ID:jj1t/rmq0



あさひ「____他の人たちは自分の意思でここに来れない状況にあるってことっすね?」




霧子「そ、それってどういう意味……?」

恋鐘「今ここにおらんのは灯織、甜花、夏葉の3人ばい?」

甘奈「そういえば、樹里ちゃんたちもみんなを呼びに行ってたよね? あれはどうなったの?」

樹里「いや……それが寄宿舎のインターホンを鳴らしても反応がねーんだよ。甜花も、夏葉も」

甘奈「甜花ちゃんも?!」

恋鐘「食堂に灯織もおらんかったし、先に3階にきとるもんだとばかり思うとったけど……」

真乃「モ、モノクマさん教えてください! どこに灯織ちゃんはいるんですか……?!」

モノクマ「うぷぷぷ……さあね、ボクからは言えないなぁ。彼女たちの居場所も」
735 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:14:29.41 ID:jj1t/rmq0





モノクマ「生きてるのかどうかも」




736 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:15:24.75 ID:jj1t/rmq0

にちか「……は?」

真乃「な、何言ってるんですか……?」

にちか「い、言ってる意味がわかんないんですけど……」

モノクマ「うぷぷぷ……目は口ほどに物を言うと言うじゃない」

モノクマ「ボクの今の言葉の意味を知りたいのなら、オマエラは自分の目で確かめるべきだろうね!」

額を汗が伝っていた。
皮脂を吸いあげ降ろす玉のような滴は、拭き取る指先にべったりとくっついて、嫌な感触がした。
纏わり付くようなざわつきが襲いくる。

樹里「……もう一度、学園中を探し回ろう! 絶対どこかにいるはずだ」

樹里「大丈夫! 絶対に……無事だ、無事じゃなきゃいけないんだ……!」

恋鐘「また別れて捜索せんね! 分担はどがんするのがよかね?」
737 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:16:39.41 ID:jj1t/rmq0

円香「その前に、【監視】をつけた方がいいんじゃないですか?」

にちか「監視……ですか?」

円香「……学級裁判はどのみち避けられないんです。この発見現場の保全をしておく必要はあると思いますが」

凛世「でしたら、凛世がお引き受けいたします……」

霧子「現場の保全は二人以上必要だよね……私もここに残るよ……」

にちか「じゃあ残りで分担して3人を探しましょう! 学園を隅々まで探し尽くさなきゃ……!」

甘奈「三階から順繰りに探していくのがいいかな?」

樹里「そうだな……手際よくやらないとな。

あさひ「それじゃあわたしは三階を探すっす!」

愛依「じゃあうちも三階……ここの教室以外に見落としがないか見るね!」

円香「いえ、愛依さんは他に回ってください。この階は私が引き受けます」

愛依「え? わ、分かった……それじゃああさひちゃんをよろしく頼むね!」

(……芹沢さんが才能研究教室に行かないかどうか見張るつもりだな)
738 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:17:24.37 ID:jj1t/rmq0

透「じゃあ、うちは二階行きます。同行者募集」

恋鐘「そいやったらうちも二階に行くばい! 一階はさっきうちも一度見とるし……他の人が行った方がよかやろ?」

甘奈「それじゃあ甘奈は一階を探すよ! さっきはすぐに三階に来ちゃったし……」

にちか「私も着いていきます! 一階は広いから人手が必要ですよね」

真乃「それじゃあ私も行くね……!」

樹里「アタシも行こう。さっき寄宿舎は一度調べたんだ、学校をアタシも見てまわりたい」

愛依「えっと……そんじゃうちは地下を見てくる! 地下は教室も少ないし、スペースもそんな無いから……多分うち一人でも見れると思う!」

樹里「よし……そんじゃとりあえずはこれで決まりだな。各階、何か発見があったらすぐに声を上げて教えてくれ!」

私たちは決めた分担の通り、すぐに分かれて行動を開始した。
とにかく焦っていた。
最悪を否定したくて、学園内を駆けずり回った。
739 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:18:01.72 ID:jj1t/rmq0
-------------------------------------------------
【才囚学園 1F】

樹里「1Fはかなり広い……さらに細分化して見て回ろう」

甘奈「そうだね……甘奈は倉庫とか食堂、購買の方を見に行ってみる!」

にちか「それじゃあ私は体育館の方に行ってみます!」

真乃「えっと……それじゃあ灯織ちゃんの才能研究教室の方を見てきます……っ!」

樹里「おし、そんじゃアタシは地下階段近くの教室を見てくるよ!」
740 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:19:07.52 ID:jj1t/rmq0
-------------------------------------------------
【1F 体育館】

人数が揃っていないと話題になってから、愛依さんや芹沢さん、幽谷さんが待機していた場所だし、
まさか体育館で入れ違いになってはいないだろう……とは思うけど、念のため。
私は垂れ幕のぶら下がっているステージの上へと上がり込んだ。

「こういう舞台袖とかに隠れてたり……しないか」

ステージの上手と下手、その裏側まで丁寧に見て回ったが、誰かが隠れられそうな空間はない。
垂れ幕のバトンを上下させるための調整室なんかも覗いては見たけど誰かが出入りしたような痕跡も残っちゃいない。

……うん、やっぱり体育館には居そうにないかな。

ことは一刻を争うんだ。
不必要に同じ場所に留まる理由もない。
ステージの上、ちょっとした段差から飛び降りて、駆け出そうとした時……【奇妙なもの】がステージの上から目についた。

「……なんだろ、アレ」

体育祭で使う予定だった道具はひとまとめにして壁の方に寄せてあるはずだ。
あんなふうに、ポツンと一つだけ落ちているのはおかしいし……何よりその形状がおかしいのだ。

「これ、ホッケーのスティック……?」

パックを勢いよく弾いて飛ばすためには、真っ直ぐに芯が通ったスティックが欠かせないはずだ。
それなのに私が手に取ったスティックはちょうどその真ん中ぐらいでくの字にひん曲がっていて、とても競技に即したものには見えない。
741 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:20:11.50 ID:jj1t/rmq0




「ちょい! みんな! 早く地下に来てくんない!? キンキュー事態なんだけど?!」





ちょうどそんな時だった。
学園中に響き渡るぐらいに大きな声が聞こえてきたのは。

「今のは……愛依さん!?」

愛依さんと言えば一人で地下に向かったはずだ。

(きっと3人を地下で見つけてくれたんだ……!)

私はすぐに手に持っていたものを投げ出して、考えるよりも先に走り出した。
742 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:21:31.68 ID:jj1t/rmq0
-------------------------------------------------
【B1F】

「はぁ……はぁ……いったい、どこで……!?」

地下への階段を駆け降りると、ゲームルームの扉が開けっぱなしになっているのが目に入った。
遠くの方から、誰かの話し声も聞こえてくる。
きっと愛依さんの言う『キンキュー事態』はこの奥で起きているに違いない。

「急げ……! 大丈夫だ、まだ間に合う……!」

自分にそうやって言い聞かせながら、私は部屋へと飛び込んでいった。



……飛び込んで、いった。


743 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:23:10.57 ID:jj1t/rmq0



「〜〜〜!! 〜〜〜!!」



にちか「ちょっ、大丈夫!? 灯織ちゃん……!? それに、甜花さん……!?」

急ぎ踏み込んだのはゲームルームのさらに奥。
AVルームの中で二人は両手に両足を拘束され、さらには目隠しや耳栓までされた状態で見つかったのだ。

愛依「あっ、にちかちゃん! ごめん……二人を助けるのちょっと手伝ってくんない!?」

にちか「は、はい! もちろんです!」
744 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:24:24.00 ID:jj1t/rmq0


私は愛依さんに求められるままに二人の拘束を解いた。
私が触った限りでは、かなり入念に縛り付けられており、自力での脱出は難しいと思う。
実際私が解くのでもかなり手こずったし、その間に愛依さんの声を聞いて駆けつけた人たちが何人もいたぐらいだ。
長くこの状態で放置されていたら、危なかっただろうな。

甜花「あうぅ……手と足の首がまだ痛い……」

愛依「だいぶキツく結んであったもんね……大丈夫? 痺れたりしてない?」

真乃「灯織ちゃん……よかった、無事だったんだね……」

灯織「真乃……うん、なんとか。にちかもありがとう」

にちか「うん……」

透「二人とも、いつから?」

甜花「えっと、いつだっけ……確か、呼び出しを受けたからその時の紙が……」

甜花「あ、あれ……? 持ってきてた、はずなんだけど……」

灯織「任せてください甜花さん、私はポケットにちゃんとしまい込んで……」

灯織「あ、あれ……? すみません、私も……なくしてしまったみたいです……」

(……やれやれ)
745 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:25:34.88 ID:jj1t/rmq0

愛依さんの呼びかけを聞いて集まってきたのは私、真乃ちゃん、浅倉さん、月岡さんの4人。
地下階から割と近い位置にいた面々がすんなりと集まった形だろう。

甜花「えと……他の人たちは?」

(……!)

灯織「他の皆さんは……無事なんですよね?」

真乃「えっと、その……」

ばつ悪そうな表情。誰も進んで自ら言おうとしない。
そりゃそうだ。こんなこと、自分の口から通達なんて……お願いされてもしたくない。
言葉にしてしまったら、その事実を認めてしまったようで、きっと今以上にもっと辛くなる。
だからこそ、私がそれを伝えなくちゃ。


にちか「……めぐるちゃんが、死んでた」

灯織「……え? う、嘘……だよね?」

にちか「嘘じゃないよ……本当に、死んでた。間違いない」


見る見るうちに灯織ちゃんの顔からは血の気が引いていき、そして、



バターン!!



ふっと意識を失って、その場に倒れてしまった。
746 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:26:56.40 ID:jj1t/rmq0


愛依「息はしてる……多分、ショックを受けてちょっと気絶しちゃっただけだと思うから……意識はちゃんと戻ると思うよ」

愛依「念のため、後で霧子ちゃんに診てもらお。うちが連れてくから!」

(……酷なことをしてしまったんだろうな)

(ただでさえ、拘束状態で体力を削られていたのにトドメを指すような真似を……)

甜花「八宮さんが、死んじゃった……本当、なんだね……?」

真乃「はい……頭から血を流していて……相当強い力で殴りつけられたみたいなんです……」

甜花「そ、か……そう、なんだ……」

恋鐘「それにしても他のみんなは中々集まらんね。愛依の声が聞こえとらんばい?」

にちか「うーん……全体のアナウンスがあった訳でもないですし、仕方ないかもしれないですね。流石に一階から三階までは声も届きにくいでしょうし」

恋鐘「そいやったらうちがひとっ走りして伝えてくるとよ! 特に甘奈はすぐにでも甜花の無事を知りたかはずやけん!」

透「……でも、どうする? まだ終わってないよね?」

真乃「夏葉さん……だよね」

(……!)
747 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:28:27.43 ID:jj1t/rmq0

愛依「そっか……そうじゃん! まだ夏葉ちゃんが見つかってないんだもんね」

恋鐘「愛依以外に誰かの声は聞いとらんし、まだ見つかっとらんばい……? こげんみんなで探しとるのに……?」

真乃「もしかしたら、学校の中じゃないのかもしれません……中庭とか、裏庭とか……校外はまだ見てないですよね……?」

にちか「そうだ……! これだけ校舎を入念に見てるのに見つからないってことはそうに決まってるよ!」

透「あー、でも……どうする? 探しにいきたいのはわかるけど。ここも一応保全とかしといたほうがよくない?」

にちか「そっか……そうですよね」

愛依「だったらうちは残るよ。灯織ちゃんの様子が気になるしさ……」

透「じゃ、私もステイしよ」

にちか「浅倉さん?」

透「真乃ちゃんとにちかちゃん、動きたくて仕方ないって顔してるから。譲るよ」

(……この人、面倒くさがってない?)

真乃「にちかちゃん、急ごう……っ! 私たちが頑張るしかないよ……!」

にちか「そ、そうですね……!」

甜花「あ、あの……甜花も、動いていいかな……?」

甜花「何が起きてるか、甜花も知りたい……有栖川さんを探すの、手伝う……!」

愛依「甜花ちゃんは体とか大丈夫なん……? 無理してない?」

甜花「うん……大丈夫、ちょっと腰が痛いけど……」

にちか「それじゃあ私と真乃ちゃんと甜花さんの3人で外を見てきますね」

透「うす。頼んだ」

748 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:29:12.54 ID:jj1t/rmq0
-------------------------------------------------
【校外】

にちか「また分担して捜索しましょうか……どう分けます?」

甜花「えと……中庭の方は建物がちょっと多いし、人手がいるかも……」

真乃「そうですね……にちかちゃん、一緒に行ってもらえるかな」

にちか「わかった。甜花さん、裏庭をお願いしてもいいです?」

甜花「う、うん……わかった、頑張るね……」

私たちは二手に分かれて有栖川さんの捜索を開始。



彼女の才能研究教室、裁判場へと向かう裁きの祠……草の根を掻き分けて捜索をしたけど、その姿はどこにも見当たらなかった。

にちか「中庭の方じゃないのかな……一回甜花さんと合流しに行く?」

真乃「そうだね……こっちにいないのなら、裏庭の方にいるのかも……」

749 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:29:52.17 ID:jj1t/rmq0


真乃ちゃんと二人で校舎の前へとちょうど戻ってきた頃。
校舎の左手、食堂側の方から息を切らしながらこちらに走ってくる甜花さんの姿が目に入った。

甜花「ひぃ……ひぃ……二人とも、こっち……来て!」

にちか「て、甜花さん? どうしたんですか? な、なにが……」

甜花「あ、有栖川さんが……有栖川さんが……大変なの……!!」

(……!)

思わず私と真乃ちゃんは顔を見合わせた。
甜花さんの声からは並ならぬものを感じる。
裏庭の中で甜花さんが見たもの……それを今すぐにでも確かめないと。
750 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:31:21.68 ID:jj1t/rmq0
-------------------------------------------------
【校舎裏 裏庭の扉前】

「七草さん、ここ……この中で……!」

甜花さんに促されるままに手をドアノブにかける。
ボイラー室も兼ねている裏庭の扉は鉄製の重厚な作りの扉だ。
ただ、今回私が感じている重量はそれだけの話じゃない。
単純な質量以上の『圧』を、扉を隔てた先から感じていた。
それは予感と言ってもいいかもしれない。
この扉を開けた先で待っているものが、私たちにとって、打ちひしがれるほどに甚大で、深刻で、惨憺たるものであるという予感。

「にちかちゃん、行こう……」

私は必要以上に大きく首を縦に振った。
さっきまで頭の中を埋め尽くしていた予感を、振り落とそうとしたのかもしれない。
扉を開けるのに、助走が必要だったのかもしれない。
とにかく私は、その勢いのままに、一思いに扉を開けた。



その先で、見たのは……



見て、しまったのは……
751 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:32:06.59 ID:jj1t/rmq0





【まるでめぐるちゃんの死因をなぞるかのように頭から血を流して事切れている有栖川さんの姿だった】





752 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:33:00.46 ID:jj1t/rmq0

【ピンポンパンポーン……】

『死体が発見されました! 一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』

『うぷぷぷ……やっぱり、こうなったね。こうなっちゃったね』

『コロシアイは一度はじまり出したら止まらない! オマエラはもうこの連鎖から逃げられないんだよー!』

『アーッハッハッハッハ!』

『……あ、忘れてた。死体発見現場は裏庭だよ。可及的速やかにお集まりくださいね!』


モノクマのアナウンスにより、すぐに【全員】が裏庭へと集まった。
一回目のアナウンスの時には集まれなかった全員がこうして集まったということは、事件の終末を意味することになる。
血で飾られた、デッドエンドの終末に辿り着いてしまったのである。

樹里「……んで、なんで夏葉が死んでんだよッ!」

凛世「樹里さん……」

樹里「こいつはアタシたちの中でも一番仲間のことを考えて、全員生還を本気で目指してたのに……なんで殺されなくちゃいけなかったんだよ!」

西城さんの慟哭が虚しく響いた。
誰もそれに言葉を返すことなどできない。
有栖川さんの在り方も、それが死によってふみにじられたことも、そしてそれに対する怒りも全員が同じだからだ。
753 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:35:12.25 ID:jj1t/rmq0

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノファニー「一日に2回も死体を見ることになるなんて……グロいわ、グロのキャパオーバーだわ……」

モノファニー「でろでろでろでろ……」

モノスケ「ハンッ、1回目の事件は物足りへんかったからな。今回はその分期待ができそうや」

モノスケ「この事件の犯人からはドロドロに淀んだ悪意が透けて見えるで……!」

モノクマ「うぷぷぷ……まさかこんなに早い段階でこの二人が退場するなんて、みんなも予想外だったよね!」

にちか「誰であろうと予想外だよ……みんな、死ぬなんて思ってなかった」

モノクマ「うぷぷぷ……まあオマエラはそう言うよね」

にちか「はぁ……?」

あさひ「ねえモノクマ、これでやっと捜査に移れるんだよね? これ以上のことはもうないんだよね?」

モノクマ「そうだね。もう今から死者が増えることはないと思われるよ。今回の裁判については八宮さんと有栖川さんの二つの死体について議論をしてもらうかたちになります」
754 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:37:38.54 ID:jj1t/rmq0

あさひ「ふむふむ……一つ聞いておきたいんっすけど、今回の二つの事件。犯人はそれぞれ別々なんっすか?」

霧子「犯人が別……? 二人の命を奪ったのは、それぞれ別な人なのかな……?」

あさひ「その可能性は結構あると思うんっすよね。時間と距離も結構空いてるし……こういう時ってどう考えればいいのかなって」

モノクマ「うーん、そうだね。この手のお悩み相談は毎回恒例のことなんですけれど、今回のコロシアイ学園生活については」

モノクマ「どちらの事件についても【そのクロは学級裁判の対象となります】!」

モノクマ「仮に八宮さんと有栖川さんを殺害したクロが別だったとしても、シロ側の生徒にはその【両方を特定する義務】が課せられるわけだね」

あさひ「ふーん……その場合は投票も2回するんっすか?」

モノクマ「そうなるね、それぞれのクロについて投票を行い、それぞれの結果によって判定が行われるよ」

あさひ「たとえば、片方のクロを当てることに成功して、もう片方のクロを当てるのに失敗した場合は?」

モノクマ「その場合は当てられたクロと、シロ全員がおしおきだね。シロを欺いたクロのただ一人だけが卒業することになる」

あさひ「……了解っす! 大体把握できたっす」
755 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:39:14.87 ID:jj1t/rmq0

モノファニー「ちょっと複雑な構造にはなるから、気になったらアタイたちに聞いてちょうだいね」

モノタロウ「一生懸命マニュアルを読み上げさせてもらうからね!」

モノクマ「それじゃあ学級裁判についての説明も終わったし、オマエラには捜査に移ってもらおうと思うんだけど……」

モノクマ「……やる気ある?」

にちか「……は?」

モノクマ「現実が受け入れられないって顔だよね。まあ気持ちは察してやるけどさ、オマエラの感傷にそうそう付き合ってやる時間もないんだよ」

モノクマ「いつまでも物語が進まないとほら、退屈しちゃうでしょ?」

甘奈「た、退屈って……! 甘奈たちは大切なお友達を失ってるんだよ……?! そう簡単に切り替えられるわけが……」

樹里「いや、だからこそだ」

(……西城さん)

樹里「大切な友達を失った今だからこそ、私たちはすぐに頭を切り替えて、この現実に立ち向かわなくちゃいけない」

樹里「そうじゃなきゃ、こいつらの死はモノクマたちに弄ばれて終わっちまう……そうだろ?」

有栖川さんの一番近くにいたのは、彼女だった。
有栖川さんとは度々衝突をしながらも、彼女の持つ志や信念に共通するものを見出し、いつしか彼女たちは戦友のような間柄となっていた。
だからこそ彼女は戦旗を掲げることができたんだろう。
最後まで私たちを先導してくれようとしていた、有栖川さんの遺志を引き継いで、西城さんは焼け野原に立つ。

756 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:40:20.03 ID:jj1t/rmq0

あさひ「樹里ちゃんのいうとおりっすよ。せっかくのゲームなんだからみんなが真面目にやってくれなきゃ面白くないっす」

樹里「アタシはあさひに同調してるわけじゃない……ただ、ここで現実を解き明かすことはアタシたちが生き続けること、そして歩み続けることに不可欠なステップなんだ」

樹里「みんなも力を貸してくれ」

私は昨日の晩のことを思い出していた。
灯織ちゃんとずっとすれ違う私のことを気にかけてくれためぐるちゃんが、踏み出し、繋いでくれたあの晩。
私たちの間には確かな絆が生まれていた。
めぐるちゃんがぎゅっとひとまとまりに抱きしめた私たちがお互いに感じていた温かさ。
これを刹那の記憶の中に忘れるわけにはいかない。

にちか「真乃ちゃん、灯織ちゃん……やろう」

私たちは、この裁判を生き抜いて……めぐるちゃんから貰ったものをずっと胸に刻んで生きていかなくちゃいけないんだ。

真乃「うん……にちかちゃん、頑張ろう……っ」

灯織「当然だよ……今回のクロは絶対に解き明かす。私たちの力でね」

あさひ「……あはは、今回の裁判も面白くなりそうっすね!」

にちか「芹沢さん、あなたがこの裁判にどう挑もうと勝手だけど……」

にちか「_____私たちも、絶対に負けないから」



【捜査開始】


757 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:41:27.41 ID:jj1t/rmq0
-------------------------------------------------
モノダム「ソレジャア早速、モノクマファイルヲ配布サセテモラウヨ」

モノスケ「今回は2回分のファイルがあるから間違えんように注意して読むんやで!」

私たちは2回の事件についてそれぞれ別のタブレットを手渡された。
あくまでまだそれぞれ別の単一の事件とみなして考えるべきだということなのかもしれない。

一つ目のモノクマファイルを起動する。

『被害者となったのは超研究生級のスポタレ、八宮めぐる。死亡推定時刻は午前8時前後。死因となったのは前頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない』

灯織「めぐるの死体……後で私も見に行かせてもらってもいいかな」

にちか「うん、当たり前だよ。めぐるちゃんのことも調べなくちゃいけないし……お別れも、灯織ちゃんの口から伝えてあげて」

灯織「うん……そうする」

真乃「……」

コトダマゲット!【モノクマファイル2】
〔被害者となったのは超研究生級のスポタレ、八宮めぐる。死亡推定時刻は午前8時前後。死因となったのは前頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない〕
758 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:42:50.51 ID:jj1t/rmq0
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そして二つ目のモノクマファイル。

『被害者となったのは超研究生級の文武両道、有栖川夏葉。死亡推定時刻は午前8時30分前後。死因となったのは後頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない』

にちか「有栖川さんの死亡推定時刻……めぐるちゃんよりも明確に後なんだね」

真乃「私たちがめぐるちゃんを3階で発見していた頃にはまだ夏葉さんは生きていたことになるね……」

にちか「ちょうどあの後殺されたわけだ……」

灯織「私と甜花さんが解放してもらえたのとどっちが先なんだろうね……」

にちか「うーん、夏葉さんの方が後だと思うな。ちゃんと時計を見ていたわけではないけど……」

(似たような死因で、順番に殺されている二人)

(こうしてみると連続殺人のように思えるけど……)

コトダマゲット!【モノクマファイル3】
〔被害者となったのは超研究生級の文武両道、有栖川夏葉。死亡推定時刻は午前8時30分前後。死因となったのは後頭部を強く殴りつけられたことによる頭蓋骨陥没および脳挫傷。死体に他に目立った外傷はない〕
759 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:44:23.53 ID:jj1t/rmq0
-------------------------------------------------

灯織「今回捜査はどう進めようか……にちか、この前の事件と同じで私も一緒にやってもいい?」

にちか「うん、それはこちらからもお願い。私だけだと多分見落としめっちゃ出るし……」

真乃「あの……わ、私もいっしょにいいかな……?」

にちか「真乃ちゃん……」

(そっか、前はめぐるちゃんと一緒にやってたけど……彼女が死んでしまったから)

にちか「うん、3人でやろう。3人よれば文殊の知恵って言うしね」

灯織「よし……それじゃ頑張ろう。えっと……どこを調べるのがいいかな」

にちか「まずは有栖川さんの死体発見現場であるこの裏庭をくまなく調べよう」

真乃「その後は、めぐるの死体発見現場である校舎3階の【超研究生級のスポタレの才能研究教室】だね……!」

灯織「私と甜花さんが拘束されていた地下階の【AVルーム】も見に行ったほうがいいかな」

にちか「あ、そうそう……灯織ちゃんと甜花さんを探してる時に気になったものがあったから【体育館】にも行ってみてもいい?」

灯織「うん、時間が許す限りは全部を見ておこう」

今回は前回と違って私は謎を解き明かすシロの視点での捜査になるし、二人の犠牲者の謎を解き明かす必要がある。
気合を入れていかないといけないぞ……よし!

(まずは裏庭の捜査からだよね……どこから調べよう)

760 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:45:49.29 ID:jj1t/rmq0
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【真乃と話す】

今回の事件は死体が二つも見つかっているし、事件はリアルタイムに起きたものだ。
私はともかく、灯織ちゃんは途中まで離脱していたわけだし、改めて整理しておいた方がいいかもしれないな。

にちか「ねえ、真乃ちゃん。事件をはじめから振り返ってみるのを手伝ってもらってもいい? 灯織ちゃんへの説明も兼ねて」

灯織「にちか……そうだね、私からもお願い。この事件の顛末を私も知っておきたいかな」

真乃「う、うん……! それじゃあ私の目線での事件を整理していくね……っ」

真乃「まず最初に私、にちかちゃん、恋鐘ちゃん、霧子ちゃん、樹里ちゃん、凛世ちゃん、甘奈ちゃん、愛依ちゃん、あさひちゃんが体育館に集まったの」

にちか「体育祭に参加するためだね。朝のアナウンスと同じぐらいに動き出す約束にはしていたから……」

真乃「それで、めぐるちゃん、灯織ちゃん、甜花ちゃん、夏葉さんの姿がないってことが話題になって……」

灯織「樋口さんと浅倉さんは?」

にちか「不参加だろうってことで片付けた。なんだかのっぴきならない事情って感じだし、踏み込みづらいんだよね」
761 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:47:09.75 ID:jj1t/rmq0

真乃「だから、私とにちかちゃん、甘奈ちゃんの3人で三階のめぐるちゃんの才能教室を」

真乃「恋鐘ちゃん、凛世ちゃんの2人で食堂を」

真乃「樹里ちゃんが1人で寄宿舎にそれぞれを呼びに行ったの。残った3人はあさひちゃんの様子をみる意味合いも兼ねて待機」

にちか「そこで私たちがめぐるちゃんの死体を最初に発見したんだよね」

にちか「ここで灯織ちゃん、甜花さん、有栖川さん以外の全員が集まったから逆に3人には何か集まれない異常事態が起きてるんだってことになって……」

にちか「三階を芹沢さんと樋口さん、二階を浅倉さんと月岡さん、一階を私と真乃ちゃんと甘奈ちゃんと西城さん、地下を愛依さんで探すことになったんだ」

真乃「凛世ちゃんと霧子ちゃんにはめぐるちゃんの死体発見現場の保全をお願いしたんだ……!」


灯織「それで、愛依さんが私たちを見つけてくれた……愛依さんの呼びかけに応じて集まったのはにちか、真乃、浅倉さんの3人だったんだっけ」

にちか「そう、ここで最後の有栖川さんを探すために私と真乃ちゃんと甜花さんで動き出して……」

真乃「裏庭に向かった甜花さんが夏葉さんの死体を発見したんだね……っ」

にちか「うう……なんだか長い事件だったな」

灯織「それぞれ現場が学校のあちこちに点在してるから……場所と分担は覚えておかないと忘れちゃいそうだよね」

(探した場所とその分担か……)

(一応、覚えているところはしっかりと押さえておこうかな)

コトダマゲット!【事件の経緯】
〔めぐると夏葉の死体を発見するまでの経緯は以下の通り。
@体育館に集まった真乃、恋鐘、霧子、樹里、凛世、甘奈、あさひ、愛依、にちかが異常に気づく。
真乃、にちか、甘奈が3階の才能研究教室、恋鐘、凛世が1階の食堂、樹里が寄宿舎の捜索を担当。
A3階の才能研究教室にてめぐるの死体を発見。残る行方不明の灯織、甜花、夏葉の捜索を開始。
あさひと円香で3階、透と恋鐘で2階、真乃とにちかと樹里と甘奈で1階、愛依で地下を探索。
B愛依が地下で灯織と甜花を発見。
残る夏葉の捜索に真乃とにちかと甜花が行動開始。
真乃とにちかが中庭、甜花が裏庭を担当。
C裏庭で甜花が夏葉の死体を発見〕

762 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:48:37.23 ID:jj1t/rmq0
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【死体の周辺】

有栖川さんの亡骸は、ボイラーの装置にもたれかかるようにして眠っている。頭から滴る血液が、下の鉄板に血溜まりを作っているのが何とも痛ましい。

真乃「めぐるちゃんの死体と、本当にそっくりだね……」

灯織「めぐるもこんな風に殴られて命を落としたんだよね……何か関係あるのかな」

にちか「うーん……ちょっと見てみよっか」

有栖川さんの死体に近づいてペタペタと触ってみる。
とはいえ、私に専門的なことは何も分からない。
モノクマファイル以上の情報は手に入らないかもな……

あさひ「にちかちゃん、そんな調べ方じゃダメっすよ!」

にちか「わっ!? 芹沢さん?!」

あさひ「モノクマファイルに書いてあることをなぞっても新しい発見はないっす。注目するのならモノクマファイルに書いてないところ……っす!」

芹沢さんは私の傍から突然に姿を現したかと思うと、その勢いのままに有栖川さんの死体に近づいて、その右手を持ち上げてじっと見つめ始めた。
763 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:50:07.27 ID:jj1t/rmq0

真乃「あさひちゃん……? 夏葉さんが何か持ってるの?」

あさひ「ううん、その逆っす。何も持ってないけど……何かを持とうとした痕跡があるっすよ。ほら」

灯織「ん……? あ、あれ? 爪が……割れてる?」

芹沢さんが私たちに示した有栖川さんの指先は、爪がパキパキと割れてしまっていた。
しかもこの割れ方からして、何かを落としたとかではなさそうだ。

あさひ「なんなんすかねこれ」

芹沢さんはそう言いながら、手を自分の方へと近づけると……

あさひ「くんくん……」

鼻を近づけて指の匂いを嗅ぎ始めた。

にちか「な、なにやってんの芹沢さん?!」

あさひ「爪の間になんか灰色の粒々が見えるんで、何かなって……舐めないだけ大目に見て欲しいっす」

(いや、よくも抵抗なく嗅げるな……)

あさひ「……夏葉さんの指の爪、なんか鉄みたいな匂いがするっすよ」

真乃「鉄……? 血の匂いも鉄っぽいって言うけどそれとは違うの……?」

あさひ「そうっすね。公園のジャングルジム、メッキが剥がれた時みたいな匂いがするっす」

(鉄の匂いがする、割れた指の爪……か)

(何か有栖川さんは鉄製のものを引っ掻いていたってことなのかな……?)

コトダマゲット!【夏葉の割れた指の爪】
〔夏葉の死体の手指の爪は割れていた。あさひ曰く、爪からは鉄の匂いがするらしく、鉄製のものを引っ掻いて割れたのではないかと推測できる〕
764 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:51:14.61 ID:jj1t/rmq0
-------------------------------------------------

あさひ「まあこんな感じっすね。死体に抵抗があるのはわかるっすけど、ちゃんと調べなきゃ手がかりは手に入らないっすよ」

芹沢さんは私たちにそう言うとまたどこかに引っ込んでしまった。
相当私たちの拙い捜査っぷりが彼女には目に余ったんだろう。
こうして一緒に捜査をしている限りでは芹沢さんは悪い人間ではないのにな……

灯織「あさひが犯人となっていない限りは協力はしてくれるはずだよ。素直に証拠の類も受け入れていいと思う」

にちか「灯織ちゃん……バレてた?」

灯織「まあ……私がにちかにずっと向けてた視線にそっくりだったから」

(それは、相当だな……)

だとすると、私がいつか芹沢さんのことを信じる時、信じたいと思える時も来るんだろうか。
それはなんだか、想像ができなかった。

765 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:52:03.72 ID:jj1t/rmq0
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【鉄パイプ】

死体の近くに落ちている鉄パイプだ。
先端の部分にはベッタリと有栖川さんの血が付着している。

樹里「この部屋で使われているパイプの同じものの廃材みたいだな」

西城さんのいうとおり、これ以外にも使われていないパイプが向こうのほうにいくらか積まれているのが見て取れる。
犯人はパイプの山から一本を抜き取って凶器として使ったんだろう。

灯織「相当強い力で殴りつけたんだね……ちょっと曲がっちゃってるし……」

真乃「このパイプが凶器になったのは間違いなさそうだね……っ」

樹里「重さとしても手頃なぐらいだしな。これを使えば誰でも難なく撲殺できたはずだ」

にちか「……」

樹里「……あ? なんだよその視線」

にちか「いや……西城さん、そのパイプをこう肩に担ぐ感じで持つのすごい様になるなって」

樹里「……」

西城さんは不機嫌そうにパイプをそこに放った。
床の鉄板とパイプが奏でる物悲しい金属音がそこら中に響き渡った……

コトダマゲット!【凶器の鉄パイプ】
〔夏葉の命を奪った凶器の鉄パイプ。裏には廃材の鉄パイプがいくつか積まれており、犯人はそのうちの一つを使ったものと思われる〕
766 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:53:42.73 ID:jj1t/rmq0
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【ボンベ】

有栖川さんの死体の側には見慣れないパッケージのボンベのようなものが落ちている。

霧子「これ……私の才能研究教室から持ち出されたお薬みたい……」

灯織「幽谷さんの……? ということは医療用の薬ですか……?」

霧子「うん……これは医療用の【麻酔薬】だよ……」

にちか「へー、これが麻酔なんですね! 私初めて見ましたよー!」

にちか「これに入ってるものを飲んじゃえば意識を失っちゃうわけなんですね!」

霧子「えっと……医療用麻酔には大きく分けて四つの種類があるの……」

霧子「意識を失うと同時に痛みを感じなくして、手術の進行を円滑にする全身麻酔……」

霧子「脊椎の痛みを伝達する硬膜外腔に作用して、痛みの信号をブロックする硬膜外腔麻酔……」

霧子「硬膜外腔とよく似ているんだけど、より強力な効果を持つ脊椎麻酔……」

霧子「そして、治療部位の痛みだけをシャットアウトする局所麻酔の四つ……もっと詳しく分けることもできるんだけど……」

にちか「?????」

霧子「こ、今回はそれは省略するね……」

(幽谷さんに露骨に気を使わせてしまった……)
767 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:54:48.10 ID:jj1t/rmq0

霧子「それで、大事なのはこのお薬が全身麻酔用ってことなんだけど……」

霧子「にちかちゃんが言ってくれたように、飲んで使うお薬ではないの……」

灯織「というと注射……ですか?」

霧子「ううん、そうでもなくて……このお薬は濃度の高い『亜酸化窒素』と酸素の化合物……【吸引性の麻酔】なんだ」

にちか「それってつまり、吸っちゃうと意識を失っちゃう薬ってことですか?」

霧子「うん、簡単に言えばそうなるかな……意識を失っている時間の調整に、本当は配合も慎重にしなくちゃいけないし専門の資格も必要なんだけど……」

霧子「多分、これはそんな扱い方はされてないよね……」

幽谷さんはひどくつらそうな表情をしている。
医療の道に近い存在の彼女だからこそ、人の命を救うための技術が悪用されたことに胸を痛めているんだろう。

霧子「ボンベの蓋も開けっぱなしになっているから、この部屋はこのガスで充満していたはずだよ……」

霧子「もし夏葉さんもここに監禁されていたのなら……意識を自力で取り戻すことは不可能だっただろうね……」

真乃「わ、私たちはここにいても大丈夫なんでしょうか……」

霧子「扉を開け放した状態にしてあるからもう大丈夫だと思うよ……」

霧子「ちょっとでも吸ってしまったら指先に麻痺が起きたりするはずだから……」

灯織「よかった、ちゃんとトノサマガエルも作れます」

(死体発見現場は気化した麻酔で充満していた……か)

(有栖川さんが朝から行方知らずになっていた理由がだんだんと見えてきた気がするな)

コトダマゲット!【気化麻酔】
〔夏葉の死体発見現場には医療用気化麻酔が充満していた。監禁状態にあった夏葉が意識を取り戻すことは困難だったと思われる〕

768 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:55:55.62 ID:jj1t/rmq0
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【隅に落ちているハンカチ】

雑草が繁茂している裏庭の一角で、その草むらの中に姿を隠すようにしているハンカチを見つけた。
桃色の布で、ワンポイント可愛らしい刺繍が入っている。

真乃「ふふ……誰かの落とし物かな? 裏庭をお散歩してたら、ついうっかり落としちゃったのかも」

灯織「いや、これは犯人の手がかりなんじゃない? 有栖川さんを殺害して動転した犯人がついうっかり落としてしまった証拠なんだよ」

(二人の間でこのハンカチの第一印象の落差がすごいな……)

凛世「にちかさん……少しそちらのハンカチを見させていただいても……?」

にちか「え? は、はい……」

凛世「……」

凛世「まだ今は朝の放送があってからそれほど時間はたっておりません……朝起きて、自分の部屋を出てからすでにこのハンカチの落とし主はお手洗いに一度行かれたのでしょうか……?」

にちか「え……? あ、確かにこのハンカチ、折り目と畳み方がちょっと違うね……」

真乃「個室のトイレを使う時は備え付けのタオルを使うのが普通……だよね」

灯織「もしかすると落とし主は頻尿なのかもしれませんね。若くても精神的なストレスなどから頻尿の悩みを抱えている人はいると聞きます」

灯織「この極限状態の学園生活の中で、悩み、思い、患ってしまった可能性もあるのでは……?」

(……流石に頻尿ってことはないだろう)

凛世「通常、ハンカチは毎日変えるものです……朝のこの時間に使った痕跡が既にあるのは少し違和感を感じます……」

杜野さんの指摘はごもっともだと思う。
ハンカチの使い道はただお手洗いの後に手を拭くだけじゃない。
もっと他の何かで使った可能性だってあるはずだ。

にちか「ですね! ハンカチは普通毎日変えるもんですもん!」

そう言って杜野さんに同調しながら、スカートのポケットに入れたまんまのハンカチを奥の方に押し込んだ。

コトダマゲット!【現場に落ちていたハンカチ】
〔裏庭の隅に落ちていたハンカチ。今日になって既に使われた痕跡がある。落とし主は不明〕

769 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:57:22.43 ID:jj1t/rmq0
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【モニター】

今回はこのモニターにだいぶ弄ばれた気がする。
ルカさんの事件の時とのアナウンスの違いから学園中を駆け回ることになったわけだし、実際その裏には私たちの知らない惨劇が隠されていた。
画面は今はなにも映さずにダンマリだけど、モノクマの残影を見ているようで、画面の前にいるだけでイライラしてくるようだった。

愛依「モノクマの笑い声、今も頭に残っててめっちゃ腹立つわ……マジ、なにが楽しいわけ?」

灯織「愛依さん……その怒りはよく分かります。モノクマの態度はどこまでも私たちを逆撫でしていますよね」

にちか「今も私たちのことをどこかで監視してるんだろうな……はー、うざ」

真乃「そういえば、今回も、前回のルカさんの事件でも鳴ってましたけど……死体を発見するとアナウンスが流れるんですね」

愛依「そーだね……モノクマファイルを配ったり色々あるからみんなを集める必要があるんじゃん?」

真乃「少し疑問なんですけど……あれってどういう基準で鳴らしているんんでしょうか……?」

灯織「基準……? 単純に誰かが死体を見つけた時、じゃなくて?」

真乃「うん……それだったら、今回の事件だと夏葉さんの死体で鳴るアナウンスはもっと前になるはずなんだ……」

(……そうだ!)
770 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:58:26.71 ID:jj1t/rmq0

◆◇◆◇◆◇◆◇

甜花「ひぃ……ひぃ……二人とも、こっち……来て!」

にちか「て、甜花さん? どうしたんですか? な、なにが……」

甜花「あ、有栖川さんが……有栖川さんが……大変なの……!!」

(……!)

◆◇◆◇◆◇◆◇

(今回の事件では、甜花さんが私たちよりも先に死体を発見している)

(でも、その時にアナウンスは鳴っていない……!)

(私と真乃ちゃんの二人で同時に踏み込んだ時に初めてアナウンスが鳴った……)

(もしかして、何か死体発見アナウンスが鳴ることには真乃ちゃんの言うとおり別な条件があるの……?)

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノスケ「やるやん、なかなか目ざとくて感心したで。キサマラもただ息して飯食って排泄して寝とるだけやないんやな!」

モノタロウ「そう、キサマラの予測しているとおり死体発見アナウンスが鳴るのには条件があるんだよ!」

愛依「マジ?! なんなの、その条件って?!」
771 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 14:59:45.57 ID:jj1t/rmq0

モノダム「……」

灯織「そう簡単には教えてくれない……ですよね」

灯織「モノクマたちの考えそうなことです。断片的なことだけ教えて肝心のことは伏せる!」

灯織「そうして悩む私たちのことを嘲笑うつもりなんです!」

モノファニー「殺害したクロを除いた【シロ三人以上】が死体を発見することが条件よ!」

灯織「あ、あれ……?」

モノタロウ「オイラたち、こんなことも教えてくれないぐらい冷たいと思われてたの?! 心外だなぁ」

モノスケ「そもそもこの条件については【キサマラにも一度質問を受けとる】ことやしな」

(……え?)

モノスケ「ま……ソイツは他の連中と共有をする気もなさそうやし、キサマラで改めて共有しておいてや」

モノタロウ「情報は水だよ! 独占しちゃいけないんだ!」

【ばーいくま〜〜〜〜!!!!】

真乃「い、行っちゃいましたね……」

死体発見アナウンスには条件があった。
ただ死体が見つかるだけでなく、クロ以外のシロ3人による目撃が必要になる。
これって要は死体の発見時の3人は確実にクロではなくなるってことだよね……これは情報としてめちゃくちゃでかいんじゃない?!

そしてもう一つ大きな情報は……
この死体発見アナウンスの情報については既に知っている人物がいたということ。
しかもそれは誰にも共有されることなく今この瞬間までその人物によって独占された情報だったと言う事実。
明らかに意図的だ。

このことは、裁判まで覚えておいた方がいいに違いない……!

コトダマゲット!【死体発見アナウンス】
〔殺害犯であるクロ以外のシロの生徒3人以上が死体を発見した際に、現場を周知するために鳴らされるアナウンス。その条件については既にモノクマーズに尋ねた生徒がいるらしい〕

772 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 15:03:38.96 ID:jj1t/rmq0
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にちか「裏庭で調べられるのはこれぐらいかな……」

真乃「それじゃあ次は……めぐるちゃんの現場だね」

灯織「……」

にちか「二人とも、大丈夫? ……辛かったら」

真乃「大丈夫……私もいっしょに立ち向かうって決めたから……っ」

灯織「私も同じだよ。めぐるは私に勇気をくれた人だから……彼女の死に向き合う勇気がなくちゃ、嘘になる」

にちか「……よし、行くよ」

私たちは3人でめぐるちゃんの死体発見現場へと走り出した。

773 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 15:05:20.93 ID:jj1t/rmq0

一旦ここまでで区切ります。
今回捜査パートが長めなので分割してまた書き込みます。
774 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:09:14.50 ID:jj1t/rmq0
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【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室奥 シャワールーム】

めぐるちゃんの死体は時間が止まってしまったかのように、発見当時そのままの姿が残されていた。
有栖川さんの死で僅かの間忘れることができていた喪失感が再び私たちを襲う。
気を抜けば今すぐにでもその亡骸に縋り泣き叫びたくなる衝動を、必死に飲み込んでしたいと向き合った。

灯織「めぐる……今までありがとう。あなたのおかげで私は大切なものを手にできたし、この現実に向き合う勇気を得た」

灯織「絶対に仇は私が討つから」

(……私たちも同じ気持ちだよ)

めぐるちゃんの死体に手を合わせ、そうつぶやく灯織ちゃんを二人でじっと見つめていた。

灯織「……さ、二人とも。どこから調べようか」

にちか「そうだね……ここも色々と調べたいところはあるから、手早く調べないとね」

775 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:10:27.40 ID:jj1t/rmq0
-------------------------------------------------
【めぐるの死体】

めぐるちゃんは昨日までの元気溌剌さが嘘のように静かに押し黙っている。
もう彼女の口から誰かを励ますような言葉も聞こえてはこないし、もうこちらの声に反応を返してくることもないのだ。

にちか「めぐるちゃん……私が今こうやって二人と協力できているのも全部あなたのおかげだよ。ちゃんとお礼……したかったな」

真乃「にちかちゃん……」

彼女と話をしたのは昨晩が最後。
彼女にギュッと抱きしめられて、それが照れ臭くてそそくさと自分の部屋に戻ったのが今になって惜しくなる。
その時の感触を思い出したくなったのか、私の手は無意識に自分自身の右腕を強く握り込んでいた。
瞬間、思い出す。

にちか「____痛ッ?!」

◆◇◆◇◆◇◆◇

真乃「めぐるちゃん、次はこれかな……?」

めぐる「うん、ゆっくりでいいからね。体を痛めないことがいちばん大事だよ!」

にちか「ふぅ……あっついなぁ……」

真乃「よいしょ……それじゃあ持っていくね……っ!」

めぐる「うん……あっ、真乃! ちょっと待って!」

真乃「え? ……わ、わわっ!?」

ガッシャーン!

にちか「痛っ……」

真乃「に、にちかちゃん! ごめんなさい……だ、大丈夫……?」

◆◇◆◇◆◇◆◇
776 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:11:22.49 ID:jj1t/rmq0

真乃「……にちかちゃん?」

にちか「あ、いや……な、なんでもない……」

そういえば一気にいろんなことが起きすぎていてすっかり忘れていた。
そもそも昨日やっておくべき準備が今朝にまでもつれ込んだのは私と真乃ちゃんによる接触事故があったから。
あれがなければ、今日の朝のアナウンスと同時に体育祭は始まっていたのだろうか?
少なくとも、めぐるちゃんが一人で先に才能研究教室に行くことはなかっただろう。

(……)

(……え? そ、それって)

真乃「……にちかちゃん? さっきから様子がおかしいけど、どうしたの?」

ダメだ。気づいちゃいけないことに気づいてしまったかもしれない。
このことは絶対に、誰にも言えない。
特に、真乃ちゃんだけには……

昨日私と真乃ちゃんの事故がなければ、めぐるちゃんは死なずに済んだのかも、なんて


コトダマゲット!【にちかの打ち身】
〔昨晩の体育祭の準備の際にうっかり真乃とにちかがぶつかったことでにちかは右腕に打ち身を負ってしまっている。そのせいで準備は昨晩中断され、今朝にスポーツ用品の搬入がもつれ込んだ〕
777 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:12:31.47 ID:jj1t/rmq0
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【シャワールームの窓】

めぐるちゃんの死体がもたれかかっている壁には窓が取り付けられていて、そこから外を見ることができる。
ちょうど窓に真正面から向き合っているのが体育館の窓。
両方の窓の間にある空間にはプールの建物が鎮座している。

灯織「この窓、いつから開いてたの? 最初に死体を見つけた時にはもう開いてたの?」

にちか「えっと……確かそのはず、そうだったよね?」

真乃「う、うん……」

灯織「普段から開けっぱなしの窓ってわけでもないよね……めぐるが開けたのかな」

そう呟きながら灯織ちゃんは窓に近づいていき、窓の隙間から下を覗き込んだ。

灯織「この真下はプール……遊泳ゾーンなんだ」

真乃「うん……そうだね。ここは三階だから飛び込み台よりももっと高い場所になるね……」

にちか「うへー……下手な着地をしたらただですまなそー……」

灯織「……ねえ、二人とも。二人は朝、体育館に集まってたんだよね?」

真乃「う、うん……私とにちかちゃんは体育館に集まってから、ここに来たんだけど……それがどうかしたの?」

灯織「ここの向かい……あの体育館の窓も開いてるんだけどあれは誰が?」

にちか「……え? ちょ、ちょっと見せて……?」

(ホントだ……! ここの窓と同様に体育館側の窓も開いてる……!)

灯織「体育祭をやるんだったら風通しをよくしておくことはあるだろうし、別に変わったことでもないような気はするけど……確認しておきたくて」

(……)

向かい合う位置関係にあって、共に開け放たれていた二つの窓か……何か意味を感じずにはいられないな。
これは改めて、あとでもう一回体育館にも調査に行ったほうがいいだろうな。

コトダマゲット!【シャワールームの窓】
〔めぐるの殺害現場である才能研究教室奥のシャワールームの窓は死体発見当時から開け放たれていた〕
778 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:13:24.63 ID:jj1t/rmq0
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窓の位置関係を把握した私たちは一度窓から離れた。
後退りして、遠目に窓を見直したその時。
窓の外周に、違和感を感じた。
ガラスの窓をはめ込むアルミサッシのフレーム、その柱の部分に、何か黒い線のようなものが走っているのである。

にちか「ねえ二人とも、これなんだと思う?」

真乃「これは……引っ掻き傷、かな……?」

灯織「何か硬くて細いものが上下してついた後みたい。絞殺死体につきがちな柵状痕によく似てるかも」

真乃「ほ、ほわ……っ?!」

灯織「ひ、比喩だから! 違うの、ドラマでそういうのを見たことがあるってだけで……」

灯織ちゃんの例えは物騒だけど、的外れでもないような気がする。
こんな痕のつきかたは、ただ擦れただけじゃつかないもの。
硬くて細いものを、くくり付けでもしない限りはつかないはずだ。

そんな条件を満たすもの……どんなものが考えられるんだろうか?

コトダマゲット!【シャワールームの窓のフレーム】
〔めぐるの殺害現場となった才能研究教室奥のシャワールームの窓のフレームには細くて固いものをくくり付けたような擦れた痕跡が残っていた〕
779 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:14:41.07 ID:jj1t/rmq0
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【金属バット】

めぐるちゃんの死体の近くに落ちているこれが直接の凶器だ。
高速で投げられる硬球に負けることがないように頑丈に作られたその芯で、頭蓋骨を強く殴られればひとたまりもない。
きっと即死だったんだろうなと素人でも感じるぐらいには、硬くて、太くて、恐ろしい凶器だ。

樹里「バットはこんなことに使うために作られたもんじゃねーのによ……」

にちか「……」

樹里「おい、さっきと同じことまたアタシで考えてるんじゃねーだろうな」

にちか「いや、バットはこんなこと〜のセリフも相まって親和性バチバチでお見それしてます」

樹里「お前なぁ……」

西城さんは呆れた顔をした後、気にすることなくバットをあちこちいろんな角度から眺めて調べ始めた。
それにしてもよく似合う。金髪ショートの女の子に何の武器を持たせるかの街頭アンケートをとれば文句なしの一位だ。

灯織「犯人はどちらも凶器を現場で調達しているんですね」

真乃「裏庭の鉄パイプ、才能研究教室の金属バットだもんね……っ」

にちか「凶器を使い分けたことに何か理由はあるのかな?」

灯織「単純に証拠品を持った状態で移動して見つかるのを恐れたから……?」

灯織「それかもしかすると、犯人は別だから……とか」

どちらにしても決めつけるのは危険かな。
とはいえ、凶器がそれぞれ違うことは押さえておくのは重要かもしれない。

コトダマアップデート!【凶器の鉄パイプ】→【二人を殺害した凶器】
〔めぐるを殺害したのは才能研究教室の金属バットで、夏葉を殺害したのは裏庭の鉄パイプでそれぞれ命を奪った凶器が異なる。犯人は現場にあったものを使って犯行を行ったようだ〕
780 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:15:34.70 ID:jj1t/rmq0
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【ボンベ】

夏葉さんの現場でも見たのと同じパッケージのボンベが床に転がっている。
こちらも蓋が開けられていて、中の気体が放出された後の空き容器みたいだ。

恋鐘「こいが霧子の言うとった『キカマスイ』たいね! こいがあったけん、めぐるも夏葉も逃げ出すことができんかったばい!」

灯織「……よかった、ちゃんと影絵でうさぎが作れた」

灯織「この部屋も危険な気体は既に換気されて無くなってるみたいだよ」

真乃「ふふ……よかったね、灯織ちゃん」

(二つの現場で共通する気化麻酔……か)

(幽谷さんの才能研究教室から持ち出した、出所も同じだろう)

(犯人はどうして二人の意識を麻酔で奪う必要があったのかは気になるところだな)

コトダマアップデート!【気化麻酔】
〔夏葉とめぐるの死体発見現場には医療用気化麻酔が充満していた。監禁状態にあった二人が意識を取り戻すことは困難だったと思われる〕
781 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:16:45.10 ID:jj1t/rmq0
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にちか「……よし、めぐるちゃんの才能研究教室で調べたいのもこれくらいになるかな」

灯織「どちらの現場も見ることはできたね……これからどうしようか」

にちか「さっき窓から覗き込んで気になったからプールと体育館はどっちも一回見ておきたいよね……」

真乃「それに、灯織ちゃんと甜花ちゃんが監禁されてたAVルームにも行っておきたいよね……」

灯織「よし、急ごう。あんまり時間は残ってないよ」

そうして才能研究教室を後にして、下の階へと向かおうとした時。


「え〜! 何か証拠があるかもしれないじゃないっすか〜!」


廊下に響き渡って聞こえてきたのは、あの子が駄々をこねる声。
その声を発した主は、向こう端で揉め事を起こしていると見えた。

にちか「……ちょっと様子見に行こうか」

真乃「う、うん……!」

782 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:17:51.20 ID:jj1t/rmq0
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【超研究生級のコメンテーターの才能研究教室前】

円香「しつこい。何回言えばいいの? ここを退く気はないから」

あさひ「円香ちゃん、ちょっとぐらい捜査したほうがいいっすよ〜! ずっとここにいても何も分からなくないっすか〜?」

円香「じゃああんたもここに入る理由はないね」

あさひ「む〜」

円香「捜査は浅倉に任せてる。裁判になったらちゃんと協力するから」

あまりにも想定通りの二人の問答だった。
この期に及んで侵入を試みようとする芹沢さんに、断固として譲らない樋口さん。
裁判を目前に控えていると言うのにこの二人のスタンスは全く変わらないな。

あさひ「あっ、にちかちゃん、真乃ちゃん、灯織ちゃん! みんなもお願いして欲しいっす! この部屋の中に手がかりがあるかもしれないっすよ!?」

(手がかり……ねぇ?)
783 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:19:25.19 ID:jj1t/rmq0

にちか「樋口さん、この部屋が開放されてからずっとここに居るんですよね?」

円香「そうだね。浅倉と交代で、どっちかは基本ずっといるようにしてる」

にちか「……」

(実際樋口さんと浅倉さんがここをまんじりとも動かず見張っている様子は何度も目撃している)

(この教室も、この二人も事件に関与している可能性はかなり低いと思うけど……どうしたもんかな)

にちか「それだけずっとここにいたら怪しい人影とか、物音とかは?」

円香「それも別に。事件が起きたのは同じ階みたいだけど生憎私は何も知らないから」

にちか「……」

(うぅ、暖簾に腕押しって感じかも)

灯織「……あさひ、この教室に手がかりはないよ。別を当たろう」

あさひ「えー! みんなはこの部屋みたくないんっすか?」

にちか「そりゃ気になるけど……これだけ拒絶されたら引き下がるしかないでしょ」
784 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:20:29.52 ID:jj1t/rmq0

あさひ「よくわかんないっすね、みんな。わたしの方がゲームに全力になって、引いてはみんなが生き残る方にプラスな存在のはずなのに、非協力的な円香ちゃんの方の方を持つんっすか?」

真乃「そ、それは……」

にちか「ちがう……まだ、この段階じゃあなたがゲームに勝とうとしてることが私たちにプラスになるかどうかわからないでしょ」

あさひ「……あ、それも確かにそうっすね」

あさひ「あはは、それじゃ仕方ないっすね!」

にちか「あっ、ちょっ、急に逃げんな!」

芹沢さんはこれ以上は居座っても意味がないと観念したのか、くるっと背を向けて走り去ってしまった。
言いたいことだけ言って、本当に自分勝手。
残った私は大きなため息を一つ。

円香「……ありがとう。追い払ってくれて」

それを見かねてか、樋口さんがお礼の言葉をくれた。

にちか「いや、別に何もしてないんで……」
785 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:21:35.11 ID:jj1t/rmq0

円香「……ごめん。いつか、説明したいとは思ってるんだけど今はまだ」

にちか「え? あ、ああ……」

本音を言えば、この期に及んで妥協すら見せない樋口さんに少し苛立っていた部分はあった。
人の生き死によりも優先すべき自分の秘密なんてもの、想像もできないし、計りかねる。
だから現実味がないし、樋口さんも折れてくれればいいのになと軽く思っていた。

(……)

ただ、その安易な考えは、樋口さんが袖に寄せた皺と同じようにグシャグシャになった。
樋口さんの伏せた視線から感じるのは、私たちに向けた申し訳なさ。そして彼女の抱える秘密の重みだ。
私たちがただの好奇心で開けていい扉ではないことが、すぐにわかった。

にちか「了解です。樋口さんはここで見てくれてて大丈夫ですから」

円香「……助かる」

にちか「それじゃ、行きますね……」

円香「……あ、ちょっと待って」

灯織「どうかしましたか?」



円香「……ひとつ、証言をさせてもらってもいい?」


786 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:22:56.80 ID:jj1t/rmq0

真乃「ほわ……証言、ですか……?」

円香「うん。私と浅倉でここを監視してたことに関係する話なんだけど」

円香「基本はずっとここに二人のどちらかがいたんだけど……一瞬だけ誰もいなくなっているタイミングがあった」

円香「これが何かの手掛かりになるかはわからないけど、伝えとく」

にちか「え、そ、それっていつですか?!」

円香「……今朝の朝6時。私と浅倉が交代したタイミング」

円香「夜通しで見てくれてた浅倉と本来私の方から寄宿舎から合流して交代するはずだったんだけど、浅倉がそれを失念して」

円香「直接寄宿舎の私の部屋にまで来てた。それが朝6時」

(……樋口さんも浅倉さんもいない時間が一瞬だけだけど存在していた)

(この事実は何か大きな意味を持つかも知れないぞ……!)

コトダマゲット!【円香の証言】
〔円香と透は部屋が解禁されて以来、ずっと3階の超研究生級のコメンテーターの部屋に誰も入らないように監視をしている。しかし、事件の起きた当日の朝6時は透が直接寄宿舎に行って交代をしてしまったため、僅かに誰もいない瞬間があった〕

787 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:24:02.48 ID:jj1t/rmq0
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円香「……ここを離れていないから事件の全貌はわからないけど、同じ階で起きたことだから」

円香「他にもここにいたままで出来ることがあったら言えばいい。協力はするつもりだから」

にちか「はい……ありがとうございました!」

灯織「思わぬところで証言が得られたね」

真乃「うん……朝の6時、アナウンスよりもちょっと前だね」

(今回の事件の犯人の足取り、ちょっと見えてきたかもしれないな)

灯織「それじゃあ改めて捜査を始めようか。えっと……見に行く必要があるのは体育館、AVルーム、プールの三箇所だっけ」

にちか「そうだね、早いとこ行っちゃおう!」

788 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:24:55.87 ID:jj1t/rmq0
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【体育館】

本来は今朝から全員揃っての体育祭が行われるはずだった空間。
部屋の壁に寄せられたドリンクやお弁当、スポーツ用品なんかがもの寂しく映る。

真乃「……めぐるちゃん、本当に楽しみにしてたのにね」

私だってそうだった。昨日の晩からだらしない笑顔を晒して、年柄でもなく浮き足立っていた。
悲しみだらけのこの学園で、やっと楽しい、嬉しいと思える瞬間が来るのだと本気で信じていた。

灯織「……めぐる」

虚しさだけが残ったこの空間は、やけに広く感じてしまうな。
789 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:26:12.13 ID:jj1t/rmq0
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【曲がったホッケースティック】

真乃「ほわっ……これ、なんのスポーツで使う道具なのかな……あんまり授業とかで見たこともないけど……」

灯織「これは多分、ホッケーだね。室内でできるレクリエーション的な種目もあったはずだから、多分そのためにめぐるが用意してくれてたんだと思う」

めぐるちゃんの死体を見つけてから間も無く。
それぞれ別の方向にバラけて残りの消息不明の3人を探していた時に私が一度目をつけたものだ。
他に並んでいるスティックとは明らかに違う形状をしていて、しかもこれは通常の使い方で曲げられたものではない。
明らかに、何か強い力を作為的にかけられて曲げられたものだ。

樹里「しかしこいつは……どうなってんだ?」

樹里「鉄パイプや金属バットの時みたく血がついちゃいねーけど、なんでこんな曲げられちまってんだよ」

にちか「……」

樹里「おい、にちか……もういい! もういいからな! とにかく私と長手物の武器を合わせたら似合うとか考えるのはもういいから!」
790 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:27:18.26 ID:jj1t/rmq0

にちか「なんかお姉ちゃんが呼んでた漫画であったんですよね……学校の何でも屋みたいなギャグ漫画」

にちか「そこの武闘派担当の女の子がちょうどホッケーのスティック使いでした」

樹里「もうなんでもありだな……髪染めた方が早いか」

西城さんが乱暴に手放したスティックを私も手に取った。
それなりの硬さ、重さはあるけど凶器となった二つに比べると『それなり』に止まる。
これで人を殴っても直接死には至らないだろうし、形状としてもそれには不向きだ。

にちか「……ん?」

それに、折れ曲がっていることに加えて奇妙な痕跡が残っている。
何か細いものが擦れたような……これは火傷の痕?
表面のメッキ部分が焼け落ちたような跡がついていた。

灯織「これはなんの痕だろう……」

真乃「普通に使ってつく痕跡じゃ、ないよね……」

にちか「犯人が何かに使ったのは間違いなさそうだよ。ちゃんと覚えておこう」

コトダマゲット!【折れ曲がったホッケースティック】
〔体育館の中に落ちていたホッケースティック。中央部分で折れ曲げられており、細いものが擦れてメッキ部分が焼けこげたような痕が残っている〕
791 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:28:33.49 ID:jj1t/rmq0
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【体育館の窓】

灯織「やっぱり……めぐるの才能研究教室から見たのと同じだ。体育館側の窓も開けられてるね」

灯織ちゃんの指摘通り。
私たちの背丈の倍ほどの高さに取り付けられている窓は、開放されていた。

にちか「ほんとだ……けど、どうなんだろう。これぐらい普通にありそうなことな気もするけど」

真乃「昨日、体育館の設備の確認や準備をしてくれてたのは……」

甘奈「夏葉ちゃんだね。遅くまで残って夜のアナウンスギリギリまで準備してくれてたはずだよ」

灯織「夜のアナウンスギリギリ?」

甘奈「ああ、体育館も食堂と同じで夜時間は封鎖されるから______」

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノタロウ「夜の体育館はやばいんだよ! すっごく怖くて……奴が出るんだ!」

モノスケ「インターハイ出場も期待されとったのに、その直前になって大怪我してもうて諦めざる得なくなったバスケ部員の怨霊」

モノファニー「夜な夜な彼女が得点板をめくっているとかいないとか……」

灯織「あ、引退後の行動を繰り返してるんだ……」
792 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:29:37.25 ID:jj1t/rmq0

モノダム「夜ニスポーツヲスルノハ危ナイカラネ。自然光がガ沢山入ル中デスポーツハヤロウネ」

(夜時間に侵入できなかった体育館……)

(ってことは窓が開けられたのはその前か後ってことになる……)

にちか「甘奈ちゃん、私より先に体育館に今朝は集まってたけど一番早く来てたのは誰かわかる?」

甘奈「一番早く来てた子……? うーん……樹里ちゃんかな? でも恋鐘ちゃんも早く来て、その痕食堂に戻ったりあったし……」

真乃「うーん……入れ替わりが激しかったから最初に誰が来たのかは分からないね……」

(最初に来た人はわからない……けど、入れ替わりがそれだけ激しかったのなら窓を開けるタイミングもあったってことになる)

灯織「それよりにちか、窓を調べるんだったらこの脚立を使う?」

にちか「あ、ありがとう灯織ちゃん。その梯子、使わせてもらうね!」

灯織「……梯子? これは自立して使うから脚立だよ?」

にちか「どっちも手足をかける道具でしょ? 使用用途に違いはないんだしどっちでもいいって」

にちか「もっと本質を見ようよ、灯織ちゃん」

灯織「……」

灯織ちゃんに用意してもらった梯子によじ登って窓を見た。

にちか「……やっぱり」

この窓からは才能研究教室の窓は見上げるような位置関係にあり、そして、この窓のフレームにも同様に細く固い何かが擦れた痕が残っている。
犯人が二つの窓を使って何かをしたのはもはや間違いないんだ。

コトダマゲット!【体育館の窓】
〔才能研究教室の窓を見上げるような位置にある体育館の窓は事件前後で開けられていた。体育館は夜時間の間は封鎖されるため、開くにはその前後に立ち入る必要がある〕

793 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:30:47.36 ID:jj1t/rmq0
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【プール】

才能研究教室と体育館をつなぐ間の空間。
体育祭ではプールで泳ぐ活動を取り入れるつもりはなかったけど、まさかこんな捜査目的で足を踏み入れることになるとも思ってはいなかったな。

真乃「灯織ちゃん、にちかちゃん! あれ……!」

にちか「うん……やっぱり二つの窓がこのプールの下から見渡されるね。何かを掴む手がかりがこのプールにもきっとあるはずだよ」

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノタロウ「キ、キサマラ何考えてるの!? こんな時に!?」

にちか「……は、はぁ?」

モノファニー「捜査の時間は貴重なのよ、青春のスイミングに当てるには惜しいと思わない?」

真乃「べ、別に泳ぎに来たわけじゃないですよ……っ!」

モノスケ「なんや違うんかい……カメラを持ってきて損したで。せっかくボロ儲けのチャンスやと思うたんやけどな」

モノダム「……」

(最悪の動機でモノクマーズたちがやってきた……けどちょうどいい。モノクマーズに聞いておきたいこともあったからね)

(逃げないうちに聞いておくべきことは聞いておこう)
794 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:31:54.26 ID:jj1t/rmq0
---------------------------------------------
【ワイヤー】

プールサイドに落ちている金属製の長いヒモ。
コースを仕切るために使うブイの類かと思ったけど、よく見ると違う。
浮かび上がる目的のものにしては、金属質だし、手で触れた時にうっかり肌を切ってしまいそうなざらざらとした感触があった。

灯織「これは……ワイヤーだね。しかもかなり頑丈なもの」

モノタロウ「あっ、これってワイヤーだったんだ! でっかいでっかいハリガネムシなのかと思っちゃった!」

モノファニー「やだ……巨大なカマキリの腹からウニョウニョ出てくるの想像しちゃったじゃない……グロいわ……」

真乃「でも、なんでプールにワイヤーなんかがあるのかな……金属製だし、錆びちゃったら良くないと思うけど……」

(確かにそうだ……剥き出しのワイヤーがこんなところにあるのは違和感しかない)

(何かの都合で、誰かに持ち込まれたものと考えるのが自然なんじゃないかな……?)

コトダマゲット!【ワイヤー】
〔プールサイドに落ちていたワイヤー。もともとプールの設備だったものではなく、どこかから持ち込まれたモノだと思われる。丈夫でかなり長い〕
795 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/09/03(日) 21:32:59.37 ID:jj1t/rmq0
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【ワイヤー】

プールサイドに落ちている金属製の長いヒモ。
コースを仕切るために使うブイの類かと思ったけど、よく見ると違う。
浮かび上がる目的のものにしては、金属質だし、手で触れた時にうっかり肌を切ってしまいそうなざらざらとした感触があった。

灯織「これは……ワイヤーだね。しかもかなり頑丈なもの」

モノタロウ「あっ、これってワイヤーだったんだ! でっかいでっかいハリガネムシなのかと思っちゃったわ!」

モノファニー「やだ……巨大なカマキリの腹からウニョウニョ出てくるの想像しちゃったじゃない……グロいわ……」

真乃「でも、なんでプールにワイヤーなんかがあるのかな……金属製だし、錆びちゃったら良くないと思うけど……」

(確かにそうだ……剥き出しのワイヤーがこんなところにあるのは違和感しかない)

(何かの都合で、誰かに持ち込まれたものと考えるのが自然なんじゃないかな……?)

コトダマゲット!【ワイヤー】
〔プールサイドに落ちていたワイヤー。もともとプールの設備だったものではなく、どこかから持ち込まれたモノだと思われる。丈夫でかなり長い〕
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