このスレッドは950レスを超えています。そろそろ次スレを建てないと書き込みができなくなりますよ。

【シャニマス×ダンガンロンパ】シャイニーダンガンロンパv3 空を知らぬヒナたちよ【安価進行】Part.1

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/07/31(月) 21:14:59.87 ID:bZQpE9V2O
カジノ
618 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:21:07.82 ID:m7gMFJ1H0

【コンマ87】

【モノクマメダル7枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…88枚】

------------------------------------------------

【カジノエリア】

学校の真正面に存在するやたら高い塀で区切られたエリア。
ずっと城門みたいな扉は固く閉ざされていたんだけど、今回の開放に伴ってここも行けるようになったみたい。
意を決して飛び込んでみると、もはや別世界。
ハリウッドのセレブが歩くような華やかな道の向こうに、これまた巨大な建造物。
金ピカで巨大なそれを、四方八方からギラギラとしたライトが照らしている。

真乃「ほ、ほわぁ……」

(櫻木さんが思わず言葉を失っている……)

甘奈「す、すごいよね……完全に、テレビで見る世界だよ……」

甜花「これ、もしかして……あの、大人の夢と希望で溢れている……テーマパーク的な、それ……!?」


【おはっくま〜〜〜〜!!!!】


モノタロウ「キサマラ、カジノへようこそ!」

甜花「や、やっぱり……!」
619 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:23:06.05 ID:m7gMFJ1H0

にちか「か、カジノ?! カジノってあの……お金とかを賭ける?!」

モノファニー「そう! ギャンブルと物欲のメッカ、カジノ!」

モノスケ「狂気の沙汰ほど面白いことでよく知られるカジノや!」

モノダム「デモ、ココハオ金ヲ賭ケル訳ジャナインダ」

にちか「……え?」

モノタロウ「ほら、学園の中でお父ちゃんの顔が描かれたメダルがいくつも見つかったでしょ?」

真乃「そういえば……私も何枚か拾いました!」

モノスケ「このカジノではそのメダルを専用のコインに換金してゲームに挑戦してもらうんや」

モノダム「ココデシカ手ニ入ラナイ道具ヤスキルモアルカラ、チェックシテミテネ」

カジノか……運にそこまで自信はないけど、メダルに余裕があるんだったらやってみてもいいかもしれないな。
また自由時間にでも空いた時があれば見にきてみよう。

620 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:24:11.96 ID:m7gMFJ1H0

甜花「なーちゃん、甜花に……全部預けて! 絶対、何十倍にもしてみせるから……!」

甘奈「て、甜花ちゃんすごい自信……!」

甜花「大丈夫……! この手のゲームは慣れてるから……」

甜花「ギャンブルには、必勝法があるんだ……!」

……甜花さんはのめり込みすぎなきゃいいけど。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
カジノエリアではモノクマメダルをカジノコインへと変換してゲームで遊ぶことができます。
ゲームは全部で三種類。
・スロットゲーム
スレ主と参加者それぞれ連続で三つのコンマを参照し、その合計値でスレ主との勝負を行う

・ここ掘れ!モノリス
裁判中の発掘イマジネーションと同様のシステムで規定回数で指定域内のコンマを出せるかに挑戦する

・じゃんけんゲーム
名前欄に!jyankenを入力することで表示される手で勝負する

このカジノコインでしか入手できないアイテム、スキルもございますのでぜひ自由行動の際にお試しください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

------------------------------------------------
〔校外〕

【プール】
【中庭 超研究生級の文武両道の才能研究教室】

【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1

621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/07/31(月) 21:32:46.80 ID:0vpe+wH9O
プール
622 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:34:22.39 ID:m7gMFJ1H0

【コンマ80】

【モノクマメダル10枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…98枚】

------------------------------------------------

【プール】

校舎に隣接する形で建てられていた屋内プール。
前に見ていた時は中が見えないほどに蔦が生い茂っていて、ほとんど廃墟みたいになっていたけど、今は中の照明も灯り、新品同然に清掃もされている。
これをモノクマーズたちがやったのかな?
だとしたらまあまあ重労働な気がする……。

あさひ「すごい! 飛び込み台高いっすね! あそこからジャンプしたらすごい水飛沫が上がりそうっす!」

愛依「ひゃ〜〜〜! こわ! あさひちゃん、やる時はみんなに相談してからにしよ?」

あさひ「えー、いちいち面倒っすよ〜」

(……っ!)

(芹沢……さん……っ!)

ダメだ、彼女の存在に気づいた瞬間に心臓の鼓動が激しくなる。
血は沸騰したようで、手には血管が浮き上がり、奥歯同士が擦れ合う。
掴み掛かりそうになる衝動を抑えるので必死だ。

真乃「に、にちかちゃん……」

櫻木さんの存在がストッパーになっている。
努めて息を整え、狭窄する始解の中央の少女をじっと睨みつけた。
623 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:35:48.26 ID:m7gMFJ1H0

あさひ「あ、にちかちゃん。どうっすか? だいぶ行ける範囲は広がったみたいっすけど」

にちか「……」

あさひ「これだけ色んなものがあるとまたゲームが面白くなりそうっすよね!」

真乃「ゲーム……あさひちゃんは、まだこのコロシアイに乗る気なの?」

あさひ「はいっす! 当たり前じゃないっすか! こんな非日常の体験、普通じゃできないっすもん」

あさひ「せっかくなら、わたしはこのゲームを誰よりも楽しんで、そして勝ってみたいんっすよ!」

やっぱりこの子には何を言っても効かない。
一度死を体験したにも関わらず、他人の生死を何とも思わないままの相手に、説得なんて効くわけがないんだ。

愛依「……あさひちゃんはまた、うちらの誰かを殺す気なん?」

あさひ「んー……今はまだその気はないっすね。ちゃんと勝てる準備を整えてからじゃないと」

あさひ「ほら、にちかちゃんは強敵っすから!」

(……っ!)

にちか「私は、このゲームに乗る気なんかない……! あなたと勝負なんかする気はないよ!」

あさひ「えー、つれないっすね。にちかちゃんとの勝負は面白かったのに」
624 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:37:26.68 ID:m7gMFJ1H0




愛依「それじゃあさひちゃん、うちと勝負しよ」




にちか「え……?」

真乃「ほわっ……!?」

あさひ「愛依ちゃんと? うーん、このゲームで愛依ちゃんはそんなに強いわけじゃなさそうっすけど」

愛依「ううん、うちとあさひちゃんの勝負はこのコロシアイじゃなくて……」



愛依「うちがあさひちゃんを止められるかどうか」



(愛依さん……!)
625 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:40:27.37 ID:m7gMFJ1H0

愛依さんの強張った表情には緊張以上の覚悟が見えた。
思えば愛依さんはこの学園に来た時からずっと最年少の芹沢さんのことを気にかけて、面倒を見ていた。
そんな相手を止めることができなかった後悔と責任が今の愛依さんを突き動かしているんだろう。
その全てを推し量れはしないけど、私が芹沢さんに感じている怒りと同じぐらいの出力の感情がひしひしと伝わってくる。
そんな愛依さんをまじまじと見つめた後、芹沢さんはまた無邪気に笑った。

あさひ「あはは、愛依ちゃんにできるっすか?」

愛依「あんま舐めない方がいいよ。うち弟とのチャンバラは百戦錬磨だかんね」



あさひ「……ふーん、それじゃちょっと期待しとくっす」

そういうと芹沢さんは奥の倉庫に引っ込んでしまった。
姿が見えなくなると、緊張の糸が切れたように愛依さんは息を吐き出した。

愛依「あさひちゃん、すごいプレッシャー……はー、なんかベツジンみたい」

真乃「愛依さん……だ、大丈夫ですか?」

愛依「うん、ダイジョーブ! 一度吐いた唾はうち、飲み込まないから!」

にちか「そ、それ使い方合ってます……?」

愛依さんに駆け寄り、その肩を支える私と櫻木さん。
愛依さんだって昨日の今日でだいぶ参っている。
それなのにここまで背負い込むこともないのに。
626 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:41:22.90 ID:m7gMFJ1H0

にちか「あ、あの……無理だけはダメです! 芹沢さんは最重要警戒人物ですんで、あの可愛さに油断しちゃダメですからね!」

愛依「にちかちゃん……あんがと。でもさ、これはうちが決めたことだから」

愛依「これ以上あさひちゃんに辛い思いはさせらんない」

真乃「辛い思い……ですか?」

愛依「うん、あさひちゃん自身は気づいてないかも知んないけどさ。他の人の命を奪って、何も思わないはずがないって」

愛依「あさひちゃんの中の何かがカクジツに、すり減ってるような……そんな気がするんだよね」

私たちはルカさんのことで、その憎しみをぶつけるばかりだったが、愛依さんだけは違った。
愛依さんははじめから今に至るまで、ずっと芹沢さんという一人の人間に向き合い続けている。
私たちの手を愛依さんは振り解くと、そのまま芹沢さんを追って倉庫の方へ。

愛依「二人とも、サンキュね! うちだけで抱えきれなくなったら……みんなの力も借りるから!」

(愛依さん……)

その背中を見守りながら、自分の胸の中に燻る何かを探していた。
627 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:44:15.47 ID:m7gMFJ1H0


真乃「プールの調査は私たちもちゃんとやっておこう……!」

にちか「はい! 結構深くてでかいプールですよね……プールサイドから手を伸ばしても水面に手が届かないくらい」


【おはっくま〜〜〜〜!!!!】


モノダム「キサマラ、プールニ入ル時ハチャント水着ニ着替エテカラ、ダヨ」

モノファニー「制服のままプールなんて、清涼飲料水のCMみたいな青春は許さないんだから!」

モノタロウ「透け透けの制服なんて第二次性微もまだのオイラには刺激が強すぎるんだよ〜!」

にちか「別に私たちはプールに入ろうとしてたわけじゃないよ。どんなもんか確かめようとしただけで」

モノスケ「ほーん。まあええわ。そこの【利用規則】にも書いてあることやから気をつけるんやで」

真乃「ほわっ……利用規則……ですか?」
628 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:45:08.09 ID:m7gMFJ1H0

モノタロウ「うん! キサマラに安全にこのプールで遊んでもらうために定めたルールがあるんだ。よく読んでおいてね!」

『プールを使う時のルール!
@プールで泳ぐ時は水着に着替えてからにしてください
A夜時間のプールの利用は禁止です。敷地内に入ることは可能です。
B入念にストレッチをした上で泳ぐごと!』

にちか「まあ……ごく一般的なルールですね。気にした方がいいのは夜時間に使えないってのぐらい?」

モノタロウ「夜に水に浸かると良くないからね! 親の死に目に会えなくなるって言うから!」

モノスケ「その点ワイらのお父やんが死ぬことはあらへんから安心やな! 夜でもジャブジャブや!」

モノダム「……」

モノスケ「じょ、冗談やて……ワイもルールは守る。プールは夜は使わん」

モノファニー「夜はどうしても暗いから水難事故が発生しやすいでしょう? それを防ぐためのものなのよ」

(殺しあえとか言っておきながら、事故の防止だとか曰うダブスタはなんか腹立つな……)

真乃「でも、これはみんなに共有しておいた方がいいかもしれないね。万が一があっちゃいけないから……っ!」

にちか「まあ、そうですね。情報として持ち帰っときますか」

629 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:46:05.60 ID:m7gMFJ1H0


にちか「このプール、ちょうど校舎と体育館の間なんですね」

天井の方を見ると、プール側に向けられた窓が両サイドに見つかる。校舎側は三階だろうか、かなりの高さのところにあるみたい。

真乃「高校でプールが学校の中にあるって珍しいね……!」

にちか「あー、言われてみればそうですね。櫻木さんの学校はどうでした?」

真乃「私は中学校から、近くの市民プールで授業はやってたかな……今の学校にもプールはないはずだよ……っ」

にちか「ああ言うのって結構地域性ありそうですよね!」

(そういえばみんなって共学……なのかな)

(だとしたらプールの授業、男子の視線を集めそうな人が何人か……)

(うーわ、なんかおじさんくさいこと考えちゃったな。我ながらキモすぎ)

630 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 21:47:25.21 ID:m7gMFJ1H0


プールの奥には重厚なスライド式の扉で区切られた空間がある。プールで使うための道具が収められた倉庫みたいだ。

真乃「さっきあさひちゃんも入っていった倉庫だね。浮き輪が沢山……競泳用のレーンの浮きもある……」

にちか「これは空気入れですかね? 色んな使い方ができるプールみたいですね」

にちか「……芹沢さんが変なもの持ち出したりしてないといいけど」

真乃「愛依ちゃんが見てくれてたし大丈夫だと思うよ……?」

そうして中を漁ること数分。

にちか「……あれ? 櫻木さん、ちょっとこれ」

真乃「どうしたの、にちかちゃん? ……ほわっ、これって」

私は、浮き輪の一つに不自然な筋のようなものが通っているのを発見した。
明らかに後で入れられたような、不細工なやり方のテープで誤魔化してある。

にちか「中のもの、取り出してみますね!」

私はその場で浮き輪のゴムを引きちぎってみた。
すると中から出てきたのは……ケーブルだ。

真乃「みたことがない形式のケーブルだね……」

にちか「ですです……えっと、【SG-TMケーブル】って書いてあります」

真乃「そ、それって……!」

(これ、隠し部屋の巨大なモノクマの頭の修理に使うケーブルの一つだ!)

にちか「これ、持ち帰って皆さんに共有しましょう! もしかしたら大きな手掛かりになるのかも!」

真乃「う、うん……!」

まだ五つあるうちの一つ目だけど……大きな進歩だ。
ルカさんの遺志を果たす一歩を踏み出すことができたんだ……!

------------------------------------------------

【選択肢が残り一つになったので自動進行します】

【直下コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/07/31(月) 22:11:41.67 ID:ercE9qOPO
632 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 22:13:23.72 ID:m7gMFJ1H0

【コンマ67】

【モノクマメダル7枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…105枚】

------------------------------------------------

【超研究生級の文武両道の才能研究教室】

エグイサルによる整備はどうやら建造だけでなく、敷地内の草刈りや舗装なんかもやっているらしい。
中庭の方に来てみると、これまで雑草が生い茂っていたところが借り尽くされ、日本式の道場のような建物が姿を現していた。

真乃「これは、超研究生級の文武両道の才能研究教室みたいだね……」

にちか「っていうと有栖川さんのか……行ってみよう」

こんな道場に足を踏み入れるなんてほとんど経験ないし、心の中で「頼もう!」なんて唱えちゃったりして。
そんなちょっと浮かれ気分で扉を開けたら、



「わあああああああああ!?!?」


ドシーン!


急に人が飛んできた。


633 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 22:15:10.04 ID:m7gMFJ1H0

凛世「にちかさんに、真乃さん……!? 申し訳ありません、お怪我は……!?」

にちか「だ、大丈夫です……こ、これは……!?」

夏葉「痛た……やるわね、凛世……」

私の足元からすくりと立ち上がったのは有栖川さん。
正面に構えている杜野さんと揃って二人は道着を着ている。

樹里「ったく……なーにやってんだ。だらしねーぞ、夏葉!」

夏葉「やるわね、凛世……まさかここまでの使い手だとは思っていなかったわ」

凛世「ふふ……今のが凛世の持つ全てだと思われたのならば……まだ甘いと言わざるを得ません……」

何やら不気味な気を放つ杜野さんと少年漫画的な雰囲気を醸し出す有栖川さんの横をすり抜けて、壁にもたれかかって座っている西城さんの元へ。
どうやらここは安全圏らしい。

真乃「二人は、何をしてるんですか……?」

樹里「もともとここはアタシたちの3人で調べてたんだけどよ。夏葉のやつが道着を見つけてきて」
634 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 22:17:13.64 ID:m7gMFJ1H0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

夏葉『樹里、凛世! あなたたち、日本武道の心得はあるかしら』

樹里『は? 急にどうしたんだよ』

夏葉『いや……これをみてちょうだい。どうやらこの教室には人数分の道着が揃えられているようなのよ』

夏葉『私は幼少期から色んな学問やスポーツを収めてきたのだけど、その中に日本武道も含まれているの』

夏葉『ふふっ、久しぶりにこの道場と道着を見ていたら昂ってしまったのよ!』

樹里『昂ってしまったのよ! と言われてもな……アタシは体育でも剣道選択だったし、柔道とか空手とかは……』

凛世『夏葉さん……ご存じかどうか……』

凛世『山陰は平家の落人が身を隠し、芸を磨いた武道の聖地……』

凛世『合気の心得なら、凛世も少々……』

樹里『な、マジか……!?』

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
635 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 22:18:39.56 ID:m7gMFJ1H0

樹里「ってな流れであーなってる」

夏葉「一本、いただくわ!」

凛世「させません……!」

にちか「そ、それは災難でしたね……」

樹里「熱くなったらどっちも聞かなくてよ……収まるまでここで待ってるってわけだ」

真乃「ほわ……いつから二人は組み合ってるんですか……?」

樹里「あー、かれこれ1時間近くは」

にちか「ま、マジです?」

樹里「マジだよ。ほら、二人ともそろそろ水分補給しとけ。無茶すんなよー」

樹里「ほら、にちか、真乃。ここはアタシに任せて別の所に行きな。ここにいるといつアンタらまで巻き込まれるかもわからねーから」

にちか「さ、櫻木さん……」

真乃「う、うん……っ!」

私と櫻木さんはそそくさと研究教室を後にした……
636 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 22:19:31.80 ID:m7gMFJ1H0

にちか「これで一通り、一階と二階までは見終わりましたねー」

真乃「次はいよいよ三階に上がるんだね……?」

(三階、か……外観だけ見ているともっと高さはありそうな校舎だけど……)

(上の階では何が私たちを待ち受けているんだろう……?)

【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室】
【3F 超研究生級のコメンテーターの才能研究教室】

【選択コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/07/31(月) 22:26:36.32 ID:mtpH2ETM0
【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室】
638 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 22:35:25.67 ID:m7gMFJ1H0

【コンマ32】

【モノクマメダル2枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…107枚】

-------------------------------------------------

【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室】

他の教室に比べると随分と広い空間だと思ったけど、研究対象の才能の都合上致し方ないのだろう。
ゲームをするには十分な広さのテニスコートに、野球のピッチング練習もできるようなマウンド、サッカーのストラックアウトのようなものも見える。
雑多な種類のスポーツが集められている感じが、ゴールデン帯のスポーツバラエティといった感じだ。

めぐる「うーん、ここなら色んなスポーツができそうだよ! 体を思いっきり動かせる場所がちょうど欲しかったんだ!」

灯織「八宮さんは色んな部活の手伝いをしてたんだっけ」

めぐる「うんうん! 灯織はどう? 好きなスポーツってある?」

灯織「私は……スポーツにはあんまり詳しくないから」

(……!)

し、しまった……そりゃそうだよね。
八宮さんと一緒に行動してるんだからここには風野さんも来ているはずだ。
さっきの今のこともあって、お互いなんとなく気まずいぞ……
639 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 22:37:24.62 ID:m7gMFJ1H0

めぐる「……! 灯織、あっちシャワールームになってるみたいだからちょっと見てきてもらってもいい?」

灯織「え? いいけど……八宮さんは?」

めぐる「ちょっとお話! ごめんね!」

八宮さんは適当に理由をつけると風野さんを奥の別の部屋に差し向けてから、私たちの方に駆け寄ってきた。

めぐる「お疲れ様! 調査はどんな感じかな?」

真乃「う、うん……あのね、私も才能研究教室が見つかって……鳥さんと一緒に過ごせそうなんだ……」

めぐる「わー! よかったね、真乃ー!」

にちか「あー……えっと、その……」

めぐる「あ、そうだったそうだった! ちょっとにちかちゃんと灯織のことでお話がしたくて……」

にちか「な、なんでしょう……」

めぐる「灯織も、本当は分かってると思うんだ。にちかちゃんが昨日のことを全力で反省してて、自分のやったことに向き合おうとしてるって」

めぐる「それでもそれが中々受け入れられずにいるのは……灯織の中の【壁】の問題だと思うんだ」

にちか「壁……ですか」

めぐる「灯織は私たちと接する時も、少し引いた目線で話そうとして、深いところに踏み込むのに躊躇してる。それは灯織がすごく優しいからだと思うんだけど、それと同時に灯織は摩擦のある接し方に抵抗があるんだと思うんだ」

八宮さんの見立てにはすんなりと同調できた。
風野さんは私たちに対して、言葉を慎重に選んで話している節がある。
適切な距離感をずっと測っているというか、常に安全な膜の向こう側にいようとする感じだ。
640 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 22:38:46.70 ID:m7gMFJ1H0

にちか「傷つくのを恐れてる……ってことです?」

めぐる「うーん、どうなんだろう……ハッキリとは私も分からないや」

めぐる「でもね、そうだとしても灯織はそこから逃げるような女の子じゃないよ。そうだったらとっくにわたしたちからも距離を置かれちゃってる……かも、えへへ」

めぐる「少し時間はかかるかもしれないけど……さっきのにちかの言葉だって灯織に届く日はきっと来ると思うんだ!」

こちか「八宮さん……」

めぐる「わたしに出来るのは側で応援することぐらいだけど……灯織とにちかの二人ならきっと仲直りできるってそう思うな!」

めぐる「あ、急に下の名前で読んじゃってごめん……つい」

にちか「い、いや大丈夫です……けど」

少し驚いた。
八宮さんはもっとパーソナルスペースとか気にせずグイグイ踏み込んだり引っ張ったりする人だと思っていたから、
状況を静観するような姿勢は予想していなかった。
この歩み寄りはすごく有難い……かな。

めぐる「わたしも、少しずつだけど灯織とお話ししてみようと思ってる。もちろんにちかのことを勝手に話したりはしないから安心して!」

めぐる「でも、今の二人がすれ違ったままで終わってほしくはないから……」

にちか「……どうもです」
641 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/07/31(月) 22:39:47.89 ID:m7gMFJ1H0

キィ

灯織「……終わった?」

ちょうど八宮さんの話が終わったタイミングでシャワー室から風野さんが顔を出した。
しばらく出るタイミングを窺っていたのだろう、なんとなくバツ悪そうな顔をしている。

めぐる「うんうん、ありがとー! どうだった?」

灯織「えっと……シャワーの個室が三つ併設であったのと……窓が付いてて、そこからはプールが見渡せるみたい」

(ああ、そういえばここの三階はプールを挟んで体育館と隣接している構造なんだ)

灯織「それ以外は特に気になったものはないかな。運動終わりに八宮さんも使ってみるといいと思う」

めぐる「わかった! そうするね!」

灯織「……では、失礼します」

風野さんは私と視線を合わせることなくそのまますごすごと出ていった。
今はまだ、この蟠りはどうしようもないけど周りで支えてくれる他の人たちの存在があれば、いつかは。
そんなことを願ってしまうな。

------------------------------------------------

【選択肢が残り一つになったので自動進行します】

【直下コンマの末尾の数ぶんモノクマメダルを獲得します】

↓1
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/08/01(火) 11:28:23.31 ID:dWdUSs8LO
643 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 21:56:07.64 ID:34Zm1vKx0

【コンマ31】

【モノクマメダル1枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…108枚】

-------------------------------------------------

【超研究生級のコメンテーターの才能研究教室】

三階で新しく解放されているのはもう一部屋。
これまた結構大きなスペースを陣取っている才能研究教室なのだけど……
その持ち主は、不機嫌そうな表情で扉の前に陣取っていた。

円香「……入室禁止」

にちか「え、ええ……?」

真乃「円香ちゃん、そこって円香ちゃんの才能研究教室なんだよね? 何かあったの……?」

円香「なんにもない」

にちか「や、だったら……」

円香「ナン・ニモ・ナイ」

(うぅ……とりつく島もない)
644 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 21:56:49.28 ID:34Zm1vKx0

透「あー、ダメだよ。私も入れてくんないから」

にちか「浅倉さん……これって?」

透「分かんない。先に部屋に入った樋口が、そっから血相変えて」

透「ここには誰も入れないの一点張りよ」

真乃「ほわ……何か、見られたくないものがあったんでしょうか……」

円香「悪いけど、微塵たりとも譲歩するつもりはないから。他を当たって」

透「ってさ」

(うーん、これはテコを使っても動きそうにないぞ……)

透「あ、そういや別件いいすか」

にちか「別件? なんですか?」

透「じゃじゃーん、なんとかライト〜」

浅倉さんがこれみよがしに出してきたのはどこかの国民的アニメで出てきそうな、ポップな色合いの懐中電灯。
だけどその周辺には見慣れないコードのようなものがいくつかくっついている。

透「これ、そこの宝箱に入ってたんだよね。あれじゃん? モノクマーズの言ってたプレゼントっての」

真乃「で、でもただのライトじゃないのかな……?」

透「んー、わっかんない。とりあえず後で食堂に持ってくから。そこで色々試してみよ」

正体不明の懐中電灯……?
ただのライトじゃないの……?
捜査が終わったら食堂に行ってみるか……
645 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 21:57:44.32 ID:34Zm1vKx0
-------------------------------------------------
【食堂】

一通り新しく解放されたエリアの探索を終えた私たちは、浅倉さんの持ち帰ったライトの検証をするために食堂へと集まっていた。

夏葉「ふぅ……いい汗をかいたわね、凛世!」

凛世「はい……ここまで、本意気の凛世を出せたのは久方ぶり……まだ血が沸いております……」

樹里「おいおい、まだやる気かよ……」

甜花「甜花も、今から血が沸きたってる……これは勝負師としての、カン……!」

甘奈「甜花ちゃんに甘奈はオールベットだよ☆」

(結局甘奈さんは甜花さんに全部メダルあげるんだ……)

愛依「あれ、肝心の透ちゃんはまだなん?」

あさひ「透ちゃんの見つけたライト? 気になるっす〜!」

灯織「私たちにとってプラスになるものとモノクマーズは言っていましたけど、実際のところはどうなのでしょうか……」

浅倉さんは、私たちの集合から少し遅れてやってきた。
どうやら樋口さんの説得に手こずったらしい。
苦い表情をした彼女を見るに、渋々合流をしているらしい。
646 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 21:59:10.08 ID:34Zm1vKx0

円香「ちょっと……私はあそこを離れたくなかったんだけど」

透「まあまあ、みんなに共有しとかなきゃなことだからさ。仲間はずれも良くないし」

円香「……」

あさひ「透ちゃん! 見つけたライトってなんなんすか?!」

透「おー、これなんだけどさ」

恋鐘「見たところ、普通の懐中電灯ばい。こいがモノクマーズの言うとった宝物?」


【おはっくま〜〜〜〜!!!!】


モノタロウ「おっ! ちゃんと発見できたんだね! チパチパチパ〜!」

モノスケ「手の甲で拍手しとるで……器用なもんやな」

モノファニー「それがアタイたちとお父ちゃんで用意した宝物の【思い出しライト】よ!」

にちか「お、【思い出しライト】……?」

ライトの前についている聞き馴染みのないフレーズに思わず反芻する。
647 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:00:35.67 ID:34Zm1vKx0

モノクマ「思い出しライトはその名の通り、オマエラの失った記憶を取り戻させてくれるライトなんだ」

モノダム「今ノキサマラハ、アル時カラノ記憶ガナイ記憶喪失状態ナンダケド……」

モノダム「コレハ、ソノ【記憶ノ一部】ヲ呼ビ覚マス効果ガアルンダヨ」

愛依「記憶ソーシツ……?」

霧子「誘拐されて、この学園にやってくるまでの記憶のことかな……」

霧子「みんな、どうしてこの学園にいるのか。ここまでどうやってきたのか覚えていなかったよね……?」

私たちは思わず顔を見合わせた。
そういえば、この学園生活が始まった時、ルカさんも同じことを言っていた。
私たちは全員、どうしてここに居るのか、どうして私たちが選ばれたのかが分からない。
外の世界が今どうなっているのかも、今が最後の記憶からどれほど経った時なのかも、全てが真相不明の闇の中に眠っている。
648 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:02:36.41 ID:34Zm1vKx0

樹里「このライトを使えば、そのヒントがもらえるってのか……?」

モノクマ「そういうこと! みんなで仲良くこのライトを浴びてくれればそれでOK!」

モノクマ「このライトから照射される光線は視神経を通って脳の視床下部の分泌系に作用して……」

モノクマ「まあ細え理屈はどうでもいいよね! 浴びれば分かるさ、浴びねば分からぬさ、それだけの理屈!」

(……どうなんだろう)

(確かに今の私たちの記憶はどこか抜き取られたようにがらんどうになっているけど……)

(モノクマの言うことを信用して、このライトを浴びてもいいのかな)

(そもそも、ライトの光を浴びたぐらいで記憶が戻るなんてことが______)

みんなきっとそんなことを考えていたんだと思う。
この最悪だらけの学園で見つかる、新しい未知に身構えない道理がない。

だから、みんな彼女の行動に、一歩遅れてしまった。

649 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:04:58.22 ID:34Zm1vKx0

あさひ「みんな、これ使わないんっすか?」ヒョイッ

透「あ、やば。取られた」

愛依「ちょ、あさひちゃん! 待って! みんなでもーちょい話し合ってから_____」

あさひ「使わないんじゃ意味ないっすよ」

カチッ

芹沢さんは私達が制止の手を伸ばすよりも先に、そのライトのボタンを押してしまった。
ライトから飛び出た光はそのまま私たちの目の中に飛び込んでいき、そのまま脳にまで一気に突き抜けていって……



______白い世界の中に、それを見た。



650 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:06:11.04 ID:34Zm1vKx0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ガッシャーン!


学生A「なあ、お前なら持ってんだろ? お前んとこの親父は……県議会の議員なんだからよ」

学生B「ち、ちがう、僕も持ってないんだ……て、テレビで見ただろう? あれは公平にランダムで選ばれた人だけに配られるモノで……」

学生A「そんな訳ねえ! 俺はネットで見たんだよ! 優先的に権力者の親族に配られてるってな!」

学生B「そんなのでまかせだって! ただの陰謀論だよ!」

学生A「うるせえ! さっさと出しやがれ!」

ガッシャーン!

学生C「おい! トイレにはいなかったぞ!」

学生D「探せ探せ! あいつは開業医の一人娘だぞ……絶対持ってるに違いない」

学生E「ぶっ殺してでも奪い取れ! じゃなきゃ俺たちにチャンスなんか一生回ってこない!」

ガッシャーン!

にちか「……最悪最悪最悪」

にちか「もう授業どころじゃない……先生だって頼りにならない……」

にちか「もう、学校なんか来るんじゃなかった……」

ガッシャーン!

学生F「おい! まさか俺たちに隠し持ってるやつなんかはいねーよな!」

にちか「……ひぃ!」

にちか「し、知らない知らない……私は何も知らないから……!」

学生F「あ、テメェ……逃げやがったな! おいコラ、待ちやがれ!」

にちか「い、いや……来ないで、来ないでよ……!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆
651 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:09:23.29 ID:34Zm1vKx0

(……は?)

(何? 今の記憶)

モノクマ「うぷぷぷ……どうやらオマエラはみんな思い出したみたいだね」

モノクマ「オマエラの中に眠ってる最悪の記憶の一端を」

最悪、どころじゃない。
私が思い出したのは、自分の通っていた学校の荒れ果てた姿。
そこら中でいじめと暴行が横行して、窓ガラスもが破られるのも日常茶飯事。先生も役に立たずにろくに授業なんかも行われない。
学校としての機能が完全に終わった施設の中で逃げ惑う自分自身の姿だった。

恋鐘「な、なんね……今の記憶……」

灯織「私の学校が……あんな、荒れ果てたことになっていた……?」

樹里「お、おい……まさか、【同じ】なのか……?」

(……え?)
652 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:11:00.06 ID:34Zm1vKx0

凛世「今しがた凛世が思い出した記憶は……凛世の通っていた高校の惨状……」

凛世「いじめと暴力で、学校崩壊を迎えていた光景にございます……」

甘奈「お、同じだよ……! そんな状態で、甘奈は甜花ちゃんと一緒に逃げるしかなくて……」

めぐる「う、うん……! 他の子達に見つかると、自分も襲われちゃうからって必死に逃げてたんだ……!」

モノクマ「うぷぷぷ……これはこれは、妙なことになりましたね」

モノタロウ「ど、どういうこと?! なんでみんな同じ記憶を思い出してるの!?」

モノスケ「簡単な話や。これでキサマラがここに集まった【共通点】が見つかったっちゅうことやな」

(共通、点……?)

あさひ「ねえ、モノクマ。これは最悪の記憶の一端って言ってたっすけど……」

あさひ「それってつまりこの記憶には続きがあるってことっすよね?」

モノクマ「うん! もちろんだよ。この思い出しライトはオマエラの記憶をいくつかに等分して切り離した一欠片なんだ」

モノクマ「すべてのライトを集めた時、初めてオマエラは理解するんだ。ここにいる意味と」
653 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:11:56.84 ID:34Zm1vKx0





モノクマ「_____オマエラ自身の【罪】をね」

にちか「は? つ、罪……?」





654 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:14:09.34 ID:34Zm1vKx0

樹里「なんだそれ! どういう意味なんだよ?!」

モノクマ「分からないことがあればすぐに質問! 新卒社会人としては見上げた姿勢ですが、コロシアイ参加者としては下の下ですね!」

モノクマ「モノクマからのことば……! なぞはじぶんのあしでかいけつするものだ……!」

バビューン!


【ばーいくま〜〜〜〜!!!!】


樹里「クソッ……逃げやがったな」

愛依「な、なんなん……この記憶……うち、なんで友達のみんなから逃げるように……?」

透「……記憶って、すごいんだね」

円香「……」

透「ただ風景を思い出すだけじゃなくて、音とか感触とか……その時に感じてた恐怖まで蘇ってきた」

透「なんかさ、震えてんだよね。さっきから」
655 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:15:12.98 ID:34Zm1vKx0

確かにモノクマの言う通り、あのライトには失われた記憶を取り戻す作用があった。
だけど、取り戻した記憶は、私たちの中に波紋を生むきっかけに過ぎず。
私たちを取り巻く状況の謎がより深まる結果となってしまった。
それどころか、自分がこれまで抱いていた『戻りたい日常』に疑いの目すら向けなくてはいけなくなってしまった。

あさひ「……」

流石に今回ばかりは芹沢さんも困惑しているようで、何度も深く考え込むような素振りが見てとれた。

にちか「あ、あの……!」

そんな深く沈みかけた状況を打開すべく、私は声を上げて、櫻木さんにアイコンタクトした。
すぐにその意図を解してくれたようで、櫻木さんも私に続いて声を上げる。

真乃「今は少し頭がパニックだと思うんですけど……私とにちかちゃんから発見があるんです……っ!」

円香「……発見?」

灯織「……」

にちか「私と櫻木さんでプールの倉庫を探索してたら、浮き輪の中にコレが入ってて……」

甜花「これって、ケーブル……? 見たことない端子、なんのやつだろ……」

真乃「書いてあるアルファベットを見てみてください……っ!」

甘奈「【SG-TMケーブル】……? あれ、これってどこかで見たような……」

めぐる「あー! 隠し部屋のモノクマの!」

にちか「そうなんです。あのモノクマの修理に必要な五つのケーブルのうち一つを見つけたんですよ!」

樹里「マジか……! じゃああと四つ見つけることができれば……!」

凛世「もしかすると、残りのケーブルも学園内の未開拓の場所に存在するやもしれません……」

愛依「すご! 二人ちょ〜大発見じゃん!」
656 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:16:57.22 ID:34Zm1vKx0




灯織「……それ、喜ぶことなんですか?」

(……え?)



657 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:17:58.00 ID:34Zm1vKx0

灯織「いや、隠し部屋のモノクマに関して一応修理する方針にはなりましたが……本当に、大丈夫なのかは分からないですよね」

灯織「直してしまったことでこちらに害があるかもしれない。その可能性は全然ある訳ですし」

樹里「お、おいその話をまた蒸し返すのか……?」

灯織「私はまだ直すことに賛同していません」

めぐる「灯織……」

風野さんは明らかに冷静さを欠いていた。
多分、さっきの思い出しライトによる混乱もあったんだろうし、私への不信が理性よりも先走っていた。

真乃「灯織ちゃん……」

そんな彼女は、私の横で寂しそうな表情をする櫻木さんを見て、ハッとした様子。
自分の口から出た言葉をどうにかしようと足掻いて、口に手を当てがったが、もう遅い。
私たちの中に漂うこの凍りついた空気は、風野さん自身を蒼白とさせた。

灯織「……! す、すみません……私、空気を乱すような発言を」

樹里「あ、おい! 灯織!」

そのまま彼女はパタパタと足音を立てて逃げ去るように食堂を出ていってしまった。
658 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:19:13.69 ID:34Zm1vKx0

夏葉「……困ったものね」

(うう、そんな目で見られても……こんなの、どうしろっていうの)

めぐる「わたし、灯織の後を追ってくるね」

甘奈「う、うん……気をつけて!」

めぐる「真乃、にちか……ありがとう。みんなのためにケーブルを見つけてくれたその気持ち、伝わってるからね!」

真乃「めぐるちゃん……」

めぐる「それじゃ、いってきます!」

八宮さんもいなくなり、手持ち無沙汰なケーブルだけが残された。

夏葉「ひとまず、そのケーブルは隠し部屋に置いておくことにしましょう。まだケーブルが揃っているわけでもないし、使うかどうかはその時に考えればいいわ」

霧子「うん……焦る必要はないから……」

にちか「分かりました。後で行ってきます」
659 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:19:44.41 ID:34Zm1vKx0

樹里「よし、それじゃあ今日のところはこんなもんでいいか。新しいエリアを見て回るので結構疲れただろ」

甜花「うん……学園が広くなって、甜花もうクタクタ……」

あさひ「え? まだわたし見れてないところがあるっすよ」

円香「……愛依さん、彼女の監視をお願いします」

愛依「え、うん……やっぱ円香ちゃんの才能研究室は入っちゃダメなん?」

円香「お願いします」

(樋口さん……この後もまた才能研究教室に戻るつもりなのかな)

夏葉「それじゃあ今日のところは解散にしましょう。夜時間になる前に食堂から退散ね」

新しく解放されたエリアの探索を終えて私たちは解散となった。
それぞれの個室にみんなが戻っていく中、私と櫻木さんは二人でケーブルを置きに隠し部屋に向かった。

660 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:21:02.08 ID:34Zm1vKx0
---------------------------------------------
【B1F 隠し部屋】

にちか「……これでいいですかね」

真乃「うん……机の上ならすぐに分かるし、大丈夫だと思う」

にちか「すみません、櫻木さん。ずっと同行してもらっちゃって」

真乃「ううん、大丈夫。私が一緒に行動していることで、にちかちゃんがみんなの信頼を得ることにも繋がるから……」

にちか「あはは……そうですね」

本当に櫻木さんの存在には今日一日助けられた。
私の言葉をみんなが聞いてくれたのも、櫻木さんを通して共有してくれたところが大きいだろうし、
探索の時にも気兼ねなく相談できる相手がいたのは気が楽だった。
ルカさんを殺めたことで直面することになった課題と真正面からぶつかるという決意が少し鈍ってしまうぐらいには彼女の存在は緩衝剤になっていた。
661 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:21:59.85 ID:34Zm1vKx0

にちか「……あの、櫻木さん」

真乃「にちかちゃん……?」

にちか「本当に、ありがとうございました!」

真乃「わ、わわ……! 頭なんて下げないで……っ! 私は何もしてないから……っ!」

にちか「いえ……私の覚悟を支えてくれたのは他でもない櫻木さんなので! 一緒にいてくれた、それだけで今日はすごくすっっごく! 助けられたんです!」

真乃「……嬉しいな。私の言葉で、行動で誰かを勇気付けることができるのって」

にちか「櫻木さん?」

真乃「ううん、なんでもない。私こそ、今日一日ありがとう! にちかちゃんと一緒に学園を見て回れて楽しかったよ!」

にちか「は、はいー!」

なんていうか、本当に恵まれすぎてる。
これがルカさんの言ってたことなのかな。
どれだけ不可能に見えることでも、遮二無二に挑めば開ける運命がある。
少なくとも今私が歩んでいる運命は、昨日の私が思っていたよりもずっといい運命だ。

662 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:23:31.96 ID:34Zm1vKx0
---------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノダム『キサマラハ今日一日ヲ過ゴシテドウ思ッタカナ?』

モノダム『思イ出シタ記憶ノオカゲデ仲良シノ重要性ヲ再確認デキタンジャナイカナ』

モノスケ『ケッ、仲良し仲良しって胃もたれがするで』

モノダム『……』

モノスケ『な、なんや……ワイはビビらんで、モノクマーズはギスギスあってこそなんや!』

モノスケ『歪み合いの中でこそワイらは輝ける!』

モノダム『……モノスケノ意見ヲ否定ハシナイヨ』

モノダム『寛容デアルコトモ、仲良シノ第一歩ダカラネ』

プツン

(なんなの……? あの緑のモノクマーズ、ずっと他のモノクマーズと意見主張が違うみたいだけど)

部屋に戻ってからも、私は櫻木さんとの会話を何度も思い返していた。
本当に彼女の存在は温かくて、今のその笑顔が目に焼き付いているよう。
櫻木さんはこんな私のことを、私と一緒に歩む未来のことを信じてくれている。
だとしたら、私からも信じないとだめだよね。
一緒に歩むと決めた仲間たちのことを、どこまでも信じて、信じ抜いて……

あさひ『……』

灯織『……』

……ううっ、まだ順風満帆とは行かないか。
それでも、信じようという歩み寄りを辞めちゃいけない。
蟠りの解消を諦めちゃいけない。
何度だって挑んで挑んで、その度に砕けて立ち上がって……不格好でも運命を切り開くんだ。


でも、この時の私はまだ気づいちゃいなかった。
不可能に挑み続けることで開ける運命もあれば、



____閉ざされる運命もあるってことに。



663 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:25:32.17 ID:34Zm1vKx0
---------------------------------------------
【3F 超研究生級のコメンテーターの才能研究教室前】

あさひ「……本当にいる」

円香「……愛依さんは?」

あさひ「寝ちゃったっすよ? わたしが寝たふりしたら、安心してそのまま寝ちゃったんで出てきたっす」

円香「……」

あさひ「ねえ、円香ちゃんはどうしてそこまでその部屋の中を見られたくないんっすか?」

円香「……」

あさひ「円香ちゃんの才能には何か秘密があるんっすか?」

円香「……」

あさひ「もしかして、わたしと似たもの同士だったりするんっすか?」

円香「……どういう意味?」
664 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:26:50.14 ID:34Zm1vKx0




あさひ「昨日の裁判でも明かした通り、わたしはルカさんをこの手で殺したっす」

円香「……」

あさひ「円香ちゃんも……そうなんじゃないっすか?」

円香「……!」



665 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/01(火) 22:28:08.68 ID:34Zm1vKx0

あさひ「円香ちゃんからはわたしとよく似た匂いがするっす」

円香「……勘違い」

あさひ「じゃあ退いてほしいっす。ただのコメンテーターの才能研究教室なら隠す必要もないっすよね」

円香「嫌だ」

あさひ「強情っすね」

円香「あんたもね」

あさひ「……まあいいや、円香ちゃんも人間だからいつかはここに立てないタイミングもくるっすよね。その時を待つことにするっす!」

円香「……好きにすれば」

あさひ「じゃあまた明日っす! ばいば〜い!」

パタタタタ…

円香「……いやに鋭いんだから」

円香「明日から……透にも頼るか」
666 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/02(水) 19:51:39.52 ID:rkMJVrzi0
---------------------------------------------
【School Life Day8】
---------------------------------------------

【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノダム『今日ハミンナノタメニ、オラガ朝ゴハンヲ作ッタンダ』

モノタロウ『わーい! モノダムの手料理なんていつ以来だろう!』

モノダム『4枚切リノ厚メノ食パンヲ、苺ミルクニ一晩浸シテ置イタモノヲオーブンデ焼イテ』

モノダム『ソノ上ニマーガリンヲ塗リタクッタ、贅沢スイートトーストダヨ』

モノスケ『こりゃあたまらんで! 幸福度と血糖値が朝から鰻登りや!』

モノファニー『残念だけど、これはモノダムがアタイたちのためだけに作ってくれた朝食だからキサマラの分はないわ!』

モノタロウ『キサマラは貧相なシリアルを牛乳なしに頬張ってお口ズタズタになっちゃえばいいんだーい!』

プツン

(なにあれ……あんな糖尿病一直線のトースト食べたくなると思ってんの?)

昨日は学園中を歩き回った疲れからか割とすんなりと寝ることができた。
気がかりなことはいくつかあるけど、それよりも体力の回復が重要だもんね。
睡眠は取れるうちに取っておかないと。

さあ、今日も食堂に行くところから頑張るぞ!

667 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/02(水) 19:53:19.97 ID:rkMJVrzi0
---------------------------------------------
【食堂】

……と意気込んで食堂に飛び込むと、私を出迎えたのは何か揉め事が起きているであろう大喧騒だった。

恋鐘「あさひ……そいは食べたらいかん! そいは円香の分の朝ごはんばい!」

あさひ「どうせ円香ちゃん来ないんだからいいじゃないっすか〜! わたし、恋鐘ちゃんの料理美味しくて大好きなんっすよ〜!」

恋鐘「え……あさひそがんにうちの料理のことを思うてくれとったと……?」

樹里「おい! 懐柔されんな! チョロすぎるだろ?!」

にちか「え、えーっと……これは……?」

真乃「あ、にちかちゃん……えっと、昨日から円香ちゃんが自分の才能研究教室を封鎖してるのは知ってるよね」

にちか「はい……」

真乃「どうやら夜通しで全く扉の前を離れないらしくて、ご飯も食べてないみたいなんだ……」

にちか「え……」
668 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/02(水) 19:54:25.57 ID:rkMJVrzi0

真乃「だから、恋鐘ちゃんが今別で用意してあげてたんだけど……」

樹里「それを食い意地のはったあさひが食べようとしてるんだ……! おい、もう自分の分は食べただろ!」

あさひ「えー、足りないっすよ! それに恋鐘ちゃんの作る料理だったらいくらでも無限に食べれるっす!」

恋鐘「も〜、そげん誉めてもうちからは何も出んよ〜」

樹里「デレデレじゃねーか!」

透「とりあえず、樹里ちゃんが抑えている今のうちに持ってくわ。サンキュ」

樹里「おう、円香によろしくな!」

あさひ「あー、わたしの朝ごはん〜!」

(あ、朝から騒々しいな……)

とりあえずは浅倉さんが持って行って物理的に取り上げることで解決。
芹沢さんは結局愛依さんのご飯をちょっと分けてもらったみたい。
669 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/02(水) 19:55:59.51 ID:rkMJVrzi0

甜花「樋口さん、ずっとあそこにいるけど……そんなに秘密にしたいことがあるのかな……?」

甘奈「才能は超研究生級のコメンテーター……だったよね? そんなにおかしなものがあるとも思えないけど……」

めぐる「うーん、人には人の事情があるんだろうしあんまり詮索するのも良くないよね……」

あさひ「……」

夏葉「あさひ、気になるのは分かるけど不要な探りを入れるのは控えてちょうだいね」

あさひ「はいっす」

(……信用ならないなぁ)

愛依「にしても昨日から円香ちゃん寝てないんよね。大丈夫なんかな……?」

霧子「少しでも、休んでもらわないとダメだけど……」

霧子「その前に私たちは誰も覗かないって信じてもらわなきゃだから……」

信じてもらう、か。
私たちは信頼という行為のリスクと、その行為の信憑性の希薄さを身に染みて理解してしまっている。
樋口さんがそう易々と会って間もない私たちの言葉に耳を貸すとも思えない。

どうしたものかと首を捻っていると……

キィ……

円香「……ご心配をおかけしています。その件は解決しましたので」

凛世「円香さん……? お部屋は離れても良いのですか……」

円香「代役を立てたので。浅倉に任せて、私はしばらく寝させてもらいます」

(ああ、浅倉さんとは元々幼馴染なんだっけ……)

(でも、あの人だいぶ適当そうだけどいいのかな……)

樋口さんはそのままフラフラとした足取りで食堂を後にし、寄宿舎へと向かっていった。
徹夜で監視していたんだろうし、当分は休憩するのかな。

私たちも朝食を終えると、それぞれの部屋へと戻ることにした。

670 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/02(水) 20:03:56.94 ID:rkMJVrzi0
---------------------------------------------
【にちかの部屋】

さて、今日の行動からが重要な意味を持つぞ。
私がみんなとどんな交流をしてどんな言葉を交わすのか、それによって私を見る目は大きく変わってくるはずだ。
ルカさんに誇れるくらいの成果を挙げて見せなきゃね。

【自由行動開始】

◆◇◆◇◆◇◆◇◆
現在のにちかの状態

・親愛度
【超研究生級のブリーダー】櫻木真乃…0.0
【超研究生級の占い師】風野灯織…0.0
【超研究生級のスポタレ】八宮めぐる…0.0
【超研究生級の料理研究家】月岡恋鐘…0.0
【超研究生級のドクター】幽谷霧子…0.0
【超研究生級のギャル】大崎甘奈…0.0
【超研究生級のストリーマー】大崎甜花…0.0
【超研究生級の文武両道】有栖川夏葉…0.0
【超研究生級の大和撫子】杜野凛世…0.0
【超研究生級のサポーター】西城樹里…0.0
【超研究生級の博士ちゃん】芹沢あさひ…0.5
【超研究生級の書道家】和泉愛依…8.0
【超研究生級の映画通】浅倉透…0.0
【超研究生級のコメンテーター】樋口円香…0.0
【超研究生級のカリスマ】斑鳩ルカ…2.0【DEAD】

・交換用アイテム
【現在のモノクマメダル枚数…108枚】
【現在の希望のカケラ…19個】

・所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【占い用フラワー】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆

1.交流する【交流相手の名前指定】※灯織と円香は選択不可
2.購買に行く
3.カジノに行く
4.休む(自由行動をスキップ)

↓1
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/08/02(水) 21:00:32.12 ID:zgfmSQFo0
1.愛依
672 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 21:47:58.09 ID:ix2byaw/0
一か月近くスレを空けてしまってすみません……

過去2シリーズと同じぐらいに安価をやるつもりではいたんですが、あまり今作では捌くことが出来ず、
なんとなくモチベーションがなくなって放置してしまいました。

とはいえ、一度始めた話を完結させることなく放置するのは私としても望むところではないので、
(非)日常編の交流パートを今作では暫くカットして、学級裁判パートで安価進行を取り入れる形で再開しようと思います。
このシリーズではコンマの緩和などをスキルという要素で担っていたのですが、その獲得も見込めない形となるので、裁判のミニゲームなども簡略化を考えています。
物語は完結まで続けるつもりではありますので、どうかよろしくお願いいたします。
673 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:06:08.66 ID:ix2byaw/0
---------------------------------------------
【寄宿舎前】

一通りの交流を終えて、そろそろ夜時間を迎えようかという頃。
自分の部屋に戻ろうとしていたとき、ある人に呼び止められた。

樹里「おっ、にちか。ちょうど良かった。ちょっと話がしたいんだけど……今時間いいか?」

にちか「え? は、はい……なんです?」

樹里「いや……アタシが口出すのも違うのかも知れねーけど、灯織とのことだよ」

(……!)

にちか「すみません……やっぱり気になりますよね」

樹里「んまぁ……気になるっつーか、なんつーか……しょうがないところもあるとは思うけどな」

にちか「はい……私はそれだけのことをしたので」

樹里「にちかが本気で反省してること、あいつだって本当は知ってるとは思うんだ。だけど、裏切られたことのショックでそれをなかなか認められない」

樹里「今の灯織に言葉を届けるのは、簡単なことじゃないと思うんだ」

にちか「……」

樹里「……あのさ、つい昨日の夏葉と凛世の組み手。にちかも見てたよな」

にちか「……? え、はい……」

樹里「あれってただ夏葉がけしかけただけの話じゃねーんだよ」
674 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:06:59.81 ID:ix2byaw/0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

夏葉『凛世……やっぱり裁判のことでだいぶ堪えているみたいね』

樹里『え? あー……おう、そうだな。凛世はいつも以上に慣れない環境だし、ショックも大きいみたいで』

夏葉『……何か、私たちで出来ることはないかしら』

樹里『……』

夏葉『あの子……会って間もないけれど、どうも気にかかるの。私自身箱入り娘のようなところがあるからかしらね』

樹里『ははっ……アンタ、結構気回るんだな』

樹里『そうだな……私は悩んだり落ち込んだりしたときは汗を流すかな。バッセン行ったり走ったり……』

樹里『嫌なことも全部汗と一緒に流す! 時間が経てば嫌な記憶も思い出に変わるもんだからさ』

夏葉『なるほど……体を動かすことは精神的な快楽をもたらすホルモンを分泌する作用もあるものね』

夏葉『ありがとう、樹里。参考にさせてもらうわね』

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

樹里「まあ、流石に組み手って形はアタシも想定してなかったけどな……はは」

樹里「でもアレで、凛世も結構助かったみたいなんだぜ? 前よりも笑顔を見せてくれる回数も増えたしな」

にちか「いや、でも私に武道の心得はてんでないので……」

樹里「いや、そういうことじゃねーよ! あー、その……なんだ。蟠りを解消するのは説得とか奉仕だけが手段じゃないって、そういうことが言いたかったんだ」

にちか「アドバイス、ありがとうございます。自分でもちょっと考えてみますね」

樹里「おう! 相談ならアタシも乗るからさ」

西城さんは少し照れくさそうに自分の部屋へと戻って行った。
この学園には不思議とお節介な人が多く集まってるんだな。
何かと気にかけてもらってるし、私からもちゃんと解決に向けて動かなきゃ。
675 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:07:47.54 ID:ix2byaw/0
-------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『えっと……今日はオイラだけでこの放送をお送りするよ!』

モノタロウ『なんだかみんな忙しいみたいでオイラしか出られないんだよね。あ、これって言っていいんだっけ?』

モノタロウ『なんでもないんだよ! 本当に!』

モノタロウ『たまにはオイラだけでやってみたいなーってそう思っただけだから!』

モノタロウ『あれ? この放送って何言えばいいんだっけ?』

モノタロウ『えーっと……』

モノタロウ『上は大火事、下は洪水。これな〜んだ!』

モノタロウ『あれ? なんか変だな』

モノタロウ『あっ、間違えた! 答えはお風呂だから上としたが逆なんだ!』

モノタロウ『上は洪水、下は大火事。これな〜んだ!』

モノタロウ『答えがわかったら明日オイラだけにこっそり教えてね!』

プツン

(何今の……答えはっきり言っちゃってたし)

ベッドに横になって、西城さんの言葉を考える。
私が風野さんとの蟠りを解消するのに今求められていることはなんなんだろう。
きっと西城さんは同じ時間を共有することの意味を説いてくれたんだろうけど、それも簡単なことじゃないよね……

うーん、集団行動が苦手な人間じゃないけど、クラスのカースト最上位みたいな人たちとはちょっと距離を置いてた身からすると、あんまりアイデアが浮かばないな。

うんうんと唸りながら、何をすべきかを考えていると、自然と私の意識は夜の中に溶け出していた。
676 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:08:35.37 ID:ix2byaw/0
-------------------------------------------------

「……大丈夫? ちゃんと寝てる?」

「すっかりグースカピーや。アホ面晒してよう寝とるで!」

「よーし、それじゃあ今のうちに歯ブラシを探して……」

「アホか! んなもんする前にちゃんとやることすませんかい!」

「ちょっと! 大騒ぎしたら目を覚ましちゃうじゃない!」

「モノタロウ、用意シテキタモノヲ早ク置イテ」

「う、うん……ちょっと待ってね、暗くてよく見えないんだ」

「早よせんかい! この夜のうちに15人分配らなあかんのやで!」

「わー、急かさないでよー!」

-------------------------------------------------
677 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:10:19.80 ID:ix2byaw/0
-------------------------------------------------
【School Days 9】
-------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『キサマラおはよう! 一仕事終えた後の朝は清々しいね!』

モノファニー『キサマラ、顔を洗ったらそれぞれの個室の机の上を見てちょうだい!』

モノスケ『ワイらからのとっておきのプレゼントがあるで!』

モノダム『ソレゾレニ一ツズツ、キサマラニ合ワセタモノガ置カレテイルヨ』

モノスケ『それを生かすも殺すもキサマラ次第や! 大事にするんやで!』

『ばーいくま〜〜〜〜!!!!』

プツン

(……プレゼント?)

そういえば昨日の夜の放送でもモノタロウが妙なことを口走っていたけど、今の放送とも関係があるのかな?
寝ぼけ眼を擦りながら、ベッドから身を引き起こすと……あった。
机の上に置かれているのは液晶タッチパッド。
すでに配られている電子生徒手帳とは違って、派手な装飾がついてある。

「……何? これ」

プレゼントと呼ばれていたこともあってか、私はさほど警戒せずにそれを手に取り、横についた電源ボタンをそのままに押してしまった。
678 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:11:06.05 ID:ix2byaw/0





【☆櫻木真乃の動機ビデオ☆】


「……え?」





679 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:11:52.14 ID:ix2byaw/0

『さーて、大好評につき復活した動機ビデオの時間だよ! オマエラにとって大切な存在は今、どんな生活をしているのかな? それでは始まり始まり……』

真乃母『真乃ちゃん、こんにちは。今、どうしてる? 元気に過ごせてるかな』

真乃父『お父さんたちも元気にしてるよ。はは、お父さんはこう見えて体が結構頑丈みたいだ』

真乃父『……けほっ、こほっ!』

真乃母『お、お父さん……』

真乃父『いや、何……さっき飲んだお茶が気管に入っただけなんだ』

真乃父『真乃の大切にしていたピーちゃんも健康そのものだよ。ほら』

ピーちゃん『ぽるっぽー』

真乃母『だから、お母さんたちのことは心配いらないからね。真乃ちゃんは真乃ちゃんで、元気に楽しく過ごしてくれればいいんだからね』

『いやはや……櫻木さんによく似たほんわかしていて優しそうな親御さんですね。メッセージからも愛情がよく伝わってきます』

680 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:13:28.04 ID:ix2byaw/0



……ザザッ、ガッ




「……は?」

『しかしながら! そんな食物連鎖のピラミッド最下層インパラ家族の身に何かがあったようです!』

『おやおや……? お家は荒れ果てて、お二人と一羽の姿がありませんね?』

『一体彼らに何があったのか……!?』

『ま、それは卒業してからのお楽しみってことで。気になる人はサクッと他の人を殺してみるといいよー』



プツン

681 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:14:30.00 ID:ix2byaw/0

「……な、なにこれ!?」

映像を見終わった私は思わず絶叫してしまっていた。
当然だ、自分の家族のことでなくても、こんなのを見せられて冷静じゃいられない。
映像に映っていた家の荒れ具合は並のものじゃない。家具はズタズタ、窓は破られ、観葉植物は根本から折られていた。
どう考えても家族の身にも危険が及んでいる。

「は、早く櫻木さんに伝えなきゃ……!」

気がつけば私は部屋を飛び出して食堂へと向かっていた。

682 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:15:42.82 ID:ix2byaw/0
-------------------------------------------------
【食堂】

食堂に入ると、他の人たちも私と同じように焦燥した表情で口をパクパクとさせていた。
どうやら状況はみんな同じらしい。
映像を見てすぐに居ても立っても居られなくなったんだろう。

愛依「あ、あの映像はなんなん?! あれって……マジなん?!」

めぐる「作り物って感じじゃなかったよね……」

にちか「や、やっぱりみんな動機ビデオを見せられてたんですね?!」

凛世「はい……朝からとんでもないモノを見てしまいました……」

恋鐘「あん家族の身に何が起きたとね!? うちらが思い出しライトで思い出した記憶となんか関係があるばい?!」

みんなが狼狽える中で、私の目に櫻木さんの存在が目に留まる。

(そうだ……櫻木さんに早く教えてあげなきゃ!)

そう思い、動き出したその瞬間。



夏葉「待って。一旦、落ち着きましょう」

にちか「……!」

683 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:17:10.53 ID:ix2byaw/0

夏葉「みんなの動揺は分かる。私も同じだもの。だけどそれに踊らされているようじゃモノクマたちの狙い通りよ」

甘奈「そ、そうだよね……深呼吸深呼吸……」

甜花「ひ、ひ、ひぃん……」

樹里「独特な深呼吸だな……」

夏葉「状況を一旦整理しましょう。ここにいる全員が動機ビデオを受け取っているのよね?」

ここにいる全員とは、樋口さんを除いた全員のことだ。
みんな有栖川さんの問いかけに黙って頷いた。

夏葉「そしてその中身も確認した。そこでその中身について確認しておきたいのだけど……」

夏葉「その映像は自分に当てられたものではなかったのではないかしら?」

(……!)

甘奈「う、うん! ちがった……甘奈のは、別の人の映像だったよ……!」

凛世「はい、凛世がいただいた動機ビデオを凛世のものではなく________」

夏葉「待って。それを開示するのはやめておくべきではないかしら」
684 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:18:43.86 ID:ix2byaw/0

あさひ「えー? どうしてっすか。みんな自分のビデオが見たいはずっすよー」

夏葉「だからこそよ。自分の映像でないものでこれほどの混乱が起きている。もし自分に当てられた映像を見てしまったらどうなると思う?」

真乃「今以上の混乱が起きてしまいます……っ」

灯織「あの動機ビデオ、明らかにコロシアイを促すためのものでした。自分に当てられたものを見てしまうと、鵜呑みにして行動に移してしまう恐れもあるってことですね?」

夏葉「ええ。だからあの動機ビデオに関してはこれ以上触れるべきでないし、詮索もするべきじゃないと思うの」

有栖川さんの提案で、私たちはにわかに冷静さを取り戻していった。
危ないところだった、私も櫻木さんへの共有を急いていたし、自分の映像を持っている人は誰か問いただそうという考えが頭の中によぎっていた。
その先にどんな展開が待っているのか予想できないわけでもないのに。

樹里「しかし陰湿なことしてきやがるな。こっちの心情を手玉に取るような真似しやがって……」

めぐる「うん、的確にわたしたちの知りたいっていう気持ちを突いてきてる……厄介な手段だよね!」

【おはっくま〜〜〜〜!!!!】

モノタロウ「そ、そ、そ、そうだよ! オイラたちの狙い通りなんだよ!」

モノスケ「は、は、は、はなからそのつもりやったんや! バラバラに置くことで混乱を引き起こす!」

モノファニー「さ、さ、さ、さすがねモノタロウ! ナイスアイデアだわ!」

モノダム「……」
685 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:20:03.86 ID:ix2byaw/0

にちか「な、なにこの反応……」

甜花「もしかして……映像の取り違えって、想定外……?」

モノタロウ「ギクゥ!?」

モノスケ「ギギクゥ!?」

愛依「本来は映像はちゃんと持ち主に渡す予定だった系 ?」

モノファニー「ギギギクゥ!?」

モノダム「……」

モノタロウ「お、お願いだよう! お父ちゃんにはこのことは黙っておいて! こんな失敗、バレたらお尻ぺんぺんじゃ済まないかもしれないんだ!」

モノスケ「お尻ペンペンどころじゃのうてお尻ゲンゲン、果てはお尻ゾンゾンまで行くかもしれん! 堪忍や!」

灯織「それはどんな懲罰なんですか……」

甘奈「擬音からじゃまるで想像できないね……」
686 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:21:06.47 ID:ix2byaw/0

モノダム「ミンナ、焦ル必要ハナイヨ。サッキノザコドモヲ見ル限リ、別々ニ配ッテモ十分混乱ハ引キ起コセタミタイダカラ」

モノタロウ「モノダム……」

モノダム「オ父チャンモ許シテクレルハズダヨ」

モノファニー「そ、そうよね……お父ちゃんの好物の蜂の巣のしぐれ煮も一緒に献上すればまだワンチャンあるわ」

モノスケ「重箱の下に小判を敷き詰めればモーマンタイや!」

モノタロウ「よかった……これでオイラのお尻は守られたんだね」

【ばーいくま〜〜〜〜!!!!】

灯織「どうやら、動機ビデオは取り違えだったみたいですね……」

夏葉「騒々しかったけど……やることはさっきと変わりないわ。私たちはこれ以上は動機ビデオにはノータッチ。それでいいわね?」

有栖川さんの提案に全員が同意。
私たちはそれぞれの動機ビデオを自分の部屋に持ち帰って、それぞれに保管することになった。


あさひ「……つまんないなぁ」


……もちろん、それは表面上の合意。
納得のいっていない人間は明確に約1名いたみたいだけど。
687 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/30(水) 22:22:07.21 ID:ix2byaw/0
-------------------------------------------------
【にちかの部屋】

「……よし」

デスクの引き出しの中に動機ビデオをしまい込むと、頬をピシャリと叩いた。
もう忘れちゃおう。いくら気にしたってこんなの仕方がないんだから。
私の動機ビデオも気になるんだけど、それを詮索するのはそれこそ裏切りになる。
今の私が絶対避けるべき行為だよね。

それよりも今は、他の人との親交を深めること。
時間が許す限り、同じ時間を過ごすように努めなきゃ。

688 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:24:22.00 ID:SZAKbp9W0
-------------------------------------------------
【寄宿舎前】

今日も交流を終えて、夜時間が近づく中自分の部屋に戻ろうとしていたところ……

真乃「あっ、にちかちゃん……ちょうど探してたんだ……!」

にちか「櫻木さん……どうしたんです? 私に何か用ですかねー?」

真乃「うん、あのね……! ちょっとめぐるちゃんと話してたところなんだけど……」

めぐる「にちかも一緒に相談に乗ってもらえないかな!」

にちか「……ってことはもしかして風野さんのことです?」

めぐる「ですですー!」

この二人は私とも同年代で、風野さんとの距離も近い。
本人に直接訴えかけるやり方が通用しないのなら、この二人の力を借りるのがやっぱりキーになりそう。
それに、昨日西城さんから聞いた正攻法でないやり方の知見もある。
私たちで何かできないか相談をすることにした。
689 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:26:11.85 ID:SZAKbp9W0

真乃「灯織ちゃん、あれから私たちともちょっと距離を置きがちなんだ……」

めぐる「他の人を信じることにちょっと恐怖感を抱くようになっちゃったみたいで……」

にちか「……」

めぐる「ご、ごめんね! にちかを攻めるつもりじゃないんだけど……」

にちか「いや、いいです。その責任はもちろん取る気なので。それよりも、風野さんに私たちを受け入れてもらうための方法なんですけど……」

にちか「何かみんなで一緒にできることはないですか? タスクっていうか、レクリエーションっていうか……」

にちか「とにかく夢中になって一緒に何かをする時間があれば、心も開きやすくなるのかなーって」

真乃「ほわっ……【レクリエーション】……?」

めぐる「うーん、みんなで一緒に遊ぶってことかな。何がいいんだろー……」

(西城さんのアドバイスを参考にするならそれこそスポーツとかだけど……)
690 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:27:14.71 ID:SZAKbp9W0

めぐる「あっ! ちょうどわたしの才能研究教室のスポーツ用の道具がいっぱい揃ってるからあれを使うのはどうかな!」

にちか「あ……確かに球技とかなら、複数人で一緒にできますもんね」

めぐる「うんうん、たくさんの人数で同時にプレーできるなら灯織も参加しやすくなるんじゃないかな!」

真乃「わ、私みんなについていけるかな……」

めぐる「大丈夫大丈夫! みんなのペースに合わせるよー!」

にちか「じゃあずばり、才囚学園体育祭の開催ってことですね!」

めぐる「うん! それで行こう! 明日の朝食会でみんなにも相談してみようよ!」

めぐる「そうと決まったらなんだか燃えてきたー! ちょっと今から才能研究教室見てくる! みんなで何ができるか考えておくねー!」

シュバババババ……

にちか「は、八宮さん!? 早……もう行っちゃった」

真乃「ふふ……すごく嬉しそうだったね」

にちか「風野さん、参加してくれるといいですけど」

真乃「きっと参加してくれるよ。大丈夫」

私と櫻木さんはそれから体育祭の構想について話しながら寄宿舎へと戻っていった。
ぼんやりと何かみんなで出来たらいいなとは思っていたけど、ここまでとんとん拍子で進んだのは二人の存在あってこそだったな。
691 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:28:00.57 ID:SZAKbp9W0
-------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノファニー『え、えっと……今日はアタイだけで放送をお届けするわね……』

モノファニー『そ、そう……今モノタロウとモノスケとモノダムはお父ちゃんにお尻ゾンゾンされてるところなの』

モノファニー『アタイは女の子だから、免除されてるけど……3人とも、げっそりとしちゃってたわ』

モノファニー『キサマラはお尻を大事にしてあげてね』

モノファニー『お尻は唯一絶対の生涯のお友達だから……』

プツン

(な、なんなの……結局お尻ゾンゾンって……)

今頃八宮さんは才能研究教室でスポーツを見繕っているところなんだろうか。
私はスポーツ経験が豊富なわけではないから、彼女にそこはお任せしたいな。
それよりも大事なのは何より風野さんを引き入れること。
招待を断られることのないように、失礼がないようにしないと。

うぅ……なんだかソワソワしちゃうな。
妙に昂る気持ちを必死に押さえつけて、目を瞑った。
692 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:28:52.73 ID:SZAKbp9W0
-------------------------------------------------
【School Days 10】
-------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『才囚学園放送部から朝のお知らせだよ……』

モノスケ『朝8時になったで……キサマラ、目を覚まさんかい……!』

モノダム『今日モ一日張リ切ッテ行コウネ……』

モノファニー『う、うぅ……見ていられないわ……』

モノタロウ『ど、どうしたのモノファニー……?』

モノファニー『みんなお尻をそんな抑えながらの放送なんて、痛々しくてアタイ見ていられないのよ!』

モノスケ『もはやワイらのお尻はスゴスゴのガスガスなんや……堪忍してくれや……』

モノダム『ア、アァ……』

プツン

(何あれ……めちゃくちゃ最悪なんだけど……)

悪化していく朝の放送にため息をつきながらの起床。
せっかく昨日櫻木さんと八宮さんと相談して決起したところだったのに、しょうもないことで出鼻をくじかないで欲しいな。
今日は他の人たちも巻き込んでの体育祭の立案を行う日。
張り切って朝食会に赴かなくちゃね!

私は足早に支度を終えると、すぐに食堂へと向かった。
693 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:30:18.57 ID:SZAKbp9W0
-------------------------------------------------
【食堂】

めぐる「おっはよー! にちか!」

食堂に入ると八宮さんのいつも以上に溌剌とした笑顔。
夜時間の後、研究教室での作業はかなり順調だったとみえる。
清々しい挨拶に、思わず私も笑顔で返事をした。

灯織「……?」

肝心の風野さんはというとやけにテンションの高い八宮さんを怪訝そうな表情で見つめていた。

夏葉「みんなおはよう、今日も揃ってるわね」

透「あ、樋口は……」

夏葉「ええ、大丈夫。把握してるわ。無理強いはしないから安心してちょうだい」

(樋口さん、ホント頑なに離れようとしないな……)

恋鐘「今日はなんかめぐるから話があるって聞いたけど、一体なんね?」

めぐる「うん、あのね! せっかくこうして15人が出会えたんだから……みんなで親交を深める取り組みがやりたいなって……真乃とにちかと!」

灯織「……! 櫻木さんと、七草さんと?」

めぐる「うん!」

(……し、視線を感じる)
694 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:31:27.61 ID:SZAKbp9W0

にちか「あの、もしよければでいいので……みなさんで一緒に汗を流しちゃったりしませんか?!」

にちか「私が言えたことじゃないかもしれないですけど……みんなで一緒に何かをするって、すごく大事な……貴重な体験だと思うんです!」

真乃「才囚学園体育祭として、3人で企画してみたんです。大きな体育館もありますし……めぐるちゃんの才能研究教室もあります……っ!」

めぐる「色んなスポーツをみんなでやる一日にするの! どうかな?」

私たちの提案から間が開くこと数瞬。
このコロシアイ学園生活という非日常で、常に肌のひりつくような感覚にさらされていた中で急に平和ボケしたワードが持ち出されたことで少しショートしている様子だったみんなの顔は、



樹里「おー! めちゃくちゃいいじゃねーか、それ!」



______すぐに笑顔でいっぱいになった。

695 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:33:10.32 ID:SZAKbp9W0

夏葉「素晴らしい提案だわ! これだけの設備を持て余しているのを勿体無いとずっと思っていたところだったのよ!」

甘奈「うん! なんだか体が鈍っちゃってる気がしてたところだったんだよね!」

愛依「めっちゃ楽しそうじゃん! ここのみんな運動できそーな感じするもんね!」

どうやらこの学園生活で溜め込んでちょうどみんな溜め込んでいるところだったらしく、
一度誰かが賛同の意を示すとあちこちで和気藹々とした声が上がり始めた。

甜花「あ、あうぅ……甜花、運動ちょっと苦手……」

めぐる「大丈夫! 運動が苦手な人もいるだろうから、色んな種類のスポーツを用意するよ!」

真乃「めぐるちゃんの教室に、玉入れなんかもあったよね?」

甜花「玉入れ……! ちょっと、やってみたい……かも」

こんなにも多くの人たちが一つの形に纏まろうとしているのは、この学園生活始まって以来初めてと言っていいほどかもしれない。
696 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:33:48.50 ID:SZAKbp9W0

あさひ「みんなで一緒に遊ぶの楽しみっす〜! ワクワクしてきたっす!」

霧子「ふふ……あさひちゃんも、体を動かすのは好き……?」

あさひ「はいっす! 学校の授業も体育の授業は毎回楽しみにしてるっすよ!」

(芹沢さんもなんだか普通の女の子に戻ったみたいに見えるな……)

思えば出会ったその日から私たちはコロシアイを要求され、常に猜疑心の目を向け合っていた。
そんな生活の中で同年代、同じ性別、同じ言語の間柄の相手に本来寄せるべき感情を見失いかけていたけれど、
今ようやく、それを拾い上げることができそうだ。

恋鐘「灯織は得意なスポーツとかあるばい?」

灯織「わ、私ですか……? えっと、そうですね……テレビでたまに観戦はしますが、自分でプレーしたりだとかは……」

恋鐘「だったらせっかくの機会だし、色々試してみんとね! 灯織の中ん潜在能力うちらで見つけ出しちゃるけん!」

灯織「ふ、ふふ……大袈裟ですよ、月岡さん」

そして、それは私にとって一番のターゲットである風野さんもまた同じこと。
周りをキョロキョロと見渡してしばらく様子を見ていた彼女も、気がつけば私たちの輪の中に抱き込まれ始めていた。

697 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:34:36.51 ID:SZAKbp9W0


めぐる「それじゃあ体育祭の開催は明日! 今日はその準備に当てようと思います!」

甘奈「うん! せっかくだから思い出に残る、楽しい会にしようね☆」

にちか「準備って何すればいいですかね?」

夏葉「そうね……そうはいっても、設備自体は十分整っているものね。やりたい種目の洗い出しや、飲食物の準備、スポーツ用品の搬入などになるかしら」

霧子「応急処置の準備もやっておくね……」

夏葉「おっと、いちばん大切なことが抜けていたわね。ありがとう霧子」

霧子「ふふ……♪ おまかせあれ……♪」

愛依「そんぐらいの準備なら、一日がかりでやらなくても十分明日に間に合いそうなカンジがすんね」

真乃「そうですね。夕方くらいから、少しずつ準備を進めて行きましょうか……っ」

夏葉「透、一応円香にも声はかけてみてもらえるかしら。せっかくだから、親睦を全員で深められたらと思うの」

透「あー……うん、了解」

夕方からの準備を約束し、私たちは一旦は解散することになった。
樋口さん、それに浅倉さんは参加するかどうか分からないけど……それ以外のみんなは参加してくれそう。
昨日声をかけてくれた八宮さんには頭が上がらないな。
698 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:36:18.42 ID:SZAKbp9W0
-------------------------------------------------
【にちかの部屋】

「そろそろみんな準備に動き出す頃かな?」

時計に目をやると短針は5の少し先を指していた。
立案者のうちの一人として、私が動かないわけにはいかないよね。
うんと伸びを一つしてから、私は校舎の方へと歩いて向かった。
699 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:37:48.23 ID:SZAKbp9W0
-------------------------------------------------
【1F 体育館】

明日の体育祭は基本この体育館の中で行う予定。
バスケットボールのコートがまるまる2面入るぐらい大きな敷地に、私が何人も縦に積み上がるぐらい高い天井。
体を動かすにはもってこいの会場だ。
既に何人か集まって、準備のために動き出しているみたい。

にちか「すみません! 言い出しっぺなのに遅くなっちゃったみたいで……!」

真乃「ううん、今さっき始めたところだから大丈夫だよ」

櫻木さんは私の謝罪をやんわりと諌めると、すぐに向こうにいる八宮さんを呼び寄せた。
八宮さんは小型犬みたいな笑顔と共にこっちに駆け寄ってくる。

めぐる「あっ、にちか! 来てくれたんだね! えへへ、一緒に準備頑張ろうねー!」

にちか「はい……よろしくお願いします。えっと、何からやりますかねー」

めぐる「えっとね……さっき夏葉さんとも話をしたんだけど、私たちはスポーツ用品の搬入を行おうかなって」

にちか「ってことは八宮さんの才能研究教室とここの往復ってことですかね?」

(うっ……いちばんの重労働……)

めぐる「あはは……3人で一緒に持ち運びすればそんなにたくさん往復する必要はないと思うから、頑張ろう!」

(まあ元は私たちが言い出したことだしな……しょうがないか)

真乃「他の食べ物や飲み物、会場のセッティングは残りのみんなでやってくれるみたいだから頑張ろうね……にちかちゃん!」

真乃「ファイトだよ! むんっ!」

(む、むん……?)

そこから私たちは八宮さんの才能研究教室に3人で向かって作業を開始した。

700 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:39:20.22 ID:SZAKbp9W0
-------------------------------------------------
【3F 超研究生級のスポタレの才能研究教室】

教室には既にいくつか荷物の積み込まれた袋が積まれていて、すぐに持ち出せるようになっていた。
本当に昨日の晩に八宮さんは一人で黙々と準備をしていたらしい。
なんだかちょっと申し訳ないな……

めぐる「使いそうなラケットとかボールとかは昨日の晩にちょっとまとめておいたから、持てそうな分だけ持ってみて!」

真乃「う、うん……この袋のことかな?」

めぐる「そうそう! 気をつけて持ってね!」

にちか「あ、櫻木さん! そっちのやつは私持ちますよ!」

八宮さんの指示に従って、順番に荷物を持ち出していく。
15人がプレーする分の荷物となると、結構な重量で嵩張る代物だ。
一度に全部持っていくことはできないだろう。

真乃「うんしょ……うんしょ……」

にちか「はぁ……はぁ……」

めぐる「頑張ろう! まだまだ始まったばかりだよ!」

両手に荷物を抱えては体育館まで持って降りて。
荷物を下ろしたら今度はまた三階まで取りに戻る。

真乃「結構……大変だね……っ!」

にちか「で、ですね……明日筋肉痛になんなきゃいいけど……」

めぐる「あはは、本番は明日なんだよー?」

階段の上り下りってだけで大変なのに、両手で大きな荷物を抱え込んでいる。
二、三回運んだ後には既に汗だく状態になっていた。

……そんな状態だから、気が漫ろになってしまっていたんだと思う。
701 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:40:14.36 ID:SZAKbp9W0

真乃「めぐるちゃん、次はこれかな……?」

めぐる「うん、ゆっくりでいいからね。体を痛めないことがいちばん大事だよ!」

にちか「ふぅ……あっついなぁ……」

真乃「よいしょ……それじゃあ持っていくね……っ!」

めぐる「うん……あっ、真乃! ちょっと待って!」

真乃「え? ……わ、わわっ!?」

制服の襟元を指で掴んでパタパタと風を仰ぐのに必死になっていた私は、すぐ後ろに近づいていた櫻木さんの存在に気づいていなかった。
櫻木さん自身も、抱き抱えている荷物のせいで前が見えておらず……

衝突は避けられようがなかった。



ガッシャーン!



702 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:41:57.75 ID:SZAKbp9W0

床に荷物がぶつかって立てる音が部屋に響き渡った。
轟音が耳を突き抜けて、頭の中を反響するのがうざったくて眉間に皺を寄せてから、数秒。
そこでやっと自分自身の右腕からの痛みの信号に気がついた。

にちか「痛っ……」

真乃「に、にちかちゃん! ごめんなさい……だ、大丈夫……?」

どうやら袋のファスナーが半開きになっていたらしく、そこから飛び出したバドミントンのラケットが私の右手に強くぶつかったらしい。
私の右腕は軽い内出血を起こしたようで、出来立てほやほやの痣が浮かび上がっていた。

にちか「あー、なんかちょっと打っちゃったみたいです」

めぐる「だ、大丈夫?! ちゃんと動く?!」

見た目ほど深刻な怪我じゃない。
手で押してみるとちょっと痛むけど、それぐらい。
普通に動かす分には問題ないし、荷物だって持てる。
703 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:43:24.30 ID:SZAKbp9W0

真乃「ごめん、ごめんね……にちかちゃん……っ」

にちか「いやいや、そんな謝ってもらうほどの怪我じゃないんで……頭上げてください」

さっき遅刻の謝罪をしていた時とは態度が逆転。
必要以上の謝罪を繰り返す櫻木さんを私が諌める構図になった。

めぐる「大した事故にならなくてよかったけど……今日はこれぐらいにしておいた方が良さそうだね」

とはいえ、流石に衝突があった後で作業を続けるわけにもいかず。八宮さんの方からストップがかかってしまった。

めぐる「二人とも、疲れが溜まってるよね? 殆どは運び終えたんだし、続きは明日の朝にやろうよ」

真乃「め、めぐるちゃんはまだ元気そうだね……」

にちか「ここは……八宮さんの言うことに従っておきましょうか」

真乃「う、うん……」

しゅんとしてしまった櫻木さんを私と八宮さんで励ましながら、寄宿舎へと戻った。
704 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:44:44.40 ID:SZAKbp9W0
-------------------------------------------------
【寄宿舎前】

真乃「今日はごめんなさい……せっかくにちかちゃんも張り切って準備をしてくれてたのに、それを邪魔するような真似をして」

にちか「いや、だからもういいですって! 大体不注意の責任は私にもありますので!」

夜時間までの時間もそう残っていない。
檻越しに見える空もオレンジ色に染まってきた。
私たち3人は明日の体育祭のことを話しながら、ゆっくり寄宿舎へと向かっていた。
すると、丁度道の合流地点あたりに華奢なシルエットが見える。

遠目でも分かった。あの警戒した足取りは、風野さんだ。

灯織「……こんばんは」

近づいてくる私たちに逃げられないと悟ると、低い声で風野さんは挨拶をした。

めぐる「灯織〜! こんばんは! お散歩中?」

灯織「えっと……その……」

八宮さんはそれを知ってか知らずか、いつもと変わらぬ調子で距離を詰める。
たじろいだ風野さんの右手からはカサッとビニールが擦れるような音がした。
705 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:46:19.09 ID:SZAKbp9W0

にちか「……? それって……」

めぐる「何持ってるの? 灯織?」

灯織「えっと、その、これは……」

真乃「……!」

真乃「違ったらごめんね……っ! もしかすると、灯織ちゃんが手に持ってるそれ……明日の体育祭のお弁当だったりしないかな」

櫻木さんの推測に、風野さんは口をあんぐりと開いた。

灯織「……当たり」

どうやらご明察だったらしい。
私たちはずっと道具の搬入をしていたけど、明日の準備は他の人たちも動いてくれていた。
体育館のセッティングが飲食物の用意。
風野さんも、裏でそのために動いていてくれたらしいのだ。
今朝は場の雰囲気に流されて渋々といった様子だったけど、風野さん自身も乗り気でいてくれたのかなと俄かに嬉しくなる。

706 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:47:44.37 ID:SZAKbp9W0


にちか「風野さん……明日の体育祭に参加してくださるんですね」

思わず、そんな言葉が口から出た。
返事なんて返ってこないこと、分かっていた。



灯織「……はい」



(……! 今、私の問いかけに言葉を返してくれた……!?)

______はずなのに。

私のみならず、櫻木さんと八宮さんもこれには驚いた様子。
3人の反応を悟った風野さんは伏し目がちに、辿々しく言葉を紡ぐ。
707 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:49:09.57 ID:SZAKbp9W0

灯織「……ずっと、ずっと悩んでるんです」

灯織「この数日間、私が見てきた七草さんは直向きで、全力に……私たちに向き合っていて、そこに裏なんて何も見えない」

灯織「私たちを欺いて、出し抜こうとした裁判の時の七草さんとは違って見えるんです」

灯織「でも、だからってそれを認めてしまっていいものか……と。私はまた騙されているんじゃないかって」

それは、私が彼女を抉った爪痕。
彼女の純真無垢だった心に、私は消えない引っ掻き傷を作った。
自身で作り出した壁の中に篭りがちだった彼女が、極限状態の中意を決して飛び出したところに私がした仕打ちは、
トラウマとして残るには十分なものだったらしい。

灯織「私にはもう……自信がないんです。誰かを信じ抜く自信が。他の誰かを信じようとする度に、また裏切られるんじゃないかって考えが頭をよぎってしまう」

灯織「今はただ……他の人の領域に踏み込んでいくのが……怖くて」

裁判で与えてしまったトラウマは色濃く。
肩を振るわせ、色を失った瞳は虚を見つめる。
血の気の引いた顔は、見ているこちらもくらりと倒れてしまいそうなほど。



めぐる「わたしは灯織のことを信じてるよ」




そんな彼女の手を、迷いなく八宮さんは握った。
708 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:51:12.12 ID:SZAKbp9W0

灯織「……えっ?」

めぐる「あのね、信じるってことは……その人に全部を委ねるって言うこととはちょっと違うと思うんだ」

柔らかく温かい手のひらからはじんわりと熱が伝わっていく。
それは八宮さん自身の思いやりであり、感情であり、そして、言葉だ。

めぐる「この人と一緒にいたい、一緒に笑いたい、一緒に歩いて行きたい……そういう気持ちが信じるってことなんじゃないかな」

めぐる「もちろん、そう思った相手が自分の思ってたのと違う面を見せることだってあるかもしれない。裏切られたーって感じる時だってあるかもしれない」

めぐる「でも、だからといって灯織がその人のことを信じたことが間違いだったわけじゃない。信じたことを間違いだって決めつけちゃうのは、その時の灯織の気持ちを否定しちゃうことになるんだよ」

めぐる「人を信じたいって思うのはその時の素直な気持ち……そこには責任もしがらみも、無いんじゃないかな」

そう、私たちは始めから思い違いをしていた。
誰かを信じたからには、運命を共にする義務があると思っていた。
必ずしもそれは間違いじゃないのかもしれない。
だとしても、共に歩む友人、仲間に向ける信頼はもっと軽率で、安易で、単純なものでいい。
この人を手放したくないという気持ちを仲介するものこそが信頼なのだと八宮さんは説いた。
709 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:52:19.69 ID:SZAKbp9W0

灯織「……」

風野さんを取り囲む壁越しの、八宮さんの説得。
壁は分厚く、高く、よじ登ることは難しい。
外から中に入ることなど、出来ないのかもしれない。

めぐる「もしよかったら、なんだけど……灯織は今、どう思ってるのか聞かせてもらえたら嬉しいかな」

ただ、壁の向こうから聞こえてきたその溌剌とした声は……

灯織「私、は_______」



_____壁の中の少女を、外の世界へと誘った。


710 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:53:51.87 ID:SZAKbp9W0


「私のことをこんなにも大切に思ってくれる人がいる」

「私のことを友達だって言ってくれた人がいる」

「何度拒絶されても、私に向き合おうとしてくれる人がいる」

「そんなみんなと、一緒に生きていきたい」


(……!)

風野さんの笑顔を、初めて見た。
星の輝きのように、見るものを惹きつけるような、澄んで美しい表情。
ずっとこのコロシアイの闇世の中に飲まれていたその光が、やっと雲の合間をぬって出た。
私たちの元に届いたその純な光が、胸を打った。
711 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:55:39.74 ID:SZAKbp9W0

灯織「……そっか、私は自分自身の感情にすら、向き合えてなかったんだね」

灯織「教えてもらえなきゃ、ずっと気づけなかったかもしれないな」

灯織「ありがとう、【めぐる】」

めぐる「ひ、灯織……今、わたしのこと……!?」


外の世界へと踏み出した少女の足取りは、軽やかで、そして勇ましい。


灯織「それに、ずっと私のことを気遣ってくれてありがとう。【真乃】」

真乃「ほ、ほわっ……」


一歩一歩着実に踏みしめて、私たちの元へと歩み寄る。


灯織「素直に気持ちを受け止めることができなくて、ごめんなさい。辛い思いを何度もさせたと思う」


そしてその足跡は、



灯織「これからは、私もあなたに向き合うつもりだから……いいかな、【にちか】」



私の元へと続いてくれた。
712 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:56:46.55 ID:SZAKbp9W0

にちか「は、はい……! もちろん、喜んで……!」

風野さんが私へと差し伸べた手のひら。
私はそれを寸分の悩みもなく、握りしめた。
風野さんの体温は低く、私の熱がどんどんと吸われているような気すらした。
でも、それと同時にこちらに返ってくるものがある。
風野さんが私に向けてくれる信頼、一緒に歩みたいと思ってくれたその心が、確かな実感として伝わってくる。
そのことが、これ以上になく心地よかった。

めぐる「灯織……なんだか、本当の意味で今友達になれた気がするよ……!」

灯織「うん……ありがとう、めぐる。あと少しで私は大切なものを取り逃すところだった」

真乃「ううん、遅すぎるなんてことはないと思う……これからしっかりと、一緒に歩いていこうね……っ!」

にちか「よかったです……風野さん。私、もう風野さんには一生認めてもらえないんじゃないかって思ってたので」

灯織「……」
713 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:58:20.39 ID:SZAKbp9W0

灯織「ねえ、真乃、めぐる。私、今結構勇気出して一歩を踏み出したんだけど……この中に一人、まだ安全圏にいる人がいる気がするんだ」

にちか「え? な、なんです……?」

めぐる「おやおや〜、それは誰のことなのかな〜? 真乃、灯織、誰のこと〜?」

真乃「ふふ……一体誰のことなんだろうね、灯織ちゃん、めぐるちゃん!」

(……うっ、3人からの視線を感じる)

(これは……逃げられない、腹を括るしかないみたいだ)

にちか「分かった、分かりましたよ……これからは私も下の名前で呼ばせてもらいますから!」


にちか「あ〜、もう! これからよろしく! 【真乃ちゃん、灯織ちゃん、めぐるちゃん】!」


めぐる「こちらこそだよ〜〜〜!!」

にちか「わっ、ちょっと! 急に抱きしめないで!」

灯織「め、めぐる……苦しい……!!」

ようやく、辿り着けた。
ずっと果ての見えない過酷な道を歩き続けていた。
必死に必死にもがき続けて、結果を望むことは傲慢だと思って、足掻くことが責務だと思って闇雲に遮二無二になっていた。
その結果、ルカさんのいう通り、開けた運命があった。
掴み取れた運命があった。
この悪路を進んでいなければ、この今はなかっただろうと思う。


______本当に、諦めなくてよかった。

714 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 20:59:19.94 ID:SZAKbp9W0

灯織「ごめんね、3人の手伝いに行ければよかったんだけど」

にちか「いや、気にしないで大丈夫! 明日の朝にちゃちゃっとやっちゃえば終わるはずだから!」

真乃「うん、灯織ちゃんは今日はお弁当を作ってくれてたんだよね? 明日食べられるのが楽しみだなぁ……」

めぐる「明日がすごい楽しみになってきた……どうしよう、今日寝られないかもしれない!」

灯織「もう……明日に体力を残しておかなくちゃでしょ? 今日はしっかり休もう」

にちか「ほんと、すでにくったくただから……今日は早いとこ寝とこ〜……」

真乃「お疲れ様、にちかちゃん」

私たちは胸にこれ以上ない充実感を抱きながら、それぞれの個室へと戻っていった。

715 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:00:14.72 ID:SZAKbp9W0
-------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノダム『今日ハ夜食ニピッタリナメニューヲ紹介スルヨ』

モノスケ『全国の受験生、それに受験生をお持ちの親御さん必見や!』

モノファニー『メモ用紙を持ってモニターの前に集まってちょうだいね!』

モノダム『マズ、国産牛ノサーロインステーキヲミディアムレアマデジックリ焼クンダ』

モノダム『ステーキガ仕上ガッタラソノママノ勢イデ唐揚ゲ粉ノ中ニダイブ』

モノダム『ソノママ250℃の油デ揚ゲチャオウネ』

モノタロウ『ステーキの唐揚げなんて超贅沢! 涎が止まらないよ〜!』

モノダム『ゴ飯ニ乗セテマヨネーズヲカケレバ完成ダヨ』

モノスケ『うんこの香りや〜! たまらん、たまらんでぇ!』

モノファニー『例の如く、これはアタイたちだけの夜食だからね!』

モノタロウ『キサマラはひもじくおにぎりでも食べてればいいんだよ!』

『ばーいくま〜〜〜〜!!!!』

プツン

(うぅ……何あれ、見てるだけで胃もたれというか……吐き気までしてくる)

相変わらず最悪な中身の放送は見なかったことにして、ベッドの上にゴロリと転がり込む。
この学園に来て初めての感覚だ。
まだ体がなんだかフワフワしてる。
信頼を勝ち取ると言うことがこれほどまでに充実感と自己肯定感が得られるモノだとは知らなかった。
お互いを下の名前で呼び合う仲なんて、久しく構築していなかったし、特別な存在だって相互に認識できたのは素直に嬉しい。

始まる前から成功体験を得られて浮き足立つのを、必死にベッドに縛りつけた。
もうこれだけのものが得られたのだから、明日の体育祭は最高の経験になるはずだよね!
716 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/08/31(木) 21:01:15.06 ID:SZAKbp9W0

……私は本気でそんなとぼけたことを思っていた。
自分は今日常の中にいない。
コロシアイという非日常の中にいるってことを完全に失念していた。
私は嫌というほどに知っていたはずなのに。



期待というのは、簡単に裏切られるものだということを忘れていた。



860.97 KB Speed:1.6   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)