このスレッドは950レスを超えています。そろそろ次スレを建てないと書き込みができなくなりますよ。

【シャニマス×ダンガンロンパ】シャイニーダンガンロンパv3 空を知らぬヒナたちよ【安価進行】Part.1

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175 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/06(火) 21:23:31.95 ID:poeVK48I0
ksk
176 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/06(火) 21:23:59.03 ID:poeVK48I0
ksk
177 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/06(火) 21:24:36.92 ID:poeVK48I0
ksk
178 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/06(火) 21:25:19.19 ID:poeVK48I0
ksk
179 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/06(火) 21:26:03.93 ID:poeVK48I0
ksk
180 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/06(火) 21:26:45.94 ID:poeVK48I0
ksk
181 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/06(火) 21:27:35.00 ID:poeVK48I0
らすと
182 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/06(火) 21:35:42.03 ID:poeVK48I0

【モノクマメダルを17枚消費しました】

【タピオカジュース】
【しょうが湯】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【がんじがらめブーツ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

【以上のアイテムを手に入れました!】
【現在のモノクマメダル枚数…40枚】

「うわぁ〜……なにこれ、こんなのどう使えっての?」

ガチャマシーンから排出されたのはどれもみるからにガラクタだらけ。
使い道もまるで分らないけど……こんなものを喜んでくれる人はいるのかな……?


1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…15個】

↓1
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/06(火) 22:18:52.65 ID:wZ9Rwlv40
1.愛依
184 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/06(火) 22:33:33.58 ID:poeVK48I0
1 愛依 選択

【超研究生級の音楽通の才能研究教室】

昨日の今日で体には疲れがたまっている。
今日の所はルカさんも下水道に無謀な挑戦はしないようだし、私も好きな音楽でも聞いて気を休めようかな……

ガラララ…

愛依「あ、あり? にちかちゃん? ア、アハハ……お邪魔してます」

にちか「愛依さん……どうしてここに?」

愛依「いや……なんか才能研究教室ってのどんなもんなんかな〜と思って! ご、ごめんね! にちかちゃんのショーダクも得ないで勝手に入って」

にちか「いやいや! 別に私の研究教室だからってそんな遠慮とか要らないんで! そ、それより……何か聞いていかれます? せっかくなんで、私のオススメとか……言っちゃってもいいですか?」

愛依「……! マジで?! 聞きたい、聞く聞く! てか、聞かせて!」

にちか「はい〜! 任せてください!」

愛依さんは他の人とも隔たりをまるで感じさせない人で、話しやすいな。
愛依さんと二人でレコードを聴いて過ごした……

-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【しょうが湯】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【がんじがらめブーツ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/06(火) 23:35:31.47 ID:wZ9Rwlv40
しょうが湯
186 :進行速度的に、過去スレでやっていたような自由行動のセリフ指定安価は今回カットしようと思います ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 20:58:47.89 ID:zsw/61tI0
【しょうが湯を渡した……】

愛依「あ、これカラダ温まる奴じゃん! うわ、なんかなつかし〜! うちもビョーキした時によくばあちゃんが作ってくれたんだよね」

にちか「あはは、どこの家庭でもおなじみなんですね」

愛依「にちかちゃんちも看病してもらってた系?」

にちか「はい……うちの場合は姉ですけど」

愛依「そっかー、にちかちゃんにもお姉ちゃんがいるんだもんね。にちかちゃんによく似て綺麗なお姉さんなんだろうな〜」

にちか「そ、そんなことないですよ……地蔵みたいなもんです!」

愛依「も〜! そんな照れなくてもいいって!」

(まあ、普通に喜んでくれたかな)

【NORMAL COMMNICATION】

-------------------------------------------------

愛依さんと言えば、すこし話したかったことがある。
昨日の下水道からの脱出の挑戦、最後の最後まで私とルカさんのことを気にかけてくれたのは愛依さんだ。
そのことが、戻ってからもなおずっと気になっていた。

にちか「あの、愛依さん昨日は優しい言葉をありがとうございました」

愛依「え? 昨日? ……あー、もしかして、下水道の時の!? いや、別になんも変わったことはうちしてないし、てかトーゼンっしょ!」

にちか「正直昨日の失敗は結構険悪なムードになっちゃって、ルカさんもかなり追い詰められて……私も不安に当てられちゃってたんです。そんな中、愛依さんが気にかけてくれたのが嬉しくて」

愛依「アハハ……うち、ただ自分の気持ちを口にしただけだからさ……」

愛依さんは私の言葉に照れくさそうにえくぼの辺りを掻いた。
きっと本当に彼女の言う通り、あれは何か目的があって口にした言葉というよりも、勝手に口から飛び出したものだったんだろう。

愛依「やっぱ心配じゃん? ルカちゃんもセキニン感じちゃってたみたいだからさ……あんなの、全然誰も悪くないじゃんね?」

出会ってまだ数日と経ってもいないけど、愛依さんのこれまでの接し方を見ていると、その人となりは何となく掴めてきた。
愛依さんは心の底から誰かを思い、そして誰かと距離を詰めることに一切の抵抗がない人だ。

にちか「です……でも、やっぱりルカさんは自分が主導したと思ってたみたいで、ちょっと凹んだみたいですよ」

愛依「あらら……ルカちゃんマジすげーわ、こんな状況でもうちらのこと考えてくれてんだもんね。すごく強い姿ばっかり見せようとしてくれて……心の負担もエグイだろしなんかモーシ訳なくなってくる……」

にちか「それは愛依さんもですよ。こんな不安な状況なのに、私たちの事……特に芹沢さんのことをすごく気にかけてくれてるじゃないですか。愛依さんこそ、負担になってたりしないですか?」

愛依「ううん、それは全然! うち、年下の子の面倒見るのとかケッコー好きな感じでさ。今もコロシアイ?抜きにしたら結構楽しい状況なんだよ?」

愛依「ほら、あさひちゃんもにちかちゃんも……みんな可愛いじゃん?」

にちか「か、かわいい……ありがとうございます」

愛依「なんつーんかな、フセー?感じる的な感じ!」

にちか「多分逆だと思います……」

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【現在の愛依の親愛度レベル…1.5】

187 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:01:31.00 ID:zsw/61tI0
【にちかの部屋】

愛依さんと別れて、自分の部屋へと戻ってきた。
ちょっと昨日ことで愛依さんにはお礼を言おうと思っていただけなのに、随分と話し込んじゃったな。
愛依さんにはなんにでも話したくなるというか、何を話しても受け止めてくれる信頼があるというか……

とにかく、あの明るさに宛てられていると時間があっという間だ。

さて、まだ今日は時間があるみたいだし、他の人とお話してみようかな?

【自由行動開始】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…15個】

↓1
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/07(水) 21:04:15.38 ID:IjXSQSHk0
1 千雪
189 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:06:38.89 ID:zsw/61tI0
すみません、今回のシリーズの登場キャラに千雪はいないので再安価にさせてください

人物指定再安価

↓1
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/07(水) 21:09:35.97 ID:Rw4nBgGP0
1.ルカ
191 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:16:00.16 ID:zsw/61tI0
1 ルカ選択

【倉庫】

ちょっと小腹が空いたし、お菓子でも調達しようかと思ってふらっと立ち寄った倉庫。
そこで私は、思わぬ人と出くわすこととなる。

ルカ「……! に、にちか……!」

にちか「ルカさん……? どうしたんですか? 今日はもう昨日のこともあるし部屋で休まれてるものかと思ってたんですけど」

ルカ「い、いや? なんでもねーよ?」

にちか「……? いま、ルカさん何か後ろに隠しました?」

ルカ「いや? そんなわけねーだろ! ほら、さっさと帰んな!」

にちか「じとー……怪しい……」

ルカ「ちょっ! 寄んなって……!」

_____
____
___

にちか「別に隠す必要なかったですよ? ルカさんが私より年上なのは分かってることですし」

ルカ「いや……でも、流石に未成年連中が山ほどいる中堂々と酒飲むわけにもいかねーだろ……」

にちか「そんな遠慮なんて要らないですって。うちでもお姉ちゃん私の事とかお構いなしに晩酌してますよ?」

ルカ「……まあ、今はとりあえずいいよ。また夜にでも飲む」

ルカさんはなんだか気恥ずかしそうにして、手に持っていた缶チューハイを棚へと戻した。

-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【がんじがらめブーツ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/07(水) 21:19:52.31 ID:Rw4nBgGP0
【がんじがらめブーツ】
193 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:32:41.63 ID:zsw/61tI0
【がんじがらめブーツを渡した……】

ルカ「うおっ、なんだこれ……編み込みまで全部チェーンで出来てるブーツか……?!」

にちか「はい、私的にルカさんのイメージに合いそうなグッズを持ってこさせてもらいました〜! ほら、ルカさんのアバンキッシュな感じというか、ちょっとこう擦れたイメージにぴったりだと思うんですよね!」

ルカ「褒めてんのか貶してんのかいまいちわかんねーな……」

ルカ「うーん……でも、案外悪くねえかもな。流石に履くのはないにしても、こんだけ頑丈なつくりをしてるなら傘立てとかにすんのもありか」

ルカ「いや……いっそこれぐらい派手なのを取り入れればパフォーマンスも新しいものに……」

(なんだかルカさん、物思いにふけり始めたぞ……)

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより多めに親愛度が上昇します!】

-------------------------------------------------

にちか「ルカさんルカさん! せっかくなので、ルカさんの研究生時代の話を教えてもらえないですか?」

ルカ「あ? どうしたよ、やけに興味津々って面じゃねーの」

にちか「いや、よくよく考えたらアイドルの研究生さんだなんて別世界の住人さんとこうやって一緒に過ごせるってすごい貴重じゃないですか! なんでいろんなこと聞いてみたいんですよ!」

ルカ「んー、つってもな……何が聞きて―の? 苦労話か? それともドロドロの止み営業の話か?」

にちか「え……そ、そんなブラックな話題しかないんですか」

ルカ「……アハハ、冗談だよ。そんな身構えるほど後ろ暗い話、持っちゃいねーよ」

ルカ「つっても華々しい話題がないってのは事実かもな。実際今は基本集団レッスンで歌とダンスやって、経験値は他の先輩アイドルたちのバックダンサーやりながら積んでる最中」

にちか「あ、やっぱりそんな感じなんですね……いわゆる下積み、です?」

ルカ「おうよ。テレビで見るようなトップアイドルたちの足元には無数の下積みたちが眠ってる。私もその中の一人に過ぎないんだ」

(これだけの魅力あふれるルカさんが下積みなのか……アイドル業界って底知れないな)

ルカ「研修生で仲いい奴と組んでユニットもやってるし、そっちでSNS活動とかミニライブ出演とかもやってなくはないけど……まあ、まだまだだな」

にちか「それって前仰ってた相方さんの事です?」

ルカ「おう、あいつはもともと北海道の出身でよ。夢を追うために上京してきて……他の連中なんか目じゃねーほどの熱量でやんの」

ルカ「今はあいつについていくのでいっぱいいっぱいだよ」

(ルカさんにそこまで言わせる相方さん、一体何者なんだろう)

ルカ「ていうか、こんなことでよかったのか? もっとなんか面白い話題とか……」

にちか「いえ、ありがとうございます。貴重なお話が聴けて私も満足です!」

ルカ「まあ、にちかがいいならそれでいいけど……」

ルカ「……ハッ、あんたも案外ここでの【研究生】ってのまんざらでもないのかもな。そんだけアイドルに興味津々でございますって顔されたらそう思っちまうよ」

にちか「……え?」

ルカ「じゃあな、研修生! これからもよろしく頼むよ」

にちか「あっ、ルカさん!」

ルカさんがいなくなってからも、なんとなく私は自分の心に起きた波紋を測りかねていた。
私がアイドルに憧れている? いや、そんなのって……流石に身の丈にあって無さすぎる。
だって私は日常の中に買い潰される宿命を背負った、ただの一般人なんだよ?

一般人のまま終わる……つまらない女子高生、なんだもん。

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【親愛度が上昇しました!】

【現在のルカの親愛度レベル…2.0】
194 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:35:28.05 ID:zsw/61tI0
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【寄宿舎前】

1日探索に当てたけど……目立った収穫はなし。
まあそれでも、他の人と一緒に過ごしたことで少しは親密になれたような気はするし、それを収穫としておこう。
探索からの帰り道、学校を出て自分の部屋へと戻ろうとしている時、遠くの方に人の姿が見えた。

背丈が同じくらいの三人……【櫻木さん、八宮さん、風野さん】だ。
風野さんの手をグイグイと八宮さんが引っ張っているのが目に入る。

めぐる「ねえ、灯織……今日は真乃と一緒に、お部屋でお話ししようと思ってるんだけど一緒にどうかな?」

灯織「え、ええ……?」

真乃「灯織ちゃんがよければ、なんだけど……今はこんな状況だけど、こうして知り合うことができて……」

真乃「お友達になれたら、嬉しいなって……めぐるちゃんと」

めぐる「わたしたち、同年代だし……灯織とわたしは同じ部屋に閉じ込められてた仲じゃない?」

どうやら櫻木さんと八宮さんが風野さんを誘っているらしい。
警戒心が強く、少し孤立気味だった風野さんを八宮さんはずっと気にかけている素振りを見せていたし、今のこれもその一つなんだろう。
195 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:37:14.52 ID:zsw/61tI0

八宮さんの呼びかけは純粋な善意だ。
誰しもが心細く、恐怖に打ち震えるこの学園生活で、少しでも身を寄り添える場所を作ろうというその一心なんだと思う。
その笑顔は、遠巻きに見ている私からしても眩しく映った。

灯織「いや……私はいいよ」

そう、あまりにも……【眩しく】。

灯織「八宮さんはもっと他人を疑った方がいいよ。こんな状況なんだし、いつ誰に足元を掬われるか分からないし……」

灯織「櫻木さんも……他の人に流されるんじゃなくて、自分がどうしたいかをもっと考えた方がいいんじゃないかな」

好意をそのまま呑み込めるような人ばかりじゃない。
それがコロシアイという猜疑心のジャングルの中なら尚更。
人が何を考えているのかなど、明け透けには分からないものだ。
天使の顔をして差し出しているその手を取ったが最後、地獄に引き摺り込まれないとも限らない。

風野さんはまだ、その【柵の中】にいた。

灯織「……! ご、ごめん……!」

思わず口から出てしまった冷徹な文句に風野さん自身少し驚いた様子。
キョトンとする二人に平謝りするような形で頭を下げ、そそくさと後にした。

にちか「あ、風野さん……!」

私の横をすり抜けて行ったのに、風野さんはそれに気づく様子もなかった。
196 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:38:38.39 ID:zsw/61tI0

めぐる「……行っちゃった」

真乃「灯織ちゃん……やっぱり、まだこの状況じゃ信じてもらえない……よね」

めぐる「ごめんね、真乃……悲しい思い、させちゃったよね」

真乃「ううん……大丈夫。私も、めぐるちゃんと気持ちは一緒……灯織ちゃんともっと仲良くなりたいと思ってるから」

真乃「また、めぐるちゃんの力にならせてもらってもいいかな……っ」

めぐる「うん、もちろんだよ!」

純粋に強いな、と思った。
私はあんなふうに拒絶されてなお、手を差し伸べようとは思えない。
櫻木さんと八宮さんが折れず、説得の意思を改めてしている様子を見ていると、胸がチクチクとするようだった。

それは、自分自身との残酷な対比に原因がある。
私は最後まで他の誰かに添い遂げる覚悟なんて持っていないし、反対に誰かの手を取る勇気も持っていない。

でも、普通そうじゃない?
高校生なんて年齢、これまでの人生、吹かれ流されしか経験してきてない。
この学園でも、私の近くには幸運にもルカさんという標がいてくれた。
だから私はなんとか両足で立っていられる。ただそれだけのことなんだ。

「……帰ろ」

櫻木さんと八宮さんが寄宿舎に戻ってくると、鉢合わせてしまう。
そうなる前に私も風野さんの後を追うように自分の部屋へと戻った。

197 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:39:57.68 ID:zsw/61tI0
------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノキッド『おい! どこだ! どこに隠していやがる!』

モノファニー『アンタやめて、そんなに毎晩だったら体を壊しちゃうでしょ!』

モノキッド『うるせー! ミーはこの一家の大黒柱だぞッ! はちみつをいつ舐めようがどれだけ舐めようがミーの勝手だろうが!』

モノタロウ『わー! モノキッドのお決まりの禁断症状だよー!』

モノスケ『はち禁は2時間……記録更新やな』

モノキッド『さっさとはちみつ出さんかーい!』

モノダム『……』

プツン


部屋に帰る前に三人のやりとりを見たからだろうか、ベッドに横になってからも気が立っている感じがした。

多分、ルカさんにとって私はたまたま居合わせただけの存在で。外の世界に待っている相方さんの方がよっぽど大切な存在なんだ。
そんな当たり前で分かりきっている事実が何度も頭を巡っている自分が気色悪かった。

知りもしない人に嫉妬をしているのか?
身の丈に合ってない劣等感を抱いているのか?

いや、そんなんじゃない。
この学園に来てから出会った人たちがあまりにも自分より眩しくて。
そんな人たちが、自分と同じ『一般人』という呼称で定義されているのが苦しくて。
あの人たちが『一般人』なら私は何?

回答を得られるはずのない自問自答は無限に続いて、


_____有限の眠りに閉ざされる。


198 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:41:31.48 ID:zsw/61tI0
------------------------------------------------
【School Life Day4】
------------------------------------------------
【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

『…………』

『…………』

『…………』

(荒れたモノクマーズ基地で一人はちみつをしゃぶっているモノキッドが映っている)

プツン

この学園に来てから、自分らしくなく物思いに耽ることが増えた。
昨日もよくわからないことを考えているうちに眠ってしまっていたような気がする。
まあ、それは今までの人生がどれだけ頭空っぽに呆けていたかの証左に他ならないのだけど。
すっからかんの側頭部をコンコンと叩きながら眠気を削り落として、朝の支度をした。
199 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:42:59.09 ID:zsw/61tI0

……随分とうなされていたらしい。
何度か睡眠中に目を覚ました覚えもあったし、身を起こした時のベタつく感じは寝汗をかいていたことの証明だ。
今の季節がどうかは知らないけど、特段暑くも寒くもない環境下でこんなに跡がつくほどの汗は、やっぱり苦悶が滲み出たモノと言うほかない。
変色したシーツを撫でると、自分のものながら嫌悪の声が出た。
後でモノクマーズに呼びかけて交換をお願いした方が良さそうかな。

ピンポーン

……そんなタイミングでインターホンが鳴った。

ルカ「よう、にちか。……どうした、なんか昨日あんまり眠れなかった感じか?」

にちか「え? そ、そう見えますか……?」

ルカ「んまぁ……ちょっと目がとろーんとしてて、さっき起きたばっかなのかなって」

にちか「いや……大丈夫です。朝食会ですよね、急いで準備します!」

ルカ「ああ、別に急がなくていいけど……そうだ、朝食会の後なんだけど、【ちょっと時間あるか】?」

にちか「え? ああ……はい、大丈夫ですけど」

(……なんだろう? 周りをキョロキョロと見回して、私だけにしか聞かせたくない話とかなのかな)

ルカ「サンキュー。そんじゃ先に朝食会だ、準備できたら言ってくれよ」

ルカさんが私だけに、という言葉で少しだけ高揚するのをバレないように隠しながら朝の支度をした。
部屋の外で待っていてルカさんに声をかけてそのまま食堂へ。

朝ごはんの後、か……一体何の用事だろう?

200 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:44:06.65 ID:zsw/61tI0
------------------------------------------------
【食堂】

めぐる「あ、にちかちゃんだ! おはよー!」

にちか「あ、ども……」

めぐる「……あれ?」

昨日の夜のやりとりを盗み見てしまった気まずさからか、八宮さんの挨拶をおざなりに返してしまった。
少し違和感を持って受け取られたようだったけど、私は逃げるようにしてルカさんの隣に座った。ルカさんは私の混乱を意に介さず、平然としている。

甜花「今日で、四日目……まだ助け、来ないね……」

甘奈「そっか……もうそんなになるんだ……」

恋鐘「昨日モノクマーズが言うとったことが気になるばい……警察の人たちは本当に助けに来んとやろか?」

夏葉「連絡を取るための手段も取り上げられてしまっているし、外の状況もわからない……苦しい状況ね」

樹里「……いや、気を強く持て! 絶対に助けは来るって!」


【おはっくま〜〜〜〜〜!!!!!】

201 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:45:33.69 ID:zsw/61tI0

モノスケ「性懲りも無く現実逃避に励んどるところ、お邪魔するでー!」

モノタロウ「現実から目を背けちゃダメだ! 今こそオイラたちは現実に向き合うべきなんだ!」

モノキッド「それこそがキサマラのユア・ストーリーなんだ!」

甜花「やだ……甜花はビアンカかフローラかで、ずっと悩んでいたい……!」

(……何の話?)

モノファニー「今日はキサマラにとっておきの情報があってやってきたのよ!」

モノスケ「アツアツドキドキのスペシャルなプレゼントや! 耳の穴ほじくり返してよう聞きや!」

にちか「とっておきの情報……?」

連中がほくそ笑みながら言い出している時点でどう考えても碌な情報でないことは明らかだ。
まあ、ぬいぐるみに表情の機微など無いのだけれど。
202 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:46:28.37 ID:zsw/61tI0

モノタロウ「さっきそこのお姉さんも言ってたけど、今日でキサマラが才囚学園に来てから丸四日になるんだよ! わーい!」

モノキッド「あのな……遅いんだよ! 遅すぎてあくびがでちまうぜッ!」

灯織「お、遅い……?」

モノキッド「さっさと一人でも二人でもぶっ殺しちまえってんだッ! せっかくのコロシアイなのに日和見すぎだぜッ!」

(……っ!)

ルカ「誰が……! 誰がコロシアイなんかしてたまるかよ!」

モノタロウ「わわわ! お、怒らないで! オイラたちは別にそのことで文句を言いに来たわけじゃないんだ!」

樹里「もう文句は言われたけどな……」

モノファニー「お父ちゃんが、そんなゆっくりスローペース50CCなキサマラのお尻を叩きにやってきてくれるのよ!」

真乃「それって……つまり……」


バビューン!!!


モノクマ「はいはい! 呼ばれて飛び出てジャバザハット〜〜〜!」

めぐる「わー! ま、またどこからともなくモノクマが現れたよー!」
203 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:48:08.14 ID:zsw/61tI0

モノクマ「話は聞かせてもらったよ! せっかくのコロシアイなのに、中々勇気が振り絞れない! 中々その一歩が踏み出せない! そんなお悩みですね?」

円香「誰もそんなこと言ってないし」

恋鐘「そっちが一方的にふっかけとるとやろ〜!」

モノクマ「そんな思春期のお悩み、ボクもよくわかります。最初の一歩を踏み出す時は、足がすくんだものでした」

モノクマ「だけど、一歩さえ踏み出せてしまえなあとは楽々! 坂道を駆け下りるようにどんどんコロシアイの連鎖に引き込まれちゃんます!」

灯織「それで、私たちに何の情報を渡すつもりなんですか?」

モノクマ「【動機】だよ」

にちか「ど、動機……?」

モノタロウ「過労死ラインの残業でもだんまりの役に立たない組織?」

モノスケ「それは労基や!」

モノファニー「じゃあ、営業が現場の状況を無視して取り付けてくる約束のことかしら?」

モノスケ「それは納期やっちゅーねん!」
204 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:50:18.06 ID:zsw/61tI0

モノクマ「そうだよね、オマエラはのこのこ温室育ちで人が人を殺すという現場に出会したこともないんだ。そりゃその一歩を踏み出すのも躊躇うってものだよね」

モノクマ「おっかしい! 地球の裏側では生まれて間もない子供が大人の仕掛けた爆弾で命を落としてるのに、まるで自分たちには生き死には関係ないですって顔してるんだもん!」

夏葉「……それは論点のすり替えよ」

霧子「そんな人たちが少しでも減ってほしいと、いつも私たちは願っています……」

モノクマ「まあそれはそれとして、オマエラが人を殺す上でハードルになっているものは何かをボクなりに考えてみました!」

モノクマ「それはずばり未知! 人を殺すってどうなんだろう? 学級裁判ってどうなんだろう? まだ経験したことがないことに飛び込むのは怖いもんね!」

モノクマ「なので、今回だけの特別サービス!」

モノクマ「ずばり、【コロシアイお試しキャンペーン】を開催します!」
205 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:51:11.66 ID:zsw/61tI0

モノクマ「これから最初に起きた殺人事件に関して、学級裁判でクロになった人はクロだとバレてしまった場合でも【おしおきを免除】されます!」


モノクマ「更に、もし学級裁判で他のシロを騙し抜くことに成功した場合は……そのまま【卒業もできちゃいます】!」


モノクマ「その場合でも他の【シロ全員のおしおきは免除】! クロもシロも傷つかない、まさに【学級裁判のチュートリアルモード】というわけなのです!」

206 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:52:18.34 ID:zsw/61tI0

モノクマ「ほら、このコロシアイって色々と工程があってめんどいじゃん? とりあえず一回通しでやってみれば要領もわかるようになるってもんだよ」

モノタロウ「習うより慣れろってやつだね! オイラこのことわざを知ってから全部説明書は破り捨てることにしてるんだ!」

モノスケ「保証書と領収書も併せてシュレッダーにかけとるで!」

夏葉「ふざけないでちょうだい!」

モノクマ「ん?」

夏葉「何が誰も傷つかない学級裁判よ……殺人事件が起きている時点でそんなの、矛盾しているじゃない!」

モノファニー「おっとこれは明確な矛盾を築かれてしまったわね、お父ちゃんはどう切り返すのかしら」

モノタロウ「お父ちゃん! キレキレの弁舌で切り返して見せてよ!」

モノクマ「あわわわわわわわわ」

モノファニー「大変! 泡を吹いてるわ!」

モノスケ「アカン、お父やんはレスバが弱すぎるんや! 毎度毎度飛行機を飛ばして対処しとるから、正面からの問答には向いてへんねや!」

モノクマ「……イワレテミタラソッ!」

バビューン!!

モノタロウ「わー! お父ちゃんが逃げたー!」
207 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:53:07.77 ID:zsw/61tI0

透「最後の捨て台詞何?」

ルカ「言われてみたらそう……どこまでも舐め腐ってんな」

モノスケ「まあそういうことや、コロシアイは今が始めどきってことやな」

モノキッド「スタートダッシュでライバルに差をつけろ!」

モノタロウ「今なら確定チケットももらえる!」

モノファニー「おしおきがなくなるならグロくならなくていいわ。ずっとこのままでいいのに」

モノダム「……」


【ばーいくま〜〜〜〜〜!!!!!】


にちか「行っちゃいましたね……」

モノクマからの動機の提示。
コロシアイが発生しない膠着状態の私たちに刺激を与える意味で提示されたおしおき免除の条件。
確かに犯行に伴うリスクはこれで取っ払われるわけだけど……
208 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:54:14.50 ID:zsw/61tI0

凛世「少し、拍子抜け致しましたね……」

甘奈「だね〜、コロシアイをもっと強要するような方法で来るのかと思ったけどこれなら心配しなくて良さそう!」

樹里「どこまでもおちょくってやがんな……学級裁判のおしおきがなくなるだ? そんなもんでアタシたちが靡くと思ったら大間違いだよ」

愛依「そもそもで人を殺す……とかマジで無理だしね」

真乃「とりあえずは安心してよさそうですね……!」

モノクマの揺さぶりは私たちにはまるで通じていなかった。
大前提において自分で誰かを手にかけるということがあまりにも現実味がなさすぎるため、その先の学級裁判なんて頭にほとんどなかったくらいだ。
みんなモノクマが去った後はあっけらかんとした様子で談笑をしていたし、私も気を緩めていた。

ルカ「……」

ただ隣のルカさんだけは、考え込む動作をしていたのが気になったけど。
209 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:55:34.91 ID:zsw/61tI0

そのまま朝食会はいつも通りに進み、食べ終わった人から食道を後にした。私とルカさんは意図的にゆっくりに食べ進め、最後に残った。
二人だけになったのを確かめると、ルカさんは私の近くに寄った。

ルカ「……もう、あんまり余裕はないかもしれねえな」

にちか「……えっ?」

ルカ「膠着状態に向こうが痺れを切らし始めた……やばい兆候だよ」

にちか「それって動機のことです? いやでも、おしおきの免除とか、正直それだけで何か変わりはしないでしょって思いますけど」

ルカ「それだけなら、な」

にちか「……え?」

ルカ「これで終わりだとは思えないんだよ。オマエも見ただろ、あのバカでかいロボット」

ルカさんが言ってるのは多分エグイサルのことだ。
体育館で姿を見せて以降は学園の整備のためにずっと稼働しているようだけど、あれは元々武力兵器の触れ込みだったはず。
210 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:56:22.15 ID:zsw/61tI0

ルカ「あいつらは私たちを簡単に蹂躙するぐらいの力は持ってる。コロシアイが起きない状態が続けば、危険が身に及ぶ可能性だって十分にある」

にちか「そ、そんな……!」

ルカ「……今のうちに対抗手段は考えておくべきかもしれないな」

にちか「そ、そんなの無茶ですって! 私たちであんなロボットにどう立ち向かえばいいんですか!」

私がルカさんの裾を取って泣き縋るようにして叫ぶと、キョトンとした顔をされた。
目を丸くして私をしばらく見た後、吹き出して笑う。

ルカ「アハハ、ちげーよ。戦うわけじゃない。私たちの基本方針を忘れたか? 基本はここから安全に脱出すること、だろ?」

にちか「あ、あはは……そっか、そうですよね」

ルカ「そのためにはまず学園の謎を解くことだ。この学園の真相に近づく情報を少しでも集めたい……それで、【オマエに見せたいもの】があるんだ」

にちか「見せたいもの……ですか?」

ルカ「ああ……ついてこい」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/06/07(水) 21:57:28.59 ID:Pu7SZLZp0
天安門事件 四五天安門事件 六四天安門事件 中国六四真相 六四事件 Tienanmen Massacre Tienanmen massacre
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走私 王丹 魏京生 胡耀邦 趙紫陽 民主化 民運 六四民運 中国 シナ ウルムチ騒乱
212 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:57:28.52 ID:zsw/61tI0
------------------------------------------------
【1F 女子トイレ】

ルカさんに連れられてやってきたのは女子トイレ。
個室が三つ並んで、後は掃除用具入れと手洗い場のごくごく普通の女子トイレ。
ここに一体何の用事があるというのだろう。

ルカ「そんな警戒すんなよ」

……なんとなくルカさんの容姿でこの場所だと詰められそうな感じがする。

ルカ「にちか、オマエを信頼できる相手だと見込んでの話だ。ここから先のことは口外禁止で頼む」

にちか「は、はぁ……」

口外禁止という重い言葉を浅い覚悟で飲み下す。
私が一応は首を縦に振るのを認めると、ルカさんはそのまま、女子トイレの用具入れの壁に右手をついた。
すると、そのまま……



ズズズズ……



壁は扉のように動いて、真っ暗な空間が姿を現した。

にちか「え、えええっ?!」

ルカ「シッ! 大きい声出すな! まだ他の誰にも話しちゃねーんだ、落ち着いてくれ」

にちか「は、はい……」

ルカ「いくぞ……ついてきな」

少し屈みながら、突如として現れた空間の中へルカさんは突き進んでいく。
何が起きているのかわからず動転している私は、ただ彼女の後ろに続くしかなかった。

中の空間はわずかな照明が点るコンクリートの通路だった。窓も何もなく、ただのっぺりとした道が続く。
歩いた感触で唯一わかるのは、少しこの道には傾斜がついている。緩やかながら、少しずつ、少しずつ下っている。
道を何度か曲がるようにして、先の見えぬ闇を下っていくと、また開けたところに出た。


213 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 21:58:51.92 ID:zsw/61tI0
------------------------------------------------
【???】

にちか「こ、ここは……?」

明らかに異質だった。
立ち入れた瞬間に、本能が全身の毛を逆立たせるほどに充満している悪意。
だがそれは今まさに精製されているものではなく、嘗てここに在ったであろう何かないしは何者かの残滓だ。

ルカ「さあな、今は使われていない部屋みたいだけど……こいつをみればその持ち主がクソッタレだったことは窺い知れんだろ」

そう言ってルカさんは部屋の一角に備えられた巨大な機械のガラス部分を手の甲でコンコンと叩いた。
ガラスの中には何かが沈んでいる。中の照明が落ちているし、機械自体にも電源が入っておらず故障している様子だ。

にちか「そ、それって何です……?」

促されるまま、近づいていく。
一歩一歩踏みしめるごとに喉が締められるような閉塞感を感じながら。

にちか「いやまさかそんなわけ……」

黒と白が目に入る。
直感が脳髄をチクリと刺した。



にちか「……なん、で」



予感が現実に変わった時、膝から力が抜け落ちるようだった。
私たちにとっての絶望の象徴、【モノクマの巨大な頭部】が闇の中に沈んでいたのである。
214 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:00:21.29 ID:zsw/61tI0

にちか「な、なんなんですかこれ?!」

ルカ「……わからねえ」

肘を抱き寄せるようにしているルカさんは苦々しそうにそう返した。

ルカ「この部屋の正体も、こいつの正体も何もかもわからねえ。隅々まで探しては見たんだけど、何かに繋がる証拠もなかったよ」

ルカさんのいう通り。これほどの悪意を充満させていながらも、私が歩みを進めることができたのはその空虚さに由来する。
何かが並んでいたであろう棚はもぬけの殻だし、ゴミ箱を除けば得体の知れぬ砲丸が一つ転がるだけ。
後は喋りもしない、反応もしないモノクマの巨大な頭部の乗っかった機械が一つ。

ルカ「これを見つけたのはつい昨日のことだ。トイレで用を足してる時に偶然な」

ルカ「私が入った時にはもうこの状態……多分、私たちがこの学園に来る以前からこうだったんだと思う」

にちか「ですね……棚に埃が溜まってますし」

ルカ「だけど……私たちの前に姿を現してるモノクマたちとこれが無関係だとは流石に思えない」

ルカ「このデカいモノクマが……何か真実を握ってるんじゃないのか?」

にちか「これが……ルカさんが私に話したかったこと」

ルカ「ああ、それと……もう一つ」

にちか「もう一つ?」
215 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:01:03.94 ID:zsw/61tI0





ルカ「私は、このモノクマの入ってる機械を修理したいと思ってる」




216 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:02:37.23 ID:zsw/61tI0

にちか「……は?」


にちか「え、は、な、何言ってるんですか?! こんなの、どう考えても敵の道具ですよ?! それを直すって……」

ルカ「だからこそだよ、この機械はまず間違いなく私たちの知らない情報を握ってる。それが私たちにとって有利になるものか不利になるものかはわからないけどな」

にちか「いやでも、こんなの治し方もなにも分からないんじゃ……」

ルカ「その点は安心しろ。ほら……これ」

ルカさんは少し屈んで、配電盤を開いて見せた。

ルカ「他に目立った損傷はないけど……ここにあっただろう【五本のケーブル】だけ無くなっちまってる。この代替品が見つかれば多分電気が通るはずだ」

確かにこの部屋自体に電気は通っているし、ルカさんのいう通り目立った破損はない。
専門的な話は分からないが、ここに当てはまるケーブルを付け直すという方法が一つの解であるような気はする。
217 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:03:49.56 ID:zsw/61tI0

ルカ「ひとまず今は倉庫を漁ってるんだが、何しろあそこも膨大な数があるからさ。まだ全部は見れてないんだ」

にちか「それを……手伝えってことです?」

ルカ「ああ……悪いんだけど、頼めないか! にちか、オマエしかいないんだよ!」

にちか「……」

どうなんだろう。
私にはこのモノクマを起動することがパンドラの箱を開けることと同義にしか思えない。
でも、パンドラの箱を開けた結果に最後に残るのは小さな希望だ。
脱出という希望を掴むためなら、災厄の奔流に一度身をまかす必要もあるのかも知れない。


……生唾を一つ飲み込んだ。


にちか「……わかりました、やります。やりますよ」

ルカ「……ホントか!」

正直なところ、現実逃避できるところを探していたところはある。
この学校に来てから感じることになった身の危機や他の人と比べた時の劣等感。
そういうのに思考が堂々巡りになりがちな今、誰かのために時間と思考を捧げられるタスクは都合が良かった。
ルカさんは依存先の、とりあえずの依代としてちょうど良かったのである。
218 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:04:51.76 ID:zsw/61tI0

ルカ「サンキュー……にちか、オマエならそう言ってくれると思ってたよ」

にちか「アハハ、ルカさんにそう言われると弱いです!」

ルカ「おっし……それじゃあ必要になるのは【SHU-1ケーブル】【YM2ケーブル】【HR-MKケーブル】【K-Bケーブル】【SG-TMケーブル】の5種類だ。これを探すぞ」

にちか「了解です!」

ルカ「あ……忘れてた。それともう一つ。伝えとくことがあるんだが……」

にちか「ん? なんです?」

ルカさんはすくりと立ち上がるとそのままスタスタと部屋の反対へ。
モノクマの頭部に向き合うような形で部屋には扉が取り付けられていた。

ルカ「ここから外に出れるんだ」

にちか「外……ですか?」

ルカ「といっても流石に学園の中だ。まあ隠し通路みたいなもんとイメージしとけばいいさ」

にちか「はぁ……」

ルカさんは扉の横に取り付けられたボタンに手をかざす。
壁の向こうからゴゴゴゴと低く唸るような音がしたかと思うと、視界がだんだんと開けていった。


219 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:06:02.58 ID:zsw/61tI0
------------------------------------------------
【B1F 図書室】

にちか「こ、ここって……」

ルカ「ああ、地下の図書室だよ」

どうやら図書室の奥側の本棚の一角が動く仕掛けになっているらしく、裏の壁に隠された扉から出入りが可能みたいだ。
こんなの、初めに入った時はまるで気づかなかった。

ルカ「ったく隠し部屋なんてどこの魔法学校だって話だよな」

にちか「びびった……こんなん初めて見ましたよ」

私たちが扉から離れてしばらくすると、自動で本棚は閉まっていった。
これで普段はカモフラージュしているのだろう。

にちか「これ、図書室側から行くこともできるんですか?」

ルカ「あー……ちょっと待ってな」

ルカさんは動作した本棚に並んだ本をしばらく見比べてから、収められた辞典の一つを強く押し仕込んだ。

ゴゴゴゴ……

するとまた地響きのような音がして、本棚が動きだし、すぐに先ほどの扉が姿を現した。
220 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:07:27.77 ID:zsw/61tI0

にちか「……あれ?」

ただ、その扉には一つの違和感。

ルカ「そうなんだよ。こっち側から入るには【カードキーがいる】みたいなんだ」

先ほどの隠し部屋側ではボタンがあった位置に、今度はカードリーダーのような機械が取り付けられていたのである。

ルカ「当然私たちはこんなカードキーなんか持っちゃいない。こっちから入るのは不可能ってことだな」

にちか「一方通行の隠し通路……ですか」

ルカ「ああ、だから図書室側から入ることは基本的にないな」

どっち側からも行き来できたら何かに使えるかと思ったけど、これならあの隠し部屋に行く以外の用途はあまりなさそうだ。
私たちが扉から離れると、またしばらくして本棚が自動で動いて蓋がされた。
これでもう他の誰にも気づかれない。

ルカ「今の所ここに気付いてるのは私とにちかだけのはずだ……不用意に情報を振り撒くのも良くない気がするしな」

にちか「ですね……あのモノクマの頭とか……それを直そうとしてるとかってのは伏せた方が良さげです」
221 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:09:02.79 ID:zsw/61tI0

ルカ「にちか……急にこんなことを背負い込ませて悪いな」

にちか「い、いえ! むしろ私にだけ明かしてくれたのってなんかすごい嬉しいかもです! ルカさんが私を信頼してくれた証なのかなって思うと!」

やばい、急にルカさんに笑顔を向けられてテンパってしまった。
口から飛び出した不恰好な本心を慌てて両手で押さえ込む。

ルカ「いや、その通りだよ」

にちか「……!」

ルカ「正直さ……私、目が覚めてからずっと怖いんだよ。こんな訳のわからない状況で、コロシアイだのなんだの言われて……ずっと震えてるんだ」

にちか「ルカさん……」

ルカ「それでも前を向こうって思えたのは私を頼ってくれるオマエがいたからなんだよ」


ルカ「オマエの期待に応えてやりたい……それが今の原動力だ」


驚いた。
ルカさん自身の震えには気付いてはいたけど、そこまで私のことも思ってくれていたなんて。
私がルカさんのことを頼りにして、ようやっと立っている。
そんな一方的で無責任な思慕だとばかり思っていた。

でも、そうじゃなかった。
ルカさんだって等身大の女の子で、等身大に怯えて、等身大に震えている。
それでも私の前に立っているのは、私が後ろからルカさんのことを見続けているから。

ルカ「……なんてな」

ルカさんの口から、私という存在を必要とされていることが出たことが存外嬉しくて、私は思わず手を打った。

にちか「ルカさん……絶対、生きて帰りましょうね」

にちか「私も、ルカさんも……みんなも連れて!」

ルカ「ハッ……当たり前」

私とルカさんはそこで一旦別れて部屋に戻ることになった。
倉庫でケーブルを探すのは時間が空いたタイミングを見つけながらでいいと言っていた。
次の自由時間なんかで行ってみてもいいかもしれないな。

222 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:12:26.06 ID:zsw/61tI0
【にちかの部屋】

部屋に帰ってからも、口の中に押し込んだ秘密が溢れだしそうで、あたふたしていた。
ルカさんのためにケーブルを探す。その目的を得たのも一つ大きな収穫だった。
誰も存在を知らなかった隠し通路というだけで大興奮なのに、その秘密を共有しているのがあのルカさんなのだからしょうがないのだけど。

部屋に戻るなりすぐに蛇口をひねって、水道水を喉の奥に流し込んだ。
誰かに話してやりたいという衝動を飲み下して、一生懸命落ち着きを取り戻した。

さて、他の人に怪しまれないように日中は平然を過ごさなくちゃいけないよね。
まだ今日は朝ご飯を食べて少し経っただけ、今日という一日はまだ続くのだから。

どうしようかな……?

【自由行動開始】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…15個】

↓1
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/07(水) 22:14:09.20 ID:Rw4nBgGP0
1.愛依
224 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:23:25.25 ID:zsw/61tI0
1愛依 選択

【中庭】

にちか「あ、愛依さん。こんなところで何してるんですか?」

愛依「あ、にちかちゃんじゃん。いや、何してるってわけでもないんだけどなんか落ち着かなくてさ……アハハ」

にちか「さっきの動機の話ですか?」

愛依「うん……いや、あんなの真に受けて行動する子なんていないとは思うんだけどさ……」

愛依「あの話聞いてると、うちらにコロシアイが要求されてるのはマジなんだなって認識するっていうか……」

にちか「……」

愛依「ご、ごめんね! こんなマイナスなこと口にしてもしゃーないもんね!?」

にちか「いや、大丈夫です。私も色々と溜まってるので、ここらでぶちまけあいましょうよ。そんですっきりしちゃいましょ!」

愛依「にちかちゃん……」

愛依さんと一緒にこのコロシアイにおける漠然とした不安を言葉にし合って過ごした……

-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【絵本作家ですのよ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/07(水) 22:27:22.14 ID:Rw4nBgGP0
【絵本作家ですのよ】
226 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:33:53.19 ID:zsw/61tI0

【絵本作家ですのよを渡した……】

愛依「こ、これ……! マジ?! もらっていいの!?」

にちか「え、あ、はい……なんか起動するたび新しい絵本を自動で生成してくれる機械なんですけど……」

愛依「うわ〜、めっちゃ助かるわ〜! 毎晩夜の読み聞かせの時の絵本に困ってたんだよね! なんだかんだいっつも同じ絵本になっちゃいがちだし、コンマリ?打破できそうでいい感じ!」

にちか「マンネリのことですかね……」

愛依「マジサンキュー、にちかちゃん!」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより多めに親愛度が上昇します!】

------------------------------------------------
にちか「そういえば愛依さんって兄弟がいらっしゃるんですよね?」

愛依「うん、そーだよ? 上にお姉とお兄がいて、そんで下には弟と妹が一人ずつ!」

にちか「えっ、めっちゃ大家族じゃないですか?! すご!?」

愛依「にちかちゃんのとこは、お姉ちゃんが一人だっけ」

にちか「いや、はい……え、嫌じゃないですか? そんなに兄弟いるのって」

愛依「イヤ……?」

にちか「ほら、うちの姉とかめっちゃデリカシーもプライバシーもないんですよ! こっちが部屋で友達と話しててもお構いなしに扉開けて『晩御飯よ〜』してくるし!」

にちか「私の選んで使ってるヘアコンディショナーとかも何の断りなしに使ってくるんですよ!? 家庭内の侵略者、ドメスティックインベーダーですよあんなの!」

愛依「アハハ、なんかにちかちゃんの家も賑やかそうだね〜」

にちか「笑い事じゃないです!」

愛依「でもうちもおんなじ。ほら、うちってちょうど真ん中だからお兄とお姉は何かと頼みごとをしやすい相手だし、弟と妹はちょうどいい遊び相手だと思ってる」

愛依「それでいったら家にいるときの一人の時間なんてめっちゃ少ないかもね」

にちか「ほら〜! しんどいじゃないですか〜!」

愛依「でも、うちからすればその時間もかけがえのないもんだからさ」

愛依「だって、その人と一緒に過ごす時間ってここから先の未来でも得られるかわかんないじゃん? 今こうやって一緒にいるキセキがあるからこそのもんじゃん?」

愛依「だから、うちは家族と一緒に居られる今が……すごく大好きで、すごく大切なんだよね」

にちか「……この学校、出なくちゃですね」

愛依「うん! お互い家族たちが待ってるもんね!」

(……お互い、か)

------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【愛依の現在の親愛度…3.5】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…16個】
227 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:35:59.00 ID:zsw/61tI0
【にちかの部屋】

愛依さん、本当に家族のことを大切に思ってるんだな。
ずっと話してる最中も笑顔を絶やさなかったし、一言も悪口なんて言わなかった。
それどころか私がお姉ちゃんの陰口をいってもニコニコしてて……

なんか、家族というものの理想像が愛依さんの中では確固たる明確なビジョンがあるんだろうな。

はぁ……私はそこまでまっすぐにお姉ちゃんのことを想えないよ。

【自由行動開始】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…16個】

↓1
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/07(水) 22:43:07.21 ID:Rw4nBgGP0
1.愛依
229 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 22:46:34.39 ID:zsw/61tI0
1 愛依 選択

【愛依の個室】

ピンポーン

愛依「あれ、にちかちゃんさっきぶりじゃん。今日はなんかよく会うね」

にちか「えへへ……すみません、お邪魔じゃなければ一緒にお菓子でも食べませんか?」

愛依「おっ、いいね〜! ちょうどうちも小腹が空いてたとこだったんだよね」

にちか「やった〜! 倉庫からなんとなく見繕ってきたんですけどこれ、どうですか?」

愛依「ん〜……おっ、いいじゃんいいじゃん! 酢昆布にあたりめもあるんだ!」

(よかった……もしやと思ったけど、お菓子の好みも割とおばあちゃんテイストだったんだ)

愛依さんと二人でお菓子を食べて過ごした……

-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【お助けヤッチー君】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/07(水) 22:48:37.23 ID:Rw4nBgGP0
【お助けヤッチー君】
231 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 23:00:14.49 ID:zsw/61tI0
【お助けヤッチーくんを渡した……】

愛依「なんこれ……で、でっかいシャチ?」

にちか「なんか、困ったことを聞くとなんでも応えてくれる……らしいですよ?」

愛依「え? この子に……言えばいい系?」

にちか「た、多分……」

愛依「あー……こ、ここから出してくれませんか〜?」

ヤッチー『……』

にちか「な、なんなのこいつ……なんも動かないじゃん」

愛依「あ、アハハ……なんか元ネタあんのかもしんないけど、うち分かんないわ!」

(なんかこのシャチ……どっかで見たことはあるんだけどな〜……)

(まあ、普通に喜んではくれたかな)

【NORMAL COMMUNICATION】

-------------------------------------------------

愛依さんと一緒に過ごした時間もそれなりになったけど、やっぱりそのたびに違和感は拭えずにむしろ増していくばかりで……
この人の才能が、【超研究生級の書道部】であるという違和感。
そろそろ真正面からぶつけてみてもいいかな。

にちか「あ、あの……愛依さん……実際、その……書道ってどれくらいの腕前なんですか?」

愛依「え? あ〜……もしかして、一緒に過ごすうちになんか自信なくなっちゃったカンジ? そりゃそうだよね〜! うちでもぱっと見書道できそうな子には見えないと思うし!」

にちか「あ、いや、そういうわけじゃ……あの、すみません!」

愛依「いいって、いいって! そうだ、せっかくうちの部屋に来てくれてるんだしなんか書いたげるよ」

そう言うと愛依さんは慣れた手つきで部屋の床に下敷きと長半紙を広げ、硯に炭を落とした。デスクの棚からは、なにやら上等そうな筆まで飛び出してきた。

愛依「なんか好きな言葉とかある?」

にちか「す、好きな言葉ですか……? つ、【詰め放題】……?」

愛依「おっけ、任せといて!」

私の適当な言葉に首をブンと縦に振って承諾を表すと、そのままさらさらと筆を走らせてあっという間に一つ作品は出来上がってしまった。

愛依「うい! こんな感じ……どーよ!」

……すごい。
極めて俗的な言葉を書いてもらったはずなのに、力強くもその形を崩していない、繊細な筆さばきで描かれた文字は一つの作品として完成を見ていた。
趣味でやっている……なんて言葉に甘んじない、確かな経験と実力が作品の裏に滲み出ていた。

にちか「す、すごい……御見それしました。正直愛依さんの事、侮ってたかもです」

愛依「アハハ、まあしょうがないけどね〜。でも、まあまあいけるっしょ? うちなりには上手く書けたと思ってるんだけど」

にちか「上手いです。少なくとも、うちのクラスの誰よりも。保証します」

愛依「えへへ、サンキュね」

にちか「ただ一つ惜しいのは……漢字が違います」

愛依「……え?」

にちか「これじゃ【詰め放題】じゃなくて【読め放題】になってます。電子書籍の期間限定キャンペーン広告みたいになってますんで」

愛依「やっば! マジはず!!!」

いつもと違う一面を見て驚嘆してしまったけど、このどこか抜けてる感じは私の良く知る愛依さんのままだな、と思った。
才能なんて言葉で人の魅力はひとくくりにできないよね。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【愛依の現在の親愛度…5.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…17個】
232 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 23:01:17.58 ID:zsw/61tI0
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノキッド『ミーが、ミーが悪かったんだ……こんなはちみつなんかで自分を見失っちまって……』

モノファニー『いいのよ、アタイたちは家族じゃない。どんなにモノキッドが荒れてしまっても、アタイたちは支えあっていけるわ』

モノスケ『はちみつに含まれる化学物質は暴力衝動を3割増しにするって論文もあるからな。悪いのはモノキッドだけやない、この世界を作りたまいし主にも罪があるんや!』

モノタロウ『ねえねえ、オイラもはちみつ舐めてみてもいい〜?』

モノダム『……』

プツン

なんか今日は色々なことが起きて疲れちゃったな。
モノクマの提示してきた動機……あれに今の状況を大きく変えるような効果はないだろうけど、ルカさんの言っていた懸念には納得がいく。
今はおしおきの免除で留まっていても、いつ別の手段を取ってくるか分からない。
何がきても立ち向かえるような対抗手段を持っていかないといけないんだ。

……私なんかが、そんなことできるのかな。


233 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 23:02:23.30 ID:zsw/61tI0





そして、そんな私の危惧は現実のものになる。





234 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/07(水) 23:04:15.05 ID:zsw/61tI0

本日はここまで。
安価にご参加いただきありがとうございました。
今日で少しお話を進めることができましたね。

自由行動をあと少し挟んだらいよいよ事件発生です。
是非学級裁判までお付き合いください。

明日6月8日21時〜更新予定です。
またよろしくお願いします。
235 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:32:05.42 ID:1RHWTY6u0
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【School Life Day5】
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン……】

モノタロウ『うぅ……頭がガンガンするよ……』

モノファニー『モノタロウにはモノキッドのはちみつは刺激が強すぎたのよ……』

モノスケ『モノキッドのは純度が高すぎるからな! 常人ならべろべろのぶちゃぶちゃになってまうで!』

モノキッド『ビンビンだぜッ!』

モノダム『……』

プツン

ピンポーン

モノクマーズの放送の直後、インターホンが鳴って慌てて飛び起きる。
昨日の今日だ、ルカさんから何か話があるのかも知れない。
急いで私は扉を開けて来客を出迎えた。



あさひ「おはようっす! にちかちゃん!」



にちか「……芹沢さん?」


そこにいたのは、意外な人物だった。

にちか「どうしたの、私に用事?」

あさひ「はいっす! にちかちゃんに一つ、聞きたいことがあるんっすけど、今いいっすか?」

にちか「え? うん……」
236 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:33:04.45 ID:1RHWTY6u0




あさひ「昨日、朝ごはんの後……どこ行ってたんっすか?」





にちか「……え?」

あさひ「なんか昨日やけに食べるのが遅いなーって思ってたんっすけど、その後ルカさんと二人でどこかに行ってたっすよね?」

あさひ「女子トイレ……だったと思うんっすけど、その後見失っちゃったみたいで」

(尾行られてたのか……!)

瞬間、ルカさんと交わした口外禁止の約束が脳裏によぎる。
こんな揺さぶりでうっかり口を滑らせるわけにはいかない。
真っ白になりかける頭を努めて引き起こし、なんとか言い訳を考える。
237 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:34:18.04 ID:1RHWTY6u0

にちか「あー……昨日はなんだかお腹の調子が悪くて、それでルカさんに介抱してもらってたんだ」

あさひ「ふーん……じゃあ、トイレの後は寄宿舎っすか!」

にちか「そ、そうそう! 私、食あたりしちゃったみたいなんだよね」

あさひ「今日は元気そうっすね!」

にちか「あ、うん。一日経ったら落ち着いた感じでね……」

慣れないでまかせに、つい表情がぎこちなくなっているのを感じる。
でも、ここは引けない、決壊するわけにはいかないんだ。

あさひ「……」

これが事実だ、これ以上のものはない。
そう念じながら芹沢さんの目をじっと見つめた。

あさひ「了解っす! 気になってたんで、分かってスッキリしたっす!」

あさひ「にちかちゃんもスッキリしたみたいでよかったっす!」

にちか「あ、あはは……あんまり言いふらさないでね……」

パタタタ……

にちか「い、行ったか……」

ふぅ、とりあえず凌げたみたい。
……秘密を抱えるのも楽じゃないな。

さて、とりあえずは朝食会だね。
改めて準備を整えたら、向かわないと。
238 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:35:47.93 ID:1RHWTY6u0





あさひ「……本当のこと、話してくれなかったなー」




239 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:37:39.87 ID:1RHWTY6u0
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【食堂】

にちか「お、おはようございます!」

凛世「にちかさん、おはようございます……」

凛世「……? 何か、お困りごとですか……?」

にちか「え、ナ、ナンデ? ソンナコトナイデスヨ?」

凛世「……は、はぁ」

秘密は秘密、鉄仮面でいるぞと意思を固めながら扉を開く。
一斉に向けられる視線に不必要な怯みを感じつつも、平然を装って席へ。

ルカ「……オマエ、もうちょっと上手くやりなよ」

にちか「うぅ……すみません」

ルカ「ま、いいけどよ」

隣に座るルカさんには小突かれてしまった。
そんなに顔に出ちゃってるかな……

あさひ「……」

240 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:39:01.60 ID:1RHWTY6u0


透「全員揃ってるね、いい感じじゃん」

霧子「うん……昨日の動機も、心配なかったみたい……」

めぐる「当たり前だよ! 何があっても、他の誰かを殺すなんて……ぜったいにダメだもん!」

恋鐘「状況はなんも変わらん! うちらはうちらで、ずっと仲良くしとけばよかともん!」

円香「状況が変わらない……助けが来ないのもそうですね」

甘奈「うーん……甘奈たちがいなくなったこと、ニュースにはなってる……よね」

甜花「最近、戦争とかのニュースも多いし……甜花たちのこと、埋もれちゃってたり……」

樹里「大丈夫だ、モノクマーズはあんなこと言ってたけどちゃんと警察も動いてるって」

真乃「……灯織ちゃん?」

灯織「いや……今私たちがいる、この才囚学園がたとえば国外だったら日本の警察は手の出しようもないなって」

恋鐘「か、海外〜〜〜?!」

灯織「可能性としてない訳じゃないですよね。国内だとしても地図にも載っていないような小さな島だったりとか……」

恋鐘「そ、そがん怖いことばっか言わんとって〜!」

灯織「あ、す、すみません……」


バビューン!!
【おはっくま〜〜〜〜〜!!!!】


241 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:40:13.11 ID:1RHWTY6u0

モノクマ「私はなぜここにいるのか……」

モノクマ「誰が私を産めと頼んだ……」

モノクマ「そりゃもう世界が頼んだに決まってるよね! ボクみたいな愛されキャラがいない世界なんて、トンカツ抜きのカツカレーだもん!」

愛依「ふつーにカレーはカレーでいいじゃん……?」

モノタロウ「ねえねえ! なんでオイラたちは産まれたの! お父ちゃん、教えてよ!」

モノクマ「おっと……ここから先は保健体育の授業になっちゃうね。スタンダップ! 男子はみんな別の部屋でビデオを見てもらうから、退室してね」

真乃「ここには女の子しかいません……っ!」

にちか「それより、何しにきたの!? 昨日動機の提示はしたばっかりでしょ?!」

モノクマ「うんうん、それなんだけどね?」

モノクマ「なんでオマエラあれだけの好条件を示されておきながら誰も行動に移せない訳?!」

モノクマ「令和世代のもじもじくんの集まりか! 青春の吹き溜まりの寄せ集めか!」

モノスケ「もう【お父やんの堪忍袋も尾が切れた】っちゅーことや」

(……こ、これってルカさんの言ってた通り)

ルカ「……ヤベェな」

モノクマ「もうね、あんまりチンタラやってるとこっちも危ういのでね。時を進めさせていただきますよ!」
242 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:41:22.82 ID:1RHWTY6u0



モノクマ「コロシアイにタイムリミットを設けます!」


モノクマ「タイムリミットは【明日の夜時間】! それまでにコロシアイが起きなければ、殺し合いに参加させられている生徒は【全員殺処分】!」


モノクマ「モノクマーズの操るエグイサルを総動員してオマエラをスクラップにしちゃうよ〜!」



243 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:42:16.72 ID:1RHWTY6u0

モノキッド「エグイサルで鷲掴みにして口から内臓をデロデロ吐かせてやるぜ!」

モノスケ「踏みつけて轢かれたカエルみたいにしてやってもええな!」

モノファニー「うぅ……想像しただけでグロいわ」

モノファニー「でろでろでろでろ……」

モノタロウ「わー! モノファニーが黄色のゲロを吐いた! 黄色のゲロは危険信号だよ!」

モノスケ「キサマラの身に危険が差し迫っっとるっちゅうことやな」

……最悪だ。
私たちは脱出への糸口もまだ何もつかめちゃいない。
ルカさんが昨日見せてくれた部屋だって、何の意味があるのかまだ何も見えていない。
それなのに、明日の夜までに誰かを殺さないと、私たち全員が死んでしまうだなんて……



こんなの、どうしようもないじゃん……!!


244 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:43:45.53 ID:1RHWTY6u0

樹里「ざっけんな……! こんなのコロシアイの強要じゃねーか、話がちげーぞ!」

モノクマ「オマエラの自主性を信じていたんだけどね、ぼかぁ残念で仕方ないよ」

モノクマ「なんたって、コロシアイは新鮮さが命だからね! 一週間近くも何も起きないなんて鮮度が落ちちゃうでしょ!」

透「にしても明日かー」

愛依「やばいやばい……マジでどーすんのこれ」

モノクマ「殺るしかなくね?! てか殺るしかなくね?!」

モノスケ「一応言うとくけど、【昨日発表した動機は継続のまま】や」

モノスケ「一人殺してみんな仲良く生き延びるんがええか、誰も殺せず全員共倒れがええか。答えは火を見るより明らかってやつやな」

モノファニー「どっちみちグロイことには変わりないわ……でろでろでろでろ」

モノタロウ「モノファニーのゲロを見るより明らかだね!」


【ばーいくま〜〜〜〜〜!!!!!】


連中がさった後、嫌な沈黙が訪れた。
恐れていた最悪の事態がついにやってきてしまった。
はじめの時のように、私たちはお互いに猜疑心の目を向けていた。
もはや自分の身を守るためには誰かを手にかけるほかない……それは間違いないのだから。

____みんながそう確信している中、ただ一人だけが違っていた。
245 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:44:41.91 ID:1RHWTY6u0



ルカ「待てよ」



ルカ「なんて顔してやがんだ、テメェら……まさか今のモノクマの話を聞いて、誰かを殺さないといけないなんて思っちゃいないよな?」

にちか「ルカさん……?」

ルカ「断言してやる。そんな必要はない。コロシアイなんて……【やらせない】」

夏葉「ルカ……私だってそう思いたいわ。でもこの状況はもう闇雲に主張しているだけじゃどうにもならないのよ」

甜花「誰かが、動いてくれないと……みんな、死んじゃうよ……?」

ルカ「誰がノープランだっつったよ」

(……!)

(まさか、【あの隠し部屋】のこと……?)

246 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:46:05.65 ID:1RHWTY6u0

ルカ「私にはこの状況を打開できる具体的な考えがある……誰も血を流さないで済むアイデアがな」

真乃「そ、そんなものがあるんですか……?」

めぐる「な、なになに?! どうすればいいの?! 教えて?!」

ルカ「……それは、ちょっと待ってくれ。こっちも準備がいるんだ」

円香「……なんですかそれ、今話せないなんて信用できるとでも?」

ルカ「変なことを言ってるのは重々承知だ。だけど、必ず私がオマエらを助けてやる……だから! 何があっても間違ったことを考えるんじゃねーぞ!」

ルカさんの並ならぬ気迫とその啖呵に、私たちは絶句するほかなかった。
さっきまで頭に纏わりついていた黒く澱んだものも吹き飛ばされてしまった。
今はむしろ頭が真っ白だ。
そんな真っ白な私たちを残して、ルカさんは部屋を出て行ってしまった。

残った私たちは、困惑に喚く。
247 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:47:17.25 ID:1RHWTY6u0

甜花「ど、どうしよう……行っちゃった……けど」

甘奈「他の誰かを手にかけるなんて……想像できないし、そんなことやらないけど……ルカさんのことをどこまで信じていいのかな」

凛世「明日の夜が期限……猶予はありませんが、何かお考えがおありの様子……」

夏葉「……私は私で対策を練るわ」

樹里「つって、アンタもどうすんだよ。まさか誰かを殺すとか言い出すんじゃないよな?」

夏葉「当然よ、私たちはコロシアイには屈さない。そうなれば、エグイサルの殺戮に対抗する手段が必要になるわ」

愛依「そ、それ……【あいつらと戦う】ってこと?! いやいや、流石に無理じゃね?!」

霧子「そんな、危ないよ……大怪我じゃ済まないかもしれない……」

夏葉「無理を承知でよ。それに、抵抗しなければ待っているのは死……武器を取らず死ぬよりは、私は埃を守って戦うことを選ぶわ」

樹里「……マジか」

灯織「……私は身を隠せるところを探します。流石に戦うのはリスクが高すぎます」

真乃「ひ、灯織ちゃん……」

灯織「……私は一人になったとしても生き延びるから」

ルカさんの言葉に触発されてか、それぞれがそれぞれの方向に動き出す。
コロシアイという方向にベクトルを向けている人こそいないけど、その思惑はどれも平行線で、交わることはない。
私たちは、未曾有の危機を前にして、更にもう一度分離する形となってしまった。

248 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 20:48:47.27 ID:1RHWTY6u0
------------------------------------------------
【にちかの部屋】

明日の夜までの命だって、そんな急に言われても現実味のかけらもないや。
自分の部屋に戻る足取りもなんだか妙にふわふわとしていて夢でも見ているようだった。
残りの時間、みんなはどう過ごすんだろう。

【自由行動開始】

【事件発生前最終日の自由行動です】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く(済)
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…17個】

↓1
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/08(木) 21:35:40.27 ID:uIxqS2tE0
1.愛依
250 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 21:44:56.27 ID:1RHWTY6u0
1 愛依 選択

【裏庭】

コロシアイのタイムリミットを宣告され、落ち着かない気持ちをどこにやることもできず。
ただソワソワするのを誤魔化すために、部屋の外を出てぶらついていた。
自然と足はあの、マンホールの脱出通路へと向かっていた。
何度挑戦してもクリアできそうにもなかった。
時間が経ったからどうという代物でもない。でも、コロシアイから逃げたいという弱い心が私をあの場所へと駆り立てていた。

愛依「あ、あれ……にちかちゃんも、まさかマンホールの奥にいくカンジ?」

そしてそれは、どうやら愛依さんも同じだったらしく。

にちか「あはは、すっごい奇遇……」

愛依「……やっぱ、不安だもんね。明日までって言われても実感ないし、何かやってないと気も休まらんしさ……」

にちか「……改めてこのマンホールに挑戦したところでこの先をクリアできるとは思ってないんですけどね」

愛依「それ正解だわー……はぁ、マジで萎えんね」

にちか「……下手な挑戦はよしときましょうか、体を痛めつけるだけですし」

私と愛依さんはマンホールへの挑戦を断念し、床に座り込んで話をして過ごした……

、-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【ホームプラネット】
【占い用フラワー】

↓1
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/08(木) 21:51:53.04 ID:uIxqS2tE0
【ホームプラネット】
252 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:01:40.89 ID:1RHWTY6u0
【ホームプラネットを渡した……】

愛依「これって室内用プラネタリウム……かな?」

にちか「みたいです。ガイドボイスはあの有名声優さんが務められてるとかで!」

愛依「有名声優って誰だろ……あ、この人うち知ってる! 弟の好きな……あの、鬼を狩る侍のアニメにも出てた人だ!」

にちか「さすが、弟さんの趣味の範囲は理解してるんですね!」

愛依「まーね、一緒によく見てるから。でも星、星かぁ〜、うちあんま詳しくないんだよね」

愛依「まあちょうどいい勉強の機会かもしんないもんね! ありがと、にちかちゃん!」

(まあ、普通には喜んでくれたかな)

【NORMAL COMMUNICATION】

-------------------------------------------------

愛依さんとこうして並んで話をしていると、嫌でも自覚させられることはある。
それは自らの地味さ加減。陽の光を眩いばかりに反射する艶やかな金髪、健康的な小麦色に日焼けした肌、そして何より溌溂であっけらかんとした喋り口。
曇りの日には姿が見えなくなってしまいそうな見た目をして、ネガティブとフラストレーションをないまぜにしたみたいな口調の私とはもはや対照的ともいえる。

にちか「あの、愛依さんっていつからそうなんですか?」

愛依「『そう』……? 何の話?」

にちか「いや、愛依さんっていっつも明るくて人を引き付ける空気があるっていうか……それに、ファッションとかにもかなり気を遣ってる感じじゃないですか」

にちか「まさにスクールカーストトップ、ピラミッドの先っちょみたいなイメージなんですけど……愛依さんは小さい頃からずっとそうだったんですか?」

愛依「え、そんなことないって! うちなんかどこにでもいる普通の女子高生だよ!? にちかちゃんとなんも変わらんって!」

(なんも変わらんってことはないでしょ……裏か表かぐらいには違うと思うけど)

愛依「それにうちって滅茶苦茶緊張しいだしさ……目立つのとかマジで苦手なんだよ?」

にちか「え……そうなんですか? めっちゃ意外です。もっとこう学園祭でバンドとかやったりしてるもんかと」

愛依「やんないやんない! うち、たくさんの人が見てる前でステージに上がるのとか無理系でさ〜! 他の人の視線を感じるとうひゃ〜!ってなってすぐ隠れたくなっちゃう」

多分嘘じゃないんだろう。
愛依さんの額にはうっすらと汗がにじんでいた。衆目を集める状況、それをイメージしただけでこれほどまでの緊張を抱いてしまうのだ。あがり症を自称するには十分すぎるほどの証拠だ。

愛依「だからアイドルの研究生とか言われちゃっても全然イメージ湧かないんだよね……むしろなんていうか……怖い?」

にちか「……怖い、ですか」

愛依「うん……ほら、アイドルになるって今まで出会ってきた人たちとは全く違う人たち。しかもこれまでとは比べ物にならないほどたくさんの人たちに見てもらうんだよ?」

愛依「したら、うちが今持ってるキンチョーの数倍、数十倍、いや数千倍はキンチョーしちゃうと思うんだよね」

愛依「そんなの……うち、一人じゃとても耐えられると思えなくてさ」

にちか「愛依さん……」

愛依「ま、アイドルになるなんてあり得ない話だけどね! どうせ今回モノクマーズが言ってるのもただのジョーダンに決まってるっしょ!」

にちか「あはは……そう、ですよね……はは……」

愛依さんは照れ隠しにわざとらしく声をあげて笑っていた。
でも、なんでだろう。愛依さんの口にした『もしも』の話がなんだか異様に寂しくて、胸に引っかかるように感じちゃったのは。
私は自分の胸のしこりに目を向けないようにして、愛想笑いを浮かべていた。

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【親愛度が上昇しました!】

【現在の愛依の親愛度…6.5】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…18個】
253 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:03:56.68 ID:1RHWTY6u0
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【にちかの部屋】

愛依さんと別れてから一度自分の部屋に戻った。

……この学園生活の目指す先は、一応『アイドルになること』なんだよね。
その目標の指すところと重責、あんまり考えたこともなかったな。

それにしても愛依さんが上がり症、っていうのはちょっと意外だった。
愛依さんの普段の性格からすれば対照的にも感じたけど、何か理由とかあるのかな……

【自由行動開始】

【事件発生前最後の自由行動です】

1.交流する【交流相手の名前指定】
2.購買に行く
3.休む(自由行動をスキップ)

【現在のモノクマメダル枚数…40枚】
【現在の希望のカケラ…18個】

↓1
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/08(木) 22:07:06.14 ID:uIxqS2tE0
1.愛依
255 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:14:28.23 ID:1RHWTY6u0
1 愛依選択

【寄宿舎 愛依の個室】

ピンポーン

愛依「お、にちかちゃん! さっきは変な話しちゃってごめんね〜?」

にちか「いえいえ! あの、むしろさっきの話……愛依さんが差し障りなければもっと詳しく伺いたいと思いまして」

愛依「え〜? なんも面白い話とかないよ〜?」

にちか「そんなことないです! この学園で一緒に過ごす間柄なので……相手のことが理解できるのなら、その……チャンスは逃したくないなって!」

愛依「にちかちゃん……あんがと! オッケー、それならうち腹決めて話すわ!」

愛依「とりあえず中入って! 煎茶でいい?」

にちか「え、あの、お構いなく!」

愛依「いいのいいの、気にしないで!」

愛依さんの部屋でお茶を淹れてもらった……

-------------------------------------------------
プレゼントを渡しますか?

現在の所持品
【タピオカジュース】
【誰かの顔の餃子】
【クリスタルバングル】
【ストライプのネクタイ】
【クロの章】
【レイヤーキャリーバッグ】
【三度サンドバッグ】
【猿の手】
【死亡フラッグ】
【生存フラッグ】
【占い用フラワー】

↓1
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/08(木) 22:16:45.30 ID:uIxqS2tE0
【生存フラッグ】
257 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:33:59.96 ID:1RHWTY6u0
【生存フラッグを渡した……】

愛依『こ、ここまでか……なあ、悪いが俺の代わりにボスに伝えといてくれないか? こんな俺をここまで面倒見てくれてありがとう、って』

にちか「バーカ、自分の口で伝えろよ……って言いたくなりますね」

愛依「あ、これってそういうお決まりの展開的なやつ?」

にちか「ですね。いわゆる生存フラグってやつです。追い詰められてるやつが自分の死期を悟ってべらべら喋り出すとたいてい生き残りますよね〜」

愛依「あー……言えてるかも」

愛依「じゃあこの旗はその願掛け的なやつなんかな……?」

にちか「ですかねー……」

(まあ、普通に喜んでくれたかな)

【NORMAL COMMUNICATION】

-------------------------------------------------

愛依さんは私に湯飲みを手渡すと、どっしりと深くベッドに腰かけた。
一口お茶を口に運んでから、大きな息を吐く。

愛依「……まあ、予告した通り。なんも面白いことは無いんだけどね?」

そんな前ぶりから、愛依さんは過去を語ってくれた。

愛依「うち、小学校の時に劇やったんだ。魔法使いのおばあちゃんに着ているみすぼらしい服を綺麗なドレスに代えてもらうあの童話のやつ」

にちか「ああ……分かります」

愛依「そん時のクラスのみんながね、うちをスイセン?してくれて……うち、劇でちょ〜大役任されちゃってさ。それこそ主演みたいな感じだったの」

多分愛依さんは幼少期から華々しかったんだろうし、推薦した子たちの気持ちはよくわかるな。
私だって同じクラスに愛依さんがいたら、大役は譲りたくなっちゃうと思う。

愛依「だから、うちめちゃくちゃ張り切って練習もして、家に帰ってからもお姉に読み合わせ手伝ってもらって、セリフも完璧に空で言えるようにしたんだ」

愛依「でも、いざ本番ってなったら……まるでダメだった」

にちか「え……」
258 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:37:19.09 ID:1RHWTY6u0

愛依「うち、初めてだったんだよ。家族でもない、友達でもない……全く知らない大人たちに囲まれて何かをするっていうの。知らない大人って言っても友達のお母さんとか、地域のおばあさんとか、別の学年の先生とか、そんな人たちなんだけど」

愛依「でも、うちにはその……評価をしようって目が……怖かった」

愛依さんは肩を縮こまらせて、今まさに怯えているかのようにそう語った。

愛依「ちっちゃい頃の話をいつまで引き摺ってんだ〜とはうちも思うんだけどね。なんつーかウマシカ?になっちゃってるみたいで……よくフラッシュバックすんだよね。あの時の景色」

にちか「……多分、トラウマだと思います」

私にも、愛依さんの気持ちはよくわかった。
私も小学校の演劇の時に似たようなことを感じたことがある。
それまでは自分自身がやりたいことをやって、自分が楽しければオッケーだったのに、急に他の誰かに値踏みをされるようになり、その見定めるようないやらしい温度の視線が鬱陶しく感じた。
愛依さんの場合はそれに加えて、周囲の期待があった。クラスのみんながめいさんなら大丈夫、愛依さんならやってくれると無責任に寄せた期待が両肩にのしかかり、結果としてそれを裏切ることになってしまったのも良くなかった。
誰よりも人のいい愛依さんからすれば、矢面に立って何かを為すことはその期待を裏切るトラウマが幾度となく呼び起こされてしまうのだろう。

愛依「ごめんね、やっぱあんま面白くない話だったっしょ?」

にちか「いえ、そんなことないです……聞けて良かったですよ」

愛依「またまた〜、にちかちゃんは口が達者だね」

にちか「私も似たような経験ならありますし、その気持ちはよく分かります。愛依さんは……その、このトラウマを乗り越えたいって思ってるんですか?」

愛依「……」

私の問いかけに少し考えこむような動作をしてから、

愛依「わかんない!」

愛依さんはニッと笑った。

愛依「乗り越えないままに、なんとなく今日まで来ちゃったし……実際今どれぐらいの深さでトラウマなんかも分かんないしさ……」

愛依「なんか大きなきっかけでもあれば、違うとは思うんだけど」

(きっかけ……か)

でも、そうだよね。
自分の胸の痛みに向き合うのなんか、そうそうできることじゃない。
そんな『きっかけ』なんて、運命的な出会いでもなきゃ見当たらないものだ。

生憎私たちには……そんな運命は不足している。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【現在の愛依の親愛度…8.0】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラ…19個】
259 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:38:38.76 ID:1RHWTY6u0
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【にちかの部屋】

【キーンコーンカーンコーン…】

モノスケ『なんだかワイまでドキドキしてきたで。せっかちな性分っちゅうのはこんな時に損やな』

モノスケ『おい! 聞いとるんかザコども! キサマラがコロシアイをやらんとワイの不整脈が悪化してまうど!』

モノファニー『あぁ〜! ストレスでモノキッドがまたはちみつに手を出しそうになってるわ!』

モノタロウ『画面の前のみんな! dボタンでモノキッドの飲蜜を止めるんだ!』

モノキッド『うぃ〜、ひっく』

モノダム『……』

ブツン

自分の部屋に戻ってきて襲ってくる切迫感。
一分一秒と刻むたび自分の命も刻まれていく。
これまでに感じたことのない息苦しさが身を包んだ。

「……気が触れそう」

ピンポーン

そんな時にインターホンが鳴った。
260 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:39:24.06 ID:1RHWTY6u0

(……ルカさん!)

閉塞感に風穴を開けてくれたようで、一瞬飛びつきかけたが、すぐにベッドの上に座り直した。
考えなしに開けてしまっていいのか?
命のタイムリミットが迫っているのは私だけじゃない、他のみんなだってそうなんだ。
それにモノクマに提示されているおしおき免除。
いつ誰が行動に起こしたっておかしくないんだ。

(ルカさん、なんだよね……?)

そんな私の思考を急かすようにインターホンが止むことなくなり続ける。
扉の向こうにいるのはきっとルカさんなんだろうと思うけど、そうじゃなかったら?
喉のあたりをぬるい汗が伝った。

(ええい、ままよ……!)

ガチャ

ルカ「おせーよ、もっと早く開けな。心配になんだろ」

にちか「ル、ルカさん……すみません」

ルカ「冗談だよ、こんな状況なんだし、即開けてる方がキレてた」

(どのみち嫌な顔はされてたのか……)

ルカ「にちか、夜時間だけどついてきてもらってもいいか? ちょっと……【例の場所】まで」

にちか「例の場所……」

(女子トイレ奥の隠し部屋ってことは、他の人に聞かれたくない話ってことだよね)

にちか「わ、わかりました」

ルカ「よし、それじゃあ静かにいくぞ。他の連中に見つからないように」

にちか「はい……」

私とルカさんは他の人たちの目を憚りながら、こっそりと動き出した。


261 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:40:08.77 ID:1RHWTY6u0
------------------------------------------------
【寄宿舎前】

灯織「……! 七草さん、斑鳩さん……! どうして、こんな時間に……!?」

(し、しまった……!)

ルカ「いや、別に。ちょっと二人で夜風にあたろうと思ってよ」

灯織「……」

(いやいや……それは流石に誤魔化し方としても)

灯織「誰かに危害を加えようと言うのでなければいいです。私も夜時間外に行動している訳ですし……」

ルカ「そっちこそ何してんだよ、今日は最後の夜だぞ。しっかり寝た方がいいんじゃねーか?」

灯織「……私とて、今日を最後にするつもりはありません。私にもできることは何かあると思うので」

灯織「斑鳩さんとは違ったやり方で、私も生き延びてみせますよ」

風野さんはそれだけ言うと立ち去ってしまった。
お互い詮索するな、と言うことなんだろう。
結局あの人は最後まで他の人間と距離を取ったままだったな……

ルカ「……あいつは裏庭の方に行ったな。好都合だ。今のうちに女子トイレに行くぞ」

にちか「はい!」

262 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:42:30.30 ID:1RHWTY6u0
------------------------------------------------
【女子トイレ奥 隠し部屋】

ルカさんに連れられて再び隠し部屋の中へ。
ここならば他の誰かに話を聞かれることもないし、介入されることもない。
秘密を共有するならこれ以上なくうってつけだ。
居心地の悪さだけを除けば。

ルカ「……」

ルカさんも横目に捉えたモノクマの頭部にはなんとなくバツの悪さを感じているようだったが、
今から口にしようと言う主題を前にすると、それも気にならなくなる様子。
私の顔をじっと見つめて、一度大きな呼吸をした。

にちか「あの、ルカさん……明日の期限までにどうにかするって言ってましたけど、それってこのモノクマを直すってことですか?」

にちか「もしかして、コードが見つかったとか……」

ルカ「……いや、そうじゃない。残念だけどコードは一本たりとて見つかっちゃいない」

にちか「……! それじゃ対抗手段って」

ルカ「ンなもんねーよ、ただあの場ではああ言っておかなきゃ、やな空気が蔓延しちまうところだったからな」

……やっぱりか。
私にもまるで心当たりがなかったし、やっぱりあの時のルカさんの啖呵はただのハッタリだったんだ。
263 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:44:24.15 ID:1RHWTY6u0

要は結論の先送り。ただコロシアイという命題から目を背けただけなんだ。
表に出さないようにしていたつもりだったが、ルカさんは敏感に私の落胆を感じ取った。
首をぶんと横に振って、次なる言葉を拾い上げる。

ルカ「だけど、言ってしまった以上私は【責任】を取る」

にちか「責任、ですか?」

なんとなく嫌な予感がした。
子供ながらに、その言葉が付きまとうときは大抵リスクとニコイチであることを理解していたから。

ルカ「いや、元々その気……だったんだよ。私は、このコロシアイが始まってからずっとな」

にちか「ちょ、ちょっと……おっしゃる意味がわからないんですけど……」

ルカ「……前に、私の相棒の話をしたよな」

にちか「は、はい……! 研究生時代からの仲で、ユニットを組んでいて……息もピッタリだって」


ルカ「そいつは……【過去の話】だ」


にちか「……過去?」

ルカ「私とそいつはとっくに【解散してる】んだよ。私があいつについていけなかったせいでな」

にちか「……!」

伏目がちに話すその姿はなんとももの悲しげだった。
きっと彼女にとってその解散は不本意だったんだろう。
この前地下水道で私に見せた瞳の炎。その猛り具合からして、今もそれは尾を引いている。
264 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:45:36.52 ID:1RHWTY6u0

いつかきっと戻ってみせる。
それはここを出ると言うことだけじゃなくて、ルカさんがアイドルとして実力を携えて、相棒さんの横に返り咲くと言う意味もこもっていたんだと理解した。
だけど、今のルカさんはその時とは対照的だ。ひんやりと冷え切ったようで、その瞳の奥に見えるのは……澱みばかりだ。

ルカ「もう、あいつの元には戻れない。私は」

にちか「そ、そんなのわからないじゃないですか! きっと相棒さんも待ってくれて____」


ルカ「ちげーんだよ! あいつは、あいつは……もう、事務所を移籍しちまった」


にちか「……えっ」

ルカ「もう、私が戻る場所なんて……どこにもないんだよ」

そこにあったのは初めカリスマという言葉に抱いていたイメージとはかけ離れた姿。
翼をもがれ、地面を這いつくばる鳥のように、哀れで、惨たらしい、夢の残骸。
ルカさんの表情はそれほどまでに、歪んでいた。

265 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:46:35.93 ID:1RHWTY6u0

ルカ「悪い……こんな姿見せちまって」

にちか「……」

ルカ「だけど……これが本当の私なんだよ。カリスマなんて似合わない。未練ったらしく、醜く過去に縋るだけの弱者なんだ」

ルカ「……この学園から脱出したところで私に居場所なんてない」

にちか「そ、そんなこと……!」

ルカ「いや、そうなんだよ。私はあいつの隣にいたいからアイドルを続けてただけ……あいつとのコンビが解消になっても続けてるのはこの仕事が潰しが効かない仕事だから」

ルカ「アイドル以外の道が閉ざされてるから……続けてるだけなんだ」

にちか「……」

口をまるで挟み込めなかった。
ルカさんは私よりよっぽど大人で、よっぽど多くの経験も葛藤も味わってきている。
そんな相手に私が何を言えるというのだろう。
どうして物知り顔で誰にでも戻る場所はある、なんて言えるだろう。
こんななあなあで生きてきただけの私が、口出しする権利なんてない。
266 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:47:55.76 ID:1RHWTY6u0

ルカ「でも、オマエたちは違う」

ルカ「オマエたちは……アイドルなんて泥濘にまだ足を踏み入れてない。まだ戻れる場所がある人間なんだよ」

ルカ「だから……こんなところで終わっちゃならねえ。こんなところで死んじゃいけねえんだ……!」

にちか「ル、ルカさん……?」

私の両肩をガシッとルカさんが掴んだ。
俯いて肩を振るわせる素振りには鬼気迫るものを感じさせる。
そんな姿を見ていると、なぜか背中を冷たいものが撫でるような気がした。
冷たくて、曲がっていて、その先端は鋭利で……



悪寒は、死神の鎌の形をしている。



267 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:49:12.17 ID:1RHWTY6u0






「明日の夜時間までに私を殺してくれ」





268 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:50:18.54 ID:1RHWTY6u0

「……っ?!」

鎌が背中を撫でたのは、死神がそれをルカさんに向かって振り上げたから。
私に殺してくれとせがむルカさんに、その標的が定められた。

にちか「な、何言ってるんですか?! 冗談きつすぎますってー!」

慌てて戯けるようなそぶりでそれをかき消そうとする。
でも、ルカさんは全く笑っちゃくれない。
影を落とした表情のまま、視線を合わそうともしない。

ルカ「私は……本気だよ。にちか、オマエに殺して欲しいと思ってる」

にちか「バ、バカ言わないでくださいよ! なんでそんなことを言うんですか?!」

ルカ「もうこれしか方法はないんだよ……!」

ルカ「この部屋のモノクマを直したところでどうなるかもわからない。こんなコロシアイを強制してくる首謀者と戦っても勝ち目なんかない」

ルカ「抗う術なんか、もう残っちゃねえんだよ……」

にちか「……」

ルカ「私が死ねば、全てが丸く収まる。戻る場所もない人間が、一人消えるだけで他の人間はみんな助かるんだ」

ルカ「それに、今はあの動機のことがあって学級裁判とやらで誰かが死ぬこともない」

ルカ「ノーリスクハイリターンなんだよ……」
269 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:51:34.79 ID:1RHWTY6u0

にちか「なんで……なんで私なんですか」

ルカ「にちか……?」

にちか「ルカさんを殺すだけなら誰でもいいじゃないですか、なんで私をわざわざ……」

ルカ「違う……私は、【にちかを救いたい】んだよ」

にちか「私を……救う?」



ルカ「オマエは私を殺した上で学級裁判を勝ち抜け。そしてこの学園からさっさと出ていくんだよ、そのための協力なら惜しまない」



にちか「え? は……? ちょ……」

ルカ「……この学園に始めきた時からオマエは私のことを慕ってついてきてくれたよな」

にちか「は、はい……それはそうですけど」

ルカ「私だって人の子だ……自分のことを慕って、付き従ってくれるような相手には愛着も、情けも抱く」

ルカ「にちか……私にとって今のオマエの存在は支えで、希望なんだよ……」

にちか「……!」

私のことを、ルカさんが……?
取り柄も何もない。雑踏があればすぐに埋もれてしまう。
ミルクパズルの一ピースのように、没個性で何者でもない私の存在を、

誰よりも個性的で、他の人を惹きつけることに長けたカリスマであるルカさんが……?
270 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:53:04.32 ID:1RHWTY6u0

ルカ「これはチャンスなんだ。自分の命と引き換えに一人だけ、コロシアイから救い出すことができるチャンス」

ルカさんからの背筋が凍るようなお願いを聞いたはずなのに、私の体は反対に火照り始めていた。
不謹慎極まりない自己肯定感が身を包み、鼓動が早くなる。

ルカ「それなら私は、にちかを選びたい。アイドルなんて泥沼に足を踏み入れていない、無垢なオマエを救ってやりたい」

でも、首を縦に振るわけには行かない。
こんな状況で、倒錯した興奮に振り回されれば、待っているのは破滅。
そんなことはわかりきっているから。

にちか「……ダメですよ、そんなの」

ルカ「……にちか、お願いだ」


______それなのに




ルカ「オマエしか、頼れないんだよ」



にちか「……っ」
271 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:54:01.42 ID:1RHWTY6u0





「……はい」




272 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:55:15.84 ID:1RHWTY6u0

その潤んだ瞳を前にして、言葉を飲み込むほかなかった。
私から漏れ出た返事に、ルカさんは表情をパァッと明るくする。自分の死が確定した瞬間とは思えないほどの眩さだ。

ルカ「ありがとう、これで全部解決だ。オマエラは日常へと解放される」

にちか「……」

返事をした。だけどまだ私は揺らいでいる最中だ。この話を本当に飲み込んでいいのかどうか、何度も足踏みをしている。
それでもお構いなしにルカさんは話を進めていく。

ルカ「じゃあ次は……どうやって私を殺すかの計画だけど、そっちも考えがあるんだ」

にちか「え……と」

ルカ「ここだよ。【この隠し通路を使う】んだ。ここの存在は今の所は私とにちかしか知らない。だからアリバイを確保するのに役立つはずだ」

ルカ「図書室で私を殺した後にちかが女子トイレまで逃げ込んで……それで他の奴らと合流すれば大丈夫なはずだ」

ルカ「まあ細かいところはまたじっくり詰めていこう。他の連中の動向も押さえておく必要があるからな」

にちか「……」

ルカ「にちか?」

にちか「……ああ、いえ。なんでもないです……」

ルカ「ハッ、しっかりしてくれよ。オマエが私を殺してくれなきゃ始まんないんだからな」

にちか「は……はは……」

引き攣った笑いを返しながら、私たちは来た道を引き返していく。
やっぱりこの隠し部屋は何かおかしい。底知れない悪意が渦巻いていて、私はそれに絡め取られたんだと思う。
そうでもなきゃ、飲み込める話じゃないんだから。

____あの、光の落ちたモノクマの瞳に私たちは魅入られていたんだ。


273 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:56:28.93 ID:1RHWTY6u0
------------------------------------------------
【寄宿舎】

ルカ「それじゃ細かいのはまた明日。今日のところはしっかり休んどけ」

にちか「……」

どうして明日死ぬと決めたのに、そんなに気丈に振る舞えるのか。そう尋ねたいが言葉はぐっと飲み込んだ。
そんなの、ルカさんからの信頼を踏み躙る、冷や水をぶっかける行為だ。

にちか「はい……ルカさんも」

ルカ「ああ、これが最後の夜……だもんな。堪能するよ」

にちか「冗談になりませんって……」

ルカ「……悪いな、にちか」

にちか「いや……いいですから。おやすみなさい」

ルカ「おやすみ、にちか」

別れ際のルカさんの言葉が、耳にしばらく残響していた。

274 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2023/06/08(木) 22:57:05.14 ID:1RHWTY6u0





キィ……

???「……へぇ」




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